私が殺した彼女の話   作:猫毛布

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最後に読者諸君はこういうだろう。

「カルタ出てねぇじゃねぇか!!」


53.一夏が語るまでの騙る事の無いカルタ

 織斑一夏はゆっくりと瞼を上げた。そのまま顔を横へと向けて壁に吊るされている時計をボンヤリと眺める。

 短い針は『Ⅳ』と『伍』の間を指していて、ごく自然なことの様に長い針は『6』を指している。数字の大きさも種類もバラバラな、奇天烈な壁時計を正確に読み取り、一夏は欠伸をしながら半身を起こして体を伸ばした。

 筋肉と背骨が伸び、僅かながら血行が滞っていたことを感じる。

 

 そして一息吐き出して、久しく我が家で迎えた朝を存分に感じ取った。

 

 

 織斑一夏の朝は早い。

 そもそも現在の織斑家において家事をする人間が一夏以外にいないのだから自然と起きてしまうのだけれど。

 欠伸をしながら部屋を出て、階段へと足を運ぶ。その場から見えるルアナの部屋の扉と床の隙間から光が漏れていることを確認して、一夏は溜め息を吐き出した。

 そのまま何も言わずに階段を下りて、洗面台へと向かい、顔を洗って眠気を覚ます。

 顔を上げれば水滴が顔に流れる憎い男が映っている。随分と見慣れた顔だったが、どうしようもない男だ。

 

 そんな事を思っても変わらないことも変えれないことも知っている。一夏は溜め息を吐き出して蛇口を捻った。

 

 

 

 

 

 少しだけランニングに出かけて一夏は自宅へと戻ってきた。軽く汗を流してから朝食の準備を始める。

 この時点で午前五時も中ほどで、キッチンからはトントンとリズミカルに包丁がまな板を叩き音を鳴らしていた。

 

 頭の中で冷蔵庫の中と相談して、昼食と夕飯を決めていく。一応、自宅に戻っているといっても滞在期間はそれほどない。

 以前ならば一週間分の食料を買い込んで、一週間分のレシピを用意していたのだが。こうしてフラリと自宅へと戻るとどうしようか迷ってしまう。

 いや、それこそ滞在期間分だけ食料を買い込めばいいのだが……。

 

「ま、買い物に出て決めるか」

 

 結局のところ、何が安いのか、なんて事は現在では分からないことなのだ。買い物に出ればイイ案が浮かぶだろう。少なからず、ルアナの食べる量も計算に含めているから今日一日ぐらいは何も買わなくても大丈夫な筈だ。

 

 そんな事を思っている最中にふと一夏の視界に何か黒い物が映る。もはやコレも日常の一部で、一夏は思わず苦笑してしまう。

 

「千冬姉、おはよう」

「…………ん」

「とりあえず顔でも洗ってきなよ」

「…………ん」

 

 まだ頭は眠っているのか、ボサボサの髪をそのままに学校で良く聴く『凛々しい織斑先生』はのそのそと洗面所へと向かった。

 よくバレていないモノだ、と一夏は感心していたが、そもそも千冬の私生活なんて知れる訳が無いし、優秀すぎる姉の事だから自分もいない時は予定された起床時間よりも数時間程早く起きていたのかもしれない。そして目を覚ます為にランニングに出ている様子を目撃されて余計な噂が出来たのだろう。

 

 いや、こんな出来すぎた勘違いが起こるのだろうか。姉なら起きそうだな。

 

 そう一夏は完結させて視線は先ほど千冬が顔を覗かせた扉へと向けて溜め息を吐いた。手はコンロの火を弱める為に自然と動いていた。

 

 

 

「おはよう、一夏」

「うん、おはよう。千冬姉」

 

 一夏にとって二度目となる挨拶を交わして千冬は椅子に座り、机に置かれていた新聞を手に取り広げる。

 少し温めの緑茶を淹れた一夏はソレを千冬の前に置いてまたキッチンへと戻る。千冬は新聞から視線を外さずにまるでソコに当然にあるかのように湯呑みを掴んで口へと運ぶ。

 一夏と千冬にとっては自然といえる行動なのだが、明らかに何かがオカシイのだ。君らはどこの熟年夫婦だ? もしくは主従関係でも結んでいるのか? と問いたいが蓋を開けてみれば普通の姉弟と言われるのだ。織斑の普通はオカシイ。

 

「ルアナはどうした?」

「まだ寝てるよ」

「……そうか」

 

 明らかに嘘を吐き出した一夏の言葉を知りながら、何を追及するわけでもなく千冬は言葉を吐き出す。

 ズズズ、と千冬はまた湯呑みを口へと運んだ。

 

 

 

 

 

 

 自分と千冬の朝食も終わり、千冬へとお弁当を渡し見送るという織斑家では極々当たり前に繰り返された極々普通な朝の風景。

 見送った後の一夏はさて、と一息吐いて洗濯機へと。

 洗われた洗濯物を籠へと放り込んでいき、籠を持って庭へと出た。

 

 天気がいいのは知っていたけれど、こうして改めて外へと出てみれば晴天過ぎるような気もする。

 

「ま、洗濯物がスグ乾くってのはいいことだけどさ」

 

 うんうん。と一人頷いてハンガーと洗濯鋏を使用して数々の洗濯物を干していく。

 男一人と女二人なのだから当然女性物が多くなるのだが、一夏は慣れたようにソレを干していく。

 それにしても量が多い。まるで最近まで寮生活をしていて洗濯していなかった人物が弟の帰省と一緒に色々と持って帰ってきた様な……いや、まさか、そんな事は無い。無い筈である。

 

 ともあれ、女性下着を手にして、なるべく何も考えないように一夏はソレを干していく。

 黒やら白やら、挙句の果てには一体何を守っているのだろうかと思える布地面積のモノまで。

 

「……やめろ、考えるな。考えるんじゃない、俺」

 

 頭を何度か揺らして一夏はその下着を籠の中へと叩き付けた。一夏とてコレの持ち主は知っている。知っていたのだが、それでも、それであっても、もしかして、なんて事を考えてしまった。

 そんな邪念を数分程で何処かへと飛ばした一夏はもう一度その下着を持ち、次は何事も無かったかのように干していく。

 その瞳と表情はどこか悟った様で、どこか虚ろであったことは言うまでも無い。

 

 

 

 

 洗濯物も干し終わり、使用した食器たちを洗い、ようやく一息。

 椅子へと座り窓の外を眺める。レースカーテンに遮られながら夏の日差しが部屋の中を照らした。

 

 ズズズ、と音を立てて織斑一夏は湯呑みを傾けた。どうしようもなく穏やかな空間で、まるで意識が飛んでしまったかの様に、ボーッとした世界。

 たった一人でいる世界。一夏はこの世界が堪らなく嫌いであった。嫌いだからこそ、一夏はこの空間を好んでいた。

 人の多い日常も好きではある。けれどもこの空間も一夏にしてみれば大切なモノなのだ。騒がしい空間とは真逆な静かで穏やかな空間。

 

 熱い緑茶は喉を通り、体の中へと拡散していく。

 眠い訳でもないが、ぼんやりとした頭でただただ光を見つめる。

 どうしようもなく、何も無い。

 こういう時間を作れ、と言った本人は休みの日になるとこうして自分に時間を与えてくれる。

 

 これは、なんてことは無い。後悔と反省と、そして自分を改めるための時間だ。

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

「……ごくり」

 

 セシリア・オルコットは固唾を飲み込んだ。目の前には『織斑』という表札。

 ソレを見て、深呼吸して、もう一度確認をする。

 この行為を既に十回程繰り返しているのだから、今しがた後ろを通ったオバ……奥様方からは苦笑とどこか懐かしいモノを見ているようなそんな視線。

 幸い、というべきか不幸と言うべきなのか。『織斑』という家族が引っ越してきてからよく見る光景であることは間違いではない。女子であれ、男子であれ、ともかくとして『織斑』に惹かれた人間は多かったらしい。

 不幸にもそんな競争率の高い男を手に入れようとしているセシリアは幸運にも『織斑』を求めた名も知れぬ歴戦の愛の戦士達の功績のお陰で不審者という不名誉な二つ名を着けられずにいた。

 勿論、過去に明らかに不審者らしき男が深夜に荒い呼吸で「ちふゆ!ちふゆ!ちふゆ!ちふゆぅぅうううわぁぁああああん!」なんて言っているのは通報もされたし、名前を呼ばれていた織斑家の長女さんが冷たい瞳でソレのアレを……まあ、その……。

 

 ともかくとして。

 一定以上のご近所評価のある『織斑』。そんな『織斑』の家に美しいともいえる少女がいるのだ。

 通報? ありえない。世の中は美男美女、そして政治家とお金に甘いのだ。

 

「……よし」

 

 不審者(仮)であるセシリアは【ブルー・ティアーズ】を装甲は出さずに起動して、自分の服装をチェックする。

 乱れは無い。完璧である。よし。

 そして、そろそろ二十にも及びそうな確認を改めてして、セシリア・オルコットは深呼吸をする。

 そろそろ話を進めてもらわないとコチラとしても困るのだが。

 

「……いきますわ」

 

 ようやく決心したのか、優柔不断な男は嫌いと言いつつも決断にやたらと時間の掛かったセシリアは震える指先をチャイムへと伸ばす。

 伸ばして、ギリギリのところで止めて、そして改めて格好の確認を……。

 

「いい加減にしなさいよ!」

 

 そんな誰かの気持ちを代弁してくれるような声が響いた。

 めかし込んだセシリアとは違い、ラフな格好でソレでいてどこか気合の入っている少女、凰鈴音の登場である。

 頭を抱えてセシリアへと寄った鈴音はその指をセシリアの胸元へと指しながら口を動かす。

 

「アンタね、一体何回確認すりゃぁ気が済むのよ! 私がアンタを見つけてから少なくとも六回も表札を確認、三回の服装直し! 周りの反応から察するにアンタいつから居たのよ!?」

「え、えと……その」

「当ててあげるわ、十時にはこの場に居たんでしょ!?」

「ど、どうしてソレを」

「私が着たのが十時十分だからよ! そこからアンタを見つけて少しは譲ってやろうと思ったけど、どうしてソコから三十分も掛かるのよ!? 一夏を呼んでから考えなさい! 思い立ったら即行動!」

「わ、私は鈴音さんの様にイノシシではありませんわ!!」

「何を、この頭でっかち!」

「あー……いいか?」

「何よっ!?」

「何ですのっ!?」

 

 二人が振り向くそこにはどこか気まずそうな織斑一夏が扉を開いていた。

 頬を指で掻いて、「あー、」と非常に言いにくそうに声を出している。

 そんな様子を見て、ようやく二人は周りを見回す。穏やかな日差しと二人を見つめる生暖かい目線達。

「あらあら、まだ若いわね」

「あら奥様だって」

「うふふ、そうかしら。アナタもお若いわ」

「いえいえ私なんて」

 そんな感じの会話が辺りで展開されている。

 そしてソレを感じ取れば、当然恥ずかしくなるのが人である。

 

 真っ赤になっていく顔を眺めながら一夏は非常に言い難そうに、進言する。

 

「とりあえず、家に入るか?」

 

 

 

 

 

 

 

「外は暑かったろ、飲み物出してくるから待っててくれ」

「は、ハイ」

 

 緊張した声で反応したのはセシリアであり、鈴音はリビングを見渡し、記憶とそれほど違い無いことを確認していく。

 

「今朝入れて薄いけど、麦茶でいいよな?」

「あれ、一夏って熱いお茶の方が好きじゃなかったっけ?」

「ソレを鈴やセシリアに押し付ける気はないさ。というかよく覚えてるな」

「べ、別にただ印象に残ってただけよ」

 

 どこか気恥ずかしいのか鈴音は一夏に軽く語尾を荒立てて返す。そんな照れ隠しを「そんな奇行なのか」なんて少し落ち込む一夏。爆発すればいい。

 

 冷蔵庫から出され、グラスに注がれた薄茶色の液体。グラスには氷が入れられカランとグラスを鳴らしている。

 その二つのグラスを二人の前へと置いて一夏は体面するように椅子に座った。鈴音は慣れているのかその麦茶を軽く呷り、セシリアは緊張しているのか少し口をつけるだけでグラスを置いた。

 

「それで、今日はどうしたんだ?」

「何? 用がなきゃ来ちゃいけないっていうの?」

「そうじゃないけど。二人が一緒に来るなんて珍しいだろ?」

「一緒に来たわけではありませんわ」

「そうそう、セシリアが一夏の家の前で、」

「オホホホホ、なんでもございませんわ!」

「お、おう……」

 

 鈴音の口を塞ぎニッコリと笑っているセシリアに一夏は何も言えなかった。ふごふごと声を出している鈴音はムッとした顔でセシリアの手をベシベシと叩いている。

 開放されてから鈴音はセシリアを一睨みするだけで何も言わずに、別の話題へと変える。

 

「そういえばルアナは?」

「ルアナなら寝てるよ」

「こんな時間まで眠っているのですか?」

「長けりゃ日中ずっと寝てる時もあるからなぁ……」

「そういえば眠るのが好きと言ってましたものね」

 

 一番最初の自己紹介を思い出しながらセシリアは呟いた。呟いて、ようやく思い出した様に首を傾げる。

 

「……ルアナさんはここに住んでいますの?」

「ああ」

 

 何を今更、と言った風な一夏。鈴音もコイツ何言ってんの?といった顔。

 いや、セシリアとて覚えていたのだ。覚えてはいたのだけれど、実際はルアナが織斑家へとフラリと来ている程度なんて考えていた。それこそハウスキーパーの様に時折やってくる程度だと。

 

 そんなショックを受けている一名を置き去りにするように織斑家のチャイムが鳴った。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 織斑家、二度目のチャイムがなる数分前。

 

「こ、ここがあの男のハウスね」

 

 鳴らす人物である更識簪が思い出したかのように呟いた。その瞳はどこか恥ずかしげで、しかし言わなくてはいけないという使命感から思わず口走ってしまった。当然、使命など無い。

 

「時折、オカシクなるよね。簪って」

「はぐぅ!?」

 

 そんなどこかテンションの上がっている簪の隣でシャルロットが溜め息を吐き出していた。

 あうあうと何かを弁明しようと言葉を選んでいた簪だが、過程的にも結論的にも弁明なんて出来ない出来事であった為、無いモノは選べず、結果的にションボリと顔を少し伏せるに至った。

 簪が見ていないことをいい事に、シャルロットはそんな様子を撫でくり回したい気持ちで見つめていた。

 ルアナのように強くて引っ張ってくれる人もいいが、こうして小動物的な簪もいいかも知れない。

 彼女の守備範囲が広がった様で何よりである。まあ、彼女の性癖に関しては目を瞑るとして。

 

「どうして私を織斑君の家に誘ったの?」

「一夏と仲良くしてほしいからかな」

「……本当に?」

「もっと言えば、ルアナに頼まれたからなかなぁ」

 

 コレは本当のことである。

 こうしてルアナと一夏が織斑家へと戻ることが決定した翌日、シャルロットは当たり前の様にルアナに呼び出され、簡単な地図(ラクガキ)を渡されて日時まで言われて簪を連れてくる様に言われたのだ。

 非常に大雑把で、いくつかの十字路と矢印で『ココ』と指された場所以外はサッパリ分からない、そんな簡単な地図(らくがき)を受け取ったシャルロットは思わず「わかるか!」なんて叫んでしまったのは仕方の無いことである。

 少しだけ口を尖らせたルアナがシャルロットへと座標データを送ったのは言うまでも無い。

 

 シャルロットとて、どうしてルアナに呼び出されたのかはさっぱり分からないのだ。

 ただ単に、こうではないのだろうか。なんて理由を簪に喋っただけで、実際の所はどうか分からない。当たらずとも遠からず、というのがシャルロットの予想である。

 

「ま、ルアナ本人に聞けば分かるでしょ」

「そうだね……うん」

 

 納得したのか簪は頷いて胸の前辺りで両コブシを握った。キュッとした。シャルロットは何かを納得するように何度か頷いていた。

 

「む、二人とも何をしているんだ?」

「あれ? 篠ノ之さん、ラウラ?」

「何だ、お前らも嫁のところに来たのか」

「る、ルアナは渡さないよ!?」

「いや、簪。落ち着いてね」

 

 慌てたように独占意識を高める簪を窘め、シャルロットは新たに来た来訪者二人を見る。

 先日のルアナとの戦闘で憑き物が落ちたのか、どこか落ち着いた印象のある篠ノ之箒と軍人らしく冷静に辺りを観察しているラウラ・ボーデヴィッヒ。

 今朝にラウラがどこかソワソワしながら服を選んでくれ、とまるで自首するように申し出てきたことを思い出した。

 

「……」

 

 シャルロットは持ち前の冷静さと一夏という判断材料を抜きにして思考する。

 これほどタイミングよく集まることなどあるのだろうか。自分と簪は予めルアナから時間指定をされたが、目の前の二人は恐らく偶然出会ったのであろう。

 

「そういえば二人はどうしてココに?」

「む……その、一夏が自宅に帰ると聞いてな」

「箒とはつい先ほどソコで出会った」

「……ふむ」

「どうかしたの?」

「いや、何でもないよ」

 

 何でもない訳なんてある筈が無い。

 一夏が自宅に戻るなんて情報はIS学園に広まっていなかった筈だ。そうでもしなければ織斑一夏の自宅には恐ろしい程の女子の群れが集まることになるだろう。

 ソレがこうして特定の人物にだけ漏れている。

 

「…………」

 

 うん、イヤな予感がしてきた。

 シャルロットは口には出さずに、表情にも出さずに思った。

 内心で深い深い溜め息を吐き出しながら、簪がチャイムを押す姿を眺めたのであった。

 

「はいはいって……なんだ箒達も来たのか」

「はい、決まったぁ……」

「シャルロット?」

「いや、なんでもない」

 

 だめだ、だめだ。絶対仕組まれてる。私達だけ時間指定をしたのは確実に来る様にだ。

 他の人には適度な情報でも流したのだろう。

 再三になるが、ツンデレご主人がどこまで考えていて、何をしようとしているのかが分からなくなってきたシャルロットは溜め息を吐き出して織斑家へと入った。

 ガチャリ、と背中で玄関扉が閉まったがシャルロットにしてみれば地獄の門でも閉まったかの気持ちだった。

 いや、危険は無い事は分かっているけれど、こうして一夏に近しい他人が集められたのには何かしらの理由があるのだろう。

 加えてその理由はこれからの一夏との付き合いに響くようなモノかもしれない。

 先のことを考えてみても、シャルロットは頭が痛くなってきた。聞いた方がいい、というのは理解しているが、ソレとコレとは話が別である。

 

 シャルロットは考えるのをやめた。どうせ聞くしかないのだ。聞かなくても、ご主人さまから直々に聞かされるのだ。ベッドの上で囁かれるのは大歓迎ではあるが……。

 

「ま、どうにでもなれ」

 

 どうにかなる、ではない。

 

 

 

 

 

 人数分のお茶を出され、椅子やソファへと腰掛けている面々。

 いつも通りの人間が揃えば、まあいつも通りの話が弾む訳で。弾む、というよりは姦しい訳であるが。

 簪自身はあまり喋らずに聞き手に回ることが多い人物であるし、シャルロットは今に迫っているだろう情報の大きさに頭を抱えている。

 そんな二人と一夏の耳に階段をゆっくりと降りる音が聞こえた。

 ギシリ、ギシリと床板が響き、ソレが扉の前で止まる。

 シャルロットはうわぁ、という表情を隠した。簪はクエッションマークを頭に浮かべて、一夏は今に来るだろう姫様のために給仕の準備をした。

 

 そして扉は開かれる。

 

「…………」

 

 開かれた扉の音に喋っていた姦しい女達は黙り、寝起きだからか更に深いジト目に睨まれる。

 そして低い声がハッキリと部屋へと響く。

 

「うっさい」

 

 なんとも意思を示した言葉である。

 深い青の瞳を瞼で隠して、着ていた白いタンクトップの肩紐がずり落ちている。下着からスラリと伸びた足が床をしっかりと踏んでいるが、顔を見る限り今にも眠りそうである。

 

 まあ、とにかく、である。

 

「服を着ろ!」

 

 そんな常識的な箒と鈴音とセシリアの叫びは家中に響いてしまった訳である。

 

 

 

 

「おはよう、ルアナ」

「ん。お茶」

「へいへい」

 

 当然のように出されたグラスを呷って、ルアナはそのまま二杯目を入れにいく。

 下着は既にジーパンに隠されていて、ずり落ちていた肩紐も戻されている。

 

 ともかくとしてそんな随分と横暴な態度であるルアナ・バーネットは全員が揃っているかどうかを確認する。

 集めた、というよりは個人的に命令を出していたシャルロット以外は適度な情報操作で集めたのだが、一夏の人徳を褒めるべきところなのか。

 

 まあ、そんな事はどうでもいい。

 

「一夏」

「なんだよ。三杯目は自分で淹れろよ?」

「……ここに居る人間になら晒しても問題ない」

「…………」

 

 一夏は眉間に皺を寄せる。口をへの字にして、ルアナを見つめた。見つめられてたルアナは一切視線を逸らさずに一夏を見つめる。

 

「ルアナが言うなら」

「アナタの話。私の判断に逃げるな」

「…………」

「ちょっと、二人だけで話さないでよ」

「一体何の話なのだ?」

「一夏と私の話。コレはみんなに話しておくべき」

「…………」

「いつまでも立ち止まってる訳にはいかない。一夏は進まなくちゃいけない」

「……わかったよ」

 

 長い息を吐き出して、一夏は深く椅子に腰掛ける。そして少しだけ瞼を閉じて、天井を見上げる。

 瞼を上げ、改めて全体を見る。

 十二個の瞳が自分を見ている事を理解して、一夏は一度深呼吸をする。

 

「俺とルアナの関係……俺と、ルアナの話をしようと思う」

 

 きっとコレは誰も得をしない。

 語る一夏でさえも、聞いた人間でも。

 それでも、一夏は損をするためにコレを語らなくてはいけない。

 ソレは一番最初の話。

 

 

 ソレは彼女の最後のお話。




>>カルタ?
 かたる、かたる、カルタ。
 語呂的に勝手に手が動いた。仕方ない。

>>前半いらなくね?
 千冬さんが寝ぼけてて可愛いだろ、いい加減にしろ

>>しゃるろっと(察し
 ご主人様に軽く調教された結果。色々と察しがよくなりすぎ。物語の進行的に問題あり……どこかで脱落げふんげふん

>>鈴ちゃんINいたお
 ツッコミ界のアイドル。頭に付いた操縦桿は伊達じゃない!

>>セシリア・チョコロット
 誤字ってしまった美味しそうなファミリーネーム

>>地図
 場所が正しく示されているとはいってない

>>睡眠ルアナ
 寝てない。先で書く予定ではあるけれど、一夏が「眠っている」という情報を吐き出している事は知っているのでその情報に従っている。

>>「ここがあの男のハウスね」
 その内、簪ちゃんが
「どいてルアナ! その男殺せない!」
とか言いそうで怖い。

>>集めた理由
 そろそろ一夏を前進させなくてはいけない

>>ショーツ
 黒

>>最初のお話
 一夏とルアナの最初の話

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