私が殺した彼女の話   作:猫毛布

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超常思考武闘ロボ、ホウキ・シノノノ! 出ます!


猫「って箒ちゃんがロボに乗ってる夢を見た」
友「あぁ、あの胸がバルンバルン動くピッチリスーツか」
猫「対ショックは強そう(確信」



50.子鬼の戯れ

 篠ノ之箒にとって織斑一夏という存在はとても大切な存在だ。

 友人よりも、親友よりも、もっと大切で、貴重で、素敵な、そんな存在だ。

 幼少の頃から篠ノ之流剣術を嗜んでいた箒と違い千冬が連れてきたことで嫌々ながら道場に通っていた少年。そんな少年に恋をしたのは、箒自身漠然としている。

 けれど恋をしたのだ。これは確かな気持ちで、確かな思いだ。その事を箒は自覚している。

 彼を狙うライバルは多い。

 箒が自覚しているだけで片手の指程もいる。

 

 セカンド幼馴染である凰鈴音。

 一夏の強さに惹かれたセシリア・オルコット。

 一夏の唇を奪ったラウラ・ボーデヴィッヒ。

 少し前まで一夏と同室であったシャルロット・デュノア。

 一夏の所有物と自称している擬似ISルアナ・バーネット。

 

 尤も、箒の認識であり、シャルロットはあまり織斑一夏という存在に興味を示してはいない。友人程度には既知はあるが、ただそれだけである。

 それでも箒にしてみれば、いいや、恋をしている箒にしてみれば『一夏と住んでいたのだから、一夏の魅力に気づいているに違いない。恋のライバルだ!』なんて途方もない超常理論が脳内で展開されている訳であるが……。

 

 

 そんな五人に対して、篠ノ之箒という人物は何も所有していなかった。

 性格で言えば多少(当人比)素直ではないし、少しばかり(当人比)暴力的かもしれない。

 肉体で言えば見るも無残な(武人的比較)駄肉が胸に備わっている。

 箒が自信を持っている武力に関しても専用ISを所持していなかった箒は劣っている。

 圧倒的に足りないモノが多すぎた。

 だからこそ箒は誰にも負けないために、一夏に見てもらう為に、誰もが認めてくれる程の力を望んだ。

 望んで、容易くその力は手に入れる事が出来た。

 

 ライバル関係でもある四人と模擬戦をすれば勝利を得る事が出来る。望んでいた力だ。

 けれど、たった一人だけからは勝ちを得ていない。と言っても、負けも得ていない。

 ルアナ・バーネットだけは篠ノ之箒と戦うのを極力避けていたからだ。

 その真意を箒は知ることもないが、自分に勝てなくなったから、という理由が即座に思いつき鼻を鳴らしてやった。

 すべてに勝つ事が出来た箒は、ようやく一夏を取り合う土俵へと立つことが出来た。それも圧倒的優位を得て。

 

「ふぅ……」

 

 少しばかり長い階段を上り、篠ノ之箒は鳥居に手をついた。

 篠ノ之神社と呼ばれる神社の境内に足を踏み入れて懐かしさを受け入れた。

 小さい頃は慣れ親しんだ鳥居が自分を受け入れてくれる。随分と小さくなった鳥居を見上げて、箒は少しだけ頬を緩めた。

 頭を巡る一夏との思い出を噛み締めて、少しだけ眉を顰めてしまう。

 

 おや? 私はこんなに愛想も悪かっただろうか。

 いいや、剣術以外でも素晴らしい思い出はあるだろう。

 

 頭を捻って必死で思い出そうと唸る箒。鳥居に手をついて唸る様は鬼か邪霊の様だ。

 箒は口をへの字にしてポケットの中に入った生徒手帳を取り出す。開けばそこには幼かった自分と一夏が写っている。

 両端には厳しい顔をした千冬と朗らかな笑顔を浮かべた束が写っているのだがソレはピッチリと折られ一夏と箒のツーショットに見える。

 

 まだ可愛げの残る一夏の顔を見て、頬が緩む箒。ああ、この時の一夏も可愛かった。今はカッコよくていいが。

 

 

「箒ちゃん、こんな所にいたのね」

「は、はぃ!?」

「あらあら、何を慌てているのかしら?」

 

 うふふふふふ、なんて意味深な笑みを浮かべた四十代も後半である女性。落ち着いた物腰と柔らかい笑み、というよりは箒の気持ちを察して思わず笑顔が浮かんでしまっている。

 慌てて落としそうになった生徒手帳をなんとか掴み、胸へと押し付けるように両手で押さえた箒は少しだけ顔を赤くして言葉を紡ぎ出す。

 

「い、いえ、その、懐かしくて。すいません、雪子叔母さん」

「うふふ、そうよね元々住んでいたもの。楽しい思い出もあるわよね」

 

 箒は雪子を苦手としていた。好きか嫌いか、という話ですれば圧倒的に好きであり、そんな選択肢すら意味もない程度には好きだ。

 けれど、雪子はまるで箒の事がわかっているかのように話を進めるのだ。一夏に恋をしてから雪子に会った時など、あらあらうふふ、なんて楽しそうに笑みながら根掘り葉掘りと一夏について聞かれたモノだ。

 そんな事もあって箒は雪子に対して苦手意識を持っていた。尤も自身の恋を応援してくれている人物であり、尊敬すべき人の一人でもあるのだ。

 

「ところで箒ちゃん。夏祭りのお手伝いなんてよかったのかしら?」

「迷惑、でしたか?」

「そんなことないわよ。箒ちゃんがよければいいんだけど。 ほら、誘いたい男の子が居たんじゃないかなぁ、なんて」

「い、一夏とはそんな……」

 

 一人勝手な妄想と自爆を繰り返し顔を真っ赤にする箒を見ながら雪子はあらあらうふふ、と笑みを深める。

 

「なら箒ちゃんの厚意に甘えましょうか。 六時から神楽舞があるから今の内にお風呂に入って頂戴ね」

「はいっ」

「ところで箒ちゃん。元々篠ノ之流剣術は鬼や悪霊を調伏する為の剣術だというのは知っていたかしら?」

「? そうなんですか?」

「そういう設定の方が神楽舞を見る方も楽しめるし、入門生にも受けがいいのよ」

 

 困ったような顔をして頬に手を当てながら雪子は素晴らしい笑みを浮かべた。その顔を見ながら箒は幼少から続く思いを新しく更新する。

 

 雪子叔母さんに立ち向かうのはやめよう。

 

 

 

 

 

◆◆

 

 幼少から続けていた神楽を箒は欠かすことはなかった。それこそ、まるで日常に組み込まれている様にである。

 巫女である。というのは箒にとって特別であった。何が特別なんて事は答える事ができないのだが、箒にとって確かにソレは篠ノ之箒の一部なのである。

 

 扇と直刀を握り締め、雪子の前で舞って見れば絶賛の言葉を得た。それによって、箒は自信を裏付けすることが出来た。

 

 だからこそ、だからこそである。

 

 マズイ……これは、マズイ。

 

 チラリと今から自身が舞う舞台を覗きみた箒。木造の簡易舞台を建てられ、その周りを囲む様に祭りへやって来た市民達がいる。

 今か今かと巫女を待ち、神楽を待っている。

 その巫女である箒は舞台袖で冷や汗を流しながら手の平を人という字を書き、それを飲み込んでいる。その行動は既に十を超え、手を人の字に窪ませるのかという疑問さえ湧いてくる。

 

 実際踊り初めてしまえば集中し始めて周りの風景など見えなくなるだろう。

 ソレは箒とてわかっている。けれどもその踊り始めがどうも決心がつかない。

 待機状態である【紅椿】を見れば時間表示が現れる。18:02。そろそろ始めなくてはいけない。

 

 箒は深呼吸をする。

 大きく吸い込んで、小さく吐き出す。もう一度、次は細く長く吸い込んで息を止める。

 あとは自然と吐き出す。ここに自分の意思はない。

 

 篠ノ之箒は一歩前に踏み出した。

 神楽用の陣羽織を羽織った巫女が舞台へと立ったことで周囲の視線が巫女へと集まる。

 ざわめいていた声が箒の耳に入らなくなる。集中している、という理由もあるがそれ以上に声が無くなったのだ。

 風の音で鼓膜を揺らして、箒は空を見上げる。黄昏時である空が箒の目に映る。

 太鼓の音と鈴の音を捉えて箒は差していた剣を抜刀する。同時に手に持っていた扇を開いた。

 

 

 

 

 予定されていた通り動き始め、予定した通りに箒の神楽は終わった。

 鼓膜に太鼓と笛の音が届かない事でようやく集中を解いた。

 細く息を吐き出して、鞘へと刀を収める。鯉口が鳴り、神楽の終わりを周囲へと告げた。

 

 誰もが静まる空間。音など風の音しか聞こえない。蝉すらも鳴くのをやめている時。

 静かに、けれども確かに、その音は鳴った。

 

―鈴

 

 複数の重なる鈴が、何かの拍子に鳴ってしまう。箒は思わず鈴を持っていた人物へと視線を向けるがその人物は既に鈴を床へと置いている。鳴る事はない。

 

―鈴

 

 また音が鳴る。

 静けさの中から冴えた音が響き、周りが騒めく。

 どこから鳴っているのか、そんな声が聞こえ、誰かが指を指し、そして誰もがソコへと視線を向けた。

 向けられたのは鳥居の上。死覇装を纏い、顔の上半分を鬼の面で隠した存在がそこには居た。

 紫銀の髪を首元で揃え、頭の両端には鈴の髪飾りが付いている。

 薄い着物からはしっかりと体のラインが見え女性である事はよくわかる。子鬼とも言える体躯の鬼は小さく飛んで、鳥居へと足を付く。

 

―鈴

 

 頭についた鈴が鳴る。

 

 いや、何をやってるんだ?

 それが箒の反応である。至極当然の反応であったが、箒はそういう反応をした。

 ルア、いや子鬼はまた小さく跳び、次は鳥居ではなくて石畳へと降りた。

 高所からの落下だというのに一切着地音など鳴らず、変わりと言わんばかりに鈴の音だけが子鬼の居場所を知らせた。

 

 そして跳躍。

 

 次は市民達の頭を飛び越えて、クルクルと回転しながら舞台へと放射線状を描き跳んできた。

 そして着地。尤も、この着地はズベッという音が似合う程無様で足を滑らせて盛大に頭を床板へとぶつけていた。

 両手で頭を抑えて藻掻く子鬼。動くごとに鈴の音が小さく鳴っている。

 

 箒の耳に小さく笑い声が聞こえた。

 このおちゃらけた子鬼の行動を笑っている。子鬼は寝そべっている状態から足を立てて、戻る反動を利用して立ち上がった。

 そして篠ノ之箒を目前へと捉えた。

 

「……えっと、バーネット……だな?」

 

 箒の小さな問いかけを子鬼は無言で首を盛大に横に振っている。その人物と自分は全く違う存在なのだと言わんばかりに。

 いいや、確かに立ち振舞いはまったく違うけれど、目の前の存在はルアナ・バーネットである。と箒は分析した。

 同時にチラリと雪子の方を向けばやはりいつもの様に笑みを浮かべていた。

 

 つまりである。

 どういう事かはわからないけれど、バーネットと雪子は繋がっていて、篠ノ之道場を栄えさせる為に巫女である自分と鬼としてぶつけた。

 ため息を吐き出しながら篠ノ之箒は当たりをつけた。

 

 ならばこれは八百長である。そして見世物でもあるのだ。

 そうならば、さっさと終わらそう。

 

 箒は刀を抜いて、正眼に構える。切っ先はしっかりと子鬼へと向いているが、その表情は随分と気が抜けている。

 子鬼はニヤリと口を歪ませた。

 

 向いていた刀を横から左手の甲で逸らし、右掌打を箒へと打ち込んだ。

 繰り返して来た模擬戦で危機感の感じ方が磨かれたのか、箒は上体を逸らしソレを辛くも回避することに成功した。同時に視界には黄昏の空と子鬼の腕。

 そして子鬼の手のひらは開かれ、箒の顔を掴まんばかりに下を向いている。

 マズイ。そう感じた時には既に遅い。上体を逸した箒の行動は制限されている。襲い来るであろう痛みを堪える為に箒は歯を食いしばった。

 

 

 むにゅん。

 

 そう、むにゅん、である。音にすればそんな音が箒と子鬼とソレを目撃した人間に伝わった。当然、音など出ていない。子鬼の頭についた鈴が鳴っていた程度だ。

 子鬼の手に盛大に握られている巫女の乳房。

 子鬼は思わず「ほう……」と唸ってしまう。子鬼の記憶に少し前に購入した金髪の人間が思い浮かび、確かめる様に手に力を入れた。

 

 むにゅん。

 

 もう一度子鬼は「ふむ」と唸る。同時に真っ赤になった巫女が腕を振るうが、ソレをバク転することで回避。

 ハァハァと恥ずかしさと怒りを含んだ呼吸をして箒は子鬼を睨んだ。しっかりと距離を保っている子鬼は右手を見ながらワキワキと手を動かしている。

 そしてその手を握り、天高く打ち上げた。同時に湧き上がる歓声。男たちの野太い声。

 けれど、そんな声すらも聞こえないのか箒は子鬼を睨んでいる。

 

 ああ、ノッてやろう。ノッてやろうじゃないか。

 

 コメカミに四角を浮かばせてヒクリと口角が動く箒。ソレをみてニタリと子鬼は嗤った。

 そして扇を取り出して、宙に放ってまた掴む。その扇を見たことのある箒は自分の腰元を確認した。先ほどまでソコに差していた扇が無くなっている。

 そしてソレは子鬼の手に持たれていて、子鬼は扇を開いて口元を隠してみせた。

 

 

 箒が刀を構えた事で湧いていた男達の声が静まる。弦が張り詰める様に静かな空間が箒と子鬼を包んだ。

 

 先に動いたのは箒である。

 子鬼を両断するように縦に振るわれた刀。その一閃を身を軽く引いて回避した子鬼は峰をしっかりと裸足で踏んで扇を前へと薙いだ。

 刀から片手を放し、腕で扇の握る手を抑えた箒。腕同士が接触した衝撃を感じ、子鬼の腕を絡め取る。捻り上げる様に腕を巻き込み子鬼の体勢を崩す。崩れれば自然と抑えられていた刀の拘束が解かれる。

 横に振られた刀は床を背にした子鬼に当たることなく空を切った。同時に掴んでいた手が解かれ子鬼は床板に手を付いて箒を背面にして飛び越えた。

 

 距離を置いた所で子鬼は立ち止まり、扇を前に構えて息を吐き出した。

 箒はその構えを訝しげに見つめて、刀を構えた。

 

 箒にとって慣れ親しんだ構えであり、子鬼はきっと知らないだろう構えだ。

 剣術には少なからず型がある。篠ノ之流剣術もその例に漏れず型は存在している。何度も繰り返す様に体に染み込ませた箒はソレを一目見ただけで判断出来る。

 もちろん、ソレ以外の動きをされた所で対処する事も出来るだろう。

 

 

 接近し、扇を横に振るった子鬼。その扇を流す訳でも受ける訳でもなく、刀を横に倒して当たる事を避ける。同時に刃を返して箒は刀を逆袈裟に打ち上げる。

 扇を動かした子鬼はソレを受け、そして扇を弾き飛ばされる。子鬼はやはりニタリと嗤っている。

 

 箒は切っ先を子鬼へと向ける。顔の横で構えられた刀をそのまま突き出せば子鬼を倒す事が出来る。

 これはそういう型である。

 

 だからこそ、箒はすんなりと、体が命じるがまま刀を突き出した。

 

 

 突き刺された瞬間に子鬼の体は緑色の粒子を纏い霧散する。

 幾許かの時間を置いて箒は刀を再度鞘へと収めた。これにて芝居も終了である。

 

 そんな箒の頭にコツンと何かが当たり、床板へと転がった。扇である。

 自身が弾き飛ばした扇を手にとって、頭を摩る。そして、ゾクリと背筋が凍った。

 実際この型は扇を弾き飛ばす事はない。ただ相手の体勢を崩す為の逆袈裟だ。故に、扇を手放したのは子鬼の行動だと分かる。

 そして篠ノ之流剣術は扇と刀の異種二刀流ではなく小太刀二刀の剣術だ。

 

「…………」

 

 扇を見ながら箒は市民を見ることもなく舞台袖へと姿を消した。




>>雪子さん
 あらあらうふふ、なお腹の真っ白な人。というか箒ちゃんがわかりやすいのが問題なんだけれど。

>>当人比
 比較対象が千冬さんとか束さんという人外なのでオカシイ

>>子鬼
 紫銀でそれなりに小さな体躯の女の子鬼。決してル○ナとかじゃない。って本人は言ってる。

>>むにゅん
 むにゅん



>>作者的な事情

 やる気がヤバイ。体調がヤバイ。咳ってこんなに出るもんだっけか。精神的にグラグラでぐちゃぐちゃです。仕方ないね。
 たぶん、ここから先不安定な文章になると思います。ご了承ください。


 あっるぇ?

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