束さんふるすろっとる☆
2015/04/28
誤字訂正
旅館の最奥の一室。
そこに専用機持ちが集合していた。織斑一夏、凰鈴音、セシリア・オルコット、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒ、そして篠ノ之箒。
専用機ではなく、自身が擬似ISと露見してしまったルアナ・バーネットもこの部屋にいる。ただし、各自は織斑千冬の前にいると言うのに、ルアナは部屋の隅で腕を組み瞼を閉じて柱に凭れて座っている。
「では、現状を説明する」
千冬の鋭い声が部屋の中に響く。
中空に出現した半透明のディスプレイには一機のISが投影されている。銀色のIS、名称【
「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代軍用IS、【銀の福音】が制御下を離れ暴走。監視空域より離脱したと連絡をうけた」
その言葉に息を飲み込む六名。一人……いいや、一機だけは言葉に対してそれ程表情を動かす事はしなかった。
「その後、衛星による追跡、軌道予測の結果、ここより二キロ先の空域を通過することがわかった。時間にして五十分後。学園上層部からの通達により我々がこの事態に対処することとなった」
ある程度予想出来た言葉に息を飲んだのは一夏しかいなかった。
専用機を持ち日の長い他の人間達はそれなりの訓練を受けている。ラウラに至っては軍人だ。
しかし、篠ノ之箒は決してそんな事はない。けれども、事態を対処する、という事が自分達であることに驚きはなかった。いいや、驚いてはいた。けれど、そんな驚きよりも強い感情がフツフツと心に湧き上がっていた。
真剣な表情の中、ほんの一瞬、篠ノ之箒は笑った。ただ口角を少しあげる程度の笑み。自身の実力を試す、そんな絶好の機会に興奮を隠す事はできなかった。
その一瞬を見逃す程、織斑千冬の瞳は節穴ではない。そして、離れて見ているルアナもソレに気付いてしまった。
一瞬だけ、千冬とルアナの視線がかち合い、ルアナは溜め息を吐き出した。我ながら面倒な生き方をしている、と自覚してから肩を竦める事で千冬に返した。
「それでは作戦会議を行う。意見のあるものは挙手するように」
「はい」
相変わらず、混乱している一夏を放置してセシリアが手を上げる。
「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」
「わかった。当然これは二カ国の最重要機密となる。決して口外するな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判で、最低でも二年の監視がつけられる」
「了解いたしました」
そのセシリアの言葉で空中ディスプレイに情報が表示されていく。
混乱している一夏は気がつけば機密を知るハメになるのだが、元々彼自身が機密の塊である。言ってしまえば、彼が所属している日本国にとって彼の自己紹介ですら機密の漏洩なのだ。まあ、彼の場合はニュースにまで出てしまっているので今更、という話なのだが。
さて、この【
攻撃と速度を重視し、言ってしまえば高機動し高速反転する爆撃機と似たようなモノである。尤も、現実はそれよりも異常なスペックであるのだけれど。
「偵察は行えないのですか?」
「…………、無理だな。この機体は現在も超音速移動を続けている。アプローチは現状一回きりだ」
「一回きりのチャンス……でしたら、一撃必殺の攻撃力をもった機体であたるしかありませんね」
少しだけ間を開けてから言う千冬に同調した山田真耶。そして全ての視線は一夏へと注がれる。
「え? おれ?」
「当然でしょ? アンタの零落白夜以外に落とせないわよ」
「それ相応のエネルギーナイフを所持しているルアナさんもそうなんですが……」
セシリアの言葉に視線はルアナへと動いた。ルアナはアクビをして、我関せず、と言った風に畳に寝転がっている。
この空間に置いて異常でしかない。けれども、彼女達のルアナという印象はソレなのだ。それが擬似ISだったと分かっていても。
逆に軍人らしく直立して、意見を言う彼女の方が違和感があって怖い程である。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺が行くのか?」
「一夏しかいない」
ボソリ、とルアナが呟いた。もう自分はしませんよー、とでも言っている様に。
その態度にピクリと篠ノ之箒が反応してしまう。
「お前も対象には入っているだろう、バーネット」
「私は行く気がない。それに、疲れる」
「そんな理由で!!」
「待てよ、箒」
「そうですわ、落ち着いてください」
「離せ! 一夏、セシリア! 私はこの女に言いたいことがだな」
「ちょんまげ娘め。新しい刀でも得て浮かれているの?」
「ルアナもちょっと黙ってなさい!」
「そうだよ、ルアナさん。少し喋らないでおこうか」
作戦会議が一瞬にして崩壊する。そんな中、ラウラだけはルアナではなく、千冬を見ていた。
ソレは軍人としての癖でもあったし、そして千冬が僅かに眉間を寄せていたからだ。怒りでもなく、呆れでもなく、ただ悲しそうに眉間を寄せていた。
そんな千冬が表情を呆れへと染めて溜め息を吐き出したところで各自の視線が千冬へと集まる。
「お前ら、少し黙れ」
「は、はい!」
淡々と吐き出された言葉に思わず姿勢を正してしまった。ルアナだけは相変わらず面倒そうに畳に横になっているのだけれど。
そんなルアナを見下して、もう一度溜め息を吐き出して千冬は口を開く。
「バーネット、命令だ。この場にいろ」
「なっ?! 織斑先生! どういうことですか?!」
「どういう事も、こういう事だ。篠ノ之、理解しろ。いいや、理解などしなくてもいいが、その態度は改めろ」
「ッ……」
「バーネット、返事はどうした?」
「うぃ」
「はぁ……まあいい。では作戦を詰める。織斑、これは訓練ではなく、実戦だ。無理だと感じたならばしなくてもいい。お前がいない場合の作戦を考える、それだけだ」
「……やります。俺がやってみせます」
「よし。ならこの中で最高速度を出せる機体は――」
「当ッ然! 【紅椿】だよ!」
その声は天井裏から聞こえた。
もはや数えるのも億劫になった千冬の溜め息を響いた。
「……バーネット。やれ」
「はい」
立ち上がり、手首を捻って出現したナイフを握り、それを天井に向かって投擲したルアナ。
天井板を貫いて柄の中程まで埋まったナイフ。その少し横の板がズレてエプロンドレスを着用した天才がヒラリと降りてきた。
「もう! るーちゃんもちーちゃんもお茶目さんだなぁ」
ナイフの投擲がお茶目だったならば、この世界の大凡の悪意がお茶目で終わるのだけれど……いいや、天才の物差しで計ることはないか。
ウサ耳の付いた頭に手を置いて笑顔である篠ノ之束。そして、何事も無かったかのように会話を続けるのだ。
「で、さっきの事だけど」
「山田先生。この部外者を何処かへ……いや、ゴミ収集所とかに持って行ってください。できれば、迅速に」
「は、はい」
「やだなー、そんな所に持って行っても世間がゴミとか言ってる物体で怪獣とか作っちゃうよ?」
「……埋めるか」
「いやん、愛情表現が過激だね!」
体をくねらせる束に対して深い溜め息を吐き出した千冬。
ルアナに関しては先ほどのナイフでやる気を無くしたのか畳に寝転がっている。
一瞬にして混沌に陥ったのだけれど、その混沌に陥れた元凶が思い出したように言う。
「ああ、そうだそうだ。さっきアプローチが一回だけって言ってたけど」
「……いつから居た?」
「え? 作戦会議が始まってからだけど?」
「…………いや、いい」
「うんうん。私が天井裏でいつ登場しようか迷ってるそんな姿なんてどうでもいいんだよ。いやー、埃っぽい所にいると埃を除去する機械でも作りたくなっちゃうよね」
あははー、なんて笑っている天才。実際にソレを作り上げそうで怖いのだが、話が進まないので、是非とも早く話を進めて欲しい。
「それでさー。ダメだよちーちゃん。皆に嘘なんか吐いたら」
「……嘘は言ってない」
「むふふ。そうだねー。確かに現状で考えれば一回きりのアプローチだね」
「すいません、いったい?」
「ああ、君は……あれだね、えっと、そう! 一昨日にあったクロワッサンの精霊だね!」
「違いましてよ!?」
「え? でもこの金髪のクルクルが」
「束、この部屋から出て行け」
「じょーだんだよー。やだなー。 まあ、私に噛み付いてきた金髪ちゃんはよく覚えてるよ。名前は覚える気がないから言わなくていいよ?」
「…………」
「束」
「冗談じゃないよー? あ、話を進めろっていうんだね。まあ、作戦会議だもんね、時間は有限だ。時は金也、金の林檎よりも重いのだ。金の比重を考えて、相当重いよねー。
ちーちゃんの視線も痛くなってきたし、私は提案します! 一度牽制しよう!」
それは既に出た作戦であり、そして千冬自身が却下をした作戦でもある。
超音速で飛行し続けている【銀の福音】に対して牽制、そして情報の収集は不可能に近い。けれど、ソレを天才が言ったのだ。
思わず、この天才はバカなのだ、と思ってしまう各員。けれども二人は違う。
「束さん、ソレはダメだ」
「えー、でもこうしないと抑えれないよ?」
「それでも……」
「その作戦は認められない」
「ぶーぶー、束さんのナイスアイディアなのにー」
ぶぅたれる束に対して、千冬と一夏は真剣な眼差しで束を睨んでいた。
「――わかった」
そう言葉を漏らしたのは、誰でもない、ルアナである。
ゆったりと立ち上がり、アクビを一つだけして何かを了承した。
その言葉に対して束は笑顔になった。
「うんうん。るーちゃんならわかってくれると思ったよ! さすがだね!」
「ルアナ……」
「一夏。可能性は広く」
弱々しく吐き出された一夏の言葉をルアナは淡々と切り捨てた。
「どういう……事なの?」
「私が目標まで跳ぶ」
「とぶ?」
「ぬっふっふ。私は天才だからね! このるーちゃんに必殺技を仕込んでいるのです!!」
ニッコリと笑った束に対してルアナは面倒そうに溜め息を吐き出した。
そして、まるでサプライズを企画した子供のように、楽しげに笑っている。
跳ぶ、という単語を頭の中で反芻していたセシリアは、予想したくない事を予想してしまった。
「まさか……」
「お、金髪ちゃんは気付いたのかなぁ? まあそうだよねー。IS設計者である私、篠ノ之束。跳ぶ、あとはるーちゃんが擬似ISであること。これだけあればわかるよね」
「いけません。ルアナさん! ソレは確実にダメです!」
「セシリア、どういう事だ?」
「……ッ」
ラウラの言葉にセシリアは歯を食いしばる。自身の想像通りだったならば、ソレは既に常軌を超えている。人間としての大事な何かが欠けてしまっている。
だからこそ、この想像があっているとはセシリアは思いたくなかった。同時に千冬や一夏が口を噤んでいた理由がわかった。
「あら? 言えないのかなぁ。別に単なる量子テレポーテーションするってだけなのに」
「量子、てれぽーてーしょん?」
「そう! 手品みたいに種も仕掛けもある、けれど長距離移動を可能にした技術! いっつ、いりゅーじょん!」
「セシリア、どういう」
「……ISで用いる量子変換技術で、ルアナさんを遠方へと転送する……簡単に言えばそういう事ですわ……」
「え? ルアナってそんな事出来るの?」
「……まあ」
「なんだ、バーネット。そんな事が出来るのならどうして言わなかったんだ?」
「篠ノ之さん! アナタ、その言葉はわかって言ってますの!?」
「?」
「……まさか」
ようやく合点がいったのかシャルロットの顔が真っ青になる。
そしてルアナを見て、何も思ってないかのように溜め息を吐き出している彼女の異常性に震えてしまった。
「ぬっふっふー。では説明いたしましょー! なんとも簡単な事なのであーる!
このるーちゃんを量子変換します! ソレを予め設定した場所へと転送します! 量子変換して、はい、いっつ!いりゅーじょん!」
そんな、有り触れたタネと仕掛けを言うように、明るく、暗い事など一切ない、そんな束の声が部屋の中にこだましだ。
>>量子テレポーテーション
二つの量子があったとして、その片方の量子の状態を観測するともう片方の量子の状態が確定する、そんな知識。
この量子は別段隣あったモノではなくていいので、A地点にある量子の状態を観測すれば、B地点にある量子の状態を確定することが出来る。
>>簡単に説明するんだッ!
量子変換された【ルアナ】を.rarファイルに圧縮してデータ転送。転送した側で解凍して【ルアナ】を復元。やってることはこんな感じです。まあ、もっと面倒なんですけど。
>>もっと簡単に説明できんのかね?
いっつ、いりゅーじょーん!
>>真っ青になったり、怒ったり
友達想いの人たちです。セシリアさん辺りは察しのよさのお陰で一番嫌な役を押し付けてしまいました。
>>噛み付く理由
量子変換されて、もう一度復元した存在は果たして本当に変換前の存在なのでしょうか? って事。加えれば量子は動き続けていて観測できない……というのが今の物理論だった筈なので、果たして確実に転送なんて出来るんですかねー、という話。
無理やり二状態に持ち込んでも、二分の一の確率で存在が復元できます。実際はそれよりも確率は低いのですけど。
>>察しが良すぎるセシリアさん
心的にチョロイだけで彼女は勤勉なのです。勤勉なのです!(迫真
>>短い理由
束さんが暴走し続けてしまうので、少し切ります。
あとはルアナがダメダメです。優しさの欠片を見せてしまいましたので……。
書き手の頭のリセットも含めて短めです。ご容赦ください。
別に某カードゲームを初めて、【植物族】系のデッキを組むのに忙しかったり、某ロボットプラモデルを作ってたり、作成したデッキ内容で小説書けるかなぁとか妄想したり、妖精さんの尻尾を捕まえる為に幻想世界に紛れ込んだり、1立方メートルの原木を素手で叩き割ったり、戦場に出向いていたり、そんな事は一切ありません。
そんな事実は一切ないんです!