私が殺した彼女の話   作:猫毛布

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34.キツそうな嘘つき

 山葵はいい物だ。

 口に入った瞬間に鼻に抜ける香りも、ツンとしたその辛味も、舌に残る甘みも。すべてに置いて最高である。

 本わさびという擦りたてのモノは更に最高である。

 今、ルアナの口の中で転がっている甘みこそ、至高なのである。

 

「ルアナ、そんなに沢山わさびを乗せなくても」

「私は大丈夫」

「ちょっと涙ぐまれて言われても説得力ないよ……」

 

 ルアナを挟むように座ったシャルロットと簪。三人とも浴衣を纏っており、ルアナと簪は綺麗に正座をしているが、シャルロットは何度も足を組み替えているようだ。

 それでも笑顔をたやさない彼女は実に素晴らしい教育を受けているのだろう。

 

「シャルロット、足の間に座布団を挟むと楽」

「そうなの?」

「私は、慣れてるからわからないかな」

「モノは実践」

 

 座っていた座布団から腰を上げて、抜き取ったルアナはシャルロットのお尻をペシペシと叩く。

 

「何も叩かなくてもいいんじゃないかな?」

「早くあげる」

「もう……」

 

 観念したようにシャルロットは腰を上げて、ルアナはその間に二つ折りにした座布団を挟む。

 足首と踵を隠す様に置かれたそれに改めて正座をしたシャルロットは先ほどよりも視線が高くなった事よりも、随分と楽になった状態に感動を覚える。

 

「すごい! ずっと楽だよ!」

「別に畏まる場所でもなければ、便利」

「おお……でもルアナさんが畳に直接」

「そっちの方が楽だからいい」

「……ありがとう、ルアナさん」

「別に礼は……あ」

「どうかしたの?」

「これ以上服を勝手に着せないでほしい」

「わぁ! 簪さん、これとっても美味しいよ!」

「本当だ……美味しい」

「……むぅ」

 

 少し不貞腐れた様にルアナは山葵を乗せた刺身を口に運んだ。不貞腐れた顔は消えてご満悦の様だ。

 むふふ~とでも言いたげにしっかりと和食を楽しむルアナ。美味しいモノを食べている時のルアナはとても幸せそうである。

 

「ホント、普段の印象とは打って変わってなんだね」

「あんまり今のルアナに話しかけない方がいいよ?」

「え? 何かあるの?」

「自分のおかずが無くなる」

「……肝に銘じておくよ」

 

 ご満悦なルアナを挟んで簪の助言を心の奥に深く刻んだシャルロット。目の前にある一人用の卓上鍋からシイタケが二切れほど無くなっている。確かに数秒前まではあった筈である。

 うまうまと何かを食んでいるルアナは噛む度に出汁が溢れ、肉厚な果肉の甘みを楽しんでいる。

 まあ、こういうルアナさんも愛らしくていいかもしれない……。と思ってしまうシャルロットはお人好し、というよりは愚か者。そして極端な可愛いもの好きなのである。

 

「ご馳走様でした」

 

 静かに手を合わせたルアナは両隣の彼女達が食べ終わるのも待たずに立ち上がる。足は痺れもしていないらしく、随分と流れる様な動作である。

 立った事でルアナの視界は上がり、自分を先ほどから見ている視線も同時に上がった事に気がついた。

 ルアナはその視線を感じて、ため息を吐き出した。

 

「ルアナ?」

「なんでもない。部屋に戻る」

 

 くるりと踵を返して、しっかりと畳を踏んで歩いているルアナ。ヒラヒラと振られた手を見ながら簪は首を傾げてしまう。

 一体、あの溜め息は何だったのか。

 時折、ルアナはオカシナ行動をする。例えば携帯電話が鳴ってないのにソチラを振り向いたり。突然言葉使いが変わったり。

 日常生活に置いて、簪はルアナという存在に違和感を感じていた。それはある意味ルアナの癖が露見してしまっている事であるし、ルアナにとってバレても些細な事なのだ。

 けれども、それは違和感だ。簪はその違和感を先ほども感じてしまったのだ。

 

「簪さん?」

「う、ううん。なんでも、ない」

「?」

 

 その違和感を感じることの出来ないシャルロットは疑問を生じさせたが、それも些細な事だと、頭の中で処理をした。

 

 感じている違和感。けれど、それを簪がルアナに問い詰める事はない。更識である自分ではなくて、簪を見てくれる唯一の友人を簪は失う訳にはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月が綺麗だ。

 それこそ輝かしくその光を地面に照らす太陽とは違い、仄かに自身を主張する星達とは違い、月はただ照らし返すだけでどこか不安にさせる光を纏っている。

 

 ルアナは太陽よりも月の方が好きだった。というか太陽が嫌い、というだけの話なのかもしれないが、ともかくとして、ルアナは月が好きである。

 浴衣を着用したまま、砂浜を歩いてきたルアナ。昼間とは違い足の裏を焼いていた砂は体から熱を奪うように冷えている。

 

「…………ダメね」

 

 ルアナは思わず呟いてしまった。

 溜め息を吐き出して苦笑もした。

 先ほどから、というよりはあの混沌兎(篠ノ之束)から自分を殺す、と言われた時からである。

 ゾクゾクと背筋と下腹部に這いずり回る刺激。甘く、刺激的な快楽。

 それを少しでも収めてみようと夜の砂浜に足を運んだルアナだが、どうやら結果は散々だったようだ。

 

 なんせ、自分を殺すという程力を持った存在が現れるのだ。ソレが危機であっても、ソレが事故であっても、何であってもいい。それと相対するのだ。

 きっとソレとのコトはルアナにとって興奮を禁じえない事なのだ。ソレが今にも迫ろうとしているのだ。

 

 眠れる訳がない。自分を幾ら慰めたところで眠気など来ない。

 絶頂など味わえない事を知っていても、自身を慰めてしまう。声を押し殺して味わうことの出来ない絶頂を求めてしまう。

 鏡で自身の顔を見てみれば、散々過ぎたのだ。誰にも見せれない。それこそ、見せる相手は殺す相手なのだ。

 

「ふふ……、あぁ、どうやって殺してくれるのかしら?」

 

 ルアナは空を見上げて、きっと近い内に殺してくれる事象を待つ。ソレが自身にとってどうしようもない事だったとしても、ルアナは嬉々として牙を剥き、その欲求に従う事だろう。

 自身を抱きしめることもなくルアナはその絶頂ギリギリのラインを楽しむ。

 楽しんでいたからこそ、気づくことは出来なかった。

 

「……殺してくれ、る?」

「ッ―――!!」

 

 ルアナは声と砂を踏みしめる音にようやく意識を傾けた。

 宵闇包まれ、月光に照らされた水色の内側に跳ねた髪。

 眼鏡を掛けたその顔にルアナは見覚えしかなかった。

 

「ねえ……ルア、ナ……さっきの事は、どういう、こと?」

 

 簪の唇が震える。出てくる声が上手く出ない。口の中が乾き、水分を求めるように喉が動く。

 対してルアナはその情欲に満ちた顔を即座に仏頂面へと代えた。ソレはルアナの癖であり、そして数年で培う事のできた技でもある。

 けれど、その顔はすぐに崩れる。

 仏頂面だった顔は眉尻を下げられ、面倒そうに開かれた瞼は慈しみを持つように下げられ、口は微笑むように僅かにつり上がった。

 

「ねえ、簪」

「ルアナ、さっきの」

「私、今から嘘を言うわ」

「え? ……う、そ?」

「そう、嘘を言うの」

 

 そう言って、ルアナはゆっくりと口を開く。

 

「私は、近い内に死ぬわ。たぶん、この臨海学校中には」

「どう……して」

「嘘だからよ」

「あ、」

 

 ストン、と簪の心の中に嘘という言葉が広がっていく。

 そう、信じたいからこそ、簪はその言葉に甘えた。けれど、甘えた簪の脳はその甘えを全て否定する。

 ルアナが意味のない事を言うことはない。お菓子を求める以外で嘘など吐き出さなかったルアナである。

 

「全部演技だったの。どれも、これも。本当は甘い物は好きじゃないし、口に食べ物を入れる事だって苦手なの」

「嘘……なんだよね?」

「最初に言ったでしょ? 勿論、この喋り方も嘘を言っている特別な喋り方よ」

「そう、なんだ……」

「そうなのよ。だから、今から言う言葉も、全部嘘なの」

 

 ルアナはやはり、ゆったりと微笑んで簪に背を向けて海を向いた。

 

「簪、私、戦う事しか出来ないの。ナイフを握って、引き金を絞って、弓を引いて……相手の腕を切り落として、焼ける銃口を米神に押し付けて、口を矢で射抜く。そういう事しか出来ない存在なの。

 だからこそ、私は簪の事を憧れたわ。本当に、憧れた」

「私は……そんな人間じゃない」

「そんな人間よ。私にとっては」

「けど、ルアナも何でも出来る」

「そう見えるだけよ。私はさっきも言ったけれど、戦う……いいえ、相手を殺す事しかしなかった人間なの」

 

 まるで演者のように海へと歩き出すルアナ。紫銀の髪が潮風に揺れて、ふわりと浮いた。

 

「そんな人間だった存在に憧れられて、きっと迷惑だと思うわ。けれど、それでも簪には自信を持って欲しい」

「…………」

「簪。アナタは凄いのよ。その歳でISの制作に携わっている。システムを自分で組んでいる! 自分の力で!」

「でも、でも! 私は! ……ルアナがいたから」

「私が何よ。知ってる? 私、簪のISの制作を手伝っているけれど、自分から理論を出したところは全部間違っている理論を出しているのよ? 簪はそれに気付いているじゃない! ソレはアナタの力よ! どうしてそれに自信を持てないの!?」

「それでも! ……それでも、私は、お姉ちゃんに勝てないの…………」

 

 叫んだ事で、いいや、自分の内側に沈んだ濁り。ドロドロに溜まり込んだ感情。ソレをゆっくりと吐き出した簪は俯いて、強く拳を握った。耐えるように。

 

「姉がなんだ! じゃあ、簪は私に食べる速度で勝てるっていうの!?」

「それも……」

「私は簪に完敗よ! 簪程美味しいものを作れなければ、簪みたいに優しくもできない! 簪みたいに、簪みたいに相手を温かい気持ちにも出来すらしない!」

「ルアナ……」

「簪。誰もアナタにはなれないのよ! アナタも簪にしかなれないの! だから、自信を持って、胸を張りなさい! 見てない人間には言ってやりなさい! どうだ! 私は簪だ!」

 

 まるで月に叫ぶように、誰の為でもなく、簪の為に声を出しているルアナ。

 ソレはいつもの様に気怠い彼女の姿勢ではなくて、明るくて引っ張ってくれる様な印象を受ける。そんなルアナだ。

 けれども簪にはそれも、いつものルアナに見えてしまった。気怠くても、どれだけ「面倒だ面倒だ」と呟いていても結局手伝ってくれる、とても優しいと感じた親友。

 だからこそ、そんな親友が自分の性格を捨ててまで言ってのけたそんな(励まし)が嬉しかった。

 何度もわかろうとしたことを、何度も言ってくれる誰でもない親友。

 

「迷った時は助けを求めなさい。 シャルロットは、きっとアナタの力になってくれるわ」

「…………? ……ルアナは?」

「私は、死んじゃうもの」

 

 何事もなく吐き出された言葉。

 励ましも全て吹き飛ばされる程、簪にとって、ソレは重大だった。

 

「どうして、どうしてルアナが死なないといけないの!?」

「だって私だもの。言ったでしょ? 殺した人間が多すぎるのよ」

「でも、それでも! ルアナは私を」

「簪。ありがとう」

「――ッ」

 

 相変わらず背を向けているルアナは優しく礼を声に出した。簪は歯痒さに歯を食いしばった。

 既に浴衣の裾が海に浸かっているルアナは、またその足を踏み出す。

 

「ねえ、簪。頼みがあるのよ」

「……やだ、聞きたくない」

「そう言わないで、簪。アナタにしか頼めないの」

「やだ! それなら死なないでよ! ルアナ!」

「ソレは、難しいわ。きっと私は死んでしまうもの」

 

 諦めているように、ルアナは呟く。

 そして、嗚咽を少し漏らし始めた簪にルアナは苦笑してしまう。

――これ以上は、拙いか。

 これで、簪が前を向いてくれればいいと、ルアナは思う。これで、目の前に大きくそびえ立った姉という壁の前に自分を知る事が出来るかもしれない。

 そんな未来にルアナは心を躍らせてしまう。そこに自分がいなかったとしても、きっと壁を超えた時、姉と一緒に歩く事が出来る程、簪に自信が付いたならば……。

 

 

 

――あぁ、ソレは、とっても美味しそう

 

 上唇を舌で湿らせて、簪には決して向ける事の出来ない蕩けた顔を月と水面へと見せる。

 既に下着は下着としての意義を失ってしまっている。

 

「ねえ、簪。お願いよ……」

「……ひっく、やだよぉ……」

「私のお墓に美味しいお菓子を備えてくれないかしら?」

「……え?」

「あっ!」

 

 バシャン、と水面が弾ける。

 突然、よくわからないお願い事をされて、簪の脳は停止して、そして目の前でコケてしまったルアナを見て、簪の思考はそのまま停止してしまった。

 ルアナは滑った事で浴衣が濡れて肌に張り付いてしまっている。そして顔にはいつもどおりの仏頂面とジト目。

 そして、溜め息。

 

「……演技は、難しい」

「え、あ……あー!!」

 

 ようやっと、簪はルアナが先に言っていた事を思い出した。

 そう、コレは嘘なのである。どこから、どこまで、とは言わないけれど、それでも、ルアナの主張ではコレは嘘なのである。

 嘘と言われた「死にます宣言」にガチ泣きをしてしまった簪はその目を赤く腫らして叫んでしまった。

 目の周りを腫らしたついでとも言わんばかりに顔も真っ赤で耳も赤い。恥ずかしい。

 

 水浸しで肌が透けて見えているルアナも放置して、自分の恥ずかしさの余り全力疾走で花月荘へと戻っていく簪。

 海に腰を付けたルアナはそんな簪を見て、やはり溜め息を吐き出す。

 

「まったく……大丈夫かしら?」

 

 いいや、大丈夫だろう。きっと、彼女なら。

 そう考えを改めて、ルアナは何かを思い出して吹き出してしまった。

 

「ホント。どの口が言っていたのかしら」

 

 昼間に千冬と話していた事を思い出して笑いが出てきてしまった。

 クスクスと笑いながら、ルアナは立ち上がる。べったりと濡れた浴衣が肌にへばりついて体のラインをしっかりと見せている。

 

「さて、敵は殺すわ。それが何であっても、私は殺してあげる。そういう存在よ。そうよね、ルアナ」

 

 ルアナは誰にでもなく、月を見ながら呟いてクスリと笑顔を作る。そろそろ戻らなくては鬼が怒ってしまうだろう。

 怒った所で聞き流すだけなのだけれど。

 そしてきっと、その鬼の弟辺りがルアナの姿を見た瞬間に真っ赤になって「風呂に入ってこい!」なんて叫ぶのだろう。

 そんな近い未来を想像して、ルアナは苦笑してしまう。

 こんな世界も……と思ったところでルアナは首を振る。そしてニンマリと笑ってしまう。

 

 そんな世界、ルアナは望んでいないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 織斑一夏は少し凝った肩を揉みながら脱衣所へとやってきた。息を吐き出して、先ほどまで払っていた邪念が戻ってくるのを意識してしまう。

 

 柔らかかったな……。

 

 そう思ってしまうのは男のしての性なのだろう。

 セシリアにマッサージをした手をマジマジと見てしまい、その意識を振り払う。そしてセシリアのコリ具合からどうすればよかったのか、と改めて自身の技量向上の為に思考を飛ばす。

 

 浴衣をはだけて、下着を脱ぎ、しっかりと脱衣カゴへと畳んで入れる。

 タオルを持ち、あのこり方は……なんて思考しながらも風呂場へと入る事に成功した。

 

「ん?」

「ん……」

 

 風呂に浸かる紫銀が視界に映った。

 一夏は現実に戻ってきた。戻ってきて、その紫銀をマジマジと見てしまった。

 あれ?俺って男湯に入ったよな?

 と思わず自分の行動を思い出してみた。勿論、男湯に入った事は自分の記憶通りだ。間違いなどない。

 けれど、残念な事に非常に見覚えのあるこの紫銀の髪の存在は少女なのである。

 

 流石に男湯に入るだなんて世間知らずな事はしない筈……たぶん。いや、しないだろう……しないよな?

 

 と考え始めると逆に不安に感じてしまう一夏。

 そんな一夏を見て、ルアナはニタリと笑って風呂の縁石へと体重を掛ける。

 

「あらぁ、一夏じゃない」

「……バーネットか」

「悪いかしらぁ?」

 

 一夏は溜め息を吐き出して、面倒そうに近くに寄った。

 バーネットはニマニマとしながら縁石に腕を組んでその上に顎を乗せている。

 

「どうしてお前が出てるんだよ」

「だって温泉よ? 入らないと損じゃない」

「……ルアナはどうしたんだよ」

「何言ってるのよ、私がルアナ・バーネットよ」

「だから!」

「ほら、こんな温泉よ? 口喧嘩なんてツマラナイ事はやめましょうよ」

 

 広々とした温泉を見て一夏はもう一度溜め息を吐き出した。

 ニマニマと笑っているバーネットを見て、自分の気持ちを抑える。

 どうしようもない性格だけれど、自分に危害のないバーネットを攻撃することはない。

 バーネットを攻撃することはあっても、ソレはあくまでも正当防衛の時だけだ。それ以外で手を出すことは一夏はなかった。

 

 

 簡単に体を洗った一夏はバーネットから少し離れた場所から温泉へと体を浸ける。

 尤も、そんな事をお構いなしにバーネットはニマニマとして一夏へと接近するのだけれど。

 

「で、ここは男湯の筈だろ?」

「あら? 夜の時間は一部を除いて混浴になるのよ?」

「……マジか」

「さぁ、どうかしら?」

「そうなんだろうな」

「あら、あっさり信じるのね」

「お前がいるってことが証明だろ」

 

 なら聞かなくてよかったじゃない、とバーネットはブチブチと漏らしながら口を尖らせた。

 そんなバーネットの扱いになれている様に、一夏は温泉を楽しむ。

 湯気を吸い込み、体に染み込んでくる暖かさに身を預ける。そんな体に僅かに重みが付加されている。

 

「バーネット」

「何かしら?」

「乗るな。重い」

「あら、失礼ね。これでも体重は軽い方なのよ?」

「それでも、退いてくれ」

「興奮した?」

「しないよ」

「…………ふーん」

「なんだよ」

「いいえ、(べっつ)にぃ」

 

 やはりニマニマと笑いながらも一夏の膝から身を離したバーネットはすぃーっと一夏の横へと腰を下ろした。

 

「それで……なんの用なんだ?」

「あら? 用がないと私がいちゃダメなのかしら?」

「お前が突然来る時は何かしらの用事があるときだろ……」

「そう。じゃあ、言うけど。もう私に構わないで」

「は?」

 

 一夏の声が低くなる。そんな事もお構いなしにバーネットは口を開いていく。

 

「もう私に構わないで」

「嫌だね。俺はルアナを助けてやりたいんだよ」

「それを私は望んでないのよ」

「そりゃぁ、ルアナを助ければお前は消えちまうからな」

「そういう事じゃないの……一夏、少し落ち着きなさい」

「これが落ち着いてられるか!」

 

 一夏は立ち上がって声を荒げた。

 飛沫を浴びながらもバーネットはその視線を動かす事はない。

 そのまっすぐに自身を見る視線に一夏は思わず息を飲んでしまう。

 

「一夏。もう私に構うのはやめなさい」

「……無理だ」

「何度も言ってるでしょ。誰のせいでもない、私のせいよ」

「…………それでも、俺は」

「……私が干渉出来るのはココまで。あとは勝手にしなさい」

 

 ルアナは移動して立ち上がり、縁石に足を踏み出して温泉から体を全て出した。

 ヒヤリとした空気がバーネットの体を冷やしたが、未だに体の芯は温かい。

 ソレが果たして温泉か、それとも別の何かかは置いておいて。

 

「それと」

「……なんだよ」

「前ぐらい隠しなさい。別に粗末って訳じゃないけれど、年頃の女の子が目の前にいるんだから」

「なぁッ」

 

 バッと内股になり体を温泉へと漬け込んだ一夏はバーネットを睨んだ。

 その睨みを感じていてもバーネットは意地悪くクツクツと笑って背中を向けて脱衣所へと足を進めた。

 

 脱衣所の扉を開き、ルアナはゆっくりと息を吐き出して歯を食いしばった。

 流れ落ちた冷や汗を濡れたタオルで拭って、もう一度息を吐き出す。

 

「……これが、限界ね」

 

 あとはどうなるか。

 耐える様な呼吸ではなくて、溜め息にも似た息を吐き出してルアナは浴衣を纏った。




>>ルアナ
 忘れてると思いますけど、あの子は変態です。快楽戦闘者ですし、バトルジャンキーです。だからこそ、今から起こるだろう予想出来る「自分を殺す事象」に興奮しっぱなしです。
 変態。

>>簪ちゃん
 たぶん、コレで上手く動いてくれる筈。変に恨みのベクトルを自分とか一夏に向けなければいいのだけれど。

>>ワンサマー
 セシリアのマッサージ後。たぶん彼はコレでも……いや、まあテンプレテンプレ。

>>温泉
 バーネットを出したのは、たぶんルアナだと一夏が逃げ出すから。だからこそバーネットを選択して演じた。

>>……ふーん(ニマニマ
 ハッキリ言えば、対×座位の体制だったので、お察し。

>>粗末ではない
 ナニとは言いませんよ。そう、きっと筋肉的な……力を入れると動くし、硬くなるし。うん、間違ってはいない!

>>

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