前々回の模擬戦を書いている前にコレを書いていたなんて絶対に言えない。
ラウラ起床まであたりまでノリノリで書いていたなんて絶対に言わないんだからね!
2014/03/22
誤字訂正
修学旅行→臨海学校
間違いを起こした書き手に慈悲の心をば
織斑一夏はその日、随分と素晴らしい目覚めを迎えた。
それこそ、新婚さんのように、
「おはよう、あなた」
「おはよう、おまえ」
みたいなそんな素晴らしい目覚め……とは少しばかり言い難いが、ともかくとして織斑一夏は鳥の小さな鳴き声と程よい温かさを感じて目が覚めた。
「ん……ぅう……?」
まずは違和感を覚えた。これほど素晴らしい目覚めを自分が味わえる訳がない。それこそ、ルアナが織斑家に居候を初めてから数ヵ月の暮らしではないのだ。
いいや、あの時はルアナ自身に恥じらいというモノがなかったのだ。今もあるかどうかと問われれば一夏は解答に困ってしまうのだが……。
次第に意識が浮上していく。
そして腕を動かした所でようやく違和感が疑問へと変わっていく。
まずは手触りの良さだ。シーツの柔らかさではなく、しっとりとしている様な、フニリと弾力があり、そして内側に確かな硬さを持っている。
まるで絹糸の様な何かもある。指で梳けば合間から逃げ、艶やかな糸の付け根を辿れば抱きかかえれる程度の大きさの何か。
呼吸をすれば甘い匂いが鼻を擽ぐる。
これは、ルアナの匂いじゃないな。
そう一夏は分析する。分析、というよりは慣れ親しんだソレではないと判断しただけだ。
布団の隙間から漏れるミルク系というか、スッキリとしたそんな匂いではなく、もっと濃い……それこそバターの様に……
と考えた所で一夏は瞼を開いて、ゆっくりと布団を捲った。
銀色の髪。白い肌。規則正しい寝息。
以上が一夏の五感で手に入れた最大限の情報だ。性別が逆ならば叫んだだろう。だけれど生憎な事に一夏は男で他人の布団に勝手に侵入して眠っているこの不届き者は女の子なのだ。
一夏はとりあえず、布団を捲るのをやめた。ゆっくりと布団を戻して、溜め息を吐き出した。
頭を抱えて、自らが男であることをとりあえず呪った。呪うしかなかった。頭の中で因数分解と素数とIS理論を最大限思い出して、一夏は落ち着いた。一夏は落ち着いて、一夏を落ち着けた。
いくら自身の布団に夜這いをしてきたこの不届き者が自身の事を「嫁」と言っていたとしても、流石にマズい。パッと見た身体年齢的にヤバい。
落ち着いたついでに不届き者を起こさない様に布団から脱出を試みる。幸い、不届き者は一夏に触れてはいるが抱きついてはいないのだ。
まずは片足を抜いた。そのまま逆の足を抜いて、一息。迅速にベッドからの脱出を実行。
一夏がベッドの脱出を完了して一息吐いた所で不届き者の目が覚める。
「んぅ……なんだ……? 朝か……」
せっかく一夏は頑張って布団から脱出したが、ソレも意味を成さない様に不届き者はベッドのど真ん中に座り、腕を伸ばして伸びをする。勿論、シーツは腿辺りで広がっているだけで肩になど引っかかってさえいない。
その白い肌も、慎ましい胸も、隠れてなどいないのだ。しいて言うなら局部はかろうじてシーツが守っているし、眼帯によって鉄壁の守備を見せている左目も隠れている。
一夏は頭を抱えた。抱えてから、寝間着の上着を脱ぎ捨てた。勿論、そのまま某有名怪盗の三代目よろしくのジャンプをする訳ではない。
「おはよう」
「服を着ろ!!」
「ぶァ、何をする」
「なんで全裸で寝てるんだよ! 驚いたよ! あぁそりゃぁもう驚いたね! 思わず思考停止に陥ったわ!」
「状況判断能力がまだ足りない様だな」
フフンと鼻を鳴らしたラウラに対して一夏はとりあえず分かりやすい様に溜め息を吐き出した。頭の中で過去を思い出し、どうやって服を着せるかを迷う。
とりあえず上着を投げた事で一夏は上半身裸だが、目の前の少女が肌を晒しているよりはマシだ。
と一夏は思っているが、大概である。
自身の寝間着を異性に着せて、尚且つ自身の上半身は裸なのだ。そういう趣味の人にしか見えない。速報、一夏はホモではなかった。
「いいからソレ着とけ」
「おかしな事を言う。夫婦とは包み隠さぬ物なのだろう?」
「いいか? どんなプレゼントだって中身が見えちゃ楽しみがなくなるだろ。その時まで大事に隠していざという時に見える方が人間嬉しいんだよ」
「? よくわからないな」
「…………相手を落とすのに武器があって、ソレは必殺の時まで隠すだろ?」
「ああ、そうだな」
「そういうことだ。その武器がお前の肌だ。今は隠してくれ」
「なるほど……難しい物だな」
唸りながらもいそいそと一夏の服を着るラウラ。一夏は安堵の息を吐き出して、ようやく思考を落ち着ける。
目が覚めたばかりで頭が回らないこともあるが、一夏にしてみればコレは日常に近かったのだ。仕出かした存在がラウラに代わってだけだ。
頭を抱えつつ、背筋に嫌な感触が走る。背にある扉に何かを感じ、慌てて扉へと向かう。
「一夏、起きて――」
「まて、箒。今は着替えている途中だ」
「ッ、それはすまなかった」
なんとか扉は開かれずに済んだ。寝呆けからは既に開放されているし、珍しく自らの危険は察知できた。
僅かに開かれた扉を一夏は締めようとする。
「うん? 誰か来たのか?」
「…………」
一夏の気持ちを代弁するのなら。なぜ今喋った。である。
ドアノブに加わる力が増えていく。扉の向こう側から得も知れぬ威圧感が伝わってくる。
「ほう、着替え中?」
「まて箒。話せば分かる」
「なんだ篠ノ之か」
「ラウラ、お前は喋るな」
「……――そうか……」
扉に掛かる力が突然無くなる。扉を完全に閉めることが出来て一夏は少し安堵した。
自身の目の前に木刀の刀身が現れるまでは。
扉をしっかりと貫いて現れたソレ。少しズレれば確実に織斑一夏の脳天も一緒に貫いていたことだろう。実に惜しい。
「ヒィッ!?」
「む、外したか。安心しろ。次は外さん」
「待て、待ってくれ、箒。俺の話を聞いてくれ」
「聞く耳持たん。死ね」
木刀を避けた事で尻餅を着いてしまった一夏。その音と同時に開かれる扉。廊下でゆらりとまるで幽鬼のように前髪が垂れている武士の怨霊。今の彼女なら皿を数えていても不思議ではない。
「まあ、少し落ち着け篠ノ之」
そんな幽鬼に対して大した勇気も持たずに話しかけたのは主な原因であるラウラ・ボーデヴィッヒだ。
そのラウラをキッと睨みつけ、怒りに色付けされた声を出す。
「誰の所為だと思っている!?」
「……お前だろう?」
「何を!?」
ラウラからすれば嫁と呼んでいる存在の元に突然やってきた死者、失礼、刺客だ。それが朝も早くからキャンキャンと喚いているのだ。
追加で言うならば、行動を起こしたのはラウラであり、ソレが気に食わないならラウラに対して怒ればいい。その怒りが一夏に向いている事がラウラにとって意味が分からなかった。行動をしない人間が悪いという主張である。
対して箒からすれば一夏が不純異性行為を働いていると思っているのだ。箒の思想からするならば、それは圧倒的に男性が悪いのだ。
付け加え、自身は行動しなかったというのに、ラウラ・ボーデヴィッヒは行動したのだ。ソレはそれで箒にとって許せる事ではなかった。相手を待つという素晴らしき心である。
「待て、二人共」
「一夏は黙っていろ!」
「嫁は黙っていてくれ」
あ、ハイ。一夏は三角座りで床に座った。上半身は未だに裸のままである。
一夏からすれば、何がなんだかわからない状況である。
箒が怒っている理由は、まあ、わかる。長い付き合いの中で彼女が男女の交友に関して厳しいという事は知っていたし今回のラウラの行動はソレの琴線に容易く触れる事だろう。
ついでに自身が隠した事も悪いのだ。
ラウラからすればどうせ行動自体を悪いと思っていないのだ。ソレを怒った所でラウラからすればさっぱり分からないだろう。
思考を纏めた所で一夏はチラリと時計を見る。
ふむ、と一息吐いた所でおずおずと手を上げて口を開く。
「あー、箒さん、箒さん」
「なんだ、馬鹿一夏」
「馬鹿とは、いや、今はいいか。今日は買い物に行くんだろ?」
「……ああ、その為に迎えに来たというのにお前という奴は」
「なら時間は長い方がいいよな?」
「あ、ああ」
「俺もすぐ着替えるから……えっと、別々に出るんだったか?」
「そ、そうだな」
「俺も着替えてすぐに行くから、待ち合わせ場所で集合だな。という事で着替えるんだが、俺だって恥じらいっていうものがあってだな」
「ッ、スマン!」
バタンッ。と盛大に音を立てて閉じられた扉。この一時間足らずでこの扉のライフはかなり削られた事だろう。物理的に削られている部分があるから扉としての機能は既になくなっているが。
一夏は息を吐いてうまくいったことに安堵する。これで遅れればさらに騒がれるのだから、早く着替えなくてはいけない。
「…………」
「どうしたラウラ。というかお前も出て行けよ。俺に肉体美とか求めても無駄だぞ」
「いや、随分と手馴れているな」
「何がだよ」
「篠ノ之の扱いだ」
「扱いって……」
一夏は苦笑しながらタンスへと向かう。引き出しを開き、顎に手を置きながら今日の服装を頭の中で決めていく。
「箒の事はずっと知ってたからなぁ。貞操観念が強いって知ってるから別の話題にすり替えただけさ」
「それを手馴れているというんだ」
「そうか? 昔にルアナの話題を回避する為に色々頭を捻ったからか」
「ルアナ・バーネットか」
「そう、ルアナ。 中学の頃は酷くてさ。見た目は可愛いからアイツの話を聞いてくる男が大量に居てな。それで俺が自慢げに話してたらアイツが急に『面倒を増やすな』とか言い出してさ」
「…………」
「で、いつの間にか話のすり替えとかを覚えるようになって……っても、普段に役立ってはないんだけどな。問題を先送りにするだけだし」
服装が決まったのか一夏はタンスの中から何枚かの服を選び出し、それをベッドの上に乗せていく。そして一言、よし、と漏らしてソレを着ていく。
「嫁は……」
「ん?」
「アイツの事が好きなのか?」
「アイツってルアナのことか?」
「ああ」
「あー……好きってのとはちょっと違うと思う。いや、好きなんだけどさ。なんていうか、うーん」
シャツを羽織ったところで一夏は唸ってしまう。
それだけ想っている相手に殺されるというのは、何があるのだろうか。ラウラはバーネットに言われていた事を一夏に告げる事を躊躇する。
当然、というのもおかしいのだが、一夏からすればバーネットが自身を殺そうとしているのは当たり前の事であるから、言われたところで苦笑するしかないのだ。
「織斑一夏」
「ん? なんだ」
「……ルアナ・バーネットは警戒しておくべきだ」
ラウラに言えるのは、ラウラが関与できるのはココまでだ。一夏をルアナに殺されない為に、ルアナを信頼しきっている一夏に言える事はここまでだ。
そんなラウラの言葉に一夏はキョトンとしてしまった。そして、頭の中で色々と可能性を導き出して、バーネットがラウラに何かを言ったのだと予想を付ける。
「俺は大丈夫だよ。ありがとな」
そう言って一夏はラウラの頭に手を置いた。そのまま寝癖の付いている髪をグシャグシャと撫でてやった。
ラウラは撫でられながら一夏を見た。どこか自傷的で、何かを耐えているかの様な笑顔。その何かをラウラは察することができなかった。いいや、ラウラ以外であっても、当事者である人間達を除けば分からないだろう。
少なからず、この力不足の男をラウラは支えてやらなければいけないと感じてしまった。
「…………嫁」
「なんだ? というか嫁はやめてくれ」
「嫁は私が守ってやる!」
「いや、なんでそうなった」
撫でていた手をそのまま垂直にしてラウラをチョップした一夏。チョップされてなおドヤ顔でフンスと鼻息を吹き出して一夏を守る宣言を撤回しないラウラ。
一夏はため息を吐き出して、やはり自傷気味に言う。
「俺なんか、守らなくてもいいさ」
「弱い人間を守るのは軍属として当然の勤めだ」
「……お前は無意識に痛いところを突っついてくるな……」
「ん?」
「いや、なんでもない。 というか、出て行ってくれないと下の履き替えができないんだが?」
「どうしてだ?」
「そりゃ、あれだ。俺にだって恥じらいはあるんだよ」
「夫婦なのに恥じらう仲なのか?」
「……いいか、ラウラ。嫁という存在はな、時に理不尽を言う存在なんだ。夫としてその理不尽をきかなくてはいけない時があるんだ」
「そういうモノなのか?」
「そういうものだ。俺は嫁でもないが、お前が俺の事を嫁というならそういう配慮もしてくれ」
「……むぅ、納得できん」
「世界の旦那様方はみんなそう思ってるよ」
肩を竦めた一夏を見てラウラは渋々と退室する。完全に扉が閉まってから一夏は溜め息を吐き出す。
肩を落として、朝も早くから溜まってしまった疲労を吐き出し、首をコキリと鳴らした。
「本当に、守られるなんて勘弁して欲しいんだけどな……」
今一度溜め息を吐き出して一夏は頭を掻く。
時計を確認して、そろそろ時間が危うい事に気づいた一夏はズボンを履き替える。
単なる買い物なのだ。目的は臨海学校で使う水着を買いに行くことだろう。
「ん?」
臨海学校で水着か。と一夏が止まる。別に女の子に囲まれてキャッキャッウフフを想像している訳では無い。そんな事を考えれる性欲があるのなら今日の一件は未遂では無くなっていただろう。
「ルアナのやつ、水着は持ってたかな」
いいや、持ってないだろう。変なところで用意のいい彼女だが、こういう事に関しては無頓着だった筈だ。
仕方ない、誘ってやるか。
溜め息を吐き出して、
>>安心しろ、次は外さん
直訳:苦しみも知らずに逝け
>>動くラウラと動かない箒
胸部装甲の違いが決定的な機動力の差でないことは証明できない。無念
>>オカタイ篠ノ之さん
貞操観念は素晴らしい……と言ってしまえば聞こえはいい
>>扉
扉「私、この部屋の主を守る為に精一杯働くんだ……! それでいっぱい褒めてもらうんだ……!」
>>無意識での依存
ルアナの為、と言っているだけ
>>一夏から自然と出てくるルアナの話題
お察し
>>オサレ一夏
ルアナの教育?の賜物
>>中学時代のルアナ
見た目に騙された男達が大量に発生。ルアナの性格上、男子を(物理的に)泣かせる事が多かったので数ヵ月後には各人遠のいた模様。鈴音や一夏に関していた友達は一夏が引き止めたようで
>>理不尽嫁の対処方法
あるわけが無い。