私が殺した彼女の話   作:猫毛布

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99.未来開華

 柄を握り締める腕ごと弾かれ火花が散る。

 一夏は息を飲み込み、深い青の瞳が冷たく自身を見つめている事を認識した。同時に世界から色が取り除かれる。ハイパーセンサーで確認しようと、世界は白と黒。ソレの混ざり合った灰色しか存在していない。

 けれどどうだ。目の前の存在は肌色と淡い緑色、そして深い青を保有している。

 向いている銃口を逸らし射線から自分を外した所で世界に色は戻る。腕で振り払うように逸らした筈の銃口がまるでそんな事実が無かった様に一夏の仮面に突きつけられた。

 ハンマーがゆっくりと落ちる。身体を後ろに倒す事で弾丸を回避した一夏を地面に向かって踏み、一夏に向かい合う。

 地面が背中に、空を前した一夏は蹴られた腹を庇う事もせずにルアナへと向き合う。

 

「さっさと死んでしまってもいいのよ?」

 

 ルアナがシリンダーから空の薬莢を落としながら言葉を漏らす。中身の詰まった弾丸を一つずつ丁寧に入れ、全て埋まった所でシリンダーを元に戻し、ホルスターへと銃を収めた。

 ルアナの問いに一夏は応える事は無い。ルアナの問いなど耳に入っていない。頭の中はどうすれば相手を斬る事が出来るのかでいっぱいだ。

 仮面の奥でコチラを睨んでいるだろう一夏を想像してルアナは溜め息を一つ漏らす。

 

「ねぇ、一夏。アナタには世界がどうやって見えているのかしら?」

 

 ルアナの声が一夏の鼓膜を揺らした。

 世界? 世界だって? この何も無い世界がどうしたというのだ。一人の少女の命を弄んだ自分の世界だ。全てを捨て去っても、守ると決意した世界だ。だからこそ、一夏はその白と黒の世界の事を享受した。

 故に、ルアナにとってソレが堪らなく気に食わなかった。

 

「こうしてアナタと戦ってようやく理解したわ……。アナタの世界はきっと誰も居なくて、寂しい世界なのね」

「……さい」

「誰も存在しないから、アナタを責める人が居ない。あの日から全部に怯えて、全部を拒絶して、それをまるで自分の罰の様に」

「うるさい」

「誰もアナタを恨んでない。誰もアナタを責めない」

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい! お前に、バーネットに何が分かる! ルアナから全てを奪った俺の、ルアナの全てを狂わせた俺の何が分かる!」

「……分かるわよ。だって私はルアナ・バーネットだもの」

「違う! お前は、」

「いい加減に認めなさい! そうやって逃げているから、そうやって私の言葉から隠れて一生を過ごす気ッ!?」

「黙れだまれダマれ黙レ!」

 

 仮面に赤い光が激しく明滅する。ルアナの言葉を認めない様に、拒絶するようにバーニアに灯が点った。光の輪を残し一夏は加速して刀を我武者羅に振りかぶる。

 

「そうやって世界から逃げて、否定して、拒絶して……私はどうやってアナタに恩を返せばいいのよ」

「ウルサイ! ルアナは、ルアナはそんな事を言ワナイ!」

「いいえ、私が、ルアナ・バーネットが……」

 

 振りかぶられた刀が振り下ろされ刃がナイフへと当たる。極光の飛沫が散ったが、刃はソコで停止している。

 

「アナタがくれた名前(せかい)を持つ私が言うわ。

 

 

 

 ありがとう、一夏」

 

 刃はナイフを容易く両断し、ルアナのバーニアが一瞬だけ光り、その光が失われる。

 たった一瞬、ルアナの動きが完全に停止した。起こされていたISの動作も全て中断された。その一瞬、その一瞬だけあれば終わった事なのだ。

 回避不能。ISを終わらせる極光の刃。導き出される答えのなんと簡易な事か。

 一夏の刀が鈍れば、いいや、そんな事はありえない。IS(・・)で操作している限り、そんな事はありえる訳が無い。

 ルアナは舌打ちもせずに、顔を逸らし、極光の刃に銃を向ける。引き金を絞り、放たれた弾丸が柄へと吸い込まれた。それでも刃は止まらない。銃を手放し、右手を極光へと押し当てる。刃を掴み、肉を裂かれながら軌道を体から肩へと逃がした。

 

 力なくルアナから離れた右腕がAICの制御から離れて地面へと落下していく。溢れ出る赤い液体を抑える事もなく、ルアナは折れたナイフを握った左手を振るう。

 振るったナイフの端が仮面へと当たり、仮面を弾き飛ばす。

 紫銀と空、そして青の瞳を肉眼で見た一夏は今にも泣きそうな程顔を歪ませていた。

 ルアナはそんな情けない顔の一夏に苦笑を浮かべた。

 ナイフを手放し、宙から、虚空から粒子を集中させて鈍色に輝くリボルバーの拳銃を取り出したルアナはその銃口を一夏へと向ける。

 

「おやすみなさい、一夏」

 

 ハンマーが振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 織斑一夏は目を開く。

 そこは水底だった。自らが進んで沈んだ場所。その水底から見上げても、世界は暗かった。

 ゆっくりと腕を上げようとしても上がらず。足を動かそうとしても動かない。

 誰も居ない。

 

『お前が望んだ事だろう』

 

 白い騎士が一夏に話しかけた。まるでずっとソコに在ったように。当然の様に一夏へと声を掛けた。

 その言葉に一夏は否定もしなかった。力を望んだ。一番力が手に入る方法を選び、溺れた。

 確かに、憧れていたルアナに一撃を見舞う事は出来た。けれどソレまでだった。だからと言って、一夏はこれ以上の力を望もうとは思わなかった。

 決して諦めたという訳ではない。どうしていいか分からなくなった。

 どうして力を手に入れたのか。どうして力を求めたのか。

 いつの間にか手段が目的になっていた。目的は単なる結果になっていた。

 

 それでは、いけないのだ。

 

 殺す為に守るのではない。守る為に戦うのだ。

 

『じゃあ、守る為にはどうすればいいの?』

「……それは、これから決めるよ」

 

 白い少女は一夏の隣で問いかけた。

 やはり一夏は情けない顔をして、答える。

 ずっと許されないと思っていた。いいや、自分自身が許す事がなかった。

 だからこそ、ルアナの存在を二重に捕らえた。ルアナの存在も否定した。

 一番ルアナを見ていなかった存在は自分だ。

 自分を許せない理由をルアナに押し付けて、ただただ逃げていた。

 

「でも、それじゃあダメだったんだよな」

 

 世界を見なくて言いように、仮面を被り。ルアナを直接見ないように偽って。言葉が怖くて。自分のしている事の全てがルアナの為だと、力を得たのはルアナの為だと理由を付けて。

 水底に光が照らされる。

 揺らめく海面に歪んだ光を見上げて一夏は息を吐き出した。

 

『行くのか?』

「おう」

『きっと楽しくないよ?』

「知ってるよ」

 

 白い騎士と少女を見ながら一夏は情けない笑みを浮かべる。

 

「でも、世界はきっと俺が知ってるよりもっと綺麗なんだ。だから、頼むぜ、相棒」

『仕方ない』

『一緒に行こ!』

 

 水底が光に照らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 ルアナ・バーネットは右肩を抑えて溢れ出るソレに粒子を纏わせた。止血はなんとか出来た。けれど、もう永く保つ事はないだろう。

 幸か不幸か、痛みを耐える事には慣れていた。冷や汗を流しながら、細く息を吐き出して一夏を見る。

 まるで自分を守る様に白い球に包まれた一夏。包まれて数秒程でソレがゆっくりと花開く。

 煌びやかな白。何にも染まる事の無い白の花。その中心には同じ純白の鎧に包まれた織斑一夏が立っていた。

 仮面は被って折らず、腰には鞘が二本。変わらずも大きめのバーニアを背負い、刺々しかった手はスリムに変化していた。

 黒い瞳がゆっくりと世界を捉えた。

 

「ははっ」

 

 笑いが零れる。その笑いにルアナは苦笑する。

 

「おはよう、一夏」

「おはよう、ルアナ。待たせたか?」

「……ええ。何年も待ったわ」

「そっか……なあルアナ」

「何かしら?」

「お前の事が好きだ」

「そう。私も好きよ」

「そっか」

 

 一夏は刀を抜いた。一振りに刃は存在しない。鍔と柄だけの刀。その刀から極光が現れる。しっかりと形の保った刃。

 もう一振りには刃があった。脇差とも言える長さのソレは刃に溝が彫られ、白い光がゆっくりと、けれど確りと明滅する。

 

「悪いな、ルアナ。加減出来そうにない」

「いいのよ、一夏。アナタに私は捉えられないもの。ねえ、一夏」

「なんだ?」

「この世界は……アナタがくれた世界はとっても綺麗だわ」

「そっか……それはよかった」

 

 ルアナが銃を構える。銃口は一夏へと向いている。

 

「ねえ一夏」

「ん?」

「私、アナタを殺して自分だけのモノにしたいわ」

「奇遇だな。俺もルアナを自分だけのモノにしたいんだ」

「残念だったわね」

「ああ、そっちもな」

 

 互いにニヤリと笑い、動き出す。

 ルアナへと高速で迫る一夏。先ほどまでの速度は無いが狙いを散らすように軌跡を描く。その移動を目で追いながらルアナは何度か撃鉄を落とす。

 迫った銃弾を容易く切り落とした一夏はそのままの速度を保持してルアナへと斬りかかる。ルアナも銃を手放しナイフへと持ち替える。

 

「ルアナァァ!」

「一夏ァ!」

 

 二刀による乱撃。ソレをナイフ一本と蹴りで器用に防ぎながら攻撃も交える。

 一夏の頬に赤い線が入るが、ソレも意に介さないように乱撃が続く。

 片腕であろうと、ルアナの経験が変化する訳でもない。そもそも宙であるという意識が存在する一夏では正しく攻撃する事など不可能だ。

 一夏の戦闘方法は剣道に近しい剣術だ。だからこそ地面でこそその力を発揮し、十全に扱えるのだ。けれど、今の一夏は宙にいる。踏み込みすら出来ない場所だ。刀を振るえば体が開く。隙が出来る。

 故に一夏は濃密なこの戦闘でその才覚を発揮した。たった一度、その一度だけに掛ける為に一夏は体を開いて隙を見せた。

 

 隙を敏感に察知したルアナはただただ嬉しかった。

 自分と同等に戦える事ではない。一夏がようやく自分を見てくれて、そして自分と向かい合っているのだ。ルアナにとってこれほど嬉しい事は無い。

 怒りや恨みに任せた力を捨てて、今一度力に向き合い、そして答えを模索している。

 自分とは決して違う道。一夏に選ばせようと計画していた力。もっとゆっくりと熟成させて、何にも関与されずに戦うつもりだったけれどもう(・・)そんな事(・・・・)どうでもいい!

 

「ああ、一夏! とっても美味しそう(・・・・・)よ!」

「ありがと、よっ!」

 

 魅せた隙に食いついたルアナに対して一夏は踏み込んだ(・・・・・)。宙を踏みしめ、足裏に備えられたバーニアを吹かせ、まるで地面にいる様に、踏み込みをした。

 鞘と柄の間から極光が溢れる。体を畳み、小さくその場で捻じり、脇差が引き抜かれる。

 溢れる極光のなんと美しいことか。刀に走る彫りに巡る極光のなんと煌びやかな事か。

 鞘を走り抜け、極光に染まった刃がルアナへと向けられる。けれどルアナに驚愕は無い。絶望も。ただただ嬉しいという感情がルアナを支配していた。

 

「ああ、本当に、予想以上」

 

――でも、勝つのは私。

 

 振られている腕を掴み、振りに従い刃を回避する。腕をそのまま掴みながら一夏の背中へと回り込み、背中を合わせる。絡め取られた腕は振り払えない。

 ルアナは空を向き、仰向けのまま空を蹴り飛ばす。バーニアにより急加速し、地面へと向かう。

 

 隕石でも衝突したのかと思う程の震動、轟音。高く上る土煙からルアナは飛び出し、地面へと着地した。

 変則的なイズナ落とし。ルアナは右肩を抑えて息を吐き出す。頭の中で自身のエネルギーの残量を確認して、間に合った事に安堵した。

 

「私の勝ちね」

 

 一言だけ述べて、ルアナは土煙が晴れるのを待った。風が吹き、土煙が晴れていく。

 そこには装甲が幾らか剥がれ落ち、ボロボロであるが立っている織斑一夏がいた。その手にはリボルバーの拳銃が握られている。

 

「ああ、俺の勝ちだ」

 

 撃鉄は振り下ろされた

 吐き出された弾丸は螺旋の軌跡を描きながら、ルアナの眉間へと吸い込まれていく。

 膝が崩れ、腕が力なく落ちる。顔にはやはり笑顔が浮かんでいた。

 

 ドサリとルアナが倒れた。

 息を吐き出して、体を脱力した一夏。

 

「疲れたぁ……」

 

 流れ出る汗を拭い、一歩前へと進む。

 

「ルアナはやっぱり強いなぁ」

 

 一夏の問いかけにルアナは答えない。擬似ISであるルアナだからこそ一夏は本気を出せた。同時にルアナの望みを叶えることも出来た。

 

「おーい、ルアナ?」

『congratulation!! おめでとういっくん! 私は君に賞賛の言葉を送ろう』

「束さん。そうだ、ルアナを人間にしてくれるんだろ?」

『ん? ああ、そうだった。いっくんにはそうとしか言ってなかったね!』

「……は?」

『君の目の前にあるソレは正しく人間だよ!』

 

 何を、言っている?

 一夏には理解出来なかった。理解などしたくなかった。

 ゆっくりと、結ばれた紐が解かれる様に、一夏の脳内で答えが導き出される。

 

 どうしてルアナは腕を再生しなかった?

 どうしてルアナの腕から血が溢れている?

 どうしてルアナは起き上がらない?

 

「ああ、あああああ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

『アッハッハッ。いいね、いいよ。ふふ、さあ、彼女をヒトにしてあげよう!』

「待て、やめてくれ、止めろ」

 

 一夏は直感した。束が何をやるか、という事は理解できていなかったけれど、それでも束がこれ以上の何かをする事だけは理解出来た。

 ルアナの体から淡い緑の粒子が溢れる。

 その体を構成している全てを分解するように、まるでその一つ一つが命の様に。

 ソレが【白式】へと入り込む。純白である【白式】。その彫りに染み込む様に、淡い緑色の粒子が流れる。

 奔流。激流とも言えるソレが一夏の視界から消えて、そして同時にソレはルアナ・バーネットという存在の消失を意味していた。

 

「ルアナ……? おい、ルアナ?」

『これで彼女は人間に成りました! アッハッハッ! おめでとういっくん! 彼女は君だけのモノになったよ!』

「ああああああ……」

『ほら、もっと喜びなよ! せっかく彼女が私に認識されて然るべき人間に成った事に! 君だけのモノに成った事に!』

「束……たばねぇ!!」

『あっは! いいよ! 凄いエネルギーだ! やっぱり私の理論はあってたんだね!』

「殺してやる! 殺す! 絶対に!」

 

 【白式】がその色を染め、抜かれてもいない刀達がカタカタと揺れて反応を示している。

 

「はいはーい、お待ちなさいな」

 

 ぱんぱん、と乾いた音が響く。

 一夏は怒りの形相のままソチラを振り向いた。白髪。赤い瞳。その差異はあるものの、確かにソレは存在していた。

 

「るあ……な?」

「織斑一夏。この通り無事なのだから、怒りを静めなさい」

「どうし」

『……あっはっ! なるほど、君達が言っていたのはコレか!』

「ええ。どうかしら?」

『なるほど。なるほど。確かに同等、いいやそれ以上かも知れないねぇ』

「ルアナ、何の話をしてるんだ?」

「そうね。ドッキリ成功って看板はいるかしら?」

 

 質が悪い。一夏はそう思った。思うほかなかった。

 ケラケラと笑っているルアナは両腕もあるし、眉間に穴も空いてない。

 

「でも、なんでそんな格好なんだ?」

「……予備電源みたいなモノよ。織斑一夏が成長する為の、ね」

「なんだよそれぇ……」

「アハッ。まだまだですね」

 

 ケラケラと笑うルアナは真紅の粒子をあふれ出しながら、血はコレで代用したんですよー、などと説明も入れている。

 一夏は脱力した。今度こそ腰が抜けた。

 

「さて、ワタクシ……えー、私は旅にでも出るわ」

「は?」

「織斑一夏に斬られた事で擬似ISではなくなりましたし、この学園にいる権利が消失したのよ」

「そうなのか?」

「ええ。 だから、少しだけその銃を預かっておきなさい。ルアナ・バーネットが帰ってこれるように」

「どういう事だ?」

「よく映画でロケットを預けるでしょう?」

 

 肩を竦めてルアナは「そういう事よ」と付け加えた。

 

 

 

 

 

 

 

 一時間程して、束が千冬にしこたま怒られるという出来事があったが、防音室で行なわれたソレが如何様なモノであるか知る由もない。どうしてか説教していた筈の千冬が疲れていて、説教を受けていた束がニヘラとだらしない笑みを浮かべていたのは謎でしかない。

 

 そんな中、白髪赤眼のルアナ・バーネットは細く息を吐き出していた。

 鏡を確認して、ふむ、と一言唸ってからポージング。色々な角度から自分を確認してニヤける。

 わざとらしく、おっと、と声を出して部屋から出る準備をする。幸いな事に荷物は少ないようだ。

 

 ルアナが部屋を出る為に扉を開けようとすれば、勝手に扉が開き、目の前に更識簪が立っていた。

 

「あ、」

「げっ」

 

 あ、と漏らした簪に対して、今は会いたくなかったと言わんばかりの声を漏らしたルアナ。

 その声に眉間を寄せた簪はルアナの頭から足先までを見つめ、驚いて声を上げそうになった。

 

「はい、待ちましょうね」

 

 けれどその口はルアナによって塞がれ、むぐむぐと声にならない音が溢れた。

 部屋に連れ去られて、しっかりと扉が閉められてようやく解放された簪は今一度、白髪赤眼のルアナを見た。

 何か、言われる前にルアナは口を開いた。

 

「全部は言えません」

「……」

 

 たったソレだけの言葉だったのに、どうしてか簪は納得してしまった。

 涙が溢れて、嗚咽がもれそうにもなった。

 ソレを見て白髪赤眼のルアナはただただ羨ましく感じてしまう。

 

「伝言を預かってます」

「……うん」

「簪の言う、綺麗な世界を下見してくる。迎えに行く」

「……わか、った」

 

 ルアナは黙って扉を潜り、扉を閉めた。

 

「…………本当に、羨ましい限りです。アァ。お姉様にこれほど思われるなんて」

 

 ああ、羨ましい羨ましい。

 そう何度も繰り返して、廊下を歩いて消えた。


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