「助けてくれ、ルアナ」
「やだ」
「グハッ」
そんな一夏を目の前にしてジト目で見ている紫銀の髪の少女、名前をルアナ・バーネット。
そして机には電話帳と見紛う参考書が鎮座している。
ルアナの手によって淹れられた珈琲が二つ湯気を立て、参考書を挟む形で二人は向かい合って座っている。
「ルアナ。困ってるんだ」
「その程度自分の力でどうにかすべき」
「そうだけど……」
「むしろ電話帳を棄てるが如く雑誌類と一緒に纏められていたソレを救った私に感謝すべき」
「それは……ありがとう」
「どういたしまして。なら、頑張って勉強」
「……はい」
数分に至る戦いは幕を落として、観念した様に一夏は参考書のページを開いた。
書かれているのはIS、インフィニット・ストラトスという機械に関して。女性にしか扱えないマルチフォーム・スーツであり、現在は製作者の意図なんてそっちのけで軍事転用されていたり、国家代表として戦わせたりされている。
そんな女性しか扱えないISの勉強を男性である一夏がどうしてしているのか。決して彼が好き好んで、女の子を触るために技術者としての道を開こうとしている訳ではない。勿論、不順な動機を無くしたとしてもだ。
『――では、男性で初のIS操縦者である織斑一夏さんの会見をもう一度!』
『ハ、ハハ……どうも』
とテレビに写っているなんとも引き攣った笑みを浮かべている織斑一夏。そしてルアナの前で熱心に頭を働かせている織斑一夏。
同姓同名の他人であったなら何程よかったのだろう。ルアナは溜め息を吐かずに思った。
男性で初めてISを動かした、いいや、動かしてしまった織斑一夏はこうしてIS専門学校であるIS学園に入学を余儀なくされ、そして勉強も余儀なくされたのだった。
「ルアナ……」
「珈琲のおかわりなら言う事聞く。それ以外なら黙って参考書を読み直す」
「はぃ……」
なんともしっかりとした力関係だった。
ルアナのパッチリと開いた海の様な深い青色の瞳がテレビを写し込む。
そこには頼りない一夏が相変わらず引き攣った笑みを浮かべていて、迫る質問を無難に回答していく姿が映っている。
「ルアナ
「……」
「スイマセンデシタ」
「うん」
ジト目で数秒見てやれば一夏は観念したようにまた参考書に目を落とした。
テレビが一夏の事を放送するのをやめると同時にルアナはテレビを消した。
その事で一夏が消えたテレビを向いたが、ルアナの「勉強」の一言で観念したようにまた参考書へ視線を戻す。
そんな参考書を見つめる一夏をルアナは珈琲を飲みながら見つめる。
ジー、と言いそうなほど見つめる。見つめられている一夏はついに耐え切れなくなったのかルアナの方をチラリと見る。
「えっと、ルアナさん?」
「なに?」
「何をしているので?」
「一夏を見てる」
「えっと、なんで?」
「…………監視」
「嫌な解答だな、ちくしょーめ!」
うわーん、なんて言いそうな一夏もルアナはしっかり目に収めて、また珈琲を啜った。
◆◆
日付は進む。
IS学園、一年一組、教卓の目の前の席。それが織斑一夏の席であった。
当然、ISを扱えるのは彼以外女性であるので、彼の周りは全て女性だ。女装をした男など決していないのだ。
まるで珍獣を見る様に、飢えた猛獣達が餌を見る様に、ともかく好奇の視線が多数一夏を貫いていた。
いくら女好きであろうと、こんな状況に放置されれば緊張もするだろう。そして女好きの称号を得ていない一夏は弱々しく蜘蛛の糸に振り返るのだ。
対して紫銀の蜘蛛の糸は知らんぷり。窓の外を眺めて雲を追いかけている。どことなくニヘラと笑っている彼女の思考は、あの雲は美味しそう、だったりするのだけれど、そんな事はどうでもいい一夏は心の中で溜め息を吐いて、好奇の視線を耐える事にしたのだった。
「――織斑くん? 織斑君!!」
「――?!」
数十分程、好奇の視線から逃げ出すために現実逃避を決め込んでいた一夏の目の前に肌色の果実が二つ現れた。
思わずもぎ取りそうになった反射的な腕を意識だけで押さえ込んで一夏は視線を上にあげる。
メガネを掛けた優しげな顔。そして胸に付けた豊満な乳房。きっと一夏が巨乳好きで軟派な人物だったなら自己紹介も含めた口説き文句の一つや二つ出ただろう。勿論、彼のお得意のダジャレも込みで。
生憎、そんな性格でもない彼は彼女からのお願いである『自己紹介』をする為にただ立ち上がる。
「織斑一夏です」
振り返ってようやく出た自身の名前。この好奇の視線の数々を受けながら平然と名前の言えた自分を褒めてやりたい。そんな気分である織斑一夏15歳。
そして自身の名前を出せば更に強くなる好奇の視線。
―なるほど、これは俺に何か言えと、そういう事だな
ゴクリと生唾を飲み込んだ一夏。
そして大きく息を吸い込む。閉じた瞼を上げて決心した瞳を見せて、そして口を開いた。
「以上です!」
そう言い放った一夏の頭に衝撃。
ベシン、と音を立てて叩かれた一夏はその視線を後ろへと向ける。
「お前はマトモに自己紹介も出来んのか」
「か、髪が無ければ死んでいた」
「ほぉ……」
「スイマセン、嘘です。ごめんなさい」
目がマジである。
両手を上げて降参のポーズをとった織斑一夏。目の前には出席簿で肩をポンポンと叩いて呆れた目をしている彼の姉である
聖なる武器である出席簿で殴られた一夏は止むなく意気消沈。そして頭に思いついた疑問を戸惑いも無く口にする。
「どうして千冬姉がッ」
「織斑先生だ」
また頭を叩かれた一夏。そしてそれをやはり呆れた目で見ている千冬。
その千冬がギロリと視線を動かす。そこには窓の外に未だ視線が行っているルアナがいる。
千冬の視線に気づいたのかルアナは視線を千冬に合わせて、数秒。慌てた様にパタパタ動いて、『万事準備完了であります、サー!』と声が聞こえてきそうな程背筋を伸ばし両手を膝の上に置いた。
呆れた溜め息を吐き出すのを千冬は諦めた。
織斑教諭による
そして、ようやくルアナは立ち上がる。
「ルアナ・バーネット。趣味は昼寝。特技は昼寝。好きな事は睡眠。嫌いな奴は睡眠を妨害する人間。食べ物に好き嫌いは無い。食べ物に好き嫌いは、無い」
まるで人形の様な彼女。紫銀の髪を短く切りそろえて、深い青色の瞳。パッチリと開いた丸い目。
整った彼女からどうしてだか二回出た主張に一夏と千冬を除く全員に疑問を抱かせた。『どうして二回も言った?』と。
開いてここまで読んでくださった方に感謝を。
作者です。
一夏君の性質上、うまくいけばダジャレとも言う小洒落てない言葉遊びを入れれそうです。期待はしないでください。
おそらく、話が先に進むに連れて一夏君が戦闘中にダジャレを言ってそうですが、そういうモノだとテキトウに認識してくだされば幸いです。
先に書きますが、ルアナは一夏に恋心を抱いてません。抱きません。抱かせません。
プロットもなにもない状態で書きますので、どこかで詰まる事があるでしょうが、その時は大目に見てください。
ルアナさんの細かい設定(身長体重BWHとか)はまだ決まってません。
テキトウにラウラ程度の身長でショートカットの少女をすればいいと思います。なお、胸はある程度あるもよう。