機動戦士ガンダムSEED cause    作:kia

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第5話   決意の出撃

 

 

 

 

 イージスのコックピットの中でアスランは、出撃前にラウに言われたことを思い出していた。

 

 捕まっているなら助ける。

 

 だがキラが地球軍にいて、こちらの説得に応じなければ……

 

 いや、そんなことはない。

 

 そして必ずこちらに連れ帰る。

 

 改めて決意した時に、敵機接近の警告音が鳴り響く。

 

 こっちへ向って来るのは、ヘリオポリスで対峙した機体ストライクだろうと思っていた。

 

だが違った。

 

 「な、なんだあの機体は?」

 

 正面から向って来たのはストライクに似ていたが違う機体であった。

 

 腕には籠手のようなものが装着され、背中には大きなスラスターが見えた。

 

 そのスラスターの左右には砲身らしきものが付いている。

 

 イージスのデータではGAT―X104『イレイズ』と表示されていた。

 

 つまりあれも―――

 

 「あんな機体もあったのか……」

 

 どうやらこちらが把握していなかった機体が存在したらしい。

 

 アスランは驚きと同時にもしかしたらという思いが湧く。

 

 あの機体のパイロットがキラかもしれない。

 

 アスランは湧きあがる気持ちを抑えながら、そちらに機体を直進させる。

 

 そしてイレイズを操作するアストもまた目の前に現れた機体に複雑な視線を向けた。

 

 「……イージスガンダム。あれにはキラの友達が乗ってるんだよな」

 

 来るだろうとは予想していたが、初手からあの機体が出てくるとは思っていなかった。

 

 2機のガンダムは互いにビームサーベルを構えると警戒しつつも接近し、高速ですれ違う。

 

 「その機体に乗っているのはキラ・ヤマトか?」

 

 「その声は……」

 

 乗っていたのはヘリオポリスで相対したパイロット。

 

 彼がキラの幼馴染―――アスランだ。

 

 アストの胸中に忸怩とした思いが湧きあがる。

 

 「お前はストライクに乗っていたパイロットか!?  あいつは……キラはどこにいる?」

 

 「……そんなこと聞いてどうするんだ?」

 

 「あいつはコーディネイターだ。地球軍にいる理由はない。こちら側に連れて行く。それともあいつを捕えているのか?」

 

 二機は互いに攻撃を加える事無く様子を見ながら、周囲を動きまわる。

 

 「違う!捕らわれている訳じゃない!」

 

 「じゃああいつは地球軍に……その動き、お前もコーディネイターだな。何故お前もキラも地球軍にいる? どうしてナチュラル共の味方をする?」

 

 「……こいつ」

 

 キラから話を聞いた時は、友達になる事もできるかもしれないと思ったし、アストも会いたいと思った。

 

 だがそれも無理だったようだ。

 

 友人のコーディネイターのエルザもナチュラルの事は好きではないが、それでも見下したり貶めたりすることはなく、だからこそ友人でいられたのだ。

 

 だがアスランは今、ナチュラル共と言った。

 

 それは傲慢なコーディネイターがナチュラルを見下す時によく使う言葉である。

 

 そしてプラントではそんなコーディネイターが大半を占めている。

 

 アストはそんなプラントのコーディネイターが好きではない。

 

 彼らは基本的にナチュラルを見下し、存在を侮蔑し、軽く見ている。

 

 その命さえもだ。

 

 それが嫌いだった。

 

 無論ナチュラルもコーディネイターを差別をすることも分かっている。

 

 だからと言ってプラントにつきたいとは思わなかった。

 

 「……お前も結局それか。そうやってナチュラルの人を見下して―――なっ!?」

 

 その時、別方向から放たれたビームによる攻撃がイレイズに襲いかかった。

 

 咄嗟に操縦桿を押し込み機体を上昇させてビームをかわすが、新たに割り込んできた機体は逃がさないといばかりに追撃を掛けてくる。

 

 「何をやっている、アスラン!!」

 

 アスランの耳に飛び込んで来たのは、ガモフから出撃してきたイザークの声だった。

 

 どうやら向うから追いついてきたらしい。

 

 「イザークか!? 待て!」

 

 こいつには聞きたい事がまだあるのだ。しかしそんなアスランの都合などイザークは知らない。

 

 アスランの制止を無視しビームライフルで攻撃を仕掛けていく。

 

 「貴様は下がっていろ! この機体は俺が仕留める!」

 

 アストは撃ちかけられたビームをシールドを掲げて受け止めながら、表示されたデータを読み取る。

 

 「Ⅹ102『デュエル』、これもガンダムか!」

 

 デュエルはしつこくこちらの退路を塞ぐようにビームを放ってくるが、それを機体を左右に動かして回避する。

 

 浴びせられるビームを防御しながら移動していると眼の端に光を捉えた。

 

 そちらに目を向け、モニターを見る。

 

 そこには別の機体から攻撃を受けているアークエンジェルの姿が映っていた。

 

 攻撃を仕掛けているモビルスーツもまたデータや形状から見てガンダムらしい。

 

 「アークエンジェル!? くっ!」

 

 二機を振り切ってアークエンジェルに向かおうとするが、デュエルがビームライフルでこちらの進路を阻むように攻撃を仕掛けてくる。

 

 「逃がすかよ! 落ちろ!!」

 

 今すぐ援護に戻りたいが、しつこく攻撃を仕掛けてくるデュエルを振り切る事が出来ない。

 

 「防御ばかりじゃ駄目だ」

 

 このままでは追い詰められるだけだと判断したアストはビームライフルを構えて、反撃に転じた。

 

 スコープで照準を合わせてトリガーを引く。

 

 だがデュエルはそれをあっさり回避すると、ビームサーベルを構え懐に飛び込んで斬りこんで来た。

 

 目の前に迫るビーム刃をシールドで受け止めながら、デュエルに蹴りを入れて引き離す。

 

 「こいつ!!」

 

 「速いけど、あのジンほど桁外れの動きじゃない!」

 

 ヘリオポリスで戦ったあのジンははっきり言って別次元の強さを持っていた。

 

 それに比べればこいつはまだ何とかなる。

 

 ライフルでデュエルを攻撃しながら、隙をみて離脱しようとするが今度はイージスが割り込んできた。

 

 アスランとしてもこの機体を逃がす訳にはいかないのだから、黙って見ている筈もない。

 

 「今度はイージスか!?」

 

 イージスがこちらの動きを止める為かスラスターを狙って、ビームサーベルを横薙ぎに振り抜いてきた。それを飛び退くように後退して回避する。

 

 「アスラン! 邪魔だ!」

 

 「下がるわけにはいかない! こいつにはまだ……」

 

 追撃してきたイージスをシールドで突き飛ばし、距離を取る。

 

 しかしそこに回り込んでいたデュエルがビームライフルを放ってくる。

 

 「くそっ、アークエンジェルが!」

 

 三機は激しく攻防を繰り返しながら、徐々にアークエンジェルの方へと近づいていった。

 

 

 

 

 アストが二機のガンダムと激しい戦いを繰り広げていた頃、アークエンジェルもまたガモフから出撃した残りのGであるバスターとブリッツの攻撃に晒されていた。

 

 「アンチビーム爆雷発射! ヘルダートは自動発射にセット! イーゲルシュテルンで弾幕を張れ!」

 

 ナタルの声がCICに響き渡る。

 

 それに合わせ爆雷が発射、炸裂し、ばら撒かれた粒子が敵のビームを拡散する。

 

 そして回避運動を取りながら、クルー達が必死に防戦していく。

 

 「ゴットフリート照準! 撃て!」

 

 砲塔から発射されたビームが二機のモビルースーツを狙って放たれるが、掠める事すらできず、空間を薙いでいく。

 

 堪らずナタルが怒鳴り上げた。

 

 「イレイズはどうした? 何をやっている!?」

 

 「イージス、デュエルと交戦中です!」

 

 やはりこちらが圧倒的に不利だった。

 

 マリューは手を握り締めて、己を奮い立たせる。

 

 なんとかムウの奇襲が成功するまでは、持ちこたえないといけないのだ。

 

 弱気になってはいられないと、前を見据え指示を飛ばした。

 

 そんな戦闘の震動は艦の中にも当然伝わっている。

 

 敵からの砲撃が艦の装甲を掠めるたびに震動が起き、避難民が悲鳴を上げる中で、キラは不安そうにモニターを見上げていた。

 

 見ているモニターの中ではアストの乗ったイレイズとデュエルが戦闘を行っており、その近くにはアスランの乗ったイージスもいる。

 

 複雑な気持ちで戦闘映像に見入っていると後ろから声をかけられた。

 

 「キラ、こんな所に居たの? 立っていたら危ないわよ」

 

 振りかえった先にいたのはエリーゼの手を引いたエルザだった。

 

 「エルザ……みんなは?」

 

 「……艦の仕事を手伝うと言ってブリッジに」

 

 「え! どうして……」

 

 「……あなたやアストにだけつらい思いはさせられないって、そう言ってたわ」

 

 その事を聞いたキラは自分が恥ずかしくなった。

 

 皆やアストがこの艦を守るために行動している。

 

 なのに、自分はここで何をやっているのかと。

 

 『何ができるか、何をすべきか―――』

 

 アストが前に言われたという言葉をもう一度思い出す。

 

 答えなら出ていた。

 

 ただキラに覚悟がなかっただけで。

 

 「キラ兄ちゃんも戦うの?」

 

 エリーゼがキラを見上げて聞いてくる。もう迷いはなかった。

 

 「うん、僕も行くよ」

 

 「そっかぁ。じゃあ大丈夫だよね? みんなを守ってくれるんだよね?」

 

 普段明るいエリーゼもやはり戦闘は怖いのだろう。

 

 不安そうにこちらを見ている。

 

 それは当たり前だ。

 

 幼い子供が戦場に放り込まれれば怖いのは当然、そんな事すら気が回らなかった自身が情けない。

 

 キラはしゃがみ込み、エリーゼの頭を優しく撫でた。

 

 「大丈夫、必ず守るから」

 

 「うん!」

 

 エリーゼに微笑みかけるとキラは格納庫に向かおうと立ち上がる。

 

 「待って、キラ」

 

 そのまま格納庫に向かおうとしたが、その前にエルザに呼び止められた。

 

 「どうしたの?」

 

 「……えっと。その、私はナチュラルの人のことはあまり好きじゃないの。ユニウスセブンの事とかいろいろあったし。でもねアネット達の事は嫌いじゃなくて、それにアストやキラの事もその……友達だと思ってるの」

 

 「エルザ……」

 

 「……だから、死なないで」

 

 普段からあまり感情を出さないエルザがこんなことを言うのは驚きだったが、キラや皆を心配して言ってくれたのだ。

 

 嬉しくないはずがない。

 

 「うん。わかった」

 

 エルザに力強く頷き返すとそのまま走りだす。

 

 キラが格納庫に辿り着くとストライクの出撃準備は整っていた。

 

 コックピットに乗り込もうとしたキラだったが、途中で知っている顔がいる事に気がついた。

 

 「やっと来たわね、キラ」

 

 「え、アネット? 」

 

 ストライクの足元には地球軍の制服を着たアネットが待っていた。

 

 「これを着なさい」

 

 アネットが放り投げてきたのはパイロットスーツだった。

 

 「えっ、どうして」

 

 「あんたは、必ず来ると思ってたから」

 

 つまりアネットはキラのことを信じて待ってくれていたのだ。

 

 思わず涙が出そうになるが必死にこらえる。

 

 キラは素早くパイロットスーツに着替えて、コックピットに乗り込んだ。

 

 OSを立ち上げ操縦桿を握ると恐怖と緊張で手が震える。

 

 大丈夫といくら言い聞かせてもなかなか震えが止まらない。

 

 するとアネットがコックピットを覗き込んできた。

 

 「キラ、手を出しなさい」

 

 「えっ」

 

 黙って右手を差し出すと、アネットはそのまま包み込むように両手で握りしめた。

 

 「キラ。あんたは一人じゃないわ。みんなが一緒だからね」

 

 「アネット……うん、ありがとう」

 

 手を離しコックピットハッチを閉じた。

 

 だが恐怖はもうあまり感じない。

 

 アネットが握ってくれた手には温もりが残っていた。

 

 目を閉じてみんなの顔を思い浮かべる。

 

 それだけでこれから辛い事が起きても耐えられる。

 

 キラはストライクを歩かせカタパルトを装着し、ストライカーパックの一つエールストライカーを背中に装備する。

 

 この装備は四つの高出力スラスターによりストライクの機動性を大幅に高める装備である。

 

 武装はGATシリーズの基本装備のビームライフルとビームサーベル、そしてアンチビームシールド。

 

 《キラ、気をつけてね》

 

 ミリアリアが戦闘管制であることは聞いていたので驚きはなかったが、なんだか変な感じだ。

 

 頷いてミリアリアに答えると目の前のハッチが開く。

 

 《ストライク発進どうぞ!》

 

 「キラ・ヤマト、ストライクガンダム行きます!」

 

 

 

 

 外で行われていたアークエンジェルへの攻撃は未だに激しく続いている。

 

 だがイーゲルシュテルンの弾幕とヘルダートの攻撃によりバスター、ブリッツ両機とも攻めあぐねているのが現状であった。

 

 「くそっ! 大した武装だな」

 

 「ええ、取りつけませんね」

 

 バスターのパイロットのディアッカとブリッツパイロットであるニコルはイザークよりこの艦の攻撃を任されていた。

 

 最初は三機で艦を沈めた後で、アスランと合流しモビルスーツを倒す予定だった。

 

 だがアークエンジェルより発進したのは、取り逃がした機体ではなく見たことのない機体。

 

 未知の相手にアスラン一人ではと援護にイザークが向かったのだ。

 

 と言っても援護とは建前で、イザークがアスランに手柄を渡すまいという対抗意識からだろう。

 

 本当はディアッカとしてもモビルスーツと戦いたかったのだが仕方ない。

 

 あの二人の間に入っても疲れるだけだ。

 

 そんなくだらない考えを振り払い、どう攻めるか考えていた時だった。

 

 敵艦がミサイルでこちらの動きを牽制している間に、ハッチが開きモビルスーツが飛び出してきたのである。

 

 その機体は取り逃がした最後の一機ストライクであった。

 

 「あの機体は、最後の一機ですね」

 

 「ああ、ちょうどいいな。ニコル、まずあの機体をやるぞ!」

 

 「了解!」

 

 バスターとブリッツはアークエンジェルから目標を変え、ストライクに襲いかかった。

 

 

 

 

 アークエンジェルから出撃したストライクはすぐに2機のガンダムによって攻撃に晒されてしまった。

 

 絶え間ない攻撃の中、キラは必死に操縦桿を引き、回避行動を取っていた。

 

 「ブリッツガンダムとバスターガンダムか!」

 

 コックピットに表示されたデータを読み取り、キラは操縦に集中する。

 

 バスターが放ったエネルギーライフルの攻撃を後退しながら避ける。

 

 だが後ろにはブリッツが回り込み右手の複合防盾トリケロスのビームサーベルで斬りかかってくる。

 

 「はあああ!」

 

 「くっ!」

 

 何とか機体を逸らし、斬撃を回避するものの、すぐにバスターがガンランチャーで追撃してくる。

 

 「逃げるだけかよ! この!」

 

 2機は連携を取り、左右から挟み込むようにストライクを追い詰める。

 

 キラは二機から繰り出される連携攻撃をかわすので手一杯だった。

 

 「このままじゃ駄目だ!」

 

 防戦に徹していたら、そのままやられてしまう。

 

 キラはスコープを引出しライフルを構えると2機に狙いをつけ、トリガーを引く。

 

 だが決死の思いで放った一射であったが、掠める事無くひらりとかわされ、ブリッツのビームサーベルが眼前に迫る。

 

 「うわあああああああ!!」

 

 目の前のサーベルに何とかシールドを前に突き出して受け止めると弾けるビームの光が火花を散らした。

 

 「受けられたか!」

 

 「離れろ!」

 

 敵機を突き放し、どうにか距離を取る。

 

 そのままブリッツにビームライフルを放つが、またもかわされてしまう。

 

 「隙だらけなんだよ!!」

 

 回り込んだバスターが隙を見て撃ち込んで来たガンランチャーを持前の反射神経でギリギリのタイミングで回避した。

 

 「ハァ、ハァ!」

 

 終わる事無い攻撃を前に、キラは徐々に追い詰められ、防御するのが精一杯になっていった。

 

 

 

 

 戦場から少し離れた場所で待機していたヴェサリウスで状況を観察していたラウは、念のためガモフに敵の戦力を探らせていた。

 

 ここから確認できた戦力は取り逃がした一機と未確認の機体が1機。

 

 もちろん未確認機のデータ収集も命じてある。

 

 「ガモフより入電!『確認された敵戦力はモビルスーツ二機のみ』とのことです」

 

 その報告を受けたラウはあごに手を当て考えを巡らせる。

 

 敵にまだこちらの把握していない機体があったのは計算外だったが、それでも腑に落ちなかった。

 

 あの2機のパイロットはおおよそ見当がつく。

 

 おそらくキラ・ヤマト、アスト・サガミだろう。

 

 だがあの2人がいくら素質に恵まれていても、明らかに経験不足。

 

 その彼らに戦局を任せきりにしてムウが何もしないだろうか?

 

 「あのモビルアーマーはまだ出られないということかな?」 

 

 「……そうだとしてもあの二機だけで突破できると、本気で考えはしないと思います。何かの作戦である可能性が高いかと」

 

 「確かにな」

 

 ユリウスも同じ様に考えているようで難しい顔でモニターを見つめていた。

 

 「敵艦、まもなく本艦の有効射程距離に入ります!」

 

 その報告にラウは思案をやめて命令を下す。

 

 「こちらも攻撃開始だ。主砲発射準備」

 

 「しかし、こちらのモビルスーツ隊が展開をして……」

 

 「……むこうは撃ってくるぞ。何よりわが隊に友軍の艦砲にあたる間抜けはいないさ」

 

 アデスは何か言いたげだったが命令遂行のために前を向く。

 

 これで終わりか―――

 

 そんな考えが皆の頭を過った、その時だった。

 

 ラウ、そしてユリウスになじみ深い感覚が走る。

 

 「隊長!?」

 

 「機関最大! 艦首下げろ、ピッチ角60! 急げ!!」

 

 その指示に反応できたものはブリッジには誰もいなかった。

 

 それも当然で彼らの感じ取っている感覚は言葉では伝えることなどできないものだからだ。

 

 だが突然オペレーターが驚きながら叫びを上げる。

 

 「本艦底部より熱源急速接近! これはモビルアーマーです!」

 

 急速に接近して来たモビルアーマーが機体の周りに接続していた砲台を展開し攻撃してくる。

 

 数発の砲撃がヴェサリウスの機関部に直撃し火を噴く。

 

 「機関損傷大! 推力低下!」

 

 「火災発生! 隔壁閉鎖!」

 

 「敵モビルアーマー離脱!」

 

 次々とブリッジに状況報告が入ってくる。

 

 「おのれ、ムウめ……!」

 

 そこにあったのは仮面をつけていてもわかるラウらしからぬ憤怒の顔だった。

 

 この損傷ではこれ以上の戦闘続行は難しい。

 

 「後退する! ガモフにも打電しろ!」

 

 ラウの決断は早かった。

 

 これ以上ここに留まっていても何もできず、下手をすると撃沈される可能性もあるからだ。

 

 そこで今まで黙っていたユリウスが口を開いた。

 

 「隊長、その前に出撃許可を」

 

 「なにをする気だ?」

 

 「アスランとニコルはともかく、イザークとディアッカの二人は素直に撤退するとも思えませんので」

 

 「……わかった。そちらは任せる」

 

 「了解しました」

 

 ユリウスはブリッジを出ると自身の機体に乗り込む為、格納庫へ向かって行った。

 

 

 

 

 イレイズはデュエル、イージスと攻防を繰り返していた。

 

 イージスの攻撃を避け、デュエルの斬撃を受け止める。

 

 そこでいつの間にかア-クエンジェルの近くまで来ていた事に気がついた。

 

 そして同時にストライクが出撃し、別のガンダムと戦っている姿も見えた。

 

 誰が乗っているかなど考えるまでもない。

 

 ストライクを動かせる者はアークエンジェルには1人しかいないのだから。

 

 「アスト!」

 

 「キラ!? お前……」

 

 案の定、モニターに映ったのはキラであった。

 

 どうして―――そう問いかけようとしたアストにキラはただ頷く。

 

 「僕は大丈夫! それより今は目の前に集中しないと……」

 

 アストがキラに気を取られた隙に、デュエルが一気に距離を詰め、振るったビームサーベルが眼前に迫る。

 

 「くっ」

 

 咄嗟に機体を操作しシールドで掲げると、どうにか防御に成功した。

 

 今のは正直、冷やりとさせられた。

 

 そのままデュエルの斬撃を弾き飛ばすとイレイズもまた下段に構えたビームサーベルを振り上げる。

 

 「いい加減に!!」

 

 「やられてたまるか!」

 

 袈裟懸けに叩きつけられたデュエルのビームサーベルをシールドで払いのけ、こちらのビームサーベルを上段より振り下ろす。

 

 確かに今はキラの言う通り、敵に集中しないとすぐにやられてしまう。

 

 アストがストライクの存在に気がついたように、イレイズと交戦しながらアスランもまたバスター、ブリッツと戦っているモビルスーツの存在に気がついた。

 

 「ストライク! まさかあれにキラが……」

 

 確かめなければならない。

 

 イレイズをデュエルに任せ、ストライクの方に向かおうとする。

 

 しかしそれに気がついたイレイズがデュエルを振り切り、イージスに向け横薙ぎにビームサーベルを振るってくる。

 

 「こいつは本当に邪魔ばかりを!」

 

 アスランはシールドで受け止めながら、湧きあがる怒りのまま叫ぶ。

 

 「邪魔をするなァァ!!」

 

 だが行かせられないのはアストも同じ事。だからアストも叫び返す。

 

 「行かせる訳にはいかない!!」

 

 2機は距離を取って再び激突する。

 

 そしてそのすぐ傍でもストライクもバスター、ブリッツ相手に奮戦を続けている。

 

 できるだけ距離を取り、ブリッツの接近を防ぎながらビームライフルで攻撃する。

 

 だがこちらの狙いの甘さ故か、掠らせる事もできずに容易く避けられてしまう。

 

 それが余計にキラの焦りを加速させていった。

 

 こちらの攻撃は一切当たらず、しかもキラにとっては初陣に近い。

 

 精神的に追い詰められていくのは当然であった。

 

 「くそ!」

 

 「それでは当たりませんよ!」

 

 ストライクの狙いの甘さにつけ込むように接近したブリッツが左手のグレイブニールを放つ。

 

 飛び出してきた爪がキラに襲いかかろうと迫ってくる。

 

 それを横に飛び退き回避するが、そこをバスターが狙っていた。

 

 「そんな動きじゃ狙ってくれって言ってるのと同じだぜ!!」

 

 キラは操縦桿を押し込み、機体を前に出す事でビームの一射をやり過ごした。

 

 それでも諦めないバスターの構えたエネルギーライフルが装甲ギリギリ掠めていく。

 

 どうにか攻撃を回避したキラが安堵する間もなく、飛び込んできたブリッツのビームライフルがこちらを狙って放たれる。

 

 「くぅ、まだ!」

 

 ブリッツの射撃をシールドで何とか防ぎ、後退しつつどうにか体勢を立て直す。

 

 それを見た二人は思わず毒づいた。

 

 「チィ! しぶといな!」

 

 「意外に粘りますね」

 

 こちらはザフトのエリートと言われたクルーゼ隊である。

 

 敵がこちらと同性能のモビルスーツとはいえ、ここまで仕留めきれないとは。

 

 どうにか二機の連携をやり過ごしながらキラも息を切らして、相手を見据える。

 

 「ハァ、ハァ、やられる訳にはいかないんだ。皆を守らないと」

 

 キラの中に再び湧いて来る戦闘の恐怖を抑え込みながら敵機を睨みつけた。

 

 しかし相手は完全にこちらよりも上手だ。

 

 どうすれば―――

 

 そんなキラの焦りを余所にバスター、ブリッツが再び攻勢をかけてくる。

 

 「……負けてたまるかぁぁぁ!!」

 

 恐怖や焦りを振り払うように叫び声を上げたキラはスラスターを噴射させ、果敢に二機のガンダムに向っていった。

 

 

 

 

 6機のGの激闘。

 

 周りを飛び交うビームの閃光と火花の光が宇宙を照らす。

 

 そんな激しい戦いはアークエンジェルからでも確認できていた。

 

 イレイズ、ストライク共に奮戦。

 

 粘ってはいるがどう見ても不利な状況である。

 

 いかに2人がコーディネイターとはいえ、所詮は素人。

 

 ザフト相手に戦うのは厳しいという事だろう。

 

 さらに言えばイレイズは稼働時間の方に問題がある。

 

 これ以上の長期戦になったら勝ち目が無い。

 

 援護すべきか、いやこの乱戦では2人まで巻き込む事になる。

 

 誰もが焦燥感を募らせていった、その時だった。

 

 待ちに待った報告が―――『作戦成功。帰投する』という連絡が入ってきたのだ。

 

 アークエンジェルのブリッジに歓声が上がる。

 

 マリューもホッと胸をなで下ろすと、気を抜くことなくそのまま指示を飛ばす。

 

 「この機を逃さず、前方ナスカ級を撃つ! ローエングリン発射準備!」

 

 「了解! ローエングリン1番、2番発射準備!」

 

 両舷艦首にある発射口が開く。

 

 「撃てぇー!!」

 

 ナタルの声と同時に特装砲ローエングリンが発射される。

 

 凄まじいまでのエネルギーが発射され、宇宙空間を薙ぎ払っていった。

 

 そしてローエングリンが迫って来るのを察知したラウは大声で叫ぶ。

 

 「スラスター全開! かわせ!!」

 

 圧倒的な火力はヴェサリウスの右舷をかすり損傷させ、その震動は艦が撃沈するのではと思えるほど激しいものだった。

 

 ラウがあらかじめ撤退を指示して、後退を始めていなければ直撃していたかもしれない。

 

 「くっ。戦域離脱急げ!」

 

 再び指示を飛ばしたラウの声に従うように忙しなくクルーたちは動く。

 

 誰であれこんな所で宇宙のゴミになどなりたくはないのだから。

 

 被弾したヴェサリウスは完全に戦闘力を失い、後退して行った。

 

 

 

 

 

 

 イレイズは変わらず動き回り、デュエル、イージスと刃を交えている。

 

 しかし徐々に限界が近づいてきていた。

 

 コックピットに座るアストは汗で濡れ、息が激しく切れている。

 

 敵の変わらない猛攻に焦りを隠せなくなっているのだ。

 

 赤い機体がイレイズの背後に回ろうと旋回してビームライフルを放ってくる。

 

 正確なその射撃を何とかシールドで受け止め、攻撃が止んだ瞬間にこちらもまた狙いをつけて撃ち返す。

 

 そんなイージスに合わせるつもりもないのかデュエルは横から接近してくるとイレイズにビームサーベルを振り下ろしてくる。

 

 直前でデュエルの攻撃を察知したアストは操縦桿を引き機体を右にそらして、回避した。

 

 「イザーク! 1人で突っ込むな!」

 

 「うるさい!!」

 

 この2機は確かに厄介ではある。

 

 技量も経験もアストよりも上である事は間違いないが、一つ致命的な欠点があった。

 

 連携である。

 

 彼らはお世辞にも連携が取れているとは言い難い。

 

 特にデュエルは自分だけでイレイズを落そうとしている分、イージスに合わせるつもりが全くないらしい。

 

 その隙を突く形でアストはどうにか互角の戦いに持って行く事が出来ていたのである。

 

 このままなら、どうにか戦う事が出来る。

 

 だがここに来てイレイズの欠点が影響し始めた。

 

 「ハァ、ハァ。思った以上にバッテリー消費が激しい。このままじゃ、まずい」

 

 敵はまだ余裕があるのか、攻撃の手を一切緩めない。

 

 だがこちらはギリギリである。

 

 そのため攻撃の回数が減り、徐々に追い詰められていた。

 

 「くそ! 離脱しないと……」

 

 先ほどの通信でムウの作戦が成功したと連絡が来ている。

 

 だがデュエルもイージスもこちらを逃がすつもりはないとばかりに猛攻を加えてきていた。

 

 イーゲルシュテルンで2機を牽制しながら攻撃を潜り抜け、アークエンジェル方向に進路を取る。

 

 「逃がさん!!」

 

 デュエルがビームライフルを構える。

 

 再びビームの攻撃だろうとシールドを掲げて防御の体勢を取った。

 

 しかしここで発射されたのはビームではなく、銃身の下部に装備されたグレネードランチャーだった。

 

 「しまっ――」

 

 予想外の攻撃に虚を突かれたアストにシールドの上からグレネードランチャ―が直撃し、イレイズは吹き飛ばされてしまう。

 

 「ぐああああ!!」

 

 「良し、今度こそ!」

 

 グレネードランチャーの衝撃でアストは気を失いかけるが、頭を振ってどうにか正面を見る。

 

 そこには光刃を振り上げるデュエルが目の前に迫っていた。

 

 まだ死ぬわけにはいかない!

 

 皆を守るのだ!

 

 「やられてたまるかぁ!!」

 

 アストはデュエルの攻撃に合わせフットペダルを踏み、イレイズの足を振りあげた。

 

 それがデュエルの腹部に直撃、そのまま吹き飛ばす。

 

 当然その震動はコックピットのイザークにも伝わり体を揺さぶった。

 

 「チィ、しつこいんだよ! いい加減に落ちろ!!」

 

 再度攻撃を仕掛けようと構えた瞬間―――ヴェサリウスの損傷と撤退命令が同時に届いた。

 

 「なっ、 ヴェサリウスが被弾しただと!?」

 

 「……イザーク、撤退命令だ」

 

 「黙れ! こいつだけでも!!」

 

 再びビームサーベルで斬り込むが、またもシールドで防がれる。

 

 イザークは敵がコーディネイターであるとは知らない。

 

 そのためナチュラル相手に後れを取るなど、プライドの高い彼にはあり得ない屈辱だった。

 

 アスランとしても撤退命令は分かっているが、ストライクのパイロットを確かめたいという気持ちが未だに燻っている。

 

 それが素直に撤退命令を聞けなくしてしまっていた。

 

 前にストライクに乗っていたパイロットが今は別の機体に乗っている。

 

 なら現在ストライクに乗っているのはキラかもしれない。

 

 アスランはそれを確かめたかった。

 

 そして同じく徐々に追い込まれていたキラも2機の連携に翻弄されながら、離脱の隙を窺っていた。

 

 しかし焦りばかりが募っていく。

 

 それがキラの照準を狂わせ、余計に敵機に回避される要因になっていた。

 

 「くっ、当たらない!」

 

 バスターをビームライフルで狙うが、ブリッツが割り込んでそれをさせない。

 

 割り込んできたブリッツにビームサーベルを振るうが、トリケロスで防御されてしまう。

 

 キラは焦りのあまり強引な手に出た。

 

 だがそれは完全な悪手であった。

 

 「このまま押し込んで―――なっ」

 

 力任せにサーベルを押して行こうとしたが、突然ブリッツが機体を引き体勢を崩されてしまった。

 

 「今です! ディアッカ!」

 

 「もらったぜ!!」

 

 ブリッツが引いた先には、バスターがガンランチャーとエネルギーライフルを連結させた超高インパルス長射程狙撃ライフルで狙っていた。

 

 かわせない。

 

 直撃する。

 

 キラは思わず目を閉じてしまうが、攻撃はストライクに何時まで経っても届かない。

 

 目を開けたキラが見たのはこちらを狙っていたバスターが上方から攻撃を受けている姿だった。

 

 「なに!?」

 

 「モビルアーマー!?」

 

 戦場に飛び込んできた機影。

 

 それは先程ヴェサリウスを奇襲し、こちらに戻ってきたムウのメビウスゼロであった。

 

 ガンバレルを展開し、ストライクからバスター、ブリッツを引き離す。

 

 「今だ! 離脱しろ!」

 

 「フラガ大尉!? アストがまだ」

 

 「分かってる!」

 

 イレイズもイージス、デュエルと交戦しているがすでに防戦一方になり、追いこまれていた。

 

 殆ど攻撃せずに回避と防御に徹している所を見るとおそらくは指摘されていたバッテリーの問題だろう。

 

 ムウは機体を反転させ、3機が交戦している中に飛び込んだ。

 

 「坊主、離れろ!」

 

 「ッ!? はい!」

 

 ムウの声に咄嗟にイレイズは距離を取った。

 

 ガンバレルを展開し、2機に対して四方から攻撃が襲う。

 

 「敵機!?」

 

 「くっ!」

 

 砲撃に晒されたアスランとイザークは堪らずイレイズから離れる。

 

 いかにPS装甲をであろうとも無限ではない。

 

 実弾といえども受ければバッテリーは消費してしまうのだ。

 

 ゼロの的確な援護でアークエンジェル方向への道が出来る。

 

 「よし、アークエンジェルに帰還するぞ!」

 

 「はい!」

 

 メビウスゼロとイレイズは敵機が離れた隙に反転して離脱する。

 

 「逃がすかよ!!」

 

 「イザーク、これ以上は!」

 

 流石に不味いだろう。

 

 如何にアスランがキラに関して情報を得たいとはいえ、限度はある。

 

 バッテリーにも余裕がある訳ではないのだ。

 

 追いすがるデュエルにイージスも加わり、ストライクと戦っていたディアッカ達も合流する。

 

 「こっちも逃げられた!」

 

 「このまま追撃するぞ!」

 

 「二人とも待て!!」

 

 「そうです。撤退命令が……」

 

 「じゃあお前らだけで退けよ!」

 

 ニコルやアスランは制止するがイザークとディアッカは聞き入れない。

 

 このまま逃がせばそれこそ自分達のプライドに傷がつく。

 

 だが敵艦の射程に入ると3機を援護する為にアークエンジェルからのミサイルやリニアカノンが降り注いだ。

 

 降り注ぐミサイルを迎撃、リニアカノンの砲撃を回避しながら、攻撃を仕掛けようとした時だった。

 

 

 敵にとっても、そして味方にとっても想像もしなかった事が起こった。

 

 

 それに一番最初に気がついたのはムウであった。

 

 「これは!? ユリウスか!」

 

 例の感覚が全身に行き渡り相手の正体を看過したムウが警戒を促そうとした。

 

 しかし次の瞬間、正面から凄まじい速度で青紫のジンハイマニューバが突っ込んできた。

 

 「あのジンは!?」

 

 アストが初めて交戦し、へリオポリスでは相手にすらならなかった敵である。

 

 簡単に忘れられはしない。

 

 青紫のジンはアークエンジェルの攻撃を避け、ミサイルを迎撃しながら急速に接近してくると一番近くにいたイレイズに重斬刀を叩きつけた。

 

 袈裟懸けに振るわれた一撃をどうにかシールドで防ぐ事に成功するが、ジンはそのまま動きを止めず腹部を蹴りを入れてくる。

 

 「うわあああ!」

 

 その瞬間イレイズのPS装甲が落ち、色が消え元のメタリックグレーに戻った。

 

 バッテリー切れである。

 

 「アスト!?」

 

 まずい!

 

 今イレイズは完全な無防備だ。攻撃を受ければひとたまりもない。

 

 キラはイレイズを庇うようにジンの前に立ちふさがる。

 

 「アストは、やらせない!」

 

 キラはビームライフルで狙いをつけトリガーを引こうとするが、すぐに死角に回り込まれ見失ってしまう。

 

 「な!? どこに―――うわあああ!」

 

 そして背後に回ったジンはストライクを重斬刀で弾き飛ばした。

 

 「くそ! ユリウス!」

 

 ムウはガンバレルを展開し、ジンを狙って砲撃を開始するがその攻撃はあっさりとかわされてしまう。

 

 まるで舞うような動きを全く捉えられない。

 

 ジンは攻撃を回避しながら、重斬刀で近くの容易くガンバレルを斬り飛ばす。

 

 「先ほどの借りを返させてもらう。ムウ・ラ・フラガ!!」  

 

 飛び回りこちらを狙ってくる残りのガンバレルの射撃をスラスターを使って避け切ると同時にライフルを連続で発射する。

 

 そして砲台を破壊した爆煙に紛れる様に一気に距離を詰め、重斬刀を逆袈裟から振り上げゼロのリニアガンを斬り落とした。

 

 「凄い」

 

 「ああ」

 

 ニコルとアスランも思わずつぶやく。

 

 イザークやディアッカも見入っているらしく、息を呑んでいた。

 

 それはそうだろう。

 

 自分たちが手こずった相手を、性能の劣る機体で圧倒しているのだから。

 

 その技量はやはり圧倒的で、神業と言っても良い。

 

 自分たちでさえ彼には手も足も出ないのだ。

 

 アスラン達が驚いているとユリウスのジンがモビルアーマーを損傷させてこちら側に舞い降りる。

 

 「何をしている。撤退命令が出ていたはずだが」

 

 通信機から聞こえたユリウスの声に全員が戦闘中である事も忘れ、萎縮してしまう。

 

 ユリウスの声が震えが走るほど冷たかったからだ。

 

 「話は後だ。ガモフまで後退する」

 

 その言葉に逆らえる者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 撤退したアスラン達はガモフのロッカールーム集められ、そこで四回ほど大きな音が響いた。

 

 ユリウスが思いっきり4人の頬を張り飛ばしたのだ。

 

 「何故殴られたかは分かっているな。撤退命令を無視し、勝手な独断行動。特にアスラン、貴様は二度目だ」

 

 「「「「申し訳ありませんでした」」」」

 

 全員が敬礼を返し謝罪するがユリウスは鋭い視線を緩める事無く睨みつける。

 

 しかししばらくすると視線を逸らしてため息をついた。

 

 「……クルーゼ隊長は、今回の事は不問とするとの事だ。だが勘違いするな。お前たちの行動が正当化される訳じゃない。個人の勝手な行動で味方に大きな損害をもたらす事もある。それを肝に銘じておけ!」

 

 「「「「は!」」」」

 

 一通りの話を終えたユリウスは続けて指示を出す。

 

 「ヴェサリウスは修理が終わり次第、一度本国に帰投する。アスラン、帰還の準備をしろ」

 

 「は!」

 

 「あの艦についてはガモフを残していくそうだ。イザーク、ディアッカ、ニコル、後を頼むぞ」

 

 「「「は!」」」

 

 ユリウスはアスランを連れロッカールームを出るとしばらく無言だったが、突然振りかえって口を開いた。

 

 「……アスラン。友人の事はどうなった?」

 

 「それは……」

 

 あの戦闘ではっきりしたことはキラは間違いなくあの艦にいるという事だけだ。

 

 後から出撃したストライクのパイロットかもしれないとは思ったが確証は無い。

 

 「これは忠告だ。友人の事は忘れた方がいい。このままでは味方に損害が出る。そうなれば、お前が背負う必要のないものを背負うことになる」

 

 ユリウスの言葉にアスランは何も答えられない。

 

 「……いや、余計なことだったな」

 

 「いえ、お気づかいありがとうございます」

 

 厳しいだけではなく部下に気を配れる、そんなユリウスを皆が尊敬している。

 

 アスランはユリウスのこういう所が信頼されているのだろうと考えていた。

 

 

 

 

 戦闘が終わりアークエンジェルに帰還したアストはいまだコックピットにいた。

 

 極度の緊張と命がけの戦闘による恐怖で動けなかったのだ。

 

 それでも何とかコックピットから這い出て、ヘルメットを取りその場に座り込む。

 

 「ハァ、ハァ、ハァ」

 

 「アスト! 大丈夫?」

 

 アネットが心配そうにを覗き込んでくる。

 

 「うん、大丈夫。 キラは?」

 

 「キラも無事。あんたと同じよ。ほら」

 

 アネットの指さした方向には自分と同じ様に座り込んでいるキラが見える。

 

 どうやら彼も相当堪えたらしい。

 

 何とか立ち上がりキラの傍まで歩いて行くと、その横に腰を降ろした。

 

 「キラ、大丈夫か?」

 

 「なんとかね……」

 

 周りはすでに機体整備のために、様々な機械音が鳴り響いている。

 

 アネットはタオルを取りに行ったようだ。

 

 今なら誰にも聞かれることもないと、意を決したようにアストが口を開く。

 

 「……あいつと話したよ。キラの事探してた」

 

 「……そう」

 

 「あとキラをザフトに連れて行くってさ」

 

 「僕はザフトになんか行かないよ。絶対に」

 

 さらに話を続けようとした時、アネットが戻ってくる。

 

 「はい。タオル」

 「あ、ありがとう」

 

 受け取ったタオルで顔を拭くと、アネットが2人の顔を見て安心した様子で言った。

 

 「あんたたちが無事でよかった。本当に……」

 

 「アネット……」

 

 そしてゼロを降りたムウがニヤリと笑ってこちらに歩いてきた。

 

 「良くやったな、坊主ども。最後は締まらなかったが、それでも全員生きてる。上出来だ!」

 

 ムウの笑顔につられて皆も笑い出す。

 

 そう誰も死ななかったのだ。

 

 アストはそれだけでも戦った意味はあったと、そう思いながらアネットやキラ達の笑顔を眺めていた。




戦闘シーンは難しい。




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