機動戦士ガンダムSEED cause    作:kia

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第3話   夢の終わり、崩れた大地

 

 

 

 

 

 アストはコックピットでキーボードを叩きながら、トール達が運んできたトレーラーにあった武装をガンダムに装備させていた。

 

 装備した武装を確認すると『ランチャーストライカー』と表示されている。

 

 どうやら砲撃戦仕様の武装のようだ。

 

 右肩に『対艦バルカン砲』と『ガンランチャー』、左肩後方に長い砲身の高インパルス砲『アグニ』。

 

 これがランチャーストライカーのメイン武装である。

 

 この装備を背中に装着し同時に行ったOSの調整過程で分かった事であるが、この機体は『ストライク』というのが正式な名前らしい。

 

 「アスト君、装備し終わったらアークエンジェルへ通信をお願い」

 

 「分かりました」

 

 外で皆に指示を出していたマリューに従い、通信機のスイッチを入れて連絡を取ろうとした。

 

 その時だった。

 

 突然コックピット内に甲高い音が鳴り響き、レーダーが敵機接近の反応を映し出す。

 

 ハッチを閉じて機体を立ち上げモニターを見ると上空から青紫のジンが物凄いスピードで襲いかかって来るのが見えた。

 

 「なっ――ジン!?」

 

 咄嗟にフェイズシフトを起動させ装甲が色付くと、ジンの放った銃弾を弾き防御する。

 

 だが安堵する暇も無く攻撃はそれだけでは終わらない。

 

 高速で近づいてきたジンにすれ違いざまに蹴りを叩きこんできたのだ。

 

 「ぐあああああ!」

 

 急いで体勢を立て直すように起き上がるも、ジンは動きを止める事無く、重斬刀を抜き放ち突進してくる。

 

 「皆が居るんだ、ここから離れないと!」

 

 下手に暴れたら傍にいる皆を巻き込んでしまうかもしれない。

 

 この場所から離れようと後ろに跳躍し、同時に振るわれたジンの斬撃を回避する。

 

 このまま引きつ、離脱しようとしたアストだったが、このジンの動きは彼の予想を上回っていた。

 

 斬撃をかわされたジンはその勢いを殺すことなく、ウイングバインダーを噴射させ後ろに回り込みながら重斬刀を叩きつけてきたのである。

 

 「うわあああ!」

 

 背中に斬撃の直撃を受け、前方にバランスを崩しかけるも、何とか踏んばり耐える。

 

 しかしジンはそのまま連続で左右から叩きつけるように重斬刀を振ってきた。

 

 動きが速過ぎて全くついて行く事が出来ない。

 

 振り上げられた剣撃を腕で掲げて何とか防御する。

 

 今ストライクはフェイズシフトを展開している為、重斬刀は全く通用しない。

 

 弾き飛ばすように重斬刀を弾くと同時にイーゲルシュテルンでジンを攻撃するが寸前で避けられてしまう。

 

 「くそっ、このジン動きが違いすぎる」

 

 キラが戦った相手も戦い慣れした動きをしていたが、このパイロットはそれをあっさり凌駕する程の技量である。

 

 アグニで攻撃しようにも、このジンの動きの前では狙いをつけられず、動きを止めた瞬間にやられてしまう。

 

 どうにか状況を打開しようとアストは必死に操縦桿を動かし続けた。

 

 ジンの動きにアストが驚いていたのと同じように、青紫のジンハイマニューバを操っていたユリウスもまたフェイズシフトとストライクの機体性能に驚いていた。

 

 「ライフルも剣も通用しないか。なるほど、驚異的だな。まあ、それならそれでやり様もある」

 ユリウスはライフルで牽制しつつ接近、コックピット目掛けて何度も重斬刀を叩きつける。

 

 「ぐっ、うう、くそ!」

 

 アストは襲いかかる衝撃を歯を食いしばって耐え、どうにか機体の体勢を立て直すと肩に装備された対艦バルカン砲を放つ。

 

 だが動き回るジンに掠らせることすらできない。

 

 「甘いな。資質に優れていても所詮は素人か」

 

 ユリウスはジンを旋回させストライクの背後に回る。

 

 「機体に損傷は与えられないが、衝撃は殺せないだろう。どこまで耐えられるかな、アスト・サガミ!!」

 

 重斬刀の攻撃を受け、バランスを崩した敵機にさらなる追撃を掛ける為に前に出る。

 

 その瞬間、すさまじい轟音と共に山間部が崩れ落ち、立ち込める煙の中から巨大な白亜の戦艦が現れた。

 

 「……仕留め損ねていたか」

 

 あれは事前に把握していた敵の新型戦艦に間違いない。

 

 感情を抑えているが、ユリウスはもう一手打っておくべきだったと、自分の迂闊さに苛立っていた。

 

 ユリウスのジンと戦っていたアストも突然乱入して来た戦艦に目を奪われる。

 

 「コロニーの中に戦艦が……いや、それよりも!」

 すぐ意識を戻すと、正面を見据える。

 

 どうやらジンのパイロットもあの戦艦に注目しているらしい。

 

 今の内にターゲットをロックすると肩の対艦バルカン砲を発射した。

 

 「チィ」

 

 ジンは一瞬だけ動きを止めていたが、驚異的な反応で攻撃を回避し上空へ逃れる。

 

 だがその先には白亜の戦艦が待ち構えていた。

 

 アークエンジェルから発射されたミサイルがユリウスに向かって襲いかかる。

 

 その対処に追われたのか、ジンは動き回りながらミサイルを撃ち落とし、アークエンジェルの方に集中し始めた。

 

 「今だ!!」

 

 戦艦に引きつけられている今がチャンスだ。

 

 アストは照準スコープを引き出して狙いをつける。

 

 アグニの長い砲身を腰だめに構え、ミサイルの対処をしているジンにロックオン表示が出ると躊躇わずにトリガーを引いた。

 

 その瞬間、砲口から凄まじいエネルギーが放たれる。

 

 だが、それさえも通用しない。

 

 あのジンは驚くべき反応で発射されたビームをかわしてみせたのだ。

 

 放たれたエネルギーはそのままコロニーの外壁ごと貫通し巨大な穴を空ける。

 

 「こ、ここまでの威力があるなんて……」

 アストはあまりの威力とコロニーの外壁を破壊してしまった事に呆然としてしまう。

 

 一方アグニの威力を真近で目撃したユリウスは敵機の予想外の火力と仕留め損ねた新造戦艦の存在を見て、一度帰還するべきと判断した。

 

 「まさか、これほどの火力をもつとはな」

 

 現行存在するモビルスーツの持つ武装の中ではあり得ない程の威力である。

 

 十分に驚異的と言えるだろう。

 

 しかし殺したいほど憎い相手を思わぬところで見つけたことは収穫だった。

 

 アスト・サガミとキラ・ヤマト。

 

 両者とも憎悪の対象である。

 

 そしてユリウスにとってキラ・ヤマトは特にそうだ。

 

 今回はその存在を確認できただけでも十分であると、ユリウスはヘリオポリスから離脱した。

 

 

 

 

 ユリウスが離脱を決断した頃、ヘリオポリスの外では未だに戦闘が続いていた。

 

 その中心にいたのはムウとラウが搭乗するメビウスゼロとシグーである。

 

 コロニー外壁付近を移動しながら二機による激しい攻防が繰り返されていた。

 

 ムウはシグーのライフルを機体を加速させる事でどうにかやり過ごしガンバレルを展開すると四方から攻撃を仕掛ける。

 

 死角に回り込んだガンバレルがシグーを狙って砲撃を放つ。

 

 しかしラウはそれが見えているかの様な鮮やかな動きで容易く回避してみせた。

 

 「フ、当たらないな」

 

 「まだだぞ!」

 

 ガンバレルを巧みに操り、ラウのシグーを誘導するとムウの狙い通りの場所に追い込んでいく。

 

 「ここだ!」

 

 絶好のタイミングでリニアガンを放った。

 

 しかしラウは背中のウイングバインダーを操作しギリギリの所でかわす。

 

 「なっ」

 

 「甘いな」

 

 シグーは鮮やかな機動でリニアガンの攻撃を避け、ターゲットをロックするとライフルのトリガーを引く。

 

 正確な狙いで放たれたライフルに一射がガンバレルに直撃、破壊されてしまう。

 

 「どうしたかね、ムウ? これで終わりかな? 」

 

 嘲るようにつぶやくと動き回るガンバレルに狙いを定めて叩き落とし、重斬刀に持ち替えて斬りかかった。

 「くそ! ラウ・ル・クルーゼ!」

 

 このままむざむざやられるつもりはない。

 

 剣を下段に構えて接近してくるシグーに残った武装であるリニアガンで応戦するがすべて避けられてしまう。

 

 まるでこちらの動きを読んでいるのではと錯覚しそうになってくる。

 

 すれ違い様に振り上げられたシグーの重斬刀がメビウスゼロの左側面部を直撃、切り裂くと機体のバランスが大きく崩されてしまった。

 

 「しまっ―――」

 

 「これで終わりだ! ムウ・ラ・フラガ―――な!?」

 シグーがメビウスゼロを落とそうと再び剣を向けた瞬間、二機のいた近くのコロニーの外壁が突然吹き飛ばされた。

 

 その爆発の衝撃に巻き込まれたシグーは損傷はしなかったが、ムウの機体と離されてしまう。

 

 ムウにとってはまさに九死に一生を得たといったところだろうか。

 

 悔しいがここは一旦退き体勢を立て直すべきだ。

 

 「今のうちに!」

 

 メビウスゼロは破壊されたコロニー外壁に紛れ、そのまま港の方へ離脱した。

 

 「ムウはコロニー内部に向かったか」

 

 コロニーの港に向かうメビウスゼロの後ろ姿を見つめ追撃しよう前に出る。

 

 すると先程空けられた外壁の穴よりユリウスのジンハイマニューバが宇宙に飛び出してくる姿が視界に入った。

 

 見たところ損傷も無いようだが、一体何があったのか。

 

 「ユリウス、どうした?」

 

 「申し訳ありません、隊長。急ぎ報告しなければならない事があったため撤退いたしました」

 

 「なんだ?」

 

 「失敗していたのは最後の一機のことだけでなく、例の戦艦ついてもです。どうやら仕留め損ねていたようです。それからもう一つ。最後の機体に乗っていたのはアスト・サガミ、そしてその近くにはキラ・ヤマトも確認しました」

 

 「なに!?」

 

 流石のラウも言葉を失ってしまう。

 

 前者の戦艦のことよりも、後者のアスト・サガミとキラ・ヤマトの方が衝撃だった。

 

 「なるほどな……フフフ、これも運命というものかな。ユリウス、一度戻るぞ。詳しい話は後で聞かせてもらう」

 

 「了解」

 

 簡易的な報告を終え宇宙で合流を果たした二機は母艦であるヴェサリウスに向かって移動を開始した。

 

 

 

 

 どうにかあのジンとの戦いを生き延びたアスト達はストライクと共にコロニー内部に入ってきたアークエンジェルに着艦した。

 

 格納庫に入ると地球軍の制服を着たクルーや整備兵が集まってきているのがコックピットからでも確認できる。

 

 だが戦艦に乗り込んでいるにしては数が少ない気がするのは気のせいだろうか。

 

 「ラミアス大尉!」

 声がかかった方からは士官らしき女性が数名とこちらに走ってきた。

 

 どこかで見覚えのある女性はフレイとエルザの揉め事があった時に街中ですれ違った女性であった。

 

 「バジルール少尉! よく無事で!」

 互いの無事を喜び合っていたが、アストがコックピットから降りて行くと困惑したように周囲がざわついた。

 

 それはそうだろう。

 

 彼らの新型機を動かし、ザフトのモビルスーツと戦ったパイロットが民間人の子供だったのだから。

 「こいつは驚いたなぁ」

 

 そういいながらパイロットスーツに身を包んだ男が近づいてきた。

 

 驚いたと言いながら全くそんな風に見えないのは男が軽そうな笑みを浮かべているからだろうか。

 

 「地球軍第7機動艦隊所属ムウ・ラ・フラガ大尉だ」

 

 「あ……地球軍第2宙域第五特務師団所属マリュー・ラミアス大尉です」

 

 「同じくナタル・バジルール少尉です」

 

 互いが敬礼を取り、三人が名乗り合う。

 

 「乗艦許可を貰いたいんだが、この艦の責任者は?」

 

 ムウの質問にナタルが言いにくそうに答える。

 

 ナタルだけではない。周りの士官たちも表情を暗くして俯いている。

 

 それだけで何があったかは容易に想像がついた。

 

 「……艦長を含め、主な士官はほぼ戦死されました」

 

 「え!? 艦長が――」

 

 「はい。ですのでラミアス大尉がその任にあると思います」

 

 流石にそこまでの事態とは思っていなかったのか、マリューは絶句してしまった。

 

 だがムウは訝しげに再び質問する。

 

 「ほぼって事は、誰か無事だった人がいたのか?」

 

 「ええ、セーファス・オーデン少佐が。ただ少佐は重傷を負っていまして、意識も戻っておりません」

 

 「ハァ、まあともかく乗船許可をくれよラミアス大尉。俺の乗ってきた船は沈められてね」

 

 「あ、はい。許可します」

 

 許可をもらったことで、話の区切りをつけたのかムウはアストの方に歩み寄ると顔を覗き込み、微笑みながら言った。

 

 「君、コーディネイターだよね?」

 

 「ええ、そうです」

 

 最初から誤魔化せるとは思っていなかった。

 

 ただ目の前の男があまりにストレートに聞いてきたためアストは思わず苦笑してしまった。

 

 その瞬間、雰囲気は一変しナタルの後ろにいた兵士が銃を構える。

 

 地球軍が戦争をしている相手を考えれば当然の反応。

 

 彼らが殺し合っている相手はザフトであり、コーディネイターなのだから。

 「何するんですか!」

 

 「そうだよ! なんなんだよあんた達!」

 

 「アストは敵じゃない!」

 

 いきなり銃を突きつけた兵士達にトール達が声を荒げて、アストをかばうように前に立つ。

 

 こんな時だというのに不謹慎にも頬が緩む。

 

 みんなの反応はとても嬉しかった。

 

 だがこの状況は不味い。

 

 アストがどう切り抜けるか考えようとした時、思わぬところから助けが入った。

 

 「銃を下ろしなさい」

 

 マリューが命じたことで兵士たちも迷いながらも銃を下ろした。

 

 「……アスト君だけではないわよね? キラ君、あなたもでしょう?」

 

 そう言われキラも頷く。

 

 「……ラミアス大尉、これは」

 

 「そう驚くこともないでしょう? オーブは中立だから、戦火に巻き込まれるのが嫌でここに住むコーディネイターがいても不思議じゃないわ。そうでしょう?」

 「ええ、それに僕らは一世代目のコーディネイターですし……」

 

 「両親はナチュラルってことね。いや悪かったな、とんだ騒ぎにしちまって。ただ俺は聞きたかっただけでね」

 全く悪びれる様子もなく、ムウは背を向け歩き出した。

 「俺はこれのパイロットになる予定だった奴らの訓練も見たことがあってな。連中は歩かすのにも苦労してたからさ」

 

 機体を見上げて、一瞬辛そうな顔をしたがすぐ表情を戻し振り返り告げる。

 

 「ま、それはそれとして。いつまでもこんなことしてる場合じゃないと思うけどね。今、外にいるのはクルーゼ隊だ。アイツらしつこいぞ~」

 

 クルーゼ隊といえばザフトの中でもかなり有名な隊の一つだ。

 

 噂では常に特務を任されるほどのエリート部隊だと。

 

 しかし何故この男はそれを知っているのだろうか?

 

 疑問はあるが今はそれどころではない。

 

 とりあえずマリュー達はブリッジへ上がり状況を整理する為の話し合いが行われる事になった。

 

 「―――現状は以上です」

 

 ナタルの説明を聞きマリューは頭を抱えた。

 

 無事だったのは艦内にいた一部の下士官と工員のみ。

 

 ナタルもシャフトの中で運よく難を逃れたらしい。

 

 唯一、重傷とはいえ無事だった士官であるセーファス・オーデン少佐も意識不明。

 

 外にザフトが控えているというにこの状況は絶望的ともいえる。

 

 よくナタル達もこんな状態でアークエンジェルを動かせたものだ。

 

 「状況はわかったよ。オーデン少佐が無事なら少しはマシなんだがなぁ。まあ泣きごと言っても始まらん。俺達でどうにかするしかない」

 

 「……敵もこのままで終わるはずもないし、突破するためにはストライクの力も必要でしょうね」

 

 「あのアストって坊主は了解してるのかい? それとも、もう1人の方かな?」

 

 これにはさすがにナタルが噛みついてきた。

 

 「今度はフラガ大尉が乗ればよいのでは? あんな民間人の、しかもコーディネイターの子供になど任せられません!」

 

 アストがコーディネイターという事で思うところもあるのだろう。

 

 吐き捨てるように言うナタルにムウは焦ったように言い返す。

 

 「おいおい無茶言うなよ。 あの坊主が書き換えたOS見てないのか? あんなもの普通の奴に動かせるわけないだろ。それに自分たちから戦力減らしてどうすんだよ。もちろん俺も出るが、あの坊主とストライクの組み合わせで一つの戦力になるなら使わない手はない。今はどんな物でも戦力になるなら使うべきだ」

 

 正確にはOSを書き換えたのはキラなのだが、余計なことは言わずマリューは別の事を考えていた。

 

 「戦力になるならどんな物でも……」

 

 「どうした? いい案でも浮かんだかい艦長?」

 

 艦長などと呼ばれてもまだ実感もわかないが、とりあえず『アレ』の事については、また改めて考えることにしようと思案をやめた。

 

 「……いえ、とりあえずアスト君には私の方から話をします」

 

 マリューはそのままアスト達のいる居住区へ向うが正直気が重かった。

 

 民間人の子供を戦闘に駆り出さねばならないなど、気の進むものではない。

 

 しかしこの状況では彼の力なくして、突破はできない。

 

 必ず再び敵は来るのだから。

 

 

 

 

 そのころヴェサリウスでは再度攻撃をかけるための準備が進められている。

 

 隊長機とユリウス機は損傷こそなかったものの機体整備のため今回は出撃が見送られた。

 

 その他の残ったジンにはすべてD装備が用意されている。

 

 D装備は要塞攻略戦用の装備でありそれだけ火力も高い。

 

 それを装備させるということは隊長であるラウがここでD装備を使ってでも倒す相手と判断したという事だ。

 

 準備の整った機体から、次々にヘリオポリスに向かって出撃していく。

 

 最後に発進した機体を見届けて整備兵たちも一息つこうとした時だった。

 

 突然奪取した機体が動き出したのだ。

 

 その機体、イージスに乗っていたのは奪取してきた本人であるアスラン・ザラだった。

 

 軽やかな手つきでOSを立ち上げ、機体をチェックする。

 

 アスランにはどうしても確かめたいことがあった。

 

 機体を奪取する時の現場に、幼いときに別れた友キラの姿があったのだ。

 

 信じられなかった。

 

 プラントでの再会を約束した友があんな場所にいるなんて。

 

 「キラのはずがない。でも……」

 

 アスランはまさかとは思いながらも、消せない疑念を払拭する為、動くと決めていた。

 

 周囲から制止する声が聞こえるが、すべて無視しアスランは宇宙に飛び出していく。

 

 ヴェサリウスを飛び出したイージスは突入部隊に合流し、コロニーの中に入っていく。

 

 その時、前を進んでいたミゲルから通信が入る。

 

 《アスラン! 無理やり来たからにはちゃんと役に立ってもらうぞ》

 

 「ああ、わかってる」

 

 命令を無視して来るなど、普段のアスランからは考えられない行動だった。

 

 ミゲルの通信も釘を刺すというよりも、アスランの様子を気にしてのことだったのだろう。

 

 だが今の彼にそのことに気づく余裕はなかった。

 

 

 

 

 アークエンジェルの居住区の一画でマリューが現状説明とアストに対しての協力要請をしていた。

 

 いつまたザフトの攻撃があってもおかしくないからだ。

 

 マリューの話を聞き終えると、キラが言い返そうとしたがアストはそれを遮った。

 

 おそらく「何故自分たちがそんなことをしなければいけないのか」とそんなことを言おうとしたのだろう。

 

 気持ちは解らなくもない。

 

 アストも昔そう思ったことがあった。

 

 [何故だ?]

 

 [どうしてこんな事に?]と。

 

 だが起こってしまったことを、どんなに否定しても意味が無い。

 

 現実は変わらない。

 

 だからアストは躊躇わずに返事をする。

 

 「分かりました。やります」

 

 その返事にキラが驚いた顔をしてアストに詰め寄った。

 

 「アスト、どうしてだよ! アストが戦う必要なんてないよ! 僕たちには関係ないことなんだから」

 

 「そういう訳にもいかないよ。ザフトはまた攻めてくる。誰かがやらないとみんなを守れない」

 

 「……それは」

 

 迷った様にキラは俯く。

 

 こうなる事はわかっていた。

 

 再びザフトが攻めてきた時、戦えるのはアストかキラしかいない。

 

 キラの負った怪我はたいしたものでは無いとはいえ無理はさせられない。

 

 だからこそ自分が行くのだ。

 

 「キラは戦わなくていい。俺がやる」

 

 「アスト……」

 

 キラが心配そうに見ているが「大丈夫」と笑いかけマリューと向き合う。

 

 「ラミアス大尉、俺がやります」

 

 アストの返事を聞いたマリューはひどく申し訳なさそうな顔をして俯いた。

 

 最初は典型的な軍人なのかと思ったが、格納庫でのことや今のやりとりで彼女の人柄を理解していた。

 

 アストやキラはコーディネイターなのだ。

 

 ならば居住区などにいさせることなく、独房に閉じ込めたりすることも地球軍の立場ならしてもおかしくない。

 

 そもそも本当に戦わせたいなら銃を突き付けるなり、人質をとるなりすればいい。

 

 なのに彼女はそれもせずに、わざわざここに来て説明までしている。

 

 それだけで彼女は信用に足る人物と判断するには十分だった。

 

 アストは格納庫へ向い、コックピットに座るとキーボードを叩きストライクの出撃準備を開始する。

 

 装備は『ソードストライカー』と呼ばれる近接戦装備である。

 

 メイン武装は対艦刀『シュベルトゲベール』と肩に装備されたビームブーメラン『マイダスメッサー』、そして盾に装備されているロケットアンカー『パンツァーアイゼン』。

 

 「ソードか……これならランチャー装備の時みたいな事にはならないな」

 

 流石にランチャーストライカーみたいに外壁を破壊してしまうような事はしたくない。

 

 アストが調整を終え、機体を移動させようとしたその時、再び強い震動が起きた。

 

 おそらくザフトが攻めてきたのだろう。

 

 そこに丁度ブリッジから通信が入った。

 

 《アスト君、ザフトがコロニー内に侵入してきたわ》

 

 「分かりました、行きます」

 

 アストは機体を歩かせカタパルトを装着する。

 

 そしてハッチが開き、発進準備が整うと息を思いっきり吐いた。

 

 また戦いの場に出る。

 

 あの紫のジンが来たら―――

 

 アストは余計な考えを振り払うように頭を振り、力一杯フットペダルを踏み込んだ。

 

 ストライクが外に飛び出すと、モニターに映り込んだ光景に絶句する。

 

 見慣れた街並みの姿は無く、周りはボロボロになっていた。

 

 街の所々から煙が上がり、建物が破壊されている。

 

 そこにコロニー内へ突入して来たジンがこちらを発見したのか接近して攻撃を仕掛けてきた。

 

 あの青紫のジンはいないようだが、攻撃を仕掛けてきたジンの装備は見慣れないもので、長い砲身のライフルや大型ミサイルなどを持っている。

 

 「あんなもの使われたら、ヘリオポリスは……くっ」

 

 これまでの損傷でかなり限界に近付いている筈だ。

 

 ここで上手く撃退しなければ!

 

 機体を上昇させてジンへと距離を詰めていく。

 

 こっちは近接用装備で距離を取られたら勝ち目がない。

 

 敵との間合いを測り、一気に加速して斬りかかる。

 

 「はああああ!」

 

 だが敵もただ止まってはおらず、ストライクの攻撃をギリギリで避けながら特火重粒子砲を構えて攻撃を加えてくる。

 

 放たれた光の線にアストは目を見開いた。

 

 「ビーム兵器か!?」

 

 ビーム兵器の攻撃を受ければフェイズシフトであれ、破壊されてしまう。

 

 何とか盾を掲げて防御しながら、攻撃の機会を窺う為、視線を走らせていく。

 

 「くそ! 何とか体勢を崩さないと攻撃が当たらない―――なら!」

 

 イーゲルシュテルンで牽制を行いながら、マイダスメッサーを引き抜きジンに向かって放つ。

 

 一度は避けられるが、放ったブーメランはそのまま飛んではいかずにこちらに戻ってきてジンの足を斬り落とした。

 

 「これで!!」

 

 バランスを崩した隙に懐に飛び込むと、シュベルトゲベールを上段から振り抜いてジンの胴体を真っ二つに切り裂いた。

 

 爆発したのを確認して次の敵に向かおうとするが、その時見覚えのある機体が視界に入ってきた。

 

 「ハァ、ハァ―――あの機体は、あの時の!?」

 

 モニターに映ったもの。それはつい先ほどストライクと共に工場区から一緒に飛び出てきた紅い機体だった。

 

 

 

 

 白い機体とジンの戦闘を見ていたアスランは確信を持つ。

 

 あの動きはナチュラルにできるものではない。

 

 パイロットは間違いなくコーディネイターであると。

 

 アスランは意を決して白い機体のパイロットを確かめるために近づいていく。

 

 「キラ! キラ・ヤマトなら返事をしてくれ!」

 

 だがコックピットにいたのはアスランの予想していた人物ではなく別人だった。

 

 「誰だ!?」

 

 「お前は!!」

 

 アスランは機体に乗っていたのがキラではない事に驚く。

 

 あの機体に乗っているのは信じたくは無くとも―――キラだと思っていたからだ。

 

 だが驚いたのはそれだけではない。

 

 モニターに映ったその顔には見覚えがあった。

 

 工場区で取り逃がした奴である。

 

 何故奴があの機体に乗っている?

 

 疑問に思うアスランに詰めよるように今度は白い機体の方から接近して声をかけてきた。

 

 「……まさか工場区にいたザフト兵か? いや、それよりも紅いガンダムのパイロット! どうしてキラの名前を知っているんだ!?」

 

 ガンダム?

 

 奪取したこの機体のことだろうか?

 

 だがそれよりもこの機体のパイロットはキラの名に反応した。

 

 アスランは再びパイロットに問いかける。

 

 「お前の方こそキラを知っているのか!? あいつは今……」

 

 アスランが続けて問いかけようとした時だった。

 

 「何やってるんだよアスラン! 回り込むから援護しろ!」

 

 「ミゲル!?」

 

 いつまでも動かないアスランに業を煮やしたのか、ミゲルのジンが突撃してくる。

 

 「くっ」

 

 アストは突然の攻撃に反応が遅れるも、回避しながらスラスターを吹かし距離を取った。

 

 機体を上昇しながら砲撃を回避し頭部のイーゲルシュテルンを放つが、ミゲルは軽くかわして当たる事は無い。

 

 「そんなのに当たるかよ!」

 

 さらにミゲルはストライクを狙い、ライフルを放つ。

 

 先ほどの借りをここで返してやる!

 

 「ちょろちょろと!!」

 

 攻撃を避ける敵機に苛立っているのか、ミゲルは毒づきながらミサイルを放った。

 

 これで仕留める事は出来ずとも動きは制限できる筈だ。

 

 しかし白い機体は避けるのではなく小さな盾で防御し、ミサイルの爆発による煙で視界が塞がってしまう。

 

 「くそ、何処だ!」

 

 煙で視界が塞がれた中、あの機体を探して視線をこちらの意表を突くように、広がった爆煙の中から白い機体が飛び出してくる。

 

 そして盾からアンカーを発射してジン腕を掴むと思いっきり引っ張った。

 

 「しまっ……」

 

 体勢を崩したミゲルに向かって、突っ込み巨大な剣を振り下ろし胴体を切り裂いた。

 

 「ぐああああ!!」

 

 「ミゲル―――――!!!」

 

 斬り裂かれ爆散する機体にアスランは叫びを上げた。

 

 周囲を見ると戦艦を攻撃していた他のジンたちも次々撃破されていく。

 

 それが切っ掛けとなりジンの持っていたミサイルが地上やシャフトを次々と破壊してしまった。

 

 そして呆気なく限界は訪れる。

 

 これまでの攻撃に耐えられなくなったのかコロニーにひびが入り外壁が崩れ、凄まじい空気の乱気流が巻き起きる。

 

 「くっ、これまでか」

 

 コロニー崩壊にアスランは一瞬だけ白い機体を見つめ、そのまま離脱を図る。

 

 そして同じようにストライクも乱気流に巻き込まれ身動きが取れない状態に陥ってしまう。

 

 紅い機体もコロニー崩壊に巻き込まれないためか、外に向け離脱していく。

 

 それを追いかける事も出来ず、アークエンジェルに戻ろうとするがそのまま外に流されてしまった。

 

 「うあああああああ!!」

 

 アストの視界は回り、そのまま暗い闇の中へ吸い込まれていった。


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