機動戦士ガンダムSEED cause    作:kia

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第48話  終幕

 

 

 

 未だザフトと同盟軍の激しい戦闘が続く中、満身創痍とも言える状態のディザスターを駆りユリウスはエターナルに辿りついていた。

 

 ハッチが開き、横たわる形で格納庫に着艦するとモニターにバルトフェルドの顔が映る。

 

 「助かりました、バルトフェルド隊長」

 

 《いやいや、余計なお世話かとも思ったけどね》

 

 「ヴェサリウスの方はどうなっていますか?」

 

 《後方で援護に徹してるよ》

 

 どうやら沈んではいないらしい。

 

 内心、安堵する。

 

 あの艦はラウが隊長だった頃から乗船しユリウス自身愛着もあるしクルー達共も長い付き合いだ。

 

 出来れば生き延びてもらいたい。

 

 《すでにゼーベックでは作戦が始まっている。同盟軍の突入に合わせ内部に侵入を開始した》

 

 「分かっています。私も内部に」

 

 《了解だ。ではエターナルはここで支援する》

 

 「了解です」

 

 ユリウスはコックピットから降りると準備を整え、エドガー達に追いつく為に動き出した。

 

 

 

 

 多くのモビルスーツが撃墜され爆発すると閃光に変わる。

 

 そんな暗い宇宙を照らす光に紛れ、イノセントとイージスリバイバルが激突していた。

 

 「アスト・サガミィィ!!」

 

 「くっ、速い」

 

 見た目は似ているが、どうやらオリジナルのイージスとは比較にならない性能を持っているらしい。

 

 イージスリバイバルが繰り出したビームサーベルを後退して回避。

 

 アストはキーボードを取り出し機体状態を正確に把握していく。

 

 イノセントはディザスターとの戦いでかなりの損傷を受けてしまった。

 

 各部スラスターが損傷し、機動性も通常時よりもかなり落ち、操作性も悪い。

 

 武装も頭部機関砲、ビームサーベルが1つ、バルムンク、ナーゲルリング、ワイバーン、ビームライフルのみ。

 

 「残ってるのはほとんど近接戦用の武器だけか」

 

 今の状態でアスランとの近接戦闘は圧倒的に不利だ。

 

 しかし現状でそれしか戦う術がないのも事実。

 

 ならば―――

 

 アストは機体を操縦桿を動かしながら現在可能な機体の挙動を把握していく。

 

 焦る事はない。

 

 こんな風に性能に制限を受けた状態で戦う事にはイレイズで慣れているのだから。

 

 その経験こそが現在アストが唯一アスランに対し優位に立っている事だった。

 

 イージスが左右から振り下ろしてくるビームサーベルをナーゲルリングを使って捌き、その隙にキーボードを叩く。

 

 「どうした! 逃げてばかりか!」

 

 アスランの叫びに合わせビームライフルが容赦なくイノセントに降り注いだ。

 

 「くっ」

 

 機体を後退させ、ビームを避けるとこちらもビームライフルを撃ち返す。

 

 だがバランスが崩れているためか狙いが定まらない。

 

 それによってアスランも気がついた。

 

 元々奴の機体は傷つき万全でない事は分かっていたが、予想した以上に悪い状態らしい。

 

 これは千載一遇の好機だ。

 

 悔しい話だがアストは強い。

 

 アスランもL4会戦以降アストやキラに追いつくために必死で訓練を積んできた。

 

 それでも勝てるかどうか分からない上に、この状況も何時まで続くか―――だからこそ、この好機を逃す訳にはいかない!

 

 「手は抜かない! ここで貴様を倒す、アスト・サガミ!!

 

 ビームライフルを放ちながら背中のドラグーンを放出、イノセントの動きを牽制しながら攻撃を仕掛けた。

 

 「ドラグーンか!?」

 

 背後からの三連ビーム砲をスラスターを噴射させ前方に進む事で回避、今度は正面からのビーム攻撃に晒され、避け切れなかった閃光がイノセントの装甲を掠め抉っていく。

 

 「ぐっ、何て火力だ」

 

 どうやらラウやユリウスが使っていたドラグーンに比べるとかなり火力が高いらしい。

 

 その反面、動きが遅く大きい為に捉えやすい。

 

 「そこ!」

 

 アストはスコープを引き出し、ビームライフルで動き回るドラグーンを狙撃する。

 

 明らかに先程までとは違う正確な射撃、本調子ではないものの明らかに精度が上がっていた。

 

 「やらせるか!」

 

 アスランはドラグーンを操作しシールドを展開するとビームを受け止める。

 

 「ビームを受け止めた!?」

 

 その仕掛けに驚くが同時に納得した。

 

 マユが動揺したのはドラグーンにシールドが装備されていた為だったのだろう。

 

 続けてビームライフルを撃ち込んでいくが尽くシールドによって受け止められてしまう。

 

 「厄介な! まずはあれを排除しないと本体に攻撃できない!」

 

 ビームライフルが通用しないとなると接近して破壊するしかない訳だが、あの火力を潜り抜けるのはかなりのリスクが伴う。

 

 アクイラ・ビームキャノンが使えたならやりようもあったのだが―――

 

 無いものねだりをしても仕方がないとバルムンクでドラグーンに狙いをつける。

 

 しかし、それをさせるアスランではない。

 

 「やらせるか!!」

 

 速度を上げビームサーベルで斬り込んでくる。

 

 彼とてドラグーンを使った遠距離で倒せると思っておらず、狙いはあくまでイノセントを誘導し近接戦で仕留める事だった。

 

 思惑通りドラグーンに集中しているイノセントに上段から斬撃を振り下ろす。

 

 アストは振り下ろされた斬撃にナーゲルリングを叩きつけ弾き飛ばし、その間もキーボードを叩く手を止めず、ようやく調整を終えた。

 

 「これで少しはまともに動かせる!」

 

 操縦桿を握り直し、ペダルを踏み込む。

 

 万全の状態には程遠いものの、先程までと比べれば十分動ける。

 

 三連ビーム砲をすり抜けるようにイージスに肉薄するとバルムンクを横薙ぎに振り抜いた。

 

 「何!?」

 

 「何時までもやられっ放しだと思うな!」

 

 イノセントの動きが変わった事に驚いたアスランはシールドで斬艦刀を受け流し、負けじと脚部のサーベルで斬り返す。

 

 振るわれたバルムンクはとても損傷を受けている機体が放ったとは思えないほど、鋭い斬撃である。

 

 並みのパイロットであれば今の斬撃だけで勝負は決まっていただろう。

 

 やはり奴は甘く見ていい相手ではない。

 

 たとえどれだけ傷ついていようが、アスト・サガミが強敵である事は変わらないのだ。

 

 「貴様こそ、前のように簡単にいくと思うなよ!」

 

 怯む事無く斬り返したビームサーベルが火花を散らし、ナーゲルリングを弾き飛ばす。

 

 アスランは動きの変わったイノセント相手にあえて距離を取る事をしなかった。

 

 確かに態勢を立て直したイノセントの動きは見違えるほど良くなっている。

 

 しかしそれでもまだアスランの方が有利である事は変わらない。

 

 だから近接戦闘で確実に倒す戦法を変えなかった。

 

 「すべては貴様の所為だ! 常に俺の前に立ちふさがり邪魔をしてェェェ!!」

 

 今までの憤りをぶつけるように両足のビームサーベルを展開して蹴り上げる。

 

 「貴様さえいなければァァァ!!」

 

 「前にも言った筈だ! 勝手な事を言うなと!!」

 

 蹴り上げられた左足のビームサーベルをかわし、右足の斬撃をナーゲルリングで弾く。

 

 そしてイージスの態勢が崩れた所に斬艦刀を振りかぶった。

 

 「チィ!」

 

 バルムンクを叩きつけられたイージスはシールドで体勢が悪く受け流せないまま、押し込まれてしまう。

 

 「それにお互い様だろう!! お前の為に死んだ奴だっているんだ!!」

 

 シールドに止められた剣をあえて引き、今度は下から斬り上げるとイージスの腰部を斬り裂いた。

 

 「ぐっ……そんな事はお前に言われなくても分かってる!」

 

 脳裏にマルキオの伝道所で出会った子供達の顔が思い出される。

 

 あの子供達に憎しみと痛みを与えたのは自分達であるとアスランも理解している。

 

 だからこそエドガーに協力する事に決めた。

 

 それでも―――

 

 「それでもお前の事だけはァァ!!」

 

 アスランのSEEDが弾け、鋭く研ぎ澄まされた感覚が全身に広がる。

 

 再び光刃をイノセントに叩きつけ、同時に右足も蹴り上げた。

 

 「ッ!?」

 

 上段から振り下ろされたビームサーベルを避けるが、蹴り上げられた斬撃が肩部を斬り裂く。

 

 「ぐっ!」

 

 「俺は絶対に貴様を許せない! 友を奪い、仲間を殺し、挙句彼女までお前は!」

 

 態勢を崩したイノセントに至近距離からヒュドラを叩きこむ。

 

 「この!!」

 

 ギリギリのタイミングで回避に成功したイノセントにドラグーンによる攻撃が襲いかかる。

 

 「邪魔だ!」

 

 ビームライフルで撃ち落とそうとしてもシールドで受け止められ、四方から連続で放たれるビームが次々装甲を削っていく。

 

 「あの盾は本当に邪魔だな!」

 

 SEEDを発動させた所為かドラグーンは先程より効率的に動きこちらの攻撃を防いでくる。

 

 「はあああああ!!」

 

 スラスターを全開にしながらビームサーベルを袈裟懸けに叩きつけ、イノセントを吹き飛ばす。

 

 「これで終わりだ!!」

 

 両手、両足のビームサーベルを展開、一気に加速して斬り込んだ。

 

 イージスの斬撃を受け、弾き飛ばされたアストは歯を食いしばり衝撃を噛み殺すと敵機を睨みつけた。

 

 すでに余裕はなくコックピットには警戒音が鳴り響いている。

 

 深呼吸しながら、敵機を見据え、絶対の意思を込めて宣言する。

 

 「俺はお前に負ける気なんてない!!」

 

 アストもまたSEEDを発動させた。

 

 スラスターを調整し、イージスの斬撃を上手く流し、隙を見てドラグーンの一つにバルムンクを叩きつける。

 

 「鬱陶しい砲台は、消えてもらうぞ!」

 

 破壊には至らないもののバランスを崩したドラグーンをすれ違いざまにワイバーンで真っ二つに両断した。

 

 「後、残り一つだ!」

 

 「くそ! アスト・サガミィィ!!!」

 

 「アスラン・ザラァァ!!」

 

 2機が互いに斬撃を繰り出しながら激突した。

 

 すれ違い様にアスランの放った一撃がイノセントの装甲を抉り飛ばし、アストがバルムンクでイージスの胸部を斬り払う。

 

 「うおおおお!!」

 

 「はああああ!!」

 

 機体の損傷も気にしないまま2機は激突を繰り返し、ヤキン・ドゥーエ方面に移動していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヤキン・ドゥーエ周辺における戦いはザフトの同盟軍に対する苛烈なまでの攻勢に、焦っているかの様により一層激しさを増していた。

 

 殆どザフトの勝利が決まっているこの戦いにおいて彼らが焦るその理由は誰の目にも明らかだった。

 

 同盟軍の戦艦クサナギにヤキン・ドゥーエの内部に侵入を許してしまったからである。

 

 突入したクサナギを援護するためにレティシア達がその場に留まりながら群がるザフトを迎撃していく。

 

 「くっ、やはり数が違いますね」

 

 「ええ!」

 

 何とか残った機体で踏ん張っているが、完全に劣勢に陥っていた。

 

 大きな戦力差がある上にカガリとアサギは突入部隊を指揮するために戦線を抜け、アイテルやジャスティスが損傷している事も大きい。

 

 しかも数だけでなく、中には新型らしき機体も何機か混じっている。

 

 そんな中、戦線を支えていたのは損傷が少ないスウェアであった。

 

 イザークは各機を指揮しながらビームライフルとガトリング砲を使い分け、群がる敵機を排除する。

 

 「アストレイはアークエンジェルの側面に回れ! スルーズ、オーディンのエンジンに近づけるな!」

 

 指示に従い各機が的確に動いていく。

 

 この戦い、彼がいなければおそらくここまで持ちこたえる事などできなかっただろう。

 

 だからレティシアもラクスも余計な事はせず彼のサポートに回っていた。

 

 その方が効率よく、さらに同盟軍の力を発揮できると踏んだのだ。

 

 それが上手く噛み合い、各機とも非常に良い連携が取れている。

 

 アイテルがグラムでジンを斬り裂き、ジャスティスがビームライフルでシグーを撃ち落とす。

 

 「不味いですね」

 

 「このままでは―――」

 

 いずれその物量で押し切られてしまうだろう。

 

 どうにかこの状況を打開しないと、全滅する。

 

 接近してきたゲイツをビーム砲で迎撃しようとしたその時、上方から放たれた砲撃によって撃ち抜かれた。

 

 「新手か、いや、あれは―――」

 

 敵を撃ち落としながら、こちらに急速に向かってくる機体が見えた。

 

 「ターニングか!」

 

 「皆さん、無事ですか!?」

 

 マユはホッと胸を撫で下ろす。

 

 どの機体も傷ついてはいるが全員、無事らしい。

 

 間に合ったと安堵するとアグニ改を腰だめに構え敵機を薙ぎ払い戦線に加わった。

 

 「ここは通しません!」

 

 ターニングの参戦によって多少は余裕が出来るものの、それでもジリ貧ある事に変わりはない。

 

 ラクスは周囲を見渡す。

 

 持久戦になればこちらに勝ち目はない。ならば早く決着をつける以外に道はないだろう。

 

 「……ドミニオン、聞こえますか?」

 

 「ラクス?」

 

 《どうした?》

 

 「ドミニオンにはまだ核ミサイルが残っていますよね? 私がジェネシスまで運んで撃ち込みます」

 

 《なに!?》

 

 「ラクス!?」

 

 「このまま何時までも持ちこたえる事は出来ません。ならば先にジェネシスを破壊してしまえば撤退も可能ですし、カガリさん達の援護にもなります」

 

 そもそも同盟軍の目的はジェネシスの無力化、及び破壊であり、ザフトと戦う事ではない。

 

 司令室を押えるかジェネシスさえ破壊してしまえば後は脱出するだけでいい。

 

 しかしカガリ達の作戦が成功するのを待っているだけでは持たない為、こちらでもジェネシス破壊に動こうという事である。

 

 しかし―――

 

 「それでは戦力を分散する事になってしまうぞ」

 

 「しかし他に状況を打開する方法はありません」

 

 イザークの指摘通り、この状況で少ない戦力を分散させるなど自殺行為である。

 

 だが他に策がないのも事実だった。

 

 「それに行くのは私だけですから、大丈夫です」

 

 ラクスの言葉に今度はマユが反論した。

 

 「なっ、無茶ですよ! 万全ならともかく、今の状態でこの数を突破するなんて!」

 

 「いえ、ザフトの目はヤキン・ドゥーエに向けられています。岩の残骸に紛れていけば最小限の戦闘で済みます」

 

 《確かにな。ザフトは完全にこちらの迎撃に集中しているようだし》

 

 《しかしアルミラ中佐、その間は我々だけで敵を迎撃する事になりますよ》

 

 《だがこのままでも敵に押し込まれてしまう》

 

 「それよりはまだこちらから仕掛けた方が良いでしょう」

 

 ラクスの言葉にレティシアはため息をついた。

 

 確かに現状のまま戦っていても追い込まれていくだけ。

 

 賭けになるが、このままよりは生き残れる可能性も高くなる。

 

 「……分かりました。ただし行くのは私です」

 

 今のジャスティスの状態では無理だと判断したのだが、そんなレティシアの提案をラクスはあっさり却下した。

 

 「駄目です。ジャスティスよりはアイテルの方が損害は少ないですから、レティシアはこちらに残ってください」

 

 「しかし、その機体で―――」

 

 「では私も行きます!」

 

 「マユ!?」

 

 「ジャスティスだけでジェネシスに辿りつけるか分かりません。万が一敵に遭遇した場合護衛が必要です。幸いターニングは損傷も少ないですから」

 

 反論は無かった。

 

 いや、できなかったというのが正しい。

 

 ジャスティスとターニングが抜けるのは厳しい。

 

 しかし生き残る為に、守るために出来る事をするしかない。

 

 「……では、それでいくぞ!」

 

 「「「了解!」」」

 

 ジャスティスがドミニオンの格納庫に入り、核ミサイルを受け取るとターニングと共にジェネシスに向かう。

 

 「ラクス、マユ、必ず戻ってください」

 

 「はい、必ず!」

 

 「レティシアもですよ」

 

 ビーム砲で2機の離脱を援護しながら、敵機を撃墜する。

 

 「良し、司令室を押えるか、ジェネシス破壊まで持たせろ!」

 

 「「「了解!」」」

 

 スウェアに続くように各機も動き出す。

 

 ここが同盟軍の正念場であった。

 

 

 

 

 

 

 外で作戦が開始され各自が奮戦していた頃、ヤキン・ドゥーエ内部でも戦いは続いていた。

 

 要塞内部もかなりの混乱状態であり、戦闘による震動により激しく揺れて、さらに警戒音が鳴り続ける。

 

 そんな中をカガリ達、突入部隊が駆け抜けていた。

 

 もちろんザフトもこちらの侵入を阻むために兵士達が道を塞ぎ、それを突破しようと激しい銃撃戦が繰り広げられていく。

 

 「まだ司令室に辿りつけないのか?」

 

 「データではもう少しのはずだが」

 

 キサカの持つ手元の小型端末にデータが表示されている。

 

 これによればもうすぐ司令室に繋がるエレベーターがあるはずだ。

 

 「カガリ様、抵抗が激しすぎますよ!」

 

 正面にはかなりの兵士達がバリケードを作り、激しい銃撃を行っている。

 

 どうにかあれを突破しなければ前には進めない。

 

 「分かってる! しかし退く訳にはいかない。外では皆が私達を信じて戦っているんだからな!」

 

 とはいえこのままでは―――

 

 カガリ達が攻めあぐねていた時、反対側の通路から声が聞こえた。

 

 何か言い争うような声だ。

 

 さらに発砲音が聞こえると、何かが転がるような音が聞こえる。

 

 「伏せろ!!」

 

 キサカがアサギと共にカガリに覆い被さる。

 

 その瞬間、反対側で大きな衝撃と爆音がカガリ達に襲いかかった。

 

 「ぐっ」

 

 「な、なんだ?」

 

 凄まじい閃光が視界を塞ぎ、その中から道を塞いでいたザフト兵の声が聞こえてくる。

 

 「ぐううう」

 

 「貴様ら、どういう――」

 

 次々と人が倒れていく音が響いてきた。

 

 視界を覆っていた閃光が薄れ、煙が晴れる。

 

 その中から現れたのはメンデルで出会った男だった。

 

 カガリにとって一生忘れる事などできないだろう出来事の発端となった人物。

 

 「ユリウス・ヴァリス」

 

 警戒するように彼の周囲を見ると先程までこちらと交戦していたザフト兵達が倒れている。

 

 呻くような声が聞こえてきているという事は殺してはいないらしい。

 

 どういう事なのか確かめようと銃を構えようとするキサカ達を制し、正面からユリウスを見据える。

 

 「……どういう事か聞いてもいいか?」

 

 「……私に聞くより、彼に聞け」

 

 ユリウスの後ろから兵士と共に歩いてきたのは―――

 

 「初めまして。私はエドガー・ブランデルという者だ」

 

 その名には覚えがある。

 

 『宇宙の守護者』と呼ばれたザフトの英雄である。

 

 「何故こんな事を? 貴方達の目的は何だ?」

 

 「時間もない。率直に言うと私達も君達と目的は同じだ。ジェネシスを止める」

 

 「では……」

 

 「君達と敵対する気はない」

 

 普通ならば疑ったりするべきなのだろうが、時間が無い。

 

 彼らが動く事でザフトはさらに混乱しこちらも動き易くなる。

 

 敵対する気がないなら、それだけでもありがたい。

 

 「……分かった。こちらも貴方達の邪魔をする気はない」

 

 「ああ、指令室はすぐそこだ。それまでは君達と協力したい」

 

 本来ならばエドガー達に協力など必要ないが、今後の事を考えれば同盟軍と協力しておくのはこちらにとって損はない。

 

 「分かった」

 

 カガリとエドガーは数名の兵士を率いて指令室に向って駆け出す。

 

 邪魔をしてくる敵を倒しながらエレベーターに乗り込み、指令室の前に辿りつくと銃を持った兵士達が飛び込んだ。

 

 銃を持った兵士達の乱入により、オペレーター達が激しく動揺し司令室はあっという間にパニックになる。

 

 だが1人だけは動揺など微塵もせず憤怒の表情でこちらを睨みつけていた。

 

 「ここまでですよ、ザラ議長閣下」

 

 「ブランデル、やはり裏切り者は貴様かァァ!!」

 

 その様子に辟易したようにエドガーはため息をついた。

 

 確かにここに踏み込んで来た時点で裏切ったともいえるだろうが。

 

 まあ元々彼に何を話しても無駄である事は承知している。

 

 おそらくラウ・ル・クルーゼの話をしても信じはしないだろう。

 

 「もはや貴方に何を話しても無駄という事は分かっていますから、余計な事を言う気はありません……ジェネシスを止めてもらうぞ」

 

 「ふざけるなァァ!!」

 

 怒りに任せ懐から取り出した銃でエドガーを撃ち殺そうと引き金に指をかけた。

 

 だが狙われた本人は特に動じた様子もなく、何か哀れむような目でパトリックを見ている。

 

 彼は冷静さを無くしていた。

 

 いや、すでに正気ではなかったという方が正しいだろう。

 

 エドガーの周りには数名のザフト兵達、さらには同盟軍の突入部隊も銃を構えている。

 

 ならばどうなるかなど誰でもわかる事だ。

 

 予想した通りパトリックが引き金を引く前に素早くユリウスに銃を落とされ、さらに兵士達によって肩と足を撃ち抜かれた。

 

 「ぐあああ!!」

 

 無重力の為か流される様に後ろの机にぶつかったパトリックに先程と同じ様にエドガーが告げる。

 

 「終わりだ、パトリック・ザラ」

 

 それは司令室にいた誰もが実感し、さらにその事で共通の思いを持った。

 

 ―――これで撃たなくて済むと。

 

 だが、パトリックだけは違っていた。

 

 ジェネシスが存在する限り、負けはないとそんな狂気を抱いたままエドガーを睨みつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 キラはゆっくりと意識が戻っていくのを感じ、ゆっくり目を開くとモニターに映ったヤキン・ドゥーエの姿が見える。

 

 「……皆は」

 

 所々で大きな閃光が発生しているという事は戦闘は続いているという事だ。

 

 「しっかりろ! まだやる事はあるんだ!」

 

 朦朧とする意識をはっきりさせる為に頭を振ると、機体状態を確認する。

 

 フリーダムはほとんど大破に近い状態だった。

 

 左足と右腕は欠損、左翼は破壊され、各部装甲も抉られPS装甲も作動していない。

 

 武装も右翼のバラエーナプラズマ収束ビーム砲とクスフィアス・レール砲のみで残りはすべて破壊されたか喪失している。

 

 さらに左のレール砲は最後に受けた攻撃の影響かよく動かない。

 

 「これじゃ、戦闘は無理か……」

 

 それでも幸いな事に背中のメインスラスターは無事であり、これなら何とか動く事は出来るだろう。

 

 どうにかして皆の下に駆けつけようとキーボードを取り出すと、キラの目に見覚えのある2機が高速で移動しながら攻防を繰り返しているのが見えた。

 

 「あれはイノセントに―――イージス!?」

 

 かつてアスランが搭乗していた機体。

 

 いや、造形がよく似た機体というのが正しい表現である。

 

 「ザフトの新型?」

 

 ではパイロットは―――まさかとは思うがアスランだろうか?

 

 彼が乗っていた可変型はかなりの損傷を受け、とても戦闘可能な状態ではなかった。

 

 その為に乗り換えた可能性はある。

 

 キラにはイージスに乗っているのはアスランしかいないと確信していた。

 

 そしてその推測は当たっている。

 

 激しい戦いは紛れもなくアストとアスランのものだったのだから。

 

 

 

 

 

 

 キラが目撃していた2人の戦いは激しさを増し、イノセントとイージスがすれ違う度に斬撃を繰り出していく。

 

 「アスト・サガミィィ!!」

 

 「アスラン・ザラァァ!!」

 

 戦いはほぼ五分の状態。

 

 それはまさにオーブ沖で起こった決戦の再現であった。

 

 イージスの繰り出す斬撃をナーゲルリングで受け止め弾き飛ばすと、バルムンクで斬りかかる。

 

 前回のアスランはイレイズの斬撃をかわす事が出来ず、無様に反撃を受けていたが今回は違う。

 

 「くっ!」

 

 「言っただろう、前と同じだと思うなと!」

 

 バルムンクは弾かれ、右足のビームサーベルを蹴り上がってきた一撃をナーゲルリングで受け流すが、捌き切れない。

 

 「流石に腕を上げてるな!!」

 

 以前のように体勢を崩せない分、アストは攻めあぐねていた。

 

 これは機体状態の悪さもそうだがアスランの技量と機体性能の向上が大きく影響している。

 

 同じ轍を踏む気はないという事だろう。

 

 だが、だからアスランが優位という訳ではない。

 

 「くそ、しぶとい!」

 

 胸の内で燻る焦燥が彼自身を追い詰めていた。

 

 戦闘開始直後は間違いなく、こちらの方が有利であった。

 

 それがいつの間にか五分の状態に持って行かれるとは、それだけでも驚愕すべき事だろう。

 

 しかし、だからと言って怯む気も退く気はなかった。

 

 「今度こそ俺は貴様を殺す!!」

 

 溢れ出る殺気を叩きつけるようにビームサーベルで斬り込んでいく。

 

 光刃を流したイノセントに右足の蹴りを叩きつけるとそれを当然のように受け止めるアストにアスランは笑みを浮かべた。

 

 狙い通りだったからだ。

 

 蹴りを止めた事で動きを鈍らせた敵機にドラグーンのビーム砲を撃ち込むと同時に機体を回り込ませビームサーベルを一閃する。

 

 流石にこれならば奴もかわしきれない。

 

 それだけ会心の攻撃であった。

 

 だからこそ次の瞬間、アスランは驚愕で固まってしまう。

 

 「何だと!?」

 

 斬撃を繰り出しイノセントを仕留めた筈のイージスの右腕が斬り飛ばされていたからだ。

 

 イノセントはアスランの行動を予測していたかのようにビームサーベルを振り抜く前に背中のワイバーンを展開してイージスの腕を斬り落としていたのだ。

 

 「動きを読まれていたのか!?」

 

 予想外の出来事で固まったアスランの隙を付き、アストは回し蹴りを叩き込むとイージスのビームライフルを弾き飛ばした。

 

 「ぐぅ、まだ!」

 

 ドラグーンを操りイノセントを牽制すると体勢を立て直そうと距離を取るがそれは完全に失策だった。

 

 「いい加減に落とさせてもらうぞ!」

 

 正直アストにとってこのドラグーンの存在はかなりの驚異であった。

 

 今の機体状態では四方から来る攻撃は神経をすり減らしたし、さらにこちらの攻撃を受け止める遠隔のシールドなど面倒極まりない。

 

 だからこそ最初からドラグーンを主に狙っていたのだ。

 

 ビームライフルを連射しながらドラグーンの動きを誘導すると残ったビームサーベルを抜て投げつけた。

 

 連続で放たれたビームによって体勢が崩されたドラグーンはシールド面でビームサーベルを受け止められない。

 

 「そこだ!」

 

 そのままビームサーベルが突き刺さりバランスを崩したドラグーンにビームライフルを撃ち込むと完全に破壊した。

 

 「これでもうドラグーンは無いだろう!」

 

 スラスターを噴射するとイージスにバルムンクを構えて斬り込んでいく。

 

 「この!!」

 

 アスランもまた怯む事無く反撃に転じた。

 

 イージスが蹴り上げたビームサーベルでイノセントのビームライフルが切断され、残ったライフルの残骸を投げつけた隙にバルムンクを振り下ろす。

 

 「いい加減に!!」

 

 「俺は貴様にだけは!!」

 

 振り下されたバルムンクの一撃で掲げたシールドが真っ二つに切断されてしまう。

 

 しかしアスランは構う事無くイージスを加速させイノセントに衝突、さらにスラスター出力を上げていく。

 

 組み合った2機が向っていく先にあるのはヤキン・ドゥーエである。

 

 「うおおおお!!」

 

 「要塞の中に押し込む気か!?」

 

 これはアスランの賭けだった。

 

 ドラグーンが落とされた以上はもはや優位に立っているのは自分ではない。

 

 このまま戦い続けるよりは要塞内の限定空間で戦った方がまだ勝機があると敵の武装を見て判断したのだ。

 

 イノセントの残った武装は頭部機関砲、バルムンクとナーゲルリングそしてワイバーンのみ。実弾兵器の機関砲と実体剣のナーゲルリングを除き限定空間ではあまりに使い難い物ばかりだ。

 

 それに比べればイージスの方がまだ小回りの利く武装である。

 

 「まだ勝機はある!」

 

 「チッ!」

 

 そのまま2機はヤキン・ドゥーエに突入していく。

 

 絡み合って要塞の中に突入していく2機の姿をレティシアは目撃していた。

 

 「アスト君!?」

 

 イノセントは見る限りボロボロでとても戦闘が出来る状態ではなかった。

 

 「あんな状態で戦闘を!?」

 

 レティシアは飛び出しそうになるのを必死に堪える。

 

 同盟軍はギリギリの状態である。

 

 ここで自分が抜けたら敵を抑えきれなくなるかもしれない。

 

 焦る自分を押し殺してグラムで敵を両断し、ビーム砲を連射して敵を牽制する。

 

 その時、隣で戦っていたイザークが叫んだ。

 

 「行け!」

 

 「え、イザーク君?」

 

 「奴の所に行け! 奴なら心配ないとは思うが、あの状態だからな。迎えくらいは必要かもしれん!」

 

 イザークにもイノセントの姿が見えていたのだろう。

 

 要するに助けに行けと言ってくれているのだ。

 

 しかし―――

 

 「それではここの守りが!」

 

 「ふん、それくらい何とかしてやる! いいからさっさと行ってこい!」

 

 「……ごめんなさい。しばらく頼みます!」

 

 邪魔な敵機をあっさり撃墜するとアイテルも2機を追ってヤキン・ドゥーエに突入した。

 

 ガトリング砲で敵を撃ち落とすとイザークはため息をついた。

 

 「全く……」

 

 あんな集中力の欠けた状態で戦っていても邪魔になるだけだ。

 

 アイテルの抜けた穴を狙って放たれた攻撃がスウェアの装甲を抉り破壊していくが構わない。

 

 確かにレティシアの抜けた穴は大きいがもうすぐ来るはずだ。

 

 補給を受けている間に確認してきた。

 

 本人もかなりやる気だったようだし、必ず来る。

 

 ビームライフルを構え狙いをつけた時、彼が待っていた者が駆けつけてきた。

 

 「待たせた!」

 

 「遅いぞ!」

 

 スウェアの隣には応急処置を終えたトールの搭乗するアドヴァンスデュエルが佇んでいた。

 

 破壊された腕には予備パーツを装着して抉られた胸部装甲は排除されている。

 

 一部武装は破壊されたままだが、十分戦える状態まで修復されていた。

 

 「トール、ここからが一番きついぞ」

 

 「分かってるって!」

 

 2人はニヤリと笑みを浮かべて頷く。

 

 「そうか、では最後まで付き合ってもらう!」

 

 「ああ!」

 

 互いに武器を構えると依然として襲いかかってくる敵の迎撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

 ラクスとマユは出来るだけ敵を避け、ジェネシスに向かって残骸を縫うように移動していた。

 

 予測していた通りザフトの目はヤキン・ドゥーエに向かっているらしく、敵機の数が少ない。

 

 しかしボアズの残骸を排除しようと何機かのモビルスーツが展開しているらしくラクス達の行く手を阻んでいた。

 

 「はあああ!!」

 

 敵機をクラレントとアグニ改を使い分け、ジャスティスに近づく敵機を排除していく。

 

 「マユ、大丈夫ですか?」

 

 「はい。私は平気です」

 

 戦闘は今のところ問題はないが、時間はそうはいかない。

 

 焦りを押し殺し前へ進んでいく2機はようやく瓦礫を抜け、ジェネシスに接近したのだが、目の前には多くのモビルスーツが展開していた。

 

 「まだこんなに」

 

 ジャスティスが戦闘に参加できない以上は自分が敵機を迎撃していくしかない。

 

 敵もこちらの存在に気がつき、攻撃を加えてくる。

 

 「ラクスさんは離れてください!」

 

 クラレントを構え敵部隊に突っ込んでいく。

 

 ゲイツを袈裟懸けに両断すると、グレネードランチャーでジンを撃墜する。

 

 「そこを退いてください!」

 

 特務隊との戦いを終えたマユの技量はここにきて、さらに向上していた。

 

 彼女を止められる者は誰もいなかった。

 

 「次は―――ッ!?」

 

 順調に敵を落としていたマユは唐突に動きを止める。

 

 ターニングの正面からモビルスーツが近づいてきたのだ。

 

 しかもその機体は―――

 

 「あれはメンデルで戦った機体―――」

 

 目の前には半壊状態とはいえ見間違う事のない機体コンビクトがビームサーベルを構え立ち塞がっていた。

 

 装甲は傷つき、左腕を失い、特徴的である背中のバーニアも損傷している。

 

 それでもかつて戦った時と同じく強者の風格のようなものは少しも薄れていない。

 

 よりにもよってこんな時にこいつが出てくるとは。

 

 「……ここから先には行かせない」

 

 シリルは割れたバイザー越しにターニングを睨みつける。

 

 スウェンとの戦いであれだけの爆発に巻き込まれたシリルも機体同様深いダメージを受けていた。

 

 このままでは命にかかわる。

 

 普通ならば後退するのが冷静な判断だろう。

 

 それでも彼の戦意はまったく衰えていなかった。

 

 「くっ、時間がないのに!」

 

 今もヤキン・ドゥーエではギリギリの状態でみんなが必死に戦っている筈。

 

 こいつと戦っている暇はないが、敵の様子から見ても見逃してくれそうもない。

 

 「やるしかない!」

 

 マユは先手必勝とばかりにコンビクトにアグニ改を叩き込む。

 

 しかし放たれたビームを軽やかな動きで避けたコンビクトはビームサーベルで斬り込んでくる。

 

 「そんなものが当たると思うか!」

 

 「あの機体状態でかわした!?」

 

 次々と繰り出される斬撃がターニングを傷つけ破壊していく。

 

 放たれた攻撃はどれも必殺の一撃。

 

 とてもあれだけの損傷を受けた機体とは思えない。

 

 「でも私だって負けない!」

 

 繰り出されるビームサーベルをシールドで捌き、クラレントを一閃してコンビクトの腰部を斬り裂いた。

 

 「ぐっ、さらに腕を上げたか」

 

 「そこを退いてください!!」

 

 コンビクトとターニングの戦いはほぼ互角だった。

 

 ラクスも加勢したいのだが、核ミサイルがある。

 

 このままでは―――

 

 「……これしかないですね」

 

 これだけはやりたく無かったが仕方がない。

 

 ラクスはペダルを踏み込みスラスターを噴射させ、敵部隊へと突っ込んでいく。

 

 「ラクスさん!?」

 

 当然敵部隊も突っ込んでくるジャスティスを迎撃しようとビームを撃ち込んでくる。

 

 ミサイルに当たらないように回避行動を取りつつ、通信回線を開いた。

 

 「私はラクス・クラインです。ザフトの皆さんそこをどいてください」

 

 突然敵機から聞こえてきた声にザフトのパイロット達は一瞬硬直した。

 

 「えっ、これってラクス様?」

 

 「いや、だって事故で亡くなられたはずじゃ」

 

 動きを止めた敵機を無視して戦場を突っ切っていく。

 

 ラクスは思わず唇を噛んだ。

 

 決別したはずのかつての自分―――プラントの歌姫ラクス・クライン。

 

 それをこんな時とはいえ利用するなんて、自分自身に激しい嫌悪感が湧いた。

 

 「何をしている! ラクス様の筈はない! これは敵の罠だ!」

 

 「くそ!」

 

 ザフト機が平静を取り戻し、再びジャスティスに攻撃を再開する。

 

 元々長い間動きを止めるなんて思っていない。

 

 あくまで時間稼ぎである。

 

 ラクス自身、自分にそこまでの力はないと自覚している。

 

 「でも距離は稼げました。もう少し!」

 

 しかしザフトも逃がさないとジャスティスの進路を阻むようにビームを撃ち込んでくる。

 

 先程の手はもう通用しないだろうし、どうにか突破しなくてはならないのだが。

 

 その時、放たれたビームの一射が核ミサイルを掠めていく。

 

 「ッ!?」

 

 ラクスは咄嗟に核ミサイルをジェネシスに投げつけるが、まだ少し距離がある。

 

 傷つけられた影響か、ジェネシスまで届かず途中で爆発してしまった。

 

 「くっ……仕方ありません」

 

 もう1つだけ破壊する手段はある。

 

 迷っている時間はない。

 

 もう1の手段を実行するためにラクスは敵を迎撃しながらジェネシスに機体を向けた。

 

 そしてジェネシスに向ったラクスを追いかるため、マユもコンビクトと決着をつけようとしていた。

 

 「なんで! なんであんなものを守るんですか!」

 

 「プラントを守るためだ!」

 

 コンビクトのビームサーベルを弾き、クラレントを逆袈裟に振って左肩部を切断した。

 

 しかしシリルも振り向き様にターニングの腰部を破壊する。

 

 「あれはすべてを滅ぼす悪魔の兵器です! あれが放たれるだけで地球の人達はみんな死んでしまう!」

 

 「ジェネシスを撃つことが正しいとは言わない。しかし現実に地球軍は核を使用してくる。今回は防がれたが次に撃たれないという保証はない! だからこそ撃たせないための抑止がいるのだ! それに核を先に使って来たのは地球軍なんだ! これくらいは当然だ!」

 

 「先か後かなんて関係ありません! 貴方達だってジェネシスを撃ちました! お互い様です! なのに自分達は地球軍とは違うってどこがですか! 私から見ればどちらも変わらない!」 

 

 斬り払われたビームサーベルを受け止め、弾け合うと距離を取った。

 

 「……これ以上は何を言っても無駄だな」

 

 「……私にも大切な人達がいるんです。だから絶対に撃たせない!」

 

 睨みあう2機が互いに武器を構える。

 

 これが最後の激突―――2人のSEEDが弾けた。

 

 スラスターを噴射させて、加速すると2機が交差する。

 

 「貴方を倒す!!」

 

 「やらせない!!」

 

 クラレントがコンビクトを袈裟斬りに斬り裂き、コンビクトのビームサーベルがターニングの左腕を斬り飛ばしていた。

 

 勝ったのはマユであった。

 

 今回の勝負はまぐれではない。

 

 マユ自身の技量でシリルを打ち破ったのだ。

 

 「……やはりメンデルで、倒しておく、べきだったか」

 

 マユはそのままラクスを追って離脱すると、斬り裂かれたコンビクトは爆散し、大きな閃光を作り出した。

 

 「ハァ、ハァ、やった。ラクスさん、どこに?」

 

 残った腕でクラレントを振るい邪魔する敵を撃破しながらジェネシスに接近したマユはラクスを探すと中央に向かう姿を発見した。

 

 ジャスティスは損傷を受けている為か速度が遅い。

 

 万全の状態ならば追いつく事が出来なかっただろう。

 

 「ラクスさん!」

 

 「マユ!?……良く聞いてください。核ミサイルは破壊されてしまいました。ですからこれからジャスティスを核爆発させます。急いでここから離脱を」

 

 マユは一瞬だけ驚くが、すぐに状況を理解するとコックピットを開く。

 

 「分かりました。ラクスさん、早くこちらに!」

 

 ラクスには一瞬だが迷った。

 

 もしかしてあの時プラントを出ずにいればこんな事になる前に防げたのではないかと。

 

 それを見過ごしてしまった。

 

 今がその償いの時ではないかと、そんな事を考えてしまった。

 

 キラ達に話せばきっと「そんな事はない」と言ってくれるだろう。

 

 でもどこかでそんな事を考えている自分がいた。

 

 馬鹿馬鹿しく、そして思い上がりも甚だしい。

 

 そもそもキラに帰って来てと約束させたのはラクス自身ではないか。

 

 それを自分から破棄するなど、自分勝手にも程がある。

 

 「……そうですね。少し待ってください」

 

 マユはジャスティスから降りたラクスの手を取るととターニングのコックピットに引き込み、そのまま一気に離脱した。

 

 

 

 

 外側でジャスティスが爆発する数瞬前にジャネシス内部にエドガー達が仕掛けが作動する。

 

 内部に仕掛けてあったのは半壊状態のジュラメントだった。

 

 ジュラメントが核爆発を起こす数瞬後、ジャスティスもまた自爆すると、2つの爆発がジェネシスを包み、破壊した。

 

 

 

 

 その様子はヤキン・ドゥーエの司令室でも確認できた。

 

 誰もが破壊されたジェネシスを呆然と見ている。だが一番ショックを受けていたのは間違いなくパトリック・ザラであった。

 

 「ば、馬鹿な」

 

 撃たれた足を引きずるようにモニターを見る。

 

 ここに決着はついた。

 

 司令室にいた誰もが脱力したようにその場に座り込む。

 

 「ジェネシスも破壊された。もう終わりだ」

 

 あえて先程と同じ様にパトリックに言い放った。

 

 しかし呆然としていたパトリックは突然狂ったように笑いだした。

 

 「ふふふ、ふはは、はははは!!……やってくれたな、ブランデル! だがこのままでは終わらんぞ!!!」

 

 パトリックは机の端末を操作し始めた。

 

 その様子は尋常な様子ではなく、まさに狂人。

 

 嫌な予感に駆られたカガリはパトリックに飛びかかると体当たりで突き飛ばす。

 

 「何をする気だ! やめろ!」

 

 「このナチュラルがぁ!」

 

 無事な腕でカガリを殴り飛ばそうとしたパトリックに今度はエドガーが割って入る。

 

 「ブランデル!!」

 

 「見苦しいぞ、パトリック・ザラ!」

 

 振るわれた拳を軽く避け、顔面に拳を叩きつけると思いっきり振り抜いた。

 

 殴り飛ばされたパトリックは床に叩きつけられ、気絶すると兵士達に取り押さえられる。

 

 「カガリ!」

 

 「もう無茶しないでくださいよ!」

 

 キサカとアサギが心配そうにカガリに駆け寄る傍らエドガーはため息をつくと操作された端末を急いで確認する。

 

 「これは……」

 

 「どうしたんだ?」

 

 「全員、急いで脱出しろ! ヤキン・ドゥーエの自爆装置が作動している!」

 

 エドガーの叫びに全員が固まった。

 

 「解除は?」

 

 「無理だ、間に合わん! 脱出するしかない!  急げ!!」

 

 その言葉に恐慌を起こしたようにザフト兵が飛び出していく。

 

 固まっていたカガリも正気に戻ると即座に指示を出した。

 

 「私達も脱出するぞ!」

 

 「「了解!」」

 

 全員が司令室から脱出すると、格納庫に向かって走り出した。

 

 

 

 

 ヤキン・ドゥーエに突入したアストとアスランの戦いは最後の局面を迎えていた。

 

 放置されたモビルスーツや戦艦の残骸など薙ぎ払いながら機関砲で相手を牽制、移動しながら攻防を繰り返していく。

 

 イージスのビームサーベルを弾きながら、バルムンクを振るおうとするが―――

 

 「ここではその剣は振れないだろう!」

 

 「チッ、それが狙いか」

 

 アスランは賭けに勝った。

 

 目論見通りにアストは上手く武装を使えていない。

 

 確かにここではバルムンクが上手く振れず、イノセントは先程から防戦一方になっていた。

 

 「はあああ!!」

 

 ビームサーベルを袈裟懸けに振るい、さらに右足でビームサーベルを蹴り上げる。

 

 「避け切れない!?」

 

 回避するために後ろに下がろうとするが、ここは狭い要塞内。

 

 身動きが取れずイージスの斬撃がイノセントの胸部を抉った。

 

 「ぐっ、この!」

 

 斬り裂かれたと同時にバルムンクをイージスに向けて投げつけると右足を抉る。

 

 「まだだ!」

 

 右足を傷つけられバランスを崩したイージスはそれでもヒュドラを放った。

 

 バランスが崩れている為、当然狙いが甘い。

 

 それでもアスランの執念か、イノセントの右腕に直撃し消し飛ばした。

 

 「うああああ!!」

 

 その反動でイノセントは背中から倒れ込んでしまう。

 

 それはアスランにとっての最大の好機だった。

 

 「俺の勝ちだァァ!!」

 

 倒れ込んだイノセントにビームサーベルを振りかぶった。

 

 今のイノセントに残された武装ではイージスは止められない。

 

 「俺は―――」

 

 様々な事が脳裏に浮かび、消えていく。

 

 このままここで終わる。

 

 俺はまだ―――

 

 「あれは!?」

 

 その時、視界に入ってきた物を見た瞬間に機関砲のトリガーを引いていた。

 

 無論そんなものはイージスには通用しない。

 

 無駄な足掻きだとアスランは無視した。

 

 「終わりだ、アスト・サガミ!!」

 

 それがこの戦いの結末を決定した。

 

 イノセントの機関砲が狙っていたのはイージスの背後に漂っているモビルスーツの残骸であった。

 

 ここに来るまでに薙ぎ払ってきた物の一つだろう。

 

 機関砲に撃ち抜かれた残骸が小規模ながら爆発を引き起こし、イージスの背後から衝撃が襲った。

 

 「ぐっ」

 

 爆風でイージスは一瞬バランスを崩してしまう。

 

 それがアスト最後の好機であった。

 

 「今だァァ!!」

 

 残った左腕に取り外したワイバーンをマウントすると袈裟懸けに振り抜いた。

 

 「何!?」

 

 それは完全に予想外。

 

 ワイバーンは背後の敵を斬り裂く為の武装だと勝手に思い込んでいたアスランに避ける術は無い。

 

 「うおおおおお!!」

 

 展開されたビームソードがイージスを下腹部から斜めに切断した。

 

 そして斬り裂かれた下腹部が凄まじい爆発を引き起こし、巻き込まれたイノセントは壁に叩きつけられ、ついにPS装甲が落ちてしまった。

 

 「ぐうううう」

 

 全身を襲う爆発の余波をなんとかやり過ごし、操縦桿を動かすが、完全に反応がなくなってしまった。

 

 「くそ、全く反応なしか」

 

 これ以上は無駄だと判断し、コックピットから降りた。

 

 内部は今までの戦いの影響か残骸が散乱し爆発の振動も伝わってくる。

 

 一瞬このまま指令室に向かうか迷うが、自分の武器は拳銃一丁のみ。

 

 流石に無謀すぎる。

 

 「……脱出すべきか―――ッ!?」

 

 アストは咄嗟に前に飛び込むように伏せると、次の瞬間乾いた銃声が響く。

 

 振り返った先には赤いパイロットスーツを着たアスランが佇んでいた。

 

 「……させると思うか」

 

 「貴様」

 

 アストも銃をアスランに突きつける。

 

 「流石だな。認めたくはないがモビルスーツ戦闘ではお前に敵わない。しかし生身ならどうかな?」

 

 その指摘は間違っていない。

 

 ヘリオポリスで一度手合わせしているからこそ分かる。

 

 生身の戦闘ではアスランの方が強い。

 

 アストも訓練はしてきたが、彼よりも強くなったとは思っていない。

 

 「お前はここで殺す。絶対に逃がさない」

 

 アスランは躊躇う事無く引き金を引き、連続で放たれた銃弾をアストは飛び退く事で回避した。

 

 その予想通りの動きに合わせ、床を蹴ると同時に側面から足を振り上げ蹴りを入れた。

 

 「ぐっ」

 

 咄嗟に腕を交差させて防御するが、アスランはさらに拳を叩きつけてくる。

 

 連続で叩きこまれる攻撃にアストはただ下がるしかない。

 

 それでも最初の攻撃でやられなかったのは間違いなく訓練の成果であろう。

 

 もし訓練を受けていなければ最初の一撃で昏倒させられ、あっさり殺されていたに違いない。

 

 「なるほど、貴様もそれなりに訓練は積んでるらしいな」

 

 「ハァ、ハァ」

 

 完全に追い込まれていた。

 

 アスランは冷静に油断なく攻撃を加えてくる。

 

 そして再び拳を振り抜こうとした時、アストもまた攻勢に出た。

 

 振り抜かれた拳に合わせたカウンターで殴りつけたのだ。

 

 カウンターを受け、たたらを踏んだアスランに蹴りを入れて突き飛ばす。

 

 「ぐっ、貴様!」

 

 「ハァ、ハァ、いつまでもやられっ放しじゃないぞ」

 

 お互いに銃を構えて睨み合い、動こうとした瞬間、声が響いた。

 

 「やめなさい!」

 

 「レ、レティシアさん」

 

 「どうしてここに……」

 

 銃を構えアストを庇うようにレティシアが立ちふさがる。

 

 「……そこをどいてください」

 

 「断ります! これ以上アスト君を傷つけさせません!」

 

 アスランは思わず唇を噛んだ。

 

 自身の嫉妬心を抑え、逆に考える事にした。

 

 これは彼女を連れていくチャンスである。

 

 「……やりたくはありませんが、貴方を倒して連れて行きます」

 

 「……前にも聞きましたが、どうしてそこまで私に拘るのですか?」

 

 「俺は貴方が―――」

 

 「ッ!? レティシア!!」

 

 その時、アストに悪寒のようなものが走る。

 

 前にいるレティシアの手を掴み自分の方に引き寄せると同時に銃声が響く。

 

 2人で倒れ込み、銃声の聞こえた方を見ると銃を構えたユリウス達がこちらを見ていた。

 

 「ユリウス隊長」

 

 ユリウスは後ろにいる兵士達に指示を出すとアスランのそばに寄って来た。

 

 「最悪だな」

 

 この状況でユリウスまで。

 

 何とかレティシアだけでも逃がさなければと考えていたアストだったが、ユリウスから発せられた言葉は予想外のものだった。

 

 「退くぞ、アスラン。ヤキンの自爆装置が作動した。これ以上は危険だ」

 

 自爆装置!?

 

 司令室で何があったのかは分からないが、どうやら何かしらの決着はついたらしい。

 

 「ヤキンの? 父は、いえジェネシスはどうなりましたか?」

 

 「破壊された。パトリック・ザラも拘束済みだ。このままここにいる意味は無い」

 

 「……了解です」

 

 これ以上ここにいる必要はないと判断し、アストがどうやって仲間と合流するかを考えていた時、大きな振動と共に爆発が起きた。

 

 その爆風を堪えたレティシアとアストは引き離されてしまう。

 

 「アスト君!」

 

 引き離されたアストの元に駆けつけようとするレティシアの手をアスランが掴んでいた。

 

 「俺と来てください!」

 

 「答えは何度も言った筈です。アスラン、貴方はどうして?」

 

 「俺は貴方が―――好きです。だから、俺と!」

 

 こんな時に、しかも突然の告白に驚いてしまった。

 

 しかしレティシアの答えはすでに決まっている。

 

 だからこそ誤魔化す事無くはっきり答えよう。

 

 それがせめてもの誠意だろう。

 

 「……ありがとう、アスラン。でも、ごめんなさい。私は貴方の想いに応えられません」

 

 「ッ!?」

 

 レティシアは握られた手を振り払うとアストの下に駆け出していく。

 

 アスランにはそれを追いかけるだけの気力は残っていなかった。

 

 そしてアストはユリウスと銃を構え、お互いを睨み合い対峙する。

 

 ユリウスが生きていた事に関して驚きは無い。

 

 むしろ必ず生きているとどこかで確信していたくらいだ。

 

 「……あの状態から、イージスリバイバルを倒すとはな」

 

 「貴方こそ、あの爆発に巻き込まれて五体満足とはね」

 

 睨み合っていた二人だがユリウスは銃を下して背を向けた。

 

 「今はお前と争う気はない。さっさと脱出するんだな」

 

 「えっ?」

 

 正直拍子抜けだ。

 

 必ず殺そうとしてくると思っていたのだが。

 

 そのまま歩いていくユリウスの背中を何もせずに見ていたが、途中で振り返ると表情を出さずに呟いた。

 

 「1つだけ教えておいてやる。これで終わりではない。むしろ――――――」

 

 ユリウスの声は爆音に遮られ周囲には聞こえない。

 

 ただ彼の言葉はアストの耳にだけ届いていた。

 

 「なっ」

 

 「忘れるなよ」

 

 そのまま彼は去っていく。

 

 アストは追いかける事も出来ず、ただ立ち尽くすしかなかった。

 

 そこにレティシアが駆けつけてくる。

 

 「アスト君、脱出しましょう! イノセントは?」

 

 レティシアの言葉に正気に戻ったアストはユリウスの言葉を振り払うと思考を切り替える。

 

 「……イノセントは駄目です。完全に破壊されました」

 

 「ではアイテルで脱出しましょう。こっちです」

 

 レティシアと共にアイテルに向かって走り出す。

 

 ヤキン・ドゥーエ自爆まで余裕は残されていなかった。

 

 

 

 

 エドガー達と別れたカガリ達は脱出の為に格納庫に向かっていたが、頻繁に振動が起きる為に走りにくい。

 

 ヤキン・ドゥーエ内部の兵士達にはすべてエドガーから脱出命令が出ている為、こちらに構ってくる奴はいない。

 

 行きと違ってザフト兵の邪魔が入らないのは助かる。

 

 ようやく格納庫に辿りつくとカガリが指示を飛ばした。

 

 「時間が無い、このまま脱出する。全員脱出艇に乗り込め! 私とアサギはモビルスーツで援護だ!」

 

 「「「了解!」」」

 

 飛び込むようにストライクルージュに乗り込んだカガリは脱出艇と共に要塞より脱出した。

 

 

 そしてヤキン・ドゥーエの自爆装置が作動する。

 

 

 様々な場所から炎が吹き出し、爆発が起きた要塞内部をアイテルが突き進んでいく。

 

 「くっ」

 

 レティシアはペダルを思いっきり踏み込みスラスター出力を上げて、通路を襲う爆発から逃れるため炎に包まれた中を突っ切っていく。

 

 コックピットには警戒音が鳴り響き、機体各部の異常を知らせているが止まれない。

 

 ここで止まれば間違いなく死ぬ。

 

 「見えたぞ!」

 

 ギリギリであるが見えてきた出口に向け、スラスターを吹かし出口を潜る。

 

 だが同時に背後から凄まじい爆発が起きるとアイテルは吹き飛ばされた。

 

 「きゃああああ!!」

 

 「うあああああ!!」

 

 方向がどちらかも分からない状態。

 

 このままではヤキンの自爆から逃れる為の十分な距離が稼げない。

 

 その時―――

 

 「レティシアさん!」

 

 上方から突っ込んで来たフリーダムが体勢を崩したアイテルを掴みバランスを整える。

 

 「レティシア!」

 

 「ええ!」

 

 アストの声に合わせ、ペダルを踏み込みフリーダムと共に機体を加速させ、ギリギリ爆発の影響範囲外に退避した。

 

 3人は息を荒くしながら振り返ると、ヤキン・ドゥーエが完全に破壊された瞬間が見えた。

 

 フリーダムから通信が入ると、モニターにキラの顔が映った。

 

 「大丈夫ですか?」

 

 「ありがとう、キラ君」

 

 「助かったよ、キラ」

 

 「アストも無事だったんだね。良かった」

 

 お互いの無事を喜び合う。

 

 とはいえ機体はボロボロだ。

 

 フリーダムはもちろん、あれだけの爆発に巻き込まれたアイテルもまたほとんど大破している。

 

 それでも何とか生きていた。

 

 「アスト君、怪我とか無いですか?」

 

 「ええ、ありがとうございます。貴方のおかげで助かりました」

 

 彼女が来てくれなければここにはいなかっただろう。

 

 「良かった、本当に」

 

 レティシアが目に涙を浮かべながらアストを引き寄せ抱きしめてくる。

 

 パイロットスーツ越しでも温かみが伝わってきた。

 

 それでようやくアストも生きている実感が持てた。

 

 「……生きてますよ、俺は」

 

 「はい」

 

 この後すぐに復権した穏健派による戦闘停止の放送が流れ、長い戦いの幕が下りた。


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