機動戦士ガンダムSEED cause    作:kia

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第47話  因縁再来

 

 

 

 

 新たな機体で戦場に帰還したアスランは機体状態を確認しながら地球軍の部隊を迎撃に向かっていた。

 

 この機体『イージスリバイバル』に搭乗するのは初めてだ。

 

 もちろんカタログスペックは確認してはいるが、実際に動かすとなるとまた違ってくる。

 

 加速性を確認するためにペダルを踏み込みスラスターの出力を上げていく。

 

 機体が一気に速度を増すと同時にアスランの体がGでシートに押し付けられ深く沈み込んだ。

 

 「くっ、なんて加速だ!」

 

 外見は似ていてもオリジナルのイージスとはまるで別物である。

 

 ユリウスのディザスターもこの機体と同等以上のスペックを持っていた筈だ。

 

 それをああも使いこなすなんて、改めて彼の凄さが分かるというものだ。

 

 「だとしても使いこなして見せる」

 

 しばらくの間、機体を慣らすように様々な挙動を試して感覚をつかんでいくと、今度は武装を確認する。

 

 頭部機関砲と高出力化されたビームライフル、両手両足に搭載されたビームサーベル、腹部複列位相エネルギー砲『ヒュドラ』、幸いな事にほとんどイージスと共通の武装である為、戦闘になればそう戸惑う事はないだろう。

 

 一つだけ気になるのは今まで使った事のない武装。

 

 背中に装備されたドラグーンシステムである。

 

 自分用に調整してあるとは言っていたが、これを使いこなせるかどうか。

 

 もちろんアスランにもパイロットとしての矜持はある。

 

 任された以上は使いこなすのが自分の仕事だ。

 

 「あれか……」

 

 アスランの視線の先には地球軍の戦艦が数隻ほどヤキン・ドゥーエに向かって移動しているのが見えた。

 

 彼らには悪いがここから先には行かせる訳にはいかない。

 

 「行くぞ!」

 

 イージスはさらに速度を上げると地球軍の艦隊に突撃した。

 

 当然敵機が接近している事は地球軍も気がつき、ストライクダガーを出撃させ迎撃の準備は整っていた。

 

 その時点で敵の指揮官は決して無能ではない事がわかる。

 

 少なくとも間違った判断はしていない。

 

 だから誤算があったとすれば彼らの対応ではなく、向ってくる敵の方にあったのだ。

 

 「迎撃開始!」

 

 「「了解!」」

 

 その声に合わせストライクダガーが向ってくる敵機に対し迎撃行動に出る。

 

 一斉にビームライフルを放ち何条もの閃光がイージスリバイバルに襲いかかった。

 

 だがアスランは全くと言っていいほど動じた様子もなく、正面から突っ込んでいく。

 

 敵対している地球軍側から見ればそれはまさに命知らずの特攻そのもの。

 

 誰もが敵機の撃墜を確信した。

 

 だが次の瞬間、イージスは襲いかかったビームの雨を縫うように回避。

 

 ビームライフルを構え連続で発射する。

 

 数機のストライクダガーをあっさり貫き、撃ち落とすと動揺して動きを止めた敵部隊に突っ込み、両足のビームサーベルで2機の敵機を両断した。

 

 「うああああ!」

 

 「く、くるなああ!!」

 

 明らかな実力の違いを悟り恐慌状態に陥ったストライクダガーを躊躇なく撃墜していく。

 

 さらにビームライフルとビームサーベルを自在に使い分け次々と敵機を宇宙の塵に変えていくと、敵艦への道が開けた。

 

 「何時までも躊躇ってはいられないな」

 

 アスランは意を決してドラグーンを放出した。

 

 飛び出したドラグーンは思った以上に扱いやすくスムーズに動く。

 

 エドガーの言っていた通り、調整が加えられているおかげだろう。

 

 とはいえこれ以上数が増えれば流石に厳しくなってくる。

 

 やはりそういう意味でもラウやユリウスは規格外なのだ。

 

 とにかくこれまでの不安は杞憂に終わり、もう躊躇う理由はない。

 

 「俺もやれる!」

 

 敵艦を左右から挟み込み三連ビーム砲が砲台や装甲を次々と抉り破壊していくと戦艦は動きを止めた。

 

 損傷で所々から火を噴き、撃沈寸前である。

 

 この瞬間を見逃すとほどお人好しではない。

 

 そのまま接近すると腹部からヒュドラを放ち敵艦のブリッジを吹き飛ばした。

 

 破壊された戦艦は爆発を引き起こし、それが全体に広がると一気に消し飛んだ。

 

 地球軍の艦長や出撃していたパイロット達はそれを呆然と見守るしかなかった。

 

 この時点ですでに勝負はついていた。

 

 どう頑張ってもイージスを落とす事などできない。

 

 だが彼らはここで選択を間違えた。

 

 アスランも撤退するならば追う気もなかったのだが、地球軍の戦艦は自棄になったようにビーム砲を撃ち込みこちらを狙い、モビルスーツも斬りかかってくる。

 

 「素直に撤退すればいいものを」

 

 放たれたビーム砲を軽々と回避すると接近してきたストライクダガーをドラグーンで撃ち落とし、さらにビームサーベルで叩き斬った。

 

 そして近くにいた母艦をビームライフルで次々と損傷させ、ドラグーンでエンジンを破壊すると艦全体が炎に包まれ大きく爆散する。

 

 すでに迎撃に出ていたストライクダガーの半数以上を撃破、もしくは行動不能に追い込み、そして数隻いた戦艦も残りは2隻にまで撃沈されている。

 

 結果、無用な犠牲を払いようやく彼らは撤退を開始した。

 

 「やっと退く気になったか」

 

 もちろんそれを妨げるような事はしない。

 

 退いてくれるならばわざわざ追う必要などない。

 

 そして完全に撤退した事を確認すると、機体をチェックする。

 

 損傷もなく、ドラグーンも問題無く使えている。

 

 「良し、大丈夫だ!」

 

 次は同盟軍―――この機体を使いこなせば奴を、アスト・サガミを倒せる。

 

 そして父を止め、彼女を連れ戻す。

 

 「今度こそ!」

 

 アスランは機体を反転させるとヤキン・ドゥーエ方面に機体を進ませた。

 

 

 

 

 

 

 フリーダムはボアズの残骸の中を漂っていた。

 

 残骸に囲まれたキラは鋭い視線のまま周囲を警戒している。

 

 ボアズとミラーブロックの衝突により吹き飛ばされたフリーダムは気がつけばアークエンジェルとは完全に離されてしまっていた。

 

 もちろんすぐにでも合流するために動きたかったのだが、そう簡単にはいかなかった。

 

 警戒しながら視線を動かしていたキラに悪寒のようなものが走る。

 

 「ッ!?」

 

 直感を信じペダルを踏み込むとスラスターを使って前方に加速させる。

 

 次の瞬間、別方向からの閃光が今までいた場所を薙ぎ払った。

 

 振り返ったキラの目の前にはイレイズサンクションが佇んでいた。

 

 ビームライフルを構えて、こちらを狙っている。

 

 「手強い」

 

 先程までの戦いでクロードが強い事は分かっていた。

 

 ただ、彼は強いだけではなく今まで戦ってきた者の中で一番戦い難い相手であった。

 

 そのためか迂闊に前に出られない。

 

 「……でも、何時までもここで足止めされる訳にはいかない!」

 

 一刻も早く味方の下に辿り着かなければならない。

 

 キラが意を決してビームサーベルを抜きながら前に出る。

 

 しかしイレイズが後退し岩の破片に紛れ姿を隠すと、全く違う方向からビームが飛んできた。

 

 「くっ!」

 

 何とか機体を逸らして回避するとクスフィアス・レール砲を構えるがすぐに岩の陰に隠れてしまう。

 

 今見えた機影はモビルスーツではなく、ガンバレルのもの。

 

 信じがたい事ではあるが敵は残骸が周囲に漂う中でガンバレルを使用しているのだ。

 

 こんな状況で使えば普通は瓦礫にぶつかって破損してしまうか、動きが取れなくなるかのどちらかである。

 

 それをクロードは非常に細かく繊細な操作と高い空間認識力でそれを可能にしていたのだ。

 

 瓦礫に囲まれた限定空間、視界の悪さ、敵の技量、状況は最悪に近い。

 

 なんとかこの状況を打開するには―――

 

 「良し、このままじゃ埒が明かない」

 

 キラはスラスターを噴射させると先程と同じようにあえて前に出た。

 

 この場所で戦うにはあまりに不利、だからまずはここから抜け出す事を選択した。

 

 しかしそれはクロードも予測済みだ。

 

 「それは悪手ではないかな、キラ君」

 

 フリーダムの進路を塞ぐようにビームを撃ち出す。

 

 だがキラは迫るビームに構う事無く、瓦礫を避けさらに機体を加速させた。

 

 「……損傷を受ける事を覚悟してここから抜ける事を選択したか」

 

 フリーダムは致命傷こそ受けてはいないが、閃光が掠めるたびに傷が増えていく。

 

 一見無謀にも見える行動だが、キラ・ヤマトが取れる最良の選択である。

 

 クロードが逆の立場でも同じ選択をしただろう。

 

 だからこそフリーダムの動きを予測して攻撃を仕掛けたのだが、敵はその攻撃を尽く避けていく。

 

 「本当に流石としか言いようがないな」

 

 これ以上は引き離されると判断するとガンバレルを引き戻しフリーダムを追った。

 

 後ろを追随する形で蒼い翼にビームライフルで狙いをつける。

 

 だが次の瞬間、敵機に姿がクロードの視界から消えた。

 

 咄嗟に機体を止め、周囲を窺った。

 

 敵の狙いは―――まさか!?

 

 「真下か!?」

 

 気がついた時にはすでにキラは下から回り込んでいた。

 

 「遅い!」

 

 「チッ!」

 

 咄嗟に回避行動を取ったクロードであったが、先程まで有利であったこの場所が今度は不利に働いた。

 

 瓦礫に邪魔され上手く動けなかったイレイズの左腕が飛び、ビームライフルが破壊されてしまう。

 

 ここまでの戦闘でクロードが初めて負った大きな損傷である。

 

 「このまま―――ッ!?」

 

 フリーダムがイレイズの左腕を落とした瞬間、クロードはスラスターを調整し機体を水平にするとレールガンを叩き込んだ。

 

 「ぐうううう!」

 

 吹き飛ばされ瓦礫に叩きつけられたキラは呻くように声を出し衝撃を噛み殺すと、眼の端で閃光を捉えた。

 

 「くそ!」

 

 ビームをかわし再び回り込むようにイレイズに接近するとビームサーベルを横薙ぎに振り抜いた。

 

 当然クロードも応戦し、放った斬撃がお互いを削っていく。

 

 「貴方は一体!?」

 

 「……君が知る必要はないよ、最高のコーディネイター君」

 

 その事を知っているという事はこの男も―――

 

 「ラウ・ル・クルーゼやユリウス・ヴァリスと同じ……」

 

 「ラウとは友人、それだけさ。ユリウスとはそう親しくはないが知り合いではある」

 

 2機は激突と離脱を繰り返し、瓦礫の中を高速で動きまわる。

 

 「貴方は―――」

 

 「私の事はどうでもいいだろう? それよりも全力を見せてくれ。その為に戦っているんだからね」

 

 「貴方は何を言っているんだ?」

 

 イレイズのビームサーベルをシールドで弾き飛ばすとガンバレルの攻撃を回避。

 

 さらにビームライフルを撃ち込もうと構えた時、瓦礫を抜け広い空間に出る。

 

 目の前にはヤキン・ドゥーエ。

 

 そこでも激しい戦闘が行われている。

 

 これでようやく自由に動けるようになった。

 

 しかし、それはイレイズも同じ事である。

 

 先ほどまでよりも鋭い動きで懐に飛び込んでくると、ビームサーベルを振り抜いてきた。

 

 「負けられない!」

 

 「それで限界か!!」

 

 再びイレイズと激突を繰り返す。

 

 そんな2機の近くで大きな爆発が起きた。

 

 イレイズと弾け合い距離を取ったキラは視線を向ける。

 

 そこで見えたのは―――

 

 「クサナギ!?」

 

 同盟軍がヤキン・ドゥーエに突撃していく姿だった。

 

 

 

 

 

 

 ボアズの残骸がジェネシスとヤキン・ドゥーエの宙域に広がり、ザフト軍は激しく混乱していた。

 

 碌な編隊も組めず、艦も身動きがとれない。

 

 そんな混乱に乗じてヤキン・ドゥーエに接近していく者達がいた。

 

 言わずと知れた同盟軍である。

 

 邪魔な瓦礫を破壊しながら突き進んでいくその姿に気がつかないザフトではない。

 

 「行かせるな!」

 

 「戦艦を落とせ!」

 

 当然妨害しようと攻撃をしかけてくる。

 

 現在同盟軍の防衛として出撃しているのは各量産機とストライクルージュ、片腕を失ったとはいえ戦闘継続可能なアイテル。

 

 スウェアは補給の為に帰還し、ジャスティスは応急修理中である。

 

 正直かなり厳しい状況であるが、今の好機を逃せば次はない。

 

 カガリは迎撃に向かってきたゲイツをビームライフルで撃ち落とすとレティシアもプラズマ収束ビーム砲でジンを薙ぎ払う。

 

 「レティシアは無理をするな。その腕じゃ厳しいだろう、ドラグーンも使えないんだ」

 

 アイテルの装備している武装リンドブルムの主武装であるドラグーンは瓦礫が周囲に散乱している為に使用不可。

 

 しかも片腕は損傷したままで、戦闘を継続している。

 

 「大丈夫です。こんな状況ですからね」

 

 今は1機でも戦力が必要だ。

 

 その証拠にヤキン・ドゥーエに接近してきた事に感づいたザフトのモビルスーツが群がってきている。

 

 この数を戦艦の武装や少数の量産機だけで捌いていくのは難しい。

 

 せめてスウェアが戻るくらいまでは何とかもたせなくてはならない。

 

 アイテルがビームサーベルを構えシグーを両断すると、クサナギの前に立ちふさがる岩をビームガンで粉砕した。

 

 「良し、このまま進む!」

 

 先頭にいたクサナギの主砲を使い瓦礫を薙ぎ払う。

 

 そして急に開けた場所に出るとその先に目標となる宇宙要塞ヤキン・ドゥーエの姿が見えた。

 

 流石にザフトの宇宙要塞、正面だけでもかなりの戦力がいる。

 

 だが今までの戦闘とボアズ残骸の衝突による混乱でこれでもずいぶん減ってはいるようだが、それでも結構な数には違いない。

 

 カガリは怯みそうになる自身を叱咤しながら、指示を出した。

 

 「……予定通りだ。クサナギでヤキン・ドゥーエに突入する。各機、各艦は援護を!」

 

 「「了解!」」

 

 「アサギ、1人で前に出るなよ!」

 

 「それ私のセリフですよ!」

 

 各機が散開し、クサナギが前に出る。

 

 さらに両側面にアークエンジェル、ドミニオン、そして背後にオーディンが付くと進撃を開始した。

 

 「ヨハン、背後からの敵に注意しろ! エンジンを守れ!」

 

 「了解です、中佐。アークエンジェル、ドミニオンもよろしいですね?」

 

 《はい! ゴットフリート照準、クサナギに近づけないで!》

 

 ゴットフリートの閃光が数機のモビルスーツを巻き込んで撃破する。

 

 《こちらも問題ありません。ヘルダート、バリアント撃てぇー!!》

 

 さらに別方向からの敵襲にドミニオンがヘルダート、バリアントで薙ぎ払い、撃ち漏らした敵をオーディンが片付けていく。

 

 「ここでならドラグーンも使えます! 行きなさい!」

 

 アイテルから再び勢いよくドラグーンが飛び出し数機のモビルスーツを一網打尽にしていく。

 

 それに続くかのようにカガリもアサギと連携を組みながら敵機に突撃する。

 

 「カガリ様、援護します!」

 

 「分かった!」

 

 アサギの援護を受けたカガリは敵のビームをシールドで防ぎながらビームサーベルを振るいシグーを斬り裂く。

 

 そして今度はアサギを援護するためにビームライフルで牽制を行う。

 

 2人の動きはナチュラルの動きとは思えないほど見事な連携である。

 

 カガリ達もまたヴァルハラ防衛戦以来ずっと訓練を積んで来た。

 

 戦争である以上は覚悟していたはずなのに、いざジュリを失った時は相当堪えた。

 

 しかし何時までも落ち込んではいられないし、彼女の死を無駄にしない為に自分達もできる事をしようと決め、訓練に励んで来た。

 

 その成果、今発揮しないで何時するというのか。

 

 「はあああ!!」

 

 「これで!」

 

 2機の連携についていけずにゲイツが左右からビームサーベルで串刺しにされ、撃破された。

 

 そこに補給を終えたスウェア、そして応急修理を終えたジャスティスも出撃してくる。

 

 「レティシア、お待たせしました!」

 

 「こちらは引き受ける!」

 

 スウェアは予備のシールドとライフルで武装し迎撃に加わる。

 

 どうやら補給のみで戦闘に支障はなかったようだが、問題はジャスティスである。

 

 一応切断された腕と足は修復されているが、背中には何も背負っていない状態であった。

 

 PS装甲とはいえ至近距離からあれだけの爆発を受けたジャスティスはほとんど大破に近い状態だった。

 

 特に背中は酷い状態であり、スラスターを修復するだけでもギリギリで、とてもリフターを装着できるまでに戻せなかったのだ。

 

 「ラクス、そんな状態で出てきたのですか!?」

 

 「私は大丈夫です。それよりも今はクサナギを援護する方が大切な筈です」

 

 レティシアは思わず口に出そうとした反論を呑み込んだ。

 

 彼女の言い分は正しい。

 

 ここでクサナギがヤキン・ドゥーエが辿りつけなければ意味がないのだから。

 

 「……無理だけはしないでください」

 

 「それはレティシアもですよ」

 

 「ええ」

 

 ジャスティスを援護するようにドラグーンを放出すると、ラクスもそれに合わせてビームサーベルを振るっていく。

 

 もちろんザフトも敵艦の前に立ちふさがりヤキン・ドゥーエに近づけまいと猛攻を加えてきた。

 

 放たれたビームやミサイルがクサナギに直撃し大きく揺らして、炎が上がる。

 

 「怯むな! そのまま加速、突っ込め!!」

 

 「「了解!」」

 

 キサカが檄を飛ばし、残ったクルー達も怯む事無く答えを返す。

 

 それに応えるようにクサナギも火を噴きながら敵要塞に突っ込んでいく。

 

 その時、ヤキン・ドゥ―エの港に設置されている隔壁が閉まっていくのが見えた。

 

 「港が閉じる!?」

 

 不味い。

 

 クサナギはすでに突入態勢に入っている以上、作戦変更などできない。

 

 それを見たレティシアが前に出た。

 

 「やらせません!!」

 

 アイテルがビームライフルとプラズマ収束ビーム砲を撃ち込み、さらに残ったドラグーンをビームを放ちながらすべて隔壁に向けて叩きつけた。

 

 ビームライフルとプラズマ収束ビーム砲の一撃が隔壁を撃ち抜き、叩きつけられたドラグーンが爆発を起こす。

 

 「オーディン、セイレーンを射出してください」

 

 《わかった!》

 

 リンドブルムをパージし、セイレーンを装着するとビーム砲と機関砲を同時に叩き込む。

 

 その結果、隔壁は破壊されクサナギが滑り込むようにヤキン・ドゥーエ内部に突っ込んだ。

 

 「ぐっ、全員対ショック―――」

 

 「きゃああ!」

 

 「うああ!」

 

 港にぶつかるように突入したクサナギに凄まじい衝撃が襲う。

 

 その衝撃が収まらぬうちにキサカは叫んだ。

 

 「突入するぞ!」

 

 「り、了解!」

 

 突入部隊と共にブリッジメンバーとキサカも銃を持ってブリッジを飛び出した。

 

 この作戦の成否は自分達に掛かっているのだから。

 

 そしてクサナギと突入部隊がヤキン・ドゥーエ内部に侵入した事は指令室でも確認できていた。

 

 「おのれ、ナチュラル共! 迎撃させろ、指令室に近づけるな! ジェネシスは?」

 

 「まだ瓦礫の撤去に時間が―――」

 

 「急がせろ!」

 

 「了解」

 

 まったくもって情けないとしか言いようがない。

 

 パトリックは自軍の不甲斐無さに憤慨していた。

 

 あんな少数のナチュラル如きに手こずるなど、恥もいいところだ。

 

 しかしそれはあまりに酷というものである。

 

 ザフトもまたここまでの戦闘で疲弊し、さらにこの混乱、本来なら敵の迎撃どころではないのだ。

 

 だがパトリックが苛立っていた理由はもう一つあった。

 

 迎撃を命じたブランデル隊の動きが全く見えなかった事である。

 

 「ブランデルは何をやっている!?」

 

 「……ブランデル隊はジェネシス周辺の―――」

 

 「そんな事は分かっている! 奴は今どこにいるのだ!!」

 

 「ゼーベックは―――ヤキン・ドゥーエに隣接しています」

 

 「何だと!? 呼び出せ!!」

 

 迎撃にも出ず何をしているのか?

 

 《何でしょうか?》

 

 「貴様、何をしている!? 迎撃はどうした!?」

 

 《命令通りですよ。敵の迎撃はアスランに任せ、我が隊のメンバーは瓦礫の撤去を行っています。それに敵の侵入を許したようですから内部の援護も必要でしょう?》

 

 「ふざけるな! 貴様が出ないから奴らの侵入を許したのだろうが!!」

 

 《ですからこうして敵を迎え撃とうとしているでしょう? お話は以上ですか? では失礼します》

 

 「待て!」

 

 通信が切れた途端パトリックは再び机に拳を叩きつけた。

 

 

 

 

 ゼーベックのブリッジで相変わらずのパトリックの様子にエドガーはため息をつきながら、再度状況の確認をする。

 

 「準備は?」

 

 「はい。問題無く設置できたそうです」

 

 「良し。全機を引き揚げさせろ」

 

 「了解」

 

 準備は整った。

 

 後は時間を稼げばいいだけだ。

 

 そしてその時、戦場にいるユリウスから通信が入ってきた。

 

 「今どこにいる?」

 

 《近くに来ています。ただ派手にやられてしまったので》

 

 「お前ともあろう者が」

 

 《申し訳ありません。それよりどうなっていますか?》

 

 「そうだな、状況を話そう」

 

 状況を聞いたユリウスは「なるほど」といつも通り冷静に呟く。

 

 「動けるならすぐに戻れ。動けないなら、誰か迎えをやるが?」

 

 《問題ありませんよ。すぐに戻ります》

 

 通信を切ったエドガーは再び状況を整理しながら、指揮を取り始めた。

 

 

 

 

 損傷したディザスターは瓦礫の間にいた。

 

 しかし機体の方は半壊状態であり、片腕、両足を失い、PS装甲は落ちたまま、スラスターも一部は反応がない。

 

 武装もビームソードが1つ、ドラグーン数機、ヒュドラだけだ。

 

 こんな状態で戦場に戻るなど自殺行為なのだが、ユリウスは構わず機体を弄っていた。

 

 そのおかげかディザスターのPS装甲が展開され、機体も動き出した。

 

 「さて、いくか」

 

 残ったスラスターを使い瓦礫の間を移動していく。

 

 バランスが取りにくく、非常に動きづらいが、移動を繰り返し、機体を動かしている内にすぐに慣れる。

 

 普通ならば満足に飛ばす事も難しい筈であり、それをこうも操る事自体が尋常な技量でない証であるだろう。

 

 最初のぎこちなさは消え、通常のモビルスーツと変わらない動きで瓦礫を抜けるとヤキン・ドゥーエに移動する。

 

 その途中で見た事のある機体に気がついた。

 

 「あれは特務隊か?」

 

 特務隊専用機シグルドである。

 

 片腕、片足を失っているがコックピットは無事のようだ。

 

 ユリウスは機械のように何の感情も見せず、通信機のスイッチを入れた。

 

 別にこれはシグルドのパイロットを気遣った訳では無く、ただ確かめたい事があっただけだ。

 

 「おい、生きているのか」

 

 「ユ、ユリウス・ヴァリス。なんで……」

 

 乗っているのはクリス・ヒルヴァレーのようだ。

 

 シオンがいないという事はおそらく落とされたのだろう。

 

 だがそれよりも―――

 

 「お前の機体はまだ動くのだろう。何故戦場に向かわない?」

 

 「そ、それは……」

 

 いつもの不遜な態度は鳴りを潜め、酷く怯えた様子である。

 

 それだけでユリウスはクリスに興味を無くした。

 

 要するにこいつは―――

 

 「逃げたのか。仲間を見捨てて」

 

 「見捨ててなどいない!」

 

 「なら何故ここにいる?」

 

 「そ、それは……」

 

 こいつらは仮にも特務隊、今は最前線にいるのが当たり前だ。

 

 しかし今いる場所は戦場の外れである。

 

 機体が動くにも関わらずこんな場所に留まっている理由など多くは無い。

 

 ユリウスはため息をつくと背を向けた。

 

 「屑が……もういい。1つだけ言っておく。カールは決して味方を見捨てる事も逃げる事もしなかった。それに比べればお前は遥かに劣る」

 

 それが恐怖に支配されていたクリスに怒りを呼び起こす。

 

 劣る?

 

 自分が?

 

 あんな奴に劣るなど―――ふざけるな!

 

 クリスは怒りに任せスナイパーライフルを構えるとディザスターをロックする。

 

 「あいつより僕の方が優れてる! そうだよ、僕の方がいつだって優れていたんだ!!」

 

 クリスに躊躇いは無い。

 

 彼にとってカールと同列に扱われること自体が屈辱であり、下に見られるなど耐えられない。

 

 だからこそクリスの胸中は味わった恐怖も忘れ、ユリウスに対する憎しみで満ちた。

 

 それにこんな事は特別な事ではない。

 

 彼らはこうして時に利用し、邪魔者は排除しながら戦果を上げてきたのだ。

 

 自分達は特務隊であり、エリートだ。

 

 たとえ最強と言われる男だろうが、あれだけ損傷していれば!

 

 「消えろ、僕の前から!!」

 

 クリスがトリガーを引くとスナイパーライフルからビームが発射される。

 

 間違いなく捉えた。

 

 あれだけの損傷ならば避けられる筈もないとクリスが確信するのも無理はない。

 

 クリスは知らなかった。

 

 彼の実力―――ユリウス・ヴァリスの力を何も知らなかったのだ。

 

 ユリウスはビームが直撃する瞬間にスラスターを使い最小限の動きで回避すると氷のように冷たい声で呟いた。

 

 「ここまで屑とはな。味方に対して攻撃を仕掛けるなど」

 

 だがクリスはそれどころではない。

 

 驚愕のあまり声も出ない。

 

 何故あんな状態でかわせるのか理解できなかった。

 

 「その様子だと味方を撃つのは初めてではないらしいな……いや、初めから味方ではなかったか」

 

 これ以上の会話は無駄どころか、正直声を聞くだけでも反吐が出そうだ。

 

 「前に言ったな、カールに対する侮辱は許さないと。そして貴様らを仲間と信じていた者達を消してきた、その罪は万死に値する」

 

 「ま、待って―――」

 

 残ったドラグーンを展開し、シグルドを四方から次々とビームで狙い撃つ。

 

 「ぐあああ!」

 

 避ける事も出来ずビームの直撃を食らったシグルドは武装を破壊され、装甲は抉られ、完全に機能を停止した。

 

 そして最後に距離を取りヒュドラを構える。

 

 「た、助け―――」

 

 聞く耳は持たない。

 

 ユリウスはなんの躊躇いもなくトリガーを引く。

 

 「死ね」

 

 「うああああ!!」

 

 腹部から放たれたビームがシグルドを撃ち抜くとすさまじい閃光と共に大きな爆発が引き起こされた。

 

 ユリウスはなんの感慨もなく踵を返すとヤキン・ドゥーエに向かって移動を再開した。

 

 

 

 

 

 クサナギがヤキン・ドゥーエ内部に突入した頃、キラはクロードと最後の攻防を繰り広げていた。

 

 だが互いの攻撃が決定打とはならず、膠着状態に陥っていた。

 

 「埒が明かない。ならば―――」

 

 クロードはここで残ったガンバレルを再び展開する。

 

 キラはこの行動に戸惑った。

 

 すでにガンバレルなど通用しない。

 

 先ほどまで有効だったのはあくまでも瓦礫に囲まれた限定空間だったからである。

 

 そんな事はクロードも理解している筈だ。

 

 訝しみながらもビームライフルを構え、ガンバレルを迎撃しようと狙いをつけた瞬間、クロードはビームサーベルで有線を切断、線を掴むとそのままフリーダムに叩きつけた。

 

 「なっ!?」

 

 虚を突かれたキラは咄嗟に機関砲で撃ち落とした。

 

 だがそこで敵の狙いに気がつく。

 

 ガンバレルが爆発した事で視界が一瞬塞がれてしまった。

 

 「しまっ―――」

 

 「もう遅い!」

 

 正面から突撃し、ビームサーベルを振り抜くと反応が遅れたフリーダムの右腕をビームライフルごと叩き落とした。

 

 「これで終わりかな、キラ君!」

 

 さらにイレイズはビームサーベルを上段から振り下ろしてくる。

 

 「まだだぁ!!」

 

 キラはSEEDを発動させるとシールドを投げ捨て、左腕でビームサーベルを連結、ハルバード状態にするとそのまま斬り上げた。

 

 フリーダムの斬撃が振り下ろされたイレイズのサーベルを右腕ごと斬り捨てる。

 

 「ぐっ!」

 

 「これでェェ!!」

 

 ペダルを思いっきり踏み込むとスラスター出力を全開にしてイレイズに突撃する。

 

 クロードは突っ込んでくるフリーダムを牽制しつつ後退し、機体状態を確認する。

 

 残った武装はレールガンとガンバレルが2基のみ。

 

 「これ以上の戦闘は無理だな」

 

 いくらなんでもこの状態でまだ戦えると判断するほど自分に自惚れてはいない。

 

 ここまでと判断したクロードは最後の手段に出た。

 

 コックピットにあるスイッチを押すとレールガンとガンバレルを展開し突撃してくるフリーダムに撃ち込んでいく。

 

 「はああああああああ!!!」

 

 キラは繰り出される攻撃を無視して速度を緩める事無く突っ込んでいく。

 

 ガンバレルのビームが防御を無視したフリーダムの左翼を吹き飛ばし、レールガンが腰部に直撃する。

 

 だが構わない。

 

 「あああああああああああ!!」

 

 イレイズを捉え、叩きつけるようにビームサーベルを突き刺した。

 

 だがここでキラに誤算が生じた。

 

 クロードは直撃する瞬間、レールガンを至近距離で放った事によりコックピットは捉えられずビームサーベルはイレイズの下腹部に直撃した。

 

 「なら、このまま斬り上げる!」

 

 しかし操縦桿を動かそうとしたキラの動きを止める一言がクロードから告げられた。

 

 「見事だよ。そんな君に良い事を教えよう。この戦争は始まりだ」

 

 「えっ」

 

 「ここからだよ、すべては―――」

 

 背後からガンバレルストライカー改が切り離されると同時に離脱していく。

 

 「ッ!?」

 

 それを見たキラもまた嫌な予感に駆られ、その場から飛び退いた。

 

 次の瞬間、イレイズは凄まじい爆発を起こし消滅した。

 

 

 

 

 

 

 キラとクロードの戦いに決着がついた時、マユの乗るターニングもヤキン・ドゥーエに接近していた。

 

 邪魔をしていたザフト機を一掃しヤキン・ドゥーエに駆けつけた時には同盟軍が突撃した後だった。

 

 もっと早く駆けつけられたら良かったのだが、ボアズ衝突には巻き込まれなかったものの、瓦礫に阻まれ中々近づけなかったのである。

 

 「クサナギが!?」

 

 クサナギがヤキン・ドゥーエに突っ込みオーディン、アークエンジェル、ドミニオンは周囲の敵を近づけないように守っている姿が見える。

 

 「皆は無事だといいけど」

 

 ターニングのスラスターを噴射させ一刻も早く駆けつけようと機体を加速させる。

 

 「退いてください!」

 

 奪い取ったクラレントを横薙ぎに振るいゲイツを真っ二つにすると、ジンをビームライフルで撃ち抜く。

 

 邪魔な敵を容赦なく屠っていくターニングだったが、その進路を阻むようにビームを撃ち込んでくる者がいた。

 

 マユの視線の先には紅い機体―――アスランのイージスリバイバルが近づいていた。

 

 「同盟軍機か」

 

 獅子奮迅の戦いぶりとでも言えばいいのか、あの機体のパイロットも間違いなくエース級だろう。

 

 アスランは油断なくビームライフルを構えるとターニングに狙いをつける。

 

 油断していないのはマユもまた同じである。

 

 先ほどの正確な射撃、機体の動きも無駄がない。

 

 紛れもなく強敵である。

 

 「でも、退けない!」

 

 マユがビームライフルを連射しながら、クラレントで斬り込むとアスランも応戦する。

 

 「邪魔です!」

 

 「これ以上は好きにさせない!」

 

 クラレントをシールドで流し、右足のビームサーベルで蹴り上げた。

 

 アスランとしてはまず敵の正確な力量を知りたかった。

 

 エース級である事は見れば分かる事だが、実際戦うとなれば違ってくる。

 

 「足からサーベル!?」

 

 マユは虚を突かれながらも咄嗟に後退する事でビームサーベルを避けた。

 

 「良い反応だ」

 

 今の一撃を回避できる者が何人いるか。

 

 手を抜くを危険と判断したアスランはドラグーンを使用する事を決めた。

 

 奴と戦う前にあまり手の内は晒したくなかったが、相手を甘く見て痛い目に遭う気はない。

 

 「出し惜しみ無しだ!」

 

 イージスの動きに集中していたマユの視界に敵機の背中から何かが放出されたのが見えた。

 

 その武装には心当たりがある。

 

 「まさかドラグーン!? でも私だって訓練してきました!」

 

 ターニングを狙う別方向からの攻撃をスラスターを使って避けていくと、ドラグーンを目掛けてビームライフルを放つ。

 

 イージスのドラグーンは数も少なくプロヴィデンスのものより大きなものになっている為に狙いやすい。

 

 狙い通りに放ったビームはドラグーンを撃ち抜こうと迫る。

 

 だがここにマユの誤算があった。

 

 ドラグーンは垂直になるとスライドするようにシールドが展開されビームを弾いた。

 

 「えっ、防いだ?」

 

 予想外の事にマユは一瞬、隙を作ってしまった。

 

 それを逃さずアスランはビームライフルでターニングの左足を破壊した。

 

 「きゃあああ!!」

 

 「はああああ!!

 

 バランスを崩したターニングにビームサーベルを振りかぶる。

 

 マユは歯を食いしばりスラスターを逆噴射して回避しようとするも一瞬、遅くビームライフルが切断されてしまった。

 

 「これで止めだ!」

 

 バランスを崩したターニングに止めのヒュドラを撃ち込もうとするが、それを阻む一射がイージスリバイバルに向けて撃ち込まれる。

 

 「何!?」

 

 後退して距離を取ったアスランはビームが放たれた方向に振りかえる。

 

 そこにはアスランが待ち望んでいた機体、イノセントがいた。

 

 「アストさん!!」

 

 「マユ、大丈夫か!?」

 

 「はい、アストさんも怪我とか無いですか?」

 

 「ああ、俺は大丈夫だ」

 

 イノセントは見る限りボロボロである。

 

 よほどの相手と戦ってきたのだろう。

 

 「アストさん、下がってください。あの機体は私が倒しますから」

 

 今の状態のアストを戦わせる訳にはいかないとイノセントの前に出ようとするが逆に押し留められてしまった。

 

 「マユ、こいつは俺がやる。早くヤキン・ドゥーエに行け」

 

 「駄目ですよ! そんな状態で―――」

 

 「こいつは俺が戦う相手だ。マユは皆の所へ行け!」

 

 アストの固い声に目の前の機体と何か事情がある事を察したマユは唇を噛んだ。

 

 「……分かりました。でも絶対追いついてください」

 

 「もちろんだ」

 

 ターニングはそのまま反転しヤキン・ドゥーエに向かう。

 

 それを見届けたアストは目の前の紅い機体を見た。

 

 ある意味、馴染み深い機体だ。

 

 何度も相対し、破壊したのも自分である。

 

 「アスト・サガミ」

 

 相手の機体から聞こえた声にやはりという思いを抱く。

 

 この機体―――イージスに乗る奴はアイツしかいない。

 

 「……結局、最後に俺の前に立ちふさがるのはお前か―――アスラン・ザラ」


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