機動戦士ガンダムSEED cause    作:kia

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第44話  天帝の嘲笑

 

 

 アークエンジェルは戦場で対峙していたドミニオンから降伏するとの連絡を受けていた。

 

 彼らとしても旧知の仲であるセーファスやナタルと殺し合いなどしたくはないし、何よりもジェネシス破壊に協力したいとの申し出も有難い。

 

 本来なら降伏した艦と共に戦場を行くなどあり得ない事なのだが、今回は特別である。

 

 《以上がこれまでの経緯です。勝手な話だとは思いますが》

 

 「気にしないで、ナタル。それよりオーデン中佐の容体は?」

 

 《何とか急所は外れていましたから大丈夫です。今は治療の為に医務室に》

 

 銃撃を受けたとい聞いた時は驚いたが、無事だと分かりホッと胸を撫で下ろす。

 

 お互いの情報交換が済んだところでテレサが若干急かすようにマリューに告げる。

 

 《ラミアス艦長、そちらが良いなら行くぞ》

 

 「了解です」

 

 すでに各モビルスーツはジェネシス破壊の為に動き出している。

 

 現在各艦の防衛戦力はジャスティス、アイテル、スウェアと各量産機のみで、他の機体はすべて先行している。

 

 一応近くにはザフト機であるバスター達もいるのだが、ジェネシス破壊に関しては邪魔はしないらしい。

 

 出撃していないストライクルージュや損傷したアドヴァンスデュエルもある。

 

 だがカガリは指揮に集中しており、損傷機の修復の方は急いではいるもののおそらく間に合わない。

 

 これ以上戦力が低下する前になんとかジェネシスを叩きたいと言うのが各艦を指揮している者達の共通認識である。

 

 「では、行きましょう」

 

 《了解だ!》

 

 各艦が動き出すと守るようにアイテル、ジャスティス、スウェアが攻撃を仕掛けてきたモビルスーツを迎撃する。

 

 「くっ!」

 

 戦艦を狙って放たれたミサイルをスウェアがガトリング砲で撃ち落とすとビームライフルでジンを撃墜していく。

 

 「何故あんな物の為に戦う!!」

 

 少なくともイザークがザフトに志願したのはあんな大量破壊兵器を守るためではない。

 

 だからこそ今のザフトに憤りを覚える。

 

 ミサイルを撃ち落としていくスウェアを無視してアークエンジェルに近づくゲイツにジャスティスが向かう。

 

 「アークエンジェルには近づけさせません」

 

 ジャスティスは側面に装備されている近接戦用ブレードを取り出し、それを腕にマウントすると接近してきたゲイツに叩きつける。

 

 しかしそれはいささかタイミングが悪かった。

 

 ブレードの長さゆえ、通常の近接戦闘用の武装より若干速度が落ちてしまった。

 

 これでは受け止められてしまうだろう。

 

 「ふん、そんなもの!」

 

 だがラクスは気にした様子もなく、そのままブレードを振り抜く。

 

 「このまま行きます!」

 

 ゲイツのパイロットはギリギリシールドを掲げ受け止めようと構えたが、次の瞬間ブレードがいとも簡単にシールドを斬り裂きゲイツ諸共破壊した。

 

 「盾ごと!?」

 

 それを見ていたパイロット達は思わず身震いした。

 

 データ上においてジャスティスはフリーダムに比べれば近接戦闘の方が得意と評価されている。

 

 そこにスレイプニルの装備が加わったことでさらに強化されてしまい、これでは迂闊に接近もできない事になる。

 

 「くっ、怯むな!」

 

 「し、しかし!」

 

 そう、距離を取ればよいという訳でもない。

 

 強化されたのは近接装備だけでなく火力もだからだ。

 

 彼らとてフリーダムとジャスティスが核部隊を圧倒した瞬間を目の当たりにしている。

 

 どうすればいいのかと敵機の動きが鈍った瞬間を狙いラクスは距離を取る。

 

 「これで!」

 

 フォルティスビーム砲と合わせミサイルを一斉に撃ち出し敵部隊を一掃していく。

 

 ラクスの放った攻撃を免れ、別方向から迫る敵にレティシアが立ちふさがると腰のビームサーベルを抜きそのまま突進していく。

 

 「くそ! ならこちらから!」

 

 「やらせません!!」

 

 突っ込んでくるアイテルを迎え撃とうとしたジンのパイロットは一瞬何かを目の端に捉える。

 

 それを確かめようとした時、全く別方向からの攻撃を浴び右手を吹き飛ばされてしまった。

 

 「何だ!?」

 

 「はあ!」

 

 動揺している暇もなく接近してきたアイテルのビームサーベルがジンを斬り裂いた。

 

 撃破すると同時にすでに放出していたドラグーンを戻すと即座に次の敵機をプラズマ収束ビーム砲で蹴散らしていく。

 

 《ジャスティス、アイテル、そのまま敵を近付けないでくれ。こちらは正面のナスカ級を突破する》

 

 「「了解!」」

 

 カガリの言う通り正面には同盟軍を行かせまいと立ちふさがる何隻もの艦が道を塞いでおり、同時に何機ものモビルスーツが群がるように襲いかかってくる。

 

 あれを突破しつつナスカ級を落していくとなると、それこそ余計な手間は掛けていられない。

 

 「一気に行きます!」

 

 「はい!」

 

 レティシアに続く形で追随するラクスは苦々しい表情でジェネシスを見る。

 

 何故あんな物を―――

 

 あれほど血のバレンタインの犠牲を悼んでいた者達が今では自分達がしている事すら見えないのか。

 

 かつてはプラントにいたからこそ、あそこが故郷であるからこそ止めなくてはならない。

 

 これ以上彼らが取り返しのつかない罪を犯す前に。

 

 たとえこの手を血で汚そうとも―――

 

 そう決意した瞬間、ラクスのSEEDが弾ける。

 

 視界がクリアになり、今までの感覚とはまるで違う。

 

 「はあああ!!」

 

 バーニアを全開にして敵陣に突っ込むとブレードとビームサーベルを器用に振るい次々とモビルスーツを排除していく。

 

 「くそ、囲んで仕留めろ!」

 

 「おう!」

 

 味方が近すぎるのかビームライフルなど使わずビームクロウや重斬刀を構えて斬りかかってくる。

 

 しかし―――

 

 「遅いです!」

 

 SEEDを発現させたラクスにはあまりに敵機の動きは遅すぎる。

 

 当然のように彼らの攻撃がジャスティスを捉える事はなく、逆に返り討ちにあってしまった。

 

 「あの動きは―――」

 

 ドラグーンを放出し、数に任せて囲んで来た敵モビルスーツを撃ち落とすとレティシアは思わずつぶやいた。

 

 ジャスティスの動きの変化、あれはアスト達が時折見せるものと同じだ。

 

 彼ら曰くSEEDと言うらしいが、その力がラクスにも備わっていたということか。

 

 「各艦へ! 私が道を切り開きます! 続いてください!」

 

 《了解だ。頼むぞ》

 

 「はい!」

 

 ラクスの獅子奮迅の戦いぶりにより道が切り開かれ、そして立ちふさがっていた数隻のナスカ級にアークエンジェル、クサナギ、オーディン、ドミニオンが陽電子砲を発射する。

 

 「「「「ローエングリン、撃てぇ―!!!」」」」

 

 凄まじい閃光がナスカ級を貫通し薙ぎ払っていく。

 

 順調に進んでいく同盟軍だったが、それを静かに見つめていた人物がいた。

 

 黒いイレイズに乗り込んでいる男、クロードである。

 

 特務隊を引き離し戻ってきたはいいが、予想外の事が起きており、同盟軍とドミニオンが共に行動しているのだ。

 

 降伏したという事だろうか?

 

 現在の状況を考えればジェネシスを破壊するために単独で突破しようなどと考えるよりは現実的な手段といえる。

 

 おそらく艦長であるセーファス・オーデンの考えだ。

 

 あの男ならこれくらいはやるだろう。

 

 だがそれをアズラエルが認めるとも思えない。

 

 となれば排斥されたか、あるいは―――

 

 「情けないな、アズラエル。私が戻るまでもたせられないとは」

 

 いささか早い退場だが、必要な事はすべて済んでいるため問題はない。

 

 後は同盟軍である。

 

 このまま高みの見物を決め込んでも良いが、彼らの力を見ておくのも悪くないとそう決めるとネイリングを構える。

 

 「さて同盟軍の力、見せてもらおうか」

 

 クロードはスラスターを使い、まずは邪魔な連中から始末するため付近に待機しているバスター達に突撃した。

 

 

 

 

 その頃、先行していたムウは行く手を阻むザフトのモビルスーツをシュベルトゲーベルで次々と両断し、戦場を突き進んでいた。

 

 ここにいるのは間違いなく防衛ラインを守るために配置された猛者たちである。

 

 それをものともしないその姿はエンデュミオンの鷹と呼ばれるにふさわしい戦いぶりであった。

 

 発射されたビームライフルの一撃を絶妙のタイミングで回避。

 

 対艦バルカン砲でシグーを蜂の巣にした後、迫ってきたジンをビームライフルで撃ち抜いた。

 

 この混戦では補給を受ける事も難しく、長丁場なると判断したムウはバッテリー節約の為にアグニは極力使わず、持ち出したビームライフルを使うように心掛けていた。

 

 「まったく、数だけはいるな!」

 

 それだけ敵も必死という事だろう。

 

 一見して優勢に見えるザフトもまた追い詰められているという証拠かもしれない。

 

 「ま、それでもこっちに余裕がある訳じゃなくてね。悪いが通してもらうぞ!」

 

 背後からビームクロウを振りかぶって来たゲイツをビームガンで牽制。

 

 動きが鈍った瞬間にグレネードランチャーを叩きこみ破壊する。

 

 そのまま迫ってきた敵を振り切るようにスラスターを全開にして突き進んでいく―――その時、ムウの全身にあの感覚が走った。

 

 「これは、ラウ・ル・クルーゼか!?」

 

 操縦桿を握る手に力が入る。

 

 ユリウスから聞かされた因縁。

 

 今はジェネシスを優先すべきなのは分かっているが、それでも放っておく事ができない。

 

 この状況を生み出したのが奴だというならば、尚更である。

 

 「決着をつけるぞ、クルーゼ!!」

 

 そのままアドヴァンスストライクを感覚の示す先に向かって加速させる。

 

 すべての因縁を断ち切るために。

 

 

 

 

 当然、ムウがそれを感じ取ったようにラウもまたこちらに向かってくる存在を感知していた。

 

 「まずはお前か、ムウ・ラ・フラガ」

 

 動きを止めたプロヴィデンスにチャンスとばかりにストライクダガーはビームサーベルを引き抜いて一気に襲いかかった。

 

 「今だ!」

 

 「落とせ!!」

 

 攻撃を仕掛けたパイロット達全員が勝利を確信した。

 

 何故なら敵機は振り向く素振りすら見せなかったから。

 

 だが次の瞬間パイロット達の意識すべてが消え失せ、乗っていた機体さえも撃破されてしまった。

 

 残骸の周囲にはプロヴィデンスから放出されたドラグーンが漂っている。

 

 彼らは全員、放出された砲台によりコックピットを撃ち抜かれていたのだ。

 

 「無駄な事を」

 

 普通のパイロットにドラグーンは見切れない。

 

 仲間の仇を討とうと迫ってきたストライクダガー編隊をドラグーンでいとも簡単に殲滅、彼らの母艦を撃沈寸前まで追い込んでいく。

 

 そこに見慣れた機体、アドヴァンスストライクが接近してきた。

 

 ラウは口元に笑みを浮かべながら、声を上げた。

 

 「来たかね、ムウ!」

 

 「ラウ・ル・クルーゼ!!」

 

 叫ぶと同時にプロヴィデンスを狙いアグニを発射した。

 

 「そんなものが通用するとでも!」

 

 砲口から撃ち出された閃光をスラスターを使って回避。

 

 同時にドラグーンを射出すると四方からのビーム攻撃がアドヴァンスストライクに襲いかかる。

 

 「チィ!」

 

 ムウはあの感覚―――殺気のようなものを感じ取ると操縦桿を巧みに操作しすべてのビームを避け切った。

 

 「ほう、すべてかわすか。見直したよ。出来損ないとはいえフラガ家の力を持つ者か」

 

 「うるせぇよ、この野郎!!」

 

 こちらを囲むようにドラグーンから連続でビームが放たれるがそれもまた鮮やかに回避し、逆にビームライフルでプロヴィデンスを狙い撃つ。

 

 ムウがドラグーンの攻撃に対応できるのはもちろん彼自身の力もあるが、それだけではない。

 

 搭乗機であるアドヴァンスストライクの性能とそしてもう一つ。

 

 ムウもまた対ドラグーンの訓練を積んでいたからだ。

 

 この二か月の間アスト達と共に彼もまたシミュレーターをやり込んでいたその成果である。

 

 それを見たラウは若干忌々しそうにストライクを睨みつけた。

 

 「今のこの状況が貴様の望みか!」

 

 「私の望み? 違うな、ムウ。私達の望みさ。それに私は背中を押しただけ。殺し合っているのは彼らの意思でだ」

 

 「何だと!」

 

 ドラグーンを掻い潜り、シュベルトゲーベルをプロヴィデンスに袈裟懸けに叩きつける。

 

 「ふざけるな!!」

 

 ムウにとって会心の斬撃。

 

 何らかの損傷でも与えられると確信した。

 

 しかしラウの反応はそんな予測を遥かに上回っていた。

 

 「愚かなものだと思うだろう、ムウ。しかしこれが人の本質だよ!」

 

 シュベルトゲーベルを複合防盾で受け止めると即座にビームソードを展開し、弾き飛ばすと同時に刀身を叩き折った。

 

 「ぐあああ!!」

 

 「無様だな、ムウ!」

 

 アドヴァンスストライクは今の衝撃で弾き飛ばされ完全に体勢を崩されてしまった。

 

 ラウの放った斬撃は彼の実力を示す一撃だったと言っていい。

 

 機体性能に差はあれど先程の攻防はムウの方が速かった。

 

 彼自身文句のない一撃である。

 

 にも関わらずダメージも与えられず、さらに武装まで破壊されてしまった。

 

 これはつまり反応速度においてラウはこちらの上を行くという事に他ならない。

 

 「くっ、貴様!」

 

 「はっ、所詮この程度か。それで私の兄弟とはな。あの屑も貴様を見限る訳だ」

 

 「うるさい!」

 

 折られたシュベルトゲーベルを投げ捨て、ビームサーベルを抜くと四方から降り注ぐビームを雨を突っ切るように加速する。

 

 途中右腕や脚部にビームが掠め、傷を作っていくが構ってはいられない。

 

 「まだ、足掻くか。だがそれでいいぞ。簡単に諦められたら殺しがいもない」

 

 「舐めるなよ!」

 

 接近したプロヴィデンスに向け何度も左右からビームサーベルを繰り出す。

 

 だがこちらの動きを読み切っているのではと錯覚するようにかわされていく。

 

 軽やかな動きで斬撃をかわしながら、さらに煽るように告げる。

 

 「すでに何をしても無駄だ。私は結果だよ。だから分かるのさ、人は自ら生み出した闇の飲まれ滅ぶのだと!!」

 

 「それは貴様の理屈だ!」

 

 ムウが繰り出したビームサーベルを弾き、突き飛ばすと再びドラグーンによる四方からの攻撃を加えていく。

 

 「随分と足掻くな、ムウ。しかし、ここまでだ!」

 

 「何!?」

 

 ドラグーン動きと射撃精度が格段に上がる。

 

 先程までまるで違う動きにムウはあっという間に防戦一方に追い込まれてしまう。

 

 「速い!?」

 

 何とか回避してはいるものの、次々と機体に傷跡を刻んでいく。

 

 このままでは不味いと複雑な機動を取り、隙を見つけてビームライフルでドラグーンを撃ち落とそうと試みる。

 

 「甘いな」

 

 しかしそれすら見透かしたようにこちらが反撃してきた瞬間を狙いラウもまたビームライフルを構えて狙ってくる。

 

 「ぐぅ!」

 

 咄嗟に機体を下がらせた事で直撃は避けたが、持っていたビームライフルが撃ち抜かれてしまった。

 

 思わず舌打ちしながらラウとの差を痛感したムウは自分を叱咤するつもりで大きく叫んだ。

 

 「チッ! 貴様、姉さんがそんな事を望んで―――」

 

 その叫びは最後まで続かない。

 

 「……黙れ」

 

 ラウが思わずゾッととしてしまう程、底冷えするような冷たい声で遮ったからだ。

 

 ムウは知らずラウの逆鱗に触れた。

 

 彼にとってアリアの事はタブーに近い。

 

 語って良いのは共に地獄を見たユリウスのみだ。

 

 「先日まで何も知らなかった者が―――貴様ごときが知った風な事を言うな」

 

 その声に込められている殺意に答える様に繰り出される攻撃が速くそして鋭くなっていく。

 

 休む間もなく四方から撃ち込まれてくるビームをシールドを使って捌き、避けていくムウも対応しきれなくなって追い詰められていく。

 

 「何も知らずのうのうと生きてきた屑が、偉そうに何を語るつもりだ!」

 

 そして一条のビームが右腕を貫通すると、プロヴィデンスのビームソードで両足を切断され、さらに蹴りが入り吹き飛ばされてしまった。

 

 「ぐああああ!」

 

 あまりの衝撃に一瞬気を失いかける。

 

 それでもコックピット内にけたたましく鳴る警告音のおかげで意識を保つ事が出来た。

 

 ムウはなんとかモニターを見ると悠然と佇むプロヴィデンスがゆっくりビームライフルの銃口をストライクに向けていた。

 

 「さようならだ、ムウ」

 

 「く、そぉ」

 

 ここまでか―――マリュー、すまん。

 

 泣かせてしまうだろう恋人を思いムウは目を閉じた。

 

 しかしビームが発射される事はなく、何かに気がついたようにプロヴィデンスは回避行動を取った。

 

 「……なんだ?」

 

 視界に飛び込んで来たのはメンデルで見た紅いザフト機、ジュラメントであった。

 

 何故あの機体がラウに攻撃を仕掛けるのか分からず、一瞬呆然としてしまう。

 

 すぐに思考を切り替え痛む体に鞭打って機体状態を確認し始めた。

 

 そしてムウを仕留め損ねたラウの前には紅い機体ジュラメントが立ちふさがっていた。

 

 パイロットはもちろん自分が良く知る人物―――

 

 「……どういう事かな、アスラン? 味方に対して攻撃を仕掛けてくるとは」

 

 「それは言わなくても分かるのではありませんか? ラウ・ル・クルーゼ隊長、あなたが地球軍にNジャマーキャンセラーの情報を渡した事は分かっている!」

 

 アスランの指摘にラウは何も答えない。

 

 それを肯定と捉えたのかビームソードを抜き放つとすべて覚悟したような声で告げた。

 

 「貴方の過去はメンデルで聞いた。だが、だからといって貴方のやった事を認める訳にはいかない!!」

 

 「……なるほど。まあ、キラ・ヤマト、アスト・サガミが来る前の余興にはなるか」

 

 「ふざけるなぁ!!」

 

 すべての憤りをぶつけるようにプロヴィデンスに突進する。

 

 彼からすれば血のバレンタインと同じ悲劇を生みだした元凶が目の前にいるのだ。

 

 冷静でいられないのも仕方がない。

 

 ジュラメントの放った斬撃を複合防盾で流しドラグーンを展開、四方から攻撃を仕掛ける。

 

 嵐のような攻勢を前にしてもアスランは驚く事無く慎重に機体を後退させるとドラグーンの攻撃を回避した。

 

 初めからドラグーンによる攻撃は予測済み。

 

 何故ならすでにL4会戦においてその力は周知の事実となっていたからである。

 

 「ほう、目を掛けていただけはあるか」

 

 「そう簡単に捕捉はさせない!」

 

 次々と降り注ぐビームを機体を変形させ、一気に加速して振り切るとビームキャノンを放った。

 

 通常のパイロットならば対応できない速度から放ったビーム。

 

 しかしラウはそれを軽々と回避。

 

 すさまじい速度でプロヴィデンスを翻弄するジュラメントの動きを制限するようにビームライフルとドラグーンを巧みに使い攻撃を仕掛けてくる。

 

 「くっ!?」

 

 進路を塞ぐように放たれるビームを極力読みにくい複雑な軌道で避け切り、プラズマ収束ビーム砲を邪魔なドラグーンを狙って叩き込む。

 

 だが放たれたビームがドラグーンを捉える事は無く、降り注ぐビームが緩む事もない。

 

 「どうしたかな、アスラン。この程度か? 残念ながら君では私を相手するには役不足だよ」

 

 反論する事もできない。

 

 というかその余裕がない。

 

 彼が隊長を務めるクルーゼ隊に所属したからラウが強い事は分かっていた。

 

 しかし実際に戦ってみれば、その実力はアスランが想定していたものよりも遥か上である。

 

 「ここまでの実力を持っていたのか!」

 

 「君の事は良く分かっている。その動きや癖もね」

 

 高速で動くジュラメントをビームライフルで狙い撃つと片側のプラズマ収束ビーム砲を捉え吹き飛ばす。

 

 「ぐぅ!」

 

 正確な射撃、そしてこちらの動きを見切ったような攻撃にアスランは驚愕で固まった。

 

 「まさか、もうこちらの動きを見切ったとでも!?」

 

 「止めを刺す前に礼を言っておこうか。君にも、そして君の父上には恩がある。この状況を作るのに彼ほどの協力者はいなかったからね」

 

 「何!?」

 

 「それに君にもだ、アスラン。君とキラ・ヤマト君の殺し合いは見ていて実に愉快だったよ。そのままアスト・サガミ君に殺されてくれれば、なお良かったのだがね。そうすればもっと早くこの状況を作れた」

 

 つまり自分達は初めから彼によって踊らされていたという事―――怒りで歯を砕けるくらい強く噛みしめる。

 

 「実に良い道化だったよ、君達親子はね」

 

 本当にそうだ。こんな男を信じていたなんて、本当に間抜けだ。

 

 ああ―――だからこそ!

 

 「ラウ・ル・クルーゼェェェ!!!」

 

 アスランのSEEDが弾けた。

 

 今までとは比較にならない感覚に身を任せ操縦桿を操作、降り注ぐビームの雨を軽々と回避しプロヴィデンスに肉薄する。

 

 「うおおおおお!!」

 

 「動きが変わった? それでも私には届かない」

 

 その動きに驚愕しつつもラウはビームソードで斬り払い、ドラグーンを囲むように操作しジュラメントを狙い撃つ。

 

 だが再びそこに乱入者が現れる。

 

 ジュラメントを囲むように配置したドラグーンが一斉に撃ち落とされる。

 

 そして同時にラウの直感が危険を感知し、後退した瞬間、強力のビームがプロヴィデンスがいた空間を薙ぎ払った。

 

 現れた機体はラウが待ち望んでいた―――

 

 「フリーダム!?」

 

 「キラか!?」

 

 凄まじい速度で突っ込んできたのはスレイプニルを装備したフリーダムである。

 

 ジェネシスに向かっていたキラは言葉にできない何かを感じ取り、この宙域に駆けつけていた。

 

 「ムウさん! アスランも!?」

 

 そして見たのは傷ついたアドヴァンスストライクとメンデルで見た機体プロヴィデンスと対峙していたジュラメントであった。

 

 何故ザフトのアスランがプロヴィデンスと戦っているかは知らないが、ラウは自分が決着をつけなければならない相手である。

 

 キラは迷うことなくトリガーを引くとスレイプニルから発射されたビームとミサイルが一斉にプロヴィデンスに撃ち込まれる。

 

 同時にジュラメントを囲んでいたドラグーンを撃破するとスレイプニルを垂直に装着、加速して近接用ブレードを叩き込んだ。

 

 「貴方はここで!」

 

 「待っていたよ、キラ君!」

 

 叩きつけられたブレードを弾き飛ばすと、ドラグーンの標的をフリーダムに変更しビームを浴びせていく。

 

 だがキラはそれを見切っているかのように軽々と回避すると、動きを止める為ミサイルを発射する。

 

 だがプロヴィデンスは網のように張り巡らせたドラグーンによってすべてのミサイルを叩き落とした。

 

 「はあああ!!」

 

 その爆煙の中を突っ切り振り抜かれるフリーダムの斬撃に思わず舌打ちしたラウは嘲るように告げた。

 

 「まったく厄介な奴だよ、君も、アスト・サガミも! あってはならない存在だというのに!!」

 

 「何を!?」

 

 「知れば誰もが望むだろうさ、君のようになりたいと! 君のようでありたいと!!」

 

 ドラグーンの精度が鋭さを増しスレイプニルの大口径ビームキャノンが破壊され、さらに振り切るように加速しても正面からヒュドラが迫ってくる。

 

 それを旋回してすり抜けた先にはビームソードを振りかぶるプロヴィデンスが待ち受けていた。

 

 「故に許されないのさ! 君に様な存在は! だからこそアスト・サガミやユリウスのような存在も誕生した!」

 

 振り抜かれたビームソードをキラはブレードで受け止め、鍔迫り合う。

 

 「だから今日こそ君には消えてもらう!!」

 

 「……言いたい事はそれだけですか」

 

 「何?」

 

 フリーダムはそのままバーニア出力を上げながらブレードを押し込むと、プロヴィデンスを逆に吹き飛ばした。

 

 「貴方の言う事は真実でしょう。メンデルで行われたような研究で命を生み出すなんてあってはならない事だ。……でも僕はもう生まれここにいる」

 

 プロヴィデンスの放つビームライフルの攻撃を片方の腕で抜いたビームサーベルで斬り飛ばす。

 

 そして高エネルギービーム砲で牽制しながら、バラエーナ・収束ビーム砲を撃ち込んだ。

 

 「チッ!」

 

 「だから生きている事が許されないなんて思わない。僕は一人で生きて来た訳じゃないから。僕の事を知っても、大切だと、友達だと、そう言ってくれた人達がいる。その人達の為に僕は生きなくちゃいけない。無責任に命を投げ出す事こそ許されないんだ!!」

 

 「詭弁だな! 君の存在が危険なのだよ。君が暴走すれば―――」

 

 「……アストがいるさ」

 

 「なんだと?」

 

 「僕は人間だ。だからこの先絶対に間違えないなんて言えない。でもその時はアストが止めてくれるよ。……だって、彼は僕の友達だからね!!」

 

 キラはSEEDを発動させると進路を阻むように展開されたドラグーンをあり得ないほどの射撃精度で撃ち抜いていく。

 

 「本当に厄介な存在だ!」

 

 ラウがフリーダムを再び狙い撃とうとビームライフルを構えた時、再び彼の直感が危険を察知する。

 

 背後からビームライフルでジュラメントが攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

 「ラウ・ル・クルーゼ!!」

 

 「邪魔だよ。これは私とキラ君の戦いだ!」

 

 「そんな事は関係ない!」

 

 「アスラン!?」

 

 キラとアスランは互いを見る。

 

 もちろんモニターに顔が映った訳でも、通信した訳でもない。

 

 それでも目が合ったような気がしたのだ。

 

 2人は互いに頷くと、プロヴィデンスに突っ込んでいく。

 

 傍から見れば無謀な突進にも見えただろう。

 

 しかし2人はいつの間にか自然と相手の行動を悟り、それに合わせ連携を取った。

 

 ジュラメントに放たれたヒュドラをフリーダムがシールドで防御、アスランはその後ろから飛び出すとビームソードを一閃する。

 

 「チッ」

 

 袈裟懸けの斬撃がプロヴィデンスのビームライフルを捉え、斬り飛ばす。

 

 ラウはこの戦闘で初めて後退を選んだ。

 

 いかに彼でもこの2人が連携を取るとは思っていなかった。

 

 何故なら彼らは敵同士で憎み合っている筈だから。

 

 なのに何故―――

 

 「何故連携が取れる!? 憎み合い、殺し合ったのだろうが!!」

 

 「……何故ですかね」

 

 「共通している目的があるからじゃないか?」

 

 「何?」

 

 「「貴方の好きにはさせない!!」」

 

 2人の声が揃うと同時に連携の精度が増していく。

 

 「キラ!」

 

 「はあああ!!」

 

 フリーダムのブレードがプロヴィデンスを狙って斬り払われ、回避した先にジュラメントのビーム砲が撃ち込まれた。

 

 非常にやっかいである。

 

 普通のパイロットが連携を取った程度でラウが遅れを取ることなどないだろう。

 

 しかしこの二人はこの世界でもトップクラスのパイロット達であり、そして何よりSEEDを発動させている。

 

 これほど手強い相手もそうはいない。

 

 手こずっていると認めざるえないだろう。

 

 「ふん、なるほど。ならば2人そろって押しつぶすまでの事!」

 

 その宣言通り、この状況においてもドラグーンの精度は落ちるどころか増していき2機を確実に損傷させていく。

 

 フリーダムの装着しているスレイプニルは装備しているブレードを除きほとんどの武装が破壊され、本体も装甲が破損し左足が破壊されている。

 

 だがそれでもフリーダムはまだ良いがジュラメントの方は徐々に限界が近づいていた。

 

 機体の各所が傷つき、背中のスラスターの一部も損傷している。

 

 連携を取っていなければ撃破されていたかもしれない。

 

 これはアスランの技量の問題ではなく、ドラグーンに対する経験の差が現れた結果である。

 

 訓練を積み、ある程度の経験があるキラと、存在は知っていても初めて対峙したアスランとでは差が出るのも当たり前であった。

 

 「くそ、まだまだァ!!」

 

 「アスラン、君は一旦下がって―――」

 

 「俺の事は良い! 戦闘に集中しろ!!」

 

 「どこまで持つかな!」

 

 奮戦するアスランとキラの二人に苛烈なまでに攻撃を加えていくラウ。

 

 フリーダムとジュラメントが押され気味であるとはいえ、プロヴィデンスもまた最初の頃の余裕は無くなっていた。

 

 ドラグーンの半数は破壊され、ビームライフルも失っている。

 

 さらに機体もまた足が斬り飛ばされ、装甲も抉られていた。

 

 

 ほぼ拮抗しているといって良い、この状況。

 

 崩したのは戦闘している者たちではなく―――完全に予想外とでもいえば良いのか、ラウ自身の失策だったと言えるだろう。

 

 彼は失念していたのだ。

 

 この場の戦士は彼ら3人ではなく、もう1人いた事を。

 

 フリーダムの攻撃を避け、ジュラメントにさらなる損傷を与えようとした瞬間、ラウに電気が走ったような感覚が駆け抜ける。

 

 「何!?」

 

 完全に虚を突いた奇襲。

 

 別方向から強力なビームがプロヴィデンスを撃ち抜こうと迫ってくる。

 

 それでもラウは反応していた。

 

 それだけでも十分に驚異的といえる。

 

 しかし―――

 

 「なっ!?」

 

 回避しようとしたプロヴィデンスにフリーダムのクスフィアス・レール砲の一撃が直撃、態勢を崩されてしまった。

 

 その結果ビームを完全に回避する事が出来ず、プロヴィデンスの左腕を消滅させた。

 

 ビームが放たれた先には、残った腕でアグニを構えたアドヴァンスストライクの姿を見たラウは激昂する。

 

 「ムウ、貴様ァァ!!」

 

 ドラグーンを差し向け、動けないアドヴァンスストライクを撃ち抜いた。

 

 放たれたビームが装甲を抉り、爆発を引き起こす。

 

 コックピットへの一撃はアグニを盾にして防いだものの、それでも機体は大きく爆発を起こした。

 

 「ざまあみろ、クルーゼ。言ったろ、舐めるなってさ。俺は不可能を可能にする―――」

 

 そこでムウの意識が途絶えた。

 

 「ムウさん!!」

 

 ラウとキラがムウの方に気を取られた瞬間、アスランは動いていた。

 

 破壊されたスレイプニルに装着されていたもう一本のブレードを拾い腕にマウントするとプロヴィデンスに突進した。

 

 「はあああああ!!」

 

 「アスラン!?」

 

 ブレードの一撃がプロヴィデンスの右肩の関節部に突き刺さり、さらにスラスターを吹かせ押し込んでいくとそのまま撃沈寸前の地球軍の戦艦に叩きつけて叫んだ。

 

 「今だ! キラ、撃てぇ――!!」

 

 だがラウも何もしない訳ではない。

 

 ブレードを叩きつけているジュラメントの右腕をヒュドラで吹き飛ばした。

 

 「ぐあああ!?  まだ!」

 

 残ったスラスターを使いアスランが飛び退くと同時にキラは残った武装のすべてをプロヴィデンスに叩き込む。

 

 「いけェェェ!!!」

 

 眼前にフリーダムの攻撃が迫る中、すべてのドラグーンを操作し、プロヴィデンスの前に配置する。

 

 だが圧倒的な火力の前にすべて破壊され、大きな爆発を引き起こす。

 

 その爆発に巻き込まれ撃沈寸前の艦もまた限界を迎えたのだろう。

 

 さらに大きな炎となってプロヴィデンス共々閃光に包んでいく。

 

 しかし、彼はそれでも笑っていた。

 

 「フフフ、ハハハ、アハハハハハ!!」

 

 すべてを嘲笑うような声はいつまでもキラの耳に残っていた。


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