機動戦士ガンダムSEED cause    作:kia

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第40話  ボアズの閃光

 

 

 

 L4会戦から約2ヶ月の時が流れていた。

 

 その間にも地球軍とザフトの戦闘は激化していたが、現在は膠着状態となっている。

 

 そんな中、地球連合軍本部では連日会議が行われていた。

 

 議題はアズラエルが手に入れたNジャマーキャンセラーについてである。

 

 アズラエル自身はこれを持って一気にプラントを殲滅しようとしているのだが、他の首脳達がなかなか首を縦に振らない。

 

 「アズラエル、Nジャマーキャンセラーを手に入れたのはお手柄だ。しかし―――」

 

 「核で総攻撃というのは……」

 

 「そうだ。まずエネルギー問題を解決する方が先決だよ。我々の国では今年の冬に凍死者が出る恐れすらある」

 

 その言葉を聞いたアズラエルは机を殴りつけ、黙らせた。

 

 「この後に及んで何を言ってるんですか! 相手はコーディネイターなんですよ! 撃たなきゃ勝てないでしょうが、この戦争に!」

 

 「しかし、我々は戦争だけをしている訳ではない。国民達を―――」

 

 「そんな事は戦争が終わった後にでもやって下さいよ。それに核なんて前に撃ってるじゃないですか! 何を躊躇う事があるんです!?」

 

 高らかに告げるアズラエルに出席している首脳陣の半分以上が冷たい視線を向ける。

 

 そもそもユニウスセブンに核を撃ち込んだのはアズラエルの息のかかった連中が勝手にした事である。

 

 「……勝手な事をしておきながら良く言う」

 

 そんな呟きや視線を無視し、アズラエルは締めくくった。

 

 「さっさと終わりにしてくださいよ、こんな戦争は」

 

 アズラエルがここまで強引に事を進めようとしているのには理由がある。

 

 もちろん今すぐにでもプラントを殲滅したいという感情はあるが、それだけではない。

 

 地球の戦況が思った以上に良くないのである。

 

 アズラエルの考えではアラスカの件でザフトの戦力を大幅に削った後、大量のモビルスーツ部隊を投入し一気に戦局を塗り替えるつもりだった。

 

 しかしアラスカの思惑は外れ、オーブ戦役での敗北。

 

 強引な侵攻に対する各国の反発。

 

 内部ユーラシアとの対立など様々な事が重なり状況は良くない方へ向かっていった。

 

 現在の戦況は膠着状態。

 

 L4会戦にて旗頭のGATシリーズの1機レイダーが撃破されるという誤算。

 

 このままでは今のアズラエルの立場まで失いかねない。

 

 それではあの化け物共を駆逐できなくなる。

 

 だからこそこれ以上の誤算が生じる前にプラントを殲滅する。

 

 撃ってしまえばその後はどうにでもなるのだから。

 

 結局そのままアズラエルが自身の考えを押し切り、プラントへの侵攻が決定された。

 

 会議を終え部屋に戻るとそこにはクロードが待っていた。

 

 「お帰りなさいませ、会議はいかかでしたか?」

 

 「ああ、全く頭の固い連中を相手にするのは疲れるよ。でも、ようやく決まった」

 

 アズラエルは笑みを浮かべる。

 

 そう、些か誤算もあったがこれでようやくあの化け物共を葬りさる事が出来るのだ。

 

 「レイダーの穴埋めにクロード、君にも出てもらうよ」

 

 「はい。もちろんです」

 

 クロードの返事に満足するとアズラエルは椅子に座り、端末を操作する。

 

 そこに映し出されたのはクロードの機体―――

 

 GAT-X142 『イレイズサンクション』

 

 ゼニス開発の際にデータ収集の為に試作された機体の2号機だ。

 

 それにクロード用の調整を加え、L4で手に入れたNジャマーキャンセラーを後付けで搭載している。

 

 武装は基本的な装備と対艦刀『ネイリング』、そして背中にはガンバレルストライカーを改良したものを装着してある。

 

 これで準備は整った。

 

 アズラエルはサザーランドに連絡を取るため通信を入れた。

 

 

 

 

 地球軍のボアズ侵攻。その知らせはすぐさまザフト全軍に知れ渡った。

 

 ザフトにはプラント防衛の拠点として2か所の宇宙要塞が存在する。

 

 それが『ボアズ』と『ヤキン・ドゥーエ』である。

 

 そして今その拠点の1つボアズに地球軍が侵攻してきたという知らせが入ってきたのだ。

 

 ボアズとヤキン・ドゥーエ、その中間の位置にいたエターナルで報告を聞いたアスランは拳を握り締めた。

 

 「ついに来ましたね」

 

 「そうだな」

 

 何時か来るとは思っていたが―――

 

 地球軍の侵攻自体はそう不思議がる事ではないが、予測されていた時期よりもかなり早い。

 

 こんな時期に攻撃を仕掛けてきた地球軍もまさか無策で来る筈もない。

 

 「これは何かあるね」

 

 「ええ」

 

 バルトフェルドも同じように考えていたか、その表情は実に険しい。

 

 「隊長、我々にもボアズに向かうように命令がきました」

 

 ダコスタの報告に頷く。命令とあれば行くしかない。

 

 「シリルはどうするんですか?」

 

 アスラン達がこの宙域にいたのはこれからシリルのコンビクトと合流する事になっていたからだ。

 

 合流後、エターナルに搭載された機動兵装のテストを行う予定になっていたのだが―――

 

 「途中で合流しよう。ダコスタ、通信回線を開け。エターナル発進だ。ボアズに向かうぞ」

 

 「「了解!」」

 

 号令に合わせエターナルはボアズに向かって発進した。

 

 

 

 

 

 ボアズ侵攻に伴いパトリック・ザラが執務室に入ると同時に評議委員達が詰め寄ってきた。

 

 執務室には数人の評議委員や軍関係者、そして特務隊に転属となったラウ・ル・クルーゼもいる。

 

 「議長―――」

 

 「うろたえるな! ボアズ侵攻は予想された事だろう!」

 

 パトリックの言葉にその場にいた者達は徐々に平静を取り戻し、次々と報告を上げていく。

 

 「全軍の招集は?」

 

 「完了しております」

 

 「報道管制は?」

 

 「そちらも問題なく」

 

 彼らにとってこれは予想されていた事。

 

 予定通りに対応していく者達を見ていたラウは誰にも気がつかれないように微かに笑みを浮かべた。

 

 地球軍が動き出したという事は準備が出来たという事。

 

 この戦いの結末は誰もが予想もしなかったものになるだろう。

 

 その時に目の前にいる男、パトリック・ザラの顔がどう変わるか楽しみで仕方ない。

 

 その結末を思い描きながら、モニターを見上げた。

 

 

 

 

 

 ボアズは地球軍侵攻の知らせを受け、すでに迎撃の為部隊を前面に展開していた。

 

 無数のモビルスーツが宙域を覆い尽くし、見ただけでも要塞に辿りつくのは不可能に見える。

 

 そして出撃した誰もが迫りくる敵を意気揚々と待ち構えていた。

 

 「来たぞ!!」

 

 声が響くと同時に地球軍艦隊を視界に捉えた。

 

 「全機、ナチュラル共に後れを取るなよ!!」

 

 「「「了解!!」」」

 

 ジン、シグー、そして最新鋭機ゲイツも地球軍の迎撃に移る。

 

 それは地球軍側も同じだった。

 

 数十隻にも及ぶ艦艇から次々とストライクダガーが出撃していく。

 

 こちらもボアズに展開したモビルスーツの数に負けてはいない。

 

 地球軍がこの作戦にどれだけ力を入れているかが分かる程の戦力が展開されていた。

 

 双方が徐々に接近し―――そして戦端が開かれた。

 

 「落ちろ、ナチュラル共!」

 

 「そんなモビルスーツモドキで!!」

 

 ジンとシグーが重斬刀を抜き、突撃砲を構え、ストライクダガー部隊に突っ込んでいく。

 

 重斬刀がストライクダガーのボディを真っ二つに斬り裂き、シグーの突撃銃で敵機を蜂の巣にして破壊する。

 

 しかしストライクダガー部隊も一方的にはやられない。

 

 「迂闊に出るなよ! 連携を組め!」

 

 「「了解」」

 

 ビーム兵器を標準装備しているストライクダガーはジンよりも高性能である。

 

 最新鋭機であるゲイツは標準装備しているものの圧倒的に数が少ない。

 

 つまり個々の力は劣っていても機体性能と数は連合の方が勝っているのだ。

 

 連携を組んだストライクダガーの放ったビームライフルの一撃がジンの胴体を貫通し、撃破された機体の閃光に紛れ、接近するとビームサーベルでシグーの胴体を串刺しに撃墜する。

 

 「良し、やれるぞ」

 

 「調子に乗るなよ、コーディネイター!」

 

 一見有利なのは、物量で上回っている地球軍である。

 

 だがやはりモビルスーツでの戦闘は経験豊富なザフトに有利なのか、地球軍の圧倒的な数相手に互角以上に戦っていた。

 

 押し迫るストライクダガーを次々と撃破し、ザフトが押し返していく。

 

 だが二か所ほど例外があった。

 

 一か所目はドミニオンから発進したGATシリーズ、3機のガンダムである。

 

 「おらぁ!」

 

 オルガの怒声に合わせスキュラとシュラークをジンに叩き込み、まとめて消し飛ばすと負けじとシャニがフレスベルグで接近してきたゲイツ諸共敵部隊を薙ぎ払った。

 

 「はっ! 弱すぎ!」

 

 そしてエフィムも叫び声を上げながらネイリングで斬り込んでいく。

 

 「コーディネイタァァァ!!」

 

 振り下ろされたネイリングをゲイツがシールドで防御しようとしたが、受け止めきれない。

 

 「な、止められ―――うああああ!!」

 

 シールドごとゲイツを両断し、向ってくる敵機にスヴァローグを撃ち込んだ。

 

 放たれた閃光が複数のモビルスーツを宇宙の塵に変えていく。

 

 「な、なんだよ、あれは……」

 

 「ひ、怯むな! 押し返せ!!」

 

 ゲイツ部隊が囲むように3機のガンダムに襲いかかる。

 

 しかし、これは完全に失策であった。

 

 「沢山いるねぇ」

 

 「殺しがいがあるぜ!」

 

 「コーディネイターは殺す!」

 

 3機は怯むどころか嬉々として向ってくる敵機を蹂躙していく。

 

 彼らは今までの鬱憤を晴らすかのように盛大に暴れ回っていた。

 

 クロトが死んでからうるさい奴がいなくなり、少しはマシな環境になるかと思いきやアズラエルの機嫌がすこぶる悪くなりこちらが八つ当たりされる時も増えた。

 

 何より彼らにストレスを与えていたのは同盟軍の4機である。

 

 明らかに自分達よりも格上の存在―――それが許せなかった。

 

 「チッ、あいつらがいないのが不満だけどよ」

 

 「でも、ストレス解消にはいいよね、こいつら」

 

 「数は多いしな」

 

 フォビドゥンのニーズヘグに叩き斬られ、カラミティの放ったスキュラの直撃に爆散した敵機を見て二人は楽しそうに笑う。

 

 「死ねぇぇ!!」

 

 エフィムだけは何時も通り、余計な事には捉われる事無く、叫びながら敵を屠っていった。

 

 彼らはまさに戦場の死神だった。

 

 そしてもう一か所の例外―――こちらも3機のモビルスーツ。

 

 違いがあるとすればその3機はガンダムではなく量産機。

 

 スウェン、シャムス、ミューディーの3人であった。

 

 「いくぜぇぇ!!」

 

 シャムスの声に合わせバスターダガーからミサイルが発射され、敵部隊に襲いかかると同時にスウェンの105ダガーとミューディーのデュエルダガーがビームサーベルを構え斬り込んでいく。

 

 「いくわよ!」

 

 「……」

 

 動きの違う二機に反応できず、ゲイツがあっさりと撃墜されてしまう。

 

 スウェンはさらに動きを止める事無く、ビームライフルで次々と敵機を撃ち落としていく。

 

 「なんだこいつらは!?」

 

 「ナ、ナチュラルごときに!!」

 

 自らの内に湧いた恐怖を誤魔化すように声を上げ数機のジンが105ダガーに攻撃を仕掛ける。

 

 振りかぶられた重斬刀をスウェンは敵パイロットが自らが手加減したのかと錯覚するほど軽やかにあっさり回避する。

 

 ビームサーベルを逆袈裟に斬りつけ、さらに振り返りシグーの胴体目掛け横薙ぎに振るうと真っ二つに両断した。

 

 「あいつ、他と動きが違う!?」

 

 「本当にナチュラルかよ!?」

 

 迎撃する者たちは驚きを隠せない。

 

 しかしスウェンからすればこんなものは戦闘ではなく、まだ本気で戦ってすらいない作業のようなものであった。

 

 こちらの戦いぶりに敵の動きが鈍ったところに容赦なくビームライフルを撃ち込んでいく。

 

 「うわあああ!」

 

 「ば、馬鹿なぁ!」

 

 105ダガーの動きについて行く事が出来ず、迎撃のジンやシグーは数を減らしていった。

 

 「1人占めはずるいぜ、スウェン」

 

 難を逃れ距離を取ろうとした者達も、シャムスが放ったミサイルとガンランチャ―の雨が降り注ぎ、取りに逃した敵機をミューディーがリニアキャノンで撃ち落としていく。

 

 「雑魚だけど数だけは多いわよね、こいつら」

 

 「余裕、余裕」

 

 「……油断はするなよ」

 

 3機は一切の乱れもない連携を取ってザフトのモビルスーツを圧倒していく。

 

 彼らの戦闘をドミニオンで眺めていたアズラエルは上機嫌であった。

 

 正直彼らを投入したオーブ戦役からずっと満足な結果が得られずイラついていたのだが、しかし今回の戦闘はそのような事もなさそうだ。

 

 「いいねぇ、ようやく成果が出たよ。これならクロードを出さなくても良さそうだねぇ」

 

 「そのようですね」

 

 ご機嫌なアズラエルの後ろにパイロットスーツを着たクロードが佇んでいた。

 

 いつものようにサングラスをかけているため表情はよく見えないが、口元には笑みを浮かべている。

 

 「ドゥーリットルより入電です」

 

 「繋げ」

 

 セーファスはあえて感情を出さないように告げる。

 

 誰が、何を言おうとしているか分かっているからだ。

 

 感情を出せばそれこそアズラエルを殴り飛ばしかねない。

 

 モニターに映ったのは予想通りウィアム・サザーランドだった。

 

 《道が開けたようですな。ピースメーカー隊発進します》

 

 アズラエルは今までにないほどの残酷な笑みを浮かべる。

 

 「了解!」

 

 彼らの悲願がここから始まる。

 

 この宇宙から化け物を一匹残らず駆逐するという悲願が。

 

 これほど嬉しい事はない。

 

 それこそ声を上げて笑ってしまいそうである。

 

 ドゥーリットルを含む数十隻の艦からモビルアーマーメビウスが編成を組み、いずれも巨大なミサイルを抱えてボアズに向かっていく。

 

 「なんだあの部隊は?」

 

 それに気がついたゲイツが接近していくが、メビウスに近づく前にゼニスのネイリングで斬り落とされてしまう。

 

 さらに近づこうとした敵モビルスーツをフォビドゥンがレールガンで撃破する。

 

 「あれに近づくなよ、俺達が怒られるだろ」

 

 ボアズを射程距離に捉えたメビウスのパイロットがミサイルの安全装置を外す。

 

 「安全装置解除、信管起動、確認!」

 

 各パイロット達がミサイルのスイッチに手をかけた。

 

 それを眺めながらアズラエルは笑みを深くする。

 

 「これでボアズも終わりだ」

 

 しかしミサイルが機体から離れたその瞬間、頭上から降り注いだビームによって撃ち落とされてしまった。

 

 爆発したミサイルは大きな閃光と共に視界を白く覆う。

 

 さらに近くのミサイルやメビウスを巻き込んで誘爆し、凄まじい爆発を引き起こす。

 

 ザフトにとって不幸中の幸いだったのはメビウスに近寄れなかった為に巻き込まれた機体がいなかった事だろう。

 

 しかし目の前の閃光を見たザフト兵は驚きに固まっていた。

 

 今のは紛れもなくプラントに住む者にとって最大の禁忌―――血のバレンタインを引き起こした核だった。

 

 Nジャマーがあるかぎり地球軍が手にする筈のないもの、それが何故―――

 

 だが驚いていたのはザフトだけではなく、地球軍同様である。

 

 「いったい何故、防がれた!?」

 

 ビームが撃ち込まれた方向に誰もが視線を向けると、何かが猛スピードで戦場に突っ込んでくる。

 

 アスランのジュラメントとシリルのコンビクトである。

 

 ただし普段とは違うモノを装着していた。

 

 それはミーティアと呼ばれる大型兵装である。

 

 普段はエターナルの先端に接続されているが、分離させモビルスーツに装着する事で戦艦並の火力を得る事ができる。

 

 2人は迎撃した核ミサイルの閃光を見つめながら憤りを覚える。

 

 「地球軍め! 核を使ってくるなど!!」

 

 シリルは怒りのままにミーティアの全ミサイルポッドを開き、敵機をロックすると一斉に撃ち込んだ。

 

 すさまじい数の攻撃が敵モビルスーツに降り注ぎ、放たれた攻撃が地球軍のモビルスーツ部隊を一瞬の内に撃破していく。

 

 「もう核は撃たせないぞ!!」

 

 アスランもシリルに続くように砲門を開き、敵機を薙ぎ払っていく。

 

 そんな2機の増援に、動きを止めていたザフトも動き出す。

 

 「貴様らァァァ!!」

 

 「よくも核など!!」

 

 怒りにまかせ地球軍に襲いかかる。

 

 ゲイツがビームクロウでストライクダガーを串刺しにするとジンが突撃砲で敵機を撃ち抜く。

 

 ザフトが勢いを取り戻し地球軍を押し返していく中、怒りを感じていたのはジュラメントを操るアスランも同じであった。

 

 昔のようにナチュラルすべてが悪いなどとは思わないが、やはり地球軍は許せない!

 

 また血のバレンタインと同じ事を引き起こそうとするなんて!

 

 「これ以上好きにはさせない!!」

 

 アスランは機体を加速させ、怒りを吐き出すようにビーム砲を発射し次々にストライクダガーを破壊していく。

 

 

 

 

 ザフトに核ミサイルを撃ち落とされたアズラエルは憤怒の形相で通信士にインカムを奪い取りサザーランドに連絡をつける。

 

 「残存の核攻撃隊にボアズを攻撃させろ!!」

 

 《しかし、あの2機がいては―――》

 

 「奴らに迎撃させ―――」

 

 怒りの冷めやらぬアズラエルにクロードが静かに声を掛ける。

 

 「いえ、アズラエル様。私が出ましょう」

 

 クロードの声に少しは冷静さを取り戻したのか、怒りの表情を一転させニヤリと笑った。

 

 「クロード……」

 

 「3機のGはボアズまでの道を守らせた方が良いでしょう。あの厄介な2機は私が抑えます」

 

 「……そうだね。君に任せよう。それなら安心だ」

 

 「はい、では行って参ります」

 

 クロードはそのままブリッジを後にする。

 

 それを見送ったセーファスはアズラエルに訊ねた。

 

 「彼はそれほどのパイロットなのですか?」

 

 ずっと気になっていた。

 

 アズラエルは彼を重宝し、自分達の言葉には耳も貸さないがクロードの忠告は素直に聞き入れている。

 

 それほどの人物なのかと。

 

 「それは見てのお楽しみって奴ですよ、艦長さん」

 

 機嫌を良くそう言ったアズラエルは再びモニターを見始めた。

 

 

 

 戦況はアスラン、シリルの参戦によりザフトがやや有利となっていた。

 

 しかし順調に敵部隊を押し返していたシリルに向けてビームが放たれる。

 

 「まだ来るか!」

 

 撃ちこまれたビームをミーティアの推力を使って振り切り、機体を旋回させて反撃する。

 

 だが敵機はミーティアが放ったビームを上昇して回避すると再びビームライフルを放ってくる。

 

 「チッ、しつこい!!」

 

 シリルの前に立塞がっていたのはスウェンの105ダガーであった。

 

 「……火力、推力共にこちらより圧倒的に上か」

 

 ミーティアに複雑な軌道で追いすがるとビームを撃ち込んでいく。

 

 彼がこのような軌道を取ったのはもちろん訳がある。

 

 スウェンはコンビクトが装着したミーティアの大きさゆえに火力はあれど小回りは効かないと判断したのだ。

 

 それが功を奏し、こちら放ったビームがミーティアを掠めていく。

 

 シリルは思わず舌打ちした。

 

 「このパイロットは!?」

 

 ミサイルを撃ち込んで105ダガーの動きを牽制し、その間に体勢を立て直そうとするがそこに隙が出来てしまった。

 

 そこに上方からバスターダガーとデュエルダガーが放ったミサイルとリニアキャノンが撃ちこまれた。

 

 「くっ、増援か!?」

 

 それらの攻撃を迎撃した瞬間にスウェンがビームサーベルで斬り込んだ。

 

 「……落ちろ」

 

 「何!?」

 

 虚を突かれたシリルは機体を傾け回避しようとするが、105ダガーの斬撃は左のアームユニットを傷つけた。

 

 「チッ」

 

 咄嗟に機体を前面に加速させ、スウェンの攻撃範囲から離脱するとミーティアの損傷を確認した。

 

 かなり深々と斬り裂かれたらしく、左のアームユニットは使えそうにない。

 

 「ミーティアを失う訳にはいかないか……」

 

 そのままミーティアをパージすると三機のダガーを見据える。

 

 一番厄介なのはストライクの量産機のパイロット。

 

 こいつはザフトのエースパイロットと遜色ない動きだ。

 

 「やるな。だが……」

 

 ビームサーベルを構えるとバーニアを展開し、一気に機体を加速させ突っ込んだ。

 

 「貴様らの好きにはさせない!」

 

 シリルのSEEDが弾けると105ダガーにビームサーベルを袈裟懸けに振り抜いた。

 

 「速い」

 

 コンビクトのサーベルを受け止め斬り返そうとするが、すぐに距離を取る事に切り替え、蹴りを入れて突き放す。

 

 「どうした、スウェン?」

 

 「……パワーが違う。まともにぶつかれば押し切られる」

 

 コンビクトの性能をすぐに看破したスウェンは接近戦は不利と判断した。

 

 それだけではない。いきなり敵の動きが格段に良くなったのである。

 

 装着していた兵装をパージしたからかもしれないが、油断はできない。

 

 「じゃ、距離とって戦った方がよさそうね」

 

 「ああ。じゃ、いくぜ!!」

 

 シャムスはガンランチャーとエネルギーライフルを一斉に発射するがシリルはいともたやすく避け切ると再び速度を上げて斬り込んでくる。

 

 「俺が止める。二人は援護を」

 

 「「了解」」

 

 スウェンが前に出て、コンビクトを迎え撃つ。

 

 左右から振り下されるビームサーベルをシールドと巧みな動きで捌いていく。

 

 「こいつ!」

 

 「そう簡単にはやられない」

 

 決して正面からは斬り合わず、それでもスウェンはコンビクトを完全に抑えている。

 

 もちろん2機の援護と自身の技量があればこそではあるが、戦いは拮抗し絶妙な勝負を演じていた。

 

 

 

 

 

 シリルがスウェン達と激闘を繰り広げていた時、アスランは迫りくる敵機をミーティアの一斉砲撃で薙ぎ払い艦隊に攻撃を仕掛けようとしていた。

 

 一気に接近するとターゲットをロックする。

 

 「これで―――ッ!?」

 

 アスランがトリガーを引こうとした時、正面からビームが撃ちかけられた。

 

 機体を急上昇させビームを回避し、攻撃してきた敵機を見る。

 

 「あれは、イレイズか……」

 

 背中の装備や細部が変わり色は黒主体になっているが、紛れもなく宿敵が乗っていた機体―――クロードの乗るイレイズサンクションであった。

 

 その姿に思わず操縦桿を握る手に力を込める。

 

 パイロットが違うと分かってはいても、あの機体を見るだけで今までの憤りが渦巻いてくる。

 

 「悪いが容赦はしない!」

 

 向ってくるジュラメントの姿を観察しながらクロードは視線を滑らせると、もう一機の敵はスウェン達が抑えているのが見えた。

 

 「むこうは任せても大丈夫のようだな」

 

 機体を加速させビームライフルで目の前の敵機に攻撃を仕掛ける。

 

 クロードもまたスウェンと同じくミーティアを装備したままでは細かい動きに対応できないと判断した。

 

 スラスターを吹かせ、急旋回すると機体の下に回り込みビームライフルを撃ち込んだ。

 

 「やらせるか!」

 

 しかしアスランも簡単にはやらせない。

 

 止まる事無く動き続けミサイルを発射し、イレイズの動きを牽制する。

 

 だがここで予想外の事が起こる。

 

 イレイズの背中から弾け飛ぶように装備の一部が分離すると別方向からビームが降り注いだのだ。

 

 ビームライフルからの攻撃と合わせ、撃ちこまれてくるビームがミーティアを掠めていく。

 

 「なんだ!?」

 

 アスランはすぐに思い至る。

 

 何度か見た事があった足つきを追っていた時、モビルアーマーが仕掛けてきた攻撃と同じだ。

 

 あの時、敵機が放ってきたのは実弾だったが、イレイズの武装はビームを放ってきている。

 

 「あの武装の改良型か!?」

 

 左右から放たれたビーム攻撃をスラスターを使いかわした瞬間、イレイズサンクションが懐に飛び込んでくる。

 

 そして片腕にマウントしていた対艦刀ネイリングをミーティア目掛けて一気に振り抜いた。

 

 対艦刀の一太刀が右側のミサイルポッドを切断、ミーティアは凄まじい爆発を引き起こした。

 

 「ぐあああ!!」

 

 爆発の震動を歯を食いしばって耐え、体勢を立て直そうとするが、次の攻撃が迫っている気がつき飛び出すようにミーティアを切り離した。

 

 「くそ!」

 

 ミーティアはイレイズの放ったレールガンの攻撃を受けさらに損傷を受けた。

 

 破壊こそされなかったが対艦攻撃は行えないだろう。

 

 アスランは悠然とこちらに向き合う機体を睨みつける。

 

 同じだ。これでは前と全く変わらない。

 

 目の前の敵が奴と重なる。

 

 俺は―――

 

 「俺はもうお前には負けない!!」

 

 アスランのSEEDが弾ける。

 

 「おおおおおお!!!」

 

 初めてSEEDを発動させた時のように叫びながらビームソードを抜いてて突っ込んでいった。

 

 先程までとはまるで違う動きで左右に斬撃を繰り出し、イレイズに叩き込んでいく。

 

 「ほう、動きが変わったな」

 

 クロードはガンバレルを操作しながら、動きの変わったジュラメントを観察する。

 

 「これは……なるほど。『SEED』か」

 

 「落ちろぉぉ!! イレイズゥゥ!!」

 

 ガンバレルから放たれたビームをかわしながら、プラズマ収束ビーム砲を撃ち込んで牽制し、ビームソードを叩き込む。

 

 「いい動きだ。だが―――」

 

 イレイズはシールドを掲げ光刃を止めるが、スラスターを全開にして押し込んでいく。

 

 しかしクロードは全く焦った様子は見えず、それどころか表情を変える事無く冷静に敵機の動きを見ていた。

 

 「ふむ、大体分かったな」

 

 そう呟くと至近距離でレールガンを炸裂させ、ジュラメントを吹き飛ばす。

 

 「くっ、まだだぁぁ!!」

 

 アスランは再び正面から攻撃を仕掛ける。

 

 これまでの攻防で敵の技量は分かった。

 

 確かに高い技量を持っており、並のパイロットでは太刀打ち出来ないだろう。

 

 しかしアスト・サガミやキラ程ではない。

 

 それだけは断言できる。

 

 技量は自分が上と判断したアスランは正面から相手を叩き伏せる事に決めた。

 

 距離を取られれば、ガンバレルを操るクロードに分があると判断したのだ。

 

 「このまま接近戦で押し切れる!!」

 

 ビームソードを袈裟懸けに振るい、同時に左足のビームソードを蹴り上げる。

 

 連続で振るわれる斬撃を前にイレイズは後退しながらライフルを撃ちこんできた。

 

 明らかにクロードは防戦一方でアスランが優勢であった。

 

 自分自身もそう思っていた。

 

 しかし―――

 

 「落ちろ!」

 

 何時まで経っても押しきれない。

 

 敵の防御の上手さもあってか、アスランの繰り出す斬撃は尽く致命的な一撃を与えられず、それどころか攻撃の合間に繰り出される反撃が増えてきた。

 

 「何だこいつは!」

 

 「焦りが透けて見えるな」

 

 イレイズはシールドでビームソードを滑らすようにいなす。

 

 そしてイーゲルシュテルンを頭部に叩き込み、視界を一瞬奪うとネイリングを振りかぶってくる。

 

 「くそ!」

 

 斬撃を間一髪で受け止めるとそのまま突き放すが、距離を離した瞬間、背中の砲台が分離し四方からビームが襲いかかってくる。

 

 「このパイロットは一体!?」

 

 先程までの憤りは消え、相手に対する不気味さがアスランを焦らせる。

 

 対照的にクロードはいつも通り感情を出す事無く冷静に機体を操っていく。

 

 彼は別段特別な事をした訳ではない。

 

 ただアスランの動きを観察、見極め、情報を収集、分析し、その結果に合わせ攻撃を繰り出していただけである。

 

 「さて、そろそろかな」

 

 アスランはクロードに抑え込まれ、完全に失念していた。

 

 それはスウェンと戦っていたシリルも同じだ。

 

 

 そう―――再びメビウスに搭載された核ミサイルがボアズを射程に捉えた事に彼らは気がつかなかったのだ。

 

 

 そして再び悲劇は起こる。

 

 

 撃ちこまれたミサイルが爆発し、凄まじい閃光を放ってボアズを包む。

 

 着弾点にあったボアズの指令室は消し飛ぶ。

 

 さらに撃ちこまれた核がさらなる衝撃を引き起こし、中央部分が大きく抉られて裂けるように2つに割れた。

 

 それを呆然と眺めたアスランは怒りでコンソールを殴りつける。

 

 「……阻止できなかった」

 

 血のバレンタインと同じ悲劇を防ぐ事が出来なかった。

 

 何もできなかったのだ。

 

 「俺は何の為に軍に入ったんだ!」

 

 あまりに無力な自分が許せない。

 

 そこにエターナルから全軍に通信が入る。

 

 《全軍撤退せよ! いいか全軍ヤキン・ドゥーエまで撤退だ!》

 

 「くそ! くそぉぉぉ!!」

 

 アスランの叫びが虚しく響く。

 

 今回の戦闘はザフトの完全な敗北だった。

 

 

 

 

 

 ボアズ陥落はプラント本国でも確認された。

 

 当然核の閃光もである。

 

 誰もが固まって動けない。

 

 その中でラウ・ル・クルーゼだけが笑みを浮かべていた。

 

 そう、この場所でこの結末を知っていたのは彼のみだ。

 

 そしてパトリック・ザラの反応も期待通りのものだった。

 

 「おのれぇ!! ナチュラル共がぁ!!」

 

 憤怒の表情を浮かべたパトリックから望んだ言葉が飛び出した。

 

 「クルーゼ、ヤキン・ドゥーエに上がる! 『ジェネシス』を使うぞ!!」

 

 「了解しました、ザラ議長閣下」

 

 是非もない。

 

 それこそが自分の願いなのだから。


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