機動戦士ガンダムSEED cause    作:kia

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第39話  ヴァルハラ防衛戦

 

 

 L4会戦から無事に生還した戦艦は実に酷い状態であった。

 

 特にプラントから脱出してきたヘイムダルは当面戦闘はおろか航行すら難しい状態である。

 

 搭載されたモビルスーツもイノセント、フリーダムは中破の損傷。

 

 アストレイ、スルーズを含む量産機も破損していない機体を見つける方が難しい。

 

 これでよく無事に帰ってきたと呆れるばかりだ。

 

 そんな彼らが命がけで持って帰ってきた情報に3国の代表者達は会議室で頭を抱えていた。

 

 「まさか、こんなものまで……」

 

 デュランダルから提供されたデータの中には誰もが閉口してしまう兵器の詳細が入っていた。

 

 『ジェネシス』

 

 ザフトの最終兵器ともいえる、ガンマ線レーザー砲。

 

 これがもし地球に放たれれば―――

 

 「パトリック・ザラが強硬姿勢でいる事は分かっていましたが……」

 

 「ええ、これは我々だけの問題ではありませんよ」

 

 この兵器の前には地球軍も同盟軍もない。

 

 しかし―――

 

 「仮にこの情報を地球軍に教えたとしても、敵対している私達と協調しようとは言わないでしょう」

 

 そう、今の地球軍を掌握しているブルーコスモスのメンバーが協力する筈もない。

 

 おそらくそのままプラント殲滅の口実にしてしまう上に同盟には理不尽ともいえる要求を突きつけてくるだけだ。

 

 「プラントのクライン派、ギルバート・デュランダルはこちらと協力したいという申し出があったそうですが?」

 

 「ええ、今回提供されたデータは彼から渡されたものです。ただ―――」

 

 「何か問題でも?」

 

 「直接話した者からは彼は簡単には信用出来ないという話でした」

 

 根拠がある話ではないが、

 

 確かにこれだけの極秘データを現在少数であるクライン派が手に入れるのは難しいはず。

 

 そのデータを殆ど見返りもなく提供してくるとは、なにか思惑があるのではと勘繰るのも無理はない。

 

 「……クライン派については情報交換を基本とした協力に留めるとして、この兵器についてですが―――」

 

 「……私はこの兵器『ジェネシス』の破壊を提案いたします」

 

 皆がアイラに注目する。

 

 「我々から攻撃を仕掛けると?」

 

 「はい、この兵器を放置はできないでしょう。国や同盟などすべては地球があればこそです。しかしジェネシスが使用されたなら、すべてが終わります」

 

 「……うむ」

 

 反論の余地はない。

 

 パトリック・ザラは交渉に応じるつもりもなく、今までの行動からも自制する気がないのは明らかだった。

 

 ならばこちらも国を、地球を守るために動かざる得ない。

 

 会議は満場一致で『ジェネシス』の破壊を決定した。

 

 

 

 

 

 会議でジェネシス破壊が決定されていた頃、格納庫ではアスト達が訓練を行っていた。

 

 「くっ、この!」

 

 飛び回る物体を捉える為に、視線を鋭く流していく。

 

 背後から来た砲塔の一射を、側面に機体を流し回避するとビームライフルで撃ち落とす。

 

 「ハァ、ハァ、ハァ」

 

 それでも動き回る砲塔の数は一向に減らず、絶え間ないビームの光が襲いかかってくる。

 

 「この程度で!!!」

 

 四方から撃ち掛けられたビームの光を潜り抜け、見える敵に向かって突撃した。

 

 シミュレーターでの訓練が終了し、疲労困憊という様子でアストとキラが顔を出す。

 

 「やっぱりきついな。対ドラグーンの訓練は」

 

 「そうだね。普通の訓練とはまた違うしね」

 

 アスト達は今回、通常の訓練だけではなく、対ドラグーンの訓練も合わせて行っていた。

 

 それは『L4会戦』で接敵したラウのプロヴィデンス、あの機体に対する対応する為である。

 

 これだけの訓練を行ってなお、勝てるかどうかわからない。

 

 それほどの驚異を感じるあの敵と次に戦う時はそれこそ決死の覚悟が必要だろう。

 

 座り込んだアストは隣にいるキラの顔を見るとどうやらいつも通りのようだ。

 

 メンデルで真実を知ったと聞かされた時はどうなるかと思ったが。

 

 すでにキラにもアストの過去は語っており、その時に―――

 

 「生まれはどうあれ俺達は俺達だ。キラが俺の友達である事も変わらない」

 

 「アスト……うん、ありがとう」

 

 そう話をしてからはある程度は吹っ切れたようで普通に戻った様子だ。

 

 ラクスが元気づけてくれたという事もあるのだろう。

 

 そして同じく元気のなかったムウもすでにいつも通りの調子になっていた。

 

 普通は自分の家族がこれだけの事に関わっていたと分かれば考え込むものだが、引きずらない辺りは流石ムウという事なのだろう。

 

 マリューに話す事で折り合いをつけたのかもしれない。

 

 「それにしても派手にやられたな」

 

 「修復には結構かかるって話だよ」

 

 モビルスーツハンガーには修理中のイノセントとフリーダムが佇んでいる。

 

 2機ともボロボロであり、よくもまああそこまでやられたなと感心してしまう。

 

 「機体が動かせないというのも落ちつかないな。何時敵が来るかもわからないというのに」

 

 「そうだね。でもイノセントは修復と同時に追加兵装を装備するって、整備班の人達も言ってたけど」

 

 「らしいな。この先クルーゼみたいな相手と戦っていく事になるし、助かるよ」

 

 ラウ・ル・クルーゼやユリウス・ヴァリスのような強敵と戦うなら機体性能は高いに越した事はない。

 

 そして修理中が行われている機体の隣ではアイテルも背中にはセイレーンではないバックパックが装着されようとしている。

 

 宇宙空間特殊装備『リンドブルム』

 

 これは同盟軍初のドラグーン兵装であり、高機動スラスターとドラグーンだけでなくプラズマ収束ビーム砲も装備され、高い空間認識力を持っているレティシア専用装備となっている。

 

 ただこの装備は調整に時間が掛かるらしく、アイテルもしばらく動かせないらしい。

 

 つまり同盟軍主力4機の内、今まともに戦闘可能なのはジャスティスのみという事になる。

 

 さらに他の機体の多くも傷ついている事から、敵の襲撃に備えてアメノミハシラから援軍が来る予定らしい。

 

 「はぁ、ともかく着替えて休もう」

 

 「そうだね」

 

 立ち上がると更衣室に向かった。

 

 アストとキラが立ち去った後もシミュレーターではマユがマユラ、ジュリと訓練を行っていた。

 

 3人が搭乗している機体の設定はアストレイになっている。

 

 ターニングでは性能差があるため訓練にならないからだ。

 

 「行くわよ、マユちゃん」

 

 「はい!」

 

 マユラがビームライフルを放つが、マユは紙一重で回避し逆にライフルを撃ち返す。

 

 迫るビームをシールドで防御した隙に、ペダルを思いっきり踏み込んで加速し懐に飛び込むとビームサーベルを一閃した。

 

 「はあ!!」

 

 「きゃああ!」

 

 右足を切断されたアストレイはバランスが取れず崩れ落ちる。

 

 「ここです!」

 

 倒れた機体に容赦なくビームサーベルを突き刺しマユラ機を撃破した。

 

 「隙ありよ、マユちゃん!」

 

 その隙の後ろにいたジュリがビームサーベルを振りかぶって上段から振り下ろすが、見切っていたように機体を半回転させると光る刃が装甲を掠めるギリギリの位置を通り過ぎていく。

 

 そこに回し蹴り要領で蹴りを胴に叩き込み、アストレイを吹き飛ばすと今度はビームライフルを撃ち込んだ。

 

 「嘘、やられたぁ!」

 

 シミュレーターが終了し、外に出るとマユは息を吐いた。

 

 「ふう、なんとか上手くいった」

 

 L4会戦から生還して以降、マユの技量は飛躍的に向上している。

 

 あれだけの激戦を乗り越え、ザフトのエースパイロットと戦った経験が彼女の技量を引き上げていた。

 

 もちろんアストやキラに敵うものではないが、そこらのパイロットに後れは取らないだろう。

 

 だが彼女自身は決して自惚れてもいなければ、満足もしていなかった。

 

 「いや~マユちゃん、強いよ」

 

 「本当よ、私たちじゃ敵わないもんね」

 

 「そんな事ないですよ。訓練の成果が出ただけです」

 

 マユは戸惑い気味に笑みを浮かべる。

 

 L4での戦いで相対したパイロットの実力は自分を遥かに凌駕していた。

 

 もしキラが来てくれなければやられていたに違いないのだ。

 

 「そういえばアサギさんは大丈夫だったんですか?」

 

 アサギのアストレイはコロニー内での戦闘で激しい損傷を受けていた。

 

 右腕は破壊され、地面に落下した事でコックピットに相当の衝撃が伝わったらしい。

 

 「うん、しばらく入院するみたい。でも怪我は大したことないからすぐ復帰するって言ってたし」

 

 「そうですか、良かった」

 

 安心したように息を吐いた。

 

 マユは共に訓練を受け、何かと気にかけてくれる彼女達とは仲が良かった。

 

 それだけにアサギの負傷を聞いた時は酷く不安になってしまった。

 

 また誰かがいなくなるのではないかと。

 

 しかしそれも杞憂だったようだ。

 

 そんなマユをジュリが心配そうに覗き込んでくる。

 

 「でも、マユちゃんも無理しちゃ駄目よ。いくら強くてもあなたはまだ子供なんだから」

 

 「そうよ、嫌になったらいつでも言ってね」

 

 「はい。でも、大丈夫ですから」

 

 彼女達の気遣いに感謝しながら、格納庫で修理中のイノセントを見た。

 

 装甲にビームの掠めた跡が無数につき、足と背中の武装も損傷している。

 

 彼を助けたいとターニングに乗り込み、パイロットなったのに何もできなかった。

 

 もっと強くならないと―――

 

 イノセントを見つめていたマユに2人は顔を見合わせると笑みを浮かべる。

 

 「マユちゃん、もしかしてぇ~、アスト君の事好きなの?」

 

 その質問にしばらく呆然としていたが、意味を理解すると同時に一気にマユの顔が真っ赤になった。

 

 「ち、違いますよ! えっと、アストさんは、その、助けてくれた恩人で!」

 

 「え~そうなの」

 

 「てっきり、アスト君の事が好きなのかと思ってた」

 

 「も、もちろん嫌いって訳じゃないですよ!」

 

 「「やっぱり~!!」」

 

 「だから違いますから!!」

 

 必死に弁明するのだがニヤニヤと笑われ聞いてもらえない。

 

 結局狼狽してしまったマユはしばらく間2人にからかわれ続ける事になってしまった。

 

 

 

 

 

 アスト達の訓練が終わった頃、レティシアとラクスは会議が終了したアイラの下を訪れていた。

 

 帰還した時にある程度の報告は済ませていたが、詳しい話を聞きたいという事で、詳細な報告を行っていたのである。

 

 「―――以上です」

 

 「なるほど、やはりクライン派はラクスを旗頭として動くつもりだったようね」

 

 「はい、少なくともギルバート・デュランダルはそうするつもりだったようです」

 

 話を聞いていたラクスは沈痛な面持ちで俯いている。

 

 彼女にも関わる話だけに思う所もあるのだろう。

 

 「ラクス、戦闘中に敵と会話したわね」

 

 「……申し訳ありません」

 

 「別に謝る必要はないわ。パトリック・ザラもクライン派もあなたが簡単に死んだとは思っていなかったでしょうから」

 

 そもそも彼らが搭乗してる機体は本来ザフトの開発していた機体であり、そこから考えていけばラクスが生存している可能性にも簡単に辿り着ける。

 

 アイラもいつまでも彼女の存在を隠しておけるとは思っていない。

 

 「ただ、暗殺などには備えないといけないけど……」

 

 「アイラ様?」

 

 「……レティシア、ギルバート・デュランダルをどう思ったかしら?」

 

 「そうですね。ナチュラルとコーディネイターの融和を望んでいたシーゲル様の意思を継ぐ人物に見えるのですが、腹の底では何を考えているか分からない。そんな得体の知れなさがありました」

 

 「……なるほど。彼にも注意しておかないといけないということね」

 

 何を考えているにせよ、ラクスを利用させる訳にはいかないと結論付けると、今度は会議の結果を伝える。

 

 「良く聞いて二人共。今回プラントから持ち帰ったデータの中に無視できない物があったの。それがこれよ」

 

 手元の端末を操作し分かりやすいように『ジェネシス』のデータを表示した。

 

 それを読み進めた2人の顔が驚愕に染まる。

 

 「ザフトがこんなものまで作っているなんて……」

 

 「アイラ様、同盟軍はどうされるのですか?」

 

 「今回の会議でこの兵器『ジェネシス』の破壊が決定されたわ」

 

 ザフトと戦争状態である事を考えれば、敵がこのような兵器を持っていると分かった以上は破壊しようとするのはごく自然の事である。

 

 「ただすぐにとはいきません。ジェネシスのできるだけ正確な位置把握し、戦力を整える。今回の戦闘で戦力を消耗してしまいましたから」

 

 「どの程度の時間が掛かるでしょうか?」

 

 「今はまだはっきりとは言えません。準備が整い次第といったところかしら」

 

 「そうですか。確かにL4での戦闘は激しかったですし、レフティ少佐から聞きましたけどヘイムダルは……」

 

 レティシアの指摘にアイラは憂鬱そうにため息をついた。

 

 「ええ、今回の作戦には使えないでしょう。元々特殊作戦用の艦でしたし、調整は終わってはいたものの、慣熟航行も碌に行わないまま実戦でしたからいつくかの不具合が出ている上、損傷も激しい」

 

 高速艦であるヘイムダルを使えないのは痛い。

 

 彼の艦を使用した奇襲が行えない以上、正面からザフトと戦う事になる。

 

 「準備は入念に行いますが厳しい戦いになる……2人共頼むわ」

 

 「「了解しました」」

 

 一通りの話を終え、レティシア達が退出しようと背を向けると再びアイラが声を掛けてくる。

 

 「レティシア」

 

 「はい、なにか?」

 

 振り返ったレティシアにニヤリと笑みを浮かべる。

 

 その顔を見た瞬間、嫌な予感がした。

 

 というかまた碌でもない事を言い出す気では―――

 

 「アスト君とは進展したかしら?」

 

 「なっ!?」

 

 レティシアの顔が真っ赤に染まると狼狽し始める。

 

 「い、い、いきなり何を言っているんですか!!」

 

 「え、もしかして何の進展も無いの?」

 

 「だから、わ、私は別に彼の事なんて!」

 

 「呑気にしてると別の誰かに取られるわよ」

 

 「ぐっ、話を聞いて―――」

 

 そんなレティシアを尻目に今度はラクスに問いかける。

 

 「ラクスはキラ君とどうなの?」

 

 「ふふふ、そうですわね。順調とだけ」

 

 レティシアは驚いてラクスの顔を見詰める。

 

 いつの間にそんな事に!?

 

 「そう。それは良かったわ。レティシアも頑張らないとね」

 

 「そ、そうですね」

 

 レティシアは頬を引きつらせながらそう答えるしかなかった。

 

 

 

 

 中立同盟はジェネシス破壊作戦の準備を開始した。

 

 しかしザフトも大人しくしていた訳ではない。

 

 各方面に部隊を派遣し、地球軍に対する牽制、そして同盟軍の動向を探っていた。

 

 そして今も―――

 

 ヴァルハラがある宙域にナスカ級が数隻接近し、攻撃を仕掛けようとしている部隊がいた。

 

 L4から彼らを追ってきた特務隊である。

 

 そもそも彼らの受けた極秘任務はZGMF-Xシリーズすべての破壊と関わったすべての者を抹殺である。

 

 前回の戦闘で敵は戦力を消耗し、厄介なZGMF-Xシリーズの内2機の損傷を確認している。

 

 つまり今が絶好のチャンスなのだ。

 

 

 「L4の戦闘で同盟軍も消耗している。今が好機だ」

 

 「シオン、作戦は―――」

 

 「正面からでいいだろ。そうすりゃレティシア達も出てくるさ」

 

 クリスの質問にかぶせるような言い放ったマルクの言葉に流石のシオンも冷たい視線を向ける。

 

 最近の行動、言動は目に余る。

 

 「……マルク、いい加減にレティシアの事は忘れろ」

 

 「はぁ!? 何言ってんだよ。前にも言ったがやる事は変わらないんだからいいだろうが!」

 

 「最近のお前は女に拘る余り連携も取れていない。それでラクス・クラインにもしてやられただろう」

 

 「ふざけるな! あんなのはたまたま油断しただけだ! あの女も必ず俺が殺るさ!」

 

 激昂するマルクにシオンは変わらず冷たい視線を向けたままだ。

 

 「……いいだろう、そこまで言うなら正面はお前に任せる」

 

 「当たり前だ」

 

 不機嫌そうに言うと、「フン」と鼻を鳴らしてブリッジを後にした。

 

 「……いいのですか、シオン」

 

 「ああ、好きにさせればいい。クリス、お前は小数を率いて別方向から奇襲を仕掛けろ。ただし時間を掛けるな。アメノミハシラから援軍が来る前に終わらせる」

 

 「了解です」

 

 シオンもまたクリスの共に格納庫に向かう。

 

 この時、彼の胸中はまさに氷のように冷たかった。

 

 マルクは自分が致命的なミスを犯した事に気がついていない。

 

 レティシア達に拘るあまり冷静さを無くし、失念していたのである。

 

 シオン・リーヴスという人物がどういう人間なのかを。

 

 ナスカ級から発進し、ヴァルハラに接近してきたシグルドにアークエンジェルの中で待機していたアネットが気がついた。

 

 「……レーダーに反応! これってザフト機!?」

 

 同時にヴァルハラの方でも気がついたらしく、警報が鳴り始め、ブリッジに飛び込んできたマリューが叫んだ。

 

 「何があったの!?」

 

 「ザフトです! ナスカ級と敵モビルスーツ!」

 

 マリューはシートに座ると艦内通信でマードックを呼び出す。

 

 「アークエンジェルは出られる?」

 

 《まだ無理ですよ! 戦艦はどれも酷い状態なんです!》

 

 そんな事は分かっている。

 

 しかし、現在イノセント、フリーダム、アイテルの3機は出撃出来ないのだ。

 

 「ともかく一刻も早く動けるようにして! 各モビルスーツの発進を!!」

 

 《分かりました!》

 

 「了解!」

 

 鳴り響く警報の中、敵機迎撃の為にモビルスーツが次々と出撃していく。

 

 「全く、言ってる傍から敵襲なんて!」

 

 「ぼやいてもしょうがないよ」

 

 「ああ」

 

 間が悪いというか、もしくはこの状態だからこそ狙ってきたのか分からないが。

 

 アスト、キラ共にパイロットスーツに着替えはしたが、搭乗する機体は修理中である。

 

 「機体は動かせないぞ!」

 

 格納庫に入ってきたアスト達に整備の人間が怒鳴りつける。

 

 「やっぱり駄目か」

 

 「うん、分かってたけどね」

 

 その後ろからラクスとマユがパイロットスーツを着て走ってきた。

 

 「2人共、ここは私達にお任せ下さいな」

 

 「はい、私も頑張りますから」

 

 力強く頷く2人を複雑な気持ちで見つめる。

 

 もしかすると艦で自分達を送り出してくれたみんなもいつもこんな気分だったのかもしれない。

 

 何にしろ今自分達に出来る事はなく、信じて任せる以外にない。

 

 「分かった。ここは頼む」

 

 「……ラクス、気をつけてね」

 

 「ありがとう、キラ。では行きましょう、マユ」

 

 「はい」

 

 そのまま機体に乗り込むとOSを起動させ、PS装甲を展開する。

 

 「ラクス・クライン、ジャスティスガンダム参ります!」

 

 「マユ・アスカ、ターニングガンダム出ます!」

 

 2機がカタパルトに押し出され、宇宙に飛び出すとすでに戦闘は開始されていた。

 

 スルーズとフリスト、アストレイが奮戦し、ジンやシグーを抑え、ストライクルージュに搭乗したカガリが後方から指示を飛ばす。

 

 「第2部隊は側面に回れ!」

 

 味方を突破して来たゲイツをビームライフルで撃ち落とすが、流石にすべてを抑える事は出来ず、何機か突破されてしまう。

 

 だがそこに控えていたマユラとジュリが迎撃する。

 

 「アサギの分も!」

 

 「私達だって!」

 

 接近してきたジンをビームサーベルで斬り裂くとジュリがもう1機のジンをビームライフルで撃ち抜く。

 

 「お前たち調子に乗らないようにな」

 

 「カガリ様に言われたくないですぅ」

 

 「本当ですよぉ」

 

 「お前らなぁ!」

 

 ふざけているように見えて3機はきちんと連携を取りつつ敵機を押し返していく。

 

 そしてカガリの指揮のおかげか、順調に迎撃出来ていると思われた。

 

 しかし正面かた強力なビームを放ち、味方機を薙ぎ払ってくる敵がいた。

 

 何度も相対した敵、特務隊フェイスのモビルスーツ、シグルドである。

 

 「また、特務隊ですか」

 

 ラクスは顔を曇らせた。

 

 アレは他の機体では抑えきれないだろう。

 

 キラ達のいない今、彼らは自分がやるしかない。

 

 「特務隊……マユ、私が前に出ます。援護をお願いします」

 

 「はい!」

 

 接近してくるシグルドもジャスティスの存在に気がつくとマルクは歓喜笑みを浮かべる。

 

 「探す手間が省けたってもんだ! わざわざ来てくれるなんて感激だぜ、歌姫様よォォォ!!!」

 

 ビームクロウを展開し、スナイパーライフルをジャスティスに向ける。

 

 「借りは返すぜェェェ―――!!」

 

 マルクの叫びに応える様にスナイパーライフルからビームの閃光が迸る。

 

 「当たりません!」

 

 ラクスは機体を傾けるだけで回避し、ビームサーベルを抜きながらフォルティスビーム砲を撃ち込んで接近すると、シグルドと斬り結ぶ。

 

 「歌姫様、レティシアはいないのかよ」

 

 「あなたには関係ありません」

 

 振り下ろされたビームクロウを回避するとビームサーベルを横薙ぎに振るうが、マルクは膝を蹴りあげジャスティスの腕に当てる事でサーベルの軌道を逸らした。

 

 「そうかい。ならまずあんたからだ!!」

 

 「そう簡単にはいきません!」

 

 シグルドとジャスティスが互いの機体を抉らんと激突していく。

 

 「ラクスさん!!」

 

 マユはジャスティスを援護する為にビームライフルを構えた瞬間、もう1機のシグルドがクラレントで斬り込んでくるのが見えた。

 

 「同盟の可変型か。ここで落ちて貰うぞ!」

 

 「もう一機!?」

 

 繰り出されたクラレントを捌きながら、ビームサーベルで斬り返した。

 

 斬撃をシールドで受けたシオンはすぐにターニングの事を看破する。

 

 「……チッ、この機体も核動力を―――という事はNジャマーキャンセラーを搭載しているか。ならばここで破壊する」

 

 クラレントを下から隙い上げるように振り上げ、弾き飛ばした隙にヒュドラを叩き込む。

 

 「ぐっ、強い!? でも!!」

 

 シールドを掲げ、ヒュドラを受け止めると弾かれた閃光が目の前を激しく照らし出した。

 

 その光の中、マユは敵モビルスーツに目を奪われる。

 

 「この機体は―――」

 

 今でも夢に見る事がある。

 

 オーブ戦役で家族が撃たれた瞬間、そして自分を見下ろす悪魔の姿を。

 

 その悪夢を生み出した元凶が目の前にいる。

 

 マユは思わず通信機のスイッチを入れた。

 

 「貴方が撃ったんですか?」

 

 「なんだお前は?」

 

 「答えてください! 貴方がオーブで民間人に向かってビーム砲を放ったんですか!?」

 

 「だとしたら?」

 

 その言葉に一瞬頭が沸騰しそうなほどの怒りが沸き起こり、スラスターを全開にして一気に距離を詰めてビームサーベルを袈裟懸けに振るう。

 

 「どうして……どうしてそんな事を!?」

 

 斬撃を受け止めたシオンはいつも通りの冷たい声で答えた。

 

 「お前はナチュラルか?」

 

 「……違います」

 

 「チッ、お前もコーディネイターでありながらナチュラルに与するか。まあいい、答えてやる。掃除をしただけだ」

 

 「掃除?」

 

 「そうだ。地を這うナチュラルというゴミを片付けただけだ」

 

 「何を、言って、いるんですか、貴方は……」

 

 掃除?

 

 ゴミを片付けた?

 

 マユにはシオンが何を言っているのか理解できなかった。

 

 「……ザフトの人達はみんなそうなんですか? 地球にいる人達の事なんてどうでもいいんですか?」

 

 「当然だろう。誰がゴミなど気にかける? 生きている事自体が害悪だ。安心しろ、お前を殺した後で他の連中も一緒に殺しておいてやる。地獄で再会するんだな」

 

 「―――せません」

 

 「なに?」

 

 「これ以上貴方達に誰も撃たせません!!」

 

 シグルドをシールドで突き飛ばし、斬り込んでいくがそれも上手く凌がれてしまう。

 

 「ふん、そんなものが通用すると思うか?」

 

 執拗に向かってくるターニングの攻撃を回避し、嘲るように吐き捨てるとクラレントで応戦してくる。

 

 「貴方は! 貴方だけは!!」

 

 「失せろ、ナチュラル共と一緒にな!」

 

 2機は刃を振りかぶり、衝突しながら激しく斬り結んでいく。

 

 

 

 そんな戦いを待機室の中からアスト達は見ていた。

 

 「あれは……シオンか!?」

 

 ターニングと戦闘を繰り広げているのは間違いなくシオンの搭乗するシグルドである。

 

 いくらマユが腕を上げているとはいえ、彼女一人で特務隊を相手に戦うのは厳しい筈だ。

 

 せめてモビルスーツがあれば援護くらいは出来るのだが。

 

 「みんな!?」

 

 キラもモニターに釘付けとなり心配そうに覗き込んでいるが、そこで何かに気がついたように呟く。

 

 「あれ、2機しかいない?」

 

 「どうした?」

 

 「あの2機って確か特務隊のものだってラクス達が言ってたけど、いつも3機で行動してた筈だよね」

 

 「……確かにいない」

 

 モニターで確認できるのは2機のシグルドだけで、1機足りない。

 

 損傷を受けた為に出撃を見送らせたとも考えられるが、L4会戦でそこまでの損傷を受けたという話は聞いていない。

 

 ということは―――

 

 「……まさか、別方向から攻撃してくる気か!?」

 

 その予測通り別方向からクリスが率いた別部隊がヴァルハラに接近していた。

 

 「攻撃を開始する」

 

 「「「了解!!」」」

 

 シグルドのスナイパーライフルから放たれた閃光が直撃し、凄まじい衝撃がヴァルハラ全体を大きく揺らした。

 

 「攻撃!?」

 

 「くっ、やっぱり別方向からきたのか!」

 

 今防衛戦力の大半は正面から来た敵の迎撃で精一杯の筈。

 

 どうにもできない状況に拳を握りしめて耐えていた時、レティシアが待機室に飛び込んできた。

 

 「2人共いますか!?」

 

 「レティシアさん?」

 

 「予備機のフリストが使えるようになりました! それで出ましょう!」

 

 アストとキラは顔を見合わせると、互いに頷いて待機室を駆けだした。

 

 モビルスーツハンガーではすでに3機のフリストが準備されていた。

 

 すぐさまコックピットに乗り込んで、細かくOSを調整する。

 

 「アスト君、キラ君、聞こえていますか?」

 

 「はい」

 

 「大丈夫です」

 

 「フリストは優秀な機体ですけど、いつも私達が乗っている機体とでは性能が違います。無理だけはしないようにしてください」

 

 フリストはエース用として配備されているスルーズの上位機である。

 

 上位機だけあってこの機体の性能は高く、演習ではトールが惨敗したほどの性能を示した。

 

 さらに一部のエース達にはさらなる改修や強化が施されるなど、同盟の仲でも非常に優秀な機体に位置している。

 

 「では行きましょう!」

 

 「了解!」

 

 カタパルトから射出されたフリストが宇宙に飛び出すと接近してくるザフト機を迎撃する。

 

 「行くぞ!」

 

 レティシアがビームライフルでジンを撃ち抜くと、キラがビームサーベルでゲイツを両断した。

 

 さらに後ろからアストがガトリング砲で近づいてくる敵機を撃ち落としていく。

 

 「ナチュラルの作ったおもちゃ風情に後れを取るとは情けない」

 

 クリスは落とされた者達を侮蔑しながら、3機のフリストを見据えた。

 

 「まあいいです。僕が片付ければいいだけですから」

 

 スナイパーライフルを発射すると同時にヒュドラを叩きこむ。

 

 「来るぞ!」

 

 アストの声に合わせてスラスターを吹かすと、散開して迫るビームを回避するとビームライフルで敵機の動きを牽制していく。

 

 「キラ、レティシア、あの機体には単独で向うな」

 

 いくらフリストが優秀でもあの機体には敵わない事は分かっている。

 

 特に近接戦闘で戦うのはパワーが違う為に勝負にならない。

 

 「はい!」

 

 「うん、分かってる」

 

 「この、調子に乗るな!」

 

 3機は連携を取りながらシグルドを抑えにかかる。

 

 別動隊とアスト達が戦いを繰り広げていた頃、ヴァルハラに奇襲があった事は前線にいる全員に伝わった。

 

 「別方向から攻撃!?」

 

 「なんだと!?」

 

 トールがシヴァでシグーを損傷させ、飛び込んだイザークがビームサーベルで斬り捨てる。

 

 そして後ろに回り込んだ敵機をムウがシュベルトゲーベルで両断し、さらに敵部隊をアグニで薙ぎ払った。

 

 「まずいな。向うに戦力はほとんど残ってないぞ」

 

 この状況にカガリは咄嗟に判断する。

 

 「くっ、マユラ、ジュリ、向うの援護に回れ!」

 

 「でもここは?」

 

 「私は大丈夫だ。行け!」

 

 「「了解!」」

 

 マユラとジュリが移動し始めた時、アークエンジェルからの通信が入り、現状をフレイが説明する。

 

 《今のところは大丈夫です。アスト達が予備機のフリストで迎撃に出ました》

 

 「そうか、だがいくら坊主達でもあの新型はきついだろう」

 

 アスト達がいくら卓越した技量を持っていても流石に量産機でシグルドの相手は難しい。

 

 さらにマユラとジュリが援護に行っても状況が好転するとは思えない。

 

 「ラクスさん、行ってください!」

 

 「マユ!?」

 

 「ここは私達でなんとか抑えますから!」

 

 シオンの繰り出した斬撃を受け止めながらマユが叫ぶ。

 

 ラクスは一瞬迷うがすぐに決断するとシグルドを蹴りつけ、機関砲を撃ち込むと距離を取った。

 

 「……分かりました。ここはお願いします!」

 

 ジャスティスはそのまま反転し、アスト達の下へ向かう。

 

 それを見たマルクは逃がさないとばかりに追撃しようと前に出た。

 

 「逃がすかよ!!」

 

 「マルク、迂闊に出るな!」

 

 そんなシオンの制止を無視して突っ込んでいく。

 

 「馬鹿が……結局お前も愚か者か、マルク」

 

 シオンは追う事も止める事もせずただ冷たい視線で見つめているだけだった。

 

 「ラクスさんは追わせない!」

 

 マユはシグルドを引き離し、ヴァルハラに向かったマルクを追う為に背を向けた。

 

 しかし黙って追わせるほどシオンは甘くなく、背中にガトリング砲を叩きこんだ。

 

 「行かせると思うか」

 

 咄嗟に機体を半回転させたターニングはシールドでガトリング砲を受け止めるが、その隙に蹴りを入れられ吹き飛ばされてしまう。

 

 「きゃあ!」

 

 吹き飛ばされたターニングに追い打ちを掛けるように、ヒュドラが襲いかかるが何とか上昇して回避する。

 

 ビームは機体を掠めていくものの、避け切りビームライフルで反撃した。

 

 「くっ、振り切れない!」

 

 シオンの妨害を受けるマユを無視してマルクはジャスティスを追撃していたが、途中で立ちはだかったマユラとジュリのアストレイに阻まれる。

 

 「ジャスティスの後を追わせる訳にはいかないわ、ジュリ!」

 

 「うん、ここで止める!」

 

 自分達が援護に行くより、ラクスが行った方が良いと2人は判断した。

 

 もちろんシグルド相手に戦うには厳しい事も理解しているが、それでも行かせる訳にはいかないのだ。

 

 2機のアストレイが連携を取りながらシグルドに攻撃を仕掛けた。

 

 マユラがビームライフルで動きを牽制し、ジュリがビームサーベルで斬り込んでいく。

 

 だが彼女達の前にいる敵はザフトのトップガンである。

 

 そう簡単にやれるほど甘くはない。

 

 「雑魚が邪魔するなぁぁ!!」

 

 マルクはジュリのビームサーベルを容易く弾き飛ばすとヒュドラでマユラ機の右足を破壊する。

 

 「きゃあああ!!」

 

 「これで止めだ!」

 

 体勢を崩したマユラ機にビームクロウを展開し、斬り裂こうと振りかぶる。

 

 「やらせない!」

 

 それを阻止せんとジュリがビームサーベルで斬りかかるが、マルクは機体を逸らしあっさりと斬撃を回避。

 

 マユラ機に振り下ろそうとしていたビームクロウを横薙ぎに叩きつけた。

 

 「ナチュラル風情が生意気なんだよ!!」

 

 「あ」

 

 ビームクロウがジュリ機を深々と抉り、斬り裂いた。

 

 「ジュリィィィ!!」

 

 斬り裂かれたアストレイは爆散こそしなかったが、見るからに致命傷であった。

 

 「邪魔するからだよ、そして次はお前だ!!」

 

 「よくもぉぉ!!」

 

 マユラは怒りに任せビームライフルを連射するが、シグルドには当たらない。

 

 そして再びビームクロウで斬り裂こうと懐に飛び込んできた。

 

 「避けられない!?」

 

 「死ねよォォ!!」

 

 ビームクロウがマユラ機に振り下ろされ様とした時、シグルドに強力なビームが撃ち込まれる。

 

 「また邪魔かよ!」

 

 後退してかわし、攻撃が来た方向に目を向けた。

 

 「今度はストライクか!!」

 

 マルクが見た先には白と紅のストライクが2機。

 

 ムウのアドヴァンスストライクとカガリのストライクルージュが援軍として駆けつけて来たのだ。

 

 「ジュリ!?」

 

 カガリの目の前に破壊されたアストレイの姿があった。

 

 あれではパイロットはもう―――

 

 「お嬢ちゃん、今は」

 

 「分かってる!」

 

 ムウの言葉に怒りを抑え込み、深呼吸をすると操縦桿を握りなおすとストライクが放ったアグニからのビームに合わせ、カガリもビームサーベルで斬り込んでいく。

 

 「次から次に鬱陶しい!」

 

 アグニのビームを回避すると、スナイパーライフルで撃ち返し、接近してきたストライクルージュにミサイルを撃ち込んだ。

 

 カガリはイーゲルシュテルンでミサイルを撃ち落とし、爆煙に紛れ接近するとシグルドと斬り結ぶ。

 

 「このぉ!」

 

 しかしカガリが戦うには相手が悪すぎた。

 

 「ハ! この程度かよぉ!!」

 

 蹴りを入れて突き放し、ビームライフルを連射しルージュを追い詰めていく。

 

そんな激しい攻防を破壊されたアストレイのコックピットでジュリが片目で見ていた。

 

「……体は、ほとんど、動かない」

 

 腹には深々と破片が刺さり、ヘルメットのバイザーも罅が入り自分の血で半分ほど見えなくなっている。

 

 自分はもう駄目だろう。

 

 もうじき死ぬ。

 

 かろうじて見える視界にはカガリが必死に戦っていた。

 

 「……助けないと」

 

 ジュリは最後の力を振り絞り、右手を動かして操縦桿を前に押し込み、ペダルを踏むとアストレイの残ったスラスターを使って突撃した。

 

 「なっ!?」

 

 完全に虚を突かれたマルクは反応が遅れ、ジュリのアストレイが斬り上げたビームサーベルに背中のスラスターを斬り裂かれてしまった。

 

 「ぐっ、こいつ!! この死に損ないがァァァァ!!!」

 

 マルクがジュリのアストレイを破壊しようとビームサーベルを振り上げた。

 

 しかし―――

 

 「はああああ!!」

 

 注意を逸らしたシグルドの隙をつき、アストレイの斬撃がシグルドの右足を斬り飛ばす。

 

 「ば、馬鹿な、俺がナチュラル如きに! くっ、シオン、援護を!!」

 

 マルクの叫びにシオンからの返答はない。

 

 「シオン! おい、シオン!!」

 

 「……うるさい奴だ」

 

 ターニングと戦闘していたシオンは不機嫌そうに答える。

 

 「シオン、援護を!」

 

 しかし返ってきたのはマルクが期待したようなものではない、冷たい返答だった。

 

 「その必要はない」

 

 「なに?」

 

 「お前の勝手な行動で作戦は失敗だ。一応クリスがヴァルハラに損害は与えたが、時間切れだ」

 

 その声の冷たさにようやくマルクは自身の過ちに気がついた。

 

 出撃前の言葉は最後の警告だったのだ。

 

 「お前を助ける気はない。無能な奴に用は無いからな。マルク、お前はここで死ね」

 

 「ま、待て、シオ―――」

 

 「その位置で自爆でもすれば多数の敵も巻き込めるだろう。せめて無様な死に方だけはするなよ、特務隊として」

 

 それを最後に通信が完全に切れる。

 

 それはつまり―――マルクは見捨てられてしまったのだ。

 

 「ふ、ふざけるな。俺がこんな所で死んでたまるかぁ!」

 

 シグルドを操作し撤退しようとするがうまく機体が動かない。

 

 アストレイに背中のスラスターを斬られたのが不味かったのだろう。

 

 「くそ、くそ、動け、このポンコツが!」

 

 マルクが必死に操作している前にストライクルージュが立ちふさがる。

 

 「邪魔してんじゃねぇー!!」

 

 苛立ちを込めヒュドラをストライクルージュに撃ち込んだ。

 

 カガリは迫る閃光を見つめながら、敵を見据える。

 

 マユラ、そしてジュリが命を懸けて作ってくれたチャンス。

 

 「絶対に無駄にする訳にはいかない!」

 

 その時、カガリのSEEDが弾けた。

 

 「はああああああああ!!!」

 

 研ぎ澄まされた感覚で操縦桿を操作し、ヒュドラを回避するとスラスターを全開にしビームサーベルで斬り込んだ。

 

 ストライクルージュの先程までとは違う鋭い動きにマルクは反応できず、ビームサーベルで両腕を切断されシールドで殴りつけられた。

 

 「これでどうだ!!」

 

 「ぐああああ!!」

 

 態勢を崩したところにムウがパンツァーアイゼンを放ち、シグルドを掴むと勢いをつけ味方のいない方向に投げつけた。

 

 「その機体も核動力だろう。だからここで落す訳にもいかないんでね!!」

 

 吹き飛ばされた敵機にカガリはスコープを引き出すとビームライフルで狙撃する。

 

 「これで落ちろ!!」

 

 普段のカガリならば正確な狙撃など無理だろうが、今はSEEDを発動させている。

 

 いつもとは比較にならない射撃精度で敵機を狙い撃った。

 

 「お、俺がナチュラルなんかに、レ、レティ―――」

 

 放たれたビームがシグルドのコックピットを撃ち抜くと大きな閃光となって爆散した。

 

 その閃光を合図としてシオンは撤退命令を出した。

 

 「全機、退くぞ!」

 

 「「「了解」」」

 

 シオンはターニングにビームガトリングを放ち、距離を取ると反転する。

 

 「待て!」

 

 「いつかお前とも決着をつけてやる」

 

 そう吐き捨てると撤退を開始した。

 

 そして味方の撤退は別方向にいたクリスにも伝わっていた。

 

 「マルクがやられたようですね」

 

 あれだけ勝手な事をしていた以上、自業自得であろう。

 

 そう胸中でマルクの存在を切り捨てると淡々と命令を下す。

 

 「全機、撤退命令です」

 

 「「「了解!」」」

 

 クリスはジャスティスをビームライフルで牽制しミサイルを放つと撃墜される前にヒュドラで撃ち落とし、目くらましに使って反転した。

 

 「……退くならば追う必要もありませんね。みなさん大丈夫でしたか」

 

 「ああ、ありがとう」

 

 「こっちも大丈夫だ」

 

 「私もです。しかしヴァルハラに損害を与えてしまいました」

 

 シグルドの攻撃で抉られた部分がむき出しになっている。

 

 あれほどの損害では修復に時間が掛かるだろう。

 

 「……ええ、しかしこの程度の被害で済んで良かったですよ」

 

 「ともかく戻りましょう」

 

 「「「了解」」」

 

 アスト達も警戒しながらヴァルハラに帰還する。

 

 ザフトはシグルドが撃墜された事で完全に撤退した。

 

 シオンは母艦に帰還する途中で一瞬だけ、マルクが落とされた方向を見ると侮蔑するように吐き捨てる。

 

 「最後まで役に立たない奴だ。屑が」

 

 そのまま振り返ることなく帰還した。

 

 

 

 

 マユがそれに気がついたのはすべてが終わった後だった。

 

 宇宙に浮かぶボロボロになった機体。

 

 それに寄り添うようにストライクルージュとアストレイがいる。

 

 「あれって―――」

 

 通信機からマユラとカガリの泣き声が聞こえてくる。

 

 それだけで何があったのか悟った。

 

 また自分の近しい人が逝ってしまったのだと。

 

 「そ、そんな、うう、うああ、ジュリ、さん」

 

 バイザーの中に大粒の涙があふれる。

 

 マユもまたカガリ達と共に泣き始める。

 

 他に出来る事は無く、ただ失った大切なものを悼み、涙を流す。

 

 マユの胸中には深い悲しみと共にザフトに対する明確な敵意が、刻み込まれていた。




機体紹介2、3を更新しました。

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