コロニーメンデルを中心とした同盟軍とザフトの戦闘が始まろうとしていた頃、数隻の艦がこの宙域に接近していた。
その内の1隻は色に違いがあるものの、アークエンジェルと同じ形状の戦艦であった。
地球軍強襲機動特装艦『ドミニオン』
アークエンジェル級2番艦である。
そのドミニオンのブリッジ、艦長席に座っていたのはかつてアークエンジェルにも乗艦していた事もある男セーファス・オーデン中佐であった。
真っ直ぐに前を見ていたセーファスに副長のナタル・バジルール少佐が声をかけた。
「オーデン艦長」
「どうした?」
「……今回の件、どう思われますか?」
ナタルが口には出さないが不服そうに聞いてきた。
新造艦であるドミニオンの初任務はザフトにいるスパイからの情報を受け取る事である。
それだけでも眉を顰めそうなものなのだが、さらに軍属でもないあの男ブルーコスモスの盟主ムルタ・アズラエルの言う事を最優先とせよ、そんな面倒な要請のオマケ付きで任務をこなさなければならない。
これでは副長のナタルとしては頭が痛い事だろう。
さらに彼女がアズラエルに対して不信感を持っている理由は他にもある。
手元の端末を操作してモニターに情報を映し出す。
そこにはドミニオンに運び込まれた新型モビルスーツとパイロットのデータがあった。
画面をスクロールさせ、最後に載っていたのは4機のGATシリーズと四人のパイロットの詳細データ―――いや、そうではない。
ここに書かれている記述を素直に読み取るならば、パイロットではなく彼らはモビルスーツを動かす部品なのだ。
肉体を改造され、薬物で強化された者達、それが生体CPUだった。
それだけで吐き気がするほどの嫌悪感に襲われるというのに、記載されている4人の内最後の1人を見た。
エフィム・ブロワ
セーファス、ナタル共に知っている少年である。
初めてこのデータを見た時は思わず立ち上がってしまったほど驚いたものだ。
オーブ沖の戦闘で落とされたエフィムを偶然通りかかった地球軍の哨戒機が発見し保護したらしい。
だが詳しい経緯は教えてもらえず、表示されたデータはすべて抹消済みとなっている。
戦死したと思われていた者が生きていた。
本来ならば喜ぶべき事なのだろう。
だが兵器にされていたとなれば、それは生きていたとしても喜んで良い事なのだろうか?
「……今回の件は当然、罠である可能性もありますし」
「言いたい事は分かる。私も同じ意見だが、彼がこちらの言い分を聞いてくれるとは思えん」
「それはそうですが……」
ナタルの顔が曇る。
最近彼女はこういう顔が増えてきた。
以前の彼女ならば命令に異論を挟む事などなかったというのに、それだけに驚きの変化と言える。
「大丈夫だ。クルーの命くらいは私が何とか守ってみせるさ」
「艦長……」
セーファスの頼もしい言葉にナタルは頬を緩ませた。
その時ブリッジの扉が開いて、いつものニヤついた顔でアズラエルが入ってきた。
「あと、どれくらいですかね?」
「……もうすぐです。今の内にモビルスーツの出撃準備をしてもらえると助かりますが?」
「これは失礼、すぐに準備させましょうか」
アズラエルは後ろに控えていた白衣の研究員に指示を出す。
やはりナタルはこの男を好きになる事が出来ない。
言い方や仕草がいちいち癇に障る。
それはセーファスも同じはずだが、彼はそれをおくびにも出さず平然と対応しているのは流石の一言だろう。
そして下がった研究員と入れ替わるように、メネラオスと合流した際にハルバートンと一緒にいた男が前に出る。
「ではアズラエル様、私も行ってまいります」
「頼むよ、クロード」
「了解いたしました。ストライクダガーを一機、お借りします」
礼儀正しく頭を下げるとクロードはブリッジを出て、格納庫に向かう。
今回スパイと接触するのは彼であり、場所はメンデル付近らしいのだが詳細は知らされていない。
そしてクロードがスパイと接触している間、ドミニオンは敵がいなければ周囲を警戒を、もし仮に他の勢力がいれば攻撃を仕掛け引きつける事になる。
「これは!?」
CICに座ったクルーが上擦ったような声上げる。その様子からするとあまり良い報告ではないようだが―――
「どうした?」
「メンデル付近で戦闘が行われている模様です!」
この付近での戦闘というのは、訝しむアズラエルの様子から見ても地球軍の部隊ではない。
「どこの所属だ?」
「ザフトと……不明艦が3、それからアークエンジェルです!!」
「アークエンジェル!?」
彼らが軍を離れ、現在は同盟軍に所属している事はすでに知っている。
しかしまさかこんな場所で出会う事になるとは―――
それに何故ザフトと同盟軍が戦っているなど疑問はあるが、出会った以上無視はできまい。、
「へぇ~それは都合がいいですね。オーブでの借りをここで返すのも悪くありませんし」
アズラエルは獲物を見つけたかのような笑みを浮かべるが戦況を見たナタルが即座に反論した。
「アズラエル理事、この状況で無理に介入するなど危険すぎます!」
「はぁ、副長さん。最初に作戦は伝えていた筈ですよ」
「しかし!」
「それに僕の要請を聞くようにって上から言われていた筈でしょう。命令なんですから従ってもらわないと」
そう言われればナタルも反論できずに唇を噛むしかない。
軍人である以上は命令に従うのが当然なのだから。
「……バジルール少佐、席に着け。戦闘準備だ」
「艦長!?」
「流石ですね、艦長さんはよく分かってる」
アズラエルの称賛も聞き流すように無視した、セーファスは指示を飛ばし始めた。
「本艦は戦闘準備に入る。各艦にも打電」
ブリッジが慌ただしく動き出す。
「イーゲルシュテルン、バリアント起動! ミサイル発射管全門装填!」
CICも忙しなく作業を進めるが、その動きはどこかぎこちない。
無理もない。大半のクルー達にとってはこれが初陣となる。
だが敵はそんな事を考慮してはくれない、死にたくなければやるしかないのだ。
「訓練通りにやれば大丈夫だ。落ちつけ」
「は、はい」
「り、了解です」
ナタルの的確な指示で落ち着いたのか、訓練通りに作業をこなし始めたクルー達を尻目に徐々に戦闘宙域に近づくと敵艦を捉える位置に辿り着いた。
「……ローエングリン照準、目標『アークエンジェル』 その後、各モビルスーツ発進」
「「「了解」」」
セーファスは一瞬だけ目を伏せるとその後は表情を変える事無く、ただ前だけを見ていた。
ドミニオンが攻撃を仕掛けてくる少し前の事。
メンデルに停泊し、急ぎ修復や補給を行い出港準備を整えていた4隻の戦艦に哨戒に出ていた機体からザフト襲撃の知らせが飛び込んできた。
オーディンのブリッジで報告を聞いたテレサは思わず舌打ちする。
「チィ、予想よりずいぶん早いな。ヨハン、状況は?」
《まだです。少し時間が掛かります》
予想通りの答えにため息しか出ない。
少なくともテレサの予測では後、1時間は猶予があると思っていた。
それをこうも早く対応を取ってくるとは。
それだけ敵の指揮官が優秀という事なのだろう。
「くっ、急がせろ! ヘイムダルに搭載した機体はそのまま発進! アークエンジェル、クサナギ、私達が前に出てヘイムダルの修理までの時間を稼ぐ」
その後は状況によって、対応していく。
本当ならこんな行き当たりばったりな事はしたくはないのだが、今は敵からの攻勢を凌ぐしか手がない。
《了解!》
《こちらはまだコロニー内のカガリ達が戻っていない》
カガリに時間厳守とは言っていたが予想以上にザフトの動きは早かった為、仕方がない。
「……時間がない。キサカ、戦闘準備を優先しろ」
《了解だ》
「オーディン発進するぞ!」
「「「了解!」」」
メンデルより三隻の艦が発進し、各機出撃していく。
すでに準備を終え、ヘイムダルに搭載されていたイノセント、アイテル、スウェア、ターニングの4機は出撃済み。
そして後方から発進したアークエンジェルからもモビルスーツが発進しようとしていた。
「ラクス、無理しないで」
「私は大丈夫ですわ、キラ」
「うん、キラ・ヤマト、フリーダム行きます!」
「ラクス・クライン、ジャスティス参ります!」
モニターで互いに頷いた2人はフットペダルを踏み込むと、ハッチから宇宙に飛び出した。
そしてその後に続くように2機のガンダムもカタパルトに運ばれる。
「トール、演習みたいな事はするなよ!」
「分かってますよ!」
アドヴァンスストライクにすべての武装が取り付けられる。
結局オーブ戦で使ったこの形態をムウは気に入り、そのまま使う事にした。
もちろんトールは微妙な顔をしていたが。
《ムウ、頼むわ》
マリューの言葉にムウはいつものようにニヤリと笑みを浮かべる。
「了解。ムウ・ラ・フラガ、ストライク、出るぞ」
トールはアドヴァンスデュエルの計器をチェックしながら出撃準備を整える。
ムウに言われた事を反芻しながら、演習の不甲斐無さを思い出す。
これでもきちんと反省しているのだ。
流石にミリィに泣きながら説教された時は罪悪感で一杯になってしまった。
もうあんな顔はさせたくない。
今もモニターには不安一杯という表情で映っている。
《トール、無理しないでね》
少しでも安心させようと笑って頷くとキラ達を追うように戦場に飛び出した。
「ああ、トール・ケーニッヒ、デュエル行きます!」
クサナギ、オーディンからもアストレイ、スルーズ、そしてフリストが発進し、襲撃してきたジンやシグーと戦闘を開始する。
「全機、ザフトの好きにさせるな!」
「了解!!」
ビームライフルの直撃を受けたジンの爆発を尻目にスルーズがビームサーベルで斬りかかる。
押し寄せてくる敵からの攻撃に互角に応戦していたモビルスーツ隊だったが、突如別方向からの強力なビームが襲いかかり数機を同時に消し去ってしまった。
「何!?」
「あの機体は!?」
彼らが振り向いた先にいたのは、マスドライバーを破壊した特務隊が操る3機のシグルドであった。
「邪魔だぜ!」
マルクがヒュドラの一撃で敵機の陣形を崩すとシオンが対艦刀『クラレント』を抜き、敵部隊に斬り込んだ。
「この加速、いい感じだ」
その動きはかつてのシグルドとは明らかに違い、反応できないアストレイの懐に飛び込むと袈裟懸けに振るった。
「は、速い!?」
「遅いぞ。 愚鈍なナチュラル共」
クラレントの斬撃がアストレイを容易く両断すると、肩のビームガトリング砲で近くのスルーズを蜂の巣して破壊する。
さらにアストレイ、スルーズがビームサーベルを構えて、シオンを囲ってくるが別方向からのビームに撃ち抜かれてしまった。
「ぐあああ!」
「ど、どこから!? うああああ!」
ビームが放たれた先には距離を取ったクリスがスナイパーライフルを構えて狙撃していた。
ターゲットをロックし、発射された正確な一射が次々と敵機を撃ち抜き、撃破していく。
「ふん、他愛ない奴らだ。こんな雑魚に用はない。奴は何処だ」
「おい、シオン。あれだ!」
マルクが指摘した方向にいたのはビームサーベルを連結させ、ジンを斬り飛ばす紅い機体―――
「ジャスティスか。まあいい、アレから殺るぞ!」
「「了解!」」
3機のシグルドが連携を取り、ジャスティスに襲いかかる。
ラクスは斬り飛ばしたジンを悲しそうに一瞬眺めると、次の敵に向おうと周囲を見た。
すると正面から一条の閃光がジャスティスに迫ってきた。
「くっ!」
咄嗟にシールドを掲げ、たビームを受け止めた先には覚えのある機体がこちらに向かってくるのが見える。
「あれは―――」
アラスカ、オーブで見た機体、特務隊のものだ。
しかも良く見るとアラスカやオーブの時に比べると装備に変更がある。
どうやら強化してきたという事らしい。
「なんであれ、これ以上好きにはさせません!」
ラクスにしてもあの特務隊には思うところはある。
自身の事は良い。あれはこちらに非がある事で、それで恨む気はない。
しかし、マユの件は別だ。
病室での彼女の泣き顔は忘れられない。
感情的になりかけたのをどうにか堪え、操縦桿を強く握ると、鋭い視線で3機のシグルドを見据える。
「さぁて、あれには誰が乗ってんのかなぁ!」
マルクはスナイパ―ライフルを発射すると、すぐにビームクロウを構え直して突撃する。
だがジャスティスは放たれたビームを加速しながら回避すると同時に光爪をシールドで止めて見せた。
「へぇ~やるね。おい、ジャスティスに乗ってんのはレティシアか?」
「貴方は!?」
「なんだ、歌姫様かよ。俺はレティシアを探してんだよ!」
ジャスティスに蹴りを入れて突き放すと、さらにビームサーベルを叩きつける。
「まあ、あんたも悪くはないけどなぁ。それなりに楽しめそうだし」
マルクの声にラクスに生理的な嫌悪感が湧いてくる。
この男の言い分はどうしてこう下品なのか。
「……貴方とレティシアを会わせる訳にはいきませんね」
「じゃあ無理やりにでも聞き出してやるよォォ!!」
嫌悪感を振り払うようにビームサーベルでシグルドを斬り払うが、そこにマルクと入れ替わるようにクラレントを構えたシオンが斬り込んでくる。
「この裏切り者が!」
「前に比べると格段に速いですね」
斬撃を見切りクラレントを後退して避けるが、その先に回り込むように待機していたクリスの放ったスナイパーライフルの攻撃が襲いかかる。
「僕もあなたの歌、好きだったんですけどね。残念ですよ」
「くっ」
連続で叩き込まれる狙撃を機体を左右に振り、ビームを回避していく。
「さすが特務隊ですわね!」
回り込みクラレントを振りかぶるシオンをフォルティスビーム砲で牽制し、動きを鈍らせたところにビームサーベルで斬りつける。
「中々やるじゃないか! 歌よりこちらの才能の方が優れているんじゃないか、ラクス・クライン!!」
「だからと言って嬉々として力を振るうつもりはありません!!」
互いの攻撃を受け止めて、こう着状態になったところに今度はマルクがヒュドラで狙ってきた。
「これで終わりだぜ、歌姫様!!」
ヒュドラが放たれた瞬間に、シオンがジャスティスを突き飛ばし体勢を崩す。
「くっ!」
何とかシールドで防ぐ為、機体を立て直そうとするラクスの視界に別の機体が割り込んでくる。
ジャスティスのリフターと良く似たバックパックを装備した機体、アイテルであった。
「ラクス! 大丈夫ですか!?」
「ええ、ありがとうレティシア!」
仕留めたと思ったシオン達は忌々しそうに乱入してきた機体を睨む。
「今度はドレッドノートか」
「丁度いい。あの機体のパイロットも確認できるしな」
マルクの発言に流石にシオンも眉を顰める。
いくらなんでもレティシアに執着しすぎている。
下手をすれば、今後それが仇になりかねない。
「マルク、こだわり過ぎだ」
「いいじゃねえか、やる事は変わらないんだからさぁ!」
シオンの言葉を無視し、マルクはアイテルに攻撃を仕掛ける。
接近しながら腰のミサイルランチャーを放つとアイテルはジャスティスを背にしたまま機関砲で迎撃する。
シグルドは破壊されたミサイルの爆煙に紛れ、引き抜いたビームサーベルで襲いかかった。
「誰だよ、ドレッドノートに乗ってんのは?」
「マルク!?」
目の前のモビルスーツから待ち望んだ声が聞こえてくる。
満足そうにニヤリと笑みを浮かべ、手を止める事無くサーベルの連撃を繰り出していく。
「生きいて、嬉しいぜ!」
振りかぶられるビームサーベルをかわし、アイテルもまたグラムを抜くと接近してきたシグルドに斬艦刀を叩きつけた。
その攻撃をシールドで捌きながら、マルクはレティシアに呼びかける。
「レティシア、俺の女になれ。そうすりゃザラ議長にも俺から取り成してやる」
「なんの冗談ですか、それは?」
その冷たい声が何よりもレティシアの心情を現しているのだが、マルクは聞く耳持たない。
「おいおい、俺は本気だぜ」
「お断りです!」
「なら無理やりにでも、俺のものにしてやるさ!」
隙をみて腹部から放たれたヒュドラをシールドで受け止め、セイレーンからビーム砲を撃ち返す。
「レティシア、貴様までもここまで愚かとは思っていなかったぞ!!」
「シオン、私は貴方より、マシなつもりです!!」
マルクの援護にシオンも割り込みガトリング砲を放ってくるが、今度はジャスティスが割り込みシールドで防ぎながら、サーベルで斬りかかった。
「ラクス!」
「こちらは任せて下さい!」
「チッ、まずはお前から死にたいか、ラクス・クライン!!」
ジャスティスの斬撃を弾き、シオンがクラレントを横薙ぎに振う。
対艦刀の一薙ぎをラクスもシールドで受け止め、光が散る。
「ラクス、レティシアさん!!」
駆けつけたキラが阻むように立ちはだかるジンやシグーを瞬時に斬り飛ばし、一気に距離を詰めようと機体を加速させる。
だがそこに控えていたクリスのスナイパーライフルの砲撃が進路を阻むように襲いかかる。
「フリーダムか。ここから先には行かせん!」
凄まじいまでの速度で接近してくるフリーダムにミサイルで牽制し誘導しながら、スナイパ―ライフルで狙い撃つ。
連射で放たれたビームをシールドを使って凌いでいくが、クリスの攻撃の巧みさから接近できない。
「くっ、まだ―――ッ!!」
その時、突然撃ちこまれた別方向からのビームによる攻撃に気がついたキラは即座に機体を後退させ回避するが、その砲撃はフリーダムを的確に狙い次々と雨のように襲いかかってきた。
正確に放たれた砲撃を蒼い翼を広げながら縦横無尽に飛びまわり、キラはすべて避け切っていく。
そこで見た。
こちらを狙いビームランチャーを構え、肩の後ろに大きなバーニアを持つ機体の姿を。
「あの機体は!?」
キラと最も因縁のある相手シリル・アルフォードの搭乗するコンビクトである。
「あの動きは『白い戦神』!!」
ようやくあの日の決着を―――仲間の仇を討てる!
「あの日の借り、今返す。いくぞ!!」
バーニアを噴射させ加速したコンビクトはビームサーベルを抜き、フリーダムに斬り込んでいく。
「速い! このぉ!!」
突っ込んでくるコンビクトにビームライフルで応戦するが、すり抜けるように避けながら凄まじいスピードで突っ込んで来た。
負けじとビームサーベルを抜き、コンビクトに叩つけ、弾け合い、距離を取るように旋回しながら再びビームサーベルを振りかぶり激突する。
「ガンダムゥゥ!!!」
「はあああああ!!!」
キラとシリルそしてラクス、レティシアと特務隊の戦いは完全に拮抗し、攻防を繰り広げる。
「キラ、レティシア、ラクス!!」
マユ達と戦艦の護衛をしていたアストも援護に駆けつけようとした時、アークエンジェルの前方から凄まじい閃光が迫ってきた。
「アークエンジェル!!」
アストの声に合わせマリューが叫ぶ。
「回避!!」
ノイマンが咄嗟に回避行動を取る事で閃光はアークエンジェルを逸れていく。
今迫ってきたのは陽電子砲、そしてマリューの視界の先にいたのは―――
「アークエンジェル?」
「同型艦か」
ノイマンの言う通りアークエンジェルと同じ形状を持つ戦艦、その後ろから地球軍の艦であるネルソン級やドレイク級が数隻いる。
「なんで地球軍がここに?」
全員が驚く中でフレイだけが冷静に指示を出す。
「みんな、落ち着いて。なんであれ地球軍が敵である事に変わりはないわ」
フレイの言葉に皆が気を引き締める。
「アルスターさんの言う通りよ。敵艦に注意して!」
「「「了解」」」
アークエンジェルが迎撃の構えを取ったのを確認するとセーファスは通信回線を開いた。
「艦長さん?」
突然の行動にアズラエルが不思議そうの首を傾げ、ブリッジクルーは全員驚く。
今は戦闘中、すでにザフトもこちらに気がついているのだ。
普段のセーファスとは思えない行動に表情一つ変えなかったのはナタルだけであった。
「こちらは地球軍宇宙戦艦ドミニオン。アークエンジェル聞こえているな?」
《その声はオーデン少佐!?》
「久ぶりと言っておこうかな、ラミアス艦長」
《……はい》
「一応聞く。降伏する気はあるかな?」
《ありません》
マリューの躊躇いのない言葉にセーファスはニヤリと微かに笑みを浮かべた。
あのひよっこ達が頼もしくなったものだ。
「そうか。ならばこちらも遠慮なく戦えるというものだ。ナタル、戦闘開始だ。アズラエル理事モビルスーツの発進を」
《ッ!?》
マリューの驚いた顔を最後に通信を切るとアズラエルが訝しむようにこちらを見上げる。
「なんだったんですか、今の?」
「……ちょっとした心理戦のようなものですよ」
セーファスはマリューの性格を知っている。
彼女は基本的に甘い。
知り合いが敵艦にいるとなると必ず動揺するだろう。
だからこそわざと通信回線を開き、こちらの顔を見せ、ナタルの名前も出したのだ。
「彼らは強敵ですからね」
怪我の治療に専念していた時もアークエンジェルの噂は聞いていた。
その戦果は決して侮れるものではない。
だから勝率は1%でも上げておきたかった。
しかしそれはあくまで建前で自分自身、彼らの顔を見たいという気持ちがあった。
どう成長したのか、それが見たかったのだ。
「……戦闘開始、モビルスーツ出撃!」
「「了解」」
ドミニオンのハッチが開き、搭載機であるストライクダガーと4機の新型GATシリーズも発進していく。
「あの機体は……」
オーブで戦った機体だ。
あの機体に搭乗しているパイロット達は動きも反応速度も普通ではない。
アストレイやスルーズではどうしようもないだろう。
だがキラ達はザフト機を抑えるので精一杯、ならば―――
「俺が抑えるしかないか。イザーク、マユを頼む!」
「分かった!」
「アストさん!?」
「マユはイザークの傍から離れるなよ」
そう言うとイノセントを4機の迎撃に向かわせた。
そして近づいてきた白い機体に気がついたのは敵も一緒である。
「アイツだ!」
「他の機体は?」
「まずアレを片づけた後で殺せばいいんじゃない」
「コーディ、ネイターは、殺す!」
イノセントの姿を確認した4機のガンダムは、武装を構えると一斉に襲いかかる。
「今日こそは消えろよ!」
「行くぞ!」
カラミティの砲撃を潜り抜け、レイダーのミョルニルを回避したアストはビームサーベルを構えると接近してきたゼニスに斬り込んだ。
「アストさん!」
激しい攻撃に晒されるイノセントの姿を見たマユはジンをビームライフルで撃ち抜くと援護に向かおうとするがそこにスウェアが割り込んでくる。
「マユ、あちらはアストに任せておけ」
「でも!」
「奴なら大丈夫だ。それより目の前の敵に集中しろ」
ザフトの機体だけでなく今度はストイライクダガーまで加わってくる。
イザークはターニングを守るようにビームサーベルを抜き、接近してきたストライクダガーを袈裟懸けに斬り裂くと同時にタスラムを放ち、敵部隊を分断する。
「マユ!」
「はい!!」
そこにターニングが突撃し振るった一撃が、ストライクダガーのコックピットに突き刺さり、そのまま横薙ぎに斬り捨てる。
同時に近くの敵機にグレネード・ランチャーを撃ち込んだ。
直撃を受けた敵は大きく爆散し、閃光になって消え、その光に紛れさらにビームライフルを撃ち込んで落としていく。
「マユ、ここは俺だけでも問題ない。他の援護に行け」
「……分かりました」
ターニングが飛行形態に変形し他の援護に向かう。
イザークはこちらを攻撃して来るストライクダガーを迎え撃った。
調子よく敵を撃退できている。
このままいけるかと思いきや突然なにもない空間からビームが放たれる。
その一射が傍にいたアストレイを貫くと、さらに別方向からスウェアを狙いミサイルが降り注ぐ。
そして周りのスルーズをゲイツがビームクロウで斬り裂いて行く。
「チッ、ザフト増援か? お前たちは下がれ!」
「り、了解」
イザークはミサイルをビームガトリングで迎撃すると、ゲイツをビームライフルで牽制する。
味方機を逃がしながら距離を取ったところで攻撃してきた方角に視線を向けるとそこには見覚えのある機体がいた。
ザフトに所属した頃、最も仲の良かった少年が搭乗していた機体―――
「……バスターか。ではもう一つは」
何もない空間から姿を現す黒い機体ブリッツだ。
2機ともイザークの知っている姿とは違っている。
おそらくは地上で受けた損傷から改修を受けたのだろう。
バスターアサルトは各部にスラスターが増設され、腰にはビームダガ―、腕に小さいシールドと胴体にも装甲が追加されている。
ブリッツアサルトもバスターと同様な改修が行われ、特に武装面に大きな変化がある。
ビームライフルを持ち、腕のトリケロスもビーム砲を搭載し、腰にビームサーベル、そして肩のガトリング砲を装備しているようだ。
イザークは汗ばむ手で操縦桿を握りなおす。
「……ディアッカ、ニコル。となるともう1機はエリアスか……」
覚悟していたつもりでもやはり現実は違う。
今までザフトとは何度か戦ったが敵が知り合いだとそれだけでもきつい。
「キラはこんな気分だったのか……」
すでにキラとアスランの関係も聞き及んでいる。
自分が同盟軍に加わった時も「自分達のようにはなるな」と言っていた。
「ふん、せっかくの忠告だ。きちんと聞いておくさ」
動きを止めたスウェアを警戒しながらディアッカ達は次の一手を考えていた。
「チィ、あいつ、やるな」
「イレイズに似た機体ですね。パイロットは違うようですけど」
「このまま行きますか?」
「そうだな、次で仕留めるぞ。ニコル、エリアス!」
「ええ」
「了解です」
ブリッツが腰からビームサーベルを抜くとガトリング砲を撃ち、さらに別方向からはゲイツからビームライフルで援護してくる。
イザークはブリッツの攻撃をかわしながら、ゲイツのビームを避け顔を歪めた。
そこにバスターが散弾砲を放ってくる。
流石に連携が上手い。
それは自分の知っているものより洗練された印象すら受ける。
地球での戦いから、さらに訓練を積んだのだろう。
相手の癖や動きを思い出しながら機体を操作し、攻撃を捌いたイザークは通信機を操作し、思いっきり叫んだ。
「ディアッカ! ニコル! エリアス!」
宇宙に響いたその声に、攻撃を加えていた三機が動きを止めた。
「今の声って」
「まさか……」
「……イザークですか?」
通信機から返ってきた声は懐かしい仲間の声だ。
「そうだ……」
動揺し動きを止めたバスターにかすれた声で返事をする。
「……どういう、一体どういう事だよ、イザーク!!」
ディアッカの声に苦々しい気持ちになりながらも、話をするために口を開いた。
各場所での戦闘が激化していく中、敵機をアグニで撃ち抜いたムウは唐突に気がついた。
「なっ、これは!?」
例の感覚が全身を駆け抜け、その存在を教えてくる。
奴が向かってくるのはコロニーの方角からだ。
居るのはクルーゼではなく―――ユリウス。
奴に背後から来られたら不味い。
ビームサーベルを振りかぶってきたストライクダガ―をシュベルトゲーベルで返り討ちにすると即座に機体を反転させた。
「少佐、どこに!?」
ブルートガングでジンを両断したトールの声に答えるようにムウが叫ぶ。
「ザフトがコロニーの内部からも来るぞ!」
「え? コロニーから敵!?」
そうなれば挟撃される事になる。
しかもコロニー内にはヘイムダルが修理中の筈、さらには内部にカガリ達もいる。
「少佐、俺も―――!?」
迫ってきたストライクダガーのビームをかわし、シヴァを叩き込む。
「くそ、数が多い!」
これでは戦線から離れる事が出来ない。
ミサイルポッドを敵部隊に放ち、陣形を崩した所にビームサーベルで斬りかかると同時にアークエンジェルに連絡を入れる。
「アークエンジェル、背後のコロニー内から敵が来る! 少佐が迎撃に向かった!」
トールからの通信にマリューは思わず歯噛みした。
コロニーの中からの奇襲とは。
しかし今そちらの迎撃に回せるだけの余裕はない。
「……ともかく全機にその事を伝えて」
「了解」
アークエンジェルからの通信で全軍にその事が伝わり、コンビクトと激闘を繰り広げ、コロニーの近くまで来ていたキラは視線をコロニーに向ける。
「コロニーから敵が来る?」
まだ中にはカガリ達がいる。
今敵が来たら間違いなく鉢合わせになってしまう。
「くそ!!」
互いに弾け合ったところでクスフィアス・レール砲を至近距離で撃ち込む。
「ぐぅ、ガンダムめ!」
砲弾が直撃する寸前で防ぐ事に成功したシリルは衝撃で距離を取られてしまう。
その隙にフリーダムはコロニーに向かうが、コンビクトも逃がさないとばかりに背後からビームライフルで追撃してくる。
「逃がすか!!」
「くっ!」
振り切れない。
再びコンビクトにビームサーベルで斬り込もうとした時、別方向からのビームが敵機に降り注いだ。
「キラさん!」
「マユ!?」
ビームを後退して回避したコンビクトに、ターニングが立ちふさがる。
「行ってください。ここは私がやります!」
「無茶だ!」
敵機に向け、ビームライフルを構えるターニングにキラは声を上げる。
「こいつは強敵だ! マユではまだ!!」
「今はそんな事を言っている時ではない筈です! 私は大丈夫ですからカガリさん達を助けに行ってください!」
確かに敵は待ってはくれず、躊躇っている暇はない。
「分かった」
キラは迷いを振り切るように機体を反転させる。
「すぐに戻る! くれぐれも無理をしては駄目だ、いいね!」
「はい!」
コロニー内に入っていくキラを尻目にマユは何時でも撃てるようにトリガーに指を置く。
キラが手こずるほどの敵相手にどこまでやれるだろうか―――
「ううん、違う。やらなきゃ、みんなを守るために!!」
いつかはこんな強敵とも戦わないといけないなら、この戦いも避けては通れない!
「チィ、雑魚が邪魔をするなぁ!!」
ターニングにビームランチャーを撃ち込むとマユは機体を変形させ、加速、一気に射線から離脱する。
そして再びモビルスーツ形態になるとビームライフルを乱射する。
「思ったよりはやるな!」
コンビクトもまたバーニアを噴射し、ビームを振り切るとサーベルで斬りかかった。
「速い!?」
振り下されたサーベルをシールドで受けとめ、マユもまたビームサーベル横薙ぎに振るった。
「ここから先には行かせません!」
互いの斬撃を防ぎ、同時に弾け合うと再び斬り込み、激突していった。
三陣営が入り乱れる戦場。
それをラウはどこまでも楽しそうに眺めていた。
「……どこまでも愚かなものだ、人間とは」
脳裏に母の言葉が思い出される。
≪良い? 人は色々な可能性を持っている。きっと今よりもっと先にも行けるわ。だから信じて、ラウ≫
「母よ、これが現実です。人はどこにも行けはしない。互いに憎み、殺し合うのみだ」
そんなプロヴィデンスに近づいてくる機影がある。
地球軍の量産型モビルスーツ、ストライクダガーだ。
しかしラウは敵機を前にしても何もすることなく、笑みを浮かべている。
「ラウ、私だ」
予定通り、ストライクダガーに搭乗していたのはクロードであった。
「クロード、待っていたよ」
互いにコックピットハッチを開き、ラウは箱に入ったディスクをクロードに手渡した。
「これが頼まれたものだよ」
「ああ、確かに」
クロードは受け取った箱を手に機体へ戻る。
「クロード、これで戦争は終わる」
「そうだな。どういう形であれ、終わりを迎えるだろう。それが君の望む形である事を願わせてもらう」
そう言うとストライクダガーはプロヴィデンスから離れ、戦場のど真ん中にいる母艦へ帰還していく。
途中で彼が撃墜されてしまうなどという心配は全くない。
それは無駄な心配だからだ。
「さて―――ん?」
ラウはコックピットの中で戦場に視線を戻すと、ムウが離れていく事を感じ取った。
どうやらメンデルの中にいる、ユリウスに気がついたらしい。
「フフフ、行くがいい、ムウ。そこですべての真実を知れ。そして絶望するがいい」
愉悦の笑みを浮かべ、さらに獲物を探すように視線を滑らせる。
そこには地球軍の新型を1機で抑えている白い機体イノセントがいた。
「では君に絶望を味わってもらおうかな。アスト・サガミ君」
シリルの報告からあの機体のパイロットがアストである事は分かっていたラウは獲物を見つけた事でさらに笑みを深くすると戦場に機体を向わせた。
攻撃を避けながら動き回るイノセントにフォビドゥンはフレスベルグを叩きこんだ。
「はあああ!!」
「そんなものに当たらない!」
最初こそビームを曲げるあの武装には驚いたものの、一度見れば十分対応出来る。
アストは機体を上昇させ、フォビドゥンの攻撃から逃れるが、そこに待ち構えていたゼニスがスヴァローグを放った。
「くっ、流石に一対四は厳しいか……けどお前らは連携が下手くそなんだよ!」
スヴァローグを避け、ビームライフルを撃ち込んでいくが今度はカラミティがシュラークで攻撃してくる。
「落ちやがれぇぇ!!」
「鬱陶しい!!」
ワイバーンを展開しビームを弾き飛ばすと逆手に抜いたビームサーベルでカラミティの右足を斬り落とした。
「ぐぅ、くそがぁ!」
「オルガ、お前は下がってろよ。滅殺!」
「チッ!」
迫るミョルニルを機関砲で軌道をずらし、シールドで弾き飛ばすと、アクイラ・ビームキャノンでレイダーを狙い撃つ。
鉄球を弾かれ一瞬動きを止めたクロトはビームをかわしきれずに左腕を破壊されてしまった。
「ぐあああ!」
クロトの醜態を見たオルガは鼻で笑う。
「ハッ、余裕なんて見せているからだ! お前も下がれよ、クロト」
「うざいんだよ、オルガァァ!!」
ここまでやった相手に引くなどあり得ないだろう。
「こいつは必ず殺す!」
クロトは怒りのままにイノセントに突っ込んでいく。
だが、その迂闊とも言える行動が―――彼の明暗を分けた。
「てめぇぇぇぇ!! 抹―――」
イノセントにツォーンで攻撃しようとした瞬間、クロトの意識は消えた。
何故ならレイダーは上からのビームにコックピットを撃ち抜かれていたからだ。
さらに四方から次々とビームがレイダーを射抜き、火を噴いた機体は大きく爆散した。
「なっ!? どこから?」
アストは咄嗟に距離を取り、最初にビームが放たれた方向を見ると、そこに後光のように砲口らしき突起部がついたバックパックを背負った機体が佇んでいた。
ZGMF-FX003『プロヴィデンス』
武装はビームライフル、盾と一体となった複合防盾高出力ビームソード、腹部にはエネルギー砲ヒュドラを搭載。
さらにこの機体最大の特徴は量子通信による砲撃端末を遠隔操作できるドラグーンシステムが装備されている事だった。
これは連合のガンバレルと同じシステムを用いたものだが、ドラグーンシステムは有線式ではなく無線式であるのが特徴である。
「聞こえているかな、アスト・サガミ君」
「誰だ?」
「私はラウ・ル・クルーゼ。ある意味で君とは兄弟のような者さ」
アストは何も言う事無く、目の前の機体を睨みつけた。