機動戦士ガンダムSEED cause    作:kia

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第30話  答え

 

 

 

 

 

 地球軍によるオーブ侵攻はフリーダムを含む4機の新型が奇襲を仕掛け、戦艦をいくつか潰した事で地球軍の戦力は減少させる事に成功。

 

 今のところオーブ有利で戦闘が進んでいた。

 

 しかし同時に投入された新型GATシリーズが奇襲を仕掛けた4機を抑え込んだ事で戦況は次の局面へと移行していく事になる。

 

 そう、地球軍の侵攻が開始されたのである。

 

 フリーダムの砲撃から逃れ、無事だった各艦よりストライクダガーが発進していく。

 

 だが同盟軍も黙っていた訳ではなく、部隊はすでに展開され、地球軍が来るのを待ち構えていた。

 

 そして同じく敵が来る前にドックから出撃していたアークエンジェルも戦闘開始する。

 

 すべての準備が整い、クルー達が指示を待つ中、マリューが声を張り上げた。

 

 「ストライク、デュエル発進!」

 

 そしてCICもナタルが座っていたシートにフレイが座り、指示を飛ばす。

 

 「イーゲルシュテルン、バリアント機動、艦尾ミサイル発射管全門装填!」

 

 硬い顔のフレイにマリューが声をかける。

 

 「アルスターさん、大丈夫よ。落ち着いて。主な指示は私が出すから」

 

 それに合せるようにサイ達を笑った。

 

 「そうだよ、フォローするからさ」

 

 「ええ、バジルール中尉と訓練してた通りにすればいいわ」

 

 「そうそう、いつも通りでいいのよ」

 

 「サイ、ミリアリア、アネット、ありがとう」

 

 みんなの励ましに緊張も少しはほぐれたのか笑みを浮かべるがすぐ表情を引き締めると全員に言った。

 

 「……バジルール中尉に比べたら頼りないかもしれないけど、精一杯やるわ。みんな、よろしくお願いします」

 

 「「「了解!」」」

 

 その声はムウ達のコックピットにも聞こえていた。

 

 「お嬢ちゃんも立派になったねぇ。俺達も負けてられないぞ、トール」

 

 「分かってますよ、少佐」

 

 いつの間にか名前で呼ばれている事を嬉しく感じる。

 

 トールはニヤケそうになる顔を引き締めると、同時に前方のハッチが開いた。

 

 「ムウ・ラ・フラガ、アドヴァンスストライク出るぞ!!」

 

 「トール・ケーニッヒ、アドヴァンスデュエル行きます!!」

 

 アドヴァンスストライクとアドヴァンスデュエル。

 

 この2機は改修を加えた本体とアドヴァンスアーマーと呼ばれる追加装甲を装備した機体である。

 

 アドヴァンスアーマーはデュエルのアサルトシュラウドを参考に開発されており、装着した機体ごとに装備が違う。

 

 ストライクの方は腰部にビームガンと脚部にグレネードランチャーを装備している。

 

 「少佐、その装備でいいんですか?」

 

 「まあ、試してみないとな」

 

 現在ストライクはすべてのストライカーパックを同時に装備していた。

 

 見る限り小回りもきかなそうだし、正直結構な重量で、かなり扱いにくいと思うのだが―――

 

 「そっちはどうなんだ?」

 

 「俺の方は問題ありませんよ」

 

 デュエルの方は両肩にミサイルポッド、両端にシヴァの改良型と両腕にはブルートガング、そして腰にはストライクと同様にビームガンが装着されていた。

 

 「良し、ならいくぞ!!」

 

 「了解!」

 

 ストライクとデュエルはスラスターを全開にしてすでに戦闘は始まっている戦場に向かって突撃していった。

 

 

 

 

 

 

 海上の戦艦から見ていた地球軍の指揮官達はようやく安堵する。

 

 正直あの四機からの奇襲を受けた時は生きた心地がしなかった。

 

 だがそれも抑えられ、オーブ攻略に入れる。

 

 予定よりもかなり戦力が減少してしまったが、それでも小国を落とすには十分な物量であり誰もが勝利を確信していた。

 

 

 

 しかし再び地球軍にとって大きな誤算が起きる。

 

 

 

 

 上陸したストライクダガーがビームライフルを構え攻撃を開始する。

 

 それを待ち受けていたアサギ・コードウェルが乗るM1アストレイが迎え撃つ。

 

 ビームをたやすくかわしてストライクダガーの懐に入り込むとビームサーベルを叩きこんだ。

 

 「これでぇ!」

 

 ビームサーベルがコックピットを貫通し撃墜するとそれを見た他のストライクダガーが獲物に群がる獣のように刃を抜いてアサギのアストレイに襲いかかる。

 

 しかしアサギは焦せる事無く後退すると後ろに控えていたマユラ・ラバッツ、ジュリ・ウー・ニェンのアストレイと合流し、3機同時に放ったビームライフルでストライクダガーを狙い撃ちにした。

 

 「やらせないわよ!」

 

 「このぉ!」

 

 決して単独で動かずに向ってくるストライクダガーに対して連携を取り、アサギがライフルで牽制し、マユラ、ジュリがサーベルで斬り込む。

 

 ぎこちなさを感じさせない軽やかな3機の動きに地球軍は全くついていく事ができない。

 

 「な、なんなんだよ、あの動きは!?」

 

 「ついていけない!?」

 

 次の瞬間、数機のストライクダガーは2機のアストレイによって斬り刻まれた。

 

 「良し!」

 

 「やれるわね!」

 

 「うん!」

 

 地球軍を圧倒していたのは彼女達だけではない。

 

 他のパイロット達も次々にストライクダガーを撃退していく。

 

 「やれるぞ!」

 

 「地球軍を押し返せ!!」

 

 確かな手ごたえを感じ各パイロットは意気込む。

 

 これはある意味当然の結果だった。

 

 理由の1つがOSの差である。

 

 同盟軍の使っているOSはラクス達がスカンジナビアの保護を受けた際、対価として開発した物。

 

 それにイレイズのデータを使い、さらに洗練したのが現在のOSだった。

 

 引き換え地球軍のOSはお世辞にも完成しているとは言い難い出来。

 

 あくまでナチュラルが操縦し、戦闘が出来るようになったというレベル。

 

 まだまだ課題も残る物だ。

 

 そしてもう1つが錬度の差。

 

 正確にいえば対モビルスーツ戦闘の錬度である。

 

 早期にOS開発の目処が付いたオーブ、スカンジナビアでは、モビルスーツの訓練が地球軍よりもずいぶん早い段階から行われていた。

 

 そしてアークエンジェルが地球軍に所属していた頃、オーブに匿われた際に取ったデータで作った、戦闘シミュレーションによる訓練が導入された事も大きい。

 

 これによりただ実機を動かし戦うのではなく、どういう動きなら相手に勝てるかという事を学ぶことができた。

 

 もちろん地球軍でも対モビルスーツ戦術や作戦は練られている。

 

 それによってパナマではザフトを押し返し、こう着状態にまで持って行ったのだ。

 

 だがそれはうまく連携でき、機体数も揃っていればの話。

 

 今は想定以上に数を減らし、敵に翻弄されている為、予定通りに動く事が出来ないのである。

 

 「くそぉ、オーブめぇ!」

 

 予想外の動きに動揺しながらも、何とかアストレイに肉薄しようと試みる。

 

 ビームサーベルを抜き、上段からアストレイに振り下ろすが、今度は別方向からのビームに腕を吹き飛ばされた。

 

 「なに!?」

 

 視線の先にいたのは見た事もないモビルスーツだった。

 

  「な、なんだあの機体は!?」

 

 しかしストライクダガーのパイロットはその答えを知る事無く、ビームライフルで撃ち抜かれ蒸発した。

 

 残った地球軍のパイロット達がその機体が見た印象は―――巨大な騎士。

 

 STA-S1『スルーズ』

 

 スカンジナビア初の量産モビルスーツであり、その姿は騎士甲冑を思わせる造形だった。

 

 武装はビームライフルとシールドを持ち、腰にビームサーベル、頭部にイーゲルシュテルンといった基本的な装備を持つ。

 

 そして機動性はアストレイと同等以上であり、そして防御力にも重点が置かれパイロットの生存率を上昇させている。

 

 スルーズはスラスターを噴射して肉薄する。

 

 「速い!?」

 

 高速で動きまわるスルーズに翻弄され、次々とビームサーベルで斬り裂かれていく。

 

 「囲め! 狙い撃ちにしろ!!」

 

 「了解!」

 

 複数の機体と共に攻撃を仕掛けようとスルーズを囲み、攻撃を仕掛けようと展開する。

 

 だがそこに1機のスルーズが飛び込んでくる。

 

 今まで以上の速度で接近してきたその機体のライフルとサーベルによって斬り裂かれ、陣形が崩されてしまった。

 

 「なんだ、こいつ!?」

 

 「動きが違うぞ!」

 

 「うあああああ!!」

 

 囲もうとしていたストライクダガーを撃破すると、動きを止める事無く次の敵機に向かって移動していく。

 

 数で勝る筈の地球軍は上陸して間もない地点で完全に足止めされ、そしてそこにアークエンジェルから発進した2機のガンダムも参戦する。

 

 「おーお、凄いねぇ。けど負けてられないでしょ!!」

 

 ムウはシュベルトゲーベルを引き抜くと、一気に接近しストライクダガーを真っ二つに両断、さらに近くにいた敵機をシールドごと次々斬り裂いていく。

 

 ビームライフルの攻撃を巧みに避けながら、腰のビームガンで牽制する。

 

 そして動きを止めた敵から斬り捨てた。

 

 「危ない、危ない、けどなそう簡単にはいかないってね!」

 

 アドヴァンスストライクの機動性に満足げな笑みを浮かべる。

 

 そしてOSもそうだ。非常に扱いやすく、動かすのになんの違和感もない。

 

 寄ってきたストライクダガーをアグニで薙ぎ払い、さらに別の敵を斬り裂いた。

 

 そんなアドヴァンスストライクを狙いビームライフルを構えた敵機を、今度はアドヴァンスデュエルがシヴァ改で狙い撃つ。

 

 シヴァの直撃を受け爆散した敵機の煙に紛れ、ビームサーベルを引き抜くとストライクダガーに斬りかかる。

 

 「遅い!!」

 

 こちらに反応する前に胴体を斬り裂くと、機体を回転させ後ろの敵機にサーベルを叩き込む。

 

 トールもアドヴァンスデュエルの性能に驚いていた。違和感無く手足のように動かせる。

 

 「この機体なら戦えるぞ!」

 

 密集している敵部隊にミサイルポッドを放ち、ビームライフルを撃ち込んだ隙に敵陣に突撃していった。

 

 

 アストレイやスルーズだけでなく2機のガンダムの参戦で地球軍の部隊は押し返されてしまった。

 

 これは完全に予想外の事であり、海上で見守っていた艦長達はこの現状が信じられない。

 

 最初の奇襲で戦力が減らされているとはいえ、まさかこの物量を押し返されるとは―――

 

 そしてもう1つ、彼らにといっての脅威が存在した。

 

 戦闘を観察していた艦橋が突如、振動と共に大きく揺れる。

 

 「何だ、状況知らせ!!」

 

 爆発が起きると共に炎を上げたストライクダガーの母艦の1つが沈んでいく。

 

 しかしそれは上空からの攻撃ではなかった。

 

 「……これは海中から―――モビルスーツによる攻撃です!!」

 

 「な、まさか水中用モビルスーツか!?」

 

 彼らの予想通り海中には魚のように俊敏に動き回る機体が居た。

 

 MBF-M1B 『シラナミ』

 

 M1アストレイを水中用に改良した機体である。

 

 背中に大型推進機と魚雷を装備し、腰の左右と脚部にも推進機を装着している。

 

 近接戦闘用として両腕にイレイズのブルートガングを、そして一部ではあるが追加装甲としてスケイルシステムを装備し、これにより水中でも高い機動性を持っていた。

 

 無論弱点も存在し、武装の少なさがあげられる。

 

 魚雷を撃ち尽くせば近接戦闘装備しかない為、撤退せざるえないのだ。

 

 「隊長、魚雷残弾残り僅かです」

 

 「良し、残りを敵の腹に叩きこんでやれ!!」

 

 「「「了解!!」」」

 

 無防備な水中から攻撃を受けた艦は沈み、魚雷を撃ち尽くしたシラナミは撤退していく。

 

 「各艦被害甚大!」

 

 「おのれぇ!」

 

 艦長は、思いっきり手摺を殴りつけた。

 

 このままいけば押し返すどころでは無く、こちらが敗北し、殲滅される可能性もある。

 

 撤退すべきか―――

 

 そんな悲壮感がブリッジを包む。

 

 しかしそんな考えを打ち払う存在が戦場に駆けつけた。

 

 105ダガー、デュエルダガー、バスターダガーの3機である。

 

 「やってくれんじゃないかよ、オーブもさ」

 

 シャムスが笑みを浮かべて吐きすてる。

 

 そこに同情は無く、むしろやられた者達を嘲笑っていた。

 

 「先に行った連中が不甲斐無いだけでしょ」

 

 ミューディーもおおむねシャムスと同じで、倒された者たちを見下している。

 

 「……」

 

 スウェンは何も言う事無く、戦場に目を向ける。

 

 確かにどのモビルスーツもいい動きをしており、こちら側とはモビルスーツ戦闘の錬度も違う。

 

 あれではいい的になるだけだろう。

 

 「行くぞ」

 

 装備しているエールストライカーのスラスターを全開にするとビームサーベルを抜き、アストレイに向って突っ込んだ。

 

 「増援か!」

 

 「返り討ちにしろ!」

 

 こちらに気がついたアストレイがビームライフルで応戦してくるが、放たれたビームを機体を回転させてかわし、光刃を上段から振り下ろす。

 

 105ダガーのサーベルがアストレイに食い込み、斬り裂くとそのまま振り抜くと裂かれた敵機は崩れ落ち、爆散した。

 

 さらに動きを止める事無く、次の敵機スルーズに向かう。

 

 振り抜かれたサーベルをシールドで捌き、懐に飛び込むとサーベルで串刺しにすると寄ってきた敵をビームライフルで次々撃ち抜く。

 

 「おいおい、1人占めかよ」

 

 シャムスはミサイルポッドを打ち出すと、エネルギーライフルを叩きこみ数機のアストレイが巻き込まれ倒された。

 

 さらにガンランチャーを連射し、敵機を破壊していく。

 

 「意外と数は多いわね」

 

 スウェンの後を追うようにビームライフルとリニアキャノンを連射する。

 

 その砲火を潜り抜けた者にミサイルを浴びせ撃破していった。

 

 この3機の猛攻にムウ達も気が付く。

 

 「あれは敵のエースか」

 

 「みたいですね」

 

 「このままじゃ被害が増える一方だ。俺達が行くぞ、トール」

 

 「了解です」

 

 2機のガンダムがスウェン達を迎え撃つ。

 

 105ダガ―にムウはガトリング砲を叩き込むが、スウェンはそれを後退してかわすと、同時にビームライフルで迎撃した。

 

 「正確な射撃だな。パイロットはやはりエース級か!!」

 

 浴びせられたビームをシールドで防ぎ、シュベルトゲーベルを袈裟懸けに振り抜く。

 

 スウェンは振り下ろされたシュベルトゲーベルをシールドを構えるが、まともに受け止めるのではない。

 

 そんな事をすれば、他の機体同様にそのまま両断されてしまうだろう。

 

 受け止めた瞬間滑らせるように横に逸らし、シュベルトゲーベルをいなすと下段に構えたビームサーベルを斬り上げる。

 

 「チィ、こいつは」

 

 機体を後退させ、サーベルを回避しアグニを撃ち出すがスウェンは放出された閃光を上空に飛ぶ事で逃れた。

 

 「……やるな」

 

 相手はなかなかの腕であり、さらには機体性能も向うの方が圧倒的に上―――状況はこちらがやや不利か。

 

 冷静に思考し、次の一手を考えながら再び斬りかかってきた敵機をスウェンはシールドを掲げ迎え撃つ。

 

 「少佐!?」

 

 「どこ見てるんだ!!」

 

 「私達を無視しないでよね!!」

 

 トールもシャムス、ミューディーを相手に奮戦する。

 

 バスターダガ―の攻撃を潜り抜けながら、デュエルダガーにサーベルを叩きつける。

 

 しかし敵は斬撃をシールドで逸らすと逆に逆袈裟から斬り返してきた。

 

 「くっ!」

 

 トールは咄嗟に後方に下がりサーベルを回避すると、腰のビームガンで牽制しながら、ビームライフルを叩きこむ。

 

 「結構やるじゃない」

 

 「みたいだな!」

 

 シャムスはミサイルポッドを発射し、撹乱しながらアドヴァンスデュエルの回避先を読んでガンランチャーを発射した。

 

 「くっ、こいつら! 他の連中より強い! だけど俺だってアスト達と訓練を積んで来たんだ! 負けられない!」

 

 トールは思いっきりペダルを踏む込むと後ろにではなく、前に加速する事でガンランチャーを避け、シールドを掲げるとそのままバスターダガーに突っ込んだ。

 

 「うおおおお!」

 

 「何ィィ!?」

 

 咄嗟の事にシャムスは反応できない。

 

 そのままアドヴァンスデュエルのシールドで突き飛ばされたバスターダガーは大きく突き飛ばされ転倒した。

 

 「ぐぅぅ」

 

 「これでぇ!!」

 

 転倒した的にサーベルを振り下す。

 

 しかしデュエルダガーのリニアキャノンの攻撃に晒され、たまらず横へと逃れた。

 

 「ちょっと、しっかりしなさいよ」

 

 「くそがぁ!!」

 

 起き上がったシャムスは屈辱と怒りのままアドヴァンスデュエルを睨みつける。

 

 「調子に乗るなよ!!」

 

 バスターダガーはエネルギーライフルとガンランチャーを構えるとアドヴァンスデュエル目掛けて突進した。

 

 「まあ、やられっ放しもムカつくしね」

 

 シャムスの後を追うようにミューディーもビームサーベルを構え、機体を前進させた。

 

 

 

 

 

 現在の戦況はほぼ互角、いや、同盟軍がやや有利という状況だろうか。

 

 フリーダムを含めた4機が地球軍の新型と交戦し、改修したガンダムもエース級を抑えている。

 

 他は依然としてアストレイ、スルーズによってストライクダガー部隊は阻まれ、艦隊に対しては水中からシラナミが攻撃を仕掛けている。

 

 このままいけば同盟軍は勝てる―――そう思った時、再び脅威は訪れる。

 

 それを初めに確認したのはオーブ軍司令部であった。

 

 各部隊の戦況を随時報告していたオペレーターがそれに気がつき声を張り上げる。

 

 「何かが戦闘宙域に接近してきます。これは―――」

 

 その様子に司令部で指揮をしていたカガリも顔を険しくする。

 

 オペレーターの表情はどう見ても良い報告ではない。

 

 敵の増援だろうか?

 

 「どうした!?」

 

 その報告は想定された中でも最悪に近いものだった。

 

 「ザフト軍です!!」

 

 地球軍の後方からザフトが接近してきたのだ。

 

 疑問はある、だがカガリは訝しみながらも戸惑う事無く指示を飛ばす。

 

 「ザフトの真意がどうあれ、こちらからは手を出すな! ただし警戒は怠らず、様子を見るんだ! 各部隊に打電!!」

 

 「「「了解!」」」

 

 その事実は新型GATシリーズの相手をしていたアスト達にも伝わり、そして相対していた地球軍も気がついていたのだろう。

 

 後方の艦隊は逆方向に砲台を向けている。

 

 「チィ、こいつらしつこい!」

 

 オルガは思わず毒づきながらもスキュラを叩きこみ、その砲撃をひらりと回避しながらキラはクスフィアス・レール砲を撃ち出した。

 

 「ザフト!? こんな時に!?」

 

 キラの声にラクスも困惑ぎみに答える。

 

 「確かにザフトが攻めてくる事も想定してはいましたが―――」

 

 ラクスはフォビドゥンの誘導プラズマ砲『フレスベルグ』を左右に機体を動かす事でかわしながら、機関砲を放つ。

 

 実体弾はゲシュマイディッヒ・パンツァーでは曲げられないが、TP装甲でダメージはない。

 

 しかし衝撃を殺せないのは変わらない筈。

 

 機関砲によって動きを止めたフォビドゥンに蹴りを入れ、吹き飛ばした。

 

 「ぐぅぅ、調子に乗ってぇぇ!!」

 

 シャニは激昂するとジャスティスにニーズへグを振りかぶった。

 

 「パナマ攻略からそう時間も経っていないというのに!?」

 

 アラスカでの被害に加え、パナマで勝利したとはいえ損害も出た筈であり、この短期間に戦力を整えたとも思えない。

 

 レイダーの放ったミョルニルを避けながら、レティシアはビーム砲を撃ち込んだ。

 

 「さっさと消えろよぉ! 滅殺!!」

 

 変形を駆使しビーム砲を避けた、レイダーはツォーンを叩きこむがそれもアイテルの盾で防がれてしまう。

 

 「ザフトの狙いは……くそ! エフィム!!」

 

 アストはゼニスの攻撃を受け止めながら、エフィムに叫ぶ。

 

 「やめろ!!」

 

 アストは死んだと思った仲間に必死に呼びかけるが、ゼニスは動きを緩める事無くネイリングを左右から振り抜いてくる。

 

 それをナーゲルリングで捌きながら、声を張り上げた。

 

 「コーディ、ネイ、タァァァ!!」

 

 「くっ、エフィム! 俺だ、アストだ!!」

 

 「あああああ!!」

 

 こちらの事が分からないのか、獣のような叫び声を上げ、イノセントを狙ってビーム砲を叩き込んでくる。

 

 「くそ、一体どうしたんだ?」

 

 戸惑うアストを気にする事無くゼニスは背中の『スヴァローグ』を前に跳ね上げると、イノセントに向け発射した。

 

 凄まじいビームの本流が目の前に迫り、機体を半回転させて、回避する。

 

 「アータルの改良版か!?」

 

 直撃を受ければただでは済まないだろう一撃をやり過ごすとライフルで牽制しながら一旦距離を取った。

 

 レイダーの攻撃を避けながらイノセントの戦い方を見ていたレティシアは様子がおかしい事に気がつく。

 

 何というか彼らしく無く動きが若干鈍い。

 

 「アスト君、 どうしたのですか!?」

 

 「ッ!?……いえ、何でもありません」

 

 冷静になる為にアストは頭を振る。

 

 「……心配かけてどうする。しっかりしろよ、アスト・サガミ」

 

 息を吐くと迫りくるゼニスのビーム砲をすり抜け、ペダルを思いっきり踏み込んだ。

 

 スラスターの出力を上げ、速度が増したイノセントは敵機の懐に飛び込む形で突っ込んでいく。

 

 「死ねぇぇ!」

 

 タイミングを合わせネイリングを振りあげ、サーベルを構えたイノセントを迎え撃つ。

 

 一瞬の交錯―――

 

 すれ違った後、ゼニスの対艦刀は根元から斬り落とされていた。

 

 「な、に」

 

 「ハァ」

 

 息を吐き出し、即座に振り向くとアストは再び敵機へと向かっていく。

 

 「大丈夫みたいですね」

 

 動きの戻ったイノセントに安堵するとレティシアはレイダーと向かい合いながら再び思考する。

 

 このタイミングでのザフト襲撃、その狙いがあるとすれば―――それは一つしか思いつかない。

 

 「……マスドライバー」

 

 彼らが戦力が整う前にリスクを負ってでもオーブを攻める理由はそれだけ。

 

 という事は今地球軍を攻撃している部隊は注意を引くための囮である可能性が高い。

 

 「全員、聞いてください! ザフトの狙いはマスドライバーです!」

 

 レティシアの指摘に全員がハッとその事実に思い至った。

 

 「そうか、今オーブは地球軍に集中しているからその隙に……」

 

 「間違いありませんね」

 

 全員が納得できる理由だった。

 

 「じゃあ、本命は逆方向か!」

 

 「すぐに司令部に連絡を!」

 

 しかし今はどこも手一杯の筈。

 

 さらに前線は地球軍の侵攻を防いでいる。

 

 マスドライバー防衛の戦力を回す余裕などない。

 

 となれば―――

 

 「俺が行く」

 

 アストの提案を理解したキラはすぐに頷いた。

 

 「分かった、こっちは僕達で何とかするから」

 

 一瞬エフィムの事を話すか迷うが、話せばキラも動揺するだろう。

 

 それが命取りになるかもしれない。

 

 結局、何も言う事無く、本土に向かう事に決める。

 

 ゼニスにアクイラ・ビームキャノンを放つと同時に接近する。

 

 ビームの閃光を機体を上昇させて回避した敵機にナーゲルリングを叩きつけた。

 

 「退け! 今は構ってられないんだよ!!」

 

 ナーゲルリングはシールドで防がれたが、体勢は崩した。

 

 その隙にシールドで殴りつけ、吹き飛ばしたゼニスを無視し、本土に向け機体を加速させた。

 

 「後は追わせないぞ!!」

 

 「邪魔だァァァァ!!」

 

 イノセントを追おうとするゼニスにレール砲で吹き飛ばすと、しつこく攻撃を仕掛けてくるカラミティにビームライフルを放った。

 

 「余所見してんじゃねぇぇぇ!!」

 

 こちらを無視してゼニスに向き合うフリーダムに苛立ちながらオルガはスキュラを発射する。

 

 「余裕見せてんじゃねぇよ! これで落ちやがれ!」

 

 「はあああああ!!!」

 

 カラミティのスキュラが迫る中、キラはSEEDを発動させる。

 

 直撃したと思った瞬間、フリーダムはオルガの予想を超えた反応を見せた。

 

 最小限の動きだけで砲撃を回避すると蒼い翼を広げカラミティに突撃してきた。

 

 スピードを落すことなくビームサーベルを引き抜き、袈裟懸けに振り抜く。

 

 その速さにオルガは反応しきれず、機体を後退させ、直撃だけは避けるもバズーカ砲を切断されてしまった。

 

 「くそがァァ!!」

 

 「お前はァァァ!!

 

 それを見ていたゼニスも残ったネイリングでフリーダムに襲いかかる。

 

 繰り出された斬撃を潜り抜けて回避すると、至近距離からレール砲を撃ちこむ。

 

 砲撃はシールドで防がれてしまうが敵機は後方に吹き飛ばされる。

 

 しかしキラの虚を突くように体勢を崩した状態で、再びスヴァローグを構えて撃ち出してきた。

 

 だが今回撃ちだされたのはビームではなく、実体弾だった。

 

 「あの機体、実体弾も撃てるのか!?」

 

 予想外の攻撃にキラは驚愕するも、バレルロールしながら速度を上げ、砲弾を回避する。

 

 しかしゼニスはその間に距離を取って体勢を立て直していた。

 

 ラクスとレティシアはキラの戦闘に驚いていた。先程までとは動きがまるで違う。

 

 「凄いですね」

 

 「ええ」

 

 感心している場合ではない。

 

 こちらもアストが抜けた分気を引き締めなければ。

 

 「行きましょう」

 

 「はい!

 

 2人はキラの援護する為、敵機に向かって行った。

 

 

 

 

 

 背後から迫ってきたザフトが地球軍艦隊に攻撃を仕掛け、グゥルに乗ったジンの攻撃が甲板に突き刺さり、爆発を引き起こした。

 

 当然地球軍も砲撃とミサイルで応戦するがそれをディンが撃ち落とす。

 

 一見すると激しい攻防に見えるが、ザフトの攻撃はどこか本気ではなかった。

 

 レティシアの言う通り、ザフトの本命はマスドライバーだったのである。

 

 マスドライバー攻撃部隊はすでに別方向から接近しており、地球軍を攻撃している部隊はオーブの注意を引くだけで良かったのだ。

 

 ―――ザフトのオーブ襲撃。

 

 それを命じたのは言うまでもなく最高評議会議長パトリック・ザラである。

 

 地球軍のオーブ侵攻を察知したパトリックは即座にマスドライバー破壊を命じた。

 

 いくらパナマを落とそうが、新たにマスドライバーを確保されれば意味がない。

 

 地球軍にマスドライバーを渡す訳にはいかない。同盟軍が勝てれば良いが、物量差を考えるならば奪われる可能性の方が高い。

 

 そうなる前に破壊する方が確実だと判断したのである。

 

 元々オーブに対してザフト不信感は大きいものだった。

 

 理由は言うまでもない―――ヘリオポリスにおける地球軍新型機動兵器の開発。

 

 中立だと言い続けながらも地球軍に与していた裏切り者、それがザフトの、パトリック・ザラの認識であった。

 

 だからこそオーブ攻撃を命じるのに何の躊躇いもなかった。

 

 もちろん反対意見も存在していた。

 

 いくら裏切っていたとはいえ、今だオーブは友好国に変わりなく、しかも多くの同胞達がいる。

 

 そして極めつけはスピットブレイクの目標変更を独断でおこなっていた事でパトリックに対する不信感が高まっていた事もあり、反対意見は最後まで消える事は無かった。

 

 それでもつき従っていたのは急進派の者たちだけである。

 

 ただそれでもこの作戦が実行に移されたのは、拘束されるのを恐れての事。

 

 最近のパトリックは反逆者とみなせば即座に拘束していた。

 

 だからこそ反対を押し通す事が出来ず、オーブ襲撃は可決されたのである。

 

 

 

 

 

 

 釈放されたイザークは丘の上からオーブと地球軍の戦闘を眺めていた。

 

 戦局は同盟軍優勢、あのアークエンジェルも防戦に加わっている。

 

 それを複雑な気持ちで見つめていた。

 

 「……ここで何をしているんだ、俺は?」

 

 さっさとカーペンタリアに行く方法を考えなければいけないのに。

 

 だがどうしても脳裏にアネットやアスト達の姿が浮かび、アークエンジェルの戦いが気にかかったのである。

 

 だがそこで状況は変わる。

 

 コーディネイター故の視力でその機影をとらえた。

 

 「まさか―――ザフトだと!?」

 

 何故ザフトが攻撃を仕掛けるのか疑問が湧くがすぐに理解した。

 

 「マスドライバーか……」

 

 ザフトからすればある意味当然の行動だ。

 

 パナマを落とそうとオーブからマスドライバーが奪われれば意味もないのだから。

 

 「くっ、しかし―――」

 

 昔の自分であれば何の疑問も抱かなかったに違いない。

 

 だが今は違った。

 

 イザークはザフトの目的を理解した瞬間、血が滲むほど強く拳を握りしめていた。

 

 丘からは港が見え、そこに多くの避難民が船に乗ろうと詰めかけている。

 

 当然そこには子供の姿もあった。

 

 ザフトがマスドライバーを破壊しようとすれば、当然この辺りも戦闘に巻き込まれるだろう。

 

 ≪あんたが撃ち落としたシャトルにいたのよぉ!! 私の妹がぁ!!≫

 

 ≪だからお前達は何をしてもいいのか! 誰を殺そうが許されるのか!!≫

 

 イザークは目を閉じ、拳を握りしめながら俯く。

 

 俺は――――

 

 その時、イザークの足元を家族と思われる4人が走っていくのが見えた

 

 「シン、急ぐんだ! オーブが優勢なうちに避難するんだ」

 

 「わかったよ、父さん!」

 

 「マユも頑張って!」

 

 「う、うん」

 

 立ち止まって周囲を見渡す。

 

 「地球軍はまだずいぶん離れてる。まだ大丈夫だ」

 

 父親の言葉に母親も少年も頷くが少女だけは暗い顔だ。

 

 その様子に気がついた兄と思われる少年が励ました。

 

 「マユ、そんな顔するなよ。俺が守ってやるからさ」

 

 「お兄ちゃん」

 

 互いが笑顔で頷くと再び走り出す。

 

 守る。

 

 それはアネットも言っていた。

 

 ≪そっか、あんたも何か守りたいって思ってたんだね。私達と同じだ≫

 

 ≪オーブは私の国で、そして友達とか家族とか守りたい。そのために戦うのよ≫

 

 かつては自分自身もそう考えていた。

 

 プラントを、同胞を守ると。

 

 しかし自身の迂闊な行動の為に不幸になった者がいて、そしてそんな俺を心配してくれた者もいた。

 

 今、その者達が命の危機に晒されているのだ。

 

 「……俺はそれを黙って見ているのか?」

 

 断じて否だ。

 

 それが答えである。

 

 彼女達を死なせたくはない。

 

 そして自分の犯した罪から逃げられるとも思わない。

 

 手の中にある赤いパイロットスーツを見ると共に闘った仲間達の顔や思い出が蘇ってきた。

 

 ディアッカ、ニコル、そしてアスラン。

 

 先に逝った者達。

 

 イザークはそのすべてに別れを告げた。

 

 「すまん。皆、俺は―――」

 

 謝っても意味はない。

 

 裏切りには変わりないのだから。

 

 しかし俺はこの道を選ぶ。

 

 イザークは顔を上げると、赤いパイロットスーツを投げ捨てる。

 

 それはけじめのようなものだった。

 

 そして一気に丘を駆け降り、モルゲンレーテの工場区に走る。

 

 その途中でザフトの部隊が騎士のような形状を持った機体と戦闘している様子が確認できた。

 

 同時に先程までいた場所を振り返ると戦闘している姿も見える。

 

 あの親子は無事だろうか。

 

 ザフトの機体と戦っているのは見た事もない白いモビルスーツ。

 

 その形状はよく知ったもの―――ガンダムだ。

 

 「オーブの機体か?」

 

 いや、今は考えている場合ではない。

 

 地響きが起きる地を踏みしめ、工場の中に飛び込むと作業服を着た者達が動き回り、壊れた機体を運び込んだりしている。

 

 使える機体はないかと視線で探す。

 

 「……デュエルがあれば」

 

 そこに後ろから声が掛けられた。

 

 「……あんた、なんで?」

 

 後ろを振り返るとあの少女、エルザが敵意を籠った視線を向けてくる。

 

 一瞬怯むが、目を逸らす事はせず、エルザを見つめながら、はっきり口にした。

 

 「……俺にモビルスーツを貸せ、いや貸してくれ」

 

 「えっ」

 

 「お前が俺を憎んでいる事は分かっている。許されるとも思っていない。だが、今何もせず見ている事はできない。足つき―――いや、アークエンジェルを助けたい」

 

 その言葉を不審な表情と鋭い視線でこちらを見てくるエルザ。

 

 だがそれは当然の事として受け止める。

 

 「今まで落とそうとしてきたくせに、今度は守りたいなんて虫のいい話ね」

 

 「わかってる。自分がどれだけ都合の良い事を言っているかは、しかし―――」

 

 「……今攻めてきているのは地球軍だけじゃない、ザフトもよ。あんたは撃てるの?  仲間でしょ?」

 

 いざそう言われればはっきり撃てるかわからない。

 

 きっと迷うし、苦しむだろう。

 

 だがそれはザフトに戻っても同じ事なのだ。

 

 だから―――

 

 「……覚悟はしてきた」

 

 そう言ってエルザの目を見つめた。

 

 しばらくそうしていると後ろから別の女性が近づいてくる。

 

 「戦力が増えるのは助かるわね」

 

 「エリカさん」

 

 エリカはイザークを見るとニヤリと笑った。

 

 「こっちについて来なさい。あなたの乗れる機体があるわ」

 

 「エリカさん、本気ですか!?」

 

 「ええ、今は一機でも戦力はあった方がいいからね」 

 

 イザークは一瞬迷うが、そのまま手招きするエリカの後をエルザと一緒にその後を追っていく。

 

 途中でどこかに連絡を入れ、皆でエレベーターに乗り込み、下へ降りる。

 

 その先にあったのは大きな扉があり、その前には一人の女性が立っていた。

 

 「アイラ様、連絡したパイロットです」

 

 「そう、時間も無いし、手早く自己紹介しましょう。私はスカンジナビア第二王女アイラ・アルムフェルトです」

 

 「なっ!?」

 

 驚くイザークを無視し、アイラはさらに続ける。

 

 「あなたの事は知っているわ、イザーク・ジュール君。ザフトの兵士である事もね。だから聞くけど本当にいいのね? これからあなたに見せる機体は同盟軍にとって重要な機体なの。これに乗るという事はもう君はザフトには戻れないという事よ。それでも?」

 

 問われるまでもなく、それはとっくに覚悟している。

 

 イザークは迷う事無く頷いた。

 

 その答えにアイラは笑みを浮かべ、扉を開いた。

 

 扉の先にはメタリックグレーの機体が立っている。

 

 その造形はイレイズによく似ていた。

 

 「SOA-X01『スウェア』よ。この機体はスカンジナビア、オーブ次期主力機開発計画の試作機なの」

 

 武装は頭部イーゲルシュテルン、ビームライフル、ビームサーベルといった基本装備と腕部にはビームガトリング、背中にはタスラムの改良型を装備。

 

 この改良型は通常のレールガンだけでなく、散弾砲も発射できるようになっている。

 

 「見ての通り、この機体はイレイズの後継機という事になるわね」

 

 造形が似ているのはそういう事らしい。

 

 「しつこいようだけど、もう一度だけ聞くわ。本当にいいのね?」

 

 「ああ」

 

 そう言うとイザークは渡されたパイロットスーツに着替え機体に乗り込んだ。

 

 するとエルザがコックピットを覗き込んでくる。

 

 「……なんだ?」

 

 「アネットが言ってたわ」

 

 「……あいつが、何を?」

 

 エルザは落ち着くように息を吐く。

 

 「最初のあんたはみんなを見下してる嫌な奴だったって。でも話したら結構いい奴で……エリーゼの事でも苦しんでいるって。戦っていた理由も大切なものを守るためで、許せとは言わないけど、あんたの事も解ってやってほしいと言っていたわ」

 

 あの女がそんな事を。

 

 後で礼くらいは言っておいた方がいいかもしれない。

 

 「でも私はあんたのやった事をきっと許す事はできないと思う」

 

 「……ああ、当然だろう」

 

 大切なものを奪った人間をそう簡単に許せるはずはない。

 

 「……それでもすべてあんた所為にするのはやめようと思う。戦争だものね。……そしてあんたを許す努力をしてみるわ」

 

 エルザの言葉にイザークは俯く。

 

 一言絞り出すのがやっとだった。

 

 「……すまん」

 

 「みんなをお願い」

 

 そう言ってコックピットからエルザが離れると様々な思いが湧いてくる。

 

 だがそんな感傷は後だ。

 

 イザークは息を吐くとコックピットハッチを閉めOSを立ち上げる。

 

 機体が起動すると上の隔壁が開き、同時にペダルを踏み込み叫んだ。

 

 「イザーク・ジュール、『スウェア』出る!!」


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