プラントの新たな評議会議長が決定し、しばらくの時間が経過していた。
シーゲル・クラインの後任は誰もが予想した通りパトリック・ザラであった。
シーゲルは議員ではなくなったものの、平和の為に色々精力的に活動している。
ザフトはパトリックの指示のもと軍備を増強。
新型機の開発も積極的に行っており、そして議会では『オペレーション・スピットブレイク』が可決されていた。
これは地球軍最後の宇宙港パナマ基地を攻略し、地球軍を地上に封じ込めようとする作戦である。
そしてそれはラクスの護衛についていたレティシアにも影響を与えた。
シーゲルの厚意でラクスの護衛として戦線から離れていたが、すぐ復帰するように打診が来たのである。
どうやらオペレーション・スピットブレイクの為に兵を遊ばせては置けないという事なのだろう。
軍人である以上命令には逆らえない。
そこで復帰する事をシーゲル、そしてラクスに伝えるためにクライン邸を訪れようと車で移動していた。
クライン邸まであと少しという所に来た時だった。
持っていた端末から音が鳴る。
「軍からの呼び出し?」
端末には短いメールが入っていた。
送り主のわからないメールではあったが、その内容はレティシアを驚愕させるには十分すぎるものであった。
『シーゲル・クラインは『勇敢な者』をプラントから運び出し地球側に渡そうとしている』
「なっ、まさか……」
『勇敢な者』
それは最近までレティシアがテストパイロットしていた機体につけられていた名である。
YMF―X000A『ドレッドノート』
まさに勇敢な者という名がふさわしく、この機体にはNジャマーキャンセラーが搭載されており、核エネルギーで動いているのだ。
この機体を地球側に渡せば、深刻なエネルギー不足の解消は出来るだろう。
だが同時に地球軍の手に核が戻るという事でもある。
「……どうする?」
このメールが本当かどうかはわからない。
無視するべきか?
いや、確認するだけならすぐだ。
これがただの悪戯であるならそれでいい。
だがもし本当だったら絶対に止めなければいけない。
今回の事はシーゲルだけではなく、下手をすればラクスにまで危険が及ぶかもしれないのだから。
しかし、このメールの送り主は何者なのだろうか?
Nジャマーキャンセラーの事は極秘中の極秘だったため、テストパイロットを務めたレティシアにも口外してはならないと命令を受けている。
そのため現時点で知っている人間は限られている筈である。
「今は考えている場合ではありませんね」
車のアクセルを踏み込むとスピードを上げてクライン邸に急ぐ。
門をくぐると邸宅前に車を止め、出てきた執事に詰め寄った。
「今日、シーゲル様は?」
「は、はい。本日はお出かけになられており―――」
「どこに?」
「宇宙港ですよ。レティシア」
「ラクス」
「どうしたのですか? そんなに慌てて」
一瞬どうすべきか悩むが、確証もなくラクスには言うべきではないだろう。
「いえ、シーゲル様にお聞きしたい事があって……」
「……何かあったのですね」
「そんな事は……」
「隠してもわかりますよ。レティシアの事なら何でもお見通しですから」
ニコニコと笑って言われても困るのだが、そんなに分かりやすいのだろうか。
「私も参ります」
「えっ、しかし……」
「父に関わる事なら私もいた方が良いのではないですか?」
しばらく考え込む。
あくまで確認に行くだけ、仮に真実ならラクスもそばにいた方がいざという時に守る事ができる。
なによりこうなったラクスは意外と頑固で説得している時間も惜しい。
「分かりました。行きましょう」
「ありがとう、レティシア」
2人で車に乗り込むと急ぎ宇宙港に向け走らせる。
「それでなにがあったのですか?」
「……匿名のメールが私の所に届きました。シーゲル様が軍の機密を地球側に渡そうとしていると」
「そんな、父がまさか」
「私もそう思います。でもその機密は非常に重要な物で、もしも本当だった場合はプラント全体が危険にさらされる」
「……仮にそうだとして父はそのような物を何故地球側に渡そうとするのでしょうか?」
推測はできる。
だが本当の理由は直接本人に聞くしか無いだろう。
できれば杞憂であって欲しいものだが。
急いだおかげか、そう時間もかからず宇宙港に到着できた。
路肩に車つけそのまま降りようとするとそこである気がついた。
ラクスはプラントの歌姫。
このまま港に行けば間違いなく大騒ぎになるだろう。
「仕方ないですね」
レティシアは着てきていた私服を脱ぎ、持っていた軍服に着替えると私服をラクスに手渡した。
「少し大きいかもしれませんがラクスは私の服を着てください」
「こういうのも楽しいですわね」
確かにこういう時でなければ楽しいのかもしれないが今はそれどころではない。
あとは髪をまとめて帽子でもかぶれば、良く見ない限りは大丈夫だろう。
「これで何とか大丈夫でしょう」
「ええ、行きましょう」
出来るだけ目立たないように2人で港の中に入る。
ラクスの事が気付かれるのではないかと内心ドキドキしていたがどうやら大丈夫らしい。
「シーゲル様がどこに行ったか知ってますか?」
「知人に会うと言っていただけなので場所までは」
ドレッドノートを運び出すには通常のシャトルでは駄目だ。
となれば運搬用の貨物船辺りだろうか。
その時、再びメールが届く。
それにはシーゲルの居場所が書いてあった。
レティシアの推測通りの場所、一応近くの受付に飛び込み問いただす。
「軍の者です! 今現在立ち入りが禁止されていて、なおかつ貨物船だけが止まっている発着場は?」
「え、えっと」
「早く!」
「は、はい」
場所は一致する。
レティシアの剣幕に怯えながらもきちんと教えてくれた受付嬢に礼を言うとラクスの手を取り、エレベータに乗り込んで下へ降りていく。
目的の階で降りてすぐ目的の人物シーゲル・クラインとその傍には何人かの男たちがいるのが見えた。
最初は政治家かと思ったがどちらかといえば科学者か技術者といった印象を受ける。
「シーゲル様!」
声をかけるとシーゲル達は酷く驚いたようにこちらを向いた。
「レティシア、ラクスも何故ここに?」
「突然、申し訳ありません。ですが急遽お聞きせねばならない事がありましたので」
鋭い視線でシーゲルを見据えると単刀直入に聞く。
「ある筋からシーゲル様がドレッドノートを地球側に引き渡そうとしていると情報が入ったのです。これは真実なのですか?」
「……」
「ドレッドノートは最重要軍事機密です。試験が終わった今、解体されるのが決まっています。現在どうなったのか、解体作業は誰がおこなったのか、調べればわかります。たとえ隠蔽工作をしていても痕跡くらいなら出てくる筈です」
シーゲルは何も言う事無く黙ったままだ。
「……何故否定されないのですか? 仮にこの事が公になれば真偽はどうあれ、国防委員会も黙ってはいません。下手をすればラクスにまで危険が及ぶのですよ!!」
「……お父様、レティシアの言っている事は本当なのですか?」
それまで黙っていた成り行きを見ていたラクスが問うた。
その声は静かに、なんの感情も籠っていない。
ただ事実を確認しようとする意思だけが感じられる。
そんな娘に観念したのかシーゲルは口を開いた。
「君の言う通りだよ。レティシア」
「では本当に―――」
「ああ」
「何故そんな事を?」
レティシアは怒りを抑え出来るだけ冷静に聞く。
信じていたからこそ、恩人だからこそ怒りが込み上げてくる。
だが怒りに任せては話も出来ない。
「それは―――」
その時、誰も予想していなかった事態が起きた。
レティシア達がいた後方から乾いた一発の銃声が響いたのだ。
「ぐっ、うう」
シーゲルの腹部が血で赤く染まり、そのまま蹲った。
撃たれた。
それを理解すると同時にレティシアは反射的にラクスを自身の背に隠し、背後に銃を向けた。
「シーゲル様!?」
「はい。そこまで」
そこにいたのは特務隊フェイスのメンバー、銃を構えたシオン・リーヴスとマルク・セドワの2人が立っていた。
「あなた達が何故ここに」
「おいおい、お前らしくもないなぁ。言わなくてもわかってんだろ」
「監視されてたって事ですか?」
「ああ。ずいぶん前からなぁ」
「どうして撃ったのです?」
「当然の事だろう。そこにいる男がした事は国家反逆罪だ。ザラ議長からもドレッドノートに関する情報流出を防ぐためならあらゆる手段、犠牲は問わないと命令を受けている」
つまりパトリック・ザラはこの事を知っていたという事だろう。
ではメールを送ってきたのも彼なのだろうか。
いや、監視していたならレティシアにメールを送る意味がない。
「お父様、しっかりしてください」
ラクスがシーゲルに駆け寄りハンカチで腹部を抑えている。
だがそれでけで血が止まる事はない。
非常に危険な状態である。
「急いで病院へ連れて行かないと」
「その必要はないですよ、歌姫様。そいつはここで死ぬんだから」
マルクの言葉にラクスは鋭い視線で睨みつけた。
「良い顔するねぇ、歌姫様。凄く好みだよ今の君」
「その辺にしておけ。レティシア、お前は下がっていろ」
「何をするつもりなのですか」
「愚問ですね。ラクス様、さっきマルクが言っていたでしょう」
そう言うと銃をラクスとシーゲルに向ける。
「ナチュラルに味方するゴミを処理するだけですよ」
「待ちなさい、尋問もせずに―――」
「その必要はない」
「ラクスまで巻きこむつもりですか!」
「彼女はシーゲル・クラインの娘だ。加担していなかったとどうして言い切れる。疑わしきは罰する、当然の事だ。そもそもなぜナチュラルなど救おうとするのか理解に苦しむ」
常に冷静なシオンらしくもなく苛立たしげに吐き捨てる。
「まるであいつを……アスト・サガミを見ているようでひどく気分が悪い」
「えっ」
シオンの口から飛び出した予想すらしていなかった人物の名にレティシアだけでなくラクスも驚いている。
「どうしてあなたがアスト君の名を……」
予想外だったのはシオンも同じだったらしい。
「お前が何故奴の名を知っているんだ? まさか会ったのか?」
レティシア達が口を開こうとした時だった。
突然ドレッドノートを積み込んだと思われる荷物が爆発したのだ。
レティシアはラクス達に飛び付いて覆いかぶさると同時にシーゲルを抱え、ラクスや他の者たちと荷物の陰に隠れる。
「いったい何が」
「……ラクス」
「お父様、しっかりなさってください」
「これを」
ラクスにディスクにディスクを握らせた。
シーゲルの出血はすでに周りに広がっている。
おそらくはもう手遅れだろう。
「シーゲル様、何故こんな事を」
「私はかつての罪を償いたかった。Nジャマーによって10億人の命を奪った償いを」
「……それはあなたのエゴです。今は戦争中、あれが地球軍の手に渡れば再びプラントに核が使われるでしょう。それが新たな悲劇と犠牲を生む。償い方なら他にもあったはずです」
「……ああ、そうだな。ラクス、本当にすまない」
シーゲルの手を握るとラクスの目から涙が零れる。
そして手から力が抜けた。
「お父様!」
レティシアはシーゲルによって救われた。
家族のように接してくれて、ラクスとも知り合えた。
彼らと過ごした時間は本当にかけがえのないものだった。
そんな時間を与えてくれた恩人の死に黙とうを捧げた。
「ラクス、ここは危険です。行きましょう」
「はい」
気丈に振舞ってはいるものの父親の死だ。
ショックを受けない筈もない。
だがのんびりはしてられない。
爆発した貨物船からは今なお炎が出ている。
いつ貨物船の燃料が爆発するかもわからないのだ。
しかし入口までは瓦礫にふさがれ炎が勢いよく上がっている。
このままでは爆発に巻き込まれるか、焼け死ぬかのどちらかだろう。
「どうすれば」
「あの、いいですか?」
技術者と思われる人物が声をかけてくる。
「あっちに出口がありますから」
「えっ」
術者の指さした方向に出口は見当たらない。
「前に使われていた通路があるんです」
何故そんな事を知っているのか?
いや、考えている暇はない。
技術者たちについて走る。
ラクスが一度だけシーゲルの方を振り返るがすぐ追いかけてきた。
何の変哲もない壁にある突起物を掴んでスライドさせると通路が顔を出した。
「さ、早く」
ラクスを先に進ませ最後に中に入ると壁を元に戻した。
「別の場所にシャトルがあります。それで脱出しましょう」
「ずいぶんと用意がいいですね」
「……もしもの時シーゲル様が私達を逃がすために用意されたものです。この通路もすぐ潰せるようになってます」
そこまで周到に準備していたという事らしい。
この分ではラクスを逃がす方法も考えていたのだろう。
「仲間もいるという事ですか」
「多くはありませんが」
「一応聞いておきますが、ドレッドノートを誰に渡すつもりだったのですか」
「……マルキオ導師です」
確かコーディネイターとナチュラルの融和を唱えて、独自の宗教論を持った人物だ。
彼のシンパはかなりの数いるらしい。
ジャンク屋などにもパイプを持っているとか。
シーゲルはそのような人物ならドレッドノートを渡しても大丈夫だと思ったのだろうか。
もしくは彼が渡すようにシーゲルを唆したのか。
「シーゲル様もすぐに地球側に渡すつもりはなかったのです。情勢を見極めて―――」
「それでも危険である事に変わりはない」
レティシアはきっぱりと言い切ると前を向く。
通路を抜けると同時大きな振動と共に爆発音が響き渡った。
どうやら貨物船が爆発したらしい。
「大丈夫ですか、ラクス」
「ええ、ありがとう。レティシア」
「こちらに来てください」
通路を抜けた先にあったフロアを進みさらにエレベーターで降りるとシャトルの発着場に辿り着いた。
「プラントを出るのですね」
「ええ」
少なくともシーゲルと一緒にいた技術者はプラントにいれば確実に殺されるだろう。
そして自分達もそうだ。
シオンが先程言っていたようにすでにラクスも危ない。
彼女は自分にとっても大切な家族のようなもの。
必ず守らなければ。
「行きましょう」
今なら貨物船の爆発の騒ぎの乗じて脱出も可能だろう。
「はい」
シャトルに乗り込んで、準備を整えるとそのまま発進する。
「どこへ向うのですか?」
レティシアは何も言わなかった。
もはや自分達の行く場所など限られているのだから。
ラクスはシャトルの窓からプラントを見る。
離れていく故郷を目に焼き付けるために。
ドレッドノートに関する任務が終了したシオンはパトリックに報告に赴いていた。
その表情はいつもの冷静なものではなく笑みが浮かんでいる。
貨物船の爆発に巻き込まれたものの、幸いマルクも自分も大した怪我ではなくすぐ動ける程度のものだった。
マルクは一応検査を受けているがシオンは本当にかすり傷だったため、そのまま報告に来ていたのだ。
だが今の彼にとっては怪我などどうでも良かった。
今回の件で思ってもみない事実が判明したからだ。
「ふ、ふふふ、あははははは。傑作だな、おい。まさかお前が地球軍とはな、アスト」
レティシアから思ってもみなかった名前が出た。
監視の一環でクライン親子やレティシアを含め関係者の交友関係はすべて調べられていた。
その中にアスト・サガミの名はなかった。
もちろんプラントに戸籍もない。
ではどこで知り合ったのか?
地球という可能性もあるが、その時は任務で知り合う機会もなかったはずだ。
ならば可能性は一つしかない。
ラクス・クラインはユニウスセブン追悼慰霊の事前調査の際、行方不明となり地球軍の艦に捕らわれていた事がある。
おそらくはその時だ。
何故ならそれ以外で彼女らはプラントを離れた事がないからだ。
つまり地球軍に奴はいる。
近年味わった事のない感覚だった。
憎悪を歓喜。
それに身を委ねながらシオンは笑い続けていた。
「失礼します」
エドガー・ブランデルの執務室に部下が入ってくる。
その顔からあまりいい報告ではないのだろう。
とは言っても最近いい報告などほとんど聞いた事はないのだが。
「例の件ですが、保険を使いました」
「そうか、レティシア・ルティエンスは失敗したか」
レティシアが受け取ったメールはエドガー達が送ったものであった。
シーゲルを監視をしていたのはパトリックの命令で動いていた特務隊だけではなく、エドガー達もだ。
彼らとしては事が大きくなる前に納めて欲しかったのだが、上手くいかなかったようだ。
もちろんそのための保険も掛けておいた。
もしもの場合は監視役の者がドレッドノートに仕掛けた爆弾で破壊する算段になっていたのである。
「被害は?」
「発着場の一つが当面使えない状況です。任務を受けていた特務隊二名が軽傷。一般人に被害はありませんでした。ただ――」
「どうした?」
「爆発に巻き込まれシーゲル・クライン、ラクス・クライン、レティシア・ルティエンスの3名とシーゲル・クラインに従っていた数名の技術者の行方が分からなくなっています。おそらく死亡したものかと」
「生きている可能性は?」
「あの状況では難しいでしょう。あらかじめ脱出経路を用意しておけば分かりませんが。ただシーゲル・クラインに関しては特務隊に銃撃されたという報告も受けていますので爆発、火災に関係なく死亡の可能性が極めて高いかと」
エドガーは顎に手を当て考える。
あのシーゲル・クラインがなんの備えもなく動いていたとは信じ難い。
そこまで迂闊だろうか?
元最高評議会議長ともなればNジャマーキャンセラーの重要性は十分理解していただろうし、当然国防委員会、ひいては評議会も動く事も明白である。
ならばいくつかの手を打っておくのは当然ではないだろうか。
しばらくの思案の後に口を開く。
「パトリック・ザラは?」
「は?」
「今回の件、パトリック・ザラはどう見ているんだ?」
「一応死亡と捉えているようです。表向きは事故に巻き込まれたと報道するようですが。それからまだ確認がとれていませんがパトリック・ザラが司法局を動かしたと」
パトリック・ザラも生存を疑っている。
司法局を動かしたというのはそういうことだろう。
2人は若いころからの友人だったと聞く。
だからこそシーゲル・クラインの事も詳しいパトリック・ザラが疑うのは当然といったところか。
もちろん他の穏健派の不審な行動を察知したとも考えられるが、こちらにそのような情報は入ってない。
「こちらの事は?」
「爆発の件は探っているようですが、こちらには気が付いていないようです」
「ふむ、シーゲル・クラインの死亡、娘も行方不明。生きていてもプラントにはいられまい。これで穏健派、いやクライン派は完全に瓦解状態かな」
「いえ、それがどうやらクライン派を纏めている人物がいるようで」
「誰だ?」
「ギルバート・デュランダル。ユリウスやラウ・ル・クルーゼとも親交のある人物のようです。これが資料です」
手渡された資料に目を通すとそこには経歴などが記載されている。
遺伝子科学者で、かなり優秀な人物のようだ。
だがいくつか気になる部分もある。
「なるほどな。彼の事はユリウスにも聞くとして、一応詳しく調べられるか?」
「どこか気になるところでも?」
「ああ。それから1人をつけておいてくれ」
「了解しました」
「他になにかあるか?」
「はい。もう1つ」
「なんだ?」
「パトリック・ザラ主動で開発が企画されていた、新型のNジャマーキャンセラー搭載モビルスーツの設計資料を含めたすべてのデータが消去されていたと報告が上がっています」
そんな事が出来る人物は1人だけ。
「……シーゲル・クラインか」
「はい。パトリック・ザラもそう考えているようです。司法局を動かしたという話はこの件があったからではないかと噂されています」
「なるほど、そう言う事か。消されていたのは?」
「ドレッドノートを合わせると、ZGMF-X07A、09A、10Aの4機です」
「13Aは?」
「13Aはまだ企画段階でしたので」
再び資料を手渡される。
「これに伴い新型機開発を大きく変更するようです。報告は以上です」
「わかった。引き続き頼む」
「了解しました」
部下が退出するとエドガーは再び考える。
状況が大きく動き始めた。
だからこそ準備は念入りにしておかなくては。
そう結論を出しエドガーも部屋を出ると誰もいなくなった部屋は静まりかえる。
それはまさに嵐の前の静けさだった。
その数日後、前評議会議長シーゲル・クラインと歌姫ラクス・クラインの死亡が発表された。