機動戦士ガンダムSEED cause    作:kia

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第14話  交差する時

 

 アストはイレイズのコックピットから外の様子を眺めながら待機していた。

 

 そのすぐ横にはストライクも立っている。

 

 外にはマリューとムウが武装した兵士を連れ、銃を持ち迷彩服や防弾ジャケットなど着こんだ集団と話をしている様子が見えた。

 

 所謂レジスタンスという奴だろう。

 

 名前は『明けの砂漠』というらしい。

 

 アストとしては過去の事もあり、彼らのような存在にはあまりいい印象がない。

 

 なんであんな連中と―――

 

 そう思いもするが現実は厳しい。

 

 現在アークエンジェルは数日前にザフトに襲撃された所から離れ、別の場所にいた。

 

 事の起こりは戦闘が終了してすぐの事。

 

 突然バギーに乗った人物が現れ、会談を持ちかけてきたのだ。

 

 自分達の目的は言わず、ただ敵の情報が欲しければ指定のポイントまで来いと言ってすぐ去って行った。

 

 そんな彼らにあからさまに怪しいと反対意見も出たが、アークエンジェルはこの辺りに関する情報があまりに少なすぎた。

 

 もちろん罠の可能性も捨てられないが、リスクを負ってでも敵の情報は欲しいということで彼らと話す事に決定したのである。

 

 落ちつくため息を吐くと思考を止め、ストライクの方を見る。

 

 キラはあの戦闘の後すぐに目を覚ましたのだが、シャトルが撃墜された事が相当ショックだったのだろう。

 

 目覚めてすぐにエルザと話してきたのも影響してか、きつく拳を握りしめて涙を流していた。

 

 そして追い詰められたような顔でアストに戦う事を宣言したのだ。

 

 今度こそ守って見せると。

 

 「キラ、大丈夫か?」

 

 「え、あ、うん、もう大丈夫。体調は問題ないよ」

 

 「……そっちもだけど、エリーゼやエルちゃんの事だ」

 

 キラは何も言わず黙り込んだ。

 

 大丈夫な筈はない。

 

 そう簡単に気持ちの整理などつかない。

 

 気持ちは良く分かる。

 

 何故なら自分自身も吹っ切れたという訳ではないからだ。

 

 正直かなりきつい。

 

 今も目の前の事に集中して、できるだけ考えないようにしていないと塞ぎ込んでしまいそうだ。

 

 「……大丈夫とはお世辞にも言えないけど、でももう誰も死なせたくないから」

 

 かすれた声で言うキラの様子にアストも俯いた。

 

 やはり相当思いつめているらしい。此処は言っておいた方がいいかもしれない。

 

 「キラ、1人で気負うなよ」

 

 「……でも僕がもう少し早くデュエルを落としていたら」

 

 「そう思うのはお前だけじゃない。俺だってそうだよ。もっとうまく戦っていたらってそう思う。トール達だって何かできなかったのかってそう思ってるさ」

 

 「アスト……」

 

 「だから自分を責めるな。みんなも同じなんだから。今度こそ一緒に守ろう」

 

 「うん、ありがとう」

 

 少しは気が紛れたのか先ほどよりは明るく返事をしてくる。

 

 ちょうど話の区切りがついた時、外に出ていたマリューから通信があった。

 

 《サガミ少尉、ヤマト少尉。二人共降りてきて》

 

 話は終わったのだろうか?

 

 キラと顔を見合わせると言われたとおりコックピットから降りていく。

 

 一緒に志願したフレイとエフィムは二等兵だったのに自分たちが少尉というのはパイロットだからということだろう。

 

 階級についてはマリュー達も変わった。

 

 ハルバートンの計らいでマリューやムウは少佐、ナタルは中尉、そして他のクルーたちも昇進していた。

 

 しかしコーディネイターの自分達が士官の階級とは思わず苦笑してしまう。

 

 地面に降り立ちヘルメットを脱ぐと明けの砂漠から驚きの声が聞こえてきた。

 

 「なっ、まだガキじゃねぇか!?」

 

 「あのガキ共がパイロット?」

 

 どうやらアストとキラの年でモビルスーツに乗っているというのが驚きだったようだ。

 

 やはり彼らのような存在は好きになれない。

 

 とはいえ、揉め事にする訳にはいかない。

 

 出来るだけ表情を出さないようにしないと。

 

 そんな中こちらに向かい飛び出した者がいた。

 

 防弾ジャケットを着た少女が驚きの表情を見せ、キラの前に立つ。

 

 誰だ?

 

 飛び出し、驚きの表情を浮かべていた少女の顔がすぐに怒りに変わる。

 

 「何故お前があんなものに乗っているんだ!?」

 

 そんな怒鳴り声と共にキラに手を上げてくる。

 

 密かに何があってもいいよう構えていたアストは横からその手をつかみ、引っ張って体勢を崩すと足をかけてあっさりと転ばした。

 

 転んだ少女は驚きと怒りの入り混じった表情で怒鳴ってくる。

 

 「この、何するんだ!!」

 

 「あ、すまない。つい反射的に―――っていうかいきなりキラに殴りかかったのは君だろう」

 

 「いや、それは―――」

 

 「カガリ」

 

 リーダーと思われる男に呼ばれ、カガリと言われた少女はしぶしぶ引き返していく。

 

 「キラ、あの子の事知っているのか?」

 

 「うん、知ってるっていうか……」

 

 キラは困惑した様子で少女の後ろ姿を見つめていた。

 

 何故あの子がここにいるんだろう?

 

 そんな疑問がキラの胸中に渦巻いていた。

 

 

 

 アンドリュー・バルトフェルドは自らの母艦『レセップス』の艦長室で書類を眺めていた。

 

 内容はジブラルタルからの補充人員の着任についてである。

 

 補充人員自体は歓迎だ。

 

 前の戦闘でバクゥを撃破され戦力は消耗しているし、敵も強敵とくれば戦力強化はありがたい。

 

 それでもバルトフェルドとしては素直に喜べなかった。

 

 「どうされたのですか、隊長?」

 

 「ジブラルタルから送られてくる補充人員があのクルーゼ隊からってことでね。まあバクゥ数機と他のモビルスーツを寄こしてくれるらしいけど」

 

 「なにか問題でも?」

 

 「足手まといが増えてもなぁっていうのが正直なところだ。全員、宇宙戦の経験しかないらしいからな」

 

 それでダコスタも納得した。

 

 宇宙戦と地上戦では全く違う。

 

 ましてここは砂漠なのだ。

 

 宇宙しか知らない者では話にもならないだろう。

 

 だからこそストライクのパイロットがあれほどの戦闘をして見せたのは驚きだったのだが。

 

 「それにクルーゼ隊ってのも気に入らんね。俺はあいつ嫌いだし」

 

 「隊長、子供じゃないんですから」

 

 そんな事を言っている間にも到着したらしい。

 

 レセップスの近くに数機の輸送機が降りてくる。

 

 「まあ追い返す事もできんしな」

 

 そう言って席を立ち外に歩き出し、急ぎ甲板に出ると風が吹き砂が舞っていた。

 

 それがよほど嫌なのか全員顔をしかめている。慣れない内は仕方がないだろう。

 

 「ようこそ、指揮官のアンドリュー・バルトフェルドだ。君らを歓迎するよ」

 

 心にもないことを言う上官にダコスタは内心呆れるものの表情には出さない。

 

 「クルーゼ隊、イザーク・ジュールです」

 

 「同じくディアッカ・エルスマンです」

 

 「シリル・アルフォードです」

 

 「エリアス・ビューラーです」

 

 「カール・ヒルヴァレーです」

 

 次々と自己紹介していく。

 

 最後の1人が名乗ると同時に機体も輸送機からすべて運び出される。

 

 その中でも目の引くのはストライクと似た形状の2機ともう1つはシグーを改良したと思われる機体だ。

 

 各部スラスターを強化し、試作型のビームライフルと腰には普通とは形状の違うレーザー重斬刀が装備されている。

 

 バルトフェルドはそれらを興味深そうに見つめた。

 

 「あいつとよく似ている。同系統の機体だな。もう一つのあの機体は……」

 

 「シグーを改良してビーム兵器を使用可能とした機体です」

 

 「なるほど」

 

 機体を見ていたバルトフェルドにシリルが説明する。

 

 どうやら彼があの機体に搭乗する予定らしい。

 

 「バルトフェルド隊長にお願いがあります」

 

 「なんだね」

 

 シリルが前に出て嘆願する。

 

 ダコスタとしてはあまりいい話とも思えない。

 

 クルーゼ隊といえばエリートである。

 

 となればプライドも高く、扱いにくい。

 

 少なくともバルトフェルドもダコスタもそういう印象が強い。

 

 おそらくシリルの要望も戦闘では好きにさせてほしいといった事だろう。

 

 しかし彼の要望はダコスタの予想とは大きく違っていた。

 

 

「私達は宇宙戦の経験しかありません。ですので試作機のテストを兼ねて演習をさせていただきたいのです。このままでは隊長の指示通りに動くこともできず、作戦行動にも支障が出ます。それにバクゥはともかくデュエルとバスターは砂漠用に調整も必要ですから」

 

 これには正直驚いた。

 

 どうやら彼らを見くびっていた。

 

 エリート部隊の隊員だけはあって自分たちの現状をよく把握しているようだ。

 

 「わかった、許可しよう。こちらの隊員を何人かつける。砂漠用の調整が必要なら整備スタッフを使ってくれ」

 

 「ありがとうございます」

 

 敬礼をしてシリルは一歩下がる。

 

 「ということだ。あとは頼むよダコスタ君」

 

 「ええ~!?」

 

 ダコスタの肩をポンと叩きそのまま歩いて行ってしまう。

 

 演習に参加する者の編成やスケジュールの調整などはすべて丸投げされてしまった。

 

 呆然としていたダコスタは我にかえると肩を落とし、ため息をついた。

 

 いつも面倒な事はすべてこちらに押し付けるのだあの人は。

 

 ともかく動こうと肩を落として、準備に入った。

 

 

 

 

 

 アークエンジェルは明けの砂漠の本拠地と思われる場所に移動していた。

 

 結局あの会談で必要な情報は得られなかった。

 

 どうやら彼らはアークエンジェルを味方につけたいらしい。

 

 正確にいえば利用したいという事だ。

 

 彼らの装備を見てみても、お世辞にもモビルスーツ有するザフトに対抗できるとは思えない。

 

 しかしこちらを利用すれば状況も変わると思ったのだろう。

 

 だがそれはアークエンジェル側も同じである。

 

 こちらとしても情報もなく、土地勘もない上、補給もないのだ。

 

 今の状況でザフトと戦うのは不利な要素が多すぎる。

 

 だから利用しようとしているのはお互い様だった。

 

 先導するバギーによって案内された場所は周りが岩山で囲まれており、外からは見えにくい。

 

 上空からの偵察にも警戒し、隠蔽用のネットをかぶせている様子が見て取れた。

 

 マリューとムウ、ナタルは明けの砂漠のリーダーであるサイーブに連れられ指令室と思われるところまで案内される。

 

 様々な機材が散乱する部屋にある机の上に地図を広げると話を始めようとしたのだが、あの金髪の少女が近づき耳打ちをして去っていく。

 

 「彼女は?」

 

 「俺達の勝利の女神さ」

 

 「名前は?」

 

 サイーブは探るようにムウに視線を向けた。

 

 「女神様じゃ名前知らなきゃ失礼でしょ」

 

 からかい半分にムウが言うと視線をそらして答える。

 

 「カガリ・ユラだ」

 

 その話は終わりとばかりに地図を指さして話し始める。

 

 あの少女は何かあるのだろうか?

 

 サイーブの態度を不審に思うが地図の方に目を向ける。

 

 「まずあんた達の相手だが、アンドリュー・バルトフェルドだ」

 

 「敵は『砂漠の虎』ってことか」

 

 ザフトでも屈指の名将の1人である。

 

 また厳しい戦いになりそうだ。

 

 「今はバナディーヤに奴の母艦レセップスがいる」

 

 「アラスカに行くには……」

 

 「ジブラルタルを突破するかインド洋から太平洋に抜けるかだな」

 

 「この戦力でジブラルタルは無理だって」

 

 ジブラルタルにはザフトの前線基地がある。

 

 そこにはザフトの大部隊が駐屯しているはずだ。

 

 アークエンジェル1隻で突破するなど無謀を通り超えて自殺行為だ。

 

 「じゃあ、バナディーヤのレセップスを落として紅海に抜けるしかないな。だが言うほど簡単じゃねぇ。ビクトリアが落とされてから奴らの勢いは強いしな」

 

 「ビクトリアが!?」

 

 これにはさすがに驚いた。

 

 自分たちがこんな状況になっている時にそこまで事態が動いていたとは。

 

 「残るはパナマか」

 

 ザフトの地球侵攻作戦『オペレーション・ウロボロス』は宇宙港のすべてを制圧するというもの。

 

 現在残っている宇宙港であるパナマの侵攻も時間の問題だろう。

 

 だからこそ一刻も早く自分たちはアラスカにたどり着かねばならないのである。

 

 

 

 

 

 アストとキラはアークエンジェルに迷彩ネットをかけ終わり座り込んで休んでいた。

 

 2人で黙って空を見上げると色々と考えてしまう。

 

 失ってしまった命やエリーゼ達の事を。

 

 そこにあの少女カガリがこちらに向かって歩いてきた。

 

 何の用だ?

 

 また殴りかかってくるつもりだろうかと警戒し思わず身構えてしまう。

 

 「勘違いするな。何もする気はない。その、さっきのことだが別に手を出す気はないかった……訳でもないが、その」

 

 一応謝りにきたといったところなのだろうか。

 

 内容は全然謝罪になってないが。

 

 そんな様子が微笑ましかったのかキラがくすくすと笑い出した。

 

 「なにが可笑しい!」

 

 「何がって……」

 

 それだけ可笑しかったのかキラは笑い続けている。

 

 キラがこんなに笑うのを見るのはもしかしてヘリオポリス以来かもしれない。

 

 エリーゼ達の事以来塞ぎ込んでいたのでいい傾向だ。

 

 キラとこの少女とは相性がいいのかもしれない。

 

 ともかく前から気になっていたことを聞くことにした。

 

 「さっきも聞いたけどキラの知り合いなのか?」

 

 「あ、ああ、アストも会ったことあるよ」

 

 「えっ」

 

 「ほら、カトウ教授の研究室に来ていた子がいたよね」

 

 彼女の顔をまじまじと見てしまう。

 

 この子があの時の?

 

 いや、しかし―――

 

 「……あれって男の子だったじゃないか」

 

 「あ~」

 

 キラが視線を逸らす。

 

 嫌な予感がしてカガリの方を見ると肩を震わしている。

 

 不味いと思った瞬間カガリの拳が飛び出してきた。

 

 「こいつといい、お前といい、女らしくなくて悪かったなぁぁぁぁ!!」

 

 カガリの一撃がアストの顔面に直撃した。

 

 「ぐぁ!」

 

 「アスト、大丈夫!?」

 

 避けられなくはなかったのだが、今回は避けてはいけない気がしたのでそのまま受けた。

 

 今のはこちらが悪いだろう。

 

 でも痛い。

 

 カガリが落ち着いたのを見計らって話しかける。

 

 殴られた頬をさすりながらだが。

 

 「悪かったよ。そう怒らないでくれ」

 

 「ふん!」

 

 相当気に障ったようだ。

 

 だがいつまでもそれでは話が進まないと思ったのか、不機嫌そうな態度を隠さないまま話し出した。

 

 「あのあとずっと気になっていた。お前はどうしただろうと」

 

 彼女があの時のヘリオポリスにいたのなら、自分を助けてくれたキラの事は気になって仕方なかっただろう。

 

 「それがあんな物に乗って現れるとはな」

 

 いったい彼女は何が気に入らないんだ?

 

 イレイズやストライクを睨んでいるが、何かあるのだろうか?

 

 「いろいろあったんだよ」

 

 さらにカガリが何か言おうとしていたがキラのどこか思いつめた様子を見て思いとどまったようだ。

 

 カガリの追及も収まったようなので、アストはさっきから気になっていたことを聞くことにした。

 

 「ところでなんで君がここにいるんだ? オーブの人間じゃないのか?」

 

 「えっ!? え~と、私は、だな」

 

 あからさまに聞かれたらまずいといった感じである。

 

 どうやら彼女は嘘がつけない性格らしい。

 

 「カガリ」

 

 「あ、キサカ。悪いな、もう行く」

 

 助かったとばかりキサカと呼ばれた、たくましい長身の男の下に走って行く。

 

 どうやらあの子に何かあるのは間違いないようだが別に詮索する気はなかった。

 

 「ハァ~キラ、アークエンジェルに戻って機体の調整をしておこう。前の戦闘で接地圧弄ったし、イレイズの事でマードックさんと話さないといけないしな」

 

 「うん、そうだね」

 

 カガリと話したおかげか、少しは元気になったようだ。

 

 アークエンジェルに戻るために機体に乗り込み格納庫まで戻ってくると、スカイグラスパーのそばでムウとエフィムが話していた。

 

 「何でエフィムがいるんだろ?」

 

 「さあな」

 

 あんまり関わりたくないが、今までエフィムが格納庫に来た事はないし、整備の手伝いにも見えない。

 

 「今のままじゃ実戦なんて程遠い。もっとシュミレーターをやり込んでから実機だ」

 

 「くそっ!」

 

 「あのなぁ、一応上官なんだから敬えよ」

 

 「……了解しました、フラガ少佐」

 

 エフィムが苛立たしげに格納庫の隅にあるシュミレーターに歩いていく。

 

 「どうしたんですか?」

 

 「ああ、あいつスカイグラスパーのパイロットに志願したんだよ。そんで実戦にいきなり出せってな。無茶言うなっての」

 

 エフィムが志願した?

 

 でも彼ならそう驚きはない。

 

 コーディネイターと戦う為に地球軍に入った彼だ。

 

 パイロットを志しても何らおかしくない。

 

 「エフィムの実力はどうなんです?」

 

 「ああ、筋はいい。鍛えればかなりのパイロットになる」

 

 戦力が増えるのは助かる。

 

 それでもヘリオポリスからの知り合いが戦いに加わるのは正直複雑な心境だ。

 

 たとえ相手が自分たちを嫌悪しているとしても。

 

 「あっ、そうだ。マードックさんは?」

 

 「曹長ならスカイグラスパー3号機のとこだ。あれが一番じゃじゃ馬で調整に手間取ってんだよ。何か用なのか?」

 

 「ええ、イレイズのことで」

 

 そのまま皆と連れだってマードックのところへ向う。

 

 スカイグラスパー3号機は部品が散乱しコードもむき出しの状態になっていた。

 

 良く見てみると若干形状が違う。

 

 「これって確か少佐専用に調整された機体だって言ってたけど」

 

 「その分調整とかも難しいんだろうな」

 

 スカイグラスパー3号機はムウのために改良された機体であり、左右の端にビーム砲が装備され、出力も強化されている。

 

 「曹長」

 

 「おう、どうした?」

 

 「イレイズの事なんですけど、前に言ってた実弾装備は使えませんか? 少しでもバッテリーの消費を抑えようとするとアータルは使いにくいですし」

 

 「う~ん、使えなくはないが俺もこっちの作業で手一杯だからなぁ。それにアータルの方はいいのか? あれはアータルを外してからじゃないと装備できないぞ。イレイズはストライクと違って換装なんてできないから一度外すとそう簡単には戻せなくなる」

 

 「ええ、構いません。作業はこちらでやりますから」

 

 「わかった。なんかあったらすぐに言ってくれ」

 

 礼を言ってイレイズのそばに置いてある武装を見る。

 

 レール砲『タスラム』、アータルとは違う実弾兵器だ。

 

 イレイズは非常に扱いにくく、バッテリー消費の激しい機体であり、それをなんとか改善するための苦肉の策として実弾兵器の装備が開発されたらしい。

 

 「これって完成してるの?」

 

 「ああ、マードックさんのよるとほぼ完成してるみたいだけど……」

 

 とりあえず確認しない事にはわからない為、タスラムに端末をつなげて調べていく。

 

 「なるほど。放置していただけあって状態はあまり良くないけど、整備と調整さえ終わればすぐ使える」

 

 「じゃあ、すぐに取りかかろう」

 

 キラと作業を始めようとした時だった。

 

 トール達、そしてエルザが格納庫に入って来たのが見えた。

 

 「みんな、どうしたの?」

 

 「ブリッジの方はいいから、こっちの手が足りないから行って来いって言われてさ。手伝うことあるんだろ?」

 

 「うん、でもエルザは……」

 

 「……私も手伝う。今は余計な事は考えないで動いていた方が楽だから」

 

 エルザの顔色は良くない。

 

 正直すぐに休ませた方がいいのではと思うくらいだが、部屋にいてもエリーゼの事で悩むだけ体にも良くない。

 

 アネット達もそう思って連れ出したのだろう。

 

 「わかった。エルザが手伝ってくれるのは助かる」

 

 「じゃ、始めようか」

 

 タスラムの調整と整備をエルザ達と整備班に手伝ってもらいながら開始する。

 

 みんなでこんな風に何かをするのはユニウスセブンで折り紙を折って以来だ。

 

 あの時もヘリオポリスを思い出した。

 

 あれからたいして時間も経ってないのに遠い昔のようだった。

 

 一緒に作業をして気がまぎれているのか全員表情が明るい。

 

 全員の顔を見てアストもキラも再確認する。

 

 彼らを守らなければいけない。これ以上誰も死なせないと。

 

 

 

 

 

 レセップスの格納庫ではシリル達の機体を砂漠用へ調整する作業が進んでいた。

 

 あとは砂漠に出て機体の具合を見た後、細かい調整を行っていく予定になっている。

 

 そのために演習を提案したのだから。

 

 シリルが自身の機体を見上げる。

 

 シグーを改良したこの機体はビーム兵器を使用可能になっている。

 

 ようやくこれでガンダムと対等に戦える。

 

 『消滅の魔神』と『白い戦神』を倒す事が出来るのだ。

 

 あとはパイロットであるシリル自身の問題である。

 

 あの驚異的な実力をもつあのパイロット達とどこまでやれるか。

 

 そんな事を考えているとイザークとディアッカが声をかけてくる。

 

 「……シリル、何故あんな提案をした」

 

 「まったく、俺らまで地上部隊と一緒に演習とはな」

 

 イザーク達にとってシリルの提案は面白くなかった。

 

 彼らにはエースパイロットとしての矜持がある。

 

 しかもエリートのクルーゼ隊のメンバーだ。

 

 それが何故地上部隊と演習し、教えを乞わねばならないのか。

 

 「ガンダムを確実に倒すためだ」

 

 「それは俺達だけで十分だ! 地上部隊の力など借りる必要はない!!」

 

 「そうそう。今度こそ仕留めてやるさ!」

 

 「……あの時も言ったが俺達は地上戦には慣れてないし、ましてや砂漠だ。戦い方を見るだけでも損はない。それにイザークの機体は完全な状態じゃ無いだろう」

 

 デュエルはストライクの攻撃でアサルトシュラウド胸部の装甲を大きく破損してしまった。

 

 その為本来ならば単独で大気圏を突破して来たイザークの体調と合わせ、機体の修復を待ってからこちらに合流する予定だった。

 

 しかし彼はそんな予定を無視して、無理やりこちらに来てしまった為、デュエルはアサルトシュラウドを外した状態なのだ。

 

 「それは……」

 

 「なら地上部隊との連携も邪魔にはならない」

 

 「ずいぶん弱気じゃないか。ニコルの臆病でもうつったの?」

 

 ディアッカが挑発するように皮肉を言う。

 

 だがシリルは表情を変えない。

 

 すでに覚悟は決めたのだ。

 

 「俺はもう奴らを侮るのをやめただけだ。奴らは強い。油断すればこちらがやられる。もう仲間を撃たせないために奴らを確実に倒す。そのためなら誰の力でも借りるさ」

 

 決意に満ちたシリルにイザーク、ディアッカ共に何も言えなくなってしまう。

 

 「今度こそ『魔神』と『戦神』を倒す」

 

 決意をこめて機体を見上げる。たとえ刺し違えてもあの2機を―――

 

 鋭い視線がここにはいない敵を見据えていた。




カガリ登場です。

でも彼女は本当どうしようかな。

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