機動戦士ガンダムSEED cause    作:kia

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第12話  炎に消える

 

 

 

 それは誰も予期できない突然の出来事であった。

 

 何もない筈の空間からビームが放たれると護衛艦に直撃し大きな爆発を引き起こしたのである。

 

 連続で撃ち込まれたビーム攻撃を受け、ブリッジを破壊された1隻の戦艦が沈められてしまう。

 

 その衝撃は周囲に伝わり艦を揺らした。

 

 突然起こった事態に呆然としつつもすぐ我に返ったマリューは状況を確認する為、声を上げた。

 

 「何が起こってるの!?」

 

 「わかりません! レーダーに反応なし!」

 

 一瞬言葉を失うものの、すぐにとある可能性に思い至る。

 

 あの機体であれば、今の状況を作り出せる。

 

 「ミラージュコロイド、ブリッツだわ! 各艦に打電。ここにブリッツがいるということは近くに敵艦もいる筈よ。ハルバートン提督は?」

 

 「連絡艇に乗り込まれたようです」

 

 「すぐ発進させて」

 

 「まだ避難民の収容が―――」

 

 「それは後よ!」

 

 アルテミスで行われた奇襲と同じだ。

 

 対応が遅れれば遅れるほどこちらの損害と増え不利になる。

 

 指揮官であるハルバートンがメネラオスに戻らなければ動くこともできない。

 

 「レーダーに反応! ザフト艦です!」

 

 「数は!?」

 

 「ナスカ級1、ローラシア級2」

 

 「ザフト艦よりモビルスーツの発進を確認!」

 

 遅かった。

 

 前と同じく完全に後手に回ってしまい、各艦独自で応戦せざるを得ない状況になっている。

 

 「イーゲルシュテルン、バリアント起動! 後部ミサイル発射管コリントス装填!」

 

 ナタルが次々と指示を出し、戦闘に備える。

 

 ブリッツはミラージュコロイドを解除し、各艦のモビルアーマーと交戦しているようだ。

 

 ミラージュコロイドは強力だが、その分多くの電力を使用するのが欠点である。

 

 そのためこれ以上の展開は戦闘に支障がでると判断したのだろう。

 

 「メネラオスより入電! 『アークエンジェルは本艦につき待機せよ』以上です!」

 

 モニターを見ているクルーたちは不安を隠せない。

 

 それはマリューも同じだ。

 

 人員はギリギリであり、何よりセーファスはもういないのだ。

 

 あの先遣隊合流時に起きた戦闘もセーファスがいなければどうなっていた事か。

 

 しかし弱気になっている場合ではない。

 

 こんな状況だからこそ、艦長の自分がしっかりしなくては。

 

 マリューは自信を叱咤しながら、モニターを見つめていた。

 

 

 

 

 敵の攻撃による衝撃が伝わったアークエンジェルの格納庫は避難民によるパニックが起こっていた。

 

 我先に連絡船に乗り込もうと避難民が詰め掛けていく。

 

 ようやく終わる。

 

 そう思って気を抜いていた矢先にこの騒ぎでは、パニックになるのも無理はない。

 

 だがあまりの勢いに近くにいたトール達もそれに巻き込まれてしまった。

 

 「ちょ、ちょっと」

 

 「これはきついな」

 

 なんとか人のいない横に抜けようともがく。

 

 だが次から次へ押し掛けてくるためなかなか抜けられない。

 

 「エリーゼ、手を離さないで!」

 

 「お姉ちゃん!」

 

 エルザはエリーゼとはぐれないように手をつないでいたが、人ごみに押され手を放してしまう。

 

 「エリーゼ!」

 

 あっという間に見えなくなり場所もわからない。

 

 とにかく一回人のいない横へと抜けるとすぐにトール達も人混みの中から出て来た。

 

 「はぁ、たまんないな」

 

 「みんな、大丈夫か?」

 

 周囲を確認する他のメンバーの姿が確認できたが、手を繋いでいたエリーゼの姿だけが見えない。

 

 「エルザ、エリーゼはどうしたんだ?」

 

 「あの人ごみではぐれてしまったの!」

 

 「はぐれた!?」

 

 エリーゼはまだ幼い。

 

 なのにこんな時にはぐれてしまうなんて。

 

 「急いで探さないと」

 

 「そうだな。でもこの人ごみじゃ」

 

 今だ騒ぎは収まらず、喧騒が格納庫に響き渡っていた。

 

 これでは何時治まるか分かったものではない。

 

 ようやく地球軍の兵士が連絡艇から、人を離すとそのまま発進する。

 

 それによって人数が減りはしたものの、依然として避難民はパニック状態のままだ。

 

 「皆さん落ち着いてください! ここは危険ですので一度艦内に引き返してください!」

 

 そう声をかけて落ち着かせようとする。

 

 だがそう簡単に収まらない。

 

 もう嫌だという声がそこら格納庫を包み、中には泣き出してしまった人もいる。

 

 今までのストレスが限界に来てしまったのだろう。

 

 とはいえ人はずいぶん少ない。

 

 「とりあえずエリーゼを探そう」

 

 「ええ」

 

 先程に比べ人が少なくなっているので、探しやすくなっているものの見つからない。

 

 「そういえばあのエルちゃんもいないな」

 

 「本当ね。先に連絡船に乗ったのかな」

 

 「もしかして、エリーゼもさっきの連絡艇に乗ったんじゃ」

 

 「え、じゃあ先にメネラオスに?」

 

 「そんな……」

 

 戦闘になり、傍にいないのは不安なのだろう。

 

 俯いているエルザを励まそうと声をかけようとした時、パイロットスーツを着た2人が格納庫に入ってくるのが見えた。

 

 それは全員が心配していた仲間、アストとキラだった。

 

 「アスト、キラ!?」

 

 「みんな、まだ連絡艇に乗ってなかったのか」

 

 「お前たちこそ何でまだパイロットスーツなんて着てんだよ?」

 

 「それは……」

 

 気まずそうに視線をそらしたキラに変わりアストが説明する。

 

 みんなに気付かれないように表情を出来るだけ明るくして。

 

 「俺達は地球軍に志願したんだよ。エフィムとフレイも一緒に」

 

 これには全員が驚いた。

 

 エフィムやフレイはわかる。

 

 あの2人はコーディネイターを毛嫌いしていたし、フレイに至っては動機も十分にあるからだ。

 

 だがアストやキラは地球軍に志願する理由などない。

 

 一体どういう事なのだろうか?

 

 トールが困惑しながらも問う。

 

 「なんで?」

 

 気まずそうに顔を伏せていた、キラが顔を上げた。

 

 「逃げられないって思ったからかな」

 

 「それにちゃんと最後まで責任は取らないと。俺は機体にもそれなりに愛着があるし」

 

 「責任って」

 

 「最後までアークエンジェルを守るって事だよ」

 

 本当の事は言えない。

 

 これ以上みんなは巻き込めない。

 

 するとアネットがアストとキラに詰め寄った。

 

 「あんた達、なんでそれを言わないのよ!」

 

 「えっ」

 

 「私達に相談しろって言ってんのよ! 仲間でしょ!」

 

 アストは怒られているにも関わらず思わず笑みを浮かべてしまった。

 

 そんな君達だから巻き込みたくなかったんだと口に出しそうになる言葉を思わず呑み込む。

 

 やっぱり選択は間違っていなかった。

 

 彼らと話して余計にそう思う。

 

 これ以上危険な目に遭わせたくない。

 

 話を逸らすように別の話題を口にする。

 

 「……俺達の事よりエリーゼはどうした?」

 

 「ちょっと!」

 

 誤魔化すように話を逸らしたアストにアネットが詰め寄るが、焦った様子のエルザが状況を話してくれる。

 

 「えっと、はぐれてしまったの。探したんだけど見つからなくて」

 

 「さっきまで連絡艇に乗ろうとみんなが押し掛けてたから、だけどそれに巻き込まれて先にメネラオスの方に行ったんじゃないかって」

 

 「まあエルちゃんも先に乗ったみたいだし、あの子のお母さんが面倒を見てくれてると思うけど」

 

 その時、艦内を再び振動が襲う。

 

 近くでまた爆発が起きたらしい。

 

 「とにかくみんなは艦内に戻るんだ」

 

 アストとキラは頷き合うと自分の機体に向け走っていく。

 

 「待ちなさい、話はまだ―――」

 

 アネットの制止を無視しそのまま行ってしまう。

 

 「本当にあいつらは!」

 

 「二人とも戦うことにしたんだ」

 

 「キラなんてあんなに嫌がってたのに」

 

 「なにかあったのかな」

 

 「……とりあえず一回戻ろう」

 

 アストとキラが地球軍に残ったことに複雑な気持ちになりつつも、トール達は兵士達の誘導に従って艦内に歩き出した。

 

 

 

 

 

 三隻のザフト艦より発進したモビルスーツが第8艦隊のモビルアーマーメビウスと戦闘を開始していた。

 

 ジンが縦横無尽に動き回り、メビウスを撃破していく。

 

 出撃した全モビルスーツに対しラウからの通信が入ってくる。

 

 《目標はあくまでも足つきと2機のガンダムだ。ほかに時間を食うなよ》

 

 「「「「了解!!」」」」

 

 

 それは言われるまでもない事である。

 

 全員が後方にいるアークエンジェル目掛けて突っ込んでいく。

 

 そんな中、初陣であるエリアスとカールも順調に敵を屠っていた。

 

 迫ってきたミサイルを撃ち落とし、重斬刀でメビウスを真っ二つに切り裂く。

 

 「へっ、やっぱり大したことないな」

 

 「油断するなよ、エリアス。ガンダムもまだ出てきていない」

 

 メビウスのバルカン砲をかわし、突撃銃で撃ち落とす。

 

 2機のジンは巧みな連携で敵を翻弄しながら撃破していく。

 

 やっぱりカールとの連携はやりやすい。

 

 アカデミーの頃から組んで来ただけあって息はぴったりだった。

 

 「慎重すぎるんだよカールは。それにお前にとっても家族の仇が討てて嬉しいだろ」

 

 「いつも言ってる、俺はそんなつもりで戦おうなんて思ってない」

 

 いつものようにカールは冷静に返す。それがエリアスは不満だった。

 

 カールとの付き合いはアカデミーに入る前からだ。

 

 そのころからクールな性格で人付き合いの苦手な彼を放っておけなかったエリアスが声をかけたことで友人になった。

 

 しかし血のバレンタインからすべてが変わった。

 

 カールの家族はユニウスセブンにいたのである。

 

 無事だったのはユニウスセブンを離れていたカールと双子の弟だけだった。

 

 家族の死を知った時は落ち込んでいたが、しばらくして立ち直りザフトへの入隊を決めたカールについてエリアスも入隊した。

 

 ナチュラルが許せなかったからだ。

 

 しかしカールは違った。

 

 家族の仇を討つためにザフトに入ったとばかり思っていた。

 

 だがカールは一度たりともナチュラルを責めず、しかもザフト入隊は仇討ちのためではないと言い切ったのだ。

 

 悪いのはすべてナチュラルであり、この戦争もプラントを守るための正義の戦争なのに。

 

 「それより見てみろ」

 

 「なんだよ」

 

 エリアスが見た先にいたのは、先輩であるアスラン達の乗るガンダムだった。

 

 ジンも戦艦やメビウスを落としているが彼らはその比ではない。

 

 先行し奇襲をかけたブリッツがグレイプニールでブリッジを破壊し、目標である足つきに向うために邪魔な護衛艦を沈めていく。

 

 イージスがモビルアーマーに変形すると機体中央部に搭載されている複列位相エネルギー砲『スキュラ』で敵をなぎ払う。

 

 バスターが超高インパルス長射程狙撃ライフルで戦艦の装甲を貫く。

 

 そして新装備アサルトシュラウドに身に包んだデュエルがビームライフル、肩のレールガン『シヴァ』を巧みに使いメビウスを落としていく。

 

 デュエルの新装備アサルトシュラウドは高出力スラスターを付加した追加装甲と左右肩部にレールガン『シヴァ』と5連ミサイルポッドが取り付けられている。

 

 それによって性能を高めたデュエルは4機の中でも特に目覚ましい働きをしていた。

 

 彼らの活躍を見ているだけでも胸が熱くなるというもの。

 

 こんな人達と戦えるなんて、それだけで夢のようだった。

 

 「すごいな」

 

 「ああ。よし、俺達もいくぞ」

 

 ガンダムの活躍によって奮起したエリアスとカールも今まで以上の動きでメビウスをライフルで落としていく。

 

 そして、アスラン達だけではなく鬼気迫る動きで戦っているジンがいた。

 

 通常のジンとは形状が違う。

 

 それはシリル・アルフォードの『ジンアサルト』である。

 

 ジンアサルトは通常のジンにデュエルと同じくアサルトシュラウドを装備した機体であり、これにより火力、推進力など強化されている。

 

 シリルはその推力をフルに使い縦横無尽に飛びまわる。

 

 「邪魔だ!!」

 

 ミサイルをガトリング砲で迎撃しながら、敵艦を突撃銃で攻撃する。

 

 途中敵艦からの反撃もナチュラルには捉えきれない機動でかわしていく。

 

 それはエースというにふさわしい動きだった。

 

 シリルの実力を知るものでさえ見惚れるほどだ。

 

 大型ビーム砲、対空砲を吹き飛ばしブリッジを破壊して撃沈する。

 

 「シリル、無理するなよ」

 

 「アスランこそ今の内からへばるなよ。本番はガンダムが出てきてからなんだからな」

 

 「ああ」

 

 狙いはお互いに同じだ。アスランとしてもここで手間取る気はない。

 

 目標はただ一つ。

 

 イレイズのみ。

 

 互いに声を掛け合うと次の敵に向かって行く。

 

 戦いは奇襲を仕掛けたザフトが圧倒的に優勢に進めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ザフトの容赦のない戦いぶりをアークエンジェルのクルーたちは戦慄しながら眺めている。

 

 これだけの艦隊とモビルアーマーがたった4機のガンダムと数機のジン相手に手も足もでないのだ。

 

 マリューが唇を噛み耐えているところに格納庫から通信が入ってきた。

 

 「何で俺達が艦内待機なんだよ! 第8艦隊でもあれの相手はヤバイぞ! 俺達が出ても焼け石に水かもしれんが―――」

 

 「本艦出撃命令はまだありません。引き続き待機を」

 

 まだなにか言っているが無視して通信を切った。

 

 ムウの気持ちは良くわかる。

 

 これは先遣隊の時と同じ、味方がやられているのを見ているだけ。

 

 あの時は逃げる事しかできなかった。

 

 しかし今はできる事がある。

 

 「メネラオスにつないで!」

 

 モニターにハルバートンの顔が映る。その表情には珍しく焦りがみえる。

 

 《どうした!?》

 

 「本艦はこれより艦隊を離脱、降下シークエンス入りたいと思います。許可をお願いします。敵の狙いは本艦です。本艦が離れない限り、このまま艦隊は全滅します」

 

 マリュー指摘は間違っていない。

 

 今も奪取されたXナンバー相手にここまで追い込まれているのだ。

 

 仮に残った全軍をあげて攻勢に出ても返り討ちが関の山である

 

 「閣下!」

 

 ハルバートンは部下の顔を見た。

 

 これから今以上の苦難に襲われるだろう彼らにしてやれる事もなく、悔しさで手が震える。

 

 だがそんな心情を表に出すことなくニヤリと笑った。

 

 《相変わらず無茶な奴だな、マリュー・ラミアス》

 

 「部下は上官に習うものですから」

 

 ハルバートンは笑みを浮かべて頷くと命令を下す。

 

 《よし! アークエンジェルはただちに降下準備に入れ。臨界点まではきちんと送ってやる!!》

 

 彼らの背中を守る。

 

 それがここまでついてきてくれた部下達に最後にしてやれる事なのだから。

 

 そのままアークエンジェルは降下準備に入る。

 

 それは格納庫のムウにも伝わっていた。

 

 「降りる!? この状況で!?」

 

 「まあ、このままズルズルと行くよりは良いんじゃないですかい」

 

 確かにそうかもしれないが、問題はあの四機を振り切れるかどうかだ。

 

 仮にこのまま敵に突破されれば、こちらは逃げ場はない。

 

 「フラガ大尉! 俺達でギリギリまで抑えましょう」

 

 「このままだと第8艦隊も危ないですよ」

 

 アストとキラがコックピットから呼びかけてくる。

 

 ムウはしばらく思案していたが―――

 

 「……そうだな。よし、すぐ出られるようにしとけ」

 

 「「はい!!」」

 

 ムウはゼロのコックピットに乗り込むと再びブリッジに呼びかける。

 

 「艦長、ギリギリまで俺達を出せ!!」

 

 ムウは無茶ともいえる要求をマリューにつきつけた。

 

 このまま見ている事はできないと。

 

 「なにを馬鹿な。こんな状況で―――」

 

 ムウを諌めようと言い返そうとした時、アスト達が会話に割り込んでくる。

 

 「艦長、お願いします。行かせてください。カタログ・スペックではガンダムは単機でも降下可能です」

 

 「それにメネラオスには避難民の人たちも乗っています」

 

 2人の少年が必死に懇願してくる。

 

 マリューは彼らの顔を見ているだけで、胸が痛くなった。

 

 ハルバートンから彼らの地球軍残留の話を聞いた時は耳を疑ったものだ。

 

 ここまで来れば彼らは他の子供たち同様、除隊になるもの思っていたのだから。

 

 当然抗議しようとしたのだが、その時のハルバートンの表情がすべてを語っていた。

 

 どうする事もできないと。

 

 正直、今まであれほど苦渋に満ちた表情は見たことがない。

 

 それを見ては何も言えなくなってしまった。

 

 ムウもどこか辛そうに顔を歪め、ナタルは表情も変えていなかった。

 

 生粋の軍人である彼女からすれば当然ということなのだろう。

 

 だがマリューは納得など到底できなかった。

 

 自分たちはこちらの都合で巻き込んだ少年たちをさらに死地に送り込む事になるのだから。

 

 決断のできないマリューに痺れを切らしたのかナタルが返答する。

 

 「わかった。ただし常に高度とタイムには注意しろ! スペック上は大丈夫でもやった人間はいないんだからな。いいですね、艦長」

 

 「……わかったわ。3人ともフェイズスリーまでには戻ること。いいわね!」

 

 「了解!」

 

 「「わかりました!」」

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘を優勢に進めていたザフトだが何時まで経ってもアークエンジェルに動きはない。

 

 今なお4機のガンダムとジンが次々と新たな獲物を見つけては屠っていく。

 

 中には損傷し、離脱していく艦もいる。

 

 普通なら手は出さず、黙って見ているのかもしれないがラウは違った。

 

 「レーザー照準、主砲発射準備」

 

 「主砲、撃て!!」

 

 ヴェサリウス、ガモフから発射されたビームが離脱中の艦の装甲を貫通すると各所から火を噴き、爆散した。

 

 「人を残せば、新たな武器を手にして再び戦場に来る。それが次に自分を殺すかもしれない」

 

 爆散する敵艦を見ながら笑みを浮かべる。

 

 依然として戦闘の優勢さは変わらず、それを見つめていたラウは静かにつぶやく。

 

 「ハルバートンはどうあっても足つきを地球に降ろすつもりか」

 

 「こちらはおかげで楽ですが。イレイズ、ストライク共に出て来ませんから」

 

 アデスがそうであって欲しいと半ば願望を込めて口にする。

 

 あの2機が来るだけでもどれだけ被害が出るか。

 

 このまま足つきの腹に入ったまま落ちてくれればそれに越したことはない。

 

 とはいえ敵もそこまで甘くはないだろう。

 

 「隊長、私も出た方が良いのでは?」

 

 「そう言うな。たまには部下たちにも花を持たせてやれ。ガンダムも出てきてはいないのだからな」

 

 「……はい」

 

 ラウはしばらくはこうして静観していればいいと思っていた。

 

 今の戦況はならば自分やユリウスが出るまでもないと。

 

 だが予想に反しすぐに状況が動いた。アークエンジェルが降下を始めたのである。

 

 「この状況で降りるだと!? ハルバートンめ! 艦隊を盾にしてでも降ろす気か!」

 

 「足つきよりモビルスーツの発進を確認」

 

 「こんなタイミングで出てくるとは」

 

 アデスの驚くのも当たり前だ。

 

 命知らずとでも言えばいいのか。

 

 限界点も近いはず。

 

 ユリウスはいつも通りの冷静な表情でモニターを見つめていた。

 

 

 

 

 

 ハッチが開いた先に広がっているのはいつもの宇宙ではなく青い地球だった。

 

 「こんな状況で出るのは俺もはじめてだぜ」

 

 いつもより緊張したムウの声が聞こえてくる。

 

 ゼロの発進を見届けた後、アストも出撃する。

 

 「アスト・サガミ、出ます!」

 

 カタパルトから押し出されると、青い海が眼前に広がる。

 

 そのまま吸い込まれそうになる錯覚を振りきって機体を上昇させるが、いつもとは違い機体がうまく上がらない。

 

 なにか引かれる様に機体が重いのだ。

 

 「重力に引かれてるのか」

 

 ペダルを強く踏み込み、スラスターを吹かせ戦場へ向かう。

 

 戦場に到達したアストはまず戦艦に群がるように攻撃しているジンを狙った。

 

 エンジンを破壊しようとしている敵機をビームライフルで狙い撃つ。

 

 放たれたビームがジンの右腕を吹き飛ばし、体勢を立て直そうとしているところに一気に接近しビームサーベルで斬り裂いた。

 

 「次!!」

 

 仲間をやられ怒ったのか近くにいたジンが重斬刀を抜き、襲いかかってくる。

 

 それを見たアストは息を吐き冷静に対処する。

 

 上段より振り下ろされた重斬刀をシールドで受け流し、機体側面からブルートガングで串刺しにして撃破する。

 

 そして次の敵に目を向けようとした時、ビームの閃光がイレイズを掠めていった。

 

 「ブリッツガンダム!!」

 

 艦隊に奇襲をかけてきた黒い機体ブリッツガンダムがトリケロスをかまえていた。アルテミス以来の再会である。

 

 ここでこいつを倒す!

 

 そうすればこの先有利に戦える。アストは汗ばむ手で操縦桿を強く握った。

 

 「イレイズ、アルテミスの借りを返させてもらいますよ」

 

 ニコルもイザーク達のように口に出したりはしないが、ザフトのエリートクルーゼ隊の一員である事に誇りを持っている。

 

 だから足つきとガンダムをここまで逃がし、味方に損害を与えた事に責任を感じていた。

 

 彼も仲間を、プラントを守るために戦うことを決めた1人だからだ。

 

 それだけにニコルの相当な意気込みでこの戦闘に臨んでいた。

 

 トリケロスのビームサーベルを構えるとイレイズに向って斬りかかった。

 

 イレイズは突っ込んできたブリッツのサーベルをシールドで受け止めると、ブルートガングを叩きつける。

 

 ニコルはブルートガングによる衝撃を噛み殺し前を見据えた。

 

 前に戦った時よりも強い。

 

 イレイズのパイロットは明らかに腕を上げているが、決して負けられない。

 

 自分もまたクルーゼ隊の一員なのだから。

 

 そしてアストもまたブリッツを睨む。

 

 ブルートガングは実体剣のためダメージは与えられないが、突き飛ばし距離を取ることはできた。

 

 もう一度息を吐くとビームサーベルを構え、ブリッツを斬りつける。

 

 互いに譲らないまま、両者は激突していった。

 

 

 

 

 

 

 そんな中再び状況は変化する。

 

 ザフト艦の一隻ガモフだけが突出し、旗艦メネラオスに近づいて行くのだ。

 

 もともとガモフは敵の戦列に近い位置にいたが、今では完全に敵陣に入り込んでいる。

 

 これでは敵艦からの攻撃をまともに受けることになる。

 

 「ガモフ出過ぎだぞ!! ゼルマン、なにをやっている!!」

 

 アデスが叫びながら、ガモフに通信をつなぐ。

 

 距離が離れ、ジャマーの影響もあり映像は酷く乱れている。

 

 《……ここまで追い詰めながら引くことは……》

 

 ガモフ艦長ゼルマンの顔は落ち着いたもので、すでに覚悟を決めているような表情だった。

 

 《……足つきは……必ず……》

 

 それを最後に通信が途切れる。

 

 ガモフは敵艦の砲撃を浴びながらも止まらない。

 

 バスターと戦っていたムウはそれを見て驚愕した。

 

 「刺し違えるつもりか!? させるか!!」

 

 バスターにガンバレルを展開し攻撃を加える。

 

 「そんなのが効くかよ!!」

 

 ディアッカはメビウスゼロを落とすためエネルギーライフルを放つ。

 

 それをかわすとガンバレルを操り、狙い通りの位置ににバスターを誘導するとリニアガンを撃ち込んだ。

 

 確かにPS装甲にリニアガンは効かない。

 

 しかしここは大気圏、重力に引かれいて動きにくい。

 

 特に重武装であるバスターは身動きがいつも以上に取りにくい筈だ。

 

 そこを狙わせてもらう。

 

 発射されたリニアガンはバスターの足に直撃すると、そのままバランスを崩してしまった。

 

 「なにぃ!? ぐぁぁぁ!!」

 

 「よし、これで!!」

 

 メビウスゼロがバスターを振り切ってガンバレルを展開し、ガモフを落そうと一斉に攻撃する。

 

 全弾命中しエンジンからも火が出る。

 

 それでも重力に引かれているのか止まることなくメネラオスに突っ込んでいく。

 

 「くそ! 駄目か!!」

 

 ムウは思わず吐き捨てる。

 

 もうどうしようもなかった。

 

 互いの砲撃が艦の装甲を撃ち抜き、そこから大きな爆発が起きる。

 

 メネラオスからシャトルが切り離され、徐々に離れていく。

 

 それと同時に2艦は互いを巻き込みながら灼熱の炎に包まれていった。

 

 アデスはやりきれない気分でその光景を見つめていた。

 

 「クルーゼ隊長……」

 

 思わず振り返るとそこには対照的な二人がいた。

 

 上官のラウはモニターを見つめ、微かに笑みを浮かべている。

 

 その冷たい表情に思わずぞっとしてしまう。

 

 そして隣のユリウスは表情をわずかに歪め、敬礼していた。

 

 死にゆく味方を悼むように。

 

 

 

 

 

 

 キラはエールストライカーのスラスターを噴射させ、ギリギリの位置でデュエルと交戦していた。

 

 アークエンジェルを出撃してすぐにこちらを見つけたデュエルと遭遇し、そのまま戦闘になったのだ。

 

 「前に見た時より速い。装備が変わったからか!」

 

 「今日こそは仕留めるぞ!! このナチュラルが!!」

 

 アサルトシュラウドを装備して増設されたスラスターを吹かし、シヴァを放ちながら距離を詰める。

 

 そしてストライクのビームライフルの攻撃を避けながら、ビームサーベルで上段から斬りつけた。

 

 キラは振りかぶられた一撃をシールドで受け止め、そのまま力一杯突き飛ばす。

 

 この先へ行かせる訳にはいかない!

 

 だからこいつを倒す!

 

 距離を取った隙にこちらもビームサーベルを抜き、デュエルと激しく斬り結んだ。

 

 「アークエンジェルはやらせないぞ!!」

 

 「いい加減に落ちろぉ!!」

 

 サーベルをシールドで受けとめ、こちらも負けじと相手にサーベルを振るう。

 

 2機の高度は戦闘の間にも下がり続け、限界点まであとわずかの位置にまで達していた。

 

 それでもデュエルは引くことなくストライクに攻撃を仕掛けていく。

 

 このままこう着状態が続くかと思われた。

 

 しかし徐々に形勢が片方に傾いていく。

 

 「くそ! 俺が押されている!?」

 

 イザークはストライクの動きについていけなくなっていた。

 

 ビームライフルとシヴァを巧みに使い連続で攻撃を仕掛けるもすべてかわされてしまう。

 

 それに引き替え自分はストライクの攻撃を防御するので手一杯になりつつある。

 

 踏鞴を踏んだデュエルの装甲をストライクのサーベルが掠め傷を作った。

 

 「こんなことがあってたまるか! この俺がナチュラル相手に!!」

 

 イザークにとってこれほどの屈辱はない。

 

 イレイズのパイロットもそうだが相手はナチュラルなのだ。

 

 自分たちコーディネイターよりも劣る種であるナチュラルに後れを取るなど。

 

 こいつをあっさり落とし、今までの借りを返すために今度こそイレイズを落とす。

 

 そのはずだった。

 

 それなのにこっちが逆に追い詰められるなど。

 

 こんなことは認めてはいけない。

 

 「俺が負けるかぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 イザークは叫びながらもストライクに突っ込んでいく。

 

 しかしそれが戦いの明暗を分けた。

 

 キラは突っ込んできたデュエルのサーベルをかわし、そのまま下に構えていたサーベルを斬り上げた。

 

 「しまっ―――」

 

 完全に虚を突かれたイザークは咄嗟に機体を引く。

 

 だが完全には避けきれず、アサルトシュラウド胸部の装甲を抉った。

 

 「浅かったか」

 

 キラはそのままシールドで突き飛ばし、さらにスラスターを吹かしてデュエルの顔面部に蹴りを入れて距離を取ると、地球の重力に引かれ、これ以上の接近が難しくなる。

 

 イザークの顔が屈辱で歪んだ。

 

 ストライクの攻撃でやられなかったのはコーディネイター故の反射神経とアサルトシュラウドを装備していたからだ。

 

 もし新装備でなかったら、コックピットが抉られていたかもしれない。

 

 そこまでいかずともここは大気圏の灼熱の中。

 

 ハッチが吹き飛ばされただけでイザーク自身は燃え尽きていただろう。

 

 それが一層彼のプライドを傷つけた。

 

 「くそぉぉぉぉぉ!! ストライクゥゥ!!!!!」

 

 

 決して認めない!

 

 そんなイザークの心情を表わすようにビームライフルを乱射する。

 

 「そんなものが当たると―――ッ!?」

 

 キラの視界に割り込んで来た物、イザークの攻撃を遮るようにデュエルとストライクの間を横切った。

 

 それはメネラオスから脱出してきたシャトル。

 

 「まずい! やめろ、撃つな! それには―――!!!」

 

 キラは力一杯叫ぶ。

 

 しかし願いは叶わず、イザークは怒りの瞳でシャトルを睨みつけると、ビームライフルをむける。

 

 「よくも邪魔をしてくれたなぁ!」

 

 これは自分の戦いを邪魔した報いである。

 

 「逃げだした腰ぬけ兵どもがぁぁぁぁ!!」

 

 それはキラにも、そしていまだギリギリの位置で戦っていたアストにも見えた。

 

 2人は先ほどみんなと話したことを思い出す。

 

 ≪エリーゼはどうしたの?≫

 

 ≪はぐれてしまったの。探したんだけど見つからなくて≫

 

 ≪先にメネラオスの方に行ったんじゃないかって≫

 

 ≪まあエルちゃんも先に乗ったみたいだし―――≫

 

 コックピットに置いてある紙の花が目に入る。

 

 キラは必死に近づこうとし、アストはブリッツを引き離そうとする、

 

 あのシャトルには―――

 

 

 「「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」

 

 

 だが無慈悲にもデュエルのライフルからビームが放たれる。

 

 本当に一瞬。

 

 シャトルをビームが貫くと衝撃で歪んだかと思いきや、すぐに灼熱の火に焼かれ爆散した。

 

 「うああああああああ!!」

 

 キラはシャトルの爆発に巻き込まれ吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてアストにも見ていた。

 

 無慈悲にもシャトルが燃え尽きる瞬間を。

 

 あまりに現実感がない。

 

 あれに、爆散したシャトルにエルやエリーゼが乗っていたなんて。

 

 信じられない。

 

 信じたくはない。

 

 でも認めたくなくても、頭では理解しているらしい。

 

 その証拠に目からは涙が零れているから。

 

 激しい怒りがアストを支配した。

 

 

 「あ、ああ、あああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 激情と共に何かがアストの中で弾けた。

 

 すべてがクリアになる。

 

 サーベルを振り下ろそうとしているブリッツをシールドで突き飛ばし、グレイプニールごと左腕を斬り落とす。

 

 「おおおおおおお!!」

 

 涙を流し絶叫しながらブリッツに襲いかかる。

 

 左腕を落とし、体勢を崩したブリッツの頭部を斬り飛ばした。

 

 「メインカメラが!? くそ、こいつ急に!!」

 

 「ニコル、下がれ!」

 

 「アスラン!?」

 

 ブリッツの救援にイージスが駆けつけてくる。

 

「今日こそ落とす!! アスト・サガミ!!」

 

 アスランはここで決着をつけるつもりで引き金を引く。

 

 こいつさえいなくなれば!

 

 ビームライフルでブリッツから引き離しイレイズにスキュラで攻撃するがあっさりとかわされ、逆にライフルで反撃されてしまう。

 

 アストの射撃は実に正確であり、イージスをコックピットを狙ってくる。

 

 「邪魔だぁぁぁぁぁ!!」

 

 その攻撃にアスランは思わず舌を巻く。

 

 「なっ、強い!? 前とは違う!」

 

 屈辱で頭に血が上る。

 

 こいつにだけは負けられない!

 

 必死に応戦するもイレイズを捉えられない。

 

 そんなアスランを冷静にさせたのは高度を知らせる警告音だった。

 

 高度がかなり下がっているのが確認できる。

 

 アスランを焦りが支配していく。

 

 それが隙となったのかイレイズのビームがイージスの右足を貫いた。

 

 「ぐっぅぅぅ!? くそ!」

 

 バランスを崩したイージスに容赦なくビームが浴びせられる。

 

 なんとかシールドで防ぎつつ反撃するがひらりとかわされ当たらない。

 

 イレイズの動きに全くついていくことができないのだ。

 

 だが退けない。

 

 後ろには傷ついたブリッツがいる。

 

 なによりも相手は宿敵アスト・サガミなのだから。

 

 そしてアストもまた同じだった。

 

 退くことはできない。

 

 今まで感じたことのない感覚に身を任せ、怒りのまま咆哮する。

 

 「落ちろぉぉぉぉ!!」

 

 絶対にこいつらは許せない!

 

 ここで殺してやる!!

 

 ビームライフルを巧みに使いでイージスを追い詰めていく。

 

 だがそこにシリルを含めたジンが3機、援護に駆けつけてくる。

 

 「アスラン、援護するぞ!」

 

 「シリル、待て! 今のこいつは―――」

 

 「PS装甲でもバッテリー切れに追い込めば倒せる!」

 

 アストの異常な戦闘力を警戒してアスランは制止する。

 

 だがシリルは制止を振り切り、ジンでイレイズに襲いかかった。

 

 ガトリングで牽制しながら、ミサイルで攻撃する。

 

 シリルは前の戦闘でユリウスと共にイレイズを追い詰めていた。

 

 その経験があるが故に、落とせるという自信があった。

 

 それが彼の判断を誤らせてしまった。

 

 「仲間の仇を討たせてもらうぞ、ガンダム!!」

 

 そんなジンの動きは今のアストにはあまりに遅い。

 

 ミサイルをイーゲルシュテルンで迎撃し、爆煙に紛れ懐に飛び込む。

 

 「なっ、こいつ!!」

 

 懐に飛び込んできたイレイズに重斬刀を抜いて応戦、上段から振り下ろす。

 

 「遅すぎる!」

 

 アストは機体を左にそらしてかわすと同時にブルートガングを一閃する。

 

 それによってジンアサルトの両足を切断し、回し蹴りの要領で蹴りを入れる。

 

 「ぐああああ!」

 

 「シリル!!」

 

 援護に入ろうとした他のジンををアータルで迎撃する。

 

 アータルの直撃を受けたジンは耐えることもできず爆散した。

 

 「なんだ、こいつは……」

 

 あまりの動きについていく事もできない。

 

 再びイージスに目標を定めようとした時、アークエンジェルからの通信が入った。

 

 《アスト君、限界よ! 戻って!!》

 

 「なっ」

 

 もう少しで落とせる。

 

 こいつらを倒せるのに。

 

 だがアークエンジェルから離れるわけにもいかない。

 

 「……了解です」

 

 必死に怒りを抑え込みアストはイージスを牽制しながら戦線より離脱した。

 

 

 

 

 こちらを警戒しながらイレイズは距離を取って反転し、足つきとストライクを追っていく。

 

 「アスラン、ありがとうございます。助かりました」

 

 「いや、気にするな。ここは危険だし急いで戻ろう。シリルも大丈夫だな」

 

 「……ああ」

 

 「イージスで運ぶぞ」

 

 損傷したブリッツとジンを掴む。通信機からシリルの声が聞こえてくる。

 

 「くそ、くそぉぉ!!」

 

 シリルはコンソールを叩きながら叫ぶ。

 

 「また仲間を……」

 

 その声を聞きアストへの怒りを再確認する。

 

 「(アスト・サガミ、お前は俺が討つ! 必ずな!)」

 

 帰還しながらアスランは振り返る。

 

 「……キラ」

 

 そこには決別した友が炎に包まれ落ちていく姿が見えた。

 

 

 

 

 シールドを掲げ大気圏に突入したアストはアークエンジェルに向って降りていく。

 

 だがキラの乗るストライクはシャトルの爆発に巻き込まれた影響か、大きく離れていた。

 

 「キラ!!」

 

 《アスト君聞こえる! アークエンジェルを寄せてストライクを回収します。あなたもこちらに合わせて!》

 

「……わかりました」

 

 機体をアークエンジェルが寄せる方に軌道修正していく。

 

 コックピット内はとっくに常人の耐えられる温度を超えていた。

 

 息をするたびに肺が焼けるような苦しさがある。

 

 気を失いそうになりながらも操縦桿を握り操作していく。

 

 何とかアークエンジェル後部に着艦すると視線をストライクの方へ向ける。

 

 ギリギリではあったがどうにか、キラも無事回収できたようだ。

 

 それを確認すると、気が遠くなっていく。

 

 意識を失う寸前、エリーゼとエル、2人の少女の無邪気な笑顔が見えた気がした。




今さらですが機体紹介も載せました。

本当は登場した時に出したかったのですが、すいません。

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