機動戦士ガンダムSEED cause    作:kia

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第9話   目覚めたモノ

 

 

 

 

 

 「レーダーに艦影捕捉! 数は3つ、護衛艦『モントゴメリ』、『バーナード』、『ロー』です!」

 

 アークエンジェルを迎えにきた先遣隊をようやくレーダーに捉え、報告を聞いたブリッジが喜びに湧き、歓声が上がる。

 

 これでようやく助かったと全員が安堵したのだ。

 

 気を抜くのも無理は無い。

 

 表情を変えていないのは怪我をおして、今はブリッジに控えているセーファスくらいである。

 

 一応艦長はマリューということになっている。

 

 だが階級的には彼の方が上であり、合流の時には彼もいた方がいいだろうということでブリッジにいてもらったのだ。

 

 マリューも安堵のため息をつくと前進を指示する。

 

 このまま進み、何の問題もなく合流できる筈だった。

 

 しかし―――

 

 「これって……」

 

 計器を見ていたアネットが思わず呟く。

 

 彼女は交代要員としてブリッジや格納庫などの仕事をしてもらっていて、現在は彼女がCICに入っていた。

 

 「どうしたの?」

 

 「まさか―――ジャマーです! エリア一帯に干渉を受けています!」

 

 その報告に全員が凍りついた。

 

 意味するところは1つしかない。

 

 ―――先遣隊が敵に見つかってしまったのだ。

 

 「敵の数は?」

 

 「現在確認できるのは、ナスカ級2、シグー1、ジン5!」

 

 「モントゴメリより入電! 『アークエンジェルはただちに反転離脱せよ』以上です!」

 

 マリューは咄嗟に判断できず、拳を握る。

 

 目の前で敵に襲われている味方を見捨てて逃げることなど―――

 

 顔を上げ援護に向かおうと命令を出しかけるが、それを遮るようにセーファスが声を上げた。

 

 「ラミアス艦長、撤退を」

 

 「少佐!?」

 

 「……ここで私達がやられる訳にはいかない」

 

 理屈では分かっているが、簡単に納得はできない。

 

 思わず反論の声が出る。

 

 「しかし!!」

 

 なおも食い下がるマリューに対して、あくまで冷静に告げる。

 

 「ラミアス大尉、君は艦長だ。この艦に乗っているすべての者の命を君が握っているんだ。その君が感情に流されてどうする? 何のためにここまで来た? 自分が本当にすべきことを見失うな」

 

 その言葉に反論も出来ず、マリューは下唇を噛む。

 

 彼の言っている事は正論だ。

 

 言い返すこともできない。

 

 自分達はアークエンジェルと2機のGを月に無事に届けなければいけない。

 

 ここでやられたら、ヘリオポリスの犠牲もすべて無駄になってしまう。

 

 自分の判断で保護した民間人やここまで一緒に戦ってきた仲間たちの命を無駄に危機に晒す訳にはいかないのだ。

 

 マリューは憤る感情を抑えつけ、絞り出すように声を出した。

 

 「……撤退します」

 

 「了解」

 

 反転するアークエンジェルにブリッジが静まり返る。

 

 それも仕方がない。

 

 これで助かると思いきや、一転して追われる立場に逆戻りなのだ。

 

 忸怩たる思いを抱えながら拳を固く握りしめる。

 

 そんなマリューにセーファスが再び指示を出した。

 

 「……一応フラガ大尉達を機体で待機させてほしい」

 

 「少佐?」

 

 「念のためだ。敵が現在確認できている戦力だけとは限らない」

 

 確かに先遣隊と同じくこちらも補足されてしまう可能性もある。

 

 保護したクラインの娘の探索隊も派遣されているかもしれないのだ。

 

 「わかりました」

 

 通信を繋ぎフラガ大尉達に、機体で待機を命じる。

 

 切り替えるように息を吐き出し、無事に宙域を離脱出来るよう祈りながら、正面を向く。

 

 

 ―――だが、そんな思いを裏切るように突然通信が入った。

 

 

 「下から敵が来るぞ!!」

 

 ムウの言葉に誰もが反応できない。その時、レーダーを見ていたアネットが叫んだ。

 

 「ッ!?  艦下方より熱源が急速に接近!」

 

 「な!?」

 

 驚きと共に問い返す間もなく大きな振動と衝撃が艦に襲いかかる。

 

 「敵の数は!?」

 

 「ジンが4つ! それから、これって―――」

 

 「どうしたの?」

 

 「Ⅹ303イージスです!」

 

 

 

 

 ユリウスは僚機の3機とイージスを引き連れ、アークエンジェルのすぐ傍まで迫っていた。

 

 敵にこちらの動きを悟らせず、ギリギリまで引きつけ、奇襲を仕掛けたのだ。

 

 こんな回りくどい手を使ったのは当然、理由がある。

 

 あの部隊が迎えの艦艇だとしても本命の足つきに途中で逃げられては意味がない。

 

 だから合流する直前まで敵を泳がせていたのだ。

 

 そしてもう1つ。

 

 足つきがどのように動いても対処できるようにしないといけない。

 

 ユリウスが提案したのは敵が合流する少し前に、モビルスーツを密かに発進、先行させ網を張るというものだった。

 

 足つきが離脱すれば奇襲をかけ足止めし、味方の救援に向かえば後ろから挟撃できる。

 

 「全機、作戦通りに。足つきはエンジンを狙え」

 

 「「「了解!!」」」

 

 この作戦にはアスランも参加していた。

 

 今度こそキラを連れて帰る為に。

 

 最初、ユリウスは反対した。

 

 キラに対する感情が命取りになりかねないと判断したからだ。

 

 しかしあまりにもアスランが食い下がってきた事。

 

 そしてPS装甲に有効なビーム兵器を装備しているのはイージスだけということで許可を出したのである。

 

 ただし撤退命令には絶対に従うという条件付きだが。

 

 「アスラン。わかっているな」

 

 「はい」

 

 「よし、行くぞ!!」

 

 機体を加速させ、アークエンジェルの下方から接近し、ライフルの射程に入ると同時に攻撃を開始した。

 

 

 

 

 ムウは機体を立ち上げながらコックピットの中で舌打ちする。

 

 ここでユリウスに捕まるとは。

 

 彼がいるということは近くにクルーゼもいる筈。

 

 おそらく先遣隊を攻撃しているナスカ級はクルーゼの母艦なのだろう。

 

 だとしたらセーファスの判断は正しかった。

 

 救援に向かっていたら、後ろから挟撃され、こちらが逆にやられていた可能性の方が高いからだ。

 

 「いいか坊主共。敵はこちらを逃がさないためにアークエンジェルのエンジンを狙ってくる。エンジンを守るんだ」

 

 「あの、先遣隊の方は……」

 

 キラの質問に一瞬言葉を詰まらせた。

 

 ジン5機とクルーゼのシグー相手に碌な戦力もないだろう先遣隊が持ちこたえられるとは思えない。

 

 しかしムウは余計な事は言わない事に決めた。

 

 それが原因で戦闘に集中できなくなれば命を落としかねないからだ。

 

 「……そっちは今は忘れろ。アークエンジェルが落とされたら意味がない。何にしても俺たちが脱出しなければ、あっちも逃げられないからな」

 

 「わかりました」

 

 「よし、 ムウ・ラ・フラガ、出るぞ!!」

 

 メビウス・ゼロが出撃すると続いてストライク、イレイズも発進する。

 

 「アスト・サガミ、出ます!」

 

 「キラ・ヤマト、いきます!」

 

 2機がアークエンジェルを飛び出すと、ムウのゼロがすでにジンと交戦を開始しているのが見えた。

 

 援護のためそちらに向かおうとスラスターを吹かすが、阻むように青紫のジンハイマニューバが立ちふさがった。

 

 「またかこのジンか!!」

 

 アストの脳裏にヘリオポリスでの戦いが思い起こされる。

 

 あの時は何もできないまま、一方的にやられた。

 

 だが今度は違う!

 

 「いくぞ!」

 

 イレイズは接近してくるジンを狙いビームライフルを撃った。

 

 だが敵はあっさりとビームをかわして見せると、重斬刀を抜き斬りかかってくる。

 

 「アスト!!」

 

 キラは咄嗟にイレイズを援護しようとするが、イージスが突っ込んでくる。

 

 この機体は!?

 

 ―――あのガンダムには幼い頃からの友人であるアスランが乗っている。

 

 その事実と共に一瞬だけ脳裏を掠めた記憶がキラの表情を歪めた。

 

 「……イージスガンダム。アスラン!?」

 

 「キラか!」

 

 ようやくアスランはキラと話す機会を得た。

 

 この為にユリウスの反対を押し切って奇襲部隊に参加したのだ。

 

 逸る気持ちを抑えキラに話かけようとする。

 

 しかし、ストライクはビームサーベルを構え、迷いを振り捨てるかのようにイージスに斬りかかってくる。

 

 「やめろ、キラ! 俺たちが戦う理由なんてないんだ!」

 

 「アスラン」

 

 「何故そんな物に乗って俺達と戦う? どうしてお前が地球軍にいるんだ?」

 

 そう、自分達が刃を交え、戦う必要など何処にもないのだ。

 

 「僕は地球軍じゃない……」

 

 「なら戦うのをやめ―――」

 

 「それでも戦う理由ならある! あの艦には仲間が、友達がいるんだ!! 僕はみんなを守る!!」

 

 「キラ!?」

 

 ストライクのビームサーベルをシールドで防御しながらアスランは必死に声を上げ説得を続ける。

 

 しかしキラは全く手を緩めない。

 

 何故なんだ?

 

 キラは何を考えている?

 

 あまりにも簡単で当たり前の事。

 

 間違っているのは地球軍、正しいのはザフトでありプラントだ。

 

 なのに―――

 

 アスランは受け止めたサーベルを力任せに払うとイージスを後退させる。

 

 「やめろ!」

 

 「君こそどうしてザフトに入ってるんだ? 戦争なんか嫌だって言ってたのに……なんでヘリオポリスを―――みんなを傷つけるんだよ!!」」

 

 互いにビームライフルを構えて銃口から閃光が放たれる。

 

 アスランはストライクのコックピットをわざと外し武装を狙う。

 

 キラを殺さないようにするためだ。

 

 ビームの一射をストライクはシールドで防ぎ、撃ち返す。

 

 「ナチュラル共がこんな物を作って、戦火を拡大させようとしているからだ!!」

 

 ストライクの攻撃を捌きながらキラの説得を続けていく。

 

 正直、こんなに抵抗されるとは思っていなかった。

 

 キラはコーディネイターなのだ。

 

 こちらの言い分がわからないはずがない、そう思っていた。

 

 だがキラの動きに迷いはなく、本気で戦っている。

 

 それが一層アスランを困惑させた。

 

 

 

 

 ストライクとイージスが激しい戦いを繰り広げていた頃、イレイズもまた青紫のジンと交戦していた。

 

 スコープで狙いをつけ、ビームライフルで狙撃する。

 

 だが掠める事すらできずすべて避けられてしまう。

 

 それでもアストは敵機を目で追いながら攻撃の手を緩めない。

 

 一見すると前回同様そのスピードに翻弄されているかに見える。

 

 だが―――

 

 「いつまでも一方的にはやられない!!」

 

 ジンの重斬刀を後退したかわすと、イーゲルシュテルンで牽制しながらビームライフルのトリガーを引く。

 

 「チッ、こちらの動きについてくるか」

 

 連射されるビームの攻撃をユリウスはスラスターを吹かせて回避するとライフルで攻撃する。

 

 放った一射をシールドで防御すると再びイーゲルシュテルンを放ってきた。

 

 イレイズは極力ビーム兵器を温存しながら実弾で攻撃、さらにはこちらの攻撃をシールドを使って防いでいく。

 

 いくらPS装甲が実体弾を無力化できると言っても限界がある。

 

 バッテリー切れになればそれまでなのだ。

 

 「少しはマシに戦えるようになったようだな」

 

 イーゲルシュテルンを回避しながらユリウスはイレイズの動きを冷静に観察する。

 

 ヘリオポリスで戦った時ほど一方的にはなっていない。

 

 依然としてユリウスの方が技量としては圧倒的に上である事に変わりはない。

 

 しかしアスト自身が戦闘に慣れてきたという事と機体性能の差で何とかカバーしているらしい。

 

 「相変わらず厄介な機体だ。アスト・サガミも腕を上げている。これ以上の放置はやはり危険だな」

 

 ユリウスは周囲の戦況を見ると、ヴェサリウスは今だ戦闘中でこちらには来られず、イージスはストライクの相手をしている。

 

 他のジンは足つきの攻撃に回っているようだが、ムウ・ラ・フラガに邪魔されているようだ。

 

 情報をすべて頭の中でまとめ、即座に戦略を立てる。

 

 「……イレイズを確実に仕留めるには貴方は邪魔だな、ムウ・ラ・フラガ」

 

 ライフルで牽制し、蹴りを入れて吹き飛ばす。

 

 蹴りを入れられた衝撃がアストを激しく揺さぶった。

 

 「ぐっ、うう」

 

 動きが止まったイレイズにさらに重斬刀を叩き込む。

 

 アストは反射でシールドを掲げ防御するが、威力は殺しきれずさらに距離が開いた。

 

 「お前の相手は後だ」

 

 そのままイレイズを無視し、ムウの方に向って行く。

 

 「バリアント、撃てぇー!!」

 

 アークエンジェルは接近して来るジンを取りつかせまいと必死に応戦する。

 

 徐々に先遣隊のいる宙域からは離れているが、まだ安心できる距離ではない。

 

 ナスカ級は高速艦、この程度では簡単に追いつかれてしまう。

 

 「ぐっ」

 

 「少佐!」

 

 呻くような声のする方を見るとセーファスが顔を歪めている。

 

 本来は戦闘に出られるような状態ではない。

 

 攻撃による震動は堪えるのだろう。

 

 「私は、大丈夫だ。指揮に集中しろ、ラミアス大尉」

 

 「は、はい」

 

 とはいえ、戦闘が長く続くとまずい。

 

 出来るだけ早く敵を撃退しなければ。

 

 そんな中、外ではムウのメビウスゼロがアークエンジェルの傍で攻撃を加えていたジンをガンバレルで迎撃していた。

 

 一射目はかわされるがそれは計算の内。

 

 側面に回り込ませたガンバレルの攻撃でジンの左腕を損傷させ戦闘不能にする。

 

 「これで1つ―――ッ!?」

 

 不利と悟り撤退していくジンと入れ替わるように、冷たい感覚がムウを襲う。

 

 「ユリウスか!?」

 

 迎撃の態勢を取るゼロに対して一気に距離を詰めたユリウスは相手の動きを予測しながらライフルを撃ち込むがギリギリで回避される。

 

 「避けるか、流石『エンデュミオンの鷹』だな。しかしムウ、あなたでは私の相手としては役不足だ。さっさと退場してもらおうか!」

 

 そのまま肉薄、ゼロの展開したガンバレルの一つを袈裟懸けに振るった刃が斬り飛ばす。

 

 「チィ!」

 

 咄嗟にスラスターを逆噴射させ、距離を取るとリニアガンで攻撃するが全く当たらない。

 

 ジンはバレルロールで回避運動を行いながら正確な射撃でゼロを狙ってくる。

 

 だがムウも何もしない訳ではない。

 

 残ったガンバレルを巧みに操り、ジンの左右から挟撃する。

 

 「これで!!」

 

 追い込み、確実に捉えた筈の攻撃すらも舞うような動きで回避されてしまう。

 

 それを見て歯噛みしながら思わず毒づいた。

 

 「本当に厄介な奴だな! けどやられっ放しも情けないでしょ!」

 

 ジンの回避先をあらかじめ予測していたムウはそこにリニアガンを放つ。

 

 「喰らえ!!」

 

 「ッ!?」

 

 ガンバレルをかわして体勢を崩した所に完璧なタイミングでの攻撃。

 

 落とすことはできなくとも損傷くらいはできると確信する。

 

 殺った!

 

 しかし、ユリウスはそんなムウの予想のさらに上をいった。

 

 驚異的な反応で機体を半回転させ、ギリギリで回避して見せたのである。

 

 「なっ、避けた!?」

 

 完璧なタイミングで放った一射をかわされた事でムウは動揺し、動きを鈍らせてしまう。

 

 「甘いな、ムウ」

 

 その隙を突く形でライフルが発射された。

 

 ゼロも咄嗟に回避行動を取るが間に合わない。

 

 「ぐっ!」

 

 直撃こそ避けたが側面に損傷を受けてしまう。

 

 「このまま落とすことはできるが、それはクルーゼ隊長に譲るとしよう。それに今相手にすべきは貴方ではないからな」

 

 「くそ、これじゃ立つ瀬ないでしょ! 俺は!」

 

 撤退していくムウを冷めた目で見送るとアークエンジェルに視線を戻す。

 

 「次は君達かな」

 

 そのままアークエンジェルのエンジンにライフルを構え攻撃する。

 

 無論敵艦も簡単にやられるつもりもないようだ。

 

 最後の抵抗のようにミサイルやレールガンで迎撃されるが、ユリウスは余裕で対処していく。

 

 ミサイルを撃ち落とし、レールガンを回避する。

 

 「無駄だよ。私には当たらない」

 

 ライフルのトリガーに指を掛けると躊躇う事無く引きエンジンを狙った。

 

 「悪いが君たちを逃がすわけにはいかない」

 

 一直線に進んだ一撃が狙い通りエンジンに損傷を与える。

 

 「キャアアアア!」

 

 アークエンジェルが激しく揺れ、ブリッジにアネット達の悲鳴が響き渡る。

 

 「損害を報告しろ!!」

 

 「第2エンジン損傷!! 出力低下!!」

 

 「まずいわ! このままではナスカ級から逃げられなくなる!!」

 

 エンジンから煙を吹くアークエンジェルに再度攻撃を仕掛けるためユリウスはライフルを構える。

 

 そこに追いついてきたイレイズがビームライフルを撃ち込みながら、接近してきた。

 

 狙い通りだ。誘い出されたとも知らずに獲物がやってきた。

 

 「アークエンジェルはやらせない!!」

 

 ユリウスは笑みを浮かべ、近くのジンに指示を出す。

 

 「追いついてきたか。シリル、クード、ついてこい!」

 

 「「了解!」」

 

 イレイズを取り囲むように、三機のジンが周囲に展開する。

 

 ユリウスが速度を上げて突っ込んでいき、袈裟懸けに斬り払う。

 

 「こいつら―――なっ!?」

 

 重斬刀の一太刀を後退して回避するが、背後に回り込んだもう一機がライフルで攻撃してくる。

 

 「ぐぅぅぅ! くそ!!」

 

 そこからどうにか離脱しようとすると、さらに別の一機が割り込んでくる。

 

 「逃がさねぇよ! シリル!!」

 

 「了解!!」

 

 豪を煮やしたイレイズがビームライフルを構えると今度は側面から別のジンがライフルを連射してくる。

 

 そちらに狙いを変えると今度は別方向からの攻撃されてしまう。

 

 かと言ってビームサーベルで斬りかかろうとしても距離を取られる。

 

 完全に敵のペースに乗せられてしまっていた。

 

 アストが前に戦ったイージス、デュエルも連携はお世辞にもうまくはなかった。

 

 だからこそ互角に戦うこともできた。

 

 しかしこのジン達は違う。

 

 完全な連携でイレイズを翻弄していた。

 

 「この!!」

 

 ビームライフルの一撃も青紫のジンは軽く避けて当たらない。

 

 アストに焦りが広がっていく。

 

 このまま攻撃を受け続ければどうなるか考えるまでもない事なのだ。

 

 シリル、クードのジンは距離を取り、速度で翻弄するユリウスの援護に回っている。

 

 これでは打つ手がない。

 

 「確かにPS装甲に実体弾は効かない。だが限界はある」

 

 そう無限ではない。実体弾でもエネルギーを削ることはできるのだ。

 

 だからユリウスは各機と連携し、効率よく攻撃することでイレイズのバッテリー切れを誘う作戦を取った。

 

 しかし、そこにイレイズを援護する者がいれば作戦に支障をきたす恐れがある。

 

 つまりムウを先に狙ったのはこの為であった。

 

 もし仮にムウがいればここまでの連携を取れなかっただろう。

 

 ストライクの方はアスランに任せている。

 

 もし説得に失敗しても、イレイズを先に仕留めた後でならどうとでもなる。

 

 「終わりだよ、アスト・サガミ!!」

 

 この作戦は欠陥を抱えるイレイズにとって最悪の作戦だった。

 

 「まずい、エネルギーが!」

 

 アストの危惧通りの展開。コックピットに鳴り響く警告音。

 

 バッテリーの残量が危険域に入っている。

 

 他の五機のガンダムならば、まだ余裕があったかもしれない。

 

 だがイレイズには致命的だった。

 

 「くそ!」

 

 「逃がさないよ」

 

 なんとか包囲網を抜けようと離脱を試みる。

 

 だが背後に回ったジンから攻撃を加えられてしまう。

 

 前に吹き飛ばされた先に次のジンがいる。

 

 突撃銃を構えイレイズを狙って放たれた。

 

 「うああああ!」

 

 ジンの放った弾が直撃する。

 

 それで最後。

 

 エネルギーがゼロになり、装甲が落ちると色が消え失せ元の鋼の色に戻る。

 

 「止めだ!」

 

 ユリウスが重斬刀で斬り裂こうと突っ込んでくる。

 

 避けられない、やられる。

 

 アストはこの先に襲いかかるであろう衝撃を想像し、思わず目を閉じた。

 

 

 

 その少し前―――

 

 

 

 アスランのイージスに阻まれていたキラにもアストが苦戦しているのがすぐにわかった。

 

 あのままではやられてしまう。 

 

 急いで助けに行かなければ!

 

 「アスト!!」

 

 すぐに援護に向かいたいが、そこにイージスが割り込んでくる。

 

 キラは邪魔をするイージスに苛立ちながらビームサーベルを横薙ぎに振った。

 

 「やめろ、キラ!」

 

 その攻撃をシールドで受け止めると、イージスもまたビームサーベルを叩きつける。

 

 斬撃をシールドで受け止め、互いに火花を散らしながらこう着状態になった。

 

 その光に照らされ、苛立ちを込めてキラは叫んだ。

 

 「アスラン、退いて! このままじゃアストが!」

 

 「……あいつの事は諦めろ」

 

 「アスラン!?」

 

 「あいつは仲間を傷つけた敵だ。このまま放置しておけば、また仲間を傷つける。だからここで討たなきゃいけない」

 

 「ふざけるな!!!」

 

 「いい加減にしろ、キラ! 剣を引いてこちらに来るんだ! あいつに何を言われたのか知らないが、こっちがお前の居場所なんだ!!」

 

 アスランはなにを言っているのだろうか。

 

 アストを諦めて見捨てろと、そう言っているのか。

 

 キラはアスランに対して初めて失望感を抱くと同時に激しい怒りが込み上げてくる。

 

 アストはヘリオポリスからずっとみんなのために頑張ってきた。

 

 キラがアスランの事を話した時も戦わなくていい、そう言ってくれた。

 

 アルテミスで何もできず、申し訳なくて謝った時も気にするなと、そう言ってくれたのだ。

 

 そんな彼を見捨てろと、アスランは言ったのだ!!

 

 怒りのまま叫び返そうとした時、キラの視界には追い詰められたイレイズが見えた。

 

 「アスト!!」

 

 

 あの時の覚悟を思い出す。

 

 

 今度は自分が皆を、アストを守るのだと。

 

 

 でもこのままではアストは―――

 

 

 

「そんな事は、絶対に――――!!!!」

 

 

 

 その時―――キラの中で何かか弾けた。

 

 

 それと同時に急に視界がクリアになり、鋭い感覚が全身に広がる。

 

 激しい怒りがキラの中に渦巻き、それをぶつけるように目の前の敵に叫んだ。

 

 「邪魔するなぁぁぁぁ――――!!!!」

 

 イージスをシールドで突き飛ばし、サーベルを一閃する。

 

 「なっ!?」

 

 サーベルが体勢を崩したイージスのシールドを弾き、その隙に蹴りを入れる。

 

 「くぅ、キラ!」

 

 先程までとはまるで違う動きについていくことができない。

 

 キラは吹き飛ばされたアスランを無視し、イレイズの方へと機体を向ける。

 

 「待て! キラァァ!!!」

 

 アスランの制止も虚しくストライクはイレイズの援護に向かって行った。

 

 

 

 

 ジンに追い詰められたイレイズの装甲が落ち、青紫のジンが止めとばかりに、刃を構えて突っ込んでいく。

 

 やらせるか!!!

 

 「やめろぉぉぉぉ!!!」

 

 ストライクはビームサーベルを青紫のジンに向け上段から振り下ろす。

 

 しかし、直前にこちらに気がついたのか敵機は驚異的な反応でそれを回避する。

 

 「ストライクだと!?」

 

 だがキラは追撃をやめない。

 

 かわしたジンにイーゲルシュテルンを放ち、体勢を崩すと再びサーベルを叩きつけた。

 

 それすらも避けようとするがユリウスの操縦に機体が反応しきれない。

 

 ストライクの一撃に回避が間に合わず左腕を斬り落とされた。

 

 ユリウスは機体反応の鈍さに苛立ちながら、敵を睨みつける。

 

 「くっ、この動きは……」

 

 「「ユリウス隊長!!」」

 

 周りにいたジン達が援護の為に向かってきた。

 

 「シリル、お前は左からだ!!」

 

 「了解!」

 

 左右に別れ、ストライクを挟みうちにしようと仕掛けてくる。

 

 だが今のキラには通用しない。

 

 すべてが止まって見える程に二機の動きは遅かった。

 

 ライフルによる射撃を回避しながら、右から迫ってくる1機にビームサーベルを投げつける。

 

 投擲された光刃の一投が予想外だったのか、反応が遅れかわしきれずジンの頭部に突き刺さる。

 

 「なっ!?」

 

 「遅い!!」

 

 そのまま懐に飛び込むとアーマシュナイダーを引き抜き、躊躇うことなくコックピットに突き立てた。

 

 突き刺さった刃が火花を散らし、クードは完全に押しつぶされてしまった。

 

 「クードォォォ―――!! こいつよくも!!」

 

 仲間であるクードの死に激高したシリルがストライクに突撃する。

 

 だがキラは焦ることなく、動かなくなった目の前のジンをつかむと敵に投げつける。

 

 「何だと!?」

 

 シリルは投げつけられたジンとの衝突を避ける為、スラスターを吹かし横へと逃れた。

 

 だがそれこそがキラの狙いだ。

 

 シリルがかわした瞬間にビームライフルで投げつけたジンを撃ち抜くと爆散させた。

 

 「ぐああああ!!」

 

 爆発に巻き込まれたジンは撃墜こそされなかったが戦闘のできる状態ではない。

 

 形勢は完全に逆転した。

 

 ユリウスはこれ以上は無理と判断すると即座に撤退命令を下す。

 

 「シリル、退くぞ!!」

 

 「しかし!!」

 

 「時間は稼いだ。これ以上は無駄死になる! アスラン、来い!!」

 

 「くそっ!!」

 

 青紫のジンが後退すると損傷したジンも撤退していく。

 

 そしてイージスも、反転して戦闘宙域から離れていった。

 

 「ハァ、ハァ」

 

 「キ、キラ、今の……」

 

 「アスト、大丈夫?」

 

 「あ、ああ。キラのおかげだ。ありがとう」

 

 その言葉で安堵した。自分は守ることができたのだと、ホッと胸をなで下ろした。

 

 

 

 

 

 ユリウスは後退しながら状況を整理していた。

 

 ヴェサリウスは危なげなく敵艦を殲滅したようだ。ここまでは予想通りと言えるだろう。

 

 しかし問題はこちらの方に起きた。

 

 作戦は自体は予定通りといって良く、足つきを沈める事は出来なかったが、十分に時間は稼いだ。

 

 今の距離ならヴェサリウスであれば問題なく追いつける。

 

 しかし、イレイズをあそこまで追い詰めながら落とすことはできなかった。

 

 その原因はストライクにある。

 

 ストライクが―――いやキラ・ヤマトが見せたあの動き、

 

 「あれは、まさか……」

 

 そうだとすれば今後大きな脅威となる。

 

 「どこまでも忌々しいな、キラ」

 

 その呟きには隠しきれない憎悪が潜んでいた。

 

 そしてアスランもまたやりきれない思いを抱えていた。

 

 説得できなければ―――

 

 以前ラウとした約束が脳裏を過る。

 

 「キラ、どうしてだ……」

 

 キラを撃つなどあり得ないとそう思っていた。

 

 だが最後に見せたあの動きは自分はおろかユリウスにまで損傷させるほどの力をキラは見せたのだ。

 

 あいつがこのまま地球軍として戦い続けたなら、ザフトは大きな被害を被るだろう。

 

 多くの仲間があいつに討たれる。

 

 だから今度はキラを……

 

 そこまで考えて、嫌な想像を振り捨てるように頭を振った。

 

 まだチャンスはきっとある。

 

 もう一度きちんと話せば大丈夫なはずだ。

 

 そう自分に言い聞かせる。

 

 それにしてもキラはこちらに本気で敵対してきた。

 

 アスランの知っているキラは争い事を嫌っていたはずだ。

 

 それが何故―――

 

 アスランの脳裏浮かぶのはイレイズのパイロットの事。

 

 確かアストとかいう奴だ。

 

 ヘリオポリスからずっと因縁がある。

 

 「……あいつがキラに何かを吹き込んだのか」

 

 キラは昔からお人好しだった。

 

 今もそんなキラを足つきにいる連中は利用している。

 

 アストという奴もそうかもしれない。

 

 アスランの操縦桿を握る手に必要以上の力が入る。

 

 だとしたら、許せない。仲間を傷つけ、ミゲルを殺し、今度はキラまで。

 

 「やはり討つしかない、奴を」

 

 アスランは決意した。

 

 それこそがキラとの決定的な決別に繋がるとは気がつかないまま。




戦闘回、そしてキラSEED覚醒です。

原作より早いですが。

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