ペルソナ4→3   作:第7サーバー

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再投稿。
オリジナルコミュが出たりする話。
オリジナルコミュは捏造ですが、設定系の本を参考にしてたりもします。


4月27日(月)~30日(木):真実の行方

2009年4月27日(月)

 

「単刀直入に言う。君たちに生徒会に入ってもらいたい」

 

それは、2-Fの教室に現れた美鶴が開口一番、悠と湊に対して言った言葉だ。

 

「生徒会?」

「急にどうしたんですか?」

 

本当に単刀直入過ぎる言葉だったので、悠と湊は顔を見合わせてから美鶴に詳しい事情を聞くことにした。

 

「うむ。生徒会長というのも、中々多忙でね。緊急時に口裏を合わせられる人間が欲しい。そしてそれは男女一人ずついるのが理想だ」

 

周りにまだ他の生徒がいることもあり、若干声を抑えて美鶴はそう言った。

 

「でも、私部活とかも入ってますよ?」

 

悠だけでなく湊も部活に入っていたらしく、生徒会と掛け持ちしてもいいのかと尋ねる。

 

「生徒会の活動は定例だが、君たちを常時束縛するつもりはない。時間がある時に生徒会室に来るように心がけてもらえるだけでいい。どうだ?」

「俺は構いません」

「そういうことなら私も」

 

美鶴の言葉にあっさりと頷いてみせる二人だが、すでに通常の学生生活とタルタロスの探索に加えて、バイトに部活とかなり色々やっている。

この二人のバイタリティはどれだけ高いのかと思わずにはいられない。

 

「ありがとう。君たちならそう言ってくれると思ったよ。……事後報告になるが、君たちの生徒会所属の件はすでに承認済みだ。ただ、登録の手続きだけは君たちが直接やらなければならない。君たちの担任のところに行って手続きして来てくれ」

「あれ? これって実質拒否権なかった?」

「相談もなしに段取りをつけたことは詫びるが、君たちを必要とする私の境遇を理解して欲しい。では――手続きを終えたら生徒会室に来てくれ」

 

美鶴を見送った二人は職員室で鳥海から書類を渡されサインを書く。

そして、その足で生徒会室に向かった。

 

「先日も話したが、有里湊と鳴上悠の両名には、今日から生徒会の一員として働いてもらう」

「君たちの話は聞いている。僕は“小田桐秀利”。風紀委員を仕切らせてもらっている」

 

秀利はクラスは違うが悠たちの同級生で、風紀委員という先入観もあるかもしれないが、学園パンフレットの見本のようにきっちりと制服を着こなした姿からは、生真面目さが窺える。

隣にピンヒールブーツの生徒会長がいるが、それは気にしてはいけないことだ。

上履き? 上履き型ピンヒールブーツだよ! ……たぶん。

 

「会計の“伏見千尋”です。1年生で分からないことのほうが多いので……その、お、お手柔らかにお願いします」

 

少し緊張した様子で自己紹介をしたのは黒縁メガネで下級生の女子だ。

 

「ああ。こちらこそよろしく」

「よろしくお願いしまーすっ!」

 

他にも数人の役員の自己紹介を受けて、二人もこれから共に頑張ろうと頭を下げ、軽い拍手で迎え入れられる。

 

「……会長が人を推薦するなんて、君たち、よっぽど有能なんだろうね。これから宜しく」

 

>秀利との間にほのかな絆の芽生えを感じる…

>秀利のことが少し分かった気がした…

 

我は汝…、汝は我…汝、新たなる絆を見出したり…絆は即ちまことを知る一歩なり。汝、“皇帝”のペルソナを呼び出せし時、我ら、失われた力を解放せん…

 

>“皇帝”属性のコミュニティである“生徒会”のコミュを手に入れた!

>鳴上悠の失われた力“皇帝”属性のペルソナの一部が解放された!

 

ペルソナ全書を見ると、しかし、絵柄が影になって追加されただけだった。

これは、恋愛のアルカナの時と同じだ。

おそらくは制御できる範囲のペルソナではないのだろう……いや、それとも他にも何か理由があるのだろうか。

たとえば、悠の力が足りないのではなく、育まれた絆がまだまだ弱いとかだ。

 

……生徒会に入り、生徒会役員たちと知り合いになった。

 

 

同日 -放課後-【辰巳東交番】

 

「ん? 来たな。今日は気分が良い。安くしてやるが、何か買って行くか?」

「そうですね……」

 

悠が考えながら視線を巡らせていると、黒沢の前に湯飲みが二つ置かれているのに気付いた。

 

「誰か来てたんですか?」

「――ん? ああ。ちょっと探偵がな」

「探偵?」

「警察の協力者ってヤツだ。警察関係者の中では有名な探偵一族の五代目……とは言っても、今はまだ君よりも年下の子供だな。頑張ってはいるようだが、名前が売れるにはもうしばらく時間が掛かるだろう」

「へえ……。そうなんですか」

 

悠はその人物に多少の興味を抱いた。

とはいえ、なんとなく気になる程度の感情だったので、すぐに思考を装備に戻す。

悠の現在の装備はタルタロス内の金色の宝箱から見つけた“数珠丸恒次”だ。

ここにある“グレートソード”のほうが性能は良いが……。

 

「“ケプラーシャツ”だけ貰います」

「そうか。やはり、刀のほうが良いのか?」

「はい」

「なら次は刀を用意しておこうか」

「お願いできますか」

「ああ。分かった」

 

黒沢の申し出をありがたく受け、それから――そういえばと確かめる。

 

「――あ、有里は来ていないですよね?」

「今日は来ていないな」

「なら、せっかくなので、グレートソードと、他のも買って行きます」

「そうか」

 

悠は武器防具を人数分買い揃えた。

そして寮に帰りみんなに渡したのだが――……。

 

「あーっ! 順平はダメ! 防具没収!」

「え、なんでオレっちだけ?」

 

湊がなんてことを――と憤慨した様子で順平に渡した装備を取り上げる。

自分は何か間違ったことをしただろうかと悠は考えるが――。

 

「だってせっかく、“男気の甚平”に“バンカラ下駄”なんて面白装備を手に入れたのに!」

 

――そんな理由だった。

その様子に悠ではなくゆかりが呆れたような溜息を吐く。

 

「あれ? オレっちひょっとしてネタ要員?」

「うんっ!」

「そんなイイ笑顔で肯定すんなって!」

 

順平が怒っても湊はどこ吹く風だ。

リーダー権限と、強硬にその装備を順平に勧める。

 

「……俺が代わりに着ようか?」

「おまっ、マジ良いヤツ……」

「鳴上くんが着ても背中の文字が“真”でそんなに面白くないからダメだよ~」

 

その状況に悠がした提案もあっさりと湊に却下された。

タルタロス内で発見した男気の甚平は、着る人間によって背中に現れる文字が変わるという不思議装備だったのだ。

 

「そして、お前は少し自重しろ……。くそっ、“色”なんて文字が出た自分のボケ体質が恨めしい……」

 

その後、なんとか湊の説得に成功した……。

 

 

2009年4月28日(火)

 

その日は陸上部の部活動に参加することにした。

トラックを何周も走る……。

 

「はあっ、はあっ……鳴上、お前、足速えーな……しかも、全然息切れしてねえじゃねえか。普段どんな鍛え方してんだよ」

「特別な鍛え方だ」

 

タルタロスの探索なんてことをしていれば、実際嫌でも体力は付いていくだろう。

普段の生活ではペルソナの恩恵による身体能力の向上……身体強化は為されていないとはいえ、やはり身体を動かしていることには変わらないので、意識せずとも常人以上に鍛えられていくのだ。

 

「あー、やっぱそうか……。こりゃ、俺ももっと頑張らねーとな」

 

だが一志は悔しがるでもなく、そう言って明るく笑っている。

実は一志は陸上部のエースと言える存在であり、そのためにこれまで競い合える相手が限られていたので、自分以上かもしれないライバルが現れたことが嬉しいのであった。

 

「お疲れー」

「おー」

「はい、タオルとドリンク。鳴上くんも」

「サンキュー」

「ああ。ありがとう」

 

悠と一志は、褐色の肌をしたマネージャーの“西脇結子”からタオルとドリンクを受け取り、お礼を言う。

 

「それにしても鳴上くん凄いねー。ミヤって一応うちのエースだよ」

「根性だ」

「む。俺の根性がまだまだ足りないってことか。確かにお前の根性っていうか、根気は“タフガイ”って感じがするけど……でも、根性って悪くねえよな。ぃよっしゃあ! やってやるぜ! まずはお前を乗り越えてやる!」

「あーあ……普段から暑苦しいヤツが余計暑苦しく……」

 

結子が呆れた様子で一志を見ている。

 

「さて――……っと?」

「ん、どうかした?」

 

座り込んでドリンクを飲んだり休憩していた一志が、立ち上がった時に何やら不思議そうな顔をしたので、結子が尋ねるが、一志は少し考える素振りを見せた後に首を振った。

 

「いや……? なんでもねえ。とりあえず今日の練習は終わりだ。鳴上。わかつでも寄って帰ろうぜ」

「そうだな」

「ちゃんと栄養管理もしなさいよー?」

「おう、分かってるって!」

 

悠は一志とわかつに寄ってから帰ることにした。

 

>一志のことがまた少し分かった気がする…

 

【Rank up!! Rank2 戦車・運動部】

 

>“運動部”コミュのランクが“2”に上がった!

>鳴上悠の失われた力“戦車”属性のペルソナの一部が解放された!

 

ペルソナ全書を見ると、“エリゴール”が追加されている。

さらにもう一体、絵柄は影のままだが、少しくっきりとした輪郭になっている。

とはいえ、今の悠の力では呼び出すまでには至らないようだ。

悠の現在のLVは13。

そのことから考えてみると、コミュランクが1上がる度にLVにして10の範囲分追加されるということだろうか。

それなら、皇帝のアルカナの時には悠のLVは足りていても、そもそもLVが10以下のペルソナが存在しなかったとも考えられる。

加えて、前の時はそれほど気にしていなかったが、スライムの時は“ナタタイシ”。

ピクシーの時もそのすぐ後のタルタロス探索中に“オロバス”が解放された。

それぞれLVが6と8になった時のことだ……どうやらその考えで合っていそうだなと悠は思った。

 

 

同日 -夜-【巌戸台分寮】

 

「……君か。お帰り。良いところに帰ってきた。シャドウ襲撃の際に不通になっていたインターネットだが、明日には復旧する予定だ。部屋にパソコンがあるなら繋いでみるといい」

「はい」

 

悠の荷物の中にはノートパソコンがあったはずなので、ネットをすることは可能だろう。

 

「これでシャドウにやられたものは、全て……いや、明彦のアバラが残っていたな」

「あーそだ、ネットで思い出した。“デビルバスターズ・オンライン”ってネットゲームがあんだけど、お前やる? 家から持ってきた荷物に紛れてたんだけど、オレはもういいからさ」

 

ラウンジのソファで雑誌を読みながら何とはなしにその会話を聞いていた順平の言葉に、同じく寛いでいた湊が声を上げる。

 

「順平、ヒドイ! 私にはそんなこと言ってくれなかったのにっ」

「は? だから今思い出したんだって。ってか、有里ネトゲとか興味あんの?」

「ううん。別に」

「……なんなんだよ、お前!」

「順平、うるさい」

 

湊の答えにじゃあ言うなと至極真っ当にツッコミを入れて、ゆかりに怒られる順平。

順平は今日も通常運転のようだ。

 

「え、オレっちのせい!!? ……そんで、どうする?」

「俺もそれほど興味はないな」

 

実際悠は機械音痴というわけでもなく普通に使えはするのだが、ハイカラな電子機器にそこまで興味がなかった。

というか――タッチパネルなどに指を触れれば、中に呑み込まれるのではとそんな考えが不意に浮かんだりするので積極的に使う感じにはならなかった。

今は記憶の奥底に眠る、未来の後遺症ではないと信じたいところだ。

 

「あ、そう? でも、やってみればハマるかもしれないぜ?」

「なんか順平、鳴上くんに押し付けようとしてない?」

「いやははっ……なんだかんだで部屋の中がごちゃごちゃして来ててさ。貰ってくれんなら助かんだよね。実際」

「分かった。そこまで言うなら貰っとく」

「お。話が分かるね~。あとで部屋に持って行くからよ」

「ああ」

 

悠はデビルバスターズ・オンラインを手に入れた!

 

 

2009年4月29日(水)

 

今日は昭和の日で祝日だ。

何をしようかと考えて、悠は順平から貰ったネットゲームを手に取った。

しかし、実際に現実で戦っている身としては、やる気がしない。

悠は外に出掛けることにした。

 

「いらっしゃい!」

 

適当に街を散策した悠は、今はポロニアンモールの“青ひげファマーシー”という名の薬局に来ていた。

ここで扱っている薬は効果が高く、ペルソナ使いが使用することによってさらに上昇する効果は、ペルソナのスキル並と言っても過言ではなかった。

しかし、今悠の視線はそれらのアイテムではなく、青ひげ店主が持つ物に向けられていた。

 

「ん? 釣りに興味があるのかい?」

 

立派な青ひげを蓄えた若干強面の青ひげ店主が、その手の中にある手入れ中の釣竿を示しながら言う。

 

「趣味です」

「ほお。若いのにイイ趣味してるな。――お前さん、名前は?」

「鳴上悠と言います」

「悠か。すぐ近くに海があるってのに、この辺りには釣りをしてる奴がそんなにいなくてな。よければたまに釣りの話をしようじゃねェか」

「喜んで」

 

>青ひげ店主との間にほのかな絆の芽生えを感じる…

>青ひげ店主のことが少し分かった気がした…

 

我は汝…、汝は我…汝、新たなる絆を見出したり…絆は即ちまことを知る一歩なり。汝、“太陽”のペルソナを呼び出せし時、我ら、失われた力を解放せん…

 

>“太陽”属性のコミュニティである“釣り仲間”のコミュを手に入れた!

>鳴上悠の失われた力“太陽”属性のペルソナの一部が解放された!

 

ペルソナ全書を見ると、“カーシー”が追加されている。

カーシーは全体スキルの“マハガル”に加え、“ローグロウ”や“トラエスト”とちょっと変わったスキルを覚えていた。

さらに弱点である火炎にもキッチリと対策が為されている。

スライムやピクシーからしてそうだったが、悠の失われた力とやらは、弱点に対応したスキルを覚えているらしい。

これは戦闘後にたまにある“シャッフルタイム”で得られるペルソナとは違った大きな武器だった。

ついでに“ローグロウ”……“ローグロウ”は戦闘で直接使わなくても、ペルソナがその経験を少し得るというスキルである。

コミュを築いて解放されたペルソナはみんなそのスキルと同じ状況である気がする。

悠が成長すると、それに合わせて少しずつ成長しているのだ。

それが普通なのかと考えていたが、シャッフルタイムで得られるペルソナはそうではないし、今回こうしてそのスキルの存在を知ったということもある。

成長ではなく本来の力を取り戻していっているのだろうか。

とはいえ、そうなるとカーシーの“ローグロウ”はまるで必要がない残念なスキルということになってしまうのだが。

 

「実はこの辺りにはある伝説があるんだ。悠にもその内話してやるよ」

 

悠は青ひげ店主のそんな言葉を後に店を出た。

ついでなので色々食材を買い込んでから寮に帰ることにした。

 

 

同日 -夜-【巌戸台分寮】

 

「あ、お帰り~。うわっ、なんか凄い買って来たね~……それ、全部食材?」

「ああ」

 

寮に帰るとラウンジのソファには、まだ帰ってきていないらしい湊を除く寮生たちの姿があった。

 

「そっか。ホントに趣味なんだ? 鳴上くんの料理美味しかったもんね~」

「何々、ゆかりッチ、鳴上の手料理食べたことあんの?」

 

そういう話の気配を感じたのか、順平は若干下世話な様子でゆかりに尋ねた。

 

「……あんた、なんか変なこと想像してない? 前に湊が学園休んでたことあったでしょ。あれってペルソナの覚醒が原因だったんだけど、その時に鳴上くんが湊に作ったのを私も食べたのよ」

「へーっ、そんなことが。つーか、有里が体調崩したのってペルソナが原因だったのか」

「しょうがないわよ。あの子だって基本は普通の女の子なんだから」

「あー……そっか……そうだよな」

「何?」

 

何だか妙に納得するように頷く順平の姿に、ゆかりは不審そうな視線を向ける。

 

「いやいや、別に! 何でもないですよっ?」

「はぁ?」

「良ければ今日はみんなの分も作るが」

 

悠の提案に、いつもカップ麺やらレトルトやら外食やらで済ませてしまう面々が興味津々と話に乗ってくる。

 

「えっ、マジ!!? オレっち、期待しちゃうよ?」

「鳴上の手料理か。私も興味あるな」

「うわっ、鳴上くん、ハードル凄い上がった!」

「手料理か……。“シンジ”を思い出すな」

「誰ですか?」

「この寮に住んでた奴さ。俺の幼馴染でな。今はちょっと事情があって離れてる」

「へー、そんな人が……」

 

その後、悠は帰ってきた湊も含めて寮の仲間たちに手料理を振る舞った。

その評価は――……。

 

「うまーっ!」

「ってか、マジで美味ェよ! 店で出せんじゃね?」

「シンジの料理にも負けてないな」

「その人もこのレベルってこと……? 女子としてのプライドみたいなものがガラガラと……」

「鳴上。卒業したら、うちの専属料理人にならないか?」

「おわっ、桐条先輩認定! お前、将来安定過ぎるだろっ!」

 

どうやら、今回も大好評だったようだ。

 

 

2009年4月30日(木)

 

「今日はタルタロスを探索しますっ!」

 

いつものようにラウンジに集う面々の前で、湊は拳を握りそんな宣言をした。

 

「どうした。そんなに張り切って」

「えへへ、ちょっと、“テオ”から依頼を受けちゃって」

「テオ?」

「あ、えっと、こっちの話、かな? ――……というか、鳴上くんはベルベットルームって知らない?」

「ベルベットルーム?」

「あー、知らないならいいの。鳴上くんって、私と同じでペルソナの付け替えできるから、ひょっとしたら、そうかなって思っただけだから」

 

ベルベットルーム……悠はその名前に何か惹かれる響きを感じたが、それが何故だかは結局分からなかった。

とにかく、湊のそんな言葉で、今日はタルタロスの探索を行うことになった。

 

「あ、そうだ。鳴上くん。ちょっと刀貸して」

「なぜ?」

「えへへ、いいからいいから」

 

タルタロスのエントランスで湊はそんなことを言うと、悠から刀を受け取った。

悠は湊が何をするつもりなのかと目で追うが、湊はエントランスの端の方に行ってぼーっとするだけだった。

しばらくすると、急に振り返り、そのまま悠に駆け寄ってくると、満面の笑みで刀を返した。

 

「ありがとっ」

 

悠は頷くしかなかった。

 

 

タルタロス -15F-【世俗の庭テベル】

 

「あ、あいつ! あいつの外殻が欲しいのっ!」

 

湊がカブトムシのような姿の“死甲蟲”という個体名のシャドウを指差して叫ぶ。

 

「よく分からないけど、あのシャドウの弱点は疾風だったな。――カーシー!」

 

耳が翼のようになった緑色の犬的な姿のカーシーが、疾風属性の魔法スキル“ガル”で死甲蟲を攻撃する。

 

弱点にヒット!

 

「よし、総攻撃チャンスだ!」

「うんっ、総攻撃!」

 

湊の号令の下に総攻撃を仕掛ける四人。

死甲蟲を倒した。

 

「やった! “甲虫の外殻”ゲット~!」

「……湊、あんなのどうする気なんだろう?」

「売って探索資金にする……とか?」

「売るのは同じだけど、装備品の素材にするのかもしれないぞ」

「いや、それはないでしょ」

「そうか?」

 

悠の中ではシャドウの落とす物といえば、装備品の素材という思考があるのだが、その思考はどこから来たのか。

とにかく、その後は湊のそういう奇行もなくフロアを探索し終え……。

 

 

タルタロス -16F-【世俗の庭テベル】

 

「……何これ? 通れないじゃん。行き止まり?」

「桐条先輩。どうすんスか?」

 

16Fへと上がってきたのだが、上の階層に続く階段の前には、ここが元々学園であったことを思い出させるかのように、机や椅子がバリケードを作っており、さらには不思議な光を発している。

軽く剣先で突いたり攻撃してみても、そのバリケードが崩れることはない。

どうやら超常の結界が張られているようだ。

 

『そうだな……。この先に進むには何か条件があるのかもしれないな。そのフロアに他に何かないか?』

「――アタッシュケースがあるな。いつものか」

「中身は何かな~っ?」

 

湊がタルタロス内で、いわゆる宝箱の役目を果たしているアタッシュケースに手を掛けてそれを開く。

 

「……書類?」

「“人工島計画文書01”……?」

 

【電源の増設完了の報。

 だが、明らかに供給量が異常値だ。

 ただ学園があるだけのこの島に。

 どうしてこれほどの電力が必要なのだろうか……】

 

「電源がどうとかって……学園とか島ってのはここのこと?」

「だと思う」

「ひょっとして、これが影時間を解くカギってヤツか?」

「え、でも、影時間内じゃ電気とか関係なくない?」

 

その書類の内容にそれぞれが影時間という現象に対する考察を進める。

悠はゆかりの言葉に考えながら口を開く。

 

「影時間内ではそうでも、影時間が生まれた理由には関係あるのかもしれない。――だいたい、影時間はいつからあるんだ? 俺たちが適応したのは最近でも、影時間自体は生まれる前からあったとか言われたら、それは自然現象と変わらないことになるが……」

「そういや、そだな。桐条先輩。その辺どうなんスか?」

『いや、それは……』

「……分からない、ですか?」

『ああ……』

 

微妙な沈黙がその場に流れた。

 

「ま、まぁ、分かんないもんはしょうがないっスよ! それを調べるために探索してるわけでしょ?」

「……そうだな」

「はぁ。ま、そうね……」

 

ゆかりは彼女が戦う理由である10年前の爆発事故と、これらのことを結び付けて考えているのだろうか。

どちらにしても、これだけでは情報が足りないと、悠もまたその思考を止めた。

 

「それで、これからどうしよっか?」

『それ以上何もないようなら、とりあえず戻って来てくれ。対応はまた考えることにしよう』

「了解でーすっ!」

 

その日の探索はそれで終わりを告げた。

進めないタルタロス。

今回の探索の成果でもある人工島計画文書01。

これらはどう考えればいいのだろうか。

そして、嬉々として、その人工島計画文書01と甲虫の外殻を手にしたと思えば、再びエントランスの端へと行ってぼーっとする湊。

 

――……影時間が終わる。




ここはペルソナ3の時間軸なので、番長の男気の甚平の文字は“漢”ではなく“真”となっています。
伏線?
いやー、どうなんでしょうね。
とか言ってハム子には、エリザベスではなくテオドアが選ばれているわけですが。

……これだけ煽って“彼”を出さなかったら叩かれそうですね。

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