ストライク・ザ・ブラッド 〜同族殺しの不死の王〜 作:國靜 繋
「しかし、那月ちゃん、古城たちにナラクヴェーラを教えてよかったの?間違いなくこの件に関わって来るよ」
「そんなの、あの軽薄男があいつらにクリストフ・ガルドシュの事を教えてる時点で諦めてる」
全く忌々しいと那月の顔に書かれていた。
那月の気持ちも分からなくもない。
下手に古城みたいな厄介な存在が、介入してきたら収拾する事件も収拾するどころか逆に酷くなるのが目に見えているからだ。
それ以上に、ややこしい存在であるダアトが面白半分に首を突っ込んだりもするのだがな。
「それはそうと、ダアト貴様、暁古城たちに何も言っていないのか」
「いや~思い返すと、そんなにゆっくり話す機会なかったからね~」
ははは、と笑いながら話すダアトに那月は、舌打ちをした。
思い返してみても、古城や雪菜と直接会って話すのは数えることが出来る範囲だ。
その程度の数で話せる事なんてたかが知れている。
そんな事を思っていたら、予鈴が学校全体に鳴り響いた
「――私は、そろそろ行くぞ。お前は大人しくしてろよダアト」
「へいへい」
那月は、部屋を後にした。
那月が部屋を出るとき、必死になって無駄に重い扉を開けている姿を見て、
それから少ししてからだ。
屋上の方から、魔力が暴走する気配を感じた。
しかし、那月に大人しくしているように言われているためこの部屋から出ることが出来ない。
いや、ダアトの性格上那月の命令を聞いた上で、野次馬根性で行くだろうが、過去一度大人しくしておくように言われて尚、大人しくしていなかった時、那月に一週間も無視されると言うダアトにとって、その一週間はとても耐えがたいものだったのだ。
その時の記憶は、ダアトにとって未だに鮮明に思い出せるものだ。
「仕方ない、アスタルテ俺は那月ちゃんの大人しく言われているから代わりに言って来てくれ」
「
相も変わらず無機質な反応で、アスタルテは部屋から出て行った。
ダアト個人としては、早く恥じらいと言うものを身に着けてほしいと思っている。
恥じらいの無いセクハ、げふんげふん、スキンシップはつまらないと思っていたりするがこれはまた、別の話。
魔力の暴走を感知してから暫くして、那月が部屋へ戻って来た。
「那月ちゃん、あの魔力の暴走ってなんだったの」
「ああ、あれか。あれは暁古城の魔力が暴走したんだよ」
「へ~また何で?」
「そこまで知るか。それより行くぞ。黒死皇派の潜伏先が分かったからな」
「あれ?アスタルテは?」
「アスタルテなら、保健室だ」
そう言えば、アスタルテは、元々保健室の方で働くのだったなとダアトは思い出した。
それを那月が無理矢理自分専用のメイドとして連れ出したんだったな。
しかし、そんな我儘が通るから那月はいろんな意味で侮れないな。
「それで、俺を連れて行ってくれるという事は、久々に公認で暴れていいってことだよね」
ダアトは、己の牙を那月に見せつける様に言った。
那月に連れられ、
普通なら準備が出来た時点で強襲を掛けるべき所だが、態々整列して待っている辺り那月のカリスマ性の成せる業だ。
「教官お待ちしておりました」
整列している中から、一人のフル装備状態の隊員が前に出てきた。
ダアトはと言うと、
一応、那月公認で暴れる事は出来るが、だからと言って、狂乱してしまっては目も当てられない。
だから、暴れられるのは、あくまでナラクヴェーラが出て来た時だけと言う事に為った。
久々に、献血パック以外の新鮮な血が飲めると思っていた分、目に見えて落胆していた。
「状況は」
「情報通りです。後、不明確ではありますが、生物の形を模した兵器の様な物があるとの事です」
「ナラクヴェーラ、矢張りここにあったか――――全員配置に着き次第状況を開始しろ」
「了解しました」
那月の命令を訊くと、整列していた隊員たちは、一切の無駄のない動きで各々のポジションに突き出した。
次の瞬間、那月の影の中にいたダアトは何とも言い知れぬ怒りを感じ取った。
この感じは、過去に感じた事のある、そう、自分のいない所で自分のものが誰かに奪われたり壊された時に感じたものだ。
そして、今ダアトにとって大切なものは、二つ、己が主である那月、そして、半眷属化状態のアスタルテだけだ。
現状、那月は安全だ。
つまり、アスタルテの方に何かがあったという事に為る。
「那月ちゃん、ちょっと学校の方に戻って来ていい?」
「何故だ?ダアト」
「ちょっとばかし心配事が」
「学校にはアスタルテがいるだろ。だが、まあ、いい好きにしろ」
「ありがと、那月ちゃん」
「ふん、それと那月ちゃん言うな」
相変わらず、ツンデレだなと思いつつ、ダアトは、全身を数多の蝙蝠に変化すると、那月の影から飛び出していった。
ダアトの感じた言い知れぬ怒りは的を射ていた。
保健室に着くと、古城と女の子が腹部から血を出しているアスタルテを必死に止血していたのだ。
矢張り、中途半端な吸血鬼では、再生力が弱かったかと思い、急いで保健室内に割れた窓から侵入した。
「な、何だ」
割れた窓から数多の蝙蝠が室内に入って来て、古城と女の子は焦っていた。
古城たちの焦りとは裏腹に、室内に入って来た蝙蝠は、徐々に人の形をかたどりだした。
「すまんな、眷属を助けてもらって」
「あんたは」
「それとは別にそこの娘、貴様は何者だ」
「あんたこそ何ものよ」
人に名を聞くときは自分からと言うからな。
礼を欠いては、那月の名に傷がつくと言うもの。
「これは失礼した。レディ。私の名はダアトと言う」
「あんたが、最悪の吸血鬼って言われる。……私は、獅子王機関の舞威姫、煌坂紗矢華」
若干の間は、ダアトに名を教えていいのか迷ったのだろう。
「
ダアトが戻って来たのに気が付いたのだろう、消えそうな声でダアトを呼んだ。
「どうした?アスタルテ」
「
「分かった。よく頑張ったな」
ダアトに伝えるべき事を伝えると、アスタルテは目を閉じた。
アスタルテの元へゆっくり近づき抱き上げると、ダアトはアスタルテの首筋へ己の牙と突きつけた。
「おい、待てよ。今血を吸ったらアスタルテが完全に死んじまうぞ」
「勘違いをするな。古城、俺が自分の眷属を見捨てるわけなかろう」
そう言うと、再度アスタルテの首筋へ牙を突きつけた。
流石に意識が完全に切れている為、アスタルテは痛みを感じずに済んでいる。
アスタルテに己の
これを知ったら、いろんな組織がアスタルテを狙うだろう。
何せ、
そんな事に為ってしまえば、世界はまた大規模な、人類と魔族の血で血を争う戦争に為ってしまうからだ。
だが、アスタルテの元には、那月にダアトと最強と言って良い二人の元にいる以上安全はほぼ保障されている。
「さて、お前たちはこれからどうする?俺は、
表情こそ、温和で優しさを感じる事が出来る笑顔だが、そこから溢れ出す殺気は、それだけで生き物を殺してしまうのではと感じる程の圧迫感を孕んでいた。
「俺は、俺は行くぞ。浅葱たちを助けないといけないからな」
そうか、とだけ言うと、ダアトはまた全身を蝙蝠化して保健室から出て行った。
「便利だな変化できるのも」
「あんた、出来ないの!?真祖なのに」
そんなやり取りが、ダアトが去った後、あったとかなかっとか。
ダアトが蝙蝠化して、那月の元へ戻っている時、空から
黒死皇派の面々も反撃しているが、絃神島はこちらのテリトリーだ。
どこでどう戦えばいいか、毎日訓練しているこちらに地の利があるのは、当然の事だ。
空から状況を見ていたら、戦場の後方に那月を見つけ、那月の影へと向かった。
「戻って来たか」
「ああ、まさかアスタルテが撃たれているとは思わなかったよ。それで、何で那月ちゃんはこんな所にいるの?」
「なに、
銃撃戦が繰り広げられている監視塔を眺めながら、那月は答えた。
「お優しいこって。俺は今から、アスタルテを撃った奴を探しに行こうと思うけどいいよね?」
「好きにしろ」
「流石那月ちゃん」
それだけを伝えると、ダアトは再度那月の影から数多の蝙蝠に為って飛び出していった。
那月に探しに行くと言ったけど、此れと言った当てがある訳では無い。
むしろ、どこを探すべきかという事に為る。
だから、無数の蝙蝠化した体で島全体を虱潰しに探しているが、見つかる様子が無い。
糞、どこにいるんだよと、内心思っていた時だった。
一匹の蝙蝠化した体が、ガルドシュの分かと思わしき奴を見つけたのだ。
無線でカルドシュと思わしき相手と会話している辺り、正解の様だ。
「こちらは楽なものです。高みの見物ですからね。この――誰だ」
「み~つけた」
ガルドシュと会話していた男は、拳銃を振り向け様に抜いた。
「ガルドシュの居場所を教えて貰おうか」
「貴様何者だ」
「何、ちょっと身内を傷つけられただけの吸血鬼だよ」
そう言い、男に向ってゆっくり歩き出した。
男はダアトに狙いを定め発砲した。
放たれた弾丸は、的確に急所を狙って来ており、そのすべてが命中しダアトはその勢いで背中から倒れた。
銃の威力が高かったのか、命中した部分は、抉り取られる様になり、頭などは完全に吹き飛んだ。
「やったか」
思った以上にあっさりと倒せたことに対して、男は安堵し、ガルドシュに再度連絡しようとした時だった。
的確に急所を打ち抜き、幾ら吸血鬼でも蘇生するまでに時間が掛かるそう踏んでいた。
しかし、ダアトは別格だ。
伊達や酔狂で、三人の真祖を同時に相手にした過去を持っている訳では無い。
つまり、ダアトにとってこの程度の攻撃は、攻撃の範囲には為らないのだ。
「糞がぁあああ」
男は、拳銃を投げ捨てると、全身が膨れ上がり、全身から黒い体毛が伸び、顔が黒豹の様になった。
獣人化した男は、腰から
完全に破損部位が修復する前に、獣人の男はこれだけを思っていた。
しかし、その前にダアトは破損した部分から、どす黒い血が溢れだし破損した部位の形になった。
「流石獣人、無駄に早いな。しかし、早いだけだ」
黒豹の獣人のナイフの攻撃を紙一重でかわし、顔面目掛けて殴りかかるが、かわされ逆に腕を掴まれると投げ飛ばされた。
「早いだけかと思ったが、訂正しよう。十分楽しめそうだ」
ダアトは、あくまでも眷獣は出さず、持ち前の怪力だけで文字通りボロ雑巾にするつもりだ。
眷獣を出してしまったら、それこそ瞬殺してしまい、アスタルテの受けた痛みを味あわせる事が出来ないからだ。
地獄だ、地獄を見せないと気が済まない。
今までの生活が、黒死皇派として常に狙われ続ける日々さえもが天国だったと思えるほどの地獄を見せてやらねば気が済まない。
「ほら、どうした。もう終わりか」
獣人の男は、自分の特性としての素早さを活かし、ダアトを攪乱しながら、
その攻撃をダアトはかわそうとはせず、逆に攻撃を受けるのを前提で相手にカウンターを掛けている。
そして、獣人の男の攻撃でナイフが、腹部に深々と突き刺さり、ナイフを持っている手が遂にダアトに捕まえられてしまった。
それが、獣人の男にとって命取りに成る事に為った。
「捕まえた~」
ダアトは、捕まえた腕を持ち前の怪力でそのまま握りつぶし引きちぎったのだ。
「ぎゃぁぁぁぁああああああ」
腕を引きちぎられた事によって、男は野太い悲鳴を上げながらもバックジャンプでダアトと距離を取った。
失った腕の先からは、絶え間なく血が滴り落ち早く止血しないと命に係わるほどだ。
「クリストフ・ガルドシュの居場所を教えてくれないかな」
「誰が、貴様なんかに少佐の居場所を教えるものか」
獣人の男は、片腕一本失っても情報は渡さないつもりのようだ。
テロリストともなると、流石に情報の大切さは知っているようだと感心すべきところだろうが、生憎今のダアトにとって、情報を吐かないなら最早この獣人の勝ちは0に為った。
むしろ、今のダアトが相手に情報を吐く機会を与えた方が珍しいくらいだ。
それ程までに、内心怒りを覚えていたのだ。
「そうか、ならもうお前はいらないな」
それだけを言うとダアトは、初めて攻勢に出た。
今までのは、遊び半分と言った具合で、本気になったダアトに対して、獣人の男が勝てる見込みははじめっから0だったのだ。
ダアトの攻勢に出た時の雰囲気に呑まれた獣人の男は、僅かなタイミング、逃げるのが遅れた。
その遅れが、致命的だった。
獣人の男の中に僅かな慢心があったのだろう。
幾ら腕を引きちぎられようが、獣人である自分の方が早く、だからこそタイミングを見計らって逃げたら逃げ切れると。
その慢心の所為で、獣人の男はダアトに捕まえられた。
捕まえた獣人の男のもう片方の腕を握り潰し、両端を踏み砕き、そして、ダアトは獣人の男の喉元に喰らいついた。
獣人の男の悲鳴とも言えない悲鳴を聞きながら、血を吸い尽くしたダアトは、干からびた死体を一瞥すると手掛かりを失くしたのでどうしようかと思った時だった。
那月のいる
あんな眷獣を持っているのは、絃神島ではヴァトラー位なものだ。
あんな場所に何故ヴァトラーが居るのかと言う話に為るが、そんなのは今はどうでも良い事だ。
クリストフ・ガルドシュを探すのが、また振り出しに戻ったなと思った時だった。
今度は、分厚い装甲に覆われた六本脚に二本の副腕、深紅に輝くレーザー砲の瞳、間違いなくナラクヴェーラだ。
そのナラクヴェーラが空にに飛びあがっていたのだ。
それを
「あの骨董品を動かせたのか」
ナラクヴェーラが叩き落される轟音を聞きながらダアトが思ったのがそれだった。
那月の事が心配ではないのかと聞かれたら、この程度問題ない事はダアトが一番知っているから心配しなかっただけだ。
何て惚気と思ったら負けである。
「さて、ほんとどうしようかな」
しかし、あれは戦えば闘う程学習し強くなる。
文字通りの一撃で消し飛ばさないといけない。
そんなことが出来るのは、世界に何人いるだろうか。
それを可能とする力が、古城の、第四真祖の眷獣の中にいなくもないがその力を古城が掌握しているとは思えない。
さて、どうしたものか。
そう思った時だった。
耳をつんざく、絶叫にも似た獣の遠吠えが空に鳴り響いた。
「へ~あれは、
緋色の双角獣が咆哮した様子を見てダアトは今までの怒りを一瞬忘れ、楽しそうな顔をした。
そして、あっちの方に居たらクリストフ・ガルドシュの方から来てくれるそんな気がした。
ダアトはそう思った瞬間には、全身を数多の蝙蝠にして、
その時だった。
「ちっ、きちんと処理しろよ古城。
ダアトの背後に捩じれた双角に王冠を被り青い炎を纏った巨大な骸骨がいた。
「燃え散らせろ!!」
それだけを言うと、
青い炎に呑まれた
「流石、
眷獣を消し去ったダアトの背後に、拍手をしながら楽しそうな笑顔をしているヴァトラーがいた。
「何の様だ。ディミトリエ・ヴァトラー」
「名高き、
「いいのかこんなところにいて?」
「ああ、別に問題ないよ。古城に振られてきたからね」
残念だよと口では言いながらも、表情は現状を楽しんでいるようだ。
「それよりも、あそこにクリストフ・ガルドシュはいるのか?」
「ああ、いるようだよ。あの一際大きいあれに乗っているみたいだよ」
「へ~」
ダアトが古城たちの元へと行こうと体を蝙蝠化しようとしたら、ヴァトラーに止められた。
「どういうつもりだ」
「何、愛しの第四真祖の戦いに無粋な割り込みをしようとした奴を止めただけだよ」
「俺はクリストフ・ガルドシュに用があるんだけどね」
「それでもだよ」
ヴァトラーは、あくまでもダアトを行かせないつもりのようだ。
むろんヴァトラーを殺そうと思えば今すぐにでも殺せるダアトだが、お互いの立場と言うものが邪魔をして動けずにいる。
一昔前のダアトなら、有無も言わさず殺しにかかっただろうが、今は那月に使役されている身だ。
下手な行動がそのまま主である那月の迷惑になるのは目に見えている事だ。
それも、戦王領域の貴族、更に外交特権を持っているからなおさらだ。
「ちっ、分かったよ」
ダアトは忌々しそうに舌打ちをして、その場に座り込んだ。
「助かるよ。ボクとしてもあなたと戦いたいんだけどね。あの方にあなたとだけは戦うな、と念押しされていてね」
そうかよと思うだけで、後は此処から成り息を見守るだけに為った。
結果から言って、古城たちがナラクヴェーラを打倒すると言う形で今回の事件は収束した。
しかし、眷属を傷つけられたダアトは、不完全燃焼だった。
このやるせない気持ちをどうするかという事で、苛立ちが収まらなかったが、結果的に見て誰も失わなかったからいいかと結論付けるまでに暫くの時間を要した。
「そう言えば、途中から那月ちゃん見かけなかったけど、どこに行ってたの?」
「私は、私の教え子を救いに行ってたのだよ。まあ、あの転校生が先に助けていたがな」
「それで、気に為るのはヴァトラーの船が「私は知らんぞ」沈んだって、ってまだ最後まで言ってないよね」
この件に絶対那月が関わっていると思ったけど、本人が否定している辺り追及しても仕方ないかと思った。
戦闘描写がどうも苦手なのでアドバイスが有れば教えてください。
後、風邪ひいたので、更新は風邪が完治してからになります。