ストライク・ザ・ブラッド 〜同族殺しの不死の王〜 作:國靜 繋
ダアトが那月の執務室から出てから、天塚汞を永遠と探し続けていた。
那月の拘束術式が働いているから、全身を使い魔に変えることも身体を形状変化も間々為らない。
現状この身一つで探すことになる。
天塚汞が居るかもしれない場所としてアデラート修道院跡地が最有力候補と見込んでいるが、そこにいなかった場合、または入れ違いになった場合が面倒だなと思いつつもアデラート修道院跡地へと足を向けた。
一応、先日見かけた商業地区のショッピングモールも見て回ったが、それらしい人影は見当たらなかった。
むしろ天塚汞のあの赤白チェックみたいな目立つ格好をしていたならば、人ごみでごった返していたとしても目立つものだ。
アデラート修道院へと着いたのも日も水平線の彼方に沈みかけ、耐性の無い吸血鬼には猛毒となり得る紫外線が最も強い夕方頃になってしまった。
ダアトはもちろん、太陽の光や銀の弾丸、杭で心臓を潰された程度で死ぬほど軟な吸血鬼ではないし、教会の聖水や流水にだって耐性はある、何なら飲んでやろうかと言って、証明するために教会の聖水を飲んだこともある。
流石に那月の聖水を飲むほどアブノーマルな性癖を持ってはいないのをここに記す。
ダアトがアデラート修道院に着いた時一番最初に目に入ったのは、
物質変成、錬金術師が金属に限らず様々な物質や、人間の肉体や魂をも対象として、それらをより完全な存在に錬成する試みを指す過程で生み出した秘技だ。
むろんそのことをダアトは知っている、知識として知恵としてだからこそ、ダアトも使うことが出来る。
身に纏っている時ならば完全に防ぐ事が出来るのだが完全に金属化した今では直接触れて物質変成しなければならない。
面倒だが、ダアトが錬金術の秘技である物質変成を使って治せるのを知っている那月ちゃんに何故治さなかったと怒られるのが目に見えている以上、治さない訳にはいかない。
ダアトは一人一人直接触れながら、直接金属化している
元に戻った隊員たちはそのまま気を失っており、直立たら勝手に倒れて行った。
野郎を一人一人受け止めて、優しく寝かせるほどダアトは殊勝な心を持ちをしている訳では無い。
むしろダアトがそんな風に優しく扱うのは那月位なものだ。
そんな時だった、ボロボロで全壊していると言って良い修道院から男性の野太い悲鳴が聞こえてきた。
次の瞬間、修道院の建物を崩壊させながら出現したのは、原生動物のように不定形に蠢く漆黒の流動体だった。
ただし、生物と言うより貴金属独特の光沢を持っており、まさに金属生命体と言って良いものだった。
しかもそれが、周囲の物質と無差別に融合し、その質量を増しているのだ。
「はぁ、遅かったか。にしても、また面倒なものを。どう考えてもあれ、暴走してるだろ」
ダアトは、めんどくさそうにため息を吐きながら、懐から赤い液体の入った試験管を取り出した。
コルクのような蓋を取り、中の
「
ダアトがそう言うと、白銀色をした周囲の熱を奪い去る絶対零度の氷の竜がダアトの背中から燃え盛る炎のように現れた。
一度っきりとはいえ、拘束術式を那月ちゃんの血を使うことで緩めると言う裏技を使うことで完全とは言い難いが
太平洋上に浮かぶ絃神島は、そもそも冷え込むこと自体あり得ない。
それが今では、吐く息は白く、油断したら凍傷しかねない程の冷え込みを修道院周辺という局地的で起きていた。
「おっと、まさかあんたが邪魔して来るとはね。他にも見てしまった人もいるからそっちから処分しようと思ったけどあんたが出張って来てるんじゃ、あっちは後回しだ」
流動的な動きを見せていた液体金属は徐々にその動きを鈍らせ完全に凍りつこうとした時だった。
ドンッと一際鈍い音を響かると、液体金属は内部で爆発でも起こしたかのように、膨張した。
「何をした」
「何、
一気に膨れ上がったせいで、張り付いていた氷は剥がれ落ち、
ダアトはこの時運が悪いことに、丁度対角線上にいる浅葱の存在に気づいていなかった。
暴れまわる漆黒の触手は辺り構わず切り裂き、砕きまわりその一撃が浅葱を逆袈裟切りしてしまい、その勢いでダアトの死角となる位置まで飛ばされてしまった。
「仕方がない、先にお前の方を潰してやる。天塚汞」
利き足に力を入れ、人工的に敷かれている土が捲り上がるほどの力で飛び出すように天塚汞に襲い掛かり、人体をたやすく引き千切り、毟る人外の握力と膂力、さらに速度が加われば破砕する程度容易だ。
例えそれが金属生命体だとしても。
「グフッ」
汞は、唸りながら吹き飛ばされた。
「
ダアトがそう言うと、黒く燃え盛り、小さな王冠を乗せた巨大な蠅が現れた。
那月によって拘束術式が働いている今では真の力を発揮する事は出来ない。
だが、それでも
「あれを食い尽くせ」
いくら拘束術式で縛られているとはいえ、ダアトのことを主と認めている
一度喰らいついた
「さて、残るはあれか」
見据えるは、未だ暴れたりないと自己主張している流体金属で出来た触手たちだ。
流石のダアトも拘束術式が効いた状態で完全消滅させるには骨が折れる。
それに裏ワザは既に使っており拘束術式を緩めるために必要な物は既に無い。
そんな時だった、不規則に動いていた触手が一瞬硬直した次の瞬間、暴れまわっていたのが嘘のようにある一点に向って雪崩れ込みだした。
「ちっ、排水路に逃げ込む気か!!
流体金属の意図を察することが出来たダアトは急いで
だが、時すでに遅し一度排水路に入った液体金属は大雨時の水のように入り込んでしまい、
「にしても、暴走した”賢者の霊血”か……」
あの時見たのは不完全な状態だったが、本当に完成させるとは……やはり教えるべきではなかったか。
多くの科学と魔術と文化の発展進化を見て来た、または関わって来たダアトとしては嬉しいのだが、今を生きる人間や魔族が全てカインの血族と思うとやるせない思いを感じるものだ。
まあ、そんなことを思っても今さらどうしようもないことだ。
それよりも”
絶対小言を貰うだろうなと思いつつもとりあえず、幼い那月ちゃんを引き取るためにも一度那月ちゃんの執務室へと戻ることへとした。
その数分後入れ違う様にして古城が現れ、魔力を暴走させるがそれは別の話だ。
執務室へと戻った頃にはもう日は完全に沈みかけていた。
中に入ると、那月ちゃんはまだお昼寝をし続けていたみたいで、スヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てて寝ていた。
だが、珍しいことにアスタルテの姿がなく、代りに訪問客用のテーブルの上に置手紙があった。
「えっと何何、『教官に呼ばれたので後のことはマスターにお任せします』って、それなら幼い那月ちゃんも、ってさすがにアスタルテや那月ちゃんじゃ、いくら幼いとはいえ寝ている那月ちゃんを連れて行くのは無理か……」
ダアトは仕方がないなと思いながらも、いろいろと我慢するために持てる理性をフル稼働させながらその日は帰宅することにした。
帰宅しても、幼い那月は目覚める様子がなかったのでそっとベットに寝かせつけた。
その際、
久々の更新です。
文章量が短くてすみません。