マミさんの相方だというベルさんは、何だか落ち込んでるようでした。
ベルさんと初めて出会ったのは、昨日の事です。何時もの様にさやかちゃんとCDショップに寄り道をしていると、突然助けを求める声が聞こえてきました。
声のした方へ急ぐと、うさぎか猫か分からない不思議な動物が傷だらけで倒れていました。そこに、不思議な格好をしたほむらちゃんが現れたんです。作り物だとは思うけど、黒く光る拳銃を構えたほむらちゃんが怖く感じました。
さやかちゃんが助けに入ってくれたため、自分のことをキュゥべえと言った不思議な動物を抱えて逃げることが出来ました。
でも、どれだけ走っても出口に辿り着くことは無く気がついたらコンクリートの壁では無く不思議な絵本の様な世界が広がっていました。
髭を生やした綿のおじさんは、おもむろに鋏を取り出すとじわじわと私たちの方へ詰め寄ってきました。夢なら早く覚めて、と溢れそうになる涙を堪えながらさやかちゃんと震えていた私たちの前に、一人の女の子が立ちふさがったんです。
アニメの主人公の様な強さで次々と綿のおじさんを殴り飛ばしていく女の子を見て、私は格好良いと思ってしまいました。……さやかちゃんは若干引いてるようでしたが。
スカートだというのも気にもせずに動き回っている所為で、女の子の下着が見え隠れしていました。あまりにも女の子が気にしない為、こっちが余計に恥ずかしくなってしまいそうです。
やがて、数が増えた綿のおじさんから私たちを守るように覆いかぶさりました。絶体絶命の危機だった筈なのに、女の子の顔は笑っていたんです。この時に、女の子の顔をじっくりと観察することが出来ました。
男の子の様に整った顔立ちで、短めのセミロングをした女の子は男の子という言葉の方が似合いそうです。所謂、ボーイッシュなのだと私は思います。この女の子こそ、マミさんの相方であるベルさんなのです。
あの時、助けに入ったマミさんと共に協力して戦っていたベルさんは生き生きとしていました。綺麗な銀髪を揺らし、光る汗粒を流しながら縦横無尽に駆け回るベルさんの顔はとても楽しそうでした。
でも、今日の魔女狩りではずっと暗い表情のまま落ち込んでいました。一体、何かあったのでしょうか。
* * *
唐突に変わり始めた足を止めた。ベルが扱っている言語は日本語という言語である。しかし、変わりゆく空間には見慣れない文字が浮かび上がり、流れては消えて行っていた。
やがて、遠くに見えるビルをすら遮り景色が変化した。奥に感じるのは強大な魔力。間違いない、この空間は魔女の結界である。先程魔女と戦ったばかりだと言うのに、再び魔女と戦うことになろうとは流石のベルも想定外であった。
魔法少女ですら辛い魔女との連戦は、一人では魔女すら満足に退治できないベルにとって更に過酷なものなのである。如何にかして結界から抜け出そうと試みるも、出口は見当たらない。
魔女を倒すか、別の魔法少女が抉じ開けた結界の歪から逃げ出すしかないのだ。
「は」
ぺたん、とその場に座り込む。ズボンでは無くスカートを履いているためか、地面に触れた太腿が酷く冷たく感じた。自分には皮膚の感覚が無いと念じてみた瞬間、太腿の冷たさを感じなくなった。
思った通りだ。人間の身体は、所詮作り物に過ぎない。冷たくないと思ってしまえば冷たくなくなる。熱くないと思ってしまえば熱くなくなる。痛くないと思ってしまえば痛くなくなるのだ。
「人間じゃない、か」
昨日の夜、キュゥべえに言われたことを頭の中で反芻した。ベルという種から芽が生え、幹になり色々な単語へと枝分かれしていった。だが、最後には全ての枝が『結局は人間では無い』という答えに辿り着いてしまう。
『これでは、ただの道化ではないか』
中に浮かび上がる映像は、全てが砂嵐だったり真っ白だったり真っ黒。とても映像と呼べるものでは無かった。が、ベルが呟いた瞬間、電源を入れたテレビの様に次々と鮮明な映像が映し出されていった。
映像は、全て魔女と魔法少女が戦っているものだった。戦い、どちらかが死ねば次の映像へと切り替わる。
「やめろ」
映像の結末は、決まってどちらかの死で締めくくられていた。魔女と魔法少女が手を取り合う結末は存在しない。
ふと、一つの映像が目に留まった。見たことのある魔法少女だ。おぞましく、醜悪な格好をした魔女と相対した緑髪の魔法少女は、敗北したが死ぬことは無かった。なんと、魔女が面倒臭そうに結界に穴を開けて魔法少女を放り出したのだ。
「……なんだ。こういう結末もあるんじゃないか」
他の映像と同じならばそこで終わる筈なのだが、この映像にはまだ続きがあった。続きが映し出されると同時に、飛び交っていた言葉は消えてなくなり他の映像も真っ黒な背景と化した。
路地裏で口から血を吐き出しながら腹を抱えて蹲る緑髪の魔法少女を取り囲むようにして、三人の魔法少女が笑いあっていた。音声が付いていなかった筈の映像から声が聞こえたことに、ベルは不思議に思いもしなかった。
まるでその現場に居るかのようにリアルな音を流す映像から、打撃音が聞こえた。それと同時に、骨が砕ける音が鳴り響き緑髪の魔法少女の左腕が有り得ない方向に曲がっていた。
『あんな甘ちゃん魔女に負けるとかそれでも魔法少女かよ』
『しかも、あの魔女は自分を殺さなかったから危険じゃないだって?』
『馬鹿じゃないの? 魔女は魔女だから殺すの』
『もしかして、コイツ魔女の使い魔なんじゃない?』
『えー、マジで? こんなんでアタシら騙せると思ってたのかよ。超ウケる』
悲鳴を上げる緑髪の魔法少女を見ながら、愉快そうに笑い声を上げると思い切り振りかぶって腹部を爪先で蹴った。硬いブーツは彼女の腹に突き刺さると、拳大程の血の塊を口から吐き出した。
その行為は、緑髪の魔法少女が絶命するまで繰り返された。彼女らはソウルジェムが魔法少女の魂であることに気が付いていないのだろう。気付かぬ間に踏んづけて砕き割ってしまったソウルジェムを、興味無さそうに一瞥すると死体に唾を吐いて逃げるように去っていった。
「あ」
緑髪の魔法少女には見覚えがある。あの戦い方も、客観的に見ていたから分からなかったのだろう。そして、あの醜悪な魔女は自分自身だったのだ。
そんなことよりも、ベルの精神をズタズタに引き裂いたのはその後に起こされた惨劇であった。彼女が死ぬまで繰り返された虐待を引き起こした原因は、暴食の魔女ベルゼブレに敗北しながらも生還したからだ。
良かれと思って殺さずに逃がした魔法少女の末路を知って、彼女は何が正しいのか分からなくなってしまった。再び映像が切り替わる。今度は、ひたすら同じ文字が流れ続けているだけであった。
空間に飛び交う文字もいつの間にか復活している。別の言語で書かれた文字は、読めるはずが無いのに何が書かれているのか理解してしまった。
――――
――――
――――
――――
「あ、あ」
――――お前が原因だ
「あ、あああああああああああああああああああああああッ!」
泣きながら、迫りくる文字から逃げるために走り出した。走れど走れど変わらない景色に引き離すことの出来ない文字。それでも、彼女は自分を責める文字から逃げたい一心で走り続けた。
ベルの周囲を飛んでいる二つの不気味な眼球は強い力で払って引き離しても気が付けばベルの直ぐ隣で再び浮かんでいた。兎に角、此処から出たかった。マミに会いに結界から脱出したかった。
ふと、足が止まった。
「マ、ミ?」
遥か前方に、見慣れた格好の黄色い魔法少女が此方を見て立っていた。血と涙が混ざってぐちゃぐちゃになった顔を拭って駆け寄ろうとした瞬間、
「来ないで」
マミのマスケット銃から放たれた弾丸が、ベルの心臓を射抜いた。
只今、12/10まで活動報告で本作品に登場させるオリ魔女の募集を行っております
今回の魔女及び使い魔は廷吏 妖魔様から提供して頂いたものです
【魔女名】旧支配者の魔女Cthylla(クティーラ)
【性質】支配
【能力】心を揺さぶり其処に生じた心の隙間に入り込み支配するという能力を持つ。
(心が揺るがなければ意味は無い)応用として心を読むことが出来る。
【戦法】相手の心・精神を幻術・幻覚・夢・読心を用いて攻撃する。
なので戦い方としては相手を術中にはめて戦うといった感じ。
それが駄目だった場合、全力で逃げる。(これは逃げでは無い!戦略的撤退だ!)
【外見や特徴】外見は普通の大人の女性と変わらない姿をしているが目が無いので目の奥は
黒く不気味に光っている。特徴は七色に光る髪の毛。
周りには使い魔が必ず2体は飛んでいる。
【結界の特徴】周りに多くの言葉や映像が入り交ざっており心が弱い人は発狂しやすくなる。
魔女の所までは一本道で迷うことは無い。(ただし心が迷う可能性有り)
【使い魔の特徴】空中に浮いている目玉が使い魔である。それは魔女が持っていない目なのかは
分からない。
これといって攻撃はしないが彼らが見たものはリアルタイムで魔女に伝わる。
(この時にある程度、心を読んでいる)
【その他】テレパシーがある程度使える。
目を持っている者に対しては容赦しない。
だが目が無い人間が迷い込んだ時、その人間は生きて結界から出られたとかなんとか。
目が無い人間に対しては必ずと言っていい程、攻撃はしない。
逆に可愛がるかもしれない。(そのままの意味で)ある意味、魔女の中では甘い。
私の中で勝手に解釈して執筆させてもらいましたが、如何だったでしょうか