ゲ□男まとめスレ   作:のーぷらん

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ミッション5 スレを晒す

900 名前:恋するスレ主 さん

 

「……」

 

パソコンのカーソルが点滅を繰り返している。何度このサイトを開き、この光景を見ただろう。

 

どうしよう

 

という文字を打っては消し、

 

助けて

 

という文字を打ち消した。山田さんに告白したらこのスレはもう卒業すると宣言していたし、英国淑女さん、オオトリリンネさん、モッピーさん、貴公子さん、ワンサマーさん、黒うさぎには感謝する反面、独り立ちしようとも思っていた。本心だった。そうできると信じてもいた。でも、それは自分の恋愛が結構上手くいっている、山田さんが俺のことを憎からず想っているかもしれないと調子に乗っていたからこその考えだったんだ。こんな困ったときに頼りにしたがっている。助言がほしいんだ。やつが見ている可能性がある以上どうやって山田さんにまた会えるかだなんて、どうやったら山田さんを手に入れられるか、あいつに渡さなくて済むかだなんて助言は、このスレでは得られることは 決して ないのだろうけど。

 

『真耶と俺は同じ職場なんだ』

 

俺を襲ったのは嫉妬だった。彼女を呼び捨てにした彼を憎悪し、そうする機会があったのにしなかった自分に腹を立てた。

 

『IS学園の教師をしているんだ。分かるか?』

 

次に思ったのは、分からない、だった。さらに続けて驚きがやってくる。山田さんはIS学園の教師だったのか。知らなかった。きっと社会的に上位の職業に就いているとは感じていた。ティーカップを持つちょっとした仕草、いきつけの店の傾向、色々な部分から会うたびに俺はそう感じて見惚れていた。

 

『俺の方がお前より釣り合う。俺の給料だけでも真耶を養える。お前、収入は?付き合うはいいとしても、その先はどうするんだ』

 

恋愛を楽しむばかりで彼女との将来を真面目に考えていないだろうと責める目だ。

身を切られるような羨望が走る。山田さんと対等の立場。社会的地位と生活力。俺は彼女を愛しているが、それらがなければ彼女とは生きていけない。堂々と一緒になれない。たとえ、仮に、山田さんが俺を好きだと言ってくれても、愛しているならばという脅しを振りかざして、愛を盾に、共に苦労を背負って今より水準を落とした生活を送れだなんて、要求できない。

相変わらず仕事で得られる収入は悲しいほど少ない。というか、工場からアクセサリーショップに作り直すために目下借金している身だ。相沢さん、あのよく工場の土地を売れとか言ってた怖い女の人が、結局すごく嫌そうな顔で承諾して出資してくれている。高級レストランの銀食器のデザインからアクセサリー、個人の携帯電話につけるキーホルダーとか色々手広く売ろうとして『無名のあなたがノージャンルで店頭に商品を置いていないとか信じられないですね。売る気あるんですか?』と相沢さんがキレる毎日だ。

でも、目の前のこいつは既に収入も社会的地位も持っているんだ。俺みたいに金はないけど一緒にいてだなんて自分勝手な願いを口に出さなくて済む。

 

『バラしてやる』

 

悪意のある台詞だ、とそのときは思った。でもそれは本当に悪なのだろうか。山田さんに対して悪いことをしているのは俺の方じゃないだろうか。山田さんが同じように好きならば、好条件の奴の方と一緒にいた方が彼女にとって幸せに決まっている。そう考えると、ただでさえ彼の言葉に打ちのめされている俺には何も言い返すことができなかった。

 

「……」

 

俺は、マウスを動かして、1からスレを読む。

彼女と出会ったとき。

初めてのデートの緊張感。

何回デートしても言葉に詰まる俺を笑っていた彼女。

それでも、「私ならいつでも話の練習相手になりますよ?」と俺の腕をつかんだ彼女。

値札を見て高い物となると眉をひそめたり、困るとかすかに唇の端が下がったり、ブラックコーヒーやビールを飲むと顔をしかめたり、マイナスのサインを見ること。

俺が言葉に詰まっても最後までこっちを見て待っていてくれること。

どう見ても傷つきそうで儚げな容貌な彼女はしっかり屋さんで、子ども扱いされることをひどく嫌う。

そんなこと一つ一つが、

「楽し…かった、なぁ…」

 

過去形であることにショックを受けるほどに。

 

無意識のうちに俺は携帯電話を鳴らしていた。

『もしもし?赤石くん。久しぶりね』

意識しなかろうと、俺は一番頼りになる人に連絡をしようとしていたようだった。

「奥さん…今、いいですか?」

『赤石くん?あらあら、本当に驚いたわ。全然どもってないじゃない』

確かに。前までは同僚の奥さんと話すのすら言葉に迷っていた。今は違う。

「…ええ。山田さんと大分お話したので、慣れたのかと…」

山田さん。

思いのほか早く本題に入った。電話越しでも俺の気持ちが伝わったのか、単に勘が鋭いのか、奥さんは『山田さんね…』と繰り返した。

『うまくいっているの?彼女と』

「…彼女とは、うまくいっている、気がします…」

『彼女とは、かぁ。ライバルでもいるの?あのイケメンくんとか?』

鋭すぎる。

「…奥さんも見てるわけじゃないですよね?」と俺は思わず聞いてしまった。三浦さんの発言で、ネット社会は広いようで狭いと気づかされたのだ。奥さんもスレを見て俺の状況を知った上でしらばっくれている可能性もある訳だ。

『え?何を?まさか赤石くん、あのイケメンくんにストーカーされて』

「違います」

どうも違うようだが。

『え?そうなの?』と何故か残念そうに言う奥さんに、俺は現状を話す。

「あの、何から話したらいいのか分からないのですけど…そのライバルの方が俺より生活力やら収入やらあるんですよ。それに俺、山田さんに内緒で悪いことしてて…それをバラすってあいつから脅されてるんです」

俺は誰かに話を聞いてもらいたかった。胸に溜め込むには大きすぎる問題だった。

『もっと詳しく』という奥さんにスレのこと、気持ちのこと、脅されたこと、洗いざらい話す。

奥さんがしばらく黙って始めに発言したのは、

『電車男?』

だった。

ゲロ男です。

相談相手を間違えたかもしれないと思っていると、さきほどの口調と同様に奥さんは軽く言ってのけた。

『簡単よ。ここで諦めて彼女の前に姿を出さないか、それこそ彼女の前で全部やってきたことを「ゲロ」っちゃうか。

彼女のこと好きなら、取られたくないなら、さっさと自分の思いを「ぶちまけてくる」ことね!』

「……奥さん、表現が汚いです」

『もう、赤石くんったら!失礼ねぇ』

「……ありがとうございます」

『ふふ、じゃあ、行ってらっしゃい』

手も耳に当てていた携帯も熱い。だが、俺の心はもっと熱かった。パソコンの電源ボタンを押す。

 

「山田さん……」

 

見慣れたポップな画面が出てくる。

俺が彼女とのことを書き込んできた、俺の気持ちと彼女との思い出の一部分の記録。

これを『楽しかった』という話だけで終わらせたくない。一生の宝物にして墓場の下に一緒に埋めてもらうのも嫌だ。

俺は彼女と二人で『こんなこともあったね』と他愛もなく笑う話にしたい!

点滅するカーソルから次々と文字が吐き出されていく。

 

900 名前:恋するスレ主 さん

おまいら、長らく書き込んでなくてスマソ(´・ω・`)

 

突然だけど、俺、□リカりんにこのスレのことを言いに行こうと思う。

 

901 名前:スレ主にアドバイスする英国淑女 さん

ゲ□男さん、久しぶりです

 

……って正気ですの?!

 

902 名前:スレ主にアドバイスするオオトリリンネ さん

スレを見せて、あんたが裏で□リカをネットで晒してたって思われても仕方がないことだと思うんだけど、それでもいいの?

 

903 名前:恋するスレ主 さん

色々考えた

 

けど、このスレは俺の今までの気持ちが積み上げられている。

それにおまいらのアドバイスもたくさんある。

キモいと思うし、ネットで何真剣になってんの?って感じだろうし、俺は顔もどんな人間かも知らないけど、おまいらは俺の親友だ。

おまいらのことを誰に見せても俺は恥ずかしくないし、むしろこんなに俺のことについて考えてくれた香具師らがいたんだって見せびらかしてやりたい。

 

904 名前:スレ主にアドバイスするブロンド貴公子 さん

もしこれで□リカがゲ□男のことを嫌っても後悔しない?

 

905 名前:恋するスレ主 さん

ここには俺のありのままの気持ちを書いたつもり

 

それを見た上で、□リカりんが俺のことを嫌うのなら、それはすごく悲しいけど、

それでも仕方がない…って思います(´;ω;`)

 

906 名前:スレ主にアドバイスするモッピー さん

逝って来い!!

 

                        ☆.。.:*・゜`★

                     ☆.。.:*・゜`★☆.。.:*・゜`★

                        (´・ω・`)<ゲ□ェ

                        ☆.。.:*・゜`★

                    ′//    //′

                        //

                      //

                     //

      ブンッ          //

    /  ∧_∧      //

  // / (   ´)    //

 ( ̄ ̄二⊂    彡⊃ ‘ 、' > カキーン!

   ̄ ̄    y   人    从

       ミ(〓_)__),,

   └──────┘

907 名前:スレ主にアドバイスするワンサマー さん

ガンガレ!!

 

908 名前:スレ主にアドバイスする黒うさぎ さん

あとは、□リカりん次第だな。

 

待ってるぞ、ゲ□男ェ……

 

909 名前:恋するスレ主 さん

おk!

 

 

 

*****************************************************

 

「山田さん……」

握りしめる携帯が熱い。電話帳からつぶやいた女性の名前を探し、電話をする。

ワンコール、ツーコール。

どきどき。

スリーコール、フォーコール……

出てこない。

俺は思わず時計を見た。夕方5時。一般の人は多分仕事だよな。学園の先生であるなら、まだ仕事で出られないのだろうなというのは自分の過去のおぼろげな学校生活から明らかだ。律儀な山田さんだから、仕事終わりには連絡をくれるだろう。それまでにIS学園付近に行っておいてすぐ会えるようにしておこう。

外は残念ながらどんよりした曇り空である。

 

俺はノートパソコンを持って彼女の下に向かう。


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