ゲ□男まとめスレ   作:のーぷらん

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ミッション_ 偶然

知り合いがいるというのに声をかけないことはすごく失礼だ。そんな場面に行き会ったら、もしも声をかけられなかったのが自分だったのなら、どういう了見かと問い詰め、私を無視させたことを後悔させてあげる。

そう考えながら、私は静かにティーカップを置く。そっとそっと、音を立てないようにだ。

(だからこんなコソコソした真似したくないんだけど)

鳳鈴音は強気な人間だ。

隠れて人のことを観察するようなことはしない、いつも自信満々な女。

その一方、好きな人はおろか、どうでもいい他人にだってアドバイスとか手助けとか、いわゆる『善いコト』をするのは気恥ずかしいという、ちょっと面倒な性格。恥ずかしがるから「ついでよ、ついで」「別にアンタの為じゃないんだからね!」と乱暴に言い振る舞って、相手に妙な顔をされて、相手は一応世話になったのだからという気持ちと粗野な言動に戸惑う気持ちの板挟みの中、中途半端なお礼を言う……ああ、もう!こう冷静に自己分析すると本当面倒な性格ね。

ただし、オオトリリンネはその点少し違う。勝気で生意気ではあるけれど、ストレートに世話を焼く世話好き。いや、オオトリリンネも私であることには変わりないんだけど。

でも思ったことを文章に書き起こすせいか、ネットを介して面と向かう必要がないせいか、遠回しに善いコトをしない。要はツンツンした態度をとらず、アドバイスとかフォローとかできて、相手も不快な思いを一切せずに素直にお礼を言ってくれる。それが嬉しいから、たとえ、ゲ□男の恋愛を利用して一夏を更生させてやろうという意図から始めたとはいえ、いまや心から応援して進んで行動しているのだと思う。

それも、もう少しで終わりになりそうね。

こっそり先ほど入ってきた男女を見て、私はそう思う。

それは、突然だった。

 

「ベノアティー、美味しかったですもんね」

「はい、それも…あるんですけど、ただ、恥ずかしいことに、…この前はそんな珍しい紅茶だなんて知らなくて。せっかくだからしっかり味わいたくなったんです」

「ふふふ……赤石さん、大分スムーズに話せるようになりましたよね。じゃあ、ステップアップして、もう敬語止めてみましょうか!」

「!……山田さんこそ、敬語じゃないですか」

「……私は友達同士だって敬語ですよ?」

「……じゃあ、俺も、です」

「じゃあ、『山田さん』から『まやさん』に」

「……じゃあ、俺の呼び方も『赤石さん』から『智樹さん』に」

「『智樹さん』、紅茶の他に何を頼みますか?」

「は?!え、え、あー、あのー、チズケキでっ!!」

「ふふっ、長音符の場所がずれていますよ。『赤石さん』には…まだ早かったようですね」

「いや、そのままで大丈夫でsh!……すみません。これまで通りで」

「……赤石さんが私のこと、名前で呼べるようになるまでいつまでかかるんでしょうねぇ?」

「いらっしゃいませ、旦那様、奥様。何をお持ちしましょう?」

「…ッ…!!」

「まだ決まっていないので後ほどお願いします」

「かしこまりました」

 

I市唯一ベノアティーが飲める@クルーズ店内には、私のほかに、同じ学園のライバルたちであるところのセシリア、箒、シャルロット、ラウラ、そして全員の想い人の一夏がいる。

同席している。

というのも、一夏が急に「お茶しに行かないか?」だなんて部屋に来て言うから!まぁ、いつもどおりのメンバーに同じように言って誘っているだろうとは薄々分かってたわよ。だてにセカンド幼馴染してるわけじゃない。けど、やっぱり待ち合わせ場所にいるメンバーを見てがっかりしちゃうわよね。

そして、全員同じ店に、この席に着くまでにもちょっとモメた。誰が先にこのカフェに一夏と入り『旦那様』と『奥様』扱いをされるか、誰が一夏の隣に座るか、という内容で。

私たちにとっては重要だが、毎度のことながらという内容だったので、この際放っておこう。

それに、大切なのは、

全く会う気がなかった、いっそ一つ下の次元上の人物並みに関わりなかったゲ□男と、

 

「あれ、山田先生か?挨拶でも」

「ばっか、一夏!あんた黙ってなさいよ」

「そうですわよ!一夏さん!空気を読んでくださいな」

 

□リカ。

山田先生がいるということ。

一夏を両側からセシリアと一緒に最小限度の物音で引きずりおろしながら、私たちは目配せしあう。

(どーして、あの二人がここにいるのよ?!)

(偶然ですわよ!)

全くもってその通り。

スレ参加者全員でスレ主を観察しに行くなんて、ドキドキはらはらな平均台を渡るような企画を意図的に立てるはずない。ましてや、ここに私たちを誘い込んだのはあの一夏だ。偶然以外はありえないわね。

「はぁ」

幸運なことに、私たちとあちらの男女の間には壁がある。そして向こうは気づいていない。自ら出て行かない限りは分からない。相手に知られずに話を聞くにはちょうどいい位置。よし!

継続して声を潜めて話す。

(とにかく一夏だけ状況が呑み込めていないのがまずいな)

(貴公子、何とか言いくるめなさいよ!)

こういうときはやっぱり貴公子だと思う。彼女は、感情的にならず、冷静に場を見据えた対応ができる人間だと私は評価しているのだ。

(え?僕?!)と本人はいたく驚いているようだけど。

(そうだ、行け!援護する!)と参謀が言ったのがとどめになった。

「あのぉ、一夏。よく見て?」

観念したようにコードネーム貴公子、シャルロットは口を開いた。一夏は言われたとおりに、よく見て……――って、違うでしょ!

私は思いっきりシャルロットの方を凝視している一夏の膝をつねった。

「いッ…?!」

声上げようとするな、ばか一夏!

シャルロットも、じっと見つめられて嬉しいのは分かるけど説得しなさいよねと思いを込めてにらむと、いまだ顔を赤らめながらも彼女はあわてて口を開いた。

「い、一夏、違うよ!見るのは僕じゃなくて、山田先生の向かいの席の人!」

そうそう、普段イジられ役の山田先生が、逆にイジっているくらいS心を誘うような男の方を見なさいって言ってるのよ。

「ああ、そうか。……見て、どうしたら?」

「あのね、あの二人イイ感じだと思わない?」

「もしかして、……デート?」

おお。前の一夏ならば分からなかったはずだ。しっかりスレの効果がでていると言うべきね。

貴公子のナイスアシストが最も効果的だったようだということはこの際置いておきながら私は感心した。

「そう。だから出て行ったらデートの邪魔になっちゃう。でしょ?」

「そうだな。山田先生、生徒に見られたなんて知ったらめちゃくちゃ気にしそうだし……デートを覗き見してるみたいで気が引けるけど仕方がないな」

「う。そうだね」

なぜかシャルロットがダメージを受けているけど、そこは重要じゃない。さっきから一夏が飛び出すんじゃないかとハラハラしていたが、とりあえず一息つけるようだ。全員中腰体勢をといて、ふっかりとした革のソファに体を沈める。

どうやらベノアティーに、ゲ□男こと本名赤石智樹はチーズケーキ、□リカこと山田先生はショートケーキを選んだようであっちの二人は何ともほわほわした空気を醸し出している。

 

「おいしいですね!」

「おいしいです!」

「口の中で、なめらかなクリームとすっきりしたベノアの芳醇な味がまた絶妙でもう…」

「しあわせですねぇ…」

 

気楽なものだ。お互い随分楽しそうに食べる声が聞こえる。こっちは一夏をなだめるのに疲れてケーキ味わっている余裕もないというのに。せっかくの高い紅茶も湯気が見えなくなって冷めているのがうかがえる。そうとは知らないで、もちろん知っていてもらっても困るんだけど…けど…!

 

「そっちも食べたいです」

 

雰囲気が甘いのよ!でも、今後の参考になるかもしれないし!現状知ってたら、あいつにアドバイスしやすくなるだろうし!野次馬なんかじゃないんだからね!

私はこっそり壁の上に置いてある観葉植物を横に動かした。葉っぱのベールに遮られているが若干腰を浮かせれば表情を大体見ることはできる。

ケーキを食べさせる申し出を、顔を赤らめた男性は首を振って断っている。私としてはこの機会にお互いのケーキを交互に食べさせあう『あーん』でもすればいいじゃない!と思うんだけど、ハードルが高すぎるようだ。結局、相手のケーキを自分のフォークで自ら突いて食べることになった。それでも、ゲ□男はしぶしぶ「じゃあ、いただきます」とのたまっている。

「嫌なんですか?…赤石さん、『じゃあ』って言葉多いですもんね。私に言われたから仕方がなく食べる、ってことですよね…」

言ってる矢先に山田先生は不満そうな顔になっていく。からかうような演技の顔が、言っている最中に本気で腹が立ち始めたといった印象だった。

ゲ□男は焦って弁明する。

「違います!ぜひとも食べたいです!でも、…その、間接的に、…いや、もう四の五の言わずに食べます!」

「どうぞ!」

間接的に、って明らかに間接キスのこと気にしてるわよね。確かにケーキは山田先生の食べさしだけど、純情というか、……なんかムズムズしてきたわ。

とにかくゲ□男の表情を見て山田先生も思うところがあったらしい。先生は満面の笑みを浮かべた。先生の笑顔はよく学校で見ているけれど、同性の私でもどきっとするものだった。あれが女、の顔なのだと思う。一夏は見るなっと思うような顔だ。

「いッ…?!」

セシリアがあいつの足を踏んだから私は視線を再び彼らに向けたが、ゲ□男は既に先生のケーキを食べたようだ。山田先生のケーキはゲ□男のフォークによって大きくえぐられすっかり欠けて、中のイチゴが真っ赤な身を出している。明らかに食べすぎだが、ゲ□男はゲ□男で先生の押しに観念して勢いよく目をつむって食べているから気が付いてないのね。

「おいしいです……」

と、何とも悠長な感想を述べている。

案の定先生は口を尖らせた。

「ちょっと!赤石さん、結構な量とっちゃってるじゃないですか!」

「飲み込んだんで、もどせません」

ゲ□ネタやめろ。

自分のチーズケーキにフォークをさしながら目をそらした奴に、せっかくの先生の機嫌も元通り。再度ご立腹だ。

目が光り、ゲ□男が持っているチーズケーキ付きのフォークに狙いを定める。

「もう!これいただきますよ」

そのままがっつり手を掴んでケーキを口の中に入れた。

ケーキの代弁をするかのように「ああっ?!」という男の驚愕の叫びが聞こえる。

「何か文句でも?ぁむ、言っておきますけど、私の方がたくさん食べられたんですよ?これくらいして当然です!むむ」

……上目づかいでゲ□野郎のフォークを奴の手ごと掴みながら、ケーキをモグモグ咀嚼している山田先生は、可愛かった。あいつは完全に固まっている。手を離されてもぴったり山田先生にフォークを向けたままだ。その格好で止まっているので、傍目から見るとか弱い女子に男がフォーク突きつけているようにしか見えない。そうしていると先生はフォークを見て首を傾げた。

「……赤石さん?まだ食べさせてもらえるんですか?」

「えっ、あっ。え。食べすぎです。太りますよ!」

「失礼ですね?!」

とんだ茶番だ。見てられるか。

私は紅茶をあおる。冷めているが、風味は全く損なわれてはいない。

うん、何にせよひとつ言えることは二人はなかなかイイ感じといったことだ。呼吸なのか、波長なのか…会話や好みやらが合っているっていうのかしら。これで想いを告げることのどこに躊躇してるのかしら。

一夏と話していると私はすごく想いが重なっていないことを感じるわ。抱える気持ちが違いすぎて苛々する。近くにはいられるのに考えに隔たりが大きくてもどかしくて腹立たしくて辛くなる。

……何で私、こんな奴が好きなのかしら?

思いを巡らせているうちに急にゲ□男が話を切り出した。

「今日は話が……」

真剣な声色に山田先生も「どうしたんですか?」と若干硬い表情で返す。

「商品券も残り少ないですし、こうして会っているのはその、券を使い切るまで、ということなんですよね?」

私たちの机がしんと静まり返る。私たちには、少なくともこの隣に座っている男を除く、私たちには分かった。

ゲ□男は、告白しようとしている。

「あの、私……」

山田先生は言いよどみ、目を空にさまよわせた。

「……そうですね。最初会ったとき、そう言いました」

そう言うと、先生は暗い顔をしてうつむいた。あれ?明らかに先生は勘違いしてるわよね。奴も気が付いたようで、

「山田さん?あの、聞いてください…。お、俺は、」

と、誤解を解こうとした。

だが、解けなかった。

 

「真耶!」

「「え?」」

 

首をかしげる姿はリンクしていたし、割り込んできた人物を認めた瞬間浮かべる表情もほぼ一緒だった。引きつっている。

ちなみに私たちも同一の表情である。

「げ」という蛙の潰れたような、食事中なのであれだが吐き戻す手前のような声を押し殺した。

銀髪で赤い目。麗しく憎らしい男。さらに、一世一代の告白劇を邪魔した男。

 

「み、三浦先生?!」

 

山田先生が悲鳴のようにその男の名前を口に出した。平然と三浦は、「こんにちは、真耶。あと赤石さんでしたっけ。…先日はどうもすみませんでした、誤解してしまって。同席しても?」と言う。そら恐ろしいほど丁寧な仕草で、顔には後悔の色が浮かんでいる――ように見えた。

「あ、ああ、どうも、治りましたので…」

「では、失礼」

ゲ□男が許した途端、さっと座るあたり真に謝ったのか怪しいものだが。

ちょうど山田先生とゲ□男の間の席に割り込んだ男は軽く足を組む。忌々しいほどそういう仕草が似合う、こういうお高めのカフェがふさわしい男だ。

「ここの紅茶が美味しいと噂で聞いて立ち寄ったんですよ。そちらの御嬢さん、紅茶お願いします」

「は、はい!御主人様!」

相変わらずこの男の顔面に騙される女は多いんだから!メイドさんは顔を赤らめてそそくさと覚束ない足取りでキッチンに向かっている。きっとこの後夢心地で愛情のこもった紅茶を作るのだろう。

何故か総勢5名のメイドさんが紅茶を運んできても、彼らは他愛ない話をしていた。というか、三浦がずっと話していて山田先生とゲ□男が何とか穏便にこの集いを終わらせようとして失敗しているというありさまであった。「俺、おごるよ。勝手に同席しちゃったから」と発言しながらも、「「いいです」」と断る二人の言葉を聞いていないのも同然の態度で紅茶の追加を頼む。私たちも水を飲みながら居座る。何回、白い陶器の中に熟れたアンズ色の液体が注がれただろう。何回、私たちが水を口にしただろう。

「あの、…すみません。お手洗いに行きます」

山田先生はどうやらお手洗いに行きたくなったらしい。「すみません」とはおそらくこの男と二人きりにしてしまうゲ□男に向けての言葉だ。

間違っても「いえいえ」と口の端を吊り上げながら手を振っている男の方にではない。

山田先生は眉尻を下げながら、ゲ□男一人を残すのを心配そうにしながら、席を立ったのだった。

 

「「……」」

 

ただ、心配は的中と言ったところか。二人っきりになった途端に明らかに悪くなった空気に私たちまで固唾を飲む。

「お前、真耶に付きまとうの止めてくれる?」

と、甘さも何もない苦さ100パーセントで構成された声色が聞こえたのは山田先生の姿が完全にお手洗いのドア向こうに消えて、一拍置いたときだった。壁の向こうにいる私たちまで凍り付くような冷たい響きでもあった。単純に怖いと思った。

「お、俺は」

ゲ□男の声は上ずっている。さらに三浦は「釣り合っていないことに気づかないのか?」と続ける。

「真耶と俺は同じ職場なんだ。IS学園の教師をしているんだ。分かるか?」

分からない。

何を言いたいのかしら、三浦は。恐怖を抜けると私はふつふつと腹が立ち始めていた。こんなナルシストにおびえた自分が情けない。

身を乗り出して私は彼らを見る。二人の男が視線を互いにぶつけている。

「俺の方がお前より釣り合う。俺の給料だけでも真耶を養える。お前、収入は?付き合うはいいとしても、その先はどうするんだ」

「お…俺は…」

重苦しい沈黙が走った。

私は何が何だか分からなくなった。

「真耶もそろそろ戻ってくるだろうから、もう一つ。……お前、真耶とのことネットに書いてるだろ?次、真耶に会ったら、

 

バラすから」

分からないわよ。

何で、

 

何で、ゲ□男はそんなに諦めた顔をしてるの?

ゲ□男と山田先生は好き合っているんだからくっつけばいいの。ねぇ、ゲ□男。言い返してよ。

好きなら相手の仕事とかどうでもいいんじゃないの?

他の理由なんて、はねのけなさいよ。お願いだから――

「ぁ……」

お父さん、お母さん。

私が小さい頃には三人で『大好きだよ』って言い合ってたよね?好きなら一緒にいてよ。ちょっとお父さんの会社が上手くいかなくなったからって、お父さんがそれで苛々してたって、傍にいようよ。私はお父さんにぶたれても大丈夫だったのに。お母さん。何で離婚しちゃうの?鈴は大丈夫なんだよ?お父さんの仕事の都合で日本に来て、別れたからって今度は中国に戻るの?私は一夏が好きなのに!何で好きなのに一緒にいれないの?

目の前がグラグラする。

 

「鈴」

 

はっと顔を上げると、一夏が私を見ていた。他のメンバーも全員立ってこちらを覗き込もうとしている。そんなことしたらゲ□男たちの席からこっちが見えちゃうとぼんやりした頭で焦っていると、その疑問が顔に出ていたのかセシリアが答えた。

「山田先生たちはもう行ってしまいましたわ。鈴さん…」

ああ、そうなんだ…いつの間に…。

あれ、どうしてみんな心配そうな目で見てるの?

「鈴、大丈夫か?」

大丈夫。と言ったつもりだったが、こっちの不調なんてお見通しだったらしい。「もういいから。行くぞ」と同時に一夏は私の腕を引っ張る。

「え、きゃあッ!」

背負い投げの要領で体を浮かされ、思い切り目をつむる。次の瞬間温かくて硬いものにぶつかった。

一夏。

「何で、背負ってるのよ…!私、大丈夫なんだから、歩けるから!降ろしなさいよ!」

一夏が私をおんぶした。頭が沸騰し、その温もりに我を忘れて、背中に怒鳴った。一夏はうるさいとばかりに私から頭を離そうと首をひねっている。

「『タクシーごっこ』」

「は?」

「お前、海に行ったとき『管制塔ごっこ』してたじゃん。今度は俺が『タクシーごっこ』する番だろ。お客様、どこまで乗りますか?」

あ、あれ。臨海学校で一夏に肩車してもらったとき言い訳がましく『管制塔代わりよ!』とか…言ってたわね!思い出すと恥ずかしい。そんなのここで降ろしてもらうに決まってるじゃない、と睨もうとしたらそれより先にラウラが口を出した。

「IS学園だ。どうやら我が友人は飲みすぎてしまったらしいのでな。運転手、彼女の自室まで頼む。我々は別の経路で帰る」

「ちょっと!」

「了解」

そのまま一夏は歩き出す。私は何か言ってやろうと思ったけれど、ぐったり疲れて一夏の背にもたれかかった。

私はきっと子供なんだ。

好きってだけで、一生傍に居続けられると、そんな夢みたいなことを信じている子供。ゲ□男ならば、私が付いて応援している彼ならば、とても山田先生が好きな彼ならば、先生と末永く生きていけると信じていた。でもちょっと三浦に現状を言われただけで離れちゃうんだって落胆したんだ。愛だけじゃ乗り越えられないんだ。私のお父さんとお母さんみたいに。

信じたかった。期待してた。

愛があれば大丈夫って。愛は地位も収入も超える貴重なものだって思わせてほしかった。

今抱えているこの背中の持ち主に対する感情も、辛い現実の前には投げ出しちゃえる諦めちゃえるような物なのかな。こんなに胸を占める、身の内から溢れそうな物が?

「一夏」

「何だ?」

「私って、馬鹿ね」

それでも、信じたい。私は、周りがどうなっても、この男を好きなままでいられるって。

「そうかもな。大丈夫じゃないのに、大丈夫だなんて言うし」

「うっさい」

 

ゲ□男だって、本当は山田先生のこと諦めてないんだって。

 

 

恋愛板への書き込みはなくなったけれど私はそう思っている。




暗い鈴ちゃん。
いや、彼女ネタキャラみたいになってるけど、重い過去もあった上で明るい性格なんですよってことで。

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