ゲ□男まとめスレ   作:のーぷらん

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ミッション3 彼氏がいるか聞こう

 

他人のデートをのぞく趣味も詰問する趣味も、ない。

以前ならはっきり言えたはずなのだが――そう、日本に来る前ならば。

 

シャルロットは深いため息をついた。

日本に来てからの自分は何なのだろう。もっと言うと、一夏に恋してからの自分は自分じゃないみたいだ。

自分が彼とデートをする、までなら良いのだが、彼と他の女の子が一緒に出掛けるとなると、こそこそとついて行ったり後で彼に遠回しに話を聞いたりしちゃったりして。

(う、これって、もしかしてストーカー……いやいや、最近はそんなことしてないし!)

最近はライバルたちも件の彼も放課後このスレに集まっているから。

そんなことしてない。でも、よく考えたらこのスレでも立派に担任教師と見知らぬ男性とのデートの様子を聞いているような。

(うう…僕、変な女の子になっちゃったよ、お母さん……)

母の笑顔を思い出し、ひどく落ち込んだ気分になった。

「シャルロット、そう暗い顔をするな」

隣から声をかけられ、顔を上げる。

銀髪の少女が座っていた。出会って初めこそは激しく衝突したものだ。精神的に…というよりも主に肉体言語で。だが、今となっては良きルームメイトであり、恋のライバルであり、親友であるとはっきり言える。

「ラウラ……」

「スレ主がこう報告するのは予想がついてたはずだ」

小さな手でちょいちょいとパソコンの画面を突く。

シャルロットは自身のパソコンに目を落とすと納得した。

 

 

592 名前:恋するスレ主 さん

あの子に彼氏いるかどうか、

また聞けませんでした (´・ω・`)

 

 

「全くあのゲロは…本当に情けないな」

あのしょぼーんな顔文字と共に見慣れた文章が浮かんでいた。

ため息はスレ主が情けないと思ってのことじゃないんだけどなー、と思ったけど、ラウラに『僕って変態くさくなった?』とも聞けない。

ラウラ――黒うさぎはにやりと笑いながらパソコンを打ち始めた。シャルロットも再度画面に目を落とす。

 

 

 

 

593 名前:スレ主にアドバイスするオオトリリンネ さん

その言葉、2回目のデートが終わった後も3回目のデートが終わった後にも聞いた気がするわ

 

594 名前:スレ主にアドバイスするモッピー さん

2度あることは3度ある

 _____   /;;;;:::::::::::::::::/  ||;;;;;;;;;;;;ハ,ハ ゲエェェェ  |: ̄\;;;;; (,,/⌒ヽ  |:   |: ̄ ̄ 〉  ~  |:::.._|__ U゙U_|

 

595 名前:スレ主にアドバイスする黒うさぎ さん

3度目の正直とも言うがな

 

>594 モッピー

上で毒吐くな

 

596 名前:スレ主にアドバイスする英国淑女 さん

あー、もう皆様!

ゲ□男さんが彼女に恋人がいるか聞けなかったのはこれで4回目ですし、レスが投げやりですわよ?!

 

597 名前:スレ主にアドバイスするワンサマー さん

また次があるさ!

 

598 名前:恋するスレ主 さん

うう… 情けなくてごめん 

 

今の関係を壊したくないし、デートできてるし、もういっそこのままで…と思う俺もいて…

 

 

なんだか今の僕に似ている。

腕のブレスレットがキラッと光った。

そもそもこれを買ってもらったときだって嬉しかった。一夏と二人でお出かけしたときにプレゼントされたもの。あれは、男女が二人きりで外出したんだから、『デート』だった。けど、一夏に

「どうして僕のことだけ誘ってくれたの?」

って聞いたら「俺も水着を買うし、お前も水着買うだろ?だから、ついでに」って言ってた。『シャル』って二人の間だけの呼び名を考えてくれたから、ちょっとは特別な存在ってことだと思ったけど、結局は『ついで』なんだね?

僕へのブレスレットだって、箒の誕生日プレゼントを買う『ついで』だったって、後から知ったよ。

防水加工までして、海にまで持って行って、いつも身に着けている僕、とんだ馬鹿、だよね。

「シャルロット?」

分かるよ。

『デート』してるんだから、ちょっとは特別なんだから、良いって思う怠惰と欺瞞。

傍にいるだけで良いっていう自分への大嘘。

愛する人に自分とは別の愛する人がいるかもしれない、って想像するだけで渦巻く嫉妬心。

今の関係を崩すことへの恐怖心。

それらを我慢してるのは、苦しいけどそのままでいるのは。

 

それらの心を遥かに凌駕する、口に出すのもはばかられて、今の彼には向き合わせたくない――

 

「……し、シャルロット?」

 

圧倒的な恋心があるからだ。

 

ラウラは、そんな心を持っているのかな?今も手を止めて僕の方を少し怯えて見ている彼女。

(ラウラはそんな子でいてほしくないかなぁ……)

僕は顔の筋肉を無理やり動かして微笑みを作った。さらに不安げになった彼女を振り切るように、この重い想いを彼女の前で披露しないように、僕はキーを打った。

 

 

 

599 名前:スレ主にアドバイスするブロンド貴公子 さん

次なんて、もう聞き飽きたよ。

もう、デートするなんてチャンスないかもしれないんだよ?

ゲ□男、男なら腹をくくれ!

傍目から見たら恋人同士だろうけど、彼女はそう思ってないんだよ?

今のあなたたちは、

10万円もらうのは悪いから、一緒に消費する仲間だ!

商品券がなくなったら会う理由すらなくなる脆いつながりだ!

商品券がなくなったら?金の切れ目が縁の切れ目でいいの?

 

『このまま』っていうのは、そういうことなんだよ!

聞くのが怖いなんて関係崩すのが怖いなんて、好きなら当たり前のことだ

いつまでも当たり前の常識話なんかしないで、漏れたちに

新しい話聞かせてよ!

 

 

600 名前:スレ主にアドバイスする英国淑女 さん

きこうし、さん……

 

 

601 名前:スレ主にアドバイスするオオトリリンネ さん

貴公子……

 

602 名前:スレ主にアドバイスするモッピー さん

 ハ ハ

( ゚д゚) <きこうしィ…

 

603 名前:スレ主にアドバイスする黒うさぎ さん

貴公子ェ……

 

604 名前:スレ主にアドバイスするブロンド貴公子 さん

 

 

 

 

……ま、マジレスすまそ

 

605 名前:スレ主にアドバイスするワンサマー さん

貴公子、お前

 

かっこいいよ

 

605 名前:恋するスレ主 さん

 

……うん、貴公子さん。本当かっこいい。ありがとう!

 

マジレスついでに言うけど、俺みんなに甘えてたよ。

情けないしかっこ悪かった

 

 

日曜日のデートでは、絶対聞いて来る!

 

606 名前:スレ主にアドバイスする英国淑女 さん

待っていますわ!

 

607 名前:スレ主にアドバイスするオオトリリンネ さん

頑張りなさいよ?

 

 

 

 

スレの流れで解散となったが、シャルロットの一時の激情はちょっとした羞恥心に変わっていた。

その懐に潜めていた心を一部とはいえ大衆にさらけ出したことが恥ずかしかった。

「食事に行くぞ、シャルロット」

「う、うん。その…いきなり、マジレスしてごめん」

ネットで匿名性が保たれていたならば良かったものの、ルームメイトには知られてしまっている訳で。

「そんなことないぞ。嫁も言っていたではないか、『かっこ良い』と。

さすがは、私の、親友だ」

ラウラは笑っていた。

やっぱり恥ずかしい。ごまかすように「女の子に『かっこ良い』って本当一夏ってばデリカシーないよね!」と言う。そもそも男装していたときならいざ知らず、僕ってば『かっこ良い』って言われすぎな気がする。この前だって女の子って分かっているはずのカフェの店長から執事の格好して、って言われたり、お客さんには見とれられたり。

「シャルロットは可愛いが、言うべきときには言う意志の強さがあるからな。そこが格好良いんだろう。かわいくかっこいいことを、こう、何というのか…副官が言っていたぞ?…カッコカワイイ宣言」

「それ、違う気がする」

頭の中で眼鏡をかけたおさげの女子がイカした顔で笑っている気がする。何でだろう。

うん。

「ごはん食べに行こう」

お腹がすいたから、ろくな考えが浮かばないんだ。

シャルロットはそういうことにして立ち上がった。

 

ラウラと一緒に食堂に向かった彼女が、セシリアや鈴のどこか惚れ惚れとした視線にさらされるのは数分後であった。


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