ペルソナ物語4~ポケットが真実でいっぱいいっぱい~   作:琥珀兎

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第二十話:兆し

 七月二十三日 土曜日(曇)

 

 期末テスト最終日。

 教室という檻に幽閉され机に繋がれし囚人達は、憑りつかれたように真白い用紙にかじりついていた。ある者は余裕の表情で、またある者は己の未熟さを呪いながら苦悩の表情を浮かべながら。そして、その二つに振り分けられない人物もまた存在した。

 クラスのムードメーカーを自負している花村陽介は、この五日間もの間、白紙の解答用紙を見て妙に清々しい表情を浮かべていたのだ。そう、彼はテストの問題が全然分からなかった。仲間達もそれを危惧して前もって勉強会をしようと言っていた陽介の言葉に乗っかったにもかかわらず、実を結ぶことは無く徒労に終わってしまったのだ。

 なにも陽介は一切勉強もせずやる気を欠片も出さなかったわけではない。勉強会の時には大和のクイズ形式テスト対策問題に挑戦し、答えが分からなくても問題をノートに書き写しておくぐらいの気概は見せていたのだ。しかしいざ解答用紙と向き合うと、陽介の脳内にあったいくつもの付け焼刃の火傷痕はあっという間に快癒してしまった。あらかじめヤマを張って望んだテストは、こうして思考を手放し、心地よい花畑の温室に逃避する事によって終わってしまった。

 勝ち目のない戦だと分かって絶望した姿を、クラスメイトの四人は生暖かい目で見守っていた。どこか心の隅で皆、こうなるような気がしていたからこその憐憫の視線。

 このテストが終わった後の、彼の空元気っぷりを今から想像しながら、それぞれのテストはウェストミンスターチャイムと共に終わりを迎えた。都合、五日間の……孤独な戦いであった。

 

「終わったぁー!」

 

 終了の鐘が鳴り終わり、解答用紙を集めた教師が教室を去ってから一分もたたないうちにそれまでの静寂な空間はどこへやら、ワッと解放された生徒達の歓喜の波が広がりいつもの賑やかさが戻ってきた。

 中でも陽介の喜びようは群を抜いており、まるでテスト時間までを遠い過去に押しやり何事も無かったかのような振る舞いだった。

 大した時間も座ってはいなかったのに、疲れ切った背中を組んだ両手を頭上高くに上げて伸びをする陽介。それを横目に見ながら席に着いたままなのは、余裕の気持ちで五日間を過ごした大和だった。

 

「ああ、確かに終わったな……花村」

「ふわぁ、あ……? わ、わかる?」

 

 体をほぐしながら欠伸を噛み殺している陽介に、一部始終を見ていた大和が皮肉交じりに吐いた言葉は現実に引き戻すには十分な引力が備わっていた。

 陽介は見られてたか、と小さく呟き誤魔化すように笑顔を浮かべた。

 

「だってお前、机に向かってるのに心此処に在らずって感じで放心状態だったもんな」

「いやー、いざ解答用紙と向き合ったら霧城に教わった問題が全部消えて真っ白になっちまって。せっかく教えてくれたのに、悪いなホント」

 

 態々協力してくれた大和達には罪悪感と感謝の念が混在していた。出来の悪いお調子者の自分にここまで付き合ってくれたのは、陽介には初めてで、何やら照れくさく、謝罪の言葉を言いながらも落ち着かない様子で視線が定まっていなかった。

 彼がこういう性格なのはここに居る四人は当然知っていた。だから手を貸すし、何より放ってはおけないのだ。いつも騒がしくて、ちょっと上手く行くとすぐに調子に乗って、すぐに失敗して落ち込む。子供のような陽介は、その日、その瞬間にいつだって全力を注ぐ。それは信条なのかもともとの性格なのか、仲間達は知らない。唯一、鳴上だけはそれを知っていた。新学期が始まって間もない頃に恋慕の相手を失った時、陽介は決意したのだ。“ふり”ではなく“本気”で、偽ることなく今を大事にしようと、せめて未来を失った先輩の為に。

 

「っとに何の為の勉強会だったのか……あ、雪子、次の問3の熟語の書き換えの奴は?」

 

 千枝は呆れながらもその表情は雲ってはなく、いつものように大和が晴れを連想するような朗らかな表情で陽介に一応の文句を取ってつけ、本命の雪子に向き直った。

 テスト後の答え合わせ。自分はどれほどやれたのか、赤点を取らずに済んだのか、それとも……。なんて早く知りたい心理が、クラスの中でも優秀な成績を収める雪子への行動となったのだ。優秀というだけなら大和もそうなのだが、千枝はここ最近りせの存在がどうしても魚の骨が引っかかるように気になって、それどころではないのだ。

 一度、どこかでりせとの関係をはっきり大和に問い詰めない限り、千枝は中途半端に距離を近づけることは出来なかった。

 

「えっと―――」

「うっわ、あたしそれ違うのにしちゃったよ」

 

 ちょっと自信があっただけに、間違えた時のショックは大きい。千枝は頭を抱えて椅子の背に向かって思いっきり仰け反った。

 

「おっ、里中も駄目だったか、これはもう一生日本住まいだな。和を満喫しようぜ和を」

 

 自信がない人間は仲間を作りたがり、群れようとする生き物だ。

 千枝のピンチを嗅ぎ取った陽介は、ここぞとばかりに小馬鹿にしたような笑みを浮かべ仲間意識を強める呪文のように唱えた。

 雪子と大和、そして鳴上の三人はその言葉を何とも思わないが、千枝にはそれが効果大なのだ。勉強面では下だと思っていた筈の陽介から仲間勧誘の囁きを受けるなんて、意地でも嫌だった。一言強く言い返してくれようか、と椅子から立とうとした。

 が、同時に開いた教室の扉に立つ二人が視界に映り、断念することにした。

 自分よりも、そして陽介よりも危険水位に達しようとしている後輩が来たから。

 

「うーっス」

「お疲れさま……じゃなくて、こんにちわ……」

 

 大和達の教室を訪ねてきたのは、一年生の完二とりせの二人組だった。組と括っているものの、二人の距離は微妙に開いており、下手な知り合いよりも他人って印象を感じさせる距離だった。

 そこまで仲の良いわけじゃない二人の表情は浮かなく、若干姿勢も猫背ぎみで頭の位置が低かった。

 

「酷い顔だな……」

「疲れてるっていうより、やつれきってるな二人とも」

「一年組は全滅……ってことか」

 

 テストの自信がないのだろうか、悠は浮かない表情を指摘し、大和がそれに補足を加え、陽介がそれらをまとめて結論付けた。

 一年生の二人はテストの点数は自信がないのはわかっている。それは日々の勉学の賜物だということを知っているからだと知っているからだ。期末テストは生徒達の日々の積み重ねだということを何よりも知っている。だからこそ、二人はこれまでの怠惰を惜しく思い、また惜しくも思う。 

 

「いーもんっ、英語なんていざとなったら大和先輩が通訳してくれるから困らないもん!」

「勝手に俺を巻き込むなよ……」

 

 芸能界で生きてきたりせには、今までの常識など当然通用することもなく、大和を頼る他なかった。しかし、頼られるべき本人は学生の本分を忘れず突き放し躱してのけた。

 大和としては、あの事件を切っ掛けに自立の一途を辿って欲しかったが、思い叶わず依然として彼女は大和に頼りきりだった。

 

「先輩は、テストどうだったんですか?」

 

 見かねた完二が、りせの話を遮りつつ大和に話を振った。

 

「ま、変わらずって感じだな」

 

 この言葉に誤りはなかった。それはこれまでの勉強を積み重ねて来たからではなく、イザナミによって奪われた努力の結晶である事を意味する。

 

「なぁーにが変わらず、だよ。こいつ、前のテストで転校間もないってのに学年一位だったんだぜ、化けもんだよマジで」

「えーっ先輩すごーい! 流石って感じするなぁ」

 

 期末テストを迎える前の中間テスト。

 転校して間もない頃に、この関門を難なく通り抜けた大和を、陽介は化物と称した。

 一概にこの故障を誤りとは否定できない。この町に来てからの大和は正しく化物じみた成果を上げ、一切の苦労を見せることなくやってのけたのだから。

 

「もいーっスよテストの話は、止めにしましょうよ。せっかく終わったんスから」

 

 なにも話は期末テストだけではない。

 完二はそれを皆に知らしめるべく、一言現実へと引き戻す言霊を吐き出した。

 

「そうそう、終わったものにいつまでもこだわってもしょうがない。俺は未来に生きるんだっ。って事で、里中と天城もよそうぜ答え合わせなんか」

「あたし、たまにあんたの能天気さを羨ましいと思うわホント」

「それが花村君の長所なんじゃないのかな」

 

 いくら終わったテストの答え合わせをしても己の答えは変わらない。

 陽介は過去を過去として処理し、今と言う未来を見据え始めていた。

 千枝にとってそれは能天気であり、雪子としてそれは長所として称せる代物であった。

 たとえそれが人として自慢できるものでなかろうとも、陽介としては単なる気まぐれの自慢話に近いもので、特に思い入れのない軽口の一種であることを、悠と大和は知っていた。

 

「なら、久しぶりに“特捜本部“でもやるか?」

 

 陽介の発現によって大和はふと、つい十日程前の記憶が蘇った。

 担任教師『諸岡金四郎』の怪死。大和が来てから初めての犠牲者は、なんの冗談か、これまでの被害者の条件を悉く外した人物だった。

 発覚した時、大和は珍しく狼狽えた。これまで予想だにしなかった事件であり、またマヨナカテレビに映ることなく―――犯行予告無しに死者が出たからだ。夜のニュースだったのもあり、夕食を共にしていたりせもまた驚愕に手に持った箸がとまっていた。

 事件が振り出しに戻ったようなそんな無力感をまざまざと突きつけられた感覚に、陽介は始めに己の未熟さに憤り、冷静になったころには逆に消沈していた。

 ジュネスに集まった仲間達は悪足掻きをするように推論を上げ、それを否定しては新たな仮説を立ち上げた。そんな最中、一人の人物が大和ら集団の会話に割り込んできた。

 

 

 ※

 

 

 七月十一日 月曜日(曇)

 

 ――――ジュネスフードコート――――

 

「その必要はありません」

 

 これまでの全てを台無しにするような一言に、同席していた大和達は水を打ったように静まった。

 突如として現れた人物は、青のカラーシャツに黄色いネクタイをラフに絞めた涼しげな色合いのファッションに身を包んでいた。面構えは目深に被ったキャスケットが邪魔をして全てを見る事が叶わなかった。

 大和とりせ、そして人型のクマ以外の全員がその人物を見て瞠若していた。特に、完二は顕著だった。大和はこの人物に見覚えがなかったせいか、不用意な発言をするのを控える事にした。

 名前も知らない部外者は帽子のツバを手で直し、軽く咳払いをした。これから喋ります。黙って聞いてくださいと言わんばかりに。

 

「諸岡さんについての調査は、もう必要ありません」

「な、なんでよ?」

 

 不意を突かれたような発言に、千枝が思わず声を上げた。

 

「容疑者が固まったようです。ここから先は、警察にお任せした方が良いでしょう」

 

 言葉が出なかった。

 自分らには出来る事はもうないから、大人しく元の学生生活を満喫していろと、そう言う意味に聞いて取れた大和は、目の前の人物が何者なのかを図る為に注視した。

             解析 名前/白鐘直斗 年齢/十六歳 身長/152㎝ 性別/女―――

 

「なっ……マジかよ」

 

 意外な事実に、大和は思わず声を漏らした。

 男なのだろう、と当然のように判断していた乱入者は実は女だった。改めて女性として観察をして見れば、なるほど確かに仕草の端々に女性らしさが見られる。男性と決めつけて余計な事を言わずに済み、心の中で胸を撫で下ろした。

 しかし、驚愕の一声は白鐘直斗の耳にも、そして当然他の皆の耳に行き届いていた。人とは、聞かれたくないと思って発した言葉ほど、よく聞こえる天の邪鬼な生き物なのだろう。

 

「なにか、問題でも……霧城大和さん?」

「なんでお前が霧城の名前を知ってるんだ?」

「それを話す必要もまたありません」

「ぐっ……こ、の」

 

 口では敵わず陽介は直斗を追求する事を諦めた。冷たくあしらわれた怒りで思わず上がった腰が行き場をなくし、中腰の姿勢になったまま固まった。まるでパントマイムのような姿勢に気づいた陽介は、羞恥で顔を染め腰を下ろした。

 直斗は席に座る大和を見下すような視線を向けた。その双眸は冷たい氷のような輝きを宿し、敵意を持っているように大和には見えた。あらゆる情報が脳内で視覚化してしまう程の理解力と知能を持ってしても、いま彼女が何を考えているのか、大和にはわからない。

 何故、敵意を持っているのか。見た事も話したことも無い人物に恨まれるのは、これが二人目だ。と林間学校での一悶着を思い出して、自然と喧嘩腰になりつつある大和だった。

 

「俺個人に、何か用でもあるってのか?」

「あのような言い方をしては、そう思うのも当然でしょう。確かに、僕はあなたに用があります、興味と言っても良いです」

「きょ、興味だぁ?」

「ちょっとバ完二は黙ってなさいよ」

 

 問題を置き去りにして揉め始めた二人を無視して大和は直斗を見据えた。なんの意図があって今ここで自分を対象としたのか、その根幹を成す興味とはどのような代物なのか。この場で問うても意味がないだろうと考えた大和は、静かに腰を上げた。

 ここではない、二人だけで会話できる場所が相応しいだろう。

 

「なら、場所を移そう。良いだろ?」

「はい。僕としても願ったり叶ったりです」

 

 直斗の反応からして、大和を除いた人物には聞かせられないものなのだろう。大和の誘いに、彼女は一切の躊躇いも無く首肯した。

 説明される暇なくトントン拍子で進む展開に、ついに千枝が立ち上がった。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。何もいま話す必要もないんじゃないの? それに、容疑者っていったい誰なの?」

「容疑者については、僕も知らされていません。ただ、高校生の“少年”だとしか。メディアにはまだ伏せられていますが、あなた方の学校でないのは確かです」

「容疑者は……高校生……」

 

 八十神高校以外の高校生。尚且つ、この町の周辺に住まう高校生である可能性が高い。自分でもあまり頭が良くないのを理解している千枝は、犯人像を浮かべるより先に自分等の通う学校の生徒じゃない事に安堵した。

 話は終わりだと言うように直斗は視線を外し大和へと向けた。どこかここじゃない別の場所へ。玲瓏たる双眸がそう訴えた。

 アイコンタクトを受けて大和は席を外れた。これ以上彼女から得られる情報はもう無いだろうと、得ただけの情報分は還元しようと直斗を案内する為に隣に並んだ。

 

「それじゃあ、俺はこいつと話をしてくるから。後は好きにしてくれ、多分もう今日は戻ってこないから」

「霧城、気をつけろよ」

 

 悠が身を案じて言った。

 それに大和は不敵な笑みでもって返す。

 

「なにについてかは知らんが、まぁ肉体的危険は俺にのみ関してはありえないさ」

 

 十四の瞳が見送る中、大和はそれらを振り切り直斗よりも先行した。この時間、二人で思う存分会話が出来る場所に向かって。

 先を歩き始めた大和の後を、遅れないようについていく直斗。その表情は腹に一物抱えたような猜疑と、憫笑の感情が綯交ぜになったような顔をして大和の広い背中のみを見つめ続けていた。これから一戦交える。そんな緊迫感がひしひしと背中に突き刺さる。

 背中からの敵意を感じて数十分。二人は目的の場所に到着した。

 鮫川の川沿いにある小さな空地のような広場。そこにある屋根つき壁無しの建物に入り、席に着いた。直斗と大和、二人は向かい合うように常にお互いの表情を窺えるように向かい合って座った。

 一息つくや否や、先攻を切り出したのは直斗の方だった。

 

「単刀直入に伺います―――六月の二十二日、あなたはどこで何をしていましたか?」

「…………」

 

 

 ※

 

 

 七月二十三日 土曜日(曇)

 

 ――――ジュネスフードコート――――

 

 土曜日という休日もあってか、ジュネスの客入りは盛況だった。どれほどかと言えば、普段は人の少ない家電コーナーにまで人が居るほどだ。このままではテレビの中には入れないのだが、もうその必要もないのかもしれない。

 本日の議題は勿論、モロキンこと諸岡を殺した犯人についてだ。警察がついに一連の連続殺人の犯人像をつかんだという直斗の情報から十日余りが経った今、未だに特捜隊はその影を掴めずにいた。一介の高校生の諜報能力などたかが知れており、それがまた歯痒い。

 山野真由美の変死から始まった事件に、終わりが告げられようとしている。これは、悠達“特別捜査隊”の終りを意味する。本来なら喜ばしい事なのだが、いつもの場に集まった一同の表情は浮かない。出来る事なら自分らで犯人を捕まえたかった。仲間の内の大半がそう思っているからだ。

 犯人を許せないという義憤がある。平穏な田舎町を食い荒らした所業は決して許せず、近しい者を殺された復讐心は決して言えないからだ。中でも思いを寄せていた人を亡き者にされた陽介は、この中でも一層の許しがたい怒りをその身に滾らせていた。

 

「このまま犯人、捕まっちまうのか……」

「そしたらあたし達がこうやって集まる事も、もうなくなるね」

「でも、良い事だと思うよ私は」

 

 陽介の独白に応えたのは、どこか空虚な面持ちの千枝だった。彼女もこのまま終わるという実感がいまいち掴めないのだろう。陽介の言葉に応えはしたものの、視線はずっと屋根の木目を見つめていた。

 腑抜けた二人を励ます言動をとった雪子は本当に喜ばしいのだろう、二人とは真逆に明るい。争いを好まない彼女だからこそ、自らの怒りよりも日常が返ってくるのが嬉しいのだろう。もう、強制された人生への不満も受け入れた彼女には、迷いはあまり無かった。

 泣いても笑ってもこれで終わり。警察の力を動員した今、犯人は間もなく逮捕されるだろう。

 惜しむような三人を見かねた完二が口を開いた。

 

「なに腑抜けてんスか先輩らはっ、まだ俺達にも出来る事があるじゃないっスか!」

「出来る事なんかねえよ、相手は警察だぜ? もう犯人が捕まるのも時間の問題だよ」

「あるっス」

「なにがあるんだよ」

 

 自信を持って言い切ったものの、実際の所完二のこの発言は完全に勢い任せだった。だから陽介に追求されて、完二は言葉に詰まってしまった。

 しかし、言い淀んだ完二を救う鶴の一声があがった。

 

「“警察よりも先に、犯人を捕まえる”」

「えっ……?」

 

 声の主は、他ならぬこの集団の長たる鳴上悠だった。

 

「警察は犯人を特定しているにもかかわらず、未だに逮捕出来ていない。どうしてだと思う?」

「そりゃあ、あれだろ。裏付けだか裏取りだがをしたり、令状をとったりしてるんじゃないのか?」

 

 直斗に告げられてから十日以上たっているのに未だ犯人逮捕の報道がない。警察官である悠の叔父、堂島も家の中で気を緩めた表情をしない。即ち、警察は犯人の逮捕に手間取っていると悠は考えた。

 陽介の言う事ももっともだろう。しかし、それにしても時間を掛けすぎているのだ。

 

「花村の意見ももっともだ。だけど、こうも考えられないか?」

「いったいなんだって言うんだよ相棒」

 

 この状況を打破できる一策があるのだろうか。そんな眉唾が存在するのなら、と他のみんなも悠が何を言うのか固唾を飲んで待った。

 何を言うべきか、大和にはもうそれが分かっていた。発言する瞬間、悠が大和を視線を交えたからだ。そのとき大和は瞼を閉じ、指で二度テーブルを叩いた。それは、以前屋上で交わした“合図”の一つだったから。

 合図を受け取った悠は、そして意見を述べる。

 

「―――既に犯人は、警察の手に届かない場所に逃げた、と」

「……っ!?」

「そ、それってもしかしてっ」

 

 予感めいた者が頭を過ぎった千枝が興奮のあまりテーブルに手をついて立ち上がった。

 警察の手に届かない場所。それは大きな意味で言いかえれば、通常の人間には立ち寄れない場所、見つからない場所に逃げたと言える。本来、これだけの情報ならば普通は県外などに逃走したと考えられる。しかし、悠の言いたい事はそうではない。千枝にはそれが、確信をもって理解できた。

 

「まさか犯人は―――テレビの中!?」

「そうだ。そもそも、これまでの事件の被害者はみんなテレビの中で殺された。この完全犯罪のお蔭で犯人はこれまで見つからなかったんだ。だったら、どうして今更になってそれが露見したと思う?」

 

 テレビの中という常識の線を飛び越えた犯行のせいで、犯人はこれまで捕まらずその足取りは愚か影を踏むことすら出来なかった。完全犯罪と断言できるこの犯行が、なぜ今更になって警察に掴まれたのか。陽介は冷静になれと己を律し、ひたすらに思考を加速させた。

 陽介が考えられる原因は二つだった。一つは、犯人の手掛かりになる何かの“証拠”が遺体から発見された。もしくは、

 

「今回の事件の犯人は―――別人?」

「…………」

 

 恐ろしい仮説を説いた陽介に、悠が静かに頷いた。今度こそ、皆声が出なかった。

 何故(なにゆえ)今更になって警察が犯人像を掴んだのか。それもかなりの速さで。それはそもそも犯人がこれまでの事件とは何ら関係のない人物だからである。モロキンが死亡した状況、それだけがこれまでと酷似していただけであって、死因や遺体状況などは普通の犯行遺体だと解析出来たのが、この事件を収束させる穴なのだ。

 しかし、だとすると千枝の発現が腑に落ちない。通常の犯行ならば、犯人はテレビを使わなかったという事だ。高確率でテレビの中の世界を知らないという証拠になる。それならば警察の手を逃れ十日以上も逃走し続けるのは至難の技だ。

 自分の発現の矛盾に気が付いた千枝が再び口を開いた。

 

「でも、それじゃああたしの言ったテレビの中ってのはありえないんじゃ」

 

 普通の人間にはテレビの中に這入るなんて、発想からして出来ない。

 それだと、陽介の模倣犯説が覆ってしまう。なのに、悠は二人の意見に首肯したのだ。これでは天秤が釣り合わない。

 だから、千枝の意を飲んで大和が視線を向けた。

 

「ここからは俺が説明しよう」

「大和君……?」

 

 これまで座して沈黙を続けていた大和が口を開いた。千枝はこの状況そのものが、彼によって作られた一種の“場”のような気がした。すべてはここに至る、それだけの為の前座なのでは、と。

 

「まず、鳴上の言った事は正しい。これは、花村もわかったように模倣犯の仕業だ。ここまではいいな」

 

 誰もが沈黙に首肯を重ね、大和の発現を重く受け止めた。これから話すことは、もしかしたら犯人の全容なのかもしれない。と、悠を除いた一同が思った。学年でも一番の点数を保持し、常にキレる頭脳は仲間内では信頼に値していた。だから、ここで不敵な笑みを浮かべる大和の口上は絶対に正しいという自信が皆にはあった。

 敵対者を自らよりも下へ引きずり落とす時に浮かべる、不敵で残酷な笑み。これまで見てきた陽介や千枝に雪子、そして何より悠は信頼を寄せていた。未だ付き合いの浅い完二や、期間よりも濃密さを重視するりせでもそれは理解できた。

 犯人を浮き彫りにする言霊が、この場に顕現する。

 

「模倣犯は、なんらかの理由でモロキンを殺した。そして、その遺体を一連の事件に似せようとした。ということから、犯人は目立ちたがり屋だと予想がつく。模倣犯ってのは他人の褌で相撲をとる人間だ、注目を浴びたい欲求がそれを犯行へと昇華させるんだ」

 

 逮捕を恐れるのなら、遺体を巧妙な手段で遺棄する事をまず第一に考えるだろうと大和は考えた。しかし、ある意味で流行っている連続怪死事件を模倣する、という手段は愚にもつかぬ策だ。少し考えれば露見するのは明らかだろう。だが、それでも犯人は模倣することをやめなかった。これは大和の想像する模倣犯特有の目立ちたがり屋な一面があるからだと推理した。

 

「結果、馬鹿を見た犯人は警察に知られる事となる。なのに、何故か捕まらない。どうしても捕まらない。これはおかしい、もしかして犯人は化生の類なのかと錯覚するほどに」

 

 矛盾はここにある。

 凡人だと推理する犯人が何故捕まらないのか。

 

「それは、模倣犯が既に―――ぐぅっ!」

「大和先輩っ、どうしたの? 苦しそうだよ」

「大丈夫だ、問題ない」

 

 しかし忘れてはならない。大和には『呪い』という呪縛が縛ってあることを。決して【真実】に近づく事の出来ない彼の呪いは間接的に真実へと近づける発言にも発動する。精神を焼き焦がす熱の痛みは、大和を酷く攻め続けるが、まだその被害は軽微だ。

 よって、ここから先の要点を話すために、大和は一つの手段を用いる。

 

「模倣犯が既に、本来の犯人と顔を合わせた可能性があるからだ」

「……鳴上君?」

 

 大和が矢面に立ったかと思えば、今度は悠が入れ替わるように話を継いだ。

 雪子が思わず漏らした声にも、視線すら向けなかった悠は絶えず大和を観察し続ける。大和は呼吸が荒くなりしきりに上下する肩をりせに抱かれながら瞼を閉じ、今度は二度どころではない回数を叩き始めた。どこかリズミカルな長音と単音を繰り返す大和の合図を、一音たりとも聞き逃さずに悠は聞き続ける。

 

「白鐘直人が……この間、俺達に忠告をしてきた人が言った後、とある掲示板で、犯行を仄めかす書き込みがあった。それによれば、犯人と名乗る人物が自分が犯人だという証明をしてみせると書いていたらしい」

「それじゃあ、警察だってその情報を見てるだろ。それじゃあ、もう捕まっててもおかしくないだろ。一体なにが言いたいんだ相棒?」

「考えられるのは二つ。犯人が再び犯行を重ねて証明する事。もう一つは……警察に自首をする事」

「でもっ、まだ犯人が捕まったなんてニュースはあたし見てないよ」

「そこで、さっきに繋がるんだ。犯人と顔を合わせた可能性に」

 

 もはや完二には悠や陽介、千枝達の論争の意味が正確に理解出来なかった。勉強が出来る方ではない自分では、過程を説明されたところで、どういった道程を進んだら終着するのかがわからない。結果が分かれば、それでいい。結局は犯人をぶっ叩ければそれでいいじゃないか、と他にもわかってないだろうりせに視線を向けてみれば、彼女は論争そっちのけで大和を介抱していた。こんな場でも色ボケられる彼女に、呆れを通り越して少しばかり関心してしまった。

 テーブルからは絶えず不可解なリズムで叩かれる音が鳴り続ける。

 

「後者を選択しただろう犯人は、警察へと赴いた。そこで、犯人と出会い恐らく……テレビの中に入れられたんだ。道中なのか、それとも警察内なのかはわからないけど、これなら辻褄があう」

「なら模倣犯は、真犯人の顔をしってるかもしれないって事?」

「天城の言うとおり、恐らくはそうだろう。だからこそ―――」

「―――ならっ警察より先にその模倣犯をとっ捕まえて吐かせりゃ、真犯人が分かるって事っスね!」

 

 経緯はどうあれ、模倣犯が真犯人に繋がる道になっている。そう理解した完二は力強く言った。

 小難しい推理は得意ではない。だが、この身体で立ちはだかる敵を薙ぎ倒す力は存分に持っている。それなら自分の役割はそれなのだろう、と決意し自らを鼓舞した。

 ようやく苦しみが去ったのか、完二の檄に触発されたのか、体調を整えた大和が抱き寄せるりせから離れ顔を上げた。

 

「粗方の情報元は、この前ここに来た白鐘直斗って奴だ。なんでもあいつは警察が要請した探偵らしく、その情報の信頼度は高いだろう」

「先輩、もう少し休んでいた方が良いよっ」

「無理しない方が良いと思うよ霧城君」

 

 りせや雪子が心配するのもわかる。なぜなら大和の額には玉のような汗が浮かんでいるからだ。季節は夏とはいえ、大和がこれほど汗を掻くのを見たことが無い為に病気なのではと疑ってしまう。千枝もまたその一人で、りせさえ隣に座っていなければ自分も大和を介抱したかった。

 

「大丈夫だ。これくらいなんてことはない。とにかく、テレビの中に居るのはほぼ確実なんだ。明日にでもりせのペルソナで目立ちたがり屋の野郎を見つけるぞ」

 

 雨が降らない今、マヨナカテレビがいつ放送されるのか期待できない。明日なのかそれとも一週間後なのか。天気予報も正確ではない。

 少しでも早くイザナミに近づきたい大和は、焦るように言いきった。

 時間が無い。焦りは油断を生むが、大和の場合はその因果が逆だった。油断が、焦りを生んだのだ。白鐘直斗と言う一人の探偵少女によって。

 時は再び七月十一日に遡る。

 

 

 ※

 

 

 直斗の発現は唐突で、大和の耳に入ったものの理解が出来なかった。

 剣呑な眼差しを向けるボーイッシュな少女からは、一切の欺瞞を許さぬ、という念が伝わってくる。夕焼けに鳴く鳥が、どこか遠く聞こえるのは大和の気のせいだろうか。

 

「あーっと、悪い、もう一回言ってくれないか? いまいちよく聞き取れなかった」

「それではもう一度、六月の二十二日、あなたはどこで何をしていましたか?」

「やっぱり。そんな正確な日時、俺がいちいち覚えているわけないだろ。多分遊んだり店手伝ったりしてたんじゃねえの」

 

 嘘だった。大和の頭脳は決して忘却を許容しない。

 よって、直斗の告げた日時に何をしていたのかを、大和はしかと覚えていた。忘れもしない罪の日。りせを誘拐し、テレビへと幽閉した罪科の日。なぜその日をこの少女が問いただすのか、大和はわからない。単にりせと同居しているからなのだろうか。しかし、一介の高校生が介入できる領域でないのは確かだ。

 直斗の視線は揺らがない。

 

「その日は、あなたの同居人である久慈川りせさんが行方不明になった日ですよ。お忘れですか?」

「そっかりせの。って、なんでお前がそれを知ってるんだ? もしかしてストーカーなの?」

「違います。僕は、県警本部からの要請で派遣された“特別捜査協力員”の、探偵です」

「その歳で探偵か、そりゃ凄い。俺の探偵像ってのは大体がコロンボみたいな風貌だと思ってたよ」

 

 他愛ない相槌で交わしたが、内心では直斗に対する警戒心が大和の中でより一層強まった。

 県警本部直々というからには、余程頭の回る人物なのだろう。その上この若さで探偵としての職務を持つ異常性。侮るなどという愚は持たず、一分の隙も見せないようにしなくてはならない。

 りせの一件が露見するとは思えない大和だが、それでも警戒を解く事は出来ない。目の前の実年齢よりも若干幼い体躯の少女は、そこから想像もつかない鋭さを隠し持っているかもしれないからだ。

 

「(小さいけど、胸はデカいんだな)」

「……なんですか、その視線は。少し危険を感じるのですが」

「いや、なんでそんなに胸を隠して男装してるのかなって思ってな」

「~~~っ!?」

 

 声にならない悲鳴が、その外見からは想像つかない直斗から上がった。

 男装をしている事を隠していた直斗からしてみれば、大和の何気ない発言は天地をひっくり返す程で、それこそ目の前が真っ暗になる程の衝撃を与えた。

 驚愕の反応を見た大和は、それが明かしてはいけないのだと悟り、慌てて口を噤んだがもう遅い。羞恥で顔貌を染める直斗の視線が先程とは違った、しかしさらに鋭くなり射殺さんばかりの視線を大和に向けた。

 

「ど、どうして僕が男装をしているなどと、そんな世迷言を口にするのですか!?」

 

 まだ誤魔化せるかもしれない。天から垂れた蜘蛛の糸を必死に手繰ろうとする。

 大和は往生際の悪い直斗に乗る事も出来たが、もはやそれも意味をなさないだろうと判断し、この際だから道筋を変更せず、このまま直進する事を決めた。

 

「だって、どうみても女の匂いがするじゃんかお前。…………ほら、やっぱり」

「ちょっ、やめてください! セクハラですよっ」

 

 帽子を勝手にとられ露わになった頭髪に鼻先を近づけ、あまつさえ香りを嗅いだ大和に、これまで冷静だった直斗も流石に声を荒げた。

 この光景を千枝やりせが見ていたら、恐らく想像すらしたくないような悍ましい折檻を大和に敢行していただろう。知らぬが仏。仏の顔も三度までだが、乙女の顔は一度で阿修羅に変貌する。

 大和に奪われた帽子を毟り取り、さっき以上に深くかぶった直斗は気を取り直すように咳払いをした。

 

「と、とにかく僕が女かどうかなど、今はどうでも良いです。それよりも、あなたのアリバイを僕は聞きたいのです」

「まあ、女なのはわかってるから良いよ。で? アリバイってのはりせが居なくなった日の事を言いたいのか? それならもう、警察に伝えたぞ。県警から派遣されてるなら、どうしてしらないんだ?」

 

 りせの誘拐をした翌日、祖母が捜索願を出した時に大和は克明に状況説明を嘘のアリバイを交えて伝えた。何度検証しても、綻びなど見つからない、完璧なアリバイを。直斗が本人の弁の通りならその情報すら取得している筈、なにも態々本人の元に赴いて聴取する必要もないのだ。

 大和はこの不可解な行動に、嘘くさいハリボテの建前のように思えてきた。裏付けるように直斗は、大和の答えに「そうですか」と頷きあっさりと納得した。

 

「では、あなたの過去を教えてもらってもよろしいですか?」

「……それが、本当に聞きたい“興味”ってやつか?」

「おや、わかってたんですね」

「口では嘘を吐けても、目が正直じゃあこの先探偵として食っていくのは難しいぞ。ほら、目は口ほどに物を言うって言うだろ」

「ご忠告、ありがとうございます。それで、答えてくれますか?」

 

 大和の過去を知りたいという直斗だが、大和自信どうして自分なんかの過去を知りたいのか逆に興味がわいた。

 

「ならさ、教える代わりに、今回の事件について知ってる限り教えてくれよ。そしたら何でも言うぞ」

「……交換条件、と言うわけですか。僕の権限を越える情報は教えられない。そして、僕が教える情報は僕で決める。それを許可してくれるなら良いでしょう。これでも一応、警察関係なので」

 

 条件を考えるとこれは圧倒的に直斗に有利な状況である。情報量の違いという秤にかければ、確実に直斗の方に重みが偏るからだ。大和が十の情報を吐き出しても、一方で直斗は一の情報を、しかも役に立つかもわからない情報をランダムで吐き出すのだ。例えるならそれは十回に一回しか景品の出てこないカプセルトイのようなものだ。しかも、アタリが入っている確証もない。

 明らかに分が悪い。しかし、それは大和からしてみれば直斗こそそうだと思っている。自分のどうでも良いさして面白みのない過去を語るごとに、一つ、少なくとも有益な情報を得られるのだから。

 

「オーケー、それじゃあ条件成立だ」

「ええ、では僕からお聞きしても良いですか?」

「おう―――」

 

 覚えている限りの過去を、大和は語った。特に直斗が求めたのはこの町に来る前までの一年程の事だったので、特に詳しく語った。

 友人とは自分からは呼べない顔見知りと遊んだ思い出。テストで赤点を取った思い出。学年行事が面倒だったのでサボった思い出。そして―――転校する前日、当日の思い出。餞別として貰った形式ばった寄せ書きの事。多くを語り、そして大和が求める情報も二、三手に入った。

 直斗から聞いた情報は大和にとっては有益で、後はパズルのように仮説をくみ上げれば、今回の事件のあらましが見えて来ていた。これでまた一つ、憎き敵に接敵したかと思うと、思わず口端が不気味に吊り上る。

 過去を語った後、直斗は何やら思案顔で顎に手を当てて俯き始めた。

 

「…………おかしいですね」

 

 手に隠れた小さな口は、大和の発言を咎めた。

 

「なにがおかしいんだ、昔話がそんなに面白かったか? 正直退屈な当たり前の、どこにでもある日常だぞ」

「ええ、本当にどこにでもある日常でしたよ。それこそ―――作り物のように」

 

 女性からの上目使いは、本当なら心躍らせるものなのだろうと大和は思うが、今回の彼女に限りそれは“ありえない”と断じた。

 こんなにも責め立てるような目線に、どうやって心躍らせると言うのだろうか。マゾっ気のない大和には理解できず、単なる疑心が湧くだけだった。何故疑うのか、自分の発現に嘘は無かった。それは自分が一番よく分かっている。にも拘らず彼女は咎めるように言う。これはなんの冗談か。

 

「何が言いたいんだ白鐘。俺が間違ったことを言ってるっていうのか?」

「正直に申せばそうです。あなたは嘘を言っている」

「っ! どこが間違ってるっていうんだ!?」

 

 開けてはいけない箱が目の前にある。

 決して覗いてはいけない鶴の間が目の前にある。

 見てはいけない石の瞳が目の前にある。

 避ける事の出来ない―――真実が目の前に、現れる。

 

「何もかもです。あなたが言っている過去は霧城大和の人生には―――存在していません」

 

 真実にたどり着けない呪いだと、そう言った化身の言葉は、果たして真実なのか。

 霧城大和と言う人格を守る外殻に、憎いほどに小気味良い亀裂音が走ったのが聞こえた気が、霧城大和はした。




今回でようやっと一章は終わりです。
次回は番外編を予定しています。
本編待ちの読者さんは申し訳ありません。

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