ペルソナ物語4~ポケットが真実でいっぱいいっぱい~   作:琥珀兎

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あと一、二話でこの章は終わります。


第十話:『漢』巽完二の覚悟

 テレビの中に誘拐された巽完二を追いかけ鳴上率いる一行をスゲー狡い技を使ってストーキングした末に、ちょっと調子に乗っちゃった花村を手助けしたり、ステルスしてるのを良い事に里中と天城の微エロ動画を撮影したりと、やりたい放題していた俺こと霧城大和は、暴走した巽完二のシャドウが放った魔の手からこれまたとんでもないピンチに陥ってしまった四人を絶好のタイミングで助けたりしてた。

 ……そんなピンチになるまで、なんで放っておいてたって?

 そんなの……動画がちゃんと撮れていたかの確認をしてたからに決まってるだろ。言わせんな、恥ずかしい。

 なんかちょっとカッコつけてそれっぽい事言ったけど。別に意味なんか特に無いし、ただ少しだけ本人達の覚悟の程を確認しただけの話だ。

 花村や里中、それに天城なんかは俺の事を頼り切った顔で見てたりするけど。うん、ごめん……実はこれが狙いだったんだよね。

 いきなり現れて「いやー俺もペルソナ出せるし、テレビに入れたりするんだよねー。だから仲間入れてくんない?」なんて間抜けな事言った所で、どうせオチは見えてる。数日ストーキングしていたから分かる。まず花村が俺の事を疑い、鳴上は真相を暴こうと里中と天城を巻き込むだろう。里中は良い奴だから多分俺の事を庇ってくれたりするんだろうけど、そうなった時の花村は結構鋭いからな。恐らく俺という存在を、一連の連続怪奇事件の犯人として考えるだろう。ここまで決まってしまったら後は芋蔓式だ。

 一度生まれた懐疑心は人間関係に不和を産み、それは次第に敵愾心となり、こいつらは俺の敵として立ちはだかるだろう。

 ほらな、俺の目的である『呪い』の解除にいつまでも到達することが出来なくなる。これじゃあ本末転倒だ。目的のために手段を潰してしまっては辿り着くどころの話ではなくなってしまう。終点に行くための電車に乗っても、そこに行くまでのレールが無ければそれは鉄の箱に閉じ込められるのと同じだ。

 

 ―――だから俺は待った。

 説明も必要なくなるような圧倒的な印象付けをするチャンスを。

 この絶望的な状況下では、思考回路はパニック状態になり『誰でもいいから助けて欲しい』という思考が生まれ、それに縋る様になる。そんな時、颯爽登場、大抵のことはどうにか出来ちゃう非常識大和君の出番だ。

 ピンチが一転、好機に成り代わった瞬間だ。皆俺を信頼するし、なんでここに居るかとか、どうしてペルソナが、とかその他諸々の説明が必要なくなる。

 効率重視の俺が使う、最高に最低な悪手で、最も短縮できる楽の仕方だ。

 ここまでの言い訳まがいの理由をつらつらと並べてみると、なるほど……俺って人間こそがこの世の悪なのだろうか。きっとこれを知ったら、他人は非難するだろうな。だから言わないけど。

 

 さて、精神論はここまでだ。

 そろそろ御飯事(おままごと)は御終いにして、辛くて苦しくて面倒くさい現実の始まる時間だ。

 

 

「―――遅いよ、遅刻は肉丼だからねっ」

「―――はい喜んで」

 

 なんて里中千枝に可愛く微笑まれて軽くトリップしていた俺は、シャドウ完二の放った《狂信の雷》から皆を守るべくトコタチの《大言創語》で“汝、雷を我に当てること決して叶わず”と言霊を憑け、その凶刃から守っていた。

 これで俺が前に立ちはだかる限り、コイツは俺にその決め手の必殺技を当てることは出来ない。だから、今の内に……。

 

「きぃいいい! どうして、どうしてボクを受け入れてくれないのぉー!?」

 

 必殺の攻撃がどうしても当たらない事に憤慨し、意地になって同じ技を繰り返すシャドウ完二に背を向けて満身創痍といった状態の四人に目を向け視る。

 ……ふむ、里中の体重は筋肉の所為かな。うん仕方ない。じゃなくて、それぞれの損傷箇所を視てみる。……よし、わかった。

 

「お前ら、ジッとしてるんだぞ? 今直してやるからな」

「治すって……この状態からか? 天城のペルソナでもそこまでは出来なかったんだぜ? 流石に霧城でもそれは無理なんじゃ」

「万象悉く、見せつけろトコタチ……!」

 

 花村の言葉も満足に聞き届けない内に、俺はトコタチの力を《チェンジ》する。

 

   《メディアラハン》

 

 無貌の容姿をしたトコタチが、肩の辺りにある仮面をその顔に貼り付ける。優しき様相の能面は癒しの属性を持ち、回復補助を司る。

 トコタチの唱えた癒しの力はみるみる内に傷ついた四人と、他の巽やらクマ之介もついでに直した。

 

「お、おぉ……すげぇ、本当に治った」

「本当、凄いわ……こんなに力が、溢れてくる」

 

 花村を始めとした面々が次々に、完全に完治した体を噛み締めながら立ち上がる。

 見るも無残に四肢の端々が一部炭化していた花村なんかは、その場で飛び跳ねたりしてなんともなくなっている体を存分に味わっていた。

 

「さて、皆気がついた所で申し訳ないが時間が無い。それは見ればわかるな?」

「うん、あたし達全員、あのシャドウに敵わなかったんだね。っていうか霧城君のペルソナ、さっきからあの攻撃を防いでくれてるけど大丈夫なの?」

 

 里中が悲痛な面持ちで何かからか目を逸らすように、うつむき加減で聞いてくる。

 聞きたいことは山ほどあるのだろうが、状況がそれを許さない。必要最低限の事だけを答えよう。

 いつまでもあのシャドウの意地っ張りが続くとは限らないからな。《狂信の雷》“だけ”を効かないようにしているから、他の攻撃はすんなりと通ってしまう。なるべくこの技は多用したくない。使うたびに身を炎で焼かれるような痛みが俺を襲うからな。

 ベストな対処法としては、的確な支持の下、連携と効率を高めたコンビネーションで圧倒する。もしくは俺が超頑張る。

 頑張ってみても大丈夫だろうが、ここはせっかくなので努力してからやってみよう。

 

「俺のペルソナが防げるのはあの雷だけだ。だからいずれ違う攻撃を始めたら、また戦況はひっくり返る。よって……鳴上」

「なにか、いい案でもあるのか……?」

 

 急に呼ばれて少々驚きつつも、いつもと同じ落ち着いた声のトーンで返事をする鳴上。

 土壇場においては俺も目を見張る冷静さを取り戻す鳴上の精神面での凝固さ。今更ながら、この男がリーダーの任に着いている理由がよくわかる。

 

「――――――」

 

 敵に聞かれてしまっては元も子もないので、ちょいちょい、と右手を小さく手招いて四人を近づかせる。

 行動の意図を一番早くわかったのは里中だった。

 タッと小さく駆けて小動物のように近寄ってくる。これが外での事だったら頭の一つでも撫でているところだ。実に口惜しい。

 里中の行動を見て理解したらしく、他の連中もまた見習って近寄ってくる。

 

「いいか、これから言う事をよく聞いてくれ―――」

 

 ―――これより話すのはシャドウを打開するにあたっての戦法。

 勝つための必勝法。

 そんな眉唾物の話を、俺は四人に言い聞かせた。

 

 

 

 

 大和が説明をしておよそ五分が経過した頃。

 ついに敵シャドウのお粗末とも言える反復行動が終了を告げた。

 

「いい加減、ボクにやられて消えちゃいなよぉおおーーー!!」

 

 馬鹿の一つ覚えの様な《狂信の雷》を収め、両手に持った金輪を振り上げ人の常識で測れない膂力で振り下ろされた。

 

   《キルラッシュ》

 

 吹き荒れる嵐のような打撃の連打がトコタチに降り注ぐ。

 一つ一つが、喰らえば大打撃と言わんばかりの猛攻。振るわれる速度に風が舞い、ゴオオという音が大和の耳に届く。

 だけど―――彼にとってこの程度、そよ風に過ぎない。

 

「今だ! 散れ―――っ!」

 

 猛り狂う猛攻をペルソナで全てを防ぎながら、親玉の意識が自分に集中している内に、彼は四人の分散を声高らかに合図した。

 千枝と陽介が左方向に。

 雪子と悠が右方向に。

 それぞれの役割を果たさんがため地を駆ける。

 

 “―――いいか、まずお前らは巽のシャドウより先に、隣に居る筋肉ダルマを片付けなくちゃ駄目だ。”

 

 陽介と千枝の脳裏に、先刻の大和の言葉が反芻される。

 敵が三人居る以上、各個撃破をしてしまうとどうしても残りの二匹が手薄になってしまう。そこにつけ込まれ先の技を再びくらってしまっては元の木阿弥だ。

 とすると、戦闘経験の少ない彼等が取るべき行動は一つ。

 

 “まず初めに、里中と花村は左の筋肉を片付けるんだ。アイツには里中の氷結系の技が弱点だ。それを優先的に使っていけ。”

 

 ジットリと湿った空間の中、木造の床を全力で駆けながら標的に向かっていく。

 距離にして五メートル程。

 その距離まで近づいた所で、一旦その足は留まる。

 里中は息を荒くしながらぎゅっ、と左手で胸辺りの衣服を掴む。

 全力で走った事によって彼女の心拍数は上がり、その心臓はこれから再び行われれる闘争の緊張と高揚、そして僅かに心の隅に巣食う恐怖が原因で早鐘を打つように鳴っている。

 よく見れば膝も震えている―――これじゃあ彼に笑われてしまうな、と自嘲気味に苦笑いが自然と浮かんだ。

 それだけで、千枝の覚悟は決まった。

 

 “決意はした、覚悟だって選んだ……後はもう―――前に進むだけ!”

 

「行っくぞぉおおおーーー!! お願い、トモエ!!」

 

 カチッとスイッチを入れるように、彼女の脚が華麗に回りカードを砕きトモエを召喚する。

 以前、鮫川の土手で大和と共に練習した事は、ちゃんと千枝の中で経験として生きている。

 両刃の薙刀の様な得物を振るい、トモエは自信が持つ今最高の氷結を生み出す。

 いまいち危機感を感じていないナイスガイが、悠然と立っているその地点に向けて―――ありったけの冷気をブチまける!

 

   《ブフ》

 

 極々の冷気がナイスガイの周囲に出現する。

 屈強な肉体を覆うように、情けなど一欠片もない無慈悲な氷が凍て尽くす。

 今度は相方のタフガイが助けに入る事もなく、為す術もなくあらゆる行動を封じ込める事に成功した。

 ここまで成功すれば、自分の役割はやり通した、と千枝は安堵のため息を吐いた。

 仕上げは、共に駆けたもう一人―――花村陽介が受け持つだろう。

 

「ナイス里中! 作戦通りだな! 後は……俺が決める番だ!」

 

 友人の行動を労い彼は氷像と化した敵へと差し迫る。

 

 “―――花村、お前は里中の技が決まったら間髪いれずに打撃技を繰り出せ。シンプルだがそれが一番有効だ。……お前が頼りだ頼んだぞ”

 

 大和の言葉がふと蘇る。

 一度は油断が、満身が仇となり瀕死になり絶望を味わった。あれほどの恐怖を感じたことのなかった彼は、正直な話し逃げ出したい気持ちも少々あった。

 自分一人が居なくてもきっと大和と悠がどうにかしてしまうかもしれない。そうなれば自分は必要なんか無い、と諦観にも似た気持ちを胸に抱きそうになった。

 力の伴わない役立たずよりも、ずっと頼りになる人間が二人も居る。

 

 ”なら、俺なんかが出しゃばってもしょうがないじゃんか―――でも”

 

 でも、だけど、と陽介はネガティブな思考を振りはらう。

 忘れてはならない気持ちがあるんだ、冷めてはいけない怒りがあるんだ。

 弱い自分は受け入れる。だからもっと―――強い思いを!

 

 “救うことのできなかった先輩の分も―――!”

 

「俺だって……いつもヘラヘラしてられるほど、アホじゃねえんだよぉ!! ジライヤーー!!」

 

 熱く胸に溢れる思いは、声となって陽介は咆哮する。

 お調子者なだけが自分じゃない―――自分には別の一面だってあるんだ!

 アクロバティックに飛び、己のカードを砕きて召び出すは幼き頃のヒーロー像そのもの。

 首に巻いた紅いマフラーが、忍者を思わせる大きな手裏剣が、すべてがもう一人の自分の権化。

 氷像の前に居るのは、ただの敵じゃない。貴様を絶命させる強敵だ、と宣言をするように、ジライヤは特攻する。

 堅く握られた拳が、バネを引くように後方へと下がっていく。明らかなテレフォンパンチ。だが、そんなものは氷像と化した敵の前には関係ない。

 それを除いても、例え氷漬けにされてなくとも敵にとってこの一撃は決して避けられぬものになる。

 

   《ソニックパンチ》

 

 ジライヤの放つ音速の拳がなんの障害も無くナイスガイへと激突した。

 空気を震撼させ、千枝の放ったブフによって凍りついた氷に段々と亀裂が走る。

 一度芯まで凍りついた肉体は耐えることもできずに、ガラガラと崩れゆく氷と共に砕け熱気の篭った地面へと落ちていった。

 あれだけ苦労させられた敵はあっという間に物言わぬモノとなり、静かにその存在を影と化し空中で霧散していった。

 

「よっしゃあ! 見たかコノヤロー」

「すごいすごいっ! やったじゃん花村。これで後は雪子と鳴上君、そして霧城君だね!」

 

 ナイスガイの消滅を見届けた二人が、勝利の雄叫びを高らかに上げた。

 その表情は晴れやかで、まるでもう事が済んだような幻想を抱いてしまう、そんな程に。

 ぐっと拳を突き上げた陽介に、讃えるように千枝が駆け寄りハイタッチをする。

 

「ああ、天城と鳴上ならきっと大丈夫だ。それに……里中の愛しの霧城だってなんとかしてくれるはずさ」

「んなっ……なにいってんの! ふ、ふざけてないでサッサと霧城君の所に行くよ! そうゆう手筈でしょ!?」

 

 敵が霧散したことによって戦いの雰囲気も霧散したのか、すっかりおどけた態度を取り戻した陽介が千枝をおちょくる。

 千枝もまた、おちょくるために出された対象が対象なだけに微かに赤面し眉を釣り上げて声を荒げる。

 これだけ露骨に態度に出されれば―――嫌でもわかってしまう。

 陽介は内心で嘆息して、悪い悪い、と僅かに引きつった笑みを浮かべる。

 

 “こりゃあ、あいつも彼女持ちになっちまうのか?”

 

 なんて事口に出して言えるはずもなく、陽介は自分の心情に収めるだけにしておいた。

 

 

 ――――一方、悠と雪子は。

 

 先ほどの大和の合図に従い、右側の敵タフガイに進撃していた。

 動いたタイミングは完全に千枝達と一致しており、悠が僅かに先行しその後を雪子が着く形になっている。

 ギュッと、確かめるように神妙な面持ちで自分の右腕を握る悠。

 あれほどの傷を受けたのに、今はもう最初から何もなかったかのように治っている。

 あの雷が避雷する瞬間、悠の意識はあの蒼い部屋、ベルベットルームの中に居た。

 以前も何度か訪れたことのある、あの不思議な空間。ペルソナとはなんなのかを教わり、自分の属性である『ワイルド』についても説明してもらった。

 薄れゆく意識の中、自分は確かにあの時マーガレットの声を聞いた気がした。

 が、今はそんなことを考えてられるほど余裕はない。

 ブンブンと振り払うように首を横に悠は振る。危険なのは自分だけじゃない、ここで油断していたらまた仲間を守れない。

 

 “―――天城と鳴上は、右の筋肉を相手してくれ。アイツは炎が弱点だから、天城のペルソナなら十分だ”

 

 数分前の出来事が思い出される。

 どうして敵の弱点を知っているのかはわからないが、自信満々にそう嘯く彼の姿に悠も雪子も疑問を抱けなかった。

 確証のない事だが、大和の使役するペルソナの能力の一つなのだろうと思い納得することにした。

 

 “それと、敵の注意が天城に行かないように、鳴上は接近して積極的に攻撃していってくれ。アイツの攻撃を天城が耐えられるかわからない”

 

 しっかりとした目つきで悠に釘を刺す大和、いつも飄々として、たまに難しそうな顔をするそんな彼の真剣な目つきを思い出して、フッと笑みが浮かぶ雪子。

 “まるで自分のことのように、彼は私を心配してくれていた。感情に流されるままに彼を批難してしまったのに……”

 まるで気にも留めていなかった。もしかしたら忘れている可能性だってあるかもしれない。

 緊迫した雰囲気が奔る中、決して速度を緩めずに敵へと迫る二人は、不思議と負ける気がしなかった。

 

 初めに悠のペルソナ『イザナギ』がタフガイに向かって切り込んだ。

 自分が受け持つ役割は注意を惹きつけることと、天城雪子へ敵の攻撃が行き届かないようにする事。

 あくまでも本命は雪子。

 前座を受け持つは『ワイルド』の特性を生かした戦いをする鳴上悠。

 複数のペルソナを所持している悠だからこそ出来る戦術、戦法がある。

 

「―――イザナギ!」

 

 身の丈ほどの大太刀を持ったイザナギが敵に向け袈裟懸けに切り刻む。

 裾の長い学生服のような衣服を身に纏った姿は、まさしく『番長』の印象を想起させる。

 タフガイは必殺の太刀筋を半歩横にずれるだけで躱しきる―――が、イザナギの攻め手はそれで終わりではなかった。

 空振りに終わった一太刀は振り終わりを支点に、跳ねるように切り返しタフガイの位置へと追撃する。

 下段よりやや上方寄りの横なぎの一閃が疾る。

 躱しようのない一撃はタフガイの胴に深く切り刻まれた。

 

 “一度攻撃が当たったら、鳴上は絶えずその攻撃を休めるな。手段は何でも良い、とにかく天城の存在を認識させないようにしてくれ”

 

 元より休める気など―――さらさら無い!

 

「《チェンジ》―――ラクシャーサ!」

 

 ペルソナが変わる。

 『ワイルド』にのみ許された特性。その手数とバリエーションの豊富さ。

 羅刹を思わせる両手剣の剣士はその二刀を持って空気を切り裂く剣戟を繰り出す。

 

   《疾風斬》

 

 網膜に捉えることの出来ないその速度は、相手に成す術もなせぬままに肉体の切断を行う。

 苦し紛れにタフガイが腕を振るいラクシャーサを引き離そうをするが、それも虚しく空を捉えるだけに終わってしまった。

 戦局は誰が見ても明らかなもの。

 もはや崖っぷちのタフガイに、さらに追い討ちをかける姿が悠の一メートル後方に立っていた。

 

 老舗旅館の娘としての矜持か。

 天城雪子の手には馴染み深い扇があった。

 手に馴染むソレは、雪子にしてみればとても当たり前の代物で、無くてはならない物となっていた。

 旅館の次期女将をどこかで疎ましく思っていた彼女だが、それとは裏腹にいつまでも手放せないでいた扇は彼女の心そのもの。

 閉じた状態では描かれた絵画も見えないが、開きさえすれば、心を開けば美しき斑紋が花開くのだ。

 

 “天城は鳴上が敵を切り崩したら出来る限り溜め込んだ炎を吐き出せ! それだけだ、お前なら出来る”

 

 静かに―――閉じた瞼を開きて決意の炎灯る双眸を見開く。

 狙うはあの忌々しき筋肉達磨。

 辛酸を舐めさせられた事を燃料に、彼女の胸に燃え盛る炎をそのままに。

 

「いこっ! コノハナサクヤ!!」

 

 ―――あらゆる障害を焼き尽くせ!

 

   《アギラオ》

 

 果たしてそれは怒りなのか、はたまたそれとは別の感情か。

 雪子の炎は正しく標的に中り、超高温の炎熱によって堅く恐ろしかった肉体が焼け崩れた。

 ―――勝敗はここに決した。

 

「やったな、天城……お手柄だ」

「そんな、鳴上くんが気を引いてくれたから、私なんて、そこまでのことしてないよ」

 

 微笑みを浮かべて雪子を褒める悠に、なれていない彼女は頬を染めながら目線を軽く下にやり答えた。

 だがそんな態度など気に求めていない悠は、反対側、自分らと対象の敵を倒した千枝達を見ている。

 倒したのはほぼ同時だったのか、あちらでも二人が喜びを分かち合っていた。

 

 “―――最後に、筋肉達磨達を倒したら俺の元に集まってくれ、総力戦だ。それまでは抑えてやる”

 

 その大和が言った言葉を思い出し、二人は会話もまずまずに大和の元へと。

 ―――他ならぬ巽完二を救うため走り出した。

 

 

 

 

 四人が二匹のガイを倒すために行った後、大和は一人シャドウ完二の猛攻を軽くしのいでいた。

 電光石火の大攻勢も、彼の異常性の前には焼け石に水のよう。

 己よりも小さき存在に見下され怒り狂うシャドウ完二は、完全に大和の術中に収まってしまった。

 冷静さを失えば判断力を失い、正確に状況を推し量ることも認識することさえ疎かになってしまう。戦いにおいてこの恐慌状態は死に直結する。視界が暗く狭まり、存在するかどうかもわからない呼吸器官が悲鳴を上げるように痛み、酸欠状態に陥った脳は感覚を鈍化させ果に時間感覚すらも朧ろげなものとしてしまう。

 絶えず剛力を振るうも、大和はそれをワザと紙一重で躱し続け誘うように口端を釣り上げ笑みを浮かべる。

 その表情は感情を排したような冷淡さと、冷酷な獲物を狩る瞳をしていた。

 

「どうして、どうして受け入れてくれないのぉ!?」

 

 嘆きの叫びは誰に向けてのものなのか、しかし誰の胸にも届くことなく反響を残して消え去っていく。

 

   《デッドエンド》

 

 振り上げられた金輪は大和本人を狙っていた。

 トコタチで防ぐにはもう遅く、避ける時間もあまりない。

 どこからか「大和くんっ!」と泣き叫ぶような悲痛な叫び声が聞こえた気がした。

 本来なら死んでもおかしくない一撃。―――だが、大和に限ってはその旨ではない!

 

 ガァン、と鈍い音を立てて金輪が静止する。

 脳天を叩き潰したと思った金輪は、大和の右腕一本で止められていた。尋常ならざる力に耐えられず、床の方がひび割れ壊れていた。

 ハッ、とおかしなモノを嘲笑うかのような声を軽く上げ、作戦変更、と大和が小さく言う。

 

「受け入れて欲しいならよ……まずはテメェから来いよ! 歩み寄れよ、お前こそ受け入れろっ! いつまでも子供の駄々に付き合ってやる程コッチも暇じゃあねぇんだよォ!」

 

 やれ! と大和が叫び、トコタチが拳を高く突き上げる。

 ゴゴゴゴとシャドウ完二の頭上に、それまで無かった薄暗い雲が渦を巻いて現れた。

 空中に現れた雲は天を塞ぐ天蓋。

 神が下す神罰の鉄拳が渦の中心よりゆっくりと舞い降りてくるのを、戻ってきた四人が揃って神妙な顔をして見上げていた。

 

 さあ―――天に現るは神なる鉄拳。

 あらゆる非を認めず、その悉くを粉砕し尽くす無常なる鉄槌である。

 貴様ごときが立ち向かえるか、その覚悟を示してみせよ―――!

 

「道理なき主張など―――ただの《言い訳》だ!」

   《ゴッドハンド》

 

 振り落とされる鉄拳。

 神々しきその拳は正確にシャドウ完二を捉え、神罰はここに下った。

 とてつもない衝撃を伴う打撃を受けた敵の視界はチカチカと星が輝き、ふらつく膝は体を支えることも叶わずにそのまま後ろに倒れてしまった。

 だけど、まだ息はあるし、体も動く。後三十秒もあれば立ち上がれる。

 天を仰ぎながらも今だ諦めずに、震える脚で起き上がろうとするシャドウ完二を視て大和が叫ぶ。

 

「―――今だ! 皆で畳み掛けろボッコボコにするぞ!」

「うぇ!? な、あそうかチャンスだ! さぁーて、みんなでやっちゃいますかぁ!」

「よーし! 張り切っていこー!」

「うんっ! せーのっ!」

「―――イザナギ!!」

 

 大和を含めた五人の猛襲がシャドウ完二を襲う。

 雨のような無限に思える連撃が敵を嬲り、抵抗も満足に出来ずにされるがままだ。

 一発一発を受ける度に、段々とその意識が薄れていく。

 

「あぁん……い、イクゥ…………!」

 

 最後の断末魔。昏倒する意識の中、最後に目に映ったのは気絶から目覚めたもう一人の自分の姿だった。

 

 

 

 

 戦いは終わった。

 結局大した作戦でもなく、要は相性の良い戦い方をさせただけだったが、思いの外うまくいって良かった。

 俺としても安心だし、力を連発しないで済んだのはありがたい。

 そんでもって、最後まで不気味な野郎だったぜ。これで俺の気は晴れたからいいけどな。

 

「やったな霧城! 鳴上もだけど、お前もホントスゲーな!」

 

 ドンッと俺の背中をドツいて笑っているのは花村だった。ああ、本当に調子の良い奴だな。不思議とそこまで悪い気はしないけど。

 花村を皮切りに、続々と俺の元へと集まっていく。

 ちょ、ちょっと! そんなにいっぺんに来られても鬱陶しいっての!

 

「さっき最後に出したシャドウの攻撃、霧城君まともにくらっちゃってたけど、大丈夫だったの?」

 

 天城が心配そうな顔つきで俺の腕を見ている。

 

「なぁーに、こんなの屁でもないさ。ほらこの通り、全然動く」

 

 プラプラと大丈夫アピールをしながら腕を振るって天城に見せつける。

 実際、本当にあの攻撃ではなんともなかった。いくら身体能力が上がったとしても、あっこれは流石にダメかなーって思ったりしたが、そんなことは全然なかった。

 精々腕がちょっと痺れたぐらいの事で済んだ。

 でも、と不安を拭えないでいる人の良い天城の横で、人間性が軽薄な花村が底意地の悪そうな笑みを浮かべていた。

 あれは、ろくでもないことを考えてる顔だ。いい予感がちっとも感じられない……主にアイツにとって。

 

「そういえば、さっき霧城が危なかった時……里中、お前コイツの事『大和君』って呼んでたよな?」

「うぅっ、そ、それはそのぉ~…………くそぅ花村の奴~、余計なことを」

 

 里中の顔が真っ赤に染まる。……いい表情(かお)だ。

 キョロキョロと視線を泳がせたりモジモジと両手の人差し指を捏ねくり回し、言葉の最後の方なんかは消え入るような声で俺に聞こえないように言ったのだろうが。残念でした、俺は「えっ、なんだって?」なんて甘いことは言ってやらないからな。

 久々に、最高に爽やかな笑顔をしてやろう。最近バイオレンス臭が漂ってたからな、洗浄だ空気の洗浄。

 

「なんだ里中……それなら、これから俺のことは『大和』って呼んでくれよ」

「う、うぇ!? き、霧城君? いきなり何言い出してんの!」

 

 ブワッと里中の髪が興奮で膨らみ、眉を釣り上げ真っ赤な顔はそのままに抗議の声を上げてきた。

 両手を下にピンと伸ばし、堅く握られた拳は強く握りすぎてプルプル震えている。やはり里中はからかってナンボだな。

 

「お、霧城~お前攻めるなぁ。その度胸にはちょっと感心するぜ」

「その勇気……もはや豪傑の域に達しているな」

「千枝…………ファイト!」

 

 周りの三人もノリだして、里中を煽り始める。

 さっきまで殺し合いもいいところのやり取りをしてたのに、この変わり身は俺だって感心できるわ。

 話題の中心里中千枝は、うぅー、と弱々しい唸り声を上げてうつむき目をギュッと閉じている。

 固く結ばれた口が、段々と開いてゆく。

 

「……ゃ、ゃま……やま…………ゃまと―――」

「―――ヤマトー! 会いたかったクマー!!」

 

 こ、このクマ之介! いい所で邪魔してんじゃねえよ!

 やっと里中が俺を名前で呼んでくれるのかと思ったら、クマ之介がどこから精製したのかわからん涙を流しながら俺に文字通り突っ込んできた。

 あと少しって所で言えた里中も、クマ之介の乱入でポカーンとした顔で惚けてしまった。

 

「こらっクマ之介、いきなり突撃してくんな。俺じゃなかったら結構なダメージだったぞ!」

「オヨヨー、ごめんクマ」

「お、おいなんで霧城がクマの事……ていうかなんで霧城がクマを……ああもう、どっちだか分かんなくなってきた」

 

 ヤバ、そういえばクマ之介に俺のことは話すなとは言ったが……知らんぷりしろとは言ってなかった。

 困惑の表情を浮かべ俺とクマ之介を交互に指差してくる花村。

 仕方ない、面倒だが後で説明するしか―――。

 

「――まって、完二君のシャドウがっ!」

 

 ―――天城のその声が俺達の目を覚ました。

 振り返るとさっきまで大きな体を纏っていたのに、使い果たしたのか変身前の元の姿に戻っていた。

 虚ろな瞳をし、ゆらゆらと体を揺らしながらこちらに一歩一歩近づいていく。

 

「ま、まだ向かってくるクマ! よっぽど強く拒絶されてるクマか……?」

「そりゃ、こんだけのギャラリーが居ちゃ無理もないか……」

 

 花村の言う通り、無理もないのだろう。

 自分一人だけが対峙するならまだしも、それを見ず知らずの第三者が見ているんだからな。そりゃ巽も否定したくもなる。

 でも、それじゃあ【真実】が遠くなる一方だ。

 シャドウ完二は退がらない。

 否定する限り、その執念が覚めることはないのだろう。

 

「情熱的なアプローチだなぁ……。四人とも、素敵なカレになってくれそうだ」

「や、やめろって! そんなんじゃねー!」

 

 冷や汗だかわからない汗を流しながら花村は必死で否定していた。というか、え? 四人ってもしかして、俺も入っちゃってたりするわけ? ……No Thank You

 思わず尻穴に力がこもってしまう。俺の尻は排泄のためだけに使うって婆ちゃんに誓ったんだ!

 この際もう一度コテンパンにしてやろうとしたが、それは視界の端にいた人物によって留まることになった。

 

「や……めろ……何、勝手なこと言ってんだ、テメェ……」

 

 回復の魔法で多少回復しているとはいえ、巽のソレは精神力の消耗に近い。

 おぼつかない足取りで、立っているのが精一杯といったところだ。

 

「誰でもいい……ボクを受け入れて……」

「や……めろ……」

 

 弱々しい巽の制止の声は届かない。

 

「―――誰かボクを受け入れてー!!」

 

 哀願するように、その叫びはフロア内に響き渡る。

 両手を広げ、懇願するように。誰でもいい、誰でもいいからどうか……どうか……と。

 

「う、うわ、ちょ、無理矢理はやめて!!」

 

 バッと両手で尻を抑える花村。

 おい、無理矢理はって……お前、優しくならいいのかよ。もしくは合意を得れば? ……業が深いぜ、男道。

 情けない花村の横で、キッと獣の眼光を取り戻した巽がシャドウに向かって駆ける。

 

「やめろっつってんだろ!」

 

 振り上げた拳は自分を殴った。

 

「ったく、情けねえぜ……こんなんが、オレん中に居るかと思うとよ……」

「完二……お前」

 

 罵るような口調こそすれ、巽の声色はそれに反して優しげで、受け入れるような声色にも聞こえなくはない。

 花村の呟きをあとに、巽の告白めいた話しは続く。

 

「知ってんだよ……テメェみてえのがオレん中に居る事くらいな!」

 

 巽はどう思っているのだろうか。俺からは表情が伺えないから良くはわからないが、きっと悲しい表情をしているのだろう。

 弱さを受け入れるというのは然程簡単なことではない。

 今まで見過ごしてきた事、目を背けたくなるような痛みが負債となって一気に押し寄せたのだ。……多分俺だって、耐えられるかどうかわからない。

 その点では、俺はここに居る人間の誰よりも弱いのかもしれない。

 

「男だ女だってんじゃねえ……拒絶されるのが怖くて、ビビッてよ……自分から嫌われようとしてるチキン野郎だ」

「だけど……それも含めて『完二』だ」

 

 いつか壊れてしまうなら、手に入った宝がいつかこの手から消えてしまうなら……いっその事無かった方がいい。

 巽の言ってることは確かにチキン野郎かもしれないが、だとしたら、俺もまたチキン野郎なのかもしれない。

 友人と呼べる人間が居ない俺は、自分の中に友人としてのカテゴリーのハードルを高め、仲良さげに話している間もどこかでそいつらを斜めに見ていた。どうせこいつらは俺の友達でも何でもないって、斜に構えて自分を守っていた臆病者だ。それは今でも変わっていない。力を得ていくら外見が強くなろうと、肝心の中身が変わっていないんじゃ、鉛にメッキをした偽物に過ぎない。

 だから、ここで迷わずそんな台詞で励ますことの出来る鳴上が、俺は羨ましい。

 

「フン、何だよ……わかったような事、言いやがる……オラ、立てよ」

 

 殴り飛ばしたシャドウを巽は見やる。

 知らんぷりでやり過ごすことなんか許さないと、そう裏で言っているような気がした。

 

「俺と同じツラ下げてんだ……ちっとボコられたくらいで沈むほど、ヤワじゃねえだろ?」

 

 わかってんだよ、と言いたげにシャドウがゆっくりとその身を起こして立ち上がる。

 その表情には既に狂気の色は無い。穏やかにあるがままを受け入れるような、優しい表情をしていた。

 

「テメェが俺だなんて事ぁ、とっくに知ってんだよ……」

 

 もう巽は決めたのだろう。

 その瞳にもう迷いは感じられない。

 

「テメェはオレで、オレはテメェだよ……クソッタレが!」

 

 お前は俺だと吠える巽。

 その言葉を耳にしたシャドウが泣きそうな、それでいて嬉しそうな顔をして深く頷いた。

 シャドウの体が徐々に薄れ、代わりにとても大きな、無骨な黒い金属のボディに全身骨のペイントが施され、左手には大きな稲妻のオブジェが。

 その雄々しさはまさに(おとこ)そのもの。

 そうか、こうやってペルソナは生まれるわけだな。

 自分のペルソナが消えていき、体の中に入っていくのを見届けた後に、

 

「うっ……くそ」

 

 巽の体が後ろに倒れた。

 慌てて俺も含めてみんなが駆け寄る。

 目で視る限り、命に別状はなさそうだ。たんに体力を消耗しすぎたんだろう。

 

「完二君……!」

「とにかく、外に運ぼう!」

 

 花村の支持の下、皆で巽を外に運び出した。

 帰り際、クマ之介が寂しそうにしていたのでまた来てやる、と頭を撫でて機嫌を取っておいた。

 

 

 

 ――――ジュネス家電コーナー――――

 

 テレビの世界から帰ってみたら、世界が滅んでいた……なんて終末物な展開などなく。いたって平和な、いつものいい塩梅に寂れた家電コーナーが目に入った。

 巽はと言えば、やはり慣れないテレビの世界に辟易したのか辛そうにしていた。

 天城が心配そうな顔をして巽を気遣う。

 

「完二君、大丈夫……」

「へっ、こんくれぇどうって事ァ……うぅッ……ぁあ」

 

 強がりを言う元気もあんまりなさそうな感じだった。

 だがしかし、ここで引いては男が廃るってもんだぞ巽完二。男って人種は、死ぬまで意地っ張りな宿命を背負ってるんだ。

 クワッと目を見開いて巽を睨む……。

 

「へへ……けど気分はいいぜ。スッキリ、したっつーかな」

「それは良かった」

 

 おい、無視ですかこのハゲ一歩手前野郎。鳴上も俺を見てみないふりはしないでくれよ。

 何仲良く花村に起こされてんだよ、男なら……はぁ、もういいやこのキャラ飽きた。

 

「なあ……さっき、俺の前で起きたのぁ……」

「……後で話す」

「ゼッテーだぞ、ちゃんと後で聞くからな」

「ちゃんと後で話すから、しばらくは、体休めて」

「学校で待ってるからさ」

 

 さっきまで起きた非常識な出来事が知りたいのだろうが、今は鳴上や天城、それに里中の言い分が正しい。

 今の巽は消耗してるし、そんな状態で話しをしてもまともに理解も出来ないし、会話も満足に出来ないだろう。

 学校と言う里中の言葉に、巽が眉を顰める。

 

「学校だぁ? まぁ、気が向いたらな……」

「気が向かなくて来なかったら、お前は知りたいことを一生知れないぞ、巽」

 

 これ以上空気になるのは嫌だ。集団に外れてテレビを見ながら「ほほぅ、これが噂の……」とか言った小芝居はもう飽きたよ。微妙に関係者ですよーってアピっても虚しいだけだし、俺も混ぜてくれよ。

 意地悪そうに笑みを浮かべて俺は巽を見やる。

 そこで始めて、ここに戻ってきて始めて巽の目の色が変わった。何? コイツ本当はホモォ……だったの?

 

「オメェは土方じゃねぇか、いつの間に」

「おい、何サラッと俺の存在スルーしてたんだよ、俺はアレか? ジャングルに潜むカメレオンだってか?」

 

 心外な、確かに俺が言霊を《切り替え》姿を表した時、コイツは気絶してたけど、それでもお前がシャドウを殴ってた時は俺居たじゃん。

 なに勝手にいないもの扱いされてんの俺。……泣いてないよ!

 

「それと、俺は土方じゃなくて、霧城大和だって言ってんだろこのひよこヘッドが。毛根散らすぞこの野郎」

「あぁ!? テメェ喧嘩売ってんだな、そうなんだろ!」

 

 毛根が頭に来たのか、それともひよこヘッドってのが逆鱗に触れたか知らんが、怒り顔で俺にガンをつけて声を荒げる巽。

 いい加減そうやって人を職業であだ名にしちゃのを止めないと、俺はいつの間にか本当の名前で呼ばれなくなるだろうが。

 菜々子は良いんだよ、がんもさんって呼んでも。ただし巽、テメェは駄目だ。たった二三度の邂逅で天使の存在を信じてしまった俺はもう駄目なのかもしれない……。

 そんな俺達のやり取りを見かねて、花村が俺と巽の間に割って入ってくる。

 

「ちょ、ちょっと待った! 霧城、お前ちょっと言いすぎだ……それに完二、お前だってまだ体が治ってないんだからいちいち腹を立てないでくれ」

「そうだ完二、人の名前はちゃんと呼びなさいってお母さんに言われなかったのかよ」

「やま……霧城君! 火に油を注がないの」

 

 里中に諫められてしまった。しかも名前で呼んでくれなかった。せっかく言いかけたんだから、そのまま言ってしまえば良かったのに。

 少々調子に乗ってしまったようだ、自重しよう。

 巽……完二はお母さんって単語に反応し、その攻撃性が身を潜め表情を曇らせた。どうやら図星らしい。やっぱりコイツは心優しい青年だな。

 

「ぐっ、悪かったよ……霧城。お前にはあの夜、世話になったしな……」

 

 ―――ちょっとまて。

 そんな意味深な言い方をするんじゃねえよ。どっかの馬鹿共が勘違いするじゃねえかよ!

 

「……おい、霧城。お前まさか…………」

「うそ…………霧城君……そんな、千枝のことは……?」

 

 ほらぁ、変なのが沸いちゃったじゃん。

 お前これどうやって駆除するつもりだよ。

 花村も天城も、そんなわけがないだろうが、邪推するな。

 

「いや、違うからお前らが思ってるような事じゃないからな絶対ないからな」

「……全力で否定する所がまた怪しいな」

 

 じゃあどうしろってんだよ鳴上君……。

 説明も面倒になって目線をそらすと、里中と目が合った。

 なんか悲しそうな顔をしている。やめてくれ、そういうのが一番心に来るから。

 

「ゃま、霧城君…………」

「説明しよう! 俺こと霧城大和は、以前道路舗装の工事をしていた時近くの暴走族が五月蝿くてぶん殴りに行ったら、この巽完二が居たんだ。それで意気投合した二人は少ない会話でお互いもよく知らないままに共闘して暴走族を潰した、言わば戦友っていうやつなのだ! 以上! 終わり!」

 

 これ以上話がこじれるのは嫌だ。

 しょうがないのでいっぺんに捲し立てて経緯を説明した。

 

「暴走族……? 完二、霧城が言ってたのって間違いないか?」

 

 深刻な顔つきで完二に問いただす花村。

 どうやら分かってしまったようだ。

 

「ん? あぁ、間違っちゃいねえよ。あん時の霧城、マンホールの蓋持って大暴れだったな。すっきりしたぜあの時は」

 

 花村の質問に肯定の意を示し、過去を振り返って懐かしそうな顔をする完二。

 そこまで言えとは誰も言ってないだろうが……。でも、どっちにしろ俺が全部吐いちゃったわけだし、一緒か。

 鳴上が奥歯に詰まった物が取れたような、そんなすっきりした顔をする。

 

「そうか、あのテレビに映ってたのは霧城だったのか。だからあの話をしていた時、急に帰ったんだな」

「えっ? じゃあ、霧城君が伝説の……?」

「雪子、いい加減伝説からは離れなさい……。でも、あれ霧城君だったんだね……通りで強いわけだよ」

 

 はい全てバレました、みんなバレました。

 全力で隠すつもりは無かったし、完二が居るからそんな事は無理だとは思ってたけど、なんか俺が想像してた状況とはかけ離れてんな。

 もっとシリアスになるかと思ってたし、嫌われるか避けられると思ってた。

 相手にしたのが暴走族とはいえ、やったことは結局はただの暴力行為だ。挙句相手の腕を粉砕しちまったしな。

 

「あー、そのなんだ? ……怖がったりしねえのか?」

 

 恐る恐る聞いてみる。

 もしそうだとしたら、俺は今後の行動を変更せねばならない。

 ―――が、そんなのは杞憂だった。

 

「はあ、何言ってんだ? お前が良い奴だっていうのは十分知ってるよ。だから族の一つや二つ、潰してようが無かろうが関係ねーよ。友達だろ?」

「ま、族潰した数なら、俺の方が上だしな」

「そんなことで張り合ってどうするんだ完二」

 

 花村のなんでもないような笑顔が目に映る。

 他のみんなも同意見だと言わんばかりに大きく頷いた。

 良かった。……なにを思って良かったのかは言えないが、それでもなんだか安心した。肩の荷が一つ降りたような気がしたよ。

 それと完二、鳴上の言う通りだぞ。照れた表情で言っても顔と言動で台無しだから、要は顔を何とかしてからそういう事は言え。もしくはギャップを目指せ。

 

「そっか……、サンキュー。なんか俺も楽になったわ。……それじゃあ、完二は俺が送っていくよ。バイク、ジュネスに置いてあるしな」

「気にするな、完二の事頼んだ」

 

 完二を背負い、ジュネスを後にする。別れ際、鳴上の声が聞こえたので振り返らずに手を上げて合図を送る。

 完二一人分の重みも、今の俺には何も感じられない。

 それは命の重みも感じられないようで―――なんだか虚しい気持ちになってしまった。

 

 

 

 完二をバイクのサイドカーに乗せエンジンをかける。

 自宅の染物屋に送る道中、疲労が顔に浮かんでいる完二が申し訳なさそうな顔をする。

 

「すまねえな、わざわざ送ってもらって」

「別に気にすんな、俺がやりたくてやってる事だしな」

 

 あのままジュネスに残れば俺はきっと質問攻めにあっていただろう。

 急展開に次ぐ急展開に埋もれることで俺の存在を隠そうとしたが、それも時間が経てばいつかは浮上する問題だ。

 だけど今は、純粋に時間が欲しかった。

 『呪い』の所為で満足に説明もできないであろうこの身は、一体どこまで“本当”の事を言えるだろうか。

 他人の意思によって“出来ない”ってことが歯痒い。見えない拘束具が俺の行動を封じ、轡をかける。どんなにもがいてもそれを解くことは叶わなくて、傍から俺がもがき苦しむのを見て笑っているであろう『アイツ』の憎ましい顔が頭に浮かぶ。心に灯った怒りの炎は、どうしてだか俺すらも焼き殺そうと燃え盛っている。

 《大言創語》という技は、僅かに、少しづつ俺の躰を見えない炎が焼いている。内蔵が焼け焦げるような、そんな幻肢痛。これは過ぎた力の代償なのかそれとも―――。

 

「それにしても……情けねぇったらねえな俺は」

 

 ジュネスを離れて数分。

 風を切って疾るバイクのサイドカーからそんな言葉が聞こえてきた。

 人通りも少ない車道を走りながら、俺は視線を少しだけ完二に向けてみる。

 

「何がだ……?」

「昔から可愛いものが好きだった。裁縫だって得意で気味悪がられた、でもそれを見たお袋は……褒めてくれた。それが柄にもなく嬉しくってな……なのに、いつの間にかこんなんになっちまった。これが弱さだって気づいてたし受け入れた今じゃあもう大丈夫だけどよ……キャラじゃなかったのかもな、元々」

 

 自嘲気味に語る完二はどこか遠くを、遥か先を見るようにしている。

 体力の消耗と立て続けの受け入れがたい事件に精神が参っているのだろう。コイツほどの男が、弱音を吐くんだ。目に見えない傷が彼を蝕んでいたのだろう。

 でも、俺を相手にそんなことは通用しない。

 

「莫迦言ってんじゃねえよ完二」

「何? バカとは何だよバカとは」

 

 ムッとして眉を顰める完二から俺は視線を逸らし、再び前を向く。

 

「いいか、所詮この世は糞溜めだ。人間は都合の良い生き物だから、自分にとっての損得勘定を忘れたりしないし、それを悪だとは言わない。実際そう言う生き方だってあるんだしな。でも……その中でも、子供って奴は昔から間違い探しが得意でな、自分らと違う人間を見つけるのが得意でさ、そうするとあいつらは何をすると思う? お前だって知っての通り、集団からの排除だ」

 

 そう、奴らはそれを、その行動を悪とは捉えない。自分こそが正しいと信じてやまないその心情は、もはや宗教のそれと何が違うだろう。

 自然とアクセルを握る手に力がこもる。

 巽は心当たりがあるのか、じっと黙って俺の言葉を待っている。

 だから、俺は自分の思いのたけを、自己中心的でご都合主義な、偏見に満ちた話しをする。

 

「餓鬼にとってそれは正義らしくてな、合わせられないのならお前なんか要らないって捨てるんだ。それだけじゃない、捨てたあとも、そいつらは付き纏う……人間社会で転落した人間が一生懸命這い上がっていくのを嘲笑って、それでまた蹴落とすんだ。ほらな、そんな世界のどこが正しい。醜悪な人間関係を続けて、同じように染まって腐っていくのを、お前にも選べた筈だ―――でも、そうはしなかった」

「それは……俺が…………」

「そう、お前は否定した。《自分》ではなく《他人》を否定した。絵を描くのも、裁縫をやるのも辞めることの出来たのに……お前はそれを辞めなかった。蔑まれ、忌み嫌われ侮蔑の視線を浴びようと、決して自分を変えようとしなかった。……それは、お前が誇ってもいいと俺は思う。これまで反発してきたことは無駄じゃない、それでまだ何か言う奴がいたら俺がぶっ飛ばしてやる―――完二、お前の特技や、好きな事嫌いな事その全部が……お前にしか持てない宝物なんだよ。胸を張ろうぜ、何か文句あっか!? ってな」

「………………な゛ぁ……霧城よぉ……」

 

 震えるような声で完二は言う。

 返事をするのも、そっちの方を見るのだって野暮ってもんだから俺はそのまま無視をする。

 が、完二の言葉は続く。

 

「……今度から、半帽のメットには…………っ、ゴーグルもつけろよな……風が、強くて……っ!」

「ああ、次からはそうするよ。……だから今は大人しくそれで我慢してくれや」

 

 それ以降、哀咽の声は聞こえない。

 バイクの速度を上げて、回転数が上がってマフラーから鳴る排気音が邪魔をしてくれた。

 完二を乗せたバイクは、予定よりも早く実家に送り届けることが出来た―――。

 

 

 

 

 五月二十日 金曜日(晴)

 

 結局、昨日は完二を送り届けたらお母ちゃんに大層感謝されちまって、しまいには泊まっていきなさいとまで言われて結局押し切られてしまった。

 なんでこう、ウチの婆さんといい完二の母ちゃんといい年寄りってのは押しが強いんだ? そういう種族か何かなの?

 それともああいったのは田舎限定なのか?

 

「それじゃあ、そろそろ聞いてもいいか霧城?」

 

 花村がボーッと呆けていた俺に問いかける。

 ああそうそう、今現在放課後の屋上で俺とその他に、いつもの四人が集まっている。

 なんでも昨日の事について色々聞きたいそうだ。そりゃそうだろう。

 

「ああ、良いぞ俺に答えられる範囲でな……」

 

 偉そうに腕を組んで背中を反らす俺。

 もうすっかり慣れた光景なのか、誰も俺の言動には注意をしてこない。人の慣れって怖い。

 まずは、と花村が先陣を切って聞いてくる。

 

「それじゃあ、最初に……どうして霧城はペルソナを使えるんだ?」

 

 いきなり確信をついてくる花村。

 なかなかどうして鋭いじゃないか、良い感してるよお前。

 そうだな、どうやって説明しよう。鳴上が居る以上、きっと嘘は通用しないしな。コイツのそう言った見抜く力ってのも、ワイルドの特性だったりするんだろうか。

 俺は失言をしないよう、ゆっくりと語りだす。

 

「まず最初に、この力に気づいたのは偶然だった。この町に来て、お前らからマヨナカテレビについて聞いた後、ゴールデンウィークのあの日、俺はテレビの中に転げ落ちた。クマ之介とはその時に会ったんだ……それでシャドウに襲われた俺はペルソナを覚醒した……ってところかな」

「それじゃあ、お前は自分のシャドウを見てないのか?」

「ああ、見てないぜ」

「じゃあ、その後なんで私達には黙っていたの? それなら、言ってくれたら」

 

 天城が俺の言葉に継ぐように聞き返してくる。

 ご存知の通り、俺は一つ嘘を吐いている。いや、言っていないって表現の方が正しいだろう。

 俺の《力》については一切言っていない。これについてはもっとこいつらを信用してから、俺を信用してもらうまで待とうと思う。

 

「いきなり俺が『いやー、ペルソナって知ってる? あれに俺目覚めちゃってさー』とか言っても天城、お前は信じるか? ましてや、俺はこの町に来た初日、フードコートで話していたお前らの会話、筒抜けだったから」

「ううん、多分信じない、だって胡散臭いし、なんか気に障る」

「ってか霧城君やっぱり聞こえてたんだあの話! どうして知らんぷりしてたのさ?!」

 

 そんなに矢継ぎ早に聞かれても、僕困っちゃうよぉ。

 それと天城、お前なんか怖いよ。

 

「それについては言えるわけが無いだろ。もし言ってたら花村と鳴上辺りが疑って、それに賛同して天城までもが俺を疑って犯人に仕立て上げるかもしれないじゃん」

「んまぁ、そんな事あるわけ……ないにきまってるだろー」

「花村、棒読みだぞ」

 

 そう、どれもこれもが俺にとっては不利な状況だったのだ。

 最初からこの事件に関わっていなかった俺は所詮余所者。

 後出しジャンケンではなく、例えるなら人生ゲームで後からスタートした感じ。完全に出遅れていた。

 だから歩幅を合わせるために、不必要な不安要素は作りたくなかった。この人間関係という綱渡りを渡りきるにはそれしかなかったのだ。

 

「じゃあ、これで最後だ……」

 

 鳴上が真剣な表情で俺を見据える。

 その双眸には迷いの感情など微塵もなく、男相手に見惚れるなんていう前代未聞の出来事が起きそうになってしまう程だった。

 俺はノーマルだ。女が大好きだ。天城はタイプじゃないけど、髪とかすっげえ綺麗だしなんかいい匂いがする。里中は可愛いし、弄ると可愛いし、ウィンウィンしたくなるような脚線美だし。菜々子はすべてが天使だし……。

 いかんいかん、思考が宇宙に向かって発射するところだった。

 気を取り直して、俺は鳴上悠って男をまっすぐに見つめる。

 その口が、何を言っても、こいつに嘘は無駄だろう。正直に言おう。

 

「―――俺たちと一緒に犯人を捕まえるために、協力してくれるか?」

「……ああ、別に良いぜ」

 

 予想していた質問とは異なって、俺は素っ頓狂な顔をして辟易してしまった。

 てっきりもっと核心に迫る事を聞いてくると思ったが、なんだ安心した。

 反射的に返した言葉に、花村も里中も天城も、そして鳴上も嬉しそうに笑顔を綻ばせる。

 

「よっしゃ~、霧城みたいな奴がいてくれると助かるぜ! いろんな意味で」

「よろしくね霧城君、そういえばあの時助けてくれたお礼、言ってなかったね。ありがとう……あなたのお陰で助かったわ」

「君が居てくれると、あたしも助かるよ。また一緒に特訓しようねっ!」

 

「これからも、よろしく頼む霧城」

 

「ま、精々頑張りますか―――」

 

 こうしてこの日、俺は正式に『自称特別捜査帯』への加入を果たしたのだった。

 屋上を照りつける太陽は、どこまでも遠く、手に届かない場所にあるけれど。俺は身近にある手に届くもので十分だと思った。

 新しく出来た仲間という【絆】を、俺は出来る限り大事に仕舞っておきたい。

 太陽なんかよりスケールが小さくてちっぽけだけど―――。

 

 大事な物ってのは―――ポケットに収まるくらいが丁度良いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――マル久豆腐店――――

 

 とても長い時間を過ごした気がした。気のせいじゃないくらい長い時間だ。

 肉体的になんとも無くとも、精神的には強化されてないからこれは心労って事で良いのだろうか。

 とにかく、やっとここに戻ってくることができた。

 都会に出て数日“あの女”の世話をしたり、バイトをしたり、それでバイクを買ったり、完二を助けたり、鳴上達の仲間になったり。本当に色々あった。

 とくに“あの女”の世話をした事については本当に面倒だった。婆さんの頼みだったとは言え面倒ったらありゃしないよ。

 当分は会いたくないな、もう会うことも無いだろうけど……そもそもの住む世界が違うしな。

 

「ただいまー……」

 

 ガラガラと立て付けの古い引き戸を引いて家に上がる。

 嗅ぎ慣れた大豆食品の匂いと、年代物の木材の香りが鼻腔をくすぐる。

 ああ―――俺は“帰って来た”んだな。

 扉の音と声に気がついたのか、パタパタとスリッパが廊下を走る音が聞こえてくる。もう歳なんだから、そんなに急がない方が良いのに。ただでさえ老い先が短いんだから、急いでも縮まるのは寿命だけだぞ。

 でも、そんな事は口にしない。しないで大人しく俺は家主が迎えるのを律儀に待っている。

 

 ―――そこの角を曲がればスグだ。

 待ちかねた姿が現れる。そんなに日にちは経っていないのに、なんだか懐かしく感じてしまうのは俺が異常だからだろうか。

 いや、そうは思いたくない。

 力が凄いからとか、頭が良いからとか、ペルソナを出せるからなんて以ての外。

 俺にとってこの家はもう、帰るべき家族の住む家になっているのだ。

 

「―――おかえりなさい、大和君」

 

 ほらね、こうやって暖かい笑顔で俺を迎えてくれる家族が居る。

 だから俺は再び、こう言ってやるのさ―――。

 

「―――ただいま、婆さん」




ちょっと説教臭くなってしまった主人公でした。

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