賛否両論わかれますが、∀大好きです。一年戦争期の機体だってでてきます。
ああ、こんなシーンもあったなあ。懐かしいなあと思いつつ、見てたのです。
そしたら、ん?ってなるシーンがありましてね?
地球光の、ギャバンがやらかして敵も味方も急いで撤収してるシーン。起爆のすぐ前のところ。
スエサイド部隊のボルジャーノンが、どう見ても【ホバー移動】してるじゃないですか。
ハッチの開閉からして、おそらくJ型。どういうことなの。
独立戦隊の名前にちなみ、二十二番基地とよばれる東南アジアのとある基地。
この基地の格納庫は、アーチ状の天井をして細長い長方形といういたってシンプルな造りをしている。
数は四つ。長い方の辺を合わせるようにして四つが綺麗に並んでおり、更に艦船用の半地下式の物が二つ建設中だ。
内側は柱と梁は鉄骨が剝き出しになっているあたり造りに凝ったところは無いが、建築を急いだ分だけ広さだけはある。
天井に取り付けられたクレーンのおかげでMSのパーツの付け替えなどの整備もできるし、広さがあるので組み立てだってできる。
とかくMS運用には便利なこの格納庫は今の所、管制塔から近い順に一番から三番までがMS用として使用されており、四番の格納庫はヘリなどのMS以外の機体が格納されてはいるが、こちらはまだ随分と空きがある為に武器弾薬の一時保管場所としてもつかわれている。
「――ほー。連邦製のザクですか」
そんな四番格納庫の休憩室のローテーブルの上に拡げられた写真を目の前にして、エイミー・フラットは難しい顔をしていた。
あっちの写真をみては首を傾げ、こっちの写真を見ては不機嫌そうにこめかみを指で押さえたりしている。
彼女の眼の下には、くまがあった。
つい先日まで怪気炎を上げながらザクⅡの墜落原因をあれやこれやと調べていたせいなのだが、結局答えはわからずじまい。
降格こそ無かった物の、本人も納得のいった結果ではないらしく、さらなる詳細な調査の為に残骸を本国に送る案も検討しているという。
テーブルを挟み対面に座る冬彦は、その様子を見ながらコーヒーを啜る。金属のカップに入れられた、機械油のように黒い珈琲。
代表的な嗜好品の一つではあるが、漆黒のそれは安上がり大量生産こそを正義とする軍からの支給品でありまかり間違っても美味いなどと言って良い物では無い。
ましてや冬彦は緑茶党である。強いて言うなら……と言う程度で有り、紅茶党と珈琲党の仁義なき争いに首を突っ込むつもりは毛頭無いが、緑茶が切れれば水か紅茶で、珈琲を飲むことはほとんどない。
どんな飲み物であっても飲み慣れていないと本当のおいしさはわからないというが、その対極は万人が理解することができる。まずい物はまずいのだ。
二口、三口。飲み頃のそれを少しずつ、ほんの少しずつ口に含んでいく。もちろん、そんな飲み方をしていてはそうそう珈琲が減るはずもなく、ついには冬彦はしかめっ面でテーブルへとカップを置いた。
「どう思う?」
「そーですね……性能に関しては実物をあけてみないと、なんとも。コピー生産に関しては、多分どこかから情報が流れているんでしょうね」
散らばっていた写真をまとめて、とんとんと端を揃えながらエイミーが答えた。
「なぜわかる」
「それなりに数がいるんですよね」
「らしいぞ」
「“物”が手に入ったからって、そんなにすぐに解析して、ましてや数を出せるはずがないです。どっかから機密情報が漏れたんでしょう。どこかの部隊から奪ったにしても、数を揃えるのは困難です。ましてや新品同然なんて不可能でしょう」
「北米はガルマ大佐が居る分、本国からの補給線もしっかりしているからな。降下したHLVをジオンよりも先に確保、なんてのは無理だろうな」
「それと、気になる点もあります」
すっと、端を整えた写真の束から取り出したのは一枚の写真。
「この、一番後ろのザクなんですけど、他のザクと比較して肘の関節部分に差違が見られます。もしかすると、実験的に連邦の技術で手を入れているのかも知れません」
「連邦の独自技術か」
見れば、先日ガデムから受け取った写真を更に引き伸ばした写真だった。一番後ろで二機目の影になって少し見にくいが、大砲を持ったその機体は確かに肘の内側がザクの物とは違っていた。平面で、後に来るはずの連邦の物と近い。
「関節に手を入れていると言うことは、反応速度が上がっている可能性があります」
「ふーん」
写真を束に戻し、茶封筒に入れる。そして、すっと冬彦の方へと押し出した。
「どうぞ」
「ん、確かに」
連邦側がMSを戦場に出してきたというのは、まだ機密情報だ。
ガデムの伝手で北米から冬彦にもネタが回ってきたから知る事ができたが、北米以外ではまだ噂の段階。噂に流れている辺り、隠しきるのは難しそうだが。
ドズルへの報告も済ませた為、おって情報も降りてくるだろうが、だからといって今、これ以上迂闊に広めたり、証拠となる物を散らばらせるのは、余り賢いとは言えないだろう。
エイミーから返還された写真の束も、この後焼き捨てるか、「ウルラⅡ」の私室の金庫に死蔵することになるだろう。いっそ「ルークス」の方の金塊のコンテナに紛れ込ませてしまっても良い。
「それじゃあ、次の出撃までにザクの整備は任せる」
「はっ。任せて下さい」
くまをつくったままの笑顔は少し怖くも感じたが、気にしないことにした。
茶封筒を小脇に抱え、立ち上がる。
残っていたコーヒーを一気に飲み干そうと、一気に煽る。
しかし、やはりどうしても口に合わない。苦みと酸味の悪いところだけを抽出したような珈琲を前にして、半分ほどで諦めた。
「エイミー曹長、すまんがそれ捨てておいてくれ」
冬彦は空いた右手をぴっと頭の横まで挙げて、エイミーに軽く挨拶をして、部屋を出た。
口直しに、何か甘い物でも食べようか。
私物の中に、そういえばまだ日持ちのする羊羹があったなあ、そういえば食堂にも、甘い飲み物が何かあったはず、などと考えながら、階段を下り、格納庫を出てふらふらと歩いて行く。
明確な目的地は無い。
出撃の予定は無く、書類仕事は午前の内に終えた。実質的な、半休である。
とりあえずは、食堂へ行こう。そう決めて、冬彦は歩く。
時折出くわす兵と軽く敬礼を交わしつつ食堂につくと、早速甘味を注文する。
頼んだのは、バニラのアイスクリーム。
紙の器に入れられたアイスを持って席に着き、味気ない水色のプラスチックのスプーンで半球の白い塊を大きく削り、口へと運ぶ。
運びながら、考える。
ただ、アイスが甘いなーなどと、いつまでも現実逃避していられれば楽だろうが、生憎とザクのコピーの出現という凶報を前にしては、それも許されない。
食堂はクーラーが付いているので、暑さに思考を邪魔されることもない。
逆に言えば、無意識への逃避もできなくなった。
連邦製のザク。ジムとどちらが相手をするのが楽だろうか。
ジムの登場が遅れているならその分今の内に盤面を有利に進められれば良いのだが、生憎と大局を指揮できる立場にはない。
つまりいつものように、しばらく受け身にまわらないと行けない。
もういっそドズルに働きかけて、早めに宇宙へ戻るというのも手だ。それとも、ジオン敗北を前提に戦後を見越して東南アジア地域にジオンの勢力を多く残せるよう動くべきか。
地上のダイクン派などとも、未だにほとんど接触できていない。部隊を分けて、欧州か北米へ移動するという選択肢も、考えないと行けないのか。
しかしそうすると、この東南アジアをどうするかが問題になる。アプサラスは、Ⅲまでいけばこの時代ではオーパーツになりうる。
山を撃ち抜く威力を誇るメガ粒子砲もそうだが、注目するべきはギニアス・サハリンが心血をそそいで組み上げたプログラムだ。
何が凄いかと言えば、マルチロックを可能にしているのだ。射線と散布界に敵を入れて当たることを祈りつつ拡散ビームを撃つのとはわけが違う。
敵機を個別に識別して、拡散ビームで狙撃することを可能としたのが、アプサラスⅢ。
ギニアス本人はあくまでジャブロー攻略用と言っていたが、運用次第では数の暴力すらひっくり返す強力な防御兵器になりうる。
死角も多いので、本当の運用には護衛機を多く用意して死角を潰していくなど、色々考えていく必要もあるだろうが……。
「冬彦。空のカップを見て何か思いつくのか?」
「うん……おっ!?」
気がつけば、いつの間にやら対面にアヤメが座っていた。
手元には、コーンに載った三段積みのアイスがある。
「驚かさんでくれ。仕事はどうした」
「中佐殿と同じく半休だ。それに声はかけた」
「ああそうかい」
既に、冬彦は自分のアイスを食べ終わっているから、アヤメが三段アイスを食べる様を眺めているだけである。
特にすることがあるでなし、顎に手を置き片肘ついて、ぼーっと。
「……余り見ないでくれ。気になる」
「すまん」
言葉にはするが、姿勢にも視線にも変化はない。
「冬彦」
「うん?」
「大丈夫なのか」
「何が」
アヤメの問に、そう答えた。
大丈夫かと聞かれても、今時分には思い当たることが多すぎる。
「無論、君がだ。身体は大丈夫だろうが……出撃するのが怖くなったりしないのか?」
「怖い?」
「そう。乗機が壊れたの、二度目だろう」
「……特に無いな。今の所は」
少し考えて、答えた。
するとアヤメはそれまでの神妙な顔を崩して。
「なら問題ないな。そんな冬彦に仕事が来てるぞ」
「なぬ?」
「ギニアス・サハリン少将からのご依頼だ。MA実験の前に、“万が一の事故”を防ぐ為にゲリラをなんとかしてこいとさ」
模型屋さんでネオジオングの現物を見る。
戦慄。手が出せんよあんなもの。