プロオオオォォォォォジット!!
うん、深い意味は無いんだ。けどできれば後書きは見て頂きたい。
七月、初旬。
いよいよ熱波が本気を出し始めるこの時期に、それはやって来た。
雲の向こう。宇宙から。二つ連なってやって来た。
大気との摩擦で真っ赤になりながら、しかし空中分解することもなく、悠々と空を飛ぶ。
親衛隊が使用したのと同じ、旧世紀のハイウェイ跡を利用して着陸した巨大な“それ”。
冬彦はそれが何かは知っている。艦長職にあったアヤメや、宇宙艦艇の好きな者や耳ざとい者なども、その名を知っているだろう。
ザンジバル級機動巡洋艦。
ジオンの保持するムサイ級軽巡、チベ級重巡と並ぶMS運用の軸の一つ。地上でも運用でき、ブースターを付ければ大気圏離脱も行える優れもの。MS搭載数も多く、一部MAを搭載することさえできる。
その分コストはかかり、ムサイやチベに比べると数が少なく、一部特殊部隊などで旗艦として運用されるのが多いのだが……それが、二隻。
カラーリングは二隻とも同じで、ザクの物より幾らかくすんだグレー混じりのグリーン。
時にこのザンジバル、同型艦であっても姿形が異なる場合が多い。カラーリングだけでなく、砲塔の数や格納庫の広さ、武装の有無など、全体的なシルエットさえ大きく異なる場合があるのだ。今この目の前にある二隻さえ、どちらも武装は控えめであるという点は共通している物の、片方はもう一方よりも明らかに幾らか全長が大きい様に見える。
通信によると、どうやらこの二隻がドズルが言っていた代わりの艦であるらしいのだが、少しやりすぎではないかと思えるような優遇っぷりである。
コンスコン少将辺りに恨まれやしないか不安になりそうな程だ。
とにもかくにも、補給が来たと言うことで足の速い偵察ヘリ二機に分乗して様子を見に来たのだが……上空から見下ろしても、全長三百メートルを超える艦が二隻縦に並んでいるというのは威圧感があった。
上部ハッチから着艦し、補給部隊としてザンジバルを運んできた部隊の責任者がいるという艦橋へと通されて。そこで待っていた人物も、冬彦を驚かせた。
「よう」
待っていた男の階級は、大尉。しかし気軽なその態度は、中佐にする物では無い。
しかし冬彦はそれを咎めることはしない。
目の前の人物であれば、咎めたところで気にもとめないだろうし、決してこちらを下に見た物ではないとわかっているから。
鉄メットをかぶった、もみあげから鼻の下まで繋がった髭が特徴的なやや太り気味の大柄な男。
冬彦が、初めて配属された部隊の隊長であった男。ざっくばらんな態度もそのままだ。
「ガデム、大尉……?」
「おう。中佐になったんだとな。偉くなったもんだ」
「はっ、ありがとうございます」
ガデムは、冬彦が新任少尉で会った頃と変わらず、不敵に笑う。冬彦は、少し困ったように。まるで変わっていない。
それとは別に、冬彦が大尉であるガデムに対してまるで上官であるかのように対応していることに驚いたのか、フランシェスカなどはガデムではなく冬彦の方を凝視している。
そんな視線にも気づいているのだろう、ふんと鼻を鳴らしてガデムは指揮座から立ち上がり、冬彦の方へと歩み寄る。手にはファイルがあり、そう厚くはない。
「ほれ、受領証だ。とっとサインしてくれ。……それとそこの中尉」
「はっ」
声を掛けられるとは思っていなかったのか、フランシェスカの声は少しうわずっていた。
「こいつは新任だった頃に儂の部下だったのさ。そのおかげでこうして中佐殿にも気をつかわんで済むわけだ」
「無礼ではないですか」
「嫌なら本人が言うさ。なあ中佐殿」
「……公式の場では、お願いしますね」
「ふん。それくらいはわきまえとるとも」
気を悪くしたのか、そうでないのか。その辺りを見極めるのが難しい御仁だが、冬彦はガデムの事は嫌いではない。少なくとも陰険なことをするような人物では無いし、何だかんだ言って気を遣ってくれていることを知っているから。
フランシェスカの視線に気づいた辺り、周りの機を見るのも不得手というわけではないのだろうし。
「しかし、ザンジバル二隻とは豪勢なことで」
「そうでもないぞ。少しずつだが方々に回されておるようだ。ルナツーで得た資材がある内に、ザンジバルの数を増やしておきたいんだろうな。おかげで儂はパプアと離ればなれになっちまったが」
「……? すぐに宇宙に戻られるのではないのですか?」
「その受領証を読んで見ろ。補充パイロットの項だ」
言われて、ファイルを開き、頁を捲る。
フレッド・カーマイン伍長、ザイル・ホーキンス軍曹と懐かしい名前の上に、ガデムの名が記載されている。
視線は、自然とガデムの方を向いていた。
「わかったか? お前のおかげで気楽な補給部隊ともおさらばだ。何やら新型も回されてきたが……あれはいかんな。儂はしばらくはザクでやらせてもらうぞ」
ラコック大佐も、もう少し下のことを考えてくれんと。とガデムがぼやいているが、想像通りならそう悪い物では無いはずだ。グフ、回されたんですか。
「それとザンジバルと言っても後ろの艦は工作艦だ。戦力としては数えん方が良い。この艦にしても地上運用を念頭に大分武装を絞っている」
「なぜ?」
「数だけで言えば、MSは大隊規模の十三機。パーツ取り用だろうが予備機もある。それだけの数を腹に抱えて移動せにゃならんのだぞ? 多少削らねば自重で落ちるわ」
「なるほど」
「本当にわかっているのか? まあいいさ。これから隊長はお前だ。この船の艦長はそっちの眼鏡のお嬢ちゃん。儂は向こうの工作艦の艦長ということになる」
「指揮権は貴方? それとも僕?」
声を上げたのはアヤメである。ザンジバルに入ってからは興味深げにそこら中を見回していたが、艦橋に入ってからは大人しかった。ガデムの人となりを見定めていたのかもしれない。
「艦隊の運用は基本的にそちらだ。儂は状況によってはザクで出撃せねばならんからな。全体の指揮はできん。それに、ここのクルーは元々お前さんの部下だ。その方がやりやすいだろう」
「それはありがとうございます。ガデム大尉」
「礼を言うようなことでもなかろう。それに、早速仕事が待っているぞ」
「は?」
ガデムは、人の悪い笑みを浮かべてアヤメを見た。この姿をして悪役と言われれば、きっと誰もが信じるだろう。
「コムサイだよ。ザンジバルを寄越したんだから、貴重な大気圏往還船をとっと返せとのお達しだ。それ用のブースターも積んできてある」
先にそれを下ろさねば、お前達のザクは積み込めんからな、とガデムは続ける。
今現在野営地の一部として使われているコムサイは、大気圏突入が可能であるというだけでなく、ブースターを装備すればのザンジバルのように大気圏を離脱することができるし、ある程度自力航行もできる。HLVよりもコストはかかるが、手間はかからないのだ。
でもって、ガデムはその作業の指揮をアヤメにやれと言っているのだ。
アヤメは、意外なことに笑顔だった。しかし付き合いの長い冬彦にはわかる。
きっと、内心でこの爺とか思っているに違いないと。
階級は同じ大尉でも、軍歴はガデムの方が長いし、特に文句を言う理由もない為に黙っているのだろうが、本心では面白くはないはずだ。
何せ新造艦のザンジバル。それも自分が任される艦。気になることは多いだろう。
「儂は中佐殿に、工作艦について話があるんでな」
「……いいでしょう。話は既に通っているんですね」
「もちろん」
大尉二人の間で、微妙な空気が渦を巻く。フランシェスカは冬彦の背後へとすっと移動した。冬彦を盾にする構図。
くわばらくわばら、と内心でアヤメに手を合わせていると、キッと睨まれた。
「ふー……偉くなった分、随分面倒な事に巻き込まれているようだな」
「面目ありません」
ザンジバルの廊下は、新造艦というだけあってどこもかしこもぴかぴかである。実戦を経験していけばそのうちに生活感も出てくるのだろうが、今はまだそういった匂いは何処にもない。
そんな中であるというのに、三人の周囲だけはどこか暗く見える。実際にそうではなく、雰囲気が、である。
今はブースターを下ろす作業で忙しいはずなのだが、誰とすれ違うこともない。
誰もいないはずはないから、たまたま誰とも出会わないだけだ。数百人はいるクルーの誰とも。
かつりこつりと軍靴の音が響いて消える。
「……できれば、そっちのお嬢さんには聞かせたくないんだがな」
「彼女は副官ですので、お気になさらず」
「そうか」
「ええ」
フランシェスカは今も静かに冬彦の背後に控えている。お嬢さん呼ばわりされても、特に何かを反論することもない。
グラナダからの撤退戦以降吹っ切れたのかなんなのか、MSに乗ることに対する忌避感は薄れたようなのだが、前にもまして副官の職務に打ち込むようになった。なぜだろうか。
「ほれ」
「それは?」
ガデムが何でも無い風に取り出したのは、ケースに入った小さなメモリーディスク。ケースには赤いテープで封までされている。
直接手渡す辺り、例の如く機密レベルの高い物なのだろう。おそらくは、ドズルからの命令が入った物か。
「ラコック大佐から預かってきた。中身は儂も知らんが碌なもんじゃないだろう。精々扱いに気をつけろ」
受け取った“それ”を、ポケットへとしまい込む。その様子を見もせずに、ガデムは前を向いたままぽつぽつと話しはじめた。独り言のように。
自分が話したいから勝手に話している、という風にしておきたいのだろう。
「工作艦の方にも幾つか機密の高いコンテナがある。そのチップと同じで中身は知らん」
「それを今から?」
「そうだ。中身が何であろうと何時使うかはお前次第だ。だが中を改めるのは早いほうが良い。何が入っているにせよな」
「どの程度の物なのでしょう」
「だから知らんと言っている。ああ、人の背丈よりは大きいぞ」
「はあ」
「それとな」
かつり、こつり。かつり、こつり。
歩みは止めず、ガデムは言う。
「ソロモンはそれほどでも無かったがな。どうも本国がきな臭いらしい。地上もいつまでも無関係ではおられんだろう」
「そこまでですか?」
「何せ儂のような老兵がメッセンジャー代わりにかり出されるくらいだからなぁ」
誰も彼も、どこもかしこも、不穏であると。
「言ってもわからんだろうがな。ダイクンが死んですぐの頃のようだ」
まあ静かではあるがな、と、一言だけ付け足した。
前からちょいちょい感想でご指摘を受けていたのですが、キシリアってドズルの妹なんじゃね?っていう問題について。
どうもご指摘によると、作品によって扱いが違うらしいです。そこでここではキシリアを姉として扱うものとします。長らく読者の皆様を混乱させてしまいました。申し訳ありませんでした。
追記。ここ最近ガンダム関係で一番衝撃を受けたこと。
∀ガンダムって、本体重量28.6tでアッガイの四分の一の重さしかないそうな。グフの半分程度。
驚きの軽さですね。