Scarlet Busters!   作:Sepia

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何!?特別OPは777回だけではなかったのか!?
次回から遊戯王は新OPとEDですね。今から楽しみです。
サテライト・キャノン・ファルコンが宇宙に行くシーンで、ブルーアイズが宇宙を目指すシーンを思い浮かんだのは私だけではないと思います。相変わらず不審者カッコいい。

ねえ、今どこ?

いつからオゾンより上でも問題なくなったんでしょうね。

あと、Charlotteを視聴しました。
同じKey作品ということで、一時期はなんとかからめられないものかとも思っていましたが、どうにも無理そうです。あんなチートをうまく動かせる気がしません。


Mission98 佳奈多の委員会

 朱鷺戸沙耶は本来病院から抜け出していいような体調ではない。

 今まで全く目を覚まさなかったのは、治療のために強力な麻酔を打たれたということもあったが、同じ条件の理樹よりも目覚めが遅くなってしまったことはそれだけ元々のケガの状態が深刻であったということを意味している。正直に言ってしまうと、地下迷宮で佳奈多によって強制的に眠らされずにそのままもう一度ヘルメスの本体とでも連戦を行おうものなら、いくらエクスタシーモードの状態であったにしても命の保証はなかった。佳奈多がどういうつもりで沙耶と理樹を気絶させたのかは分からないが、事実としてそれは沙耶へのドクターストップとして機能していた。

 

 今だって対して体調の根本なら何も変わっていない彼女であるが、それでも問題ないかと考えていた。

 

 いまから会う相手は一応は『機関』の仲間である。

 別にこれから敵と戦いにいくというわけではないのだ。

 動かすのは考えるための頭ぐらいであり、結局のところ会話ですますだけなのだから何も問題ないだろう。

 

「お、落ち着け朱鷺戸!な、な?」

 

 けど、ちょっと荒っぽくなっても一向に構わないだろう。

 今まで詳しい説明など一つしてこなかった相手なのだ。

 自分は何もいわずにこいつを殴り飛ばすだけの権利くらいはあるんじゃないかとすら思う。

 

「いいから説明しろこのなんちゃってマッドサイエンティストッ!」

「な、なんちゃッ!?お前、この俺に向かってなんてことを言うんだ!お前には分からんのか、この俺が醸し出す邪悪なるオーラというものがだな」

「ホラー全般全くダメなくせして狂気とかほざくんじゃない!お前の機巧人形(ガラクタ)全部ぶっ壊してやってもいいのよ。大体なによ、あの人形どもは。あんな気味の悪い人形作れるくせに幽霊とかまるでダメとか意味が分からないわ」

「ふふん、ならばやってみるがいい。この俺の叡智の結晶たる機巧人形(ギミック・パペット)をそう簡単に壊せるものか。いくら今は失われし陰陽術の継承者といえど、魔術が使えない魔術師なんて怖くも痒くも……あぁやめて、父さんの未来機械(マシンガジェット)なんか持ち出さないで」

「こんなもんをそこらへんに置いとく方が悪い」

 

 ここは東京武偵高校の第四理科室。『機関』の仲間、つまりは沙耶の仲間である牧瀬紅葉が拠点としている場所でもある。牧瀬紅葉と朱鷺戸沙耶では武偵としてもタイプがまるで違うために現場で一緒に働くことはほとんどないものの、仕事仲間としてビジネスライクの関係を構築している。沙耶だって銃を使う以上、『機関』のお抱え技術者である牧瀬に銃のメンテナンス等を依頼することはよくあることだ。だが、友達かというとまた微妙なところである。別に沙耶も牧瀬も互いのことを嫌っているわけではないのだが、『機関』の仲間同士であるということを悟られないようにするためにも普段の学校生活ではほとんど交流がない。二人の本質は医師と科学者なのだ。完全に畑が違うため、仲間といっても普段から連絡を密に取り合うような関係ではないのだ。

 

「で、アンタはどこまで知ってるの?」

「お前が何を聞きたいのか分からないな」

「とぼけるな。アンタら『魔の正三角形(トライアングル)』がグルってことはとっくにあたしは気づいてるのよ。あの地下迷宮に行く前にどんな取引があった?」

 

 地下迷宮へ強襲することになったから作戦に参加しろと沙耶に連絡してきたのは牧瀬だった。

 本人はアメリカからの連絡ということで、要件を告げるだけ告げて音信不通になったから詳細を聞くことはできなかったが、今考えれば分かることがある。

 

「一回目の潜入が終わった後、アンタは寮会にいる協力者に教務科(マスターズ)の様子を探らせるって言っていたけど、その協力者というのも二木佳奈多のことなんでしょ?オマエが『機関』の関係者だと知っていたとしか思えないのよ」

 

 そもそも地下迷宮の具体的な場所を見つけ出したのは沙耶と(理樹)の二人だ。

 あの後佳奈多が狐の仮面をつけて二人の前に現れた時、彼女は沙耶のことを『機関』の関係者だと分かって時点でさっさと引き上げた。そして、そのあとすぐに沙耶は牧瀬からの連絡を受けて地下迷宮へと佳奈多たちと一緒に行くことになった。そんなことができたのは、『魔の正三角形(トライアングル)』の三人に元からの接点があったからとしか考えらない。そうでなければ牧瀬紅葉から沙耶に連絡なんてこないはずだ。

 

「地下迷宮に突入前、電話でアンタにその仲間とやらは信用していいのかと聞いたとき、アンタは信用に関しては心配ないって言った。お前は仲間だからって無条件に信頼するような感情論で動く人間じゃない。良くも悪くも科学者らしく理屈をしっかりとしている人間だよ」

「嫌味のつもりか」

「いや、これでもあなたを信用しているのよ。小夜鳴先生が怪しいって普段から言っていても嫌っている理由は具体的なものをあげているような奴だ。それにあなたは素直に人を信じるだなんてことはしない。自分は人の感情なんて平然と切り捨てる狂気のマッドサイエンティストなのだからと言って、人が言いにくいことをズバズバ言うような人間だ。だからあたしは、あなたには二木佳奈多を信じると思っただけの理由があると信じているのよ」

「……」

「だから聞くわよ。お前が二木佳奈多のことをあの時信用しても大丈夫と判断した理由は何?アドシアードでの一件で、イ・ウーのメンバーであるジャンヌ・ダルクが逮捕されたにも関わらず、その仲間である佳奈多がその後も東京武偵高校にいられたのだって、それが理由なんでしょう?」

「……」

「いいから答えろ」

 

 ここまで問い詰めても牧瀬紅葉は何も答えなかった。

 言うつもりがないのなら仕方がない。

 少々手荒になるが、仲間だし許してもらえる範囲で聞き出してやろう。

 そう考えて牧瀬の胸ぐらをつかんで壁に叩き付けたら、その衝撃が伝わったのか本棚の上におかれていた段ボール箱が落ちてきて、その中身が散らばってしまった。薬品がこぼれるなどの危険な状態になっていないかを一応確認しようとして、

 

「あ」

「……おいこらこのポンコツ科学者」

 

 沙耶は見てしまった。散らばったものの中に、沙耶には見覚えのある狐の仮面があったのだ。

 しばしの無言のあと、沙耶から出てきた言葉はなんだかにらみの効いたものになっていた。

 

「……これは?」

超能力者(ステルス)が魔術師の作る結界の中でも感知されないようにと試しに俺が前に作った霊装です。はい」

「やっぱりお前らグルだったんじゃない!!」

「ぐえッ!!」

 

 苛立ちがが我慢を超えた沙耶は、こいつなんかくたばってしまえとばかりに牧瀬の腕をつかんだかと思うとそのまま彼を放り投げ、牧瀬はドンガラガッシャーンという音を立てて自分の作った人形たちの山に突っ込んだ。仕方のないことだと思う。さんざん正体が分かるまで存在しか確認できず、敵か味方かの判断もいまいちつかなかった相手が使っていた仮面が、まさか曲がりなりにも味方の人物からのプレゼントだった知ったら怒っても文句は誰にも言えないだろう。

 

「ちゃんと知っていることを聞かせてもらえるんでしょうね」

「……ここまでばれているなら『機関』の仲間として提示できる事実は一つある。誰にも、家族と思っている人間にも言わないというのなら教えてやる。言っておくが勘違いするなよ。俺が教えるのは『機関』の仲間であるお前には死んでもらいたくないからだ」

「何かしら」

 

 言ってやってもいいとは言っておきながら、牧瀬はしばらく言い淀んでいた。

 けど、言わなければ沙耶が余計なことをやらかすかもしないと判断した牧瀬は口を開くことを決心する。

 

「二木の風紀委員会だがな、あれを作ったのは俺の相棒なんだ」

 

         ●

 

・姉 御様が入場しました。

・ビー玉様が入場しました。

 

・大泥棒様が入場しました。

 

・大泥棒『さあさあやってまいりましたーッ!!「大泥棒大作戦」のお時間ですよーッ!』

・姉 御『おー。といっても私はやることほとんどないけどな。本命の二人が来ないことには会議もできそうにないな』

・大泥棒『それもそうなんだけど、エリザベス達ってここ最近何をしてたの?葉留佳もキンジたちと一緒に紅鳴館に潜入させようかって最初考えてたんだけど、オマエ拒否したじゃん』

・姉 御『最近か?しばらくしたらロシア聖教からの使者が日本にやってくるってイギリスからの連絡受けたから、その為の予定調整とかしてた』

・大泥棒『予定調整?私たち二年はしばらくしたら「職場体験」のための休みがあるだろ?なんか予定でも入っていたのか?』

・姉 御『「職場体験」の期間は「ハートランド」への招待を受けていてな、なんとか日程を変えられないものかと必死なんだ。葉留佳君にも一緒に来てもらうつもりだったから、葉留佳君には単位を取らせまくってたな』

・大泥棒『それにしても、わざわざロシア聖教からアポがあるなんて珍しいんじゃない?大丈夫なの?』

・姉 御『詳しい話はその時にならないと分からないけど、たぶん魔女連隊の話じゃないかな?なんか日本での活動が活発になり始めたって報告を受けているし。こんなことがなかったら潜入の期間を「職場体験」の休み期間にしたさ』

 

・独唱曲様が入場しました。

・キン2様が入場しました。

 

・ビー玉『姉御ー。どうやら全員そろったようですよー!!』

・姉 御『よし、それじゃ』

・大泥棒『「大泥棒大作戦」作戦会議、始まるぞーッ!!』

 

 全員がそろったことで、今後の将来を左右する作戦会議がスタートする。

 まず話を切り出したのはアリアであった。

 

・独奏曲『理子。マズイことになったわよ。掃除の時に確認してきたんだけど、地下倉庫のセキュリティが事前調査の時よりも強化されているの。それも気持ち悪いぐらいにね。物理的なカギに加えて、磁気カードキー、指紋キー、声紋キー、網膜キー。室内も事前調査では赤外線だけってことになっていたけど、今は感圧床まであるのよ』

・キン2『なんだそりゃ』

 

 米軍の機密書類だって、そんな厳重な隠し方はしない。

 ここまでされたら金庫の扉を開けることができたとしても、赤外線の張り巡らされたフロアに入ることができないのだ。仮にその問題をクリアできたとしても、床を踏んだら圧力で警報が鳴る。どうしたものかと思っていると、理子はすぐに計画を立案した。

 

・大泥棒『よし、そんじゃプランC21でいこう。キーくん、アリア。何にも心配いらないよ。どんなに厳重に隠そうと、理子のものは理子のもの!あなたのものも、理子のもの!で、今小夜鳴先生とはどっちの方が仲良しになれているのかま?かなかな?』

・キン2『アリアじゃねーの?お前、新種のバラとか命名されて喜んでたろ?』

・ビー玉『ちょっと待って!小夜鳴先生ってどういうこと!?』

・キン2『そういえばお前と来ヶ谷の二人には言ってなかったな。俺たちが潜入している紅鳴館の主が小夜鳴先生だったんだ』

・ビー玉『ホントに?』

・キン2『嘘をついてどうするんだ。小夜鳴先生がどうかしたのか?』

 

 牧瀬紅葉は偶然はそうそう続くものではないと葉留佳に言っていた。彼が言うには度が過ぎる偶然はすべて必然であるとのこと。来ヶ谷の自室と化している第三放送室で布団を引いて実況通信に参加していた葉留佳は、隣のベッドで寝転がっている来ヶ谷に意見を求めた。

 

「姉御はどう思います?」

「小夜鳴教諭は胡散臭いって話か。確かにここまできたら牧瀬の戯言だとは思えなくなってきたな。狼の出現から人払いの結界が貼られていたり、おかしなことにこれでもかと関わっている」

「理子りんたちに警戒するように言いますカ?」

「それはやめておこう。一人、演技が絶望的な奴がいる。変に悟られるわけにもいかない。でも、聞くだけ聞いてみる必要はありそうだな。恵梨君にでも探らせるか」

 

・姉 御『教師小夜鳴氏の様子はどんな感じだった?』

・独唱曲『リズまで一体どうしたのよ。紅鳴館の主が小夜鳴先生だったってことはリズだって知ってたでしょ?メイドの恵梨さんはリズの部下なんだし、報告してるものだと思ってたけど』

・姉 御『いいから答えてくれ。君たちの視点からの様子を知りたい。食生活でもなんでもいい。変わったことがあればなんでも言ってくれ』

・キン2『小夜鳴の食生活は串焼き肉だけだぞ。なんか焼き方は表面を軽くあぶる程度のレアで、アレルギーの関係でもあるのかニンニクだけは使うなとは指示されたけど、他には何の注文もなかったしな』

・姉 御『毎日か?』

・キン2『ああ。毎日それだけしか食べない』

・ビー玉『うわぁ、栄養バランスが偏りそうなメニューだ……』

・独唱曲『後は……そうね。とても研究熱心というところかしら。仮におびき寄せることができたとしても、すぐに研究室のある地下に戻りたがると思うわよ』

・姉 御『なんの研究をしているか聞いてるか?』

・独唱曲『こないだちょっとお喋りした時に聞いたけど……なんか、品種改良とか遺伝子工学とかって言ってたわね』

・キン2『そうそう。小夜鳴が品種改良したバラで、17種類のバラの長所を集めた優良で名前がついてないバラがあったんだが、アリアもちょうど17ヶ国語を話せることから「アリア」だなんて名づけていたもんな』

・独唱曲『キンジもキンジでどうしたのよ。なんかこの間から不機嫌な感じがするわよ』

・大泥棒『おお?おおおー?痴話げんかってやつですかい?』

 

 小夜鳴徹は生物工学の天才だとも以前牧瀬紅葉は葉留佳に説明した。

 普段から白衣を着ている典型的なまでの科学者を知っているだけあって、小夜鳴先生の行動には葉留佳は特に疑問点は見当たらない。今聞いてみても、世界でも優秀な学者らしい行動をしているものだとか思ったものだ。

 

「気になる点でも見つかりました?」

「現状では何とも。小夜鳴教諭は超能力者(ステルス)みたいなことするんだなって思った程度だな」

「へ?どうしてですカ?」

超能力者(ステルス)の体質は一般のものとは異なるものだ。なにせ、魔術を受け継ぐ歴史の中で身体がそれを使うために特化した体質だったり、突然変異で生まれたような奴らだ。連中はその人その人で決まっている特定の栄養源を取るだけで生きていけるんだよ。葉留佳君だって、オレンジさえ食べていれば生きていける気がするって前言ってたじゃないか」

「確かにそんなこと前に言いましたケド、そう極端なものですかネ」

「そんな極端な体質を持っているから、強力な超能力者(ステルス)は普通の人間が何ともない食べ物ですら猛毒と化すほどのアレルギーを持つ頃が稀にある。君はどうだ?」

「私は別に、そんな毒だなんて思うような……あ」

「ん?」

「ちょっと心当たりが出てきました。確かに毒物を扱っているかのような感じでしたネ」

 

 葉留佳の好物はオレンジを主にした柑橘系全般。

 超能力を使えるようになってからはどういうわけか以前より余計に美味しいと感じるようになっていたが、実は葉留佳は好物のオレンジを家族(かなた)と一緒に食べたことはないのだ。

 

『ごめんなさい。私、柑橘系はアレルギーがあって食べられないのよ』

 

 どれだけ一緒に食べようと誘っても、佳奈多は一回として頷くことはなかった。

 それは一緒に暮らすようになってからも変わらなかった。

 最初は自分に遠慮しているだけとも思っていたが、ホントにダメなのだと知るまでそう時間はかからなかった。

 

「でもニンニクのアレルギーって、ドラキュラでもあるまいし。変わったものを持ってるもんですネ」

「小夜鳴教諭の正体は実は隠れ潜んでいる吸血鬼だったりしてな」

「そんなバカな。というか現実にいるんですか吸血鬼?」

「ローマ正教の文献に、聖なる祈りを捧げたシスターが大剣で吸血鬼の首を切り落としたっていう話があるぞ。本当かどうかは知らん。あいつらの文献全くあてにならないし。そもそもシスターが大剣を持って戦うってどういうことだなんだろうな」

 

・キン2『とりあえず、おびき寄せっていう方針でいいのか?』

・姉 御『いいと思うぞ。恵梨君には邪魔しないように私の方から話をつけておくよ』

・大泥棒『じゃあ、時間で言えばどれくらい先生を地下から遠ざけられそう?』

・キン2『あいつの普段の休憩時間の感覚から判断すると、せいぜい10分ってとこだろうな』

・大泥棒『10分かぁ……』

 

「姉御ー。10分ってそんなに短い方ですカ?私の超能力があれば移動時間は短縮できるのでなんとかなりそうな気もしますけど」

「そうは言っても長くて10分ってところなら安全圏はせいぜい五分くらいだ。元々の距離からしてそう離れているわけでもないみたいだし、短縮できる時間はそうないと思う。過信せず、いざという時の鉢合わせ回避能力と考えた方がよさそうだ。いや、それでも充分なくらいに便利なんだけどな」

 

 黙ってぼけっとしたまま突っ立っているだけなら10分という時間はやたら長く感じるが、作業時間での10分は短いと言っていい。葉留佳の超能力テレポートで移動時間を短縮できたとしても、わずかな時間内に無数の鍵やアラームの仕掛けられた金庫を破り、お宝を奪い痕跡を残してはならないという制約がることにはかわりない。

 

・大泥棒『なんとか15分頑張れないかなぁ。例えばアリアがー』

・独唱曲『たとえばあたしが?』

・大泥棒『ムネ……はないから、オシリ触らせたりして。くふふっ』

・独唱曲『バ、バカ!風穴!あんたじゃないんだから!』

・姉 御『葉留佳君が超能力で跳ばせるのものの条件は自分の手で触れていることだ。しっかりと固定しすることができれば間接的に飛ばせると思うぞ。原理的には人間を跳ばした時に、一緒に持っている剣とかの武器も跳んでいくことと同じかな。ただピンセットとかでつかんだものが一緒に飛べるかというと、また微妙な線を行っている。ともあれ移動は葉留佳君に任せていいと思うぞ』

・大泥棒『おっ。それなら話が早いや。手に入れることにすべての時間を使うことができるね。じゃあ具体的な方法はまらこっちのほうで考えとくよ。りこりんおちまーす!』

・姉 御『それじゃ私達も』

・ビー玉『おやすー』

 

・大泥棒様が退場しました。

・ビー玉様が退場しました。

・姉 御様が退場しました。

 

 三人が退出したことで、実質会議はもう終わりだ。このまま何も言わず解散になるかと思われたが、実際はそうではなかった。たしかにもうこの実況通信に書き込みを入れる人間はいない。このログだって、秘匿のためにもうじき消えるだろう。だが、何も連絡手段はチャットだけなんてことはない。

 

『もしもし……キンジ、いまいい?』

 

 アリアがキンジに電話をかけたのだ。

 

『なんだよ』

『やっぱりなんか変。キンジ、なんだかちょっとおかしいわよ。何かあったの?』

『なんでもない。気にするな』

『気にするわよ。現にアンタ、不機嫌になってたじゃない。何かあったのかって、寝る前に仕事の報告を恵梨さんにしたときにも聞かれてた。みんなわかってるのよ』

『そんなこと、お前には関係ない』

『……』

 

 アリアは何も言わなかった。沈黙に耐えられず、キンジはもう電話を切ろうとした。そのことを伝えたが、アリアにはまだ聞きたいことがあったらしい。

 

『ちょっと待ちなさいよ。この流れだしついでに聞いておくわ』

『なんだよ』

『カナって誰?』

 

 ぶっきらぼうに尋ねたキンジであったが、アリアの一言を前に金縛りにあったように口をつぐんでしまった。この沈黙をアリアが一体どう解釈したのかは分からない。

 

『……あんたの、その……昔の……いわゆる、えっと……』

 

 噛み噛みで、とても言いづらそうでったが聞いてきた。

 

『も、元カノだったり……するの?』

 

 キンジはしばらく黙っていた。このまま黙っていたらアリアの方からあきらめてくれるかもしれない。そう思っていたのに、アリアの方が折れる気配がない。だから言った。

 

『それこそ、お前には関係ない』

 

 カナのことはアリアは何も知らない。かと言って教えるつもりもない。半端な知識ほどたちの悪いものはないのもまた事実なので、アリアが知りたいと思うことは当然なのだ。だけどキンジには、少しばかりきつく返すことしかできなかった。

 

『そうね。関係ないわね。ごめんなさい。自分でもなんでか分からないけど、誰にだって触れられたくない過去はあるものね。今のは踏み込みすぎたわ。謝る』

『いや、今のは俺も言い方がきつかったかもしれん。別にアリアが悪いわけじゃない。こっちこそごめんな』

『……ねえキンジ』

『ん、なんだ』

『どうしてみんな、大好きだった人とは離れ離れになってしまうのかしらね。あたしのママもそう。理子のママだってそう。葉留佳だって今も佳奈多のことがあんなに大好きなのに』

『アリア……』

 

 アリアはわかっていたのだ。キンジにとってカナという人間はきっと、大好きな人間ではあったのだということに気づいていた。それはアリアがシャーロック・ホームズ卿のひ孫だからではない。微塵も推理力が遺伝していないアリアでなくとも、気づくことができたはずだ。紅鳴館へと向かう電車の中、優しく穏やかに微笑みながらカナを見つめるキンジの顔を見た人間ならだれでもわかる。あれは敵に見せるようなものじゃない。心をすべて許した人間にのみ向けられるようなものだ。

 

『それはきっと、誰かが悪いということじゃないのかもね。どうしようもないことなのかもしれない』

 

 そんなことはない、とはキンジは言えなかった。理子の両親はある日突然帰ってこなかったという。もし理子の両親が今もまた健在なら、理子はイ・ウーなどにいなかったかもしれない。ブラドとかいうやつに監禁されることもなく、もっと楽しい子供時代を過ごすことができたのかもしれない。佳奈多は一体どうなのだろう。以前葉留佳に対し、佳奈多さえまともでいたら、お前は今も親族たちと仲良く暮らすような未来があったかもしれないのだぞと言ったことがある。結果はありえないと吐き捨てられた。言っている意味が全く理解できないとまで言われた。

 

『だから、ね、キンジ。アンタには何があったかも知らないし、聞きだすつもりもないわ。けどね、元気出して。あれ、あたし、何言ってるのかしら。ごめんなさい。それじゃ、もう寝ましょうか』

『待ってくれ』

 

 さっきは自分から会話を打ち切ろうとしていたのに、キンジはいつしかアリアを引き留めていた。

 カナのことは気にしないほうがいい。頭ではわかっていても、こればかりはどうしようもなかった。

 そして相談するつもりもない。こればかりは自分で何とかすると決めている。他の誰にもやらせてたまるものか。

 

『今はまだ話せないけど……いつか、俺の話を聞いてくれるか。三枝にとっての二木のように、俺にとってのすべてだと胸を張って言えた人のことを、いつか聞いてくれるか』

『うん……待ってるわ』

『じゃあ……おやすみ、アリア』

『おやすみなさい、キンジ』

 

 どうしてこんなことを言ったのだろう。キンジは分からずに携帯電話を見つめたままだった。

 幼馴染で、少しは事情を知っている白雪にも決して相談すらしようと思わなかったのに。

 三枝葉留佳の気持ちを近くで聞いてしまったからだろうか。

 

 ―――――――かなたお姉ちゃんッ!!

 

 どれだけ冷たく扱われても、もう愛情なんて微塵も感じなくても、それでもどうしても忘れられない。大好きだという気持ちはどうしても変わらない。そんな気持ちを、慟哭を聞いてしまったからだろうか。今まで自分は武偵をやめると言ってきた。それは自分で決めたことと言いつつも、必死に目をそらしてきた結果なのかもしれない。結局のところ、真実は分からない。けど三枝葉留佳によって突き付けられたことはある。

 

(……結局は俺も同じなんだ)

 

 カナのことを自分がどう思っているか。

 それはもう、考えるまでもないことだった。これの答えはとっくの昔に出ていたのだ。

 

 




実は牧瀬さんが『機関』のメンバーだと明言したのは、今回が初めてだったりします。
とっくに皆さんも気づいていたことだと思いますが、一体どの段階で気づかれましたか?

こいつ、出てくるたびに何かしらやらかしているような気がします。
最初完全なるシリアス要因として考えたのに、どうしてこうなってしまったんでしょうね。負荷領域のデジャブ見ながら考えたのがマズかったのか。

あと好きなんですよ、ギミパぺ。
あのとち狂ったデザインが大好きです。

東京武偵高校に現在いる『機関』のメンバーは三人です。
さて、残りの一人は誰でしょう?
どの作品かは言えませんが、原作キャラだとは言っておきます。佳奈多ではありませんよー!

あと佳奈多の背後関係が(葉留佳の知らないところで)だんだん明らかになってきました。『魔の正三角形』のバックについている組織は、

姉御:イギリス清教
モミジ:機関
佳奈多:???

となっていますが、一体何なのかもう想像がついてきたと思います。

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