アクセル・ワールド ――もうひとつの世界――   作:のみぞー

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第32話 《マジムン》

「おい、遅いぞ。連絡は30分も前にしたんだ、こっちに来るまでの時間はたっぷりあった筈だろう」

 

 黒雪姫が宿泊しているホテルから《無制限中立フィールド》へ入って30分。《風化》したホテルの入り口で待っているとようやく《プラチナム・ドラゴニュート》がその姿を現した。

 

「ああ、悪い。野暮用が少し長引いてな……」

 

 

 遅刻を責める《ブラック・ロータス》へ軽く謝るドラゴニュートを見て、《ラグーン・ドルフィン》、《コーラル・メロウ》となったルカとマナは感嘆の息を吐き出した。

 フィールドへ降り立つ前にロータスこと黒雪姫がドラゴニュートの遅刻を予見していたからだ。

 

『どうせあいつのことだ。フィールドに降り立ったとしても真っ直ぐにこちらへ向かうはずがない。沖縄にしかいないようなエネミーを見つけてはちょっかいを出し、負けたり、リスポンしたりしながらやってくるだろう。ともすればアイツは約束の時間に遅刻する。絶対にだ』

 

 そのあと『他のやつ(レイカー)の約束は守るくせになぜ私だけ……』『沖縄のエネミーはアイツを《無限EK(エネミーキル)》してくれないだろうか』などと言いつつも、ダイブした後、約束の時間になっても来ないドラゴニュートを探しながら『ほれ見ろ言った事か……』『ほんとに《無限EK》されてないだろうな』とホテルの入り口前を行ったり来たりしていたことは内緒にしておこうとルカとマナは思った。

 

 ホテル前に開いた無数の穴。

 あまりにもイライラしすぎたロータスが歩いただけで無意識に開けた穴だが、ルカとマナが先のことでロータスをからかった場合、次の瞬間横たわった自分たちが同じような状態になっては堪らないと思ったからだ。

 ハッキリいってドラゴニュートがやってくる30分間、とくに10分ほど経った頃からは特に生きた心地がしなかったとマナとルカは後に語る。

 

「なにが野暮用だ、バカなことを。もういい、さっさと彼女たちの師匠とやらがいる場所に行くぞ。さ、案内してくれ」

「は、はい! こっちです」

 

 改めてレベル9()の恐ろしさを認識したルカは真っ青な体をぎこちなく動かしながら町の方へと歩き出す。その様子にロータスは首を傾げたが、軽く流して、案内役であるルカの背中を追いかける。

 沖縄のバーストリンカー2名と地面の穴ぼこを見て大体何があったのかを予想したドラゴニュートは悪い子としたなと、自分はどうしようかオロオロと迷っているマナの背中を押してそのあとに続くのであった。

 

 

 

 

 《城址(グスク)》ステージとは異なり、朽ちたコンクリートと錆びた鉄骨が目立つ《風化》ステージを数分移動すると、昨日ドラゴニュートたちが訪れていた商店街だった場所が見えてきた。

 活気溢れていたその商店街に見る影はなく、いまや人っ子一人いない荒廃した建物ばかり。しかし一点だけ、過ぎ去る時に精一杯抵抗しようと貧相なネオン管を点滅させる場所があった。

 

 かつては色鮮やかに縁取られていた看板もいまや見る影もなく、光るのは中央のネオン管のみ。そのネオン管も砂と埃にまみれ、目を凝らさないと点灯しているのがわからなくなっているほどだ。点灯している文字を読めばかろうじで【BAR】と見えないこともない。

 

「《ショップ》か……」

 

 《無制限中立フィールド》に点在する《ショップ》は通常のRPG同様にアイテムを売っている場所で、ブレインバースト内で使用することが出来る特殊効果カードアイテム、強化外装などの戦いに変化を与えるものから始まり、服や飲食物、家なんて戦いにはなんら関係のないもの、果てまでは《情報》という役に立つのか立たないのかよくわからないものまで売られている。

 

 《ショップ》の多くは繁華街に設置されており、現実では観光客賑わうこの場所に立てられているのもおかしくはない様に思えた。

 

「ここに師匠とやらがいるわけだな?」

 

 ロータスの問いに笑顔で頷いたドルフィンとメロウは錆び付いた扉を遠慮なくこじ開け、中に入っていった。

 続いてロータス、ドラゴニュートが入ろうとするが、店の入り口は思っていた以上に狭く、入り口から少し入った所で師匠と会話を始めてしまったドルフィンたちのせいで、細身のロータスはまだしも巨体であるドラゴニュートは入り口から顔を出すだけに(とど)まることになってしまう。

 

 

 店の中は外から見たとおり、酷く寂れていた。

 錆び付いた壁、埃のかぶったソファー、壊れたジュークボックス。

 唯一綺麗なのはバーのカウンターとその前に並べられた円柱状の椅子。そして店のマスターが磨き上げたグラスだけだった。

 

 件の師匠とやらはカウンターに突っ伏して、マスターが出した酒を飲みながらくだ(・・)を巻いている人物のようだった。

 

「師匠、師匠! 連れてきたよ、ワン()たちを助けてくれる人!」

「にゃにぃー!? あんなん無駄だって先月俺様が追っ払ったんだからわかっただろ。この最強だった俺様の事を知らないようなレベル5や6がいくら集まっても足りねぇんだって。レベル7の俺様ちゃんでも《アイツ》には手も足も出ねぇっていうのに」

 

 うるさく肩を揺らすドルフィンと顔を合わせないようにそっぽを向く師匠は、新しく注がれた300年ものの古酒(クースー)を一気に呷り、酒臭くなった息を吐き出した。

 

「ならレベル8なら大丈夫かっていうとそうでもねぇ。あの《マジムン》を退治しようっていうならレベル9の《王》を連れてこねぇと……」

「ほう、《王》ならば事足りるというのか」

 

 いまだこちらに顔すら見せない師匠の言葉にロータスが反応した。

 普段なら聞こえることのない第三者の声に酔っ払いは気付くことなくロータスの問いに答える。

 

「いやいや、《王》といっても物理攻撃特化の《聖剣(ブルーナイト)》か《絶対切断(ブラックロータス)》じゃないと無理だな!」

「《プラチナム・ドラゴニュート》じゃダメなのか?」

 

 自身の名前が出なかったことにカチンときたドラゴニュートがひと言突っ込む。

 するとその名を聞いた師匠は慌てた様子でドラゴニュートたちの方へ振り返った。

 そしてルカとマナの姿の先、入り口に佇むロータスの姿を見て、驚き、固まってしまう。

 

「バカ! その名前を出すんじゃねえ! 噂をすれば出てきちまうだろう……が……って、え? あれ? ああ……その黒光りするボディ、惚れ惚れするようなおみ足、まさか本物のブラックロータス?」

「ああ、そういうお前は《クリキン》だな。一目見てお前だとわかったぞ」

 

 クリキンと呼ばれた深い赤色の金属光沢を全身から放つバーストリンカーは呆然とした様子でルカとマナを掻き分けロータスの前に立った。

 

「あぁ、沖縄にやってきて3年。もう一度その姿を拝めるとは思ってなかったぜ」

 

 膝を付き、感動でむせび泣くクリキン。

 頭に乗っかる平たい六角柱、頭から足まで太さの変わらない円柱の体。そして体に刻まれている蛇腹状の傷跡を見て、ようやくドラゴニュートも彼の存在を思い出した。

 

「《クリムゾン・キングボルト》? あの《史上最強》の?」

「おお! 俺様ちゃんの名前を知っている奴がもう一人いるとは! おたくはなにもん……だ……」

「《オーロラ・オーバル(オラバ)》にはあんまり領土戦仕掛けたことなかったから初めましてになるな。プラチナム・ドラゴニュートだよろしく」

 

 ロータスに続いて旧交を温めようと視線を向けた先、そこには入り口から顔だけ出して挨拶するドラゴニュートの姿があった。

 下から見上げる形となったクリキンにとって、背後から日の光を浴びて暗い店内から見るドラゴニュートの姿は影のように真っ黒で、モノアイだけ煌々と光る威圧的な巨体は立派な角と尻尾の生えた悪魔のようだった。

 クリキンは膝を付いた体を精一杯仰け反らせ、震える手でドラゴニュートを指差しながら叫ぶ。

 

「で、でたぁー! 《諸悪の根源(ハッピーメーカー) プラチナム・ドラゴニュート》!?」

「おい、その名前で呼ぶな。黒歴史なんだ」

「ハハハ、そんなのもあったなぁ」

 

 聞きたくない2つ名に顔を顰めるドラゴニュート。

 先代団長と世代交代をした直後、団のみんなを退屈させてはいけないと考えたドラゴニュートが無理して先代団長のようにあちこち引っ掻き回した時に付けられた通り名である。

 今となっては反省してなるべく大人しくしているドラゴニュートだったが、今でもその名は古参バーストリンカーに根付いているのだった。

 

 

 

 

 どうにか落ち着いたクリキンは立ち話もなんだからと店の奥へと案内する。

 入り口は狭かったが、入ってみるとそうでもなく、巨体のドラゴニュートを含めても十分余裕をとって席に着くことが出来た。

 

「いやードラゴニュートさんが沖縄にやってきているとは知らずにご無礼を。おっと、グラスが空ですね、ただ今お注ぎしますから」

「ん? いや……ありがと」

 

 酒の飲めないドラゴニュートだったが注がれたからには口を付けなければならない。意を決して、舐めるようにグラスに口を付けるとそれだけで喉が焼けるように熱くなった。

 

 ――アルコールは自分にはまだ早いようだ。どこが美味しいのかもわからない。まるで溶けた金属を呑んでるみたいに体の中が熱くなってきた。

 

 心の中で愚痴るドラゴニュートには気付かず、まるでギャングに対する下っ端のように振舞うクリキンにどう接していいか迷ったドラゴニュートは結局、対面に座るロータスへと助けを求めた。

 視線を受けたロータスは、カッコよく持ってはいるが一ミリたりとも量が減っていないウィスキーグラスを転がしながらクリキンへと話しかけた。

 

「それで、クリキン。お前は東京からこの沖縄へ引っ越してきて、彼女たち《子》を作り、ブレインバーストを続けてきたことはわかった。

 しかし、ここまで頑張ってきたお前が諦めるほどの《問題》とはなんだ?」

 

 ようやく意識を移したクリキンにドラゴニュートは誰にも気付かれないようにため息を吐く。ドラゴニュートは仲間内ではしゃぐのは好きだが、人見知りの激しい内弁慶なのである。短い間に接するなら相手が勝手に「威厳がある」「王のカリスマ半端ねぇ」などと勘違いしてくれるのだが、少し長く付き合うとメッキが剥がれボロが出てしまう。

 

 チラリと視線を上げると“ボロ”を知っているロータスがドラゴニュートを見ながら薄ら笑いを浮かべていた。ドラゴニュートがロータスの内面の表情など解るわけないが絶対に笑っていた。

 

 

「ああ、それなんだけどな――」

 

 視線間でバチバチと火花を散らす両者の低次元な諍いに気付かないクリキンは今までの明るい声を一転させ、悲壮な声色を出す。さすがの(バカ)2人も真面目に聞かなければと姿勢を改めた。

 

 しかしその言葉は最後まで聞くまでもなく遮られてしまう。言葉を遮ったのは爆発とも取れる衝撃と轟音だった。ぐらぐらと揺れる店内にたちまち響くガラスの破砕音。バーストリンカーたちは椅子から立ち上がることすらも困難だった。

 

「くっ……! なんだ!?」

「外からだ!」

 

 何度も続く地響きの中、転げるように《ショップ》から抜け出したロータスたちは商店街の入り口にある巨大な建築物を破壊して暴れまわるシルエットを発見した。

 4足歩行で暴れまわるその怪物は周りの建築物よりも頭1つ飛びえており、高さだけで5メートルはある。全長はここからではわからないが、中型のエネミーである《野獣(ワイルド)級》でさえも全長は精々4メートルだ。体前面だけで覆い隠せてしまうだろうその大きさは規格外ともいえた。

 

「あいつだ……」

「え……?」

大きい化け物(マギーマジムン)。奴がここ最近俺たちの狩場を荒しまわってやがる奴なんだ」

 

 悔しそうに拳を握り締めるクリキンの言葉にロータスはなにかの間違えではないかと思いたかった。しかし、地揺るぎはいまだ続き、町を破壊している。

 

 エネミーは現実の野生動物と同じようにそれぞれが縄張り(テリトリー)を持ち、その縄張りさえ侵さなければエネミーはお互いに争うことはない。

 唯一エネミーが目の敵にするのがバーストリンカーであり、バーストリンカーがエネミーの攻勢化範囲内(アグロレンジ)に入った場合問答無用で襲い掛かってくる。

 しかし逆に言えばその範囲内に入らなければエネミーはバーストリンカーに牙を剥かないのだ。それこそバーストリンカーの先回りをして狩場を荒らすなんてことは絶対にしない。

 

 はずだというのに。

 

「まじぃ! アイツがこっちに気がつく前にホテルの《離脱ポイント》から脱出しねぇと!」

 

 クリキンが慌てるように巨大な影は徐々にドラゴニュートたちのいる町の中心へと近づいてきている。このまま手をこまねいていたならば、あっという間に倒壊する瓦礫や、あのエネミーの突進に巻き込まれ手痛いダメージを喰らってしまうだろう。

 だが、ロータスはそれでも慌てるクリキンに疑問を持った。

 

「まて、こっちにはお前(レベル7)私たち(レベル9が2名)居るんだぞ。なんの準備もないから倒すのは無理だろうが、追い払うくらいは……」

 

 ロータスが交戦の意思を伝えるが、それでも敵の正体を知るクリキンは首を横に振った。

 

「ダメだダメだ! アイツには他のエネミーにねぇ《知能》がある。下手したら俺たち全員が全損するまで《無限EK》されっぞ!」

 

 クリキンの言葉にロータスと、横で聞いていたドラゴニュートは驚きをあらわにした。

 街や建造物を無作為に襲うエネミーというのは少ないが確かにいる。その中で有名なのは《太陽神インティ》だろうか、形容するならただゴロゴロと転がるだけの超巨大な火の玉であるインティは唐突に現れ、街を破壊し、またどこかへと消え去るエネミーだ。近くのバーストリンカーには優先的に襲い掛かるが、一度バーストリンカーを高熱で蒸発させればその場に留まることなく去っていく。まるで性質の悪いひき逃げ犯のような行動だが、インティのような災害タイプのエネミーは皆同じような行動を取る。なので王2名は目の前のエネミーも同じタイプと考えていたのだが……。

 

「《知識》があるとはどういうことだ!? まさかアイツがお利口な犬の如く我々の復活場所に留まるわけではあるまい!」

 

 そんな行動をするのは災害タイプではなく、先に挙げた縄張りを持ち、そこから一定範囲外に出てこないタイプのエネミーだ。縄張りを持つタイプはバーストリンカーがリポップするたびに襲い掛かり、バーストリンカーが縄張りの外に出るまで攻め立てる手を緩めない。縄張りタイプのもっとも脅威とされているのが《帝城》の東西南北に存在する《四神》の4柱であり、彼らの攻撃力の前では復活直後だとしても一歩たりとも動くことが出来ず再殺され、戦場奥深くに囚われてしまった者は一生《無制限中立フィールド》へダイブすることは叶わないと諦めるしかない。

 

「いや、まさにそのとおり。アイツは《利口な犬》そのものなんだ」

「なんだって!? それはいったい……」

「まさか……」

 

 その答えにたどり着いたのはドラゴニュートが先だった。可能性としては万が一にもない。考慮するだけ無駄な事項。しかし、可能性はゼロではない(・・・・・・・)。万が一はある。それは他でもない自分たちが証明してしまっていた。

 《スーパー・ヴォイド》のアジトを守る《神獣(レジェンド)級エネミー ティアマト》。許可なく近づくものには容赦なく襲い掛かる最強の番人。しかしそれは数多の奇跡が折り重なって存在しているのだ。

 加速世界史で起きた最上級の奇跡が2度もあるはずがない。ドラゴニュートは否定の言葉が欲しくてクリキンの次の言葉を待った。

 

 

「よーく冷静になって聞いてくれよロータス。あの神獣級エネミーはバーストリンカーにテイム(・・・)されちまってるんだ」

 

 

 その言葉は期待したものではなく、予想できうる限りで最悪のものだった。

 

 

「…………」

 

 いまだ事態が完全に飲み込めていないロータス。それでもいち早く何らかの決断を下すべきである。事態は刻一刻と進行し、最早後戻り出来ない場所まで訪れようとしている。

 交戦か、撤退か。決定するにはもう少し情報が必要だった。ドラゴニュートはクリキンの細長い腕を掴み、迫るように顔を近づける。

 

「アイツはこちらに対して敵対的な態度を取るんだな? 話し合いで解決できるような相手か?」

「い、いや、それは無理ですよ。アイツは3ヶ月前に突然現れて、周辺の狩場を荒らし始めまして。俺っちたちも始めは話し合おうとしてたんですが、あいつはこっちを見つけえると問答無用で襲い掛かってきやがって……。それに多分アイツの目的はポイントだ。それも100や200じゃ利かないほど膨大な」

 

 それはマズイとドラゴニュートは考えた。ハッキリいってレベル9などという存在はポイントの宝庫である。ロータスの貯蓄ポイントは知らないが、ドラゴニュートだけでも所有ポイントは一万を上回り、それが2人。始めにこちらを各個撃破してしまえば後は復活する時間までにHPを回復させ、必殺技ゲージを溜めるだけで一方的にひとりひとり時間差でEK(エネミーキル)することができてしまう。

 さすがのレベル9でも準備なくては神獣級エネミーを相手にするのはキツイものがある。

 

「ロータス。こっち(加速世界)に来る前にしっかりとセーフティはかけてきたんだよな? こっちの時間で後どれくらいになる」

「あ、ああ。もちろんだ。およそ83時間。おそらく全損はないだろう」

 

 相手のレベルがもしも4か5で、ファイナルアタック(最後の一撃)を全て持っていかれた場合は解らないがな。という言葉をロータスは飲み込んだ。

 《無制限中立フィールド》でのポイント移動はバーストリンカーが最後に誰に攻撃されたかによって決定され、エネミーなら一律10ポイントだが、レベルの低い相手だった場合30や40などの決して低くないポイントが相手に流れることとなる。

 ドラゴニュートはマナとルカにも同じことを確認し、全損はないことを聞いた。

 

「よし、わかった。クリキン、2人を連れて《離脱ポイント》まで行ってくれ」

 

 ドラゴニュートに質問されてからロータスはもう腹を括っていた。

 狼狽していたのが嘘のように凛とした佇まいでクリキンに指示を出す。

 

「2人を連れてって……あんた達は」

 

 すぐそこまで近づいてきているエネミーを、ただ黙って睨みつける両者。

 お互いの意思は確認を取らずとも解っていた。

 ロータスがチラリとドラゴニュートの顔を見上げると、ドラゴニュートも同じタイミングで見返してくるので思わず笑みがこぼれる。

 

――ああ、昔に戻ってきたかのようだ。

 

 それはどちらの思いだったか。

 ドラゴニュートが演劇の一幕のように声を出す。

 まるで無二の親友へと告げる信頼の証のようでもあった。

 

「やれるか?」

「ああ、出来るとも……」

「俺とお前なら……か?」

「わかってるじゃないか」

 

 昔、そうしたように拳と剣をぶつけ合う。リン、と鈴のような澄んだ音色がその場にいる全員の耳を打った。

 

 見えなくとも感じられる確固なる絆に、ただ近づいてくるエネミーが恐ろしくて抱き合っていただけのルカとマナも震えるのをやめて2人をじっと見ていた。

 

「か……カッコイイ!」

「お姉さまもお兄様も素敵ですぅ!」

「あーもー! この2人がそろったからにはこうなることは目に見えてたよな! しゃーねーから俺も付き合うぜ。ルカとマナにはサポートを任せる。負ける気がしねぇぜ!」

 

 みんなの肩の力が抜け、士気がこれ以上ないほど盛り上がると、そこで王の2人は表情を険しくし、構えをとった。

 

「来るぞ! 固まるな散開しろ!」

 

 ロータスの号令と共に彼女たちの目の前の建物が根元から吹き飛び、もうもうと舞い上がる砂埃の中から巨大なエネミーが飛び出てくる。

 ここにたった5人で成し遂げようとする《神獣(レジェンド)級エネミー》討伐戦が始まったのだった。

 

 

 

 




《太陽神 インティ》は原作にも出てくるエネミーです(話の中だけですが)
ブレインバーストが配布してから約10年も経つのにいまだ攻略できてないエネミーの話が出てくるのがこのゲームの奥深さというか、やりこみ要素の多さが出てますよね。
しかも東京23区内だけの話で、ですよ。日本全土にこのようなイベント、ダンジョンが設置されてるとしたら全て攻略されるのに何千年かかることやら。(すでに1万年近く経っているので何万年単位になるかもしれません)

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