3月。とある大学。
今日この大学では、合格者発表が行われている。桜舞い散るキャンパスの、沢山の数字が並べられた掲示板の前で、数多くの男女が一喜一憂していた。
そんな人の群れの中から、一人の男が出てきた。俯きながらよろよろと歩く姿からして、不合格だったのは明白だ。それもまたよくある光景の一部で、大多数の者は僅かばかり同情しながらも、ほとんど気にしていなかった。
だが。
「…ふふ、ふふふふ…。」
低く、くぐもった笑い声が俯いた男から響いてくる。ひどく不気味なその様子に、今度こそ多くの人が彼の方に目を向けた。
男の笑い声は段々と大きくなっていき、肩が大きく上下し始めた。
そして。
「落ォーーーー!!ちィーーーー!!たァーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!」
喉が張り裂けんばかりの大声で、そして両目からは滝のような涙を流しながら、天に向かって吼えたのだった。
「チクショー!!試験終わった直後にこれアカンかなーと薄々思ってはいたけど、チクショー!!ドチクショー!!花のキャンパスライフがーーー!!女子大生に囲まれ美人教授とお近づきになり他校の子と合コンしたりあれやこれやのスキンシップ取りホーダイのモテモテウハウハライフがーーーー!!ワイの夢がーーーー!!」
すごく浅ましい夢だった。
彼を見る視線は憐れみや不安感から拒絶感に、特にその場に居るほとんどの女性が虫けらを見るような冷たい物に変わっていた。
しかしそんなことはお構いなしに、彼の煩悩まみれの叫びは続く。
「くううううう…!このままじゃ帰るに帰れん、せめてケー番の一つでもゲットせねば…!例え入学は無理でも、女の子と仲良くするだけなら誰にだって平等に許されているはずッ!!いやむしろ落ちたことを口実に話を広げていけば!!そうと決まれば―――――」
バッと顔を上げた彼は素早く周囲を見渡し、そして、向こうの通りを歩くチアガール姿の女性をロックオン。
目を見開き、両足に力を込め、まるで羽ばたくように女性に向かって駆け出した。
「お嬢さーーーーーーーん!!僕と付き合ってくださーーーーーーーーい!!」
女性が悲鳴を挙げるまで一秒。
カウンタービンタを喰らうまで三秒。
警備員が駆け付け、不審人物として拘束、連行されるまで一分であった。
彼の名前は横島忠夫。
一浪が決まった直後の18歳、高校三年生。
現在の職業は、見習い除霊師―――ゴーストスイーパーである。
GS横島・ペルソナ大捜査線!!
第一話 八十稲羽へようこそ!
「―――で、見事に落ちたワケね。」
「そうッス…。」
数時間後、合格発表から戻って来た忠夫は、「美神礼子除霊事務所」に戻り、所長である美神令子の冷たい視線を一身に浴びながら、机に突っ伏して落ち込んでいた。
ゴーストスイーパーとは、様々な場所で悪事を働く妖怪や悪霊を鎮めたり退治したりする霊能力者の俗称で、国家資格や専門の警察組織も存在している。当然、返り討ちにされて怪我したり死んだりすることも珍しくない危険な職業だ。
忠夫も未だ研修期間中の見習いとはいえ、きちんと国家資格を持っている。その研修生としての監督役が、美神令子だ。彼女は世界屈指の霊能力者で、当然実力、実績も高く、業界内で彼女を知らない者は居ない。その一方で非常に自己中心的かつ傲慢で、「冷酷非道な守銭奴」「鬼、悪魔より酷い」と専らの評判である。忠夫を時給250円そこらで奴隷のように使役していることからも、その性格の悪さが垣間見える。
なのに何故そんな劣悪な労働環境で働き続けているのかと言えば、女神にすら例えられる程の美貌を誇る礼子の色気にホイホイと釣られているからである。
「アンタねぇ、いつも口酸っぱくして言ってるけど、アタシたちの仕事は信用が第一なんだから、大学落ちたバカを雇ってるなんて広く知られちゃ困るのよ。仕事減って収入減ったらどうしてくれんのよ。」
「ううう…俺だって落ちたくて落ちたワケじゃないッス…。」
「ま、まあまあ美神さんその辺で…。ホラ、横島さんすごく頑張ってたじゃないですか。あれだけ頑張って落ちたんなら、しょうがないっていうか…。」
「てゆーか令子、アンタが横島を散々仕事に連れ出してったりしなければ、横島ももっとちゃんと勉強出来て、試験にも受かってたんじゃない?」
「そーいえば試験の一ヶ月前後で、大口の仕事が入ったからと、先生を夜遅くまで手伝わせていたでござるなぁ。」
詰る令子を宥めるのは、事務所の一員であるおキヌだ。そして傍に居た妖狐の玉藻と人狼のシロが、横島を弁護するような形で会話に加わって来た。
「何ですってえ!?横島君が落ちたのが、私のせいだって言いたいの!?」
「横島はちゃんと勉強しようとしてたじゃない。それだったら休みを与えるなりなんなりして、応援してあげればよかったじゃない!」
「ど・こ・が・ちゃんとよ!!このバカ勉強しに図書館行くとか言っておきながら、中でナンパしまくって出入り禁止喰らってたでしょ!!他にも挙げればキリないわよ!!」
「そっ…それは、今に始まった事じゃないでしょ!?そうじゃなくて―――」
「ふ、二人とも落ち着いて…!!」
「ならばその身体で責任を―――――」
「お前はもっと反省しとらんかいッ!!」
突如始まった令子とタマモの口喧嘩を、何とか収めようとするおキヌと、どうしていいか分からず戸惑うシロ、そしてどさくさまぎれに令子にセクハラを働こうとしてあっさり床に沈む忠夫。この事務所では意外とよくある光景だった。
それに終止符を打ったのは、けたたましく鳴り響く電話のベルだった。
「ハイもしもし、美神令子除霊事務所です―――」
素早く駆け寄ったおキヌが受話器を取る。さすがに通話中に口喧嘩を繰り広げるわけにもいかず、二人とも渋々といった様子で矛を納めた。シロもホッと安堵の息を漏らした。
しかし今度は、通話中のおキヌが、ヒィッと小さく悲鳴を挙げた。
忠夫も含めて全員がおキヌの方を見る。おキヌは顔面蒼白で小さく震えながら、受話器を指差した。
「み、美神さん、お電話、です…。横島さんの、お母様、から…。」
おキヌがそう告げた直後、事務所内が静止した。実の息子である忠夫は間抜け面をしたまま、彼女の恐ろしさを知る令子はおキヌ同様顔面蒼白で、無言で待つ受話器を見つめた。
「よ、横島君…。合否はもう、伝えたのよね…?」
「は、ハイ…。さっき散々怒鳴られたばっかりッス…。」
「じゃあなんでアタシにかかってくるのよ!?」
「知らないッスよ!?」
今度は忠夫と令子の喧嘩に発展しそうになるが、受話器の向こうから聞こえた「はよせんかい!!」という声に、礼子がおキヌからひったくるように手に取った。
「よし、屋根裏部屋に逃げるぞ!」
礼子が電話口に出た瞬間、忠夫が脱兎のごとく部屋から脱出した。おキヌたちもその後を追う。置いてくな、一人にすんな、と叫びたかった令子だったが、すでに電話に出てしまっている以上無理な話だった。
そして二分後―――――
「横島君を辞めさせろォ!!??」
令子の驚愕に満ちた声が、屋根裏部屋に避難していた4人の元に響き渡った。
『受験間近に何度も仕事に連れ出し、長時間拘束していた事は知っている。いくら雇い主とはいえ、勉学を邪魔する権利は無いはず。大学に受かるまではウチの息子に仕事を手伝わせるな。出来れば美神礼子除霊事務所から離すこと。生活費はコッチで払うことにする。』…これが要旨よ。守らなかったら法規的措置に加えて、ウチの脱税やら何やら全部バラすって…。あーもうチクショー!!」
電話を終え、全員を集めた令子は、横島の母百合子から告げられた内容を伝え、苛立ちを隠すことなく頭を掻き毟った。集められた全員は、一様に顔を真っ青に染めている。
「で、では先生は事務所を辞めねばならないでござるか!?」
「まさか横島さん、今度こそお母様に連れてかれるとか…!?」
「イヤやーっ!!一人暮らし放棄してオカンの監視体制に敷かれて暮らすんはイヤやーーっ!!」
「やっぱりアンタの責任じゃない令子!!どうするつもりなのよ!?」
全員が大騒ぎし、話を進めれそうにも無いので、とりあえず令子は神通棍を手に取り、一番うるさい横島を思いっきり殴りつけた。
「ったく、いっぺん全員静かにして、話聞きなさいよ。」
「それだったら俺を殴る必要は無いでしょ!?」
頭から血を噴き出し、至極当然の反論をする横島を無視したまま、令子は話を進める。
「横島君のお母さんの要求は、『息子を大学に入れること』よ。そのためにウチを辞めさせて、勉強に集中させろってこと。それが出来ないんならニューヨークに連れてくって。」
「退社か海外かの二択ってことッスか!?そんな―――」
「最後まで聞きなさいっての。言っとくけど、最初は辞めさせて連れていく、って言ってたんだから。交渉を重ねた末の妥協案よ。」
そう言いながら机の上に手を組み、自慢げに微笑んだ。
「実はちょうど、ウチに二つほど依頼が来ててね。それを利用させてもらうことにしたわ。上手くいけば、横島君は退社することも海外に行くことも無くなるわよ。」
「マジっすか!?それってどんな―――うおっ!?」
詰め寄る忠夫(すでに頭部からの出血は治まっている)を拒絶するかのように、令子は忠夫の鼻先に一枚の紙を突き付けた。それを手に取り、眺める。
「えっと…何々…『当市における原因不明の霧の調査』?」
「あ、確かそれって、この前美神さんが居ない時に、私が電話応対した依頼ですよね。依頼料安いからって、唐巣神父に回したんじゃありませんでしたっけ?」
「そ、たかだか三百万ぽっちで、この私を長期間ド田舎に閉じ込めようとした、身の程知らずな依頼よ。」
「それを神父に回す辺りヒドイでござるな…。で、それがどうしたのでござるか?」
令子いわくの「人を馬鹿にした依頼」を、自分の師匠筋の人間に回すという非道っぷりに全員がドン引きする中、礼子は悪びれることなく話を続けた。
「なんでもその街、ここ最近変な霧が出るようになったんだって。その調査をしてほしいってことなんだけど、その調査期間が最低半年からってなってたのよ。」
「何でそんなに長いのよ?」
「どうやら近隣の市内に住んでたゴーストスイーパーが行方不明になっちゃったらしくてさ。それで代わりが見つかるか派遣されるまで留まってほしいんだってさ。」
「―――って、ちょっと待ちなさいよ、まさか…。」
何かを察したタマモが令子に視線を向けた途端、令子はニヤリと笑った。
「そ、横島君にこの依頼を受けてもらうわ。」
『えええええええええええ!?』
忠夫、おキヌ、シロの三人の叫びが、事務所中に響き渡る。
「ちょ、どーいうことスか美神さん!?話の前後の繋がりがよく分からないんスけど!?」
「詰まる所、アンタが事務所から離れられればいい訳でしょ?だから建前上横島君をウチの仕事から離しましたー、ってことにしておいて、実際はその依頼地に行って私の代理で仕事をこなしておくの。半年といわず、一年間ね。後はあの母親にその依頼の実態がバレなきゃいいだけの話よ。相当のド田舎みたいだし、よっぽどデカイ事件にならない限り、バレることは無いと思うけどね。」
令子の策に納得しかけた4人だったが、浮かんできた疑問を口々にぶつけていく。
「調査っつっても…俺、霊的な何かを調べて原因を突き止めるようなことなんて出来ませんよ?」
「そんなの求めちゃいないわよ。どーせオカルトにあんまり詳しくない連中が、異常気象にかこつけて無駄に騒いでるだけよ。もしアンタでも気付くような不審な所があるなら、オカルトGメンに連絡して研究員派遣してもらったらいいわ。」
「でも…だとすると先生は、一人でその依頼地で暮らさなきゃいけないのではないでござるか?それも一年も…。」
「確かにコイツ生活力皆無そうだけど、だったら時々でも顔見せに行けばいいんじゃない?都心から日帰り出来ない距離じゃなさそうだし。交通費は横島君持ちだけど。」
「勉強の方はどうするのよ?一年引き離してまた大学落ちたんじゃ、今度こそ横島は連れてかれるわよ?」
「そうねえ…それなら、現地の高校に編入したら?それなら横島君のお母さんも許すだろうし、依頼のついでに勉強も出来るし、一石二鳥じゃない?」
「た、確かに美神さんの案なら横島さんが辞めなくてすみますけれど…で、でもその間ウチの仕事はどうするんですか!?横島さんのサポートが無いと、結構大変になるんじゃ…。」
「それが、もう一つの依頼の方が海外での長期依頼で、そっち受けようと思ってたの。何せ依頼主が王族でねー。最低10億から、仕事の成果で色も付けてくれるみたいだし、エミと冥子も付いてくるから、ぶっちゃけ横島君居なくても何とかなるわ。
それに、その後ちょうどザンス王国で精霊石のオークションもあるから、私しばらく日本を留守にしなきゃいけないの。だから当分休業だわ。ね、これで条件はオールクリアでしょ?」
自慢げにウインクをしてみせる令子に、4人共反論を失くし、考えこむ素振りを見せる。
「後は横島君の答え次第だけど、どうすんの?」
「んー…まぁお袋に連れてかれる事も無いし、事務所を辞める必要も無いなら、それが一番妥当な方法ッスかね。けど、また高校に入ることって出来るんですか?」
「依頼主は市長だから、契約条件に付け加えれば何とでもなるわよ。ゴネたら断るか脅すかすればいいでしょ。」
あっけらかんと言い放つ令子だが、この程度ならまだ可愛いくらいなので、忠夫もそーっすか、程度で流してしまえる。
いずれにせよ、忠夫の承諾は得られたので、後は百合子に説明し理解してもらうだけである。
「…まだ何か不満そうね、バカ犬。」
「むぅ…確かに美神殿の案は理にかなっているし、先生も承諾しているので、拙者が口を挟める立場ではないのだが…。」
タマモに内心の燻りを見抜かれたシロは、その言葉にし辛い感情をもごもごと愚痴る。それに対しタマモは、呆れたと言わんばかりに溜め息をついた。
「いいじゃない。死に別れるって訳じゃなし、付いていくのはダメでも、会いに行こうと思えば行けるんだし。」
「そ、そうでござるが…何だかこう、モヤモヤするというか…。た、タマモ!お主は心から納得しているでござるか!?」
「…別に。納得もクソも、横島が単身赴任するってだけでしょ。勝手にいけばいいじゃない。…セクハラもなくなるし、事務所も静かになるわ。」
そう言ってそっぽを向く姿は、どう見ても不貞腐れているようにしか見えず、納得なんてしていない事は一目瞭然だった。
そんなタマモたちを、おキヌは微笑ましく見ていた。
「…何よ、おキヌ。」
「いえ、二人とも素直じゃないなー、って。」
「私は素直よ。」
ますます不貞腐れるタマモに、おキヌが堪え切れずに吹きだす。そして横目で、忠夫に詳しい資料を渡して説明を始めた自分たちの所長を映した。
金にならない上に面倒臭い仕事を引き受けてまで、忠夫をこの事務所に引き留めようとした、誰よりも素直じゃない彼女を。
おそらくタマモも、令子の(決して本人は認めないであろう)尽力を察したからこそ、納得は出来なくとも仕方ないと認めたのだろう。
「それで、横島さんが行くのって何処なんですか?」
やはりどうしても不満を拭えない様子のシロを宥めながら、令子と忠夫に問いかける。
「えっとな、山梨県の―――――」
「――――――八十稲羽、って街だ。」
そのしばらく後、とある日の唐巣教会。
神父であり世界屈指のエクソシストでもある唐巣和宏が神に祈りを捧げていると、電話の音が鳴り響いてきた。
「ハイもしもし、唐巣教会でございます。」
『こんにちわ、唐巣神父。美智恵です。お時間いいかしら?』
電話の主は令子の母親で、旧知の間柄である美神美智恵であった。
「ええ、もちろんだとも。―――何か、厄介な事が?」
神父の最初の応対は明るい物だったが、受話器の向こうの美智恵からただならぬ雰囲気を感じ取り、プロのゴーストスイーパーとしての真剣な態度に切り替えた。
『実は、神父に回されたという依頼について、少し話しておかなきゃならない事があるの。八十稲羽という街の奇怪な霧の調査についての事なんだけれど。』
「ああ、先日美神君から回って来た依頼だね。近隣の町のゴーストスイーパーが居なくなったから、しばらく街に留まって、霧の調査と心霊事件の対処にあたってほしいと。」
ちょうど先日、居候していた弟子のピートが、更なる実力の研鑽のため、神父の師であるヘルシング卿の許へ渡欧することになった。そのため再度一人になったのだが、令子が八十稲羽の霧の調査という長期依頼を回してきたため、困っている人と場所があるのなら、と勇んで向かおうとしていたのだった。
「けれどその依頼なら、美神君が請けたよ。」
『え?』
美智恵らしくない、素っ頓狂な声が聞こえた。
「理由は聞かなかったけれど、美神君にとって都合の悪い事が起こったらしくてね。渋々だけど請けることにしたそうだ。すでに向こうの手続きは済ませてあるみたいだよ。」
『ふぅん、あの子がねぇ…。依頼金いくら貰ってるのか知らないけれど。…それとも、たっぷりふんだくれると考えたのかしら?』
「…|ふんだくれる≪・・・・・・≫?つまり、ただの霧ではないと?」
考えこんだ美智恵の言葉に、神父が鋭く反応した。ふんだくれる、という事はすなわち、依頼主の予想を遥かに超えた事態、もしくは多大な被害を及ぼしかねない事象である可能性が高いという事を示しているからだ。
『ハッキリした事はまだ何も分かっていないわ。ただ、怪しい事件は連続している。
さっき神父が口に出していた、隣町のゴーストスイーパー。居なくなったのというよりも、消息不明―――早い話が、神隠しに遭っているわ。しかも彼も、八十稲羽の原因不明の霧を調査しようとしてね。』
神父の顔が強張った。受話器の向こうからは、美智恵が手元の資料をめくる音が聞こえてくる。
『彼が消息を絶ったのが、一ヶ月前。最後に彼を見かけたのは、彼が泊まっていた旅館の仲居さん。前の晩から霧が出ていて、彼はそれを採取していたらしいわ。終わった後チェックアウトして、商店街の方に向かったらしいけれど…その日、商店街で彼を見かけた者は居ない。隣町の沖奈市にあるオフィスにも帰らなかった。服も荷物も、痕跡になりそうな霊力も、何処にも何も無かったということよ。』
「霧を調べられそうになったから、消されたと…そういう事かい?」
『そこまでは言い切れないわ。ただ、その可能性は高いと踏んでる。行方不明と断定されて、警察からオカルトGメンに連絡と情報が届いたのが昨日だったから、霧について詳しい事は誰も何も分かっていないのよ。けれど、現地の行政が民間に依頼しているもんだから、公権力のオカルトGメンは手出しし辛いのよね。』
「行方不明者まで出した謎の霧、か…。確かに不穏だな。」
神父はうーんと唸りながら、最近薄くなりつつある髪をぽりぽりと掻いた。
「―――しかし、美神君が行くのであれば、私が行くより安心じゃないかな。知識も経験もあるし、土壇場での底力は私より遥かに上だ。何より、横島君におキヌちゃん、シロ君やタマモ君も居る。」
『…確かに、一人じゃない、力強い仲間が多く居るっていうのは大きな強みね。でも、おキヌさんは六道女学院に通ってるし、シロさんやタマモさんはまだ少し未熟だわ。―――けれど、横島君は最低でも付いていく、というか、令子が無理矢理にでも連れていくでしょうね。』
「ははは、その様子が目に浮かぶようだね。」
そう言って電話口の向こうで苦笑する美智恵に、神父もつられて真剣な態度を崩して笑ってしまった。
『まったく、あの子ももっと素直になればいいのに。たまに大酒飲んで酔っ払って、私の所に彼の事で管巻きに来るのよ?『あのバカはいつもいつも~』って、そればっかり。』
「それはそれは、傍から見ていると面白そうだ。今度僕も呼んでもらえるかい?」
『あら、いい性格になっちゃったわね、神父。誰に染められたのかしら。
―――それじゃ、八十稲羽の事は礼子に任せましょう。あの子と横島君なら、多少ヘマしても事態を収めてくれるわ。』
「何だったら、ひのめちゃんを連れて会いに行くといいんじゃないかな。空気もキレイで長閑な良い所だって言うし。リフレッシュには最適じゃないかな。」
『ええ、考えておくわ。』
こうしてその後数分ほど、他愛も無い世間話をしてから、通話は終わった。
もし、唐巣神父が令子に事情を問い質し、横島が単身で向かうという事を聞いていれば。
もしくは、令子が同時期に海外へ仕事をしに行く事を、誰かが美智恵に伝えていれば。
はたまた、稲羽市が最初からオカルトGメンに頼んでいれば。
八十稲羽を中心とした大事変を、未然に防げたかもしれない―――それが、約一年後にオカルトGメンに突き付けられた批難と、オカルトGメンの反省。そして、数多くの当事者たちの後悔。
その当事者の中心に居たのは、横島忠夫。
彼にとってもっとも長い一年が、幕を開ける――――――――――
初めましての方は初めまして。
お久しぶりの方はお久しぶりでございます。
にじファン様、そしてその後シルフェニア様にて「Thousandrain The Horn-Freak」を投稿しておりました、u.n.smithでございます。今回はこちらハーメルン様にて投稿させていただきます。
前作を完結させてから半年になりますが、その間に私は正式に社会人になり、仕事づくめの忙しい毎日を送っております。そのためこの作品の執筆には、前作より遥かに時間がかかり、投稿間隔もかなり空くと思われます。ご了承下さい。完結は…きっと、させてみせます。
ストーリーは見ての通り、ペルソナ4のストーリーを下地に、横島主人公で進めていきます。冒頭でも書きましたが、ペルソナ4のストーリーの重要なネタバレがありますので、未プレイの方、これからプレイしようと思っている方は、閲覧をご遠慮下さい。
にしても、書いてみて思いますが、やっぱコメディ漫画を文章にしようとすると難しいな!名前の呼び方とかキャラの個性とか、色々混ざってごちゃごちゃになっちゃうもの!そして会話主体だから、会話と会話の間の文章もどう繋げたらいいのか考えるの大変だし…アレ、もしかしなくてもハードル高い?
今後はGSキャラもペルソナ4キャラも満遍なく出していきたいなー、と思ってます。ペルソナ4は横島にとってオイシイ(色んな意味で)イベントだらけなので、面白おかしく書いていきたい。
それでは、これからしばらくよろしくお願いいたします。
それと、ツイッターもやっておりますので、よろしければそちらもどうぞ。
@u_n_smith
(追記)
アイエエエエエエエエエエエ!?名前間違イ!?ナンデ!?名前間違イナンデ!?
誰だよ礼子って!!令子だろ!!美神さんに礼があるワケないだろ!!!(爆)