校内一の変人のせいで憂鬱   作:魚乃眼

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第五話

 

 

オーケイ。

人間が見る夢なんざ往々にして支離滅裂な内容だ。

まして自分が自分として存在するようならばロクなもんじゃない。

さっさと起きちまうに限る。

すぐに二度寝すると続きを見ることもあるがどういう原理なんだろうな。

誰か説明してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眼を開くと数十センチ先には涼宮の顔があった。

いつものカチューシャで、見間違えようもない。

……なんだって?

夢にあいつが出て来てほしいとでも思っちまったのか俺は。

倒れていたらしい俺は上体をゆっくり起こす。

ベッドの上なんかじゃない。

地面の上に俺は居る。

寝間着姿のはずが俺の恰好はブレザーになっている。

夢ならばこれくらいはおかしくない。

俺が通っていたはずの場所のブレザーではなく北高のブレザーなのが問題だが。

ご丁寧に外靴まで履いている。

俺はその場から立ち上がって服についた土汚れをはらった。

外だ。

 

 

「……どこよ、ここ」

 

そう独白した涼宮はセーラー服姿だ。

俺に聞くまでもないんじゃないのか。

辺りを見渡すにここは北高の敷地内だろう。

真夜中の学校というシュチュエ―ションはいつかを思い出す。

遠くに渡り廊下が見えるからここは多分部室棟の近くなんだろう。

我ながら物覚えがいい。

右側には校舎が見受けられ左側には木々が突っ立っている。

 

 

「どういう事なの? あたし、家で寝ていたはずなのよ。ふと眼が覚めたらここに居たの。隣にはあんたが居た」

 

これまたおかしなことに月明かりと呼べるような明かりさえないのに涼宮の色がしっかり識別できる。

だのに辺りは暗いというか灰色が支配している。

おい、まさかここは昨日見たばかりの閉鎖空間とやらか?

なんつーもんを夢に見ちまってるんだ。

俺は自分に言い聞かせるかのように。

 

 

「夢だな。気にするんじゃあねえ」

 

「……空を見て」

 

見上げる。

そこはまるで黒塗りにされた壁のようであった。

しかしぼんやりと黒く輝いている。

通常空間ではありえない現象だ。

 

 

「お前さんは星座の一つも知らないのか?」

 

「あんたには星があるように見える?」

 

「いいや」

 

なにもないな。

俺が念じて星が見られるならいくらでも念じてやるが。

 

 

「どうなっちゃってるの……?」

 

「はっきりさせておきたいんだが、この場合、夢を見ているのはどっちの方なんだろうな」

 

「知らないわよ……そんなの……」

 

俺の夢だと信じたい。

俺の夢なら俺は自由なはずだ。

そんな淡い期待をさくっと裏切ってくれるのは他でもない世界だ。

学校を出よう。

と、思って行動するも校門から先に出られない。

バリアーに阻まれているようであった。

 

 

「たまげたな……こいつぁ悪趣味だぜ……」

 

「あんたがプリキュア観てるのと同じくらいね」

 

こいつなりの軽口なんだろうか。

顔を見ただけで涼宮の方が元気がないのがわかった。

一方の俺はどこか達観視しているみたいだった。

現実逃避ってヤツなのかもしれない。

まさかこんな時に携帯電話など持ち合わせていない俺と涼宮はとりあえず校舎に入った。

職員室にでも侵入すれば電話くらい置かれている。

窓ガラスを割って外から入った。

夢だからかなんなのかは知らないが電力が供給されているらしく、暗い校内もスイッチ一つで『光あれ』といった状態だ。

それでも何故か電話は通じなかったがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次第に俺は気づき始めた。

これは夢ではない。

一年五組の教室まで行って外の景色を見渡す。

山の上にあるような学校だ。

本来であれば地平線ぐらいまで見られるんだろうさ。

結果は黒。

いいや灰色ばっかだった。

どの建物からも明かりは発せられていないんだからな。

夢にしちゃたちが悪い。

あいつはあいつで校内をくまなく調べるつもりだそうだ。

俺は文芸部室で一時待機。

 

 

「……さて、オレはこれからどうするべきなんだか」

 

部室のパイプ椅子に座って天井を眺める。

そういやこういう時の夢というものは死んだら覚めたりするんだよな。

必要とあらば試そうか、なんて思っていると窓の方からカタカタと音がした。

音がした方を向くと俺は驚き半分納得半分の心持ちとなった。

赤く発光する粘土細工みたいな人型が浮遊している。

ここは三階で、超能力でも使わない限りそんな芸当は不可能だ。

窓を開けてそいつに語りかける。

 

 

「お前さんは古泉一樹か……?」

 

『ええ。僕ですよ』

 

ややノイズがかった声でそいつは俺の言葉に応じた。

右手を上にかざして会釈でもしているつもりらしいが彼の手は指の輪郭さえぼやけている状態だ。

いっそ球体で出てこいよ。

 

 

「というかこれはお前さんの仕業か?」

 

『違います』

 

「これは夢じゃあねえってのか」

 

『はい。恐ろしい事にこれは現実ですよ』

 

だろうな。

涼宮のイライラが原因でこうなっちまったんだろ。

にしては疑問が残るんだが。

 

 

「閉鎖空間とやらは超能力者以外入れないんじゃあないのか。それに、涼宮の心象世界に涼宮が居るってのはどういう事だ」

 

『端的に申し上げますとこれは史上最悪の事態です。昨日説明しました世界の終わりが、今、まさに始まろうとしている』

 

「安っぽい歴史だ」

 

『これからどうなってしまうのか僕にもわかりません。もちろん組織のお偉いさん方もパニックですよ。一夜にして全てが変わってしまうのか。それともこのままなのか。消えてしまうのか。涼宮さんの気分しだいですね』

 

「お前さんたちが巨人狩りをすればいい。それでこの空間も消滅するって聞いたぜ。それが仕事なんだろ」

 

『この空間に侵入出来たのも僕一人の力ではありません。同志の力を借りて、ようやくですよ。ご覧の通り今の僕は不完全な状態だ。超能力が弱まっているんです。この力ともお別れみたいですね』

 

「……狩りは無理って事か」

 

徐々にハンサムマン改めのっぺらぼうの身体が収縮していく。

じわじわ一回りずつ。

 

 

『涼宮さんは新世界を創造するつもりでしょう。この空間はもはや次元の隙間ではない。異次元ですよ。ここが基本となってしまう』

 

「しけた校舎で超新星爆発を敢行するあいつの気が知れんね」

 

『いえ。あなたは間違いなく涼宮さんの一番の理解者でしょう。少なくとも彼女はそう判断した。だからあなたがここに居るんですよ』

 

「……はあ?」

 

『おめでとうございます。例え世界が滅んでもあなたと一緒に居たい。素晴らしい話じゃありませんか』

 

意味わかんねえよ。

世界が逆転しつつあるだと?

一億光年分譲ってそれはいいとしよう。

なんで俺が。

言っておくが世界が変わっちまったのは今に始まったことじゃない。

俺にとってはそうだ。

 

 

『……我々はあなたが普通の人間だと判断していました。長門さんも朝比奈さんもそうでしょう。何の変哲もない、どこにでも居るような男子高校生だと』

 

「何が言いたい」

 

『僕が思うにもしかしたらあなたは異世界人なのかもしれません。涼宮さんは異世界人にも来るように仰ったそうですから。あなたが誰であれ異端者と考える方が自然なんですよ』

 

「オレが……」

 

異世界人、だと?

俺だけが変わっちまったって言いたいのか。

世界は最初からこうだったってのか。

呆然自失の俺をよそに手のひらサイズの球体にまで縮められた古泉が音声を発する。

 

 

『ご安心下さい。すぐに世界は普通の景色を取り戻しますよ。太陽の光だって見られるでしょう』

 

「そっちはどうなるんだ」

 

『ですから、わかりませんよ。後はあなたにお任せします。きっとここは悪い世界じゃありません』

 

「……ジーザス」

 

『最後にこれは伝言です。朝比奈みくるから……ごめんなさい。長門有希は……パソコンの電源を入れて、だそうですよ』

 

では、と言い残して赤い光は消えてしまった。

この瞬間に奴が死んだようにも思えた。

謎のまま終わるのか。

あるいは新世界とやらで解き明かされるのか。

なにかが。

 

 

「しょうがねえ……」

 

長門とやらの指示に従うとしよう。

パソコンを起動させるもブラックスクリーンのまま。

オペレーティングシステムが起動しないのか? セーフモードでさえない。

嫌な機械音がハードディスクから聞こえないのが俺の不安をかえって駆り立てた。

マウスは機能しているのか矢印カーソルだけがディスプレイの中央に存在している。

ぼけーっとその画面を睨んでいると急に矢印が勝手に動いた。

どこからともなくコマンドプロンプトが起動したらしい。

画面左上にアンダーバーが点滅して。

 

 

YUKI.N>みえてる?_

 

思わず目を疑った。

あるじゃねえか、連絡手段。

もっとも叫んだところで涼宮くらいにしか俺の声は届かないであろう。

キーボードをタイプして応じることにする。

 

 

まあな_

 

YUKI.N>わたしはあなたに説明しなければならない。_

 

なんだ_

 

YUKI.N>あなたの身に起こったこと。

あなたは本来そこに居るはずの人間ではない。_

 

だろうな_

 

YUKI.N>あなたは代用品。

でも涼宮ハルヒにとっては同じ。

鍵であることには変わりないだろう_

 

「……"鍵"だあ?」

 

 

なぜ俺はここに居る。鍵とやらが関係すんのか_

 

YUKI.N>その役割を果たすはずだった人間は死亡した。

パーソナルネーム朝倉涼子。

彼女が彼を抹殺した。

我々が変革を望んでいるのは確か。

朝倉涼子のやり方は危険であり阻止されるべきであった。

しかし彼女は成し遂げた。

何より結果を出した。

よって朝倉涼子の処分は見送りになった。_

 

俺は死んだ奴の代わりって事か_

 

YUKI.N>そう。_

 

「わかんねえ……わかるわけねえだろうが。お前も朝倉涼子も何者だってんだよ」

 

 

お前は何を知っているんだ_

 

YUKI.N>彼が死亡した瞬間のこと。

数値化できないほど大きな情報爆発が観測された。

それは三年前に観測されたものと同様。

涼宮ハルヒの仕業。

あなたは彼女に呼ばれた。

おそらくだが時空さえ超えて。_

 

俺が覚えている最後は十二月だったからな_

 

YUKI.N>涼宮ハルヒの望みは叶ったかに思えた。

だがそうではなかった。

しょせん彼女も単なる人類でしかないようだ。

我々は失望している。

自律進化の可能性がついえようとしている。_

 

なんだそりゃ?_

 

YUKI.N>残念だが自律進化について詳細な説明をする有余はない。

このパスもやがて途絶える。

わたしの技術は無から有を生み出せない。

自律進化は涼宮ハルヒの能力に関係している。

ただそれだけの話。_

 

チャットがしたかったのかよ_

 

YUKI.N>ちがう。

我々はあなたに賭けたい。

涼宮ハルヒにとって必要な存在と認められたあなたを。

この状況を打開するかもしれないから。_

 

つまり?_

 

YUKI.N>こちらに戻ってきてほしい。

彼女と一緒に。

 

どうやらマジに連絡手段とやらにも限界があるらしい。

画面に出力されている文字がかすれてきている。

今にも黒色の背景に埋もれそうだ。

 

 

YUKI.N>sleeping beauty_

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやらOSが起動しなかったのは長門有希の仕業だったらしい。

ディスプレイを支配していた文字が消滅するや否やハードディスクからカリカリ音。

OSのロゴが浮かび上がってくれたが回線はオフラインだ。

内臓されているゲームくらいしかできそうにない。

やる気にもなれなかったが。

 

 

「……へっ」

 

なあ。

死人に口なしって言うらしいが俺は死人に一方的で構わんから語ってやりたいね。

俺じゃなくてお前がここにいたとして、お前は何をするんだ。

いいや質問のしかたを変えてやる。

俺は何をすればいいんだ。

もう一度戻れ、だと?

簡単に言ってくれるが俺は新参者もいいとこだぜ。

まるで事情も知らないんだ。

 

 

「……ん?」

 

おかしくないか?

何故、今なんだ?

涼宮には不思議な万能パワーが備わっているんだろ?

あいつは結局中学時代から成長していないみたいだった。

そりゃ確かに一、二か月で成長する程度などタカがしれている。

だが、どうしてこのタイミングだ?

涼宮が世界を変えたいだとか思ってたのは前々からだろ。

宇宙人未来人うんぬんに会うのが高校生の時期である必要性がどこにあるんだ。

もっと早くやってりゃよかっただろ。

事実として俺の知らない要素やら謎やらは多いさ。

しかしながらこの部分だけは重要な気がしてならない。

知らなければならない気がしてならなかった。

 

 

「キョン!」

 

いつの間にか部室に戻っていた涼宮が慌てて俺の方へ駆け寄ってくる。

なんだ。

彼女はやたらテンションが高かった。

 

 

「後ろ見なさいよ。なんかいるのよ!」

 

そう言われたので後ろである窓の外を見ると青い閃光が窓中をほとばしっていた。

見覚えのある光だ。

近くの中庭に神人とやらが突っ立っている。

……まずい。

離れなくては。

 

 

「ねえあれ何なの!? 宇宙人? 未来の生物兵器? 超能力の化身? もしかして――」

 

俺の右隣で窓にかじりついて巨人を眺めていた涼宮の左手首を掴む。

彼女は俺の行動に驚くだろうがそれよりも先に俺は掴んだ手首をひっぱって部室から勢いよく出ていく。

はずみで俺たちの体制は崩れ、廊下に倒れこむが気にする余裕も俺にはなかった。

巨人が破壊活動を開始したらしく爆音轟音が嫌でも耳に入る。

万が一にあれに巻き込まれたら世界が終わるよりも早く俺の人生がが終わる。

きっとどちらが終わろうが俺にとっては同じことだ。

 

 

「……逃げるぞ」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

地震なら外に出る方がかえって危険だろう。

だがこのケースにおいては外の方が幾分かマシだった。

再び涼宮を掴んで部室棟を駆けていく。

思えば土足で上がりこんでいたわけになるが誰も気にしないだろう。

俺と涼宮が気にしてないんだからそういうことになる。

階段を走り降りながらふと気づいた。

二日前……に、なるのか。

とにかく俺が転げ落ちていった階段はこの北高部室棟のものだったってことだ。

深く考える間もなかったが。

巨人どもに関わらないようにどうにか走り、ついにグラウンドまで出てきた。

暴虐の限りを尽くすそいつを眺めながら涼宮は。

 

 

「あれってあたしたちにも襲いかかってくるかしら?」

 

「こないと信じたいね」

 

「そ」

 

全部お前の仕業らしいじゃないか。

それなのに当の本人は知らぬ存ぜぬか。

挙句の果てに代役まで用意して世界を作り変えたいときた。

どうかしてる。

 

 

「なんか楽しそうじゃない?」

 

「……あん」

 

「ちょっとやりすぎに見えるけど、あれ、無邪気な子どもみたいだわ」

 

こいつの目には破壊活動がさぞ楽しく見えているのだろう。

キラキラした眼差しをのっぺらぼうみたいな顔した光の巨人に送る涼宮。

店先のトランペットを物欲しそうに眺める貧乏少年さながらだ。

 

 

「お前はこの夢が楽しく思えるのか?」

 

「もちろん。面白そうな奴があそこにいるんだから。話が通じるかもしれないし近づいてみようかしら」

 

巨人が腕を薙ぎ払うと校舎はほぼほぼ崩壊していた。

もうじき正真正銘の廃墟だ。

 

 

「もしこの夢が永遠に続くとしたらどうだ? それでも楽しいか?」

 

「あたしにとってはこれが現実。なんかそんな気がするの。人はいないし、色もヘンだし、夢みたいな嘘みたいな光景なのに本当の出来事みたい」

 

「プリキュアを二度と馬鹿にするんじゃあねえぞ」

 

「そのうちこの夢も覚めちゃうかもしれないわね。でもその時きっと世界は面白くなってる。あたしがそう思うんだから間違いないわよ!」

 

かもな。

宇宙人だか未来人だか超能力者だかはいるみたいだからな。

俺にもよくわからん。

なに一つ確証がないんだからよ。

ただこれだけは言わせてくれ。

 

 

「オレはキョンってヤツじゃあない」

 

「え?」

 

「人違いかもしれんそうだ」

 

「……なに言ってるの?」

 

満足だといった様子で神人は硬直している。

あいつの先には平らになってしまった校舎跡地。

ノスタルジック、とでもいうんだろうか。

 

 

「この世界から出たくないか? またSOS団の連中とやらに会いたくないか?」

 

「大丈夫よ。あんたは心配しなくていいのよ」

 

「オレは違う。お前とは違うんだぜ」

 

「やっと面白い事に出会えたのよ!? キョンはつまらないあの世界がいいって言うの?」

 

「うるせえ。オレは"キョン"じゃあねえっつってんだろうが、ダボ」

 

「……意味わかんない…」

 

こっちのセリフだ。

涼宮からはしだいに気力が感じられなくなった。

ぼーっと遠くの巨人を眺めている。

しょうがねえな。

 

 

「お前は普通の人間に興味がないんだろ。だったらオレはどうなんだ」

 

「……なによ」

 

「オレが異世界人だ、って言ったらお前は信じてくれるか?」

 

こちらを見つめる涼宮。

そういや抜き差しならない状況がどうとか言われた気がする。

残念だったな巨乳女。

俺にパニックという言葉はない。

自分のことぐらい自分で面倒を見てやれるさ。

だから今回だけだぜ。

 

 

「時にほのかちゃんの何がいいってな、髪が長いんだよ。なぎさちゃんはショートヘアだ」

 

「……あんた本当にプリキュア好きなのね。異世界人とか言って、異世界でもやってんの?」

 

「断言してやる。十年先だろーがプリキュアは続いている」

 

「ばっかみたい」

 

「とにかくオレの好みは髪の長い女の子だ」

 

「……あっそ」

 

そういえばまだ言ってなかったな。

俺にはロクな恋愛経験がないってことは既に述べた通りだ。

だが、好きになった人がいないなんて一言も言ってないぜ。

お察しの通り俺は"信頼できない語り手"だ。

 

 

「オレは中学時代の涼宮を知っている。髪が長かったよな」

 

「……だからなに…?」

 

「100点満点だった。掛け値なしに」

 

世界がどうとか言われたところで俺になにができるのかって話だ。

聞けば人が人を選ぶ基準とやらは"何を成せるか"ではなく"信頼"だという。

信頼ってのは未来志向であり、過去の実績を要する"信用"とは性質が異なる。

きっとお前は俺を信頼してくれたんだろう。

人一人分の間隔さえ俺と涼宮の間にはなかった。

 

――そうだ。

グラウンドで俺とお前が二人きりになったのはこれが初めてではない。

少なくとも俺にとってはな。

不意打ちのごとく俺は涼宮を抱きしめて左耳に向かって囁く。

 

 

「ハルヒ、好きだ。大好きだ。一目見た時からお前にオレはやられていた。お前が愛おしくてたまらん」

 

「……な、え、うそ」

 

「だからお前の髪がまた長くなったら、その時告白してやる」

 

お前が許してくれるならその時まで前髪以外切るんじゃねえ。

後、男も作らないでくれよな。

べつに髪が長いから涼宮が好きだってわけではない。

ここは勘違いするなよ。

 

 

「最後にこれは確認だが……お前って処女だよな?」

 

「……う、うっさい! 死ね!! ヘンタイ!!」

 

「そうか」

 

顔を赤らめて激昂する涼宮。

凄く可愛いし、それに、一安心だな。

俺はあっという間に彼女の唇を奪った。

幸せだった。

 

 


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