校内一の変人のせいで憂鬱   作:魚乃眼

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閑話 校内一の変人劇場

 

 

――王。

そりゃあもう見事なまでに王で、100人いたら100人は王と彼を表現しそうなもんだった。

事実として俺の眼前でふんぞり返っている王冠を乗っけて王座らしい椅子に座っているふくよかな彼は一国の王らしい。

少し離れたところには衛兵もずらっと並んでいるし王の隣には宰相らしき爺さんの姿も見られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

右も左もわからぬまま例によって知らない場所で目覚めたかと思えば俺は国の使いっ走りに連行されたいそう豪華なお城に招かれた。

中に入り案内された先は国王の間。そこには既に長門と朝比奈と古泉が並んで俺を待っていた。

などとという超スピードいや催眠術かと見紛うような現象を踏まえた経緯によって俺たち四人は現在国王と謁見している。

ここいらでお察しいただけたかと思うが、どうやら日本ではないらしく王の顔立ちも英国人のそれである。

 

 

「よくぞ来てくれた、勇者よ」

 

王がまじまじと俺を見つめてそう切り出した。はあ、勇者。それはひょっとして俺のことらしい。

どこかRPGの世界にでも飛ばされたんじゃないかと思える俺の恰好だが本当にRPGの勇者さながらの恰好と化していた。

ロトの鎧でもあれば嬉しいのだがそんなもんはなく腰のベルトにどこにでもありそうな剣が刺さっているだけ。

異端者三人もそれぞれ私服とは思えないゲームチックな服装をしてる。

 

 

「もはや世界を救えるのはおぬしだけなのだ」

 

「……勇者ってのはオレのことか?」

 

「うむ」

 

なんでも俺は伝説の勇者の末裔らしく彼の血を引く俺ならば魔王を滅することができるとか。

現在、世界は魔王によって支配されつつあるので魔王を倒して世界を救ってほしいんだと。

ありがちな設定で驚きもしなかった。こんなところにいる方がよっぽど驚きだからである。

 

 

「どうか余の願いを聞き受けてはくれんだろうか」

 

「はあ。ところでこいつらはなんなんだ?」

 

俺は自分の横に並ぶ異端者三人を指して言った。

長門は露出が多く際どいが一応盗賊と呼べなくもない恰好、朝比奈はわかりやすく木の杖を携えた魔法使い、古泉は堅琴片手の旅人衣装で吟遊詩人だろうか。

さっきから無言なんだが。しかも俺を待っていたみたいだし。

 

 

「彼らはおぬしの旅に同行すると志願した優秀な若人たちである。各々その道では名の知れた者だぞ。魔王討伐までの道のりを切り開く助けになるだろう」

 

宇宙人の長門は信用してやってもいいが朝比奈が魔法を使えるとは考えられないし古泉に至っては非戦闘員みたいな職業だろ。

サポートクラスが充実するのは一向に構わない。だが戦士不在のパーティとはこれいかに。

 

 

「なるほどわからん」

 

「とにかくおぬしが最後の希望なのだ」

 

「はいそうですか」

 

どうしてこんな奇妙奇天烈なことになったのやら。

犯人としていの一番に怪しいハルヒが不在なのが更に怪しい。

しかしこの場に収拾を付けない限りは異端者三人とも話し合えそうにないからな。

俺は王に向かって右手のひらを上向きにして差し出すと。

 

 

「……で、お代はいかほどいただけるんで?」

 

かくしてSOS団は団長不在のまま異世界魔王討伐へと駆り出されることとなった。

外は快晴。だからといって俺たちの胸中が晴れやかなものというわけでもない。

西洋中世世界らしきここの国名など不明。とりあえず四人で城下町を練り歩いているところである。

 

 

「お前ら、どうしてこうなったかわかるか?」

 

代表的存在もいない上に勇者なる称号のせいもあっていつの間にか俺がリーダー格となっていた。

こういう時のご意見番としては古泉一樹と相場が決まっているのだが。

古泉はかしこまった態度で。

 

 

「いかがなさいましたか? 勇者殿」

 

「わざとらしい演技はやめろ。気色悪い」

 

「端的に申し上げますと僕に訊かれても困りますね。皆目見当がつきません。それどころかここに来る前に自分が何をしていたのかさえわからないのですよ。あなたもそうなのでは?」

 

そうだとも。気がつけば王都らしき場所だからな。

ちなみに俺は最初から古泉をあてにしていたわけではない。

こいつが話したそうにしていると思ったまでだ。

 

 

「長門はどうだ。何かわからないか?」

 

「わからない」

 

「マジか」

 

「現在情報統合思念体との通信が何かに遮断されている。ここはわたしたちが知る世界とは別次元」

 

間違いないだろうよ。道行く民の服装を見れば誰でもわかる。あんなの映画でしか見たことない。

文明レベルを正確かつ具体的に判別することはできないがおよそ14世紀とかそこらの中世ヨーロッパな雰囲気だ。

インフラなど俺たちの時代とは雲泥の差だろうに王都なだけあって活気づいている。

盗賊というよりかはスパイガールのような格好の長門――そういや眼鏡をかけていない――は。

 

 

「一種のシミュレーションだと思われる」

 

「なるほど、そういうことですか長門さん」

 

古泉は勝手に納得しているが俺はさっぱりだ、朝比奈はどうなんだろうか。

魔女装束に身を包む彼女にその旨を伺ってみると。

 

 

「えっ? ここってテーマパークのアトラクションですよね? たしかあたしたち遊園地にきてて、それで……」

 

朝比奈もあてにならないようだ。少なくとも俺にはそんな記憶などない。

家でシャミセンと格闘していた気もするし、昼寝していたような気もする。

で、古泉と長門は何かわかったのか。

 

 

「つまり模擬演習ですよ。ここを脱出するには演習を終えなければならない。長門さん、違いますか?」

 

「違わない」

 

「さしずめ魔王討伐が終了条件といったところでしょう。RPGの世界であればそう考えるのが自然ですね」

 

まずここに居るのが不自然だという結論には至らないらしい。

とりあえず情報収集から始めるべきなんだろうがいかんせん魔王の住処など公然と知られているはずもない。

 

 

「ここは無難に経験を積むべきかと思います。勇者殿」

 

などという古泉の進言によって行き当たりばったりに王都を後にして――城下町のでっかい門の前には矢を持った衛兵が突っ立っていた――そこらを歩くと俺たち四人の目の前に登場した。

冒険者の第一歩。どろっとした液状の、いや水滴のような身体に目玉と口がついた青色の半透明な奴。

 

 

「……スライムだな」

 

「へぇ、かわいいですねぇ」

 

朝比奈は呑気に構えているが奴を倒さなければ俺たちが倒されるだけなのである。

渋々俺は腰の西洋剣を抜刀。魔剣でも聖剣でもなさそうな普通のバスターソードだ。

ターン制かは不明だがスライムは今のところ動く気配がないので俺は剣を振りかぶって切りつける。

 

 

「ああっ!?」

 

悲痛な声を上げる朝比奈だが現実は非情な物であり、つまるところ弱肉強食なり。

真っ二つにされたスライムの死骸は霧散していき後には銅貨みたいなものが残された。

いつも不思議に思っていたがモンスターを倒して拾うお金とはこんなもんなんだろうな。

古泉はパチパチと拍手をして。

 

 

「お見事です」

 

「あんなもん誰でも倒せるっつの。お前は超能力でも使えないのか?」

 

「駄目みたいですね。実のところ出来そうではあるのですが……いわゆるレベルが足りないってことでしょう」

 

「なら話は早いな」

 

こうして俺たちは陽が暮れるまでスライム狩りを続けたのだ。

たまに朝比奈の方目がけてスライムが体当たりをかまそうとしてもそこは長門がブロックした。

長門の武器はダガーで彼女が腕を振るうとスパスパっと液状生物は粉みじんになっていく。

古泉はどうしていたかといえば竪琴でサポートなんぞせずに果敢にスライムにパンチを浴びせて倒している。

しかも身のこなしも軽い。こいつは何者なんだ。

 

 

「"古泉拳法"。こんなところであなたがたに披露することになるとは思いませんでしたよ」

 

どこの流派だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

城下町に戻った俺たちは適当な宿に宿泊することにした。

男女で二部屋あれば問題ないだろう。食事は近場の料亭らしき場所でとった。

 

 

「これって豚肉なんですかね?」

 

朝比奈の疑問は当然で、出された料理は確かに美味しい、がそれとわかるのはパンとサラダぐらい。

スープの中身や、まして肉類など俺には想像もつかないような材料が使われているのだろう。

目の前のステーキが魔物の肉とか言われても俺は驚かないぜ。

 

 

「……」

 

「今後の方針はいかがなさいますか? 勇者殿」

 

がつがつ料理をお腹に入れていく長門を尻目に古泉が俺に訊ねる。

今後、今後ね。魔王を倒せと言われたものの何をすればいいのやら。

この王国を出て旅をする必要があるんだろうな。面倒な。

なんて俺が放棄を考え始めている時だった。

 

 

「――まずは森へ行ってください。森にある洞窟の奥には魔王城の門の鍵がありますから」

 

だそうだ、ならそうしよう。

って。

 

 

「誰だ……?」

 

テーブル席に座っていた俺の後ろから女の声が聞こえた。

後ろを振り向くとそこには緑のローブに身を包んだ女性の姿。

 

 

「はじめまして。わたしは森の賢者エミリーです。あなたたちを導くのがわたしの仕事なんですよ」

 

どう見ても喜緑江美里であった。

彼女は長門や朝倉と同類の宇宙人らしいのだが何故ここに。

 

 

「エミリーです」

 

「は、はあ……」

 

このデコ助ワカメさんはあくまでシラを切るつもりらしく笑顔のゴリ押しだ。

森の賢者っていうのは多分に彼女の設定なのだろう。

そのエミリーとやらに俺は訊ねることにした。

 

 

「魔王城の鍵ね。何故そんなもんが森にあるって言うんだ?」

 

「魔王のペットのガーディアンドラゴンがそこに居るんですよ。合鍵ってわけですね」

 

はたしてどういうシステムなんだろうか。ドラゴンなら門ぐらい飛び越えられるだろうに。

いや、なんでも魔王城の門は力づくでも空かない上にそこ以外から入ろうものなら魔法的な罠が作動するのだとか。

 

 

「要約すると森へ行ってなんたらドラゴンだかを倒せばいいんだな?」

 

「ふふ、あなたたちのレベルでは敵いませんよ」

 

「いいや。そうとも限らんよ」

 

単純作業なら慣れている。

そんなこんなでこの日は宿に泊まり、翌日からパーティのレべリングが始まった。

スライムに限らず狂暴化したようなウサギやらカラスやら――大きさは本来よりも何回りも大きい――との戦闘に明け暮れる俺たち。

朝比奈は魔法使いらしく徐々に戦闘に使えるのか使えないのか微妙な魔法を覚えていった。

ちなみに当初彼女の魔法は耳がでっかくなるというかくし芸レベルのものだったことをここに記す。

長門に関してはレベルの概念なんてそもそもないんじゃないのかってぐらいの戦闘能力。

古泉だが殴り合いばかりでもなくいつしか手のひらからバレーボールサイズの光球を生み出せるようになっていた。

彼の超能力の片鱗だとかそうでないとか。まあ、そんなことはどうでもいいんだ。

 

 

「……どうしてオレは何の能力もないんだよ」

 

勇者なら、なんかこう、あるだろ。必殺技的な勇者しか使えない的なあれが。

雷系どころかそもそも呪文すら使えない俺が成長しているらしいのは身体能力ぐらい。

レベルを上げて物理で殴れを地で行くゴリラ型勇者がここに。いいのかそれで。

で、なんやかんやの後に。

 

 

「驚きました。まさかあなたたちがこれほどまでに力を付けるなんて……」

 

エミリーから太鼓判を押されるぐらいにレべリングした俺たちは意気揚々とドラゴン退治へと向かう。

某霊界探偵漫画で仙水忍が言っていたRPGプレイスタイルを実践しただけあって手間はかかったが全滅することなく洞窟の守護竜を葬り去れた。

ここまで一ヶ月ぐらいかかっていたような気がするのだが、ま、ゲームの時間と現実の時間は流れが違うだろうさ。

龍を倒して洞窟の奥へと進むと大きな宝箱があり、その中にいかにもな感じのゴツい鍵が入っていた。

 

 

「これがあれば魔王の城へ乗り込めるのか?」

 

俺たちは洞窟から出てエミリーに訊ねる。

彼女は否定しなかった。

 

 

「魔王は今のドラゴンの何倍何十倍もの強敵です」

 

「オレはね、レベルを最高に上げてから敵のボスキャラに戦いを挑む主義なんだぜ」

 

「気を付けて下さいね」

 

ゲームの世界だけあってセーブポイントらしき場所もあった。

死んでもそこからリスポーンするので心配ないのかもしれないが怖くてそんなこと試す気にはなれない。

そしてまた地道にこつこつとレベルを上げ続ける日々が続いた。

装備といえるような装備など整えもせず、稼いだお金は生活費に消えていく――長門のせいでエンゲル係数がとんでもないことになっている――だけ。

日数など数えていないが、うむ、更に一ヶ月以上はかかっただろうな。

だのに世界を征服する傾向を一向に見せない魔王もどうなんだろう。

しょせんゲームの世界だけあって設定は練られてないらしいな――

 

 

「……さて」

 

やってきた。ラストダンジョン。

天は黒い雲で覆われており、陽の光など感じられない暗黒地帯。

ピシャーンと雷鳴が轟く度に朝比奈が。

 

 

「ひぇぇぇぇええっ!? な、なんなんですかぁ!?」

 

と驚き慌てふためいている。

古泉もこれには苦笑して。

 

 

「では、参りましょうか」

 

「……」

 

眼前には天より高くそびえ立つ塔のような建造物。

あれが魔王城なんだとか。入り口には大きな門。

門っていうから勘違いしていたが鍵は魔王城の扉の鍵と同義らしい。

 

 

「しょうがねえ」

 

行くとするか。

だが、俺たちは肝心な奴を忘れていた。

否、忘れようとしていた。

 

 

「――よく来たわね!」

 

いやいやいやいや。

それはどうなんだ?

 

 

「あんたが勇者? ふーん。勇者のくせに冴えないツラしてるのね」

 

お前がいないと話にならないとは思っていたがな。

まさか、魔王役でのご登場とは考えたくなかったさ。

 

 

「ま、いいわ。どうせあたしには敵わないんだから気にするだけ無駄よ」

 

暴虐の限りを尽くしていた女が本物の魔王になっちまってどうするのやら。

黒の甲冑に身を包み、手には魔剣っぽい禍々しいオーラを放つ片手剣。

えらい美人が、いや涼宮ハルヒが王に恐れられていた魔王だったのだ。

彼女は無敗の格闘家さながらに不敵な笑みを浮かべて俺たちを見据え。

 

 

「んじゃ、一応聞いてあげる。……どう? あんたたちあたしの仲間になんない? 世界の十分の一ぐらいはあげるからさ」

 

さて、どうしたもんかね。

俺は乗ろうと思っているんだが。

 

 


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