校内一の変人のせいで憂鬱   作:魚乃眼

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第十六話

 

 

睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠の二つがある。

ま、そんなことはどうでもいいんだが、とにかく俺はぐっすり寝ていた。

日中の疲れを癒すのに睡眠は避けられない生理現象であり、寝たところで起きた次の日も慌ただしく遊びほうけるのだからこの時間ぐらいは邪魔しないでほしいね。

身が持たん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな八月二十日の夜中。いや、もうすぐ二十一日かというような時間帯に突如として俺の睡眠は中断させられた。

あろうことか夜中に携帯電話が鳴るなどといった非常識なことこの上ない現象のせいだ。

 

 

「……くそが…」

 

寝ながらベッドの近くのチェストの上に手を伸ばす。

携帯電話を掴んで間違い電話だろうがなんだろうがタダじゃ済ませないと憤慨しながら応答すると。

 

 

『……ぅぅぅぁぁぁああぃぃぅぅぅ……みぃょぉぉぉぉぅぅ……きょぉ……』

 

甲高い女性の呻き声。

ヤバい。この電話の相手が誰だとか気にしている暇はない。

視界と脳が秒でクリアになった。

とにかくなんかわからんがヤバい電話だ。

俗に言う"着信アリ"とやらか、もしくはメリーさんか。とにかく呪い殺されてしまう。

俺は時間帯など気にせず叫んだ。

 

 

「お、お前! オ、オレの、そ、傍に来るんじゃあねえぞ!」

 

むしろこっちが呻き声を上げたいような冷や汗だだ漏れの中電話を部屋の壁面に叩き付けようかと思ったその時。

待て。今の女の声はどっかで聞いた事があるのではないか?

 

 

「……朝比奈…みくるか……?」

 

『うっ、あぁぃぇえう……すぅにっ……おぅあえしたいことあ……ひっ……このままあ……このままぃあ…』

 

何を言っているのかはさっぱりわからんが彼女はどうやら嗚咽をあげながら通話している状況らしい。

どうしたってそんな状況で俺に電話をかけたんだ。

まさか婦女暴行でもされたんじゃなかろうか。だったら俺がかけてやれる言葉は何一つない。

被害届を出す事をお勧めするぞ、とでも切り出そうかなんて真剣に俺が悩み始めたら。

 

 

『どうもー、古泉です』

 

「……あん?」

 

突然トッポイ野郎に電話の主が交代してしまった。

やけに間延びしたトーンであるが、もしやお前が性犯罪者だというのか。

 

 

『よんどころない事情がありまして。あなたが何を勘違いされてるのかはわかりかねますが、とにかく僕も困り果てている所なんですよ』

 

「こんな夜中に何だってんだ」

 

『いわゆる緊急事態というヤツですよ』

 

俺はデッキに眠るE・HEROでもないのに古泉からエマージェンシーコールを受け取るとすぐに寝間着から私服に着替えを始めた。

急いで来てほしいと頼まれて向かった場所はSOS団御用達の集合場所こと駅前公園である。

自転車をかっ飛ばすこと十数分で到着。公園には駐輪防止の柵があるのでそこに立てかけるように愛車を放置。

広場の中で街灯のうっすらした明かりに照らされているそいつらが俺を呼んだ連中である。

うずくまっている朝比奈を笑顔でなだめる古泉と、じっと見つめるこんな時でもセーラー服の長門。

俺に気付いた古泉は会釈をしてから。

 

 

「夜分遅くに恐れ入ります」

 

「お前が泣かせたのか?」

 

「まさか。とんでもない」

 

ではどうしてこうなっている。

俺は何用で呼ばれたのか。

すると泣きじゃくっていた朝比奈が顔を上げてこちらを見た。

ここまで人は悲しめるのかという柱の男も月までぶっ飛ぶぐらいの泣き顔だ。

 

 

「ふぇぇぇああえぇえ……きょ、キョンぐん……ぁぁああああったしぃ……ひっく……みぁあいにかええなくありましたぁ……」

 

「はい?」

 

うぇぇぇあああああん、と女泣きを止まない朝比奈。

申し訳ないが何を言っているか聞き取れなかった。

それを察したのか古泉が苦笑して。

 

 

「では、僕の方から説明いたしましょう」

 

と切り出した。

話が長くなりそうなので俺たちは近くのベンチに並んで座る事にした。

で、こいつの説明を要約すると。

 

 

「無限ループだと?」

 

「はい。つまりそういうことです」

 

全人類は只今無限ループのプログラムにぶち込まれているらしい。

for文かwhile文かは知らんが、終了条件があるかどうかが怪しい。

とにかく八月十七日から八月三十一日までを延々と繰り返しているそうだ。

って嘘だろ。

古泉はどこまで苦しめばいいのか苦笑を絶やさずに。

 

 

「それが本当の事らしいのです」

 

「は、はぃぃっ……」

 

ようやく落ち着きつつある朝比奈の解説によると、未来と連絡できなくなったから上に他の時間に移動できないとのこと。

ますますわからん。

 

 

「八月以降の未来がこの世界に存在しないのです。それと同時に今年の八月十七日より過去も存在しません。箱のようなものの中にでも閉じ込められている、とお考えください」

 

「あー、うん、なんとなくお前さんたちの言いたい事はわかった」

 

ループしている間の記憶など俺には存在しない。

いや他の全人類がそうだろう。でなけりゃ大パニックだからな。多分リセットされているとのこと。

どうにも胡散臭い話ではあるが真実かどうかもわからなければ嘘ともわからないので俺は話半分に聞くしかない。

 

 

「そのループ現象が本当の話だとして、もしかしなくてもそれは涼宮の仕業なのか?」

 

「もちろんです。彼女以外にそのような事ができる人物など僕は知りませんよ」

 

「超能力者の第六感とやらでこの現象は知覚できなかったのかよ」

 

「残念ながら僕は普通の空間では普通の人間と大差ありません。第六感といいましても閉鎖空間に関することだけですので」

 

やはり使えん連中だ。

とはいえ俺は最近妙な既視感のようなものを感じていたのだが。

 

 

「僕もですよ」

 

「涼宮がループ中の出来事をリセットしているのに記憶がどこかに残っているのか?」

 

「そういうわけでもないようですね。彼女に近しい人間だけがこの異変を第六感的に感じ取れるようです」

 

「オレも晴れて超能力者の仲間入りか」

 

朝比奈は未だ気持ちが落ち着かないのか俯いたままだ。

長門は無表情かつ無言で虚空を眺めたまま。

 

 

「それで? いったい何が楽しくて涼宮は無限ループを引き起こしたんだ」

 

「わかりませんか? 彼女が巻き戻しているのは夏休み期間のみ。それも、市民プールに集まって予定を組んだあの日から夏休みの終わりまで、ですよ」

 

「もしやお前さんは夏休みが終わってほしくないとかそういう事をあいつは願ったとでも言うのか」

 

「きっと彼女はどこか心残りがあるのでしょう。正確にはやり残した事があるままに夏休みを終えたくないのです」

 

どうしてそんなことが古泉にわかるのだろうか。

しかし涼宮の性格ならそんな荒唐無稽な事を考えてもおかしくない。

地球が逆回転しろ、とか平気で短冊に書くような奴だ。

いずれにせよ達成できてないだけで終了条件はあるのだろう。

しょうがない女だなと思っていると古泉が。

 

 

「……ただ、僕が思うにループ中に体験してきた記憶を持つ存在はいます」

 

「涼宮か?」

 

「彼女本人には自覚がありませんから違います。……あたなは既にお察しかと」

 

そう言った古泉は彼の右隣に座る長門に視線をやった。

宇宙人の長門有希にだ。

彼女は未だに前だけを見つめ続けている。

 

 

「お前がそうなのか?」

 

「……そう」

 

「全部覚えているってのか?」

 

「覚えている」

 

口だけを動かして肯定する長門。

間違いなくこいつは宇宙人だ。

普通の人間の精神状態ではない。

なぜなら。

 

 

「今回が一万五千五百三十二回目に該当する」

 

なんてことを平気な顔でぬかしやがるんだからな。

どうやら彼女の親玉の宇宙生物こと情報統合思念体とやらは時空を超越した存在らしい。

いかな涼宮といえどそいつには勝てないのだろうか?

あいつが誰かを消そうだなんて願うのはいつぞやだけにしてほしいもんだが。

 

 

「そんだけ繰り返したんだから俺たちは何回もループに気付いたんだよな?」

 

でも突破できなかったってわけだ。

と、俺も苦笑でも浮かべていると長門が消え入るような声で。

 

「今回が二回目」

 

「なに……?」

 

「あなたたちが現象を発覚したのは今回が二回目となる。ちなみに一回目は一万五千四百九十八回目のシークエンスで――」

 

「わかった、もういい」

 

俺たちは既視感だなんだと言ったところで無能な集団だったらしい。

聞けば長門の役割は観測なので俺たちに積極的に教えるようなことはしていないそうだ。

多分にこれは情報統合思念体からの圧力なのだろうが、ケチな奴だ。

夏休みのループを観測して何が楽しいってんだ。

俺たちが遊んでいるだけだぞ?

 

 

「――ふふっ。その通りだわ」

 

俺が吐き捨てるかのように呟いたその瞬間。

聞き覚えのある女の声が前から聞こえた。

笑顔で前方からこちらに歩み寄って来る青色のプリーツワンピースを着込んだ髪まで青色な女。

 

 

「朝倉、涼子……」

 

「こんばんはキョンくん。それにしてもほんと退屈よね? 長門さん」

 

同意を求めるかのようにそう言ったが長門からの反応はない。

むしろ長門は彼女に対して敵意を抱いてるかの如く冷やかにも思える声で。

 

 

「……何の用」

 

「催促しに来たに決まってるじゃない」

 

「我々は現状維持が原則」

 

「それは長門さんの派閥での話でしょ? 私の派閥は結果が全てなのよ。このまま続けてても変化があると思う?」

 

「あなたの独断専行は許可されていない」

 

「わかってるってば」

 

失礼しちゃうわね、と悪びれもなく楽しそうな表情で言う朝倉。

なあ、こいつは殺人犯なんだろ。

でもって"急進派"とかいう聞くだけで穏やかじゃなさそうな名称のグループに所属しているとか。

テロリストと書いて死にたがりと読むってことを知らんのか。

 

 

「私も下手な真似はしたくないんだけどね? このままの状況が何万回も続くようなら流石に動かざるを得ないのよ」

 

「すみませんが朝倉さん。あなたが言うところの動かざるを得ない、とは具体的にどんな行動をするおつもりなのでしょうか」

 

古泉の語り口はあくまで丁寧であったが、笑顔ではなかった。

明らかにこいつも朝倉涼子を警戒している。

朝比奈ときたら畏縮してしまっている有様だ。

この女はそこまで恐ろしい奴なのか。いや、長門もそうなのかもしれない。

朝倉涼子はわざとらしく右手の人差し指を顎に当てて。

 

 

「うーん、そうねえ。……あはっ。面白い事考えちゃった。例えばそこの"彼"を殺して涼宮さんに一部始終を見せつけるなんてどうかしら? いいアイディアだと思わない?」

 

「失礼ですが僕は全く思いませんね」

 

俺も願い下げだ。

俺は死にたくないし死にたがりとは付き合えない。

道理で俺はこの女を好きになれないわけだ。

見てくれだけで人はなびかないんだぜ。

 

 

「長門さんはどうかしら?」

 

「どうもこうもない。そのような身勝手な行動など私が阻止する」

 

「ふーん。でも、あの彼は助けられなかったわよね?」

 

「……」

 

それはもしかしなくても朝倉に殺された鍵とやらの野郎の話か。

彼女が口にした言葉によって長門の雰囲気も少し物々しいものとなった。

一触即発。

 

 

「今日のところは催促だけだから気にするだけ気にしてちょうだい。どうせ失敗したら忘れちゃうんだもの」

 

あっけらかんとした様子で朝倉涼子はそう言うときびすを返し始めた。

言いたいことだけ言って帰っていく。やっていることは涼宮と大差ないはずだ。

本質的には別人だがな。

 

 

「じゃあね。あなたたちの健闘を祈っておこうかしら――」

 

心にもないそんな言葉を残して朝倉涼子は闇夜に消えて行った。

これは後々知ることだが、宇宙人には本当に心がないそうだ。

信じられんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさしく懸案事項を抱えた状態で迎えた翌日は天体観測を行った。

長門が住む――朝倉も住んでいるらしいが――分譲マンションの屋上まで行って、古泉が用意してきた天体望遠鏡をセット。

午後八時を回ってから開始された天体観測は涼宮も最初こそ望遠鏡を無邪気に覗いていた、が。

 

 

「……すぅ…すぅ」

 

「くぅ……くぅ…」

 

彼女は屋上にある転落防止柵に背中を預けて朝比奈と並んで寝ていた。

火星人やらUFOやらを見つけてやると息巻いていたはいいものの、さっさと飽きてしまったらしい。

かくして野郎と並んで寂しく男二人夜空を眺めているわけだ。

 

 

「あいつは何をやり残してるって?」

 

「さあ。本人に訊いたところで能力が作用しているのは無意識下の話ですからね。きっと答えてくれませんよ」

 

長門は天体望遠鏡に興味があるのか――いや、何度も見ているらしいから今更興味などないのだろうが――レンズを覗くでもなくじっと本体を見つめている。

無限ループの話など知らなければ今頃俺と古泉もくだらない世間話をしていたのかもしれない。

涼宮が夏休み中にやり残したと感じているものがわかれば解決したも同然なんだがな。

 

 

「再三申し上げていますように、僕には涼宮さんの望みなどわかりません。僕が何を考えたところでそれは憶測でしかありませんので」

 

「憶測だろうが予測だろうがなんでもいいからお前さんの意見を聞かせろ」

 

「ではこういうのはどうでしょうか? 背後から彼女を突然抱きしめ、耳元でアイラブユーを囁くんです」

 

「……お前さんがやるのか?」

 

「滅相もないことです。他でもないあなたが相応しいかと」

 

俺のターン。

オダギリジョーよろしく手札のLIFEカードを見られればどれだけ楽なことか。

古泉は知らないだろうが俺はあいつと一方的な約束を交わしている。

というか涼宮は俺を受け入れてくれたから新世界を創らなかったんじゃないのか?

だのに何故こんな未来の無い事をしているんだ。

いや。

 

 

「……わかりかけてきたぜ」

 

「どうしました?」

 

見えてきた。

あいつが欲しいものとやらが。

感覚が。

 

 

「時に古泉よ」

 

「なんでしょう」

 

「お前さん、好きな女子はいるか?」

 

「唐突ですね。よもやあなたの口からそのような質問があるとは思ってもいませんでした」

 

俺の左横の野郎は苦笑していたが悪い方に使われた苦笑ではないらしい。

彼は涼宮、朝比奈、長門をそれぞれ一瞥してから。

 

 

「僕の使命は世界の平和を守る事です」

 

「それがどうしたよ。仮面ライダー気取りか」

 

「陰ながら戦っているという意味では大先輩ですからね。超能力者と改造人間という立場の差はあれど意識しますよ」

 

「……本当か?」

 

「冗談です」

 

うまくはぐさられた気がするが、お前の好きな人の話はどうなっているんだ。

神と結婚とか言うのは狂信者の常套句なんだぜ。

 

 

「正直なところ僕は恋愛どころではありませんからね。SOS団内に限らず、北高には魅力的な方が沢山おられますが……それはそれ、ですよ」

 

こいつの将来がハゲでもおかしくない苦労だ。

可愛そうな奴である。誰か褒めてやれよ。とくに女子で。

 

 

「僕から言える確実な事は一つだけですよ」

 

「なんだよ」

 

「涼宮ハルヒという女性は、ただの気まぐれなんかで一万五千を超えるような繰り返し作業を行わないという事です。明確な意図があるはずだ」

 

だろうな。

初志貫徹ってことだ。

 

 

 

――各々思う所はあっただろうが、その日が訪れるのは驚くほど早かった。

怒涛の夏休みイベント消化体勢に揺らぎはなかった。

時折朝比奈の表情は曇るが、その分俺は考えなしにひたすら楽しんだし涼宮も古泉もそうした。

長門だけが機械人形のように動き続けている。

それを見てどう感じようと俺には何もできないから気にしない。割りきるしかない。

俺たちの花火大会とは比べ物にならない本物の花火大会に行った。

ハゼ釣り大会にも行ったし、肝試し、一日かけて大作映画のハシゴ、ボーリング大会やら、カラオケ。

雨が降ろうと気にしない。

俺たちは一日一日の大半を遊びに使っていた。

で、そうこうしているうちに八月三十日になったのだ。

 

 

「……うん。これで課題は一通り終わったわね」

 

予定表の文字につけられる×マーク。

そこに書かれていた全ての項目に、たった今、刻まれた。

いつぞやお世話になった駅前にある某喫茶店でのことだ。

コーラフロート片手に涼宮は微妙な表情で紙切れを眺めている。

 

 

「みんな、もういいかしら。何かやり残した事はある?」

 

異端者三人は黙っていた。

俺も黙っている。

 

 

「そっか。じゃ、これでいいわね。うん。こんなに遊んだ夏休みなんてあたし初めてなのよ。いっぱい色んなことをやったわ。色々遠くにも行ったんだから、もう充分ね」

 

その言葉は妥協に他ならない。

何故ならば涼宮はこの夏休みにやり残した事があるらしい。

今の言葉も本心ではない。

 

 

「今日はもうお終いね。明日はお休みでいいわ。もうやる事ないんだし」

 

伝票を俺に差し出す涼宮。

そして席から立ちあがる。

まさか、帰るつもりじゃなかろうな。

 

 

「んじゃあ、次に全員集まるのは明後日の放課後ね。部活に遅刻しちゃ駄目よ――」

 

「待て」

 

俺は特別声を大きくしたわけではないが、出来る限り力強く言ったつもりだ。

涼宮がその場で動きを止めるぐらいには効果があった。

 

 

「"色々"ってのはな、何も考えてないのと一緒なんだぜ」

 

「……なに? どうしたの?」

 

また変な事でも言うんじゃないか、そんな表情をしている涼宮。

俺はとりあえず彼女を無視して異端者三人に対して。

 

 

「すまないがお前達は先に帰ってくれ。支払いはオレに任せろ」

 

「ちょっとあんた、なんだってのよ」

 

「オレはこの女と話をしなければならん」

 

食ってかかる涼宮を制しながら依頼した。

古泉がいの一番にそれに従い、長門、朝比奈も続いた。

三人は立ち上がって一礼した後に喫茶店を後にしていったのだ。

で。

 

 

「……どういうつもりなの?」

 

「まあ落ち着け。座れよ」

 

「ふん」

 

テーブルの横で突っ立っていた涼宮を再び座らせる。

俺と対面に座している位置関係である。

 

 

「さっきお前が言っていたやり残した事なんだがな」

 

「ああ。それがなんなのよ」

 

「オレはあった。ちょうど今、思いついたんだ」

 

「ふうん。だからあたしを引き止めたってわけ?」

 

「そういう事になってしまうな」

 

彼女はどこか俺と離すことに乗り気ではなかった。

そんな雰囲気であった。

 

 

「SOS団の市内不思議探索だ」

 

「……はぁ?」

 

「まさか夏休みだからってお前はサボるつもりなのか」

 

そんな俺に対し、涼宮は呆れた表情になった。

なんだそんなことかと言わんばかりに。

 

 

「あのね、やる必要ないでしょうが。休み明けの明後日は金曜なの。つまり明々後日は土曜」

 

「だな」

 

「その時でいいじゃない。あたしもちょっと疲れたから明日はお休みでいいかな、って思ったの。わざわざ明日使って不思議探索する必要がないってわけ」

 

しょうがない。

単刀直入に言えばいいのか。

 

 

「お前、勘違いしてないか?」

 

「なんのことよ」

 

「いつオレがSOS団五人揃ってやろうと言った」

 

「……意味わかんないわよ」

 

わかるように言ってやるさ。

それに命令ばかりされるこちらの身にもなってくれないか。

たまには俺の頼みぐらい聞いてくれるとありがたいね。

 

 

「オレとお前の二人きりで市内を回ろうぜ」

 

 


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