校内一の変人のせいで憂鬱   作:魚乃眼

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第十二話

 

 

思い返すに俺は安請け合いしてしまった節がある。

普通なら少しは朝比奈みくるを怪しむはずだ。

唐突に過去に行ってくれといわれたところで彼女をどう信用する。

俺の味方かどうかなんてわかりもしないのに。

ただ、俺はきっと心のどこかで朝比奈みくるを何故か信用していてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目隠しでタイムマシンにでも乗せられるのかと思いきやそうではなかった。

次の瞬間には俺の脳が揺さぶられたかのような感覚。

きっと某神父にDISCを抜かれるとこんな感じになるんだろう。

ぐにゃりと平衡感覚が失われ、意識が持ってかれた。

で、気がつくと俺は横になっていたらしい。

そりゃそうだ。

立っていられなかったんだから。

頭の左側がふにっとしている。

硬い地面ではない。

 

 

「うふふ。お目覚めですね」

 

近くから朝比奈の声がした。

目を開けると視線の先には緑色の一本線、街灯。

すぐに上体を起こす。

ここはベンチの上らしい。

左隣には朝比奈。

彼女は苦笑しながら。

 

 

「足が痺れちゃいました。キョンくんったらぐっすり眠ってるから」

 

「……はい?」

 

どうやら彼女の口ぶりと先ほどの感触から察するに俺は膝枕をされていたらしい。

男子高校生に限らず男のロマンである。

しかしながら意識を失っていたので感想もなにもない。

 

 

「あんたもここで寝ていたのか?」

 

この場所は知っている。

光陽園駅駅前公園だ。

いつぞや涼宮と待ち合わせた北口駅の駅前公園とは打って変わってしっかりとした"公園"にふさわしい場所である。

その一角に設けられたベンチに俺と朝比奈は腰かけている。

さっきまで部室だったはずだがタイムスリップは場所も移動できるのか?

【ターミネーター】よろしく全裸じゃないのは救いであった。

すると朝比奈は申し訳なさそうな表情をしてから。

 

 

「ごめんなさい。時間跳躍の方法をあなたに知られるわけにはいかないんです……」

 

そして軽く頭を下げた。

俺を眠らせたのは彼女の仕業なのだろうか。

まあ知りたいかどうかでいえば興味はあるが無理に知りたくもない。

教えてくれるなら喜んで聞くって程度だ。

ここで俺が知れば歴史的に齟齬が生じてしまうという定番のアレに違いない。

悪いが俺は未来人から命を狙われて生き延びる自信はないぞ。

本当にターミネーターみたいな奴が送り込まれるんだろう。

どちらかといえば長門がそれっぽいが。

 

 

「この時代はあたしたちが来た時代から見てちょうど三年前になります」

 

「……七夕、ね…」

 

やはり思い出してしまう。

他にもあるさ。

あっちの世界での出来事は数多く覚えている。

五年ぐらい前まであった愚妹のおねしょとかな。

なんてノスタルジックな気分に浸ろうとすると、こつんと左肩に衝撃が。

見ると朝比奈が俺に体重を預けている。

夜の電車であるかもしれない光景だ。

隣の人の肩に頭をのっけるあれだ。

 

 

「……くぅ……くぅ…」

 

まさか寝ているのか。

送り込んだ本人が寝てどうする。

ベンチで寝る為に三年前――らしい――までやって来たのか俺は。

この状況が分単位で続くなら叩き起こそう、と決意したら後ろからガサゴソと音がした。

首だけを捻って背後を確認する。

草木が生い茂る植え込みの中からそいつは現れた。

妖艶な笑みを浮かべる巨乳の女。

俺がこっちに飛ばされた日に出会った朝比奈そっくりの女だ。

格好も前に会った時と同じ、白のブラウスと黒のタイトスカート。

位置からしてやや高低差があり、彼女は俺に対し笑顔で。

 

 

「こんばんは、お久しぶりですね」

 

「……あんた何者だ…?」

 

「朝比奈みくるです。そこのわたしよりも未来から来た」

 

そう言うと彼女は植え込みから這い出てこちらまでやってくる。

大人朝比奈が寝ている朝比奈を見つめる。

タイムパラドックスとか、その辺大丈夫なのか。

自称朝比奈は表情を暗くして。

 

 

「この時のわたしは未来のわたしの存在を知りません。それどころか何も知らなかったと言っても過言ではありません」

 

「……あんたの存在が何よりの未来人としての証明ってわけか?」

 

「それだけじゃありません。あなたにはこれから行ってもらいたい場所があるんですよ」

 

「三年前に来い。お次は何年前まで行けばいいんだろうな」

 

ノーギャラの報酬がタイムスリップ体験ツアーそのものか。

これを他人に話したところで正気を疑われるだけだから話のタネにもならない。

体験談のない体験になんの意味があるんだ。

すると大人朝比奈は淡々と。

 

 

「この時代より過去に遡る事は出来ません。理由を説明してもいいけど、時間がないから今度そっちのわたしに質問してください」

 

「オレにもたれかかってるこいつが寝ているのはあんたの仕業か?」

 

「はい。さっきも言ったけどわたしはわたしの姿を見てなかったから」

 

「辻褄合わせにしちゃ強引だな。この朝比奈にオレの案内役をさせればよかったろうに」

 

「こっちの方がわたしたちにとって都合がいいという事です」

 

古泉といい長門といいつくづく朝比奈もよくわからん連中の一員だった。

大人朝比奈の指示は単純であった。

ここから近くにある公立中学校に行け。

後はわかるな。

 

 

「あんたは何を知っている? いい加減説明しちゃあくれないか」

 

「いずれ、時が来たらそうさせていただきます。キョンくん……いいえ――」

 

切なげな大人朝比奈の口から紡がれた名前。

知らない名前だった。

男の名前だろうか。

どことなく高貴でそして壮大なイメージを彷彿とさせる。

野郎が名乗るには相応の風貌がともなってほしい、そんな感じの名前だった。

 

 

「それは誰の名前だ? オレじゃあない」

 

「……憶えておいてください。必ず」

 

横で眠る朝比奈の世話を依頼して、一礼の後に朝比奈(大)は闇夜に消えて行った。

俺の目的地への進行方向とは正反対の方向。

ばったり会わないだろうし、後を追ってもきっと巨乳女の姿は見つからないだろう。

 

 

「すーっ……すーっ…」

 

未だに眠り続ける眠り姫。

涼宮ではない。

ちくしょうが。

揉んでやろうかこの女め。

しかし俺はあいつを裏切らない。

やむをえず朝比奈をおんぶすると俺は歩き出した。

決して軽くはない。

女性相手に適切な表現ではないが重い。

最低でも40キロ台なのは確かであり、未だに筋トレだけは継続していて助かったと思えた。

軽々とはいかないがしっかりと背負えてはいる。

コアトレーニングのたまものだ。

 

 

「しょうもねえ話だ」

 

本当にどうしたものか。

何を隠そう目的地とは因縁の地。

噂をすればなんとやら。

度々述べていた市立東中学校その場所だからである。

俺が何故ここに連れてこられたのか察しはつくが、まさかこの歳の俺がやるとはな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから十分前後。

ようやく到着した懐かしき母校。

東中。

そういやこの時間だっただろうか。

俺があいつに声をかけたのが。

ちょうどこんな感じに。

 

 

「……お前、何やってんだ?」

 

あの時と同じだ。

今より少しばかり幼い涼宮ハルヒが校門の鉄扉をよじ登ろうとしていた。

その彼女は。

 

 

「なによ!」

 

こちらに気付くと俺を睨み付けた。

同じ行動を見せてくれた。

しかしながら同じだったのはここまでで。

 

 

「……あんたなんなの? 高校生? 中学生のあたしに何の用かしら。変態なの?」

 

「質問に質問で返すんじゃあない。オレはお前が何やってたのか訊ねたんだぜ。夜の学校に用でもあるのか」

 

「見てわかんないの? 不法侵入しようとしてたとこよ」

 

ジーザス。

辺りをちらちら見回してもかつてのサッカー小僧の姿は見受けられない。

昔の俺はきっとここに来ないだろう。

いや俺がこの時この世界に存在していたのかさえ怪しい。

少なくとも俺と同じ体験をした俺は居ないんだろう。

リボンカチューシャTシャツ短パン小娘は生意気な顔で。

 

 

「あんたが誰かなんてどうでもいいから手伝ってくんない?」

 

さらっと言ってのけた。

あいつと俺の距離はそこそこ空いている。

わざと俺は近づいていないのだ。

制服を着た高校生だってことぐらいはわかっても顔まではハッキリわからんだろ。

明かりという明かりもロクにない夜の学校周辺の暗がりゆえに当然であった。

よもや過去に俺と朝比奈と涼宮が遭遇していたことがバレてもらっちゃ困るんじゃないか。

超自然パワーとかその他諸々の秘匿に関わってくるだろ。

 

 

「なんであんたとみくるちゃんがあの時いたのよ!?」

 

とか言われた日には俺は言い訳できん。

また夜の北高でキスでもして誤魔化すしかなかろう。

俺としてはむしろそっちで大歓迎なんだがな。

今更中学一年生のこいつに手を出そうなどといった危険思考は持ち合わせていない。

俺の恋愛対象は同世代だ。

 

 

 

――そこからは前回と大差ない。

つつがなく鉄扉を開錠して東中に侵入。

朝比奈を体育用語倉庫の壁面に置いておいてから俺は中坊涼宮の命令に従ってグラウンドに変な地上絵を描かされた。

ここで前回の経験が活きた。

多少の誤差は修正させられたが意外に覚えていたのか思い出しながらもスムーズに描けた。

前回が30分前後だったのに比べて今回は20分弱ってところだ。

もう三度目はないだろうからどうでもいい経験なんだがな。

しかし初対面の高校生、それも野郎相手にどこまでも舐めた態度であった。

俺の作業効率はいい方にも関わらず「何やってんの馬鹿」とか「そこじゃないわよ」とやじを飛ばす。

昔からこんな奴だったっけ。

ああそうだったとも。

 

 

「後はあたしが仕上げるわ」

 

そう言うと俺からラインカーをひったくり最後の仕上げとやらにとりかかっていた。

念でも込めるのだろうか。

かくして更に十分が経過して地上絵は完全体になったらしい。

俺にはさっきまでとの差がわからない。

石階段に腰掛けて軟体生物の羅列のような地上絵を眺める。

少し俺から離れた数段上に立つ涼宮は。

 

 

「まあまあね。60点ぐらいかしら」

 

手厳しい採点であった。

とはいえこれ以上の手直しはしないつもりらしくグラウンドにはラインカーが放置されていた。

思い返せば犯罪みたいなもんだよな、これって。

しばらく黙っていると突然涼宮が。

 

 

「……あんた、この世界に宇宙人っていると思う?」

 

「どうした急に」

 

「いいから答えて」

 

「ああ、いるぞ」

 

「地球は宇宙にある惑星だから地球人のあたしたちが宇宙人だ、みたいなふざけた話じゃないでしょうね」

 

俺としてはそっちの方向性に持って行きたかった。

でも事実として居るのだから否定はしない。

 

 

「未来人はどう?」

 

「どうもこうもないな。技術の進歩を願った方が賢明だぜ」

 

「じゃ超能力者」

 

「ピーキー過ぎてお前が相手するのは無理な連中だろうよ」

 

「……いるのね?」

 

「まあな」

 

俺の言葉をこの健康優良不良少女が信用するわけがない。

かといって夢を奪ったら未来に影響しかねない。

適当に対応するのが吉だろう。

ちなみに俺はさっきから声色を少し変えていた。

低いトーンとなるように努めている。

 

 

「なら異世界人はいるの?」

 

忘れられたかと思ったんだがな。

きっと俺がここに来たのはこのためだったんだろう。

わくわくした様子で俺の返事を待っているであろう涼宮に対して。

 

 

「よくぞ訊いてくれたな。実はオレ、異世界人なんだぜ」

 

「……あんたが?」

 

「いかにも」

 

「ねえねえ、証拠あるかしら? ビーム出せるピストルとかなんでもいいわ。見せて!」

 

俺が中学時代あいつから聞いた事がないほどの楽しそうな声だった。

しかし残念な事に俺はなんにも持ち合わせていない。

 

 

「……ううむ。あいにく今オレは何も持ってないから変わりに予言してやろう」

 

「予言? 未来を当てるっての?」

 

「そうだな」

 

未来人の証明みたいな方法である。

なにかこいつに教えて問題なさそうな話はあるだろうか。

 

 

「来年の二月からな、日曜日の朝に【ふたりはプリキュア】ってアニメが始まる」

 

「……はあ?」

 

「今で言えば【明日のナージャ】をやってる時間帯だ。というかナージャの次がプリキュアだ」

 

「わけわかんないんだけど」

 

一瞬にして涼宮の声が変わってしまった。

話題のミスだろうか。

なら何がいいんだよ。

中一ならアニメぐらいまだ見てろよ。

それともワールドカップの話にすればよかったのか。

俺がやってきた2006年は日本がグループFでぶっちぎりの最下位だった。

言われんでも予想できる範囲だが。

 

 

「思い出したわ。その制服って北高じゃない。あんた北高生?」

 

「見ての通りだ」

 

「名前はなんていうの?」

 

ここで馬鹿正直に本名を名乗れるわけがない。

朝比奈(大)がさっき思わせぶりに残していった名前を使うか?

どうにもその名前は今関係するようには思えなかった。

偽名だ偽名。

 

 

「名無しの権兵衛(ジョン・ドゥ)だ」

 

「あたしのこと馬鹿にしてんの……?」

 

「ジョン・タイターでもジョン・スミスでもいいぜ」

 

「教えたくないってわけね」

 

「匿名希望というわけで頼む」

 

「北高は馬鹿の巣窟って聞いてたけど本当だったわ」

 

俺もそう思う。

その後も中坊涼宮との会話は続いた。

おぶっていた朝比奈とはどういう関係なのかと訊ねてきたのであれが未来人だと素直に教えた。

まさか、と驚いていたがはたして信じたのかね。

 

 

「お前は何か夢はないのか?」

 

「センコーみたいな質問ね」

 

「夜中にこんな不良行為をはたらく女の夢ってのが気になってな」

 

「……さあ。あたしにもわかんないわ」

 

意外だった。

宇宙人やら異端者を集めるのは夢じゃないのか。

遊んではい終わりってわけでもないのは確かだが。

とにかくあいつが夢中になれることってのはなんなんだかね。

誰か教えてくれんか。

すると。

 

 

「そういうあんたはどうなの?」

 

「曲がりなりにもオレは年上だぜ。キョ……ジョンさんと呼べ」

 

「ジョンは夢でもあんの?」

 

ま、北高じゃなんもできないわよね。と付け加えた中坊。

なら再び素直に答えてやるよ。

 

 

「もちろんあるとも」

 

「なによ」

 

「オレには好きな奴が居てな。そいつと結婚でもするのが夢ってとこだ」

 

「ふーん、恋愛ね。どんな彼女さんなのかしら」

 

「キスはしたが付き合ってない」

 

「付き合ってないの?」

 

「ああ。だから夢だ」

 

覚悟の問題なのだろうか。

いや、俺にはそれだけには思えなかった。

まだやらなければならないことがあるような気がしていた。

使命感とは程遠い人間のはずだったんだがな。

中坊涼宮は俺の説明――閉鎖空間云々はカットした真実三割嘘七割――に対して。

 

 

「ヘタレ」

 

「……手厳しいな」

 

「だってそうじゃない。信じらんないわね。髪が伸びるまで待ってろ、だなんて逃げでしょ」

 

「ならお前に好きな野郎が出来たとしてもしそう言われたらどうするのか。参考までに聞かせてもらいたい」

 

「とりあえずグーパンチかしら。このチキン野郎が、ってね」

 

マジか。

このバイオレンスさが三年経過して衰えていないのが問題なのだ。

 

 

「なるべく早く、だ。善処しよう」

 

「そうね。そうしなさい。……クリスマスなんていいんじゃないかしらね。ド定番だけど」

 

「クリスマス、だって? 普通だな」

 

「うん。でも――」

 

そういう中坊涼宮の顔がどうなっていたのか俺は知らない。

お互いに顔をしっかり確認せずに終わったからな。

ましてあちらは俺のことなど覚えているとは思えない。

ただ、きっと。

 

 

「――サンタクロースって何でも叶えてくれるんでしょ? 冴えない男に彼女の一つでもプレゼントしてやんなきゃかわいそう。もちろんあんたの好きな女子の方がね」

 

こいつはそんな赤服じじいの存在を信じていたってことだな。

今でもそうなのかもしれんね。

 

 

「だったらいいんだがよ」

 

「信じる者は救われるの」

 

「すくわれるのは足元ぐらいだぜ」

 

そう聞いた。

苦笑された。

やがて夜も更けてから気持ちを切り替えるかのように。

 

 

「じゃ、あたしはそろそろ帰るわね。遅いから。……暇つぶしにはなったわ」

 

中坊涼宮はグラウンドを後にした。

ラインカーの片づけは暗黙のうちに一任されてしまった。

やれやれって感じだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして俺の長い七夕は終わった。

眠りこけっていた朝比奈を起こして三年後に戻してくれるように依頼。

気持ち悪い感覚を再び味わったが驚くほどあっさり帰還した。

 

 

「こんばんは。今回は早かったですね」

 

またまた駅前公園のベンチで彼女に膝枕をされていた。

七夕の夜。

一瞬、無限ループってヤツかと恐怖したが本当に戻ってきたらしい。

少なくとも大人朝比奈は登場しなかった。

このままお別れでもよかったが気になったので質問しておく。

 

 

「朝比奈は自分が寝ている間、オレが何をしていたか知っているんだよな?」

 

「……いいえ」

 

悲しそうに首を左右に振った。

セーラー服からはどこか哀愁が感じられた。

 

 

「あたしの役割はキョンくんをあの時代に連れて行って、しばらくしたら元の時代に戻す事。他は何も知りません。あたしには知る権利がないみたいです」

 

「なるほど」

 

これが何を意味しているのか。

考えるだけ無駄であった。

俺にわかるわけがないのだからな。

そんな彼女もすぐに表情を笑顔にして。

 

 

「また月曜日に会いましょう。失礼しますね」

 

と言って去って行った。

すっかり遅くなったが俺も帰るとする。

帰宅後、母さんと親父には質問攻め――部活の一点張りでお茶を濁した――で妹には足をぽかぽか叩かれた。

なんだかんだで眠りに落ちたのは翌日の午前零時に差しかかってからの話だ。

土曜日で、学校が休みなのは幸いであった。

平日に慌ただしいのはごめんだね。

 

 

――週が明けて、月曜日の朝。

教室に到着して窓際の座席に腰掛ける。

後ろにはとっくに涼宮が座っていた。

俺は彼女の方を向いてあいさつする。

 

 

「おはようさん」

 

「おはよ」

 

七夕の時のしおらしいムードはとっくに失せたのか涼宮は普段の雰囲気に戻っていた。

この世に対して、文句ばかり言って、好き勝手やるいつものこいつだ。

何年も前から見ていた光景だ。

 

 

「お前はどうして北高に入ったんだ? お前の成績ならもっといいとこ行けたんじゃあないのか」

 

「べつに」

 

「そうかい」

 

適当に流された。

不用意な追求は遠慮しよう。

昨日見たプリキュアの話でもするか。

女児にはきつい壮絶な展開だった上に次回に続くとかありゃないぜ、と口を開きかけたその時。

 

 

「……北高は馬鹿の巣窟だから、馬鹿なりに面白い事やってんのかなって思っただけ」

 

自分が選んだ学校のくせに相変わらず北高への評価が悪い。

だが、うっすらと涼宮が笑っているのを俺は見逃さなかった。

 

 


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