剣鬼と黒猫   作:工場船

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第四十四話:マーブルカラー

 紫色の空に轟音が響き渡る。

 冥界の僻地にある深い森の中、そびえ立つ古城は濛々と灰色の煙を吐き出していた。

 恐慌と怒気が混じる叫び声は喧々囂々(けんけんごうごう)、突然現れた襲撃者たちに向けられる。

 

「こっちだ、撃てッ! 殺せッ!!」

 

「クソッ、いったいどこから……!」

 

「怯むな、落ち着いて対処しろ! 敵は少ないぞ!!」

 

「我らが軍勢を相手にして、ただですむと思うなよッ!!」

 

 煙が作り出す薄暗闇を引き裂いて、白い閃光が空を駆ける。

 直後、雨のような魔力砲弾が城壁の大半を紙屑の如く爆砕した。

 

「馬鹿な……魔力で強化した防壁を……!?」

 

「白龍皇……裏切り者のルシファーめ!!」

 

 駆ける閃光にいくつもの攻撃が飛ぶが、圧倒的速度の前に悉くが空振りに終わる。

 それに気を取られていたのがいけなかったのだろう、別方向から降り注ぐ極彩色の光条を彼らが認識することは無かった。

 再度響き渡る轟音に、とうとう城壁が崩壊する。

 

 黒雲から雷霆が落ち、暴風の柱が無数に屹立。

 殺到する黒い炎の波が兵士ごと迎撃の魔力を飲み込み、堅牢なはずの建物を震わせた。

 天変地異と見紛う暴威の中、塵か埃の如く兵士たちが吹き飛んでいく。

 

「くっ! 退却、退却だ! 城の中へ入れッ!!」

 

 兵長と思しき男の号令に、兵士たちが籠城の構えをとる。

 降り注ぐ敵の爆撃に幾人もの犠牲を出しつつ、城内に戻った彼らだったが――。

 

「なッ……なんだ、これは……」

 

 そこに広がっていたのは鮮血の空間。

 赤黒い水たまりに投げ出された四肢、沈む無数の死体は全て首を刎ねられているか、頭を無残に潰されていた。無傷の武装はその用途を一切果たしていない証左であり、つまり彼らはわずかな抵抗すら許されず死んでいったのだとわかった。

 

 襲撃者は既に城の中に侵入していたのだ。

 血液の凝固具合を見れば、つい先ほど起きた出来事ではない。おそらくは爆撃が始まり、こちらが迎撃に出た直後あたりか。

 未だ城内で騒ぎが起きないことから、目撃者は全て殺されていると考えた方が良いだろう。

 その事実に、寒気を覚えずにはいられない。

 

「司令室に急げ! くそっ、外の攻撃は囮か……」

 

 つまりはそういうことである。敵は直接頭を叩く気なのだ。

 外の攻撃は無論のこと無視できない。かと言って司令官が殺されてしまっては大問題だ。先にそちらから対応する必要があるだろう。

 兵士を率いて血にまみれた通路を進んでいくと、金属同士がぶつかり合うような音が聞こえてくる。交戦の音だ。

 急いで駆け付けたその場所では、巨躯の騎士と鉄棒を構える青年が対峙していた。

 

「軍団長!」

 

 軍団長と呼ばれた騎士は傷だらけだった。鎧は罅割れ、手に持つ斧槍も刃が大きく欠けている。

 対する侵入者の青年は全くの無傷で、余裕のある笑みを顔に張り付けていた。風貌と気配から推測すれば、おそらく中国系の妖怪だろう。

 軍団長は、駆けつけた兵長に声をかける。

 

「……兵長、ここは終わりだ。部下を連れて退け」

 

「し、しかし……!」

 

「白龍皇がいたのだろう。ならばこやつらは『マーブルカラー』だ。噂が本当であるならば、我らでは勝てん」

 

 その名前なら聞いたことがあった。

 彼らが所属する『禍の団(カオス・ブリゲード)』への侵攻戦力として結成された、各神話混合の少数精鋭部隊である。『マーブルカラー』という呼び名は複数の勢力・種族が入り混じることから蔑称として付けられたものであり、敵部隊の正式名称は未だ不明。しかしわずか一週間足らずで拠点となる城をいくつも落とすなど、その戦果は凄まじい。構成メンバーに『白龍皇(バニシング・ドラゴン)』と『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』が確認されている時点で破格の部隊と言えた。

 

 こうして襲われてみて実感する。敵の戦力は異常だ。

 対魔王級の防護が敷かれた城壁を容易く破壊するだけでなく、誰にも気づかれることなく侵入し、人知れずこちらの戦力を殲滅する。

 城内屈指の戦士である軍団長すら目の前の妖怪に一撃与えることなく満身創痍だ。

 

 悔しいが、退くしかない。

 後で臆病者と罵られようが、敵の情報を持ちかえる事こそ今最も重要な事柄だ。

 退却する時間はおそらく軍団長が稼ぐつもりなのだろう。一般兵はおろか兵長ですら歯が立たないことは明白なのだから、そうする以外に方法が無い。

 

「……御武運を」

 

 その言葉に無言で返す軍団長。

 この場を後にしようと踵を返した、その時。

 

「こちらは終わった」

 

 低く抑揚のない声が響いた。

 見ると、司令室に続く通路から男が一人歩いて来ていた。

 声の主は眼光鋭い長身痩躯の青年。鉄棒を構える妖怪のような人外ではない。人間だ。

 纏う蒼いオーラは寒気すら走るほどの鋭さを感じさせる。明らかに只者ではないが――。

 青年は白銀の刃を右の手に、左手で何かを引きずっている。

 

「司令……!」

 

 引きずられていたのはこの城の主であり軍団の上に立つ司令官、『禍の団』でも上位の地位に就く人物だ。

 四肢があらぬ方向に折れ曲がっていること以外は無事な様子で、どうやら気絶しているようだった。軍団長ほどではないが、彼も相当な実力を持っていたはず。それがこのザマとは。

 青年が持つ刃は魔法が宿った剣と見える。ならば聖剣使いではないだろう。おそらく何らかの強力な神器を持っているのだと予想する。

 

 刃の青年を認めた妖怪は、気さくな口調で答えた。

 

「おう、流石に速いな。ちょいと待ってろ、こっちもすぐに終わらせっからよ」

 

 その言葉に刃の青年は一瞬こちらを眺め、口を開く。

 

「『蛇持ち』はそいつと……そいつだ。今のうちに潰しておけ」

 

「あいよ」

 

「舐めるなよ、小僧どもッ!! 司令を返してもらうぞッ!!」

 

 軍団長が斧槍を振るう。

 巨体の膂力によって加速した得物が暴風と共に青年らへと迫る。激した様子は見かけだけなのだろう、技巧を凝らした鋭さだったが、しかし。

 

「わりいな……あんたの技、もう見切ってんだわ」

 

 言うが早いか、折れた斧槍が弾け飛ぶ。

 鉄棒が鎧を砕き、軍団長の腹を突き破っていた。

 同時に、妖怪の身体を覆うオーラが白色に輝き、棒を伝って弾ける。

 思わず目を覆うほどの眩さは浄化の力だ。その直撃を受けた軍団長は膝から崩れ落ち、絶命した。

 

 あっと言う間の出来事だった。

 刃の青年に気を取られてしまった兵長は、逃げる機会を失ったと悟る。率いた兵士ともども武器を構え魔力を漲らせ、襲撃者たちを見据えた。

 それに対し、軍団長の亡骸から鉄棒を引き抜いた妖怪が問いかける。

 

「なあ、降伏するなら命だけは助けてやらねぇことも無いんだけどよ、どうする?」

 

「愚弄するなよ下賤の妖怪め……!」

 

「ま、そう言うだろうな。――いくぜぃ」

 

 青年の姿が消え、気付くと鉄棒が胸を貫いていた。同時に浄化の力が流し込まれる。

 なんとあっけないことだろう。

 終わった、と確信する。

 意識が絶える直前、率いていた兵士が襲撃者らに襲い掛かる姿を見たが、次の瞬間に全員の首が飛んだ。

 ああ、これは。

 

(悪夢だ)

 

 心中の呟きは誰にも聞かれることなく、兵長の意識は闇に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

                  ―○●○―

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、俺このチームに要るかな?」

 

 そんな呟きが聞こえた。

 

「またか……どうした」

 

 声の主は金髪の青年、デュリオ・ジェズアルドだった。

 他のメンバーが無反応な中、チャクラの鍛錬を中断し話に付き合う修太郎。

 

 冥界での襲撃任務を終え地上に戻った彼らは、次の目的地を目指す列車の中でそれぞれの時を過ごしていた。

 黒歌は修太郎の膝を枕にして携帯端末をいじり、ヴァーリは窓の外の景色を眺め、美猴はいびきをかいて眠っている。ロスヴァイセは書類を作成しているのか、魔法をフル活用しつつ物書きに取り組んでいた。

 デュリオもまた、自身の隣に置いた鞄より書類を取り出し眺めているところだ。

 

「いやさ、このチーム滅茶苦茶強いじゃない? 特に後方火力なんかは猫さんと店員さんで間に合ってるし、白龍皇殿がいればもう俺にやることなんて……」

 

「デュリオさん、御託はいいので手を動かしてください」

 

「うへぇ……」

 

 デュリオの言葉はロスヴァイセの声に中断される。

 彼女の言い方が若干辛辣なのは、これが今まで何度も行われたやり取りだからだ。

 

「あーあ……シュータロくんがいるから結構楽できると思ったんだけどな……」

 

 そうぼやきながら書類に目を戻すデュリオ。

 その様子にかける言葉は一つ。

 

「頑張れ、リーダー(・・・・)

 

 未だ名称定まらぬ対テロ組織遊撃チーム、そのリーダーを務める人物こそデュリオだった。彼は上が送ってくる資料に目を通し、作戦の立案や、その成果の報告などを行わなければならない。

 

「く~っ、エクソシストだったころは、大体こういうの司教さまとか姐さんがやってくれてたからなぁ……つらいっスわ」

 

「すぐに慣れますよ。この程度の書類仕事は大した量ではありません。いずれは手伝いなしでもお一人でこなせるようにお願いします」

 

 答えるロスヴァイセは、デュリオの作った書類に手際よくチェックを入れている。

 流石、一人で課長職を務めていた人物は貫禄が違う。

 その言葉に項垂れながらも、デュリオは書類に目を通す。

 

 このチームの役割は、現在対応が後手に回りがちなテロ対策の状況を変えることにある。

 構成人数は現時点でデュリオ、ヴァーリ、美猴、ロスヴァイセ、修太郎、黒歌の6名。小隊規模にすら届かない少人数であるが、保持する戦力の規格外さは言うに及ばず。その高い潜伏性と機動力を以ってして、敵対勢力――つまりは『禍の団』への侵攻と情報収集を行う役目を担っていた。

 

 先ほど襲撃した敵の拠点では司令官と思しき悪魔を捕え、サーゼクスたちへと引き渡している。

 チームとして活動を始めてからおよそ一週間、これで4つ目の拠点制圧だ。ロスヴァイセは書類仕事を軽く大したことないなどと言うが、それは彼女が手馴れていることと、単純に能力が優秀だからこその話。勢力トップ直属という指揮系統を持つ以上、ある程度重要な部分の情報処理はこちらでこなさなければならない。デュリオも簡単な報告書や始末書を書いたことはあるが、これが中々つらかった。

 

「天使になるの、早まったかなぁ……」

 

 デュリオがリーダーを務めている理由は、彼が天使に転生したことに起因する。

 曰く、『御使い(ブレイブ・セイント)』。

 アジュカ・ベルゼブブが開発した転生器『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』の技術と、堕天使が提供した人工神器の技術を基に開発された天界の転生システムである。

 

 神を失った天界は、新たな天使を生み出すことができない。眼前に『禍の団』という脅威があり、またそれを乗り越えたとしても何があるかわからない現状、自勢力の人員確保は早い段階で行うべき事柄だ。

 『御使い』システムは主たる天使をキングとして、トランプに倣った配置で(エース)から(クイーン)まで12名の転生天使を作ることができる。

 現在は試験段階で、魔人の異形化する『蛇』の存在もあってか四大セラフ――ミカエル、ウリエル、ラファエル、ガブリエルの4名に絞り運用していると言う。

 

 その中でも、デュリオに与えられた役割は特別なものだ。

 すなわち『切り札(ジョーカー)』。どこにも属さず、しかし何にでもなれるカード。

 その名の示す通り、最強のエクソシストであったデュリオは最強の転生天使でもある。そして、次代のセラフ候補でもあった。故に、今の内から組織を率いる術を学ばせなければならないとして、小規模ながら人を纏める立場を経験させているのだった。

 

「ねえシュータロくん、今からでもいいからもう一枚の『切り札(ジョーカー)』にならない?」

 

「ならん」

 

 すげなく断る修太郎。

 信仰心を持たない修太郎が天使になっても、構成員として成り立たないだろう。性欲以外にも『堕ちる』要素がある以上、不適格だ。

 

「それよりもジョーカー、この列車はどのような目的でどこに向かっている。まだ聞いていなかったはずだが」

 

 外の景色を眺めていたヴァーリがデュリオを見てそう問いかける。

 端正な顔に不機嫌さを張り付けた彼は、実のところ強者を求めるべく自由に動きたくてたまらないはずだった。それでもチームとしての活動に付き合っているのは、アザゼルへの義理とテロ撃退の場が最も近く盛んな戦場であるからだろう。

 

 そんな白龍皇を前にしてさえ調子を崩さず、飄々とデュリオは答える。

 

「ああ、イギリスの……どこだったかな。うん、田舎町だね。その前に、『魔女の夜(ヘクセン・ナハト)』って知ってるかい、ヴァーリどん?」

 

 どん、などと言うデュリオの珍妙な呼び方についてはもう慣れたものだ。

 唐突な質問に、ヴァーリはよどみなく答える。

 

「……確かはぐれ魔法使いの集団だったと記憶している。それがどうした?」

 

「その通り。まあ、そんな碌でもない組織だから、構成員も碌でもない人たちばっかだったりするんだけど、それが『禍の団』に繋がってるかもしれないって疑惑があってね」

 

 『魔女の夜』に所属する魔法使いは魔法と言う特別な力に溺れ、自身の欲望を満たすために周囲への被害を顧みない者が多い。

 つまるところ『魔女の夜』はいわば無法者の集まりであり、その危険性と魔法使い全体の品位を損ねるふるまいから、多くの魔術結社に忌み嫌われている。

 力を求める傾向が強い彼らだ。かねてより『禍の団』とも何らかのつながりがあるのではないかと目されていた。

 

「つまりはそこを襲撃しろ、と?」

 

 つまらない、とでも言いたげな顔だった。

 ヴァーリとしては組織に組み込まれようとも強い者と戦えればどうでもいいのだが、ここ最近の戦いではあまり満足のいく相手と出会えていなかった。

 旧魔王派の主力級とされる人物はどれだけ強くともクルゼレイ、カテレア以下の実力でしかなく、巨大異形と化した敵も攻撃にさえ当たらなければヴァーリにとっては木偶も同然だ。

 

 それで今さら人間の魔法使いなど相手にしてどうなると言うのか。そもそも、魔法の実力でさえ大抵の者はヴァーリの足元にも及ばないのだ。

 『魔女の夜』には神滅具(ロンギヌス)を持つと言う魔女『紫炎のヴァルブルガ』なる使い手もいると聞く。楽しみとするならばそれぐらいだろう。

 そう考えるヴァーリに、しかしデュリオの返答は意外なものだった。

 

「違うんだなこれが。その『魔女の夜』からSOSが入ったのさ」

 

「なに?」

 

 デュリオの話によると、イギリスの魔術結社『黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)』に、ある日突然『魔女の夜』を名乗る魔法使いから救援要請が入った。

 その魔法使いの話では「組織が堕天使に襲われている。何人も攫われ、何人も喰われた。拠点の場所を教えるから、どうか助けてくれ」とのこと。

 どうやらこの要請は複数の魔術結社に打診されたようで、悪魔メフィスト・フェレスが理事を務める『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』にも同じようなメッセージが届いたらしい。

 

「堕天使……? グリゴリから『禍の団』に出奔した奴らか?」

 

「いや、どうだろうね。問題はこの『喰われた』って部分さ」

 

「ああ、悪魔ならばまだともかく、堕天使が人間を喰らうなど考えにくいことだ」

 

 ヴァーリの推測にデュリオが答え、修太郎が補足する。

 たとえば肉食の生物を素体とした転生悪魔ならば人を喰らいもするだろう。しかし元は神の被造物たる堕天使がそういった習性を持つという話は聞かない。

 ロスヴァイセが続ける。

 

「その堕天使の姿をした何かは、最近頻発している魔物狩りの失踪事件にも関与していると見られています。優れた魔法の武器や神器を持つ人間の戦士、または魔法の使い手が、それらと接触した後に消息を絶ったという証言があるのです」

 

「優れた魔法の使い手に、神器……なるほど、『紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)』が狙われていると言うわけか」

 

「『紫炎のヴァルブルガ』自身も魔法使いとしてはかなりの使い手らしいからね。それに『魔女の夜』の構成員も戦闘力だけならそこら辺の魔法使いより上だって聞いてる」

 

「逆に言えば、それほどの使い手がなりふり構わず助けを求めるほどの敵がいるということだ。それで、俺たちか」

 

「ふっ、それは胸が躍るな……!」

 

 修太郎の言葉にテンションの上がったヴァーリがオーラが膨れ上がらせると、対面の席で寝ていた美猴がようやく起きだした。

 

「……んん? どうしたよヴァーリ、なんか楽しそうだな」

 

「だがジョーカー、ならば急いで現場に向かうべきだと思うが。なぜこんなにのんびりとしている」

 

「無視かよ」

 

 ヴァーリの疑問はもっともだった。

 急ぎの案件ならばこうして列車に乗って向かうよりも、転移魔法なりなんなりで移動した方がはるかに効率がいい。

 それに対するデュリオの答えは。

 

「そりゃあ、今行っても遅いからだよ」

 

「なんだと?」

 

「救援要請が届いたのは三日前。近場の魔法使いが状況の確認に向かったのが二日前。その時点で『魔女の夜』の拠点は壊滅してるのさ。拠点はいくつかあったみたいだけど、それも昨日の時点で全部無くなっちゃってるんだよね」

 

 残念なことに、とデュリオ。

 現場には追跡・調査のための情報受け取りに行くのだと言う。

 ヴァーリは表情こそ変えなかったが、あからさまに落胆した様子になった。

 

「そんながっかりしないでよヴァーリどん。それにさ、現場に転移しようとするとうまくいかないらしいんだ。なんでも空間が複雑に歪んでるんだとか」

 

「おそらくは、対魔法使い用の転移妨害がまだ残っているのでしょう。聞く限り相当広範囲のようです。やはり敵はかなりの実力を持っていると見て間違いないですね」

 

 ロスヴァイセの分析にも、ヴァーリの表情は晴れない。

 出鼻を挫かれた感が抜けないのだろう。妙な所で年相応なところを見せる白龍皇だった。

 

「だがヴァーリ、こういった休憩できる時間というのは大事だ。たまにはリラックスするのも悪くはない」

 

 そう言う修太郎は、常在戦場が如く常に気を練っているのであまり説得力が無い。

 ヴァーリは仕方なさげに溜息を吐き、言葉を返す。

 

「……この程度でへばるような鍛え方はしていない。しかし、こういうことは俺よりも幾瀬鳶雄(いくせとびお)の方が適任だと思うんだがな」

 

「『刃狗(スラッシュドッグ)』殿は別行動だからねぇ。総督殿によれば、いずれ俺たちと合流するって話だけど」

 

 神滅具『黒刃の狗神(ケイネス・リュカオン)』の所有者、『刃狗』幾瀬鳶雄も本来であれば修太郎たちと行動を共にする予定だったが、神器使いなどの狙われそうな人物を保護する役目に回っていた。

 彼が選ばれたのは、人外である堕天使よりも同じ人間である鳶雄の方が何かと都合がいいからだろう。加えて、人柄も実力も申し分ない。

 ちなみに同じ人間であるはずの修太郎は、相手に無駄な緊張を強いる可能性が高いとして不適任とされている。

 

「そういや黒歌、お前は何してんだ?」

 

 未だ発言の一つすらもせず、寝転がる黒歌へ美猴が問う。

 時折デュリオたちの方へ視線を向けていたため、話を聞いていなかったわけではないようだが……。

 

「今冥界でやってるレーティングゲームの情報を見てたにゃん」

 

 そう言って、端末の画面を見せる。

 堕天使の科学力が無駄に詰め込まれた修太郎の端末は、地球上のネットワークだけでなく冥界までそのアンテナを伸ばせるらしい。

 映されていたのは悪魔界にて現在開催している、若手六家対抗レーティングゲームについてのまとめサイトだった。

 

「ああ、確かお前の妹ちゃんがグレモリーの眷族だったな。つーか、一応戦争中だってのにそんなのやってていいのかよ?」

 

「私はこれも政治的に意味があるんだって聞いてるにゃん」

 

「俺ら聖書の勢力は一纏まりになったけど、他の神話勢力に比べれば立場が弱いから、最初が肝心なのさ」

 

 六家対抗レーティングゲームの目的は、他神話勢力の重鎮と交流する場であるとともに、優秀な若手を通じて自勢力の実力を示すことにある。

 『聖書の神』という神話の根幹を失った彼らが今もなお他の勢力に飲み込まれないのは、世界最大の宗教として過去に築いた遺産があるからだ。故に今勢力としての弱みを見せるわけにはいかない。テロ対策にかかりきりになり、組しやすいと思われては今後の情勢に影響が出てしまう。

 新たな体制をとる以上、最初の勢いが肝要。たとえ実際のところが苦しくとも、対外的には余裕の表情を見せる場面だった。

 むずかしいよねぇ、とデュリオ。

 

「……あとは、平民階級の不安を煽らないようにする意味合いもあるはずだ。三大勢力が手を取り合った直後に不穏な空気が蔓延すれば、勢力和合そのものに否定的な意見を生み出しかねない。そこで民の視線を馴染みの娯楽に向ける。ようは、現状に対する目くらましというわけだ」

 

 デュリオの説明に補足するのは、意外なことにヴァーリだった。興味がなさそうに見えて、現状の考察は済ませていたらしい。

 

「はー、色々考えてんだなぁ。俺っちにゃめんどくさくてよくわかんねぇや」

 

「そりゃあんたに興味が無いだけでしょ、アホ猿」

 

「うっせ、お前に言われたくねえよ、バカ猫。そっちも五十歩百歩だろうが」

 

「やめろ二人とも。それで、ゲームがどうだと言うんだ、クロ」

 

 噛み付き合う二人を制して修太郎が問いかける。

 

「いや、この子ら優秀だにゃーと思って。見てよ、これ」

 

 そう言って端末を操作し、映像を空間に投影する。

 映し出されたのはレーティングゲームに参加する若手たちの情報だ。

 バアル、アガレス、グレモリー、シトリー、アスタロト、そしてグラシャラボラス。それぞれの『王』の能力評価が表示されている。

 黒歌の言うとおり、その数値はどれも軒並み高いが……。

 

「なんだこいつ、えらく能力が偏ってんな」

 

 美猴が示したのはバアルの『王』。

 他と比べて魔力が一段と低く、しかし一目でわかるほどパワーの数値が異常に高い。

 

「サイラオーグ・バアル。大王バアル家の次期当主で、若手最強。この前開かれたゲームでも、グラシャラボラスを破ってるにゃん」

 

 スクリーンにゲームの様子が流れる。

 緑髪の男を、体格の良い黒髪の青年が追いつめていた。青年――サイラオーグは肉体面で秀でているらしく、体術のみで相手の魔力攻撃を撃ち落としている。彼の身体は白色のオーラを纏い、一切の攻撃を受け付けていないようだった。

 

「闘気使いか」

 

「そ。シュウと同じ種類の闘気の使い手ね。このグラシャラボラスの方もそこそこやるけど、相手が悪いにゃん」

 

 超高密度の闘気は一定威力以下の攻撃を完全に無効化する。

 全身を巡る生命力の発露に自然消滅と言う概念は無く、高威力の攻撃で無理矢理剥がすか、消耗させるしかない。修太郎も同様の闘気を纏い多くの敵と戦ってきたのでよくわかる。

 画面で健闘するグラシャラボラスの悪魔は、悲しいかな火力が決定的に足りない。

 

「パワーはそれなりにあるようですが、彼に対抗できるほどではないのが辛いですね」

 

 ロスヴァイセの言葉は正鵠を射ている。中途半端なパワー型であるグラシャラボラスでは、パワー一極型のサイラオーグに敵わない。

 そうでなくとも、直接戦闘で彼に勝利できる者は六家の『王』にはいないだろう。

 

「特化型を真っ向から破るには、さらに特化した力を得るか、対極を極めた者であることが条件だ。もしもサイラオーグ・バアルを破るとしたら……」

 

「――赤龍帝。兵藤一誠か」

 

 修太郎の言葉にヴァーリが続く。

 力の権化たる赤龍帝ならば、サイラオーグ・バアルの異常なパワーも上回れるはず。現状では難しいかもしれないが、最も可能性が高い手だ。

 それ以外の方法を考えるとすれば、大勢で囲んで袋叩きにするか、何らかの搦め手を用いて嵌めるしかない。相手にも優秀な眷族がいる以上、それは至難を極めるだろう。

 

「で、どうなんだよヴァーリ。アザゼルに呼び出された時、ついでに赤龍帝にも会ったんだろ?」

 

「悪くは無い。以前見た時と比べて見違えるほどの成長を遂げていた。しかし俺を満足させるにはまだ足りないな。今後次第だろう」

 

 美猴の質問に答えるヴァーリは、そこはかとなく期待感を持っているようだ。

 二天龍の運命に従うならば、いずれ戦うことは必定。兵藤一誠には厳しい未来が待っている。

 

「そういや俺、まだ赤龍帝殿と会ったことなかったなぁ。歴代で一番弱いって聞いたことあるけど、どうなのシュータロくん?」

 

「能力面で光るものは見られないが、意志は強いように感じた。強くなるならば、それさえあれば十分だ」

 

 一誠とはあまり交流したことがないものの、匙やゼノヴィア、小猫から話を聞いて人となりは知っている。前に進む意志さえあれば、きっと彼は強くなれるだろう。

 そう答えつつスクリーンを見る修太郎は、何かに気付いた。

 

「この男は……」

 

 画面に映る六家の上級悪魔、その一人に見覚えがあったのだ。

 名前はディオドラ・アスタロト。この優しげな風貌の美少年を、修太郎は以前見かけたような気がした。

 情報を詳しく見る。

 アスタロト家は現魔王アジュカ・ベルゼブブを輩出した名門だ。

 どうやら既にアガレス家とゲームを行ったらしく、アスタロトは下馬評通り順当に負けていた(・・・・・・・・)。次はグレモリー家とのゲームが控えているようだが、まとめサイトによれば勝率は低いとのこと。

 

 どこで会っただろうか、すぐには思い出せない。敵対した相手の気配は忘れないので、実際に会えば敵だったかどうかの判断はできるだろうが……。

 

「そういや、このチームをゲームで考えたら誰がどのポジションになるんだろうかねぃ?」

 

「私は『僧侶』二つだからもう決まってるにゃん」

 

「そもそも、誰が『王』になるんでしょう」

 

「ヴァーリかデュリオじゃない?」

 

「いや、俺天使だし」

 

「じゃあヴァーリね」

 

「俺は駒など持っていないし、貰うつもりも無いが」

 

「たとえよ、たとえ。ちょっとしたお遊びにゃん」

 

「俺っちは『戦車』あたりが妥当だと思うんだが、どうよ? 腕力と頑丈さには自信があるからな」

 

「逆に『騎士』で素早さを高めるという選択肢もありなのでは?」

 

「シュウに二つでスピード倍プッシュじゃダメかにゃ?」

 

「シュータロくんなら『兵士』でもいいと思うけどね。元から充分速いんだから、プロモーションを活かす形でさ」

 

 気付くと何やら会話が弾んでいる。

 ともあれ疑問は置いて、今はこの時間を楽しむ方が有意義だろう。わからないことに悩んでも仕方がない。

 

 列車の振動に揺られながら、一同は目的地まで歓談を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

                  ―○●○―

 

 

 

 

 

 

 

 透き通った湖面に青空が映り、太陽の柔らかな光が降り注ぐ。水面の煌めきは散りばめられた宝石のように、深緑の森を彩った。

 耳を澄ませば小鳥のさえずりが聞こえる。風によるものか、それとも小動物か何かが移動しているのか、茂みが騒ぐ様子が感じ取れた。

 以前までと比べてそれを自然と思うのは、この環境に慣れ親しんだ証拠なのだろう。かけた眼鏡の位置を整え、ローブの青年は一つ大きく深呼吸をした。

 

 澄んだ空気が肺の中を満たすと、心なし身体が軽くなった気がする。

 魔術的に言えばマナ、仙術的に言えば気、あるいはプラーナ。それがこの場には満ちている。繊細な魔術を編み上げるにおいて、これ以上の環境は無いだろう。長い時間を場の構築に割いた甲斐があるというものだ。

 

「あらゲオルク、ここにいたの」

 

 背後からの声に振り向くと、金髪碧眼の美女がいた。

 彼女は青年――ゲオルクの仲間だ。

 

「ジャンヌ。何かあったのか?」

 

「もうお昼だから呼びに来たのよ。ご飯、食べるでしょ?」

 

「ああ、少し待ってくれないか。術式の状態を確かめているんだ。何せ、初めての試みだからな」

 

 湖面の中央に、光り輝く魔法文字で覆われた球体が浮かんでいた。百を優に超える層で構成された立体魔法陣は、時を刻むように目まぐるしく文字の配列を変えている。

 その複雑さ、巧妙さは筆舌に尽くしがたい。凡百の魔法使いでは扱うどころか機能を把握することさえ不可能だろう。

 

「――曹操たちの様子はどう?」

 

 そう言って、ジャンヌも魔法陣に目をやる。

 

「曹操もジークフリートも、あの中で楽しくやってるだろう。まったく、修行のためにこんなものを用意させるなんて、人使いの荒いリーダーだ」

 

「きっと悔しかったんでしょ。あの魔人、全力でやっても倒せなかったもの」

 

「途中から一対一に持ち込めばそうなるのは当然だ。戦力を持ってきた意味が全くなかったじゃないか」

 

「でもそのおかげでこっちは一人も死ななかったわ」

 

「…………わかっているさ」

 

 ジャンヌの言葉にゲオルクは渋面を作る。それについては重々承知しているのだろう。

 京都近海で捕捉した魔人との戦いは、最終的に痛み分けで終わっていた。

 魔人は今まで彼らが戦ってきた中でも最悪の強敵だった。多くのメンバーが死ぬだろうと誰もが思った。

 だがそれでも、ゲオルクの計算では十分勝利できる戦力があったはずだ。しかし犠牲を嫌った曹操の独断専行によってそうはならなかった。

 結局、魔人と曹操の激突で大規模な破壊が巻き起こり、それが相手を逃がす隙を生み出してしまう。あと一歩のところで作戦は失敗したのだ。

 

 曹操率いる『天明旅団(デイブレイカーズ)』は、北米を中心に全世界で活動する魔物狩り集団だ。

 今までは神話勢力の介入を避けるべく神滅具の本格利用を避けてきたが、それも今回の戦いで白日の下に晒されてしまっただろう。まだ『天明旅団』自体は捕捉されていないものの、今後の煩わしさを考えるとゲオルクは頭が痛くなった。

 

「……術式は安定しているようだ。帰ろう、ジャンヌ」

 

「はいはーい」

 

 ゲオルクはローブの裾を翻し、ジャンヌと共に森を抜ける。

 目の前が開けると、丘の上から景色が一望できた。

 広大な草原に風がそよぎ、蒼天の空はどこまでも広がっている。遠くに見える山々は深緑で彩られ、生命の息吹を感じさせた。この世界をいったい誰が作られたものと思うだろうか。空間全体から伝わる命の鼓動は、一つの生態系を確立させている。

 ここは神滅具『絶霧(ディメンション・ロスト)』の力によって形成された異界だった。

 

 ふと、上空より影が差す。

 見上げれば、ゲオルクたちの頭の上を巨大な有翼獣が通り過ぎて行った。獲物を探す有翼獣は、風を切り裂きながらはるか遠くへ飛び去った。

 草原を歩いて行くと、そこかしこに獣の姿が見て取れる。しかし先ほどの有翼獣と同じく、そのどれもが尋常の生物ではなかった。六足の獅子や多頭の蜥蜴など、全てが一つの例外もなく魔獣と呼ばれる存在である。

 

 ゲオルクたちは魔獣を無視する。魔獣たちもゲオルクらを無視した。

 見ると、ゲオルクとジャンヌの身体を薄く霧が覆っている。ここはゲオルクらが作った世界だが、その住人たちは彼らを神と崇めたりはしない。それぞれが持つ野生に従い、隙を作れば当然襲い掛かってくるのだ。例外は創造主たるレオナルドぐらいのものだろう。

 

 しばらく歩くと、大きな川のほとりに集落が見えた。

 集落、と言ってもその規模と趣は町に近い。事実、ここは数百名からなる『天明旅団』メンバー全員が生活する町そのものだった。

 旅団メンバーの大半は神器や特異な血筋によって人生を狂わされた者たちだ。世界を股にかけ活動していく中で、曹操がそういった人々を片っ端から保護していった結果、かなりの大所帯になってしまった。

 おかげで戦闘員よりも非戦闘員の方が圧倒的に多くなる始末。何故かこうして町まで出来てしまって、今後の管理にゲオルクが頭を悩ませる事態にまで発展している。今はいいが、数年後、数十年後はいったいどうするつもりなのだろう、と曹操を恨まずにはいられない。

 

「そう言えば、外に出てる何人かのメンバーに『刃狗』から接触があったって。彼ら、神器使いを保護して回ってるみたい」

 

 町の門をくぐりながら、ジャンヌが報告してくる。

 レオナルド特製番人魔獣の会釈を受けつつ、ゲオルクは思案した。

 

「『刃狗』……堕天使勢力か。同業者の失踪騒ぎはこちらでも把握してるが、そうなると『禍の団』――いや、魔人絡みと見た方がいいな。曹操が戻ってくるまでに調査と準備を進めよう。きっと、すぐに動きたがるはずだ」

 

 曹操がいない間は参謀役たるゲオルクが旅団を纏めなければならない。やることは山積みだが、もう慣れたものだ。

 頭の中で段取りを立てていると、騒がしい声が聞こえた。

 

 そちらに目を向ければ、広場でヘラクレスが大勢の子供にたかられている。腕に足に身体に頭に子供を纏わせているその姿は、控えめに言っても異様だ。顔が見えないため、オーラを見なければヘラクレスとわからない。

 ヘラクレスはゲオルクたちに気付くと、こちらに近づいてくる。言っては悪いが、その姿は珍妙な怪人そのものだ。

 

「……ゲオルク、助けろ。昼飯食ってちょいと相手してやったらガキどもが調子に乗って離れなくなった」

 

 しがみつく子供の足に口をふさがれ、くぐもった声で話すヘラクレス。

 それに対し、キャッキャと喜ぶ幼い子供たち。彼らもまた、生まれながら備わった力によって世間から見放された過去を持つ。かつては笑顔すら知らなかった子供たちが楽しんでいる様子は素直に微笑ましい。

 初めて出会った時のヘラクレスは子供嫌いだったと記憶しているが、変われば変わるものだ。邪魔をしては忍びない。

 というわけで。

 

「おい待て、無視すんなゲオルク!」

 

 踵を返すゲオルクを制止するヘラクレス。

 それに構わず立ち去ろうとするゲオルクだったが、引き留める力を腕に感じた。

 振り向くと、一人の少女が小さな手でローブの袖を掴んでいた。

 

「ゲオルクお兄ちゃんも遊ぼ?」

 

「う……いや、俺は……」

 

 この後はやることが山積みだ。遊ぶ暇など微塵も無い。しかし、このような子供にどう説明すればわかってもらえるだろうか。邪険に断って泣かせてしまうのも面倒だ。第一、まずは食事を摂らなければ。

 天才魔術師としての思考力を無駄にフル回転させるゲオルクを見かね、ジャンヌが少女をたしなめる。

 

「ゲオルクお兄ちゃんは忙しいからダーメ。私たちのためのお仕事がいっぱいあるの」

 

「えー……」

 

「あとでお姉ちゃんが遊んであげるから、それまでヘラクレスおじさんと遊んでなさい」

 

「おい、誰がおっさんだコラ」

 

「んー……わかった! お仕事頑張ってね、ゲオルクお兄ちゃん!」

 

「あ、ああ」

 

 ぎこちなく手を振って少女を見送りつつ、内心でほっと息を吐く。どうにも子供は苦手だった。

 

「悪いな、ジャンヌ」

 

「別にいいわ。でもいいかげん少しは相手できるようにならないとね」

 

「……子供の思考はわからないんだ。どう対応してもうまくいく気がしない」

 

「難しく考え過ぎ。変な所で不器用なんだから。フィーリングでいいのよ、フィーリングで」

 

「……それがわからないから困っているんだが」

 

 ゲオルクが子供たちと遊ぶには、まだまだ時間がかかりそうだった。

 そんなゲオルクに苦笑して、ジャンヌはそういえば、と疑問に思ったことを尋ねた。

 

「ゲオルク、あの修行空間って私たちは入れないの?」

 

「あれは極めて繊細な制御の下に成り立っているから、普通の人間と違って英雄の魂を引き継ぐキミらだと専用の調整が必要になる。今すぐは難しいな」

 

「ふぅん、まあいいわ。どっちにしても、使う気にはなれないもの」

 

 興味を失ったのか、ジャンヌは話を打ち切った。

 次にあの空間から出てきた時、はたして曹操とジークフリートはどれほどの力を手にしているだろうか。興味は尽きない。

 何にせよ、これから忙しくなることは決定事項だ。自分は参謀役として、せいぜい力を尽くすとしよう。ゲオルクはそう思いなおす。

 

 

 

 

 

 ちなみに昼食はジャンヌが作ったのだが、それを残さず食べさせられたゲオルクは、子供たちと遊んでいた方がましだったと後悔した。

 

 




お待たせしました更新です。
今回は二つのチームの話になります。

原作通りデュリオは天使に。
その代わり転生天使の総数はかなり少なくなっています。
ディオドラ? 普通に負けましたが何か?

そして綺麗な英雄派メンバー。
改めて思う誰だこいつら。

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