剣鬼と黒猫   作:工場船

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第二十話:迷子の子猫

 

 

 プールで皆がかき氷を食べているその頃。

 修太郎は小猫によって投げ捨てられた黒歌の水着をまだ見つけることができずにいた。

 生命体や力ある物品の気配には敏感な修太郎だが、失くしたのは何の変哲もない市販の水着だ。流石にそんなものを見つけるような技は身に着けていない。

 とはいえ、投げられた方向は合っているので、これだけ探せばもう見つかってもいいはずだ。

 

「……無いな」

 

 しかしどうにも見当たらない。木の上を見ても、茂みの中を探っても、どこにも無かった。

 まさか誰かが拾って持って行ってしまったのだろうか? そうなるとお手上げなのだが……。

 

(もう少し探してみるか)

 

 今日は日曜日だ。学園の内からも外からも、感じる気配は非常に少ない。自身の捜索に見落としがあったと考える方が自然だろう。

 再び水着探しに戻った修太郎だったが、背後から近づく気配を感じ、そちらに振り向く。

 

「暮修太郎。やはりキミか」

 

「……ヴァーリ」

 

 現れたのは銀髪の少年、白龍皇ヴァーリ。

 少年は片手に黒い何か――ビキニのブラを持っている。見る人が見たら完全に不審者だが、本人にその事を気にしている様子は微塵も無い。

 修太郎の目線がそれに集中していることに気付いたヴァーリは、口を開く。

 

「ん、これか。突然俺の頭に降ってきたんだ。ここの敷地内にいる誰かの物だろうと思って、返すために持ってきたんだが……」

 

「すまんな。おそらく俺の連れの持ち物だ」

 

「なるほど、あの猫又か……。経緯はわからないが、それならキミに渡しておこう」

 

「ああ、礼を言う」

 

 どうやら濡れた水着は想定よりも飛距離を伸ばしたらしい。

 それにしてもこの少年、意外と律儀である。一歩間違えればそのまま変態認定待った無しであるというのに。

 ともあれ無事目的の物を見つけることができた修太郎は、黒歌の下に戻るべきなのだが……。

 

「そういえば、お前はなぜここにいる?」

 

 この少年が無意味にやってくるということは無いだろう。気になったので質問をしてみた。

 

「俺は今、アザゼルの付き添いでこの街に滞在しているんだが……まあ今回ここにやってきたのは退屈しのぎかな。この前はすぐに帰ってしまったから、学び舎という物をゆっくり見てみたかった」

 

 俺には縁の無かった場所だからな、と答えるヴァーリ。

 

「そうか……」

 

 修太郎にもその気持ちはわからないでもない。

 中学校時代のほとんどを退魔剣士として活動してきた修太郎だ。卒業できたのが奇跡と言われるほど授業に出席した覚えがなく、それきり高校受験もできなかったため、学生生活にはとんと縁が無かった。

 小学校の頃の記憶も、もはやあやふやである。友達だった人物の顔さえ思い出せない。

 

「ならば授業がある日に来た方が良かったのではないか? そもそも、お前の年齢ならば入学することも不可能ではないだろう」

 

「それもいいかもしれないが、気まぐれの行動だ。俺はこれでいい。第一、一応のライバルと同じ学校というのはな」

 

 自然体で言われてしまえば、修太郎に話すことは何もない。

 別れの言葉を告げて立ち去ろうとすれば、ヴァーリから声がかかった。

 

「暮修太郎、キミは自分が世界で何番目に強いと思う?」

 

 突然の質問に、修太郎はヴァーリの目を見つめて答える。

 

「考えたことは無いな。必要であれば相手が何でも斬るつもりではあるが」

 

「フッ……キミらしいな。俺は一番になりたい。『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』、『D×D(ドラゴン・オブ・ドラゴン)』グレートレッド……。いずれ奴を倒すのが俺の夢だ」

 

 ――『真なる白龍神皇』。

 それを目指すのだとヴァーリは言う。

 

「それを成すには今の俺じゃ足りない。なあ暮修太郎、強くなるためには何が一番手っ取り早い?」

 

 修練あるのみ、と答えても少年は納得しないだろうことは修太郎にもわかる。彼がそれをやっていないはずは無いからだ。

 

「強敵を打倒することだ。命の危機を己の覚悟と才で乗り越えてこそ力は飛躍する」

 

「そう、その通りだ。キミはそうして強くなったと聞いている」

 

 しかし。

 

「今の俺に格上となる相手がどれだけいる? 魔王か? 熾天使か? あるいは――神仏か? 今度の会談でおそらく、三大勢力の和平が成立するだろう。最も目立つ争いを続けていた勢力が手を取り合うんだ。今も昔も他の神話勢力は動かない。強敵と戦える機会なんて、無い」

 

「お前には赤龍帝が、あの少年がいるだろう」

 

 修太郎の言葉にヴァーリは失望したかのような笑みを浮かべた。

 

「兵藤一誠、だったか。調べてみれば何のことは無い普通の元人間だ。普通の両親、普通の生い立ち、普通の才能――歴代赤龍帝に見られた優秀な力は何処にも無い、ただの男子高校生。たとえ禁手(バランス・ブレイカー)を完成させても俺の相手にはならない」

 

 それは確信から来る言葉だった。

 兵藤一誠の能力に関しては修太郎も同じ感想である。身体能力、反射神経、運動神経、どれをとっても一般人に毛が生えた程度。感じられる魔力の波動も微弱極まる。その点に関して言えば、ヴァーリに同意するより他は無い。

 しかし――――。

 

「ヴァーリ。それは相手を舐め過ぎだ。たとえ彼自身に特筆すべき能力が無かろうと、コカビエル戦で起こした神器の輝きを見なかったわけではないだろう。神器は所有者の強い意思に応えると聞く。人の意思が持つ力を侮っては痛い目を見るぞ」

 

 何かを持つ者よりも、何も持たない者が示す意思の力は時に思いもがけない結果を呼ぶ。窮地であればある程、顕著に表れるそれを修太郎は経験で知っていた。

 予想外の反論に、ヴァーリはやや驚いた顔をした後、わずかに笑う。

 

「キミがそこまで言うなら――そうだな、期待だけはしてもいいかもしれない。だが、それだけでは足りないんだ」

 

「強敵が欲しいのであれば、自ら探せばいい。世界は広い。俺も何度か死にかけた」

 

 それこそ修太郎のように世界を旅すれば様々な人物に出会える。いずれ強い者とも当たるだろう。

 当たり前のように指摘する修太郎を、ヴァーリは羨ましげに見つめた。

 

「キミであればそれもいい。しかし俺は白龍皇で、堕天使の勢力に属し、そして――いや、これはいいか。ともかく、俺の立場は自由に動けない。こんなに息苦しくては、生きる意味が無い」

 

「だからお前はどうしたい。会談を台無しにしたいとでも言うつもりか?」

 

 右手のリングを確かめる。

 もしもそれを目的に暴れるつもりなら、今ここでこの少年を斬らねばならない。

 

「いや、会談自体は別にどうでもいい。和平でも何でも好きにすればいいさ。ただ俺は、俺のこの状況が変わってほしいと願っているだけだ」

 

 様子を見た限り、その言葉に嘘は無い。本当に会談そのものへの興味は無いようだった。

 となると、一つの疑問がわく。

 

「……何故それを俺に話した」

 

「さあ、何故だろう。実のところ俺にもよくわからない。単なる気まぐれかもしれないな」

 

 そう言って、ヴァーリは背に光翼を広げた。

 莫大な龍のオーラが開放され、大きな風が巻き起こる。

 

「本当は赤龍帝にでも会っていこうかと思っていたんだが、それはまたの機会にとっておこうか。今日はキミと話せて満足したよ。また会おう、暮修太郎」

 

 次の瞬間、一筋の閃光となって天へ登っていく。

 太陽の光に紛れ、その姿はすぐに見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

                   ―○●○―

 

 

 

 

 

 

 

 姉から逃げ出した塔城小猫は学園を囲む壁を飛び越えた後、一人街を歩いていた。

 行くあても無く商店街を回り、デパートを彷徨って、雑居ビルの立ち並ぶ路地を往く小猫は、傍から見てまるで迷子のようだ。

 何故自分は逃げ出したのだろう? 姉が――黒歌が怖いから?

 

(違う)

 

 再会から時間も経ち、当初抱いた恐怖心は薄れている。単純に、自分が姉を許せていないことが大きい。

 密かに盗み聞いたリアスの推測によれば、もしかすると黒歌は小猫を助けに来たのではないか、と言うことだった。しかし、それが何だと言うのだろう。今現れるなら、自分が最も辛かった時期に助けてくれればよかった。

 

 しかし、そのことが逃げる理由になるかと言えば、やはり別だろう。

 許す、許さないの判断は、それこそ姉の話を聞いてみなければ下すことなどできはしない。

 

 怖いのは姉ではなかった。小猫が真に恐れるのは、話を聞いた後なのだ。

 許せなかったとして、自分は姉をどうするべきなのか? たとえ許すとして、以前と同じ姉妹の関係に戻ることは可能なのだろうか?

 

 そして、小猫の決断を受け、姉がどういった対応をとるかわからない。今の小猫には、戸惑いから姉を直視できない少女には、姉の心がわからないのだ。少女が知る最後の姉の姿とは、邪気に狂ったはぐれ悪魔だった。

 姉は強い。以前とは比べ物にならないほどに強くなって、自分の前に現れた。

 もしも彼女がその気になれば、こんな町数分で消えて無くなってしまうだろう。リアスを含め自分たちでは抗いようも無い。

 そうなることが恐ろしい。

 

(……違う、そうじゃない)

 

 否定する。

 今の姉が暴れだす根拠など何処にも無い。だからこれは、自分が臆病なだけなのだろう。

 起こってもいない出来事を理由に、向き合うことから逃げている。

 

(いっそのこと敵としてやってきたなら……)

 

 はっきりと拒絶の言葉をかけることができたのに。

 そう思う。

 

 しかし状況はそうではない。いずれ解決しなければいけない問題であることは明白だ。

 

(私は何をやっているんだろう?)

 

 途方に暮れて立ち止まった小猫は、ふと横を見る。

 そこは映画館だった。小猫がいつも行くような小奇麗な場所ではない、古びた建物だ。流行っていないのか、休日だというのに人の気配はほとんど無かった。

 それもそのはず、看板を見れば上映タイトルはどれも一昔以上前の作品ばかり。あまり詳しくは無いが、確かこういうのを『名画座』と言っただろうか。

 DVDやBDのレンタルショップが充実している昨今、映画ファンならともかく、これでは一般の客は釣れないだろう。立地の悪さもそれに拍車をかけているようだった。

 

 人がいないのならちょうどいい。歩くのにも疲れた小猫は、ここで時間を潰すことにした。

 

 中に入れば古いコンクリートとわずかな埃の匂い。個人で経営しているのか、受付には老人が一人だけ。もしそうなら贅沢な趣味だ、と小猫は思った。

 老人は小猫の姿を認めると、珍しいものを見たような表情になった。確かに子猫の様な少女には似合わない場所だろう。

 聞けば、もう10分も前に上映を開始しているらしい。今日のプログラムは昔の怪獣特撮映画のようで、上映途中である事も踏まえ「嬢ちゃん大丈夫かね?」と念を押された。

 小猫としては別段何か見たいものがあって来たわけではない。大丈夫だと答えると、「最近の若い子の間で流行ってるのかねえ……」などと呟きながら代金を請求されたので、支払って中に入った。

 

 扉の向こうは、所謂ミニシアターと呼ばれる程度の小さなものだった。怪獣特撮、とのことだったが、まだ話の導入部分だからなのかスクリーンには怪獣の影も見えない。

 見渡せばやはり席は空いていて、まばらにいくつか埋まっているだけだ。

 大半は中央付近の列に座っているが、小猫は一番後ろの列の端に陣取った。

 とはいえ、この狭さだ。どこにいても映画の内容を確認するのに困るようなことは無いだろう。小猫としては正直、あまり興味が無いのだが。

 

 しかし、何かに集中していればその分他のことを忘れることができる。小猫はスクリーンに目を向けた。

 内容としては、簡単に言えば亀の怪獣が地球の危機を救うために敵の怪獣を倒すといったものだ。

 どうやら三部作なようで、一作目は蝙蝠の様な怪獣、二作目は虫の様な怪獣、三作目では一作目の怪獣がパワーアップしたような怪獣が敵として出てきた。昔の作品と侮っていた小猫だが、戦闘部分はとても迫力がありかっこよく、三作目の空中戦などは思わず見入ってしまった。

 

 悪魔の仕事で知り合った人たちの影響から、ゲームや漫画、アニメにはそれなりに詳しいつもりの小猫だったが、特撮――特に怪獣関連はそこまで明るくない。

 もしも実際に自分が戦うとなったら……などと考えてしまうのは、似たような存在が実際にいることを知っているからだろう。とはいえ、流石に数十メートル級の魔獣に敵うなどとはとても思えないのだが。

 しかし何というか、新しい道が開拓できそうな心持ちだった。

 

 時計を確認すれば、もう夕方の時刻だ。そろそろ帰らなければならないのだが、そこで問題に気付く。

 今いる場所がどこなのかわからないのだ。

 道理でこんなところに映画館があるなんて知らなかったはずだ。体感的に隣町付近だと思うが、考えなしに歩いていたので道など覚えておらず、少々面倒なことになってしまったと後悔する。

 夏のおかげかまだ日は高いものの、近いうちに暗くなるだろう。最悪、空を飛んでいかなければいけないかもしれない。

 溜息を一つ吐いて、映画館の外に歩き出そうとしたその時。

 

「ちょっと待って、そこの女の子!」

 

 呼び止められて、振り向く。言っては悪いがこのような寂れた場所に小猫以外の『女の子』はいない。

 声の主はこの辺りでもあまり見ないだろう、金髪碧眼の外国人女性だった。女性はにこやかな笑みで小猫に話しかける。

 

「これ、キミのでしょ?」

 

 差し出されたのは黒猫のワンポイントが施された財布。確かに子猫の物だ。映画の席に落としていってしまったのか、実に危ないところだった。

 

「……ありがとうございます」

 

「別にお礼なんていらないわよー? 偶然見つけただけだし。でもあなたみたいな女の子が怪獣映画だなんて、もしかしてファンだったりするのかしら?」

 

「いえ、何となく入ってみただけです」

 

「うーん、やっぱりそうかぁ……。もしかしたら家の子と話が合うのかと思ったんだけど、今日日そんな子いないわよねぇ」

 

 小猫の言葉に女性は少し残念そうな表情で後ろを見た。

 小猫もそちらに目を向けると、そこには一人の少年。目深にかぶったハンチング帽から覗く欧州風の顔立ちは、彼が異国の生まれであることを表している。少年は、ちょうど肩から下げた鞄から携帯ゲーム機とイヤホンを取り出しているところだった。

 

「こら、レオナルド。歩きながらゲームなんてやってたら、また電柱にぶつかるわよ?」

 

「……ジャンヌ、引っ張って?」

 

「嫌よそんなめんどくさい。自分で前を見て、自分で歩きなさいな」

 

 レオナルドと呼ばれた少年はやや不満げな顔でゲーム機を鞄に戻す。あまり似ていないが、この二人は姉弟か何かだろうか?

 様子を見ている小猫に気付いた女性――ジャンヌが笑顔で話す。

 

「この子ってば、怪獣やモンスターみたいなのが大好きでね。今日だって本当はこんなところに来る予定じゃなかったんだから。最近はうちの野郎連中に影響を受けたのか、色々な漫画とかアニメにも嵌まり出してもう私じゃ話に着いて行けないし……。キミはそういうの詳しい方?」

 

「……人並み程度には」

 

 そう言って、目を逸らす。

 詳しい方と言えばそうだろうが、自分の契約相手たちと比べれば人並みなはず。……そのはずだ。

 

「ふーん……。結構詳しいと見たわ」

 

 何故か見破られてしまった。

 わかりやすいわねー、と笑うジャンヌは、実に愉快げだ。

 

「そういうことなら、ね、ちょっと話さない? 今はまだ明るいけどこんな時間だし、ここら辺は路地裏が近くて女子供だけじゃ危ないかもしれないしね。大通りまで一緒に行きましょ。あなたさえよかったら、だけど」

 

 どうやらこの女性は道をある程度把握しているようだ。密かに迷子状態な小猫としては、まさしく渡りに船だった。

 

「大通りまでなら……」

 

「決まりね、さあ行きましょう」

 

 歩きながら、女性――ジャンヌとは様々なことを話した。

 小猫の名前に始まり、学年、趣味、特技などなど。話すと言っても、実際は聞きだされたに近い。彼女はとても明るく朗らかで、質問と共に相手の話しやすい雰囲気を作ることに長けているようだった。あまり長い会話は得意でない小猫だが、つい余計なことまで喋っていたように思う。

 とはいえ、自分が悪魔であることなどは流石に話していないが。

 

 その彼女たちは休日ということで街に繰り出したらしいが、レオナルドがあの映画館を見つけたことで、本来ショッピングを楽しむはずだった時間をまるまる消費してしまったとのこと。文句を言いながらもわざわざ付き合う当たり面倒見はいいのだろう。手馴れている感がありありだった。

 

「そういえば小猫ちゃん、映画はどうだった? 亀怪獣のやつ」

 

「ジャンヌさんは見ていないのですか?」

 

「うーん、最初の一作目は見てたんだけど、二作目の途中で寝ちゃったのよねー。小猫ちゃんは全部見たんでしょ?」

 

 ジャンヌの質問に頷く。

 

「ほら、レオナルド。小猫ちゃんアレ全部見たそうよ? ぼーっとしてないであなたも何か話しなさい」

 

 話を振られた少年・レオナルドが小猫の目をじっと見る。どうやら小猫の感想を待っているらしい。

 素直に迫力があってかっこよかったと伝えると、やや目を見開いて驚きを表した。小猫の言葉は意外であったようだ。

 

「……昭和シリーズもいい。映像的には今と劣るけれど、ヒーローみたいで僕は好きだ」

 

 日本の怪獣映画には、怪獣が何かを守るために戦う作品もある。少年はそれが好きらしい。

 

「そう言うなら、今度見てみようかな」

 

 小猫の返答にレオナルドは満足げに頷いた。

 今回の映画を見て興味が出たのは事実だ。何にしても今度、レンタルショップで借りてみようと思ったのだ。

 そして少年はそれきり黙ってしまう。あまり口数の多い方ではないのだろう。

 

「ヒーローって言うなら、私はあれが好きかな。ほら、最近のライダー。イケメンが戦うところって絵になるわよね」

 

 仮面被ってるけど、とジャンヌ。

 確かに二枚目の戦う姿は絵になる。小猫は木場を思い浮かべた。

 

「戦隊物もありますけど」

 

 朝のアニメを見る目的で、小猫もそういった番組は目に入れている。とはいえ、ここ数年のものしか知らないのだが。

 

「うーん、多数で一人をボコるのはどうもねー。いや、戦力的な問題とか何かしら事情はあるんだろうけど、絵的にあんまりね」

 

「……でも巨大ロボは好きだ」

 

 小猫の質問にジャンヌが答え、レオナルドが自分の好みを語る。

 しかし二人とも見るからに外国人なのに、随分とそっち関係に詳しい。気になったので聞いてみる。

 

「何故そんなに、日本に関して詳しいんですか?」

 

「詳しいって言うのかしら、これ。まあ、私たちの場合は知り合いのバカ一人が日本マニアっていうか、ヒーローマニアっていうか? 私もこの子もそいつの影響が大分強いのかもね」

 

「……アレは筋金入りだから」

 

 笑いながら語るジャンヌに、レオナルドが同意する。

 日本マニアの外国人……そういえばリアスもそんな感じである。彼女の場合はまた少しベクトルが違うが。

 

「でも、あんなのでも一応私たちの……なんて言えばいいかな、家長? ああそうだ、大黒柱みたいな存在だからね。別に面白くないわけじゃないし、それぐらいは付き合うわよ」

 

「……イマジネーション強化」

 

 まんざらでもないように二人は答える。

 

「大黒柱……父親か何かですか?」

 

「ううん、違うわ。私もこの子も身寄りがないから、まあ、孤児院の院長とか、取りまとめ役みたいな感じね」

 

 何でもないように言うジャンヌ。

 身寄りがないという言葉に、一瞬地雷を踏んでしまったかと思ったが、別段二人に気にした様子は見られない。

 口元に笑みを浮かべながら流し目でこちらを見るジャンヌは、続けて口を開いた。

 

「そして私は皆のおねーさん役……ってところかしら? だから小猫ちゃんが何かに悩んでるのもお見通しよ?」

 

「――っ!」

 

 一転して緊張した表情になる小猫に対し、ジャンヌは微笑んだままだ。

 

「会ったばかりだし、詮索しようとは思わないけどね。でもまあ、事情を知らないからこそ話しやすいってのもあるかもしれないし――」

 

「……ジャンヌ」

 

 レオナルドが言葉の先を折る。

 あっ、と口を開いたまま固まるジャンヌ。

 

「あーははは、ごめんなさい。つい、いつものノリでやっちゃった」

 

「……いえ、気にしてません。初対面の人にもわかるようなことをしている私が悪いんです」

 

 謝るジャンヌに、小猫が答える。

 確かに休日のあの時間、制服を着てあんな辺鄙な場所にいれば何か訳ありと思われても仕方がないだろう。それならば、指摘されても文句は言えない。

 

「そう言ってもらえると助かるわ」

 

 そうして三人路地を歩く。

 程無くして大通りが見えはじめた。道路を走る車のヘッドライトが眩しい。

 気付けば日はすでに半分以上沈み、東の空から夜の闇が近づいてきている。

 

「そろそろお別れね。最後にお節介だけれど、これだけは一応言わせてちょうだいな。家の人には心配かけないようにするのよ?」

 

「はい、わかっています」

 

 よろしい、と満足げに笑んだジャンヌは、本当にこういったことに慣れているようだった。“お姉さん役”というのは嘘ではないらしい。

 互いに帰り道に気を付けるよう言葉を交わし、別れる。

 少し歩いて立ち止まった小猫は後ろを振り向く。手を繋ぎながら遠ざかる二人の背中は、まるで本当の姉弟のようだと思った。

 

 直後にお腹の音が鳴る。

 そういえば、昼から何も食べていない。

 

(……帰る前に何か食べて帰ろう)

 

 誰にも気づかれてはいないはずだが、小猫は一人顔を赤くしながら歩みを再開した。

 

 




誰だこいつら(英雄)。

原作を何度見てもこの二人の口調がつかめない。
ジャンヌはともかく、レオナルドに至っては悲鳴しか上げてねえよ!
まあ、この作品のこいつらはこんな感じ。性格改変と言われても言い訳はできないですね。

ちなみにこの二人、休暇にこの町を選んだ原因は主人公がいるから(曹操がゲオルクを使って調べた)ですが、別に何かの作戦とかでやってきたわけではありません。
グレモリー眷属はまだあまり意識する段階ではないので、小猫と黒歌の関係も知りませんし。主人公を調べた時、副産物的に赤龍帝の情報ぐらいは得ているかもしれませんが。
つまり単なる偶然で、その後の対応も善意からです。

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