月光の下、蒼氷の天蓋を望む駒王学園の校庭。
絶望に沈むその場所で、夜の闇を切り裂くような叫びが轟く。
「覚えとけよ、コカビエル!! 俺はリアス・グレモリーの眷族『
そう啖呵を切る赤龍帝・兵藤一誠の頭を占めるのはただ一つ、主であるリアス・グレモリーのおっぱい――その乳首を吸うことだけ。
今からでもそれを想像すれば、とめどなく溢れる思春期のリビドーは天元突破。宿主の強い想いを糧とする神器の特性がそれを読み取り、力を解き放った。
左手の『
膨れ上がるオーラは今までの比ではなく、引き出された神器の力が一誠の総身を駆け巡った。精神状態は最高潮、今ならば何でもできるという全能感が止まらない。
絶望的な実力差と、先ほど告げられた神の不在という真実。その両方を受けて膝をついていたグレモリー眷族に、一誠の叫びが活力を与える。
拳を構える一誠は、コカビエルへと一歩踏み出し、そしてもう一歩、助走のために踏み込もうと足を上げ――。
突如、割れる天蓋。
ソーナ・シトリー率いる眷族たちが今も懸命に張り巡らせている水晶質の強固な結界が、ガラス細工のように砕け散る。
『!!』
その場の全員が天を見上げた。
グレモリー眷族はもちろん、神の不在に沈むゼノヴィアも、そして紫藤イリナも、コカビエルさえもそれを見た。
落ちてくる二つの人影。シルエットはそれぞれ大小、どうやら男女一人ずつであるらしい。
人影は一誠のちょうど目の前に降り立つと、ゆっくり立ち上がってその姿を月光に晒す。
一人は長身痩躯の男。古びた篭手と足甲を身に着けて、手には白銀の太刀を携えている。
漆黒の髪より覗く、鋭い眼光の輝きは餓狼が如し。既に闘気を纏わせた気迫は触れるだけで切り裂かれそうなほどだ。
「暮……修太郎……?」
ゼノヴィアが呟く。それに反応してイリナも男を見た。男――修太郎は少女たちへ一つ目線を返すが、それだけだ。
飛び出そうとする一誠を手で制し、低く平坦な声で言葉を紡ぐ。
「その意気やよし。しかし少年、キミにはいささか荷が重い」
突然現れた知らない人物の言葉に、疑問の言葉を向けようとする一誠だが――。
「――姉、さま?」
呟く小猫の言葉に、皆の視線がもう一人の闖入者へ行く。
それは美しい女だった。
豊満なボディラインを包む、しどけなく着崩した黒い着物は妖しい色香を漂わせる。
光の反射が少ない闇色の黒髪は花魁のように結い上げられて、覗くうなじの白肌が眩しい。しかし、頭から生える猫耳もそうだが、何よりも気になったのはその容貌。
似ているのだ。塔城小猫に。
もしも少女が大きく成長したのなら、きっとそうなるだろうと思うほど似通った容姿だった。
小猫は彼女を"姉"と呼んだ。それはつまり――。
「はぐれ悪魔、黒歌……!」
リアスが言葉を漏らす。
――はぐれ悪魔が、小猫の姉?
事情を知らない一誠の頭はわけのわからない疑問でいっぱいになった。
そんな彼をよそに事態は進む。
「クロ、結界を」
「……了解にゃ」
男の指示に、黒歌と呼ばれた悪魔が力を放つ。
まず感じたのは莫大な魔力。その強大さは赤龍帝の力を得たリアスすら優に超える。至近距離で魔の波動に触れた一誠は、圧倒的な質量を肌に受けて思わず飛びのいた。
次いで感じたのは背筋に寒いほどの妖力。比喩ではなく気温を凍てつかせる力の規模は、まさしく伝説に残る大妖怪のそれ。駆け抜ける冷気に木場が聖魔剣を構えて堪える。
第三に感じたのは純粋なまでの聖闘気。眩く輝く白光はまるで炎のように、黒歌の存在密度を高めていく。太陽に似たそれは本来悪魔の大敵であるはず。リアスと朱乃は、目を見開いて驚愕をあらわにした。
そして咲き誇る術式の花。
天に掲げられた黒歌の手の平の中、悪魔の魔力、妖怪の妖力、仙術の闘気、インドのマントラ、原初のルーン、北欧魔術、そしてゾロアスターの法術――多種多様の秘法術式が飛び交い、組み合わせられる。そうして展開された魔法陣の曼荼羅が学園全土を覆えば、もはや黒歌の許可なしには誰も出ることができない空間断絶結界が構築された。
絶句する。
SS級はぐれ悪魔・黒歌の実力は確かに最上級とは目されていたが、しかし、これは。
この結界を展開するのにかかった時間はたったの数秒。それだけではっきりとわかる桁違いの力量は、明らかに魔王クラスのものだ。いや、もしかしたらそれ以上かもしれないと思わせるほど、リアスたちにとって目の前の黒猫は得体の知れない存在だった。
突如現れた圧倒的強者を見て、コカビエルは哄笑する。
「フハハハハハハッ!! 何だいるじゃないか、強力な助っ人が! 次の相手はお前か? その力のレベル、相手にとって不足は無いぞ!!」
高まる戦意に光力のオーラがコカビエルの総身を覆う。一誠たちを相手にしていた時とは明らかに違う、正真正銘の戦闘体勢だ。
「何を勘違いしているにゃん? あなたの相手は私じゃないわ」
興奮するコカビエルに、冷たい視線を向けて吐き捨てる黒歌。
その言葉に怪訝な表情になったコカビエルは、彼女に尋ねた。
「ならばお前の他に誰が戦うというのだ?」
そこへ進み出る人物がいる。長身痩躯の剣士、修太郎だ。
意外な人物の登場に、コカビエルは一瞬目を丸くして不敵に笑う。
「お前が? 俺を? バカな冗談はよせ。お前は人間だろう? その刃からは確かに魔法のオーラを感じるが、デュランダルのような伝説の剣ならばともかく、たかが人間風情がそんなもので俺に敵うとでも思っているのか?」
小馬鹿にしたような態度は、彼の持つ人知を超えた実力に裏打ちされたものだろう。しかし――。
月光が修太郎の背に降り注ぎ、生まれた影から覗く二つの眼光は漆黒の剣となってコカビエルを射抜く。表情は見えず、しかし高まる戦闘意欲は剣士の身体を大きく見せた。
「敵う敵わないの話ではない。斬るのだ。『
言葉と同時、発せられた刃の殺気がコカビエルに叩き付けられる。
そして知った。あの時――あの悪魔の小娘を殺そうとした時、聞こえた鈴鳴りの音の正体を。
「――――!」
十翼を広げて飛び退りつつ、光の槍を投射する。
閃光の如きスピードで狙い過たず修太郎の脳天へ迫るそれを、当の男は――わずかに首を反らしただけで回避。裂ける頬から真紅の血が流れる。
次の瞬間、誰の目からも修太郎は消失した。
彼の一族に伝わる起こりの見えぬ踏込に合わせ、スカアハより授けられた超人的な跳躍術『鮭跳びの秘術』に体術としての縮地法を織り交ぜた神速の歩法。瞬きの間に彼我の距離を踏破する。
「!?」
突然目の前に出現した剣士の姿に驚愕するコカビエル。
しかし相手もさる者、手に握る光剣を振るい修太郎を切り裂こうとするが――。
闇に瞬く閃光七つ。同時に生まれる風も七つ。
四肢と胴体二箇所、そして側頭部に刻まれた斬撃。全身より鮮血を噴き出すコカビエル。
肉体を覆う光力のオーラは健在、聖魔剣すら跳ね返すだろう堕天使の防御を貫いて、こちらが一撃繰り出す間に敵の攻撃は七度。顔への一撃は何とか回避できたものの、このやり取りだけでコカビエルは相手が自身を上回る剣士であることを理解した。
十枚の黒翼が蠢き、羽根の一枚一枚を黒鉄の剣に変える。全方位から殺到するコカビエルの攻撃に対し、修太郎がとった構えは回避でもなく離脱でもなく迎撃だった。
一撃、そして二撃。白銀の刃が閃光の速さで以って捌く、捌く。一合目で強度を確かめ、二合目で弱点を見抜き、そして三合目。
「ぬうっ、おおおお!?」
砕け散る黒翼に、再び驚愕するコカビエル。
それぞれが魔剣に等しい強度を持つ刃だったはず。それを目の前の剣士は易々と踏み越えた。
迫る修太郎の眼光が堕天使を貫く。
(……まさか、まさかッ、この俺が!!)
全身から波動を放つと同時、はるか上空へ逃れる。
最速の決断、最速の行動、しかしそれでも胸元を切り裂かれ、再び鮮血をまき散らす。
「おおおおお、おおおおおおおおおおおッ!!」
決して浅くないダメージを受けつつも、自身の周囲、空高くに展開される無数の光槍。釣瓶打ちに放ちながら、再展開を順次行い間断なく攻め立てる。
遠距離からの爆撃に切り替えたコカビエルの攻勢は、駒王学園の校庭を大きく抉り、破壊していく。轟音が辺りに響き、巻き上がる土砂と爆風はまるでこの世の終わりかのごとき有り様だ。
「はあっ!!」
ひときわ大きな光の槍を生み出し、全力を込めて撃ち放つ。
巻き起こる大爆発と、天を貫く光の柱が月光の淡い輝きを引き裂いた。
「…………」
「リアス……」
宙に浮かぶ結界の中、それを見るリアスは信じられない思いだった。横に立つ朱乃や、眷族の皆もまた同じなのだろう、話しかけながらも戦いから目を離さない。
コカビエルが上空に逃れると同時、黒歌の手によって転移させられ、グレモリー眷族も聖剣使いの二人も全員無事の状況だ。
それはいい、しかし。
いったいあの男は何者なのだ。
上級悪魔であり魔王の妹でもある才媛・リアスとその眷族が総出でかかってすら歯牙にもかけなかった堕天使を、あの人間の剣士は単独で追い詰めている。得物はたったの刀一本。魔法の武器であることは確かに確認できたが、ゼノヴィアが持つデュランダルのようなパワーは感じなかった。
総身を覆う闘気は仙術使いの証だろうか? ともあれ、凄まじい技量だと言わざるを得ない。
一人、空中に浮かぶ黒歌へと目を移す。
彼女と男の関係も気になるところだった。
黒歌はあの男――ゼノヴィアが言うには暮修太郎――の指示に従っていた。このことから、暮修太郎と言う男と黒歌が仲間同士であることは疑いようがない。いったい何が目的なのか?
疑問は尽きない。何もかもが突然すぎる。
黒歌から話を聞き出せればいいのだが、リアスたちは彼女が張った結界に閉じ込められてしまっていた。
守るためなのか拘束するためなのかはわからない。しかし、コカビエルにすら勝てなかったリアスたちには、現状抗う術が無かった。
成り行き任せは気に入らないが、今はそれしか打つ手が無い。
「姉さま……」
呟く小猫の声だけが酷く耳に残った。
「はあっ、はあっ、はあっ……!」
「どうしたコカビエル。えらく苦戦しているじゃないか」
「誰だッ!!」
学園のはるか上空。渾身の攻撃を放ち、肩で息するコカビエルの背後に一人の少年が舞い降りる。
白龍皇『
「『
「俺はね。だが彼は違う」
「何だと?」
「心配しなくとも、俺は手出ししないさ。だが一つ警告だ。あの男の前では一時も油断をしてはならない」
そう言ってヴァーリが今も濛々と立ち込める土煙を指さす。
「準備しろ、コカビエル。そら、くるぞ」
はたして土煙の中、修太郎は無事だった。
降り注ぐ光槍の中で自分に直撃するものだけを全て切り裂き、そして最後の大光槍は斬龍刀を野太刀に変えて大斬撃と相殺し回避。流石に余波で服は焦げ、巻き上がった土と埃で汚れに汚れているが、特に大きな傷も無い。
この弐型斬龍刀が纏う魔法のオーラは、破壊ではなく迎撃に力を発揮する。
火炎冷気電撃などなど、諸々のエネルギー系攻撃に対して持ち主を防護する機能に優れているのだ。以前と変わらず切れ味も良く、また頑丈。ドワーフたちの職人気質には頭が下がる思いだった。
立ち込める土煙に、上空のコカビエルを窺うことはできない。しかし、大気を伝わる息遣いを感じ取れば、どこにいるかはおおよそ見当がついた。
白銀の刃を一振り。敵手の位置を見据える。
修太郎は女神スカアハといくつかの
『飛び道具を使ってはならない』というのもその一つであり、これを順守する限り修太郎にはあらゆる魔法的な幻惑は通用しない。
この誓約における『飛び道具』に分類される物は多岐に亘り、銃器や弓矢は勿論のこと、投剣や投石、投槍も禁止されている。実質、彼に剣圧以外の遠隔攻撃手段は無く、それにしても最大射程は10メートル程度であり、中距離を超える程のものではなかった。
しかし、この取り決めにも一つだけ例外が存在する。
女神スカアハが治める影の国において、光の御子クー・フーリンに匹敵する速度で体術を会得していった修太郎だが、一つだけ習得に時間をかけたものがある。
それが『魔槍投擲』。
彼のクー・フーリンが使ったことで有名な魔槍ゲイ・ボルグ。その必殺絶技の根幹をなす、魔術体術混合の投擲術法である。
そう、魔術。
修太郎は肉体を用いた活動においては超越的なセンスを示すが、こと魔術などの理論的な部分においては凡人並に成り下がる。彼自身の魔法力は決して低いものではなく、むしろ魔法使いとしてでも十分通用するぐらいなのだが、感覚的な才能に特化していることから既存の術式を扱う能力が低いのだ。
故にこの投擲法の習得は至難を極めた。スカアハとの18時間マンツーマン体罰付き。修太郎をして血反吐を吐くほどのそれを4か月こなし、やっと形だけでも習得することができた。
そして、それを基に編み出した『魔槍投擲』の応用――かつて史上最強の白龍皇ヴァーリを地に叩き落したこの技こそ、修太郎が持つ唯一無二の遠距離攻撃法。
「その翼、邪魔だな」
斬龍刀を目前に放り投げ、短い助走のあとに跳躍。足でからめ捕る。
この刹那に術式を込める。総身の回転と共に自らを投擲装置へと変え、溜めこんだ力を解放して蹴りだせば、放たれたのは雷にも匹敵する超速の矢だ。
この一撃、狙い過たず必殺必中。
込められた呪が自動的に軌道を修正し、そして、攻撃の気配に気付き差し出されたコカビエルの右腕諸共、五枚の翼を抉り取る。
「ぐおおおおおおおおっ!!?」
ヴァーリと戦った時には決まった角度でしか放つことはできなかったが、この『魔剣投擲』、今や8割がた完成している。すなわち、いかなる体勢で撃ち出そうと放った物は相手に命中した後、自動的に戻ってくるのだ。
痛みに叫びながら落ちるコカビエル。それに目掛けて疾走する修太郎の手元を見れば、既に役目を終えて帰ってきた斬龍刀が握られている。
落ちるコカビエルには、もはや飛翔する手は残されていない。
落下しながらも迫る修太郎に対して無数の光を放つ。がむしゃらに撃っているように見せかけて、その実計算高く配置された光条は彼が歴戦の強者であることを表しているが、それでも。
修太郎は達人を上回る達人だ。歴戦程度がなんだと言う。デュリオの雷はもっと速かった。ヴァーリの攻撃はもっと強かった。スカアハの戦術はもっと巧かった。何よりもこの程度の波状攻撃、黒歌やロスヴァイセに比べればそよ風に等しい。
瞬間的に消える瞬発の歩法に、絶妙の緩急が攻撃のタイミングを崩す。身体を捻り、反らし、躱せなければ斬り伏せる。悉くが当たらない、当たらせない。
コカビエルの動作が、視線が、それより感じられる意思が、修太郎へと次の攻撃を教えてくれる。“意を読む”とはこういうこと。これは、同じ技術を修めていなければわからないだろう。
着地したコカビエルは、全オーラを体に纏わせ、光の鎧を形作る。攻防一体だがしかし、全エネルギーを用いた戦闘形態は長く続かないだろう。
短期決戦で決める気なのだ。それは修太郎としても望むところである。
銀の刃と光の爪が火花を散らす。
コカビエルは修太郎の超速斬撃を把握しきれていない。しかしそれも今や関係が無かった。何故ならば、彼の纏う光の鎧は修太郎の剣を防ぐことに成功しているからだ。
完全に防御できている訳ではない。徐々に浅い切り傷が増えていく。だがこの程度、今更気にするほどのものではなかった。
故に多少の被弾は無視し、攻撃を続行する。
足りない腕は翼で補う。残った五翼を一つに纏め、一本の槍とする。
一気呵成に攻めるコカビエルに、決め手の欠ける修太郎は愚直に斬り続ける。その様子に、コカビエルは自らの優勢を信じた。
幾十度の応酬の末、コカビエルの爪が修太郎の太刀を捕えた。
にやりと笑うコカビエルが修太郎の腕ごとそれをかち上げれば、出来たのは大きな隙。
「これで……終わりだッ!!」
漆黒の翼槍を引き絞り、今必殺の一撃を――。
太刀を握る腕をめくり上げられ、無防備な腹部を晒す修太郎は、勢いそのままに構えを大上段へと移行させる。
しばしの脱力。その後、刹那の間に筋力は最高潮の強張りを見せる。内に廻る闘気を第二の筋肉に、そして外の闘気を外骨格の如く操れば、人知を超えた斬撃装置の完成だ。
この間一秒。コカビエルが止めの一撃を放つのとほぼ同時だった。
示現流が奥義『雲耀の太刀』。
『雲耀』とは稲妻。その速さは硬い板の上の薄紙を、鋭い錐で貫くのと同等であると言われる。さらに真なる雲耀の太刀は一回の脈拍の8000分の1の速度で放たれ、如何なるものをも切り裂く必殺の斬撃である。
修太郎の斬撃は普段からほとんどこれに近しい速さと鋭さを持つが、はたしてその彼が真に全力でこれを放てばどうなるか。
その答えがこれだ。
超光速に達した斬撃は光で編まれた鎧の強度を無視して、槍となった堕天使の翼を断ち、残る左腕を断ち、そのまま左脚を断った。そうして股の直下で速度を保ったまま折れ曲がり、右脚を断つ。遠く背後の校舎に嵌まったガラスが斬撃の余波で罅割れる。
この所謂V字に通過した刃を、コカビエルは認識していない。それどころか斬られたことすら気付かない有り様だ。
突き出そうとした翼槍が空中に取り残され、そして散り、四肢が鮮血を噴き出しながら肉体を離れて初めて違和感に気付く。
総身を覆うオーラが霧散する。今、聖書に記された力ある堕天使は無力な存在となった。
信じられない、と言ったように表情を歪めて修太郎を見る。
月光を背に影となった剣鬼の表情は窺えない。ただ、鋭い双眸が無感情にコカビエルを睨んだ。
そうして走る銀閃が翼と四肢を失った堕天使の腹を貫き、身体を大地に縫いとめる。
決着は刹那。この場の誰もがそれを見ること叶わず。
天から観察するヴァーリすらも、なぜコカビエルが倒れているかわからなかった。唯一、黒歌だけが内容を把握している。
――雲耀が崩し『
究極の柔が究極の剛を生むという、その体現。
一度放たれれば神すら見切ること叶わない、修太郎が誇る斬撃の極致がこれだ。
「? ? ?」
地に縫いとめられたコカビエルは呆然として空を見上げる。
――何故、俺は負けている?
――勝ったと思った。
――間違いなく仕留めたと確信した。
――タイミングは完璧で、どこにも誤りは無かったのに。
ふと、影が差す。
訳の分からないうちに自身を下した名も知らぬ男。
こいつは人間ではない。こんなものが人間であってたまるものか。こいつは――化け物だ。
最後に一矢報いるべく、コカビエルは力を振り絞る。
手も無ければ足も無い、無様な状態だが、せめて一撃。
口腔に光の玉が形成される。狙うは男の眉間。
そうして放たれんとした光線だったが――。
「がべッ!!」
顔面を蹴りぬかれて阻止される。勁力の発露で完全に意識が断たれたコカビエルが、この場で喋ることはもはや無いだろう。
この戦闘、時間にして3分にも満たない。
堕天使の反逆はこうして幕を閉じた。
筆の乗るままに投稿。
あとで色々修正したりするかもしれないし、しないかもしれない。
主人公に近接戦闘を挑むなら、絶対的な防御力か彼と同等の技量が必須という話。
おとなしく遠距離から攻めましょう。隙を作ると投擲くるけどな!!