陰陽師になりました。   作:ラリー

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6話

陰陽塾に転入してきた春虎と冬児。

 

早速俺は、放課後二人の面倒を見ることにしたのだが……。

 

「……」

 

「何があったんだ……?」

 

春虎たちの教室に入ると机の上で死んだ魚のような目をしてグッタリしている

春虎と、それを見てニヤニヤと笑っている冬児。

その惨状に思わず思っていた事が口に出てしまった。

本当に何があったんだ?

 

「いや~、春虎のパーフェクトな入塾イベントや春虎の優秀な頭脳が発揮されたんで

夏目に絞られたんですよ」

 

「…なんとなくわかった。」

 

笑いながら事情を話す冬児。

つまりアレだ。春虎は入塾そうそうにトラブルに合い、さらにおバカっぷりを教室で見事

に披露して見せたんだな……。

そして醜態をさらした後、主である夏目にお説教を受けて心がへし折れてしまったって所かな?

 

「?」

 

今…春虎の後ろに何か居たような気が……。

気のせいか?

まあいい。

俺は塾長に頼まれた仕事を……。

 

「塾長に頼まれて、勉強を手伝おうと思って来たのだが……」

 

「…!?」

 

勉強と聞いてビクン!と動く、春虎。

これでは、とてもじゃないが勉強は不可能だろう。

たとえ教えても頭には残らず時間の無駄となって終わりになるだけだ。

しかたがない。

今日のところは男子寮の説明だけにしてやるか。

 

「…とても無理そうだから、男子寮に帰るか?」

 

「神様仏様兄上様!!ありがとうございます!!」

 

帰るか?と言った瞬間涙目で俺を拝みだす春虎。

勉強をしてこなかった春虎の自業自得とはいえ、よほど辛い目にあったのだろう。

少し同情してしまった。

 

「じゃあ、帰るか」

 

「ウッス」

 

「了解!」

 

勉強しないですむと分かって嬉しそうに荷物をまとめだす春虎とやれやれという感じ

で春虎と同じように荷物をまとめる始める冬児。

荷物をまとめる二人を待っていると、春虎の手が止まり何かを思い出したかのように

俺に話しかけてきた。

 

「そういえば、塾長が兄貴の式神について聞いてきたんだけどさ、兄貴式神なんて持ってたのか?

俺、一度も見たこと無いんだけど」

 

「…ああ。必要が無い時は隠形をしているからな」

 

「へ~。どんな式神なんだ?教えてくれよ」

 

「俺も昔気配は感じ取った事があるんですけど見たことはないっすからね。

是非見せてもらいたいですね」

 

塾長…いや、あの婆さん、こいつ等に教えやがった!!

いや!落ち着け。

まだ大丈夫だ。

白い方の紅蓮を見せればこいつ等だって満足するはずだ。

本当の姿を見せなければまだ、大丈夫のはずだ!!

 

「仕方ないな……紅蓮」

 

『おいおい、いいのかよ!明らかにあの婆さんの罠だぞ!!』

 

「主命だ。今すぐ隠形を解け」

 

「………」

 

俺の命令により指定位置になっている俺の肩から姿を現す紅蓮。

その表情はとても不機嫌そうだ。

 

「おお!小動物みたいで意外とかわいい!!」

 

「これは予想外だな。もっとゴツイ式神を想像していたんですが……」

 

「フン」

 

姿を現した紅蓮を見て、喜ぶ春虎と予想外と言った表情をしつつ、紅蓮を観察する冬児。

そしてその二人の態度が気に食わないのか、鼻を鳴らし、そっぽを向く紅蓮。

 

「もう満足しただろ?そろそろ帰るぞ」

 

「ああ!待ってくれよ兄貴!折角だしコイツを撫でさせてくれない?」

 

「なんで俺がお前に撫でられなきゃいけないんだ!断れ武!!」

 

「おお!喋った!!」

 

「喋って、悪いか!!」

 

紅蓮を撫でたいと言ってきた春虎に拒絶の反応を見せる紅蓮。

しかしその拒絶の反応で紅蓮が喋る事を知った春虎はさらにテンションをあげて喜ぶ。

拒絶する紅蓮と撫でたい春虎のやり取りを見つつ、何時になったら帰れるのだろうと

軽くため息を吐きながらそう思った。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

兄貴と冬児の三人で男子寮と戻った俺は、男子寮についてある程度の事を兄貴に教えてもらった

後、俺は自分に割り当てられた部屋に入り、ベットに倒れこむ。

 

 

つ…疲れた…。

講師達の呆れ顔→無視のコンボにクラスメイト達の『こんな問題もわからねーのかよ』と言いたげな

クラスメイトの冷たい視線に含み笑い。

しかも味方だと思っていた夏目からも説教。

唯一の救いは周りとは違ういつも通りの兄貴の態度。

兄貴は本当に昔から変わらないな……。

 

「……」

 

もし、こんな時…北斗が居てくれたら……。

ベットに転がりながら思わずそんな事を思ってしまう。

アイツが…いや、北斗の術者がもし、俺が陰陽塾に入ったと知ったら喜んでくれるだろうか?

きっと、北斗なら喜んでくれるはず。

式神だったけど、俺の知っている親友の北斗なら……きっと…。

 

「式神?」

 

式神という単語が何故か頭にひっかかる。

……。

やべ!

 

「忘れてた!親父から餞別に貰った式神!!」

 

親父から貰った式神の存在を思い出した俺は荷物から五芒星の書かれた封筒を取り出す。

 

『春虎。陰陽師を目指すならお前も『土御門』の一人だ』

 

親父が土御門の名を出して、俺にくれた式神。

夏目の雪風や北斗みたいにかっこいい奴かそれとも兄貴の紅蓮みたいにかわいい小動物みたいな

奴かもしれない。

 

ドキドキしながら式神を呼び出そうとするが……。

 

つ……使い方がわからん!!

 

「取り扱い説明書とかない…よな」

 

もちろんそんなものを親父から貰った記憶はない。

封筒みたいな形をしてるから、とりあえず封を……。

 

ピリ

 

「!?」

 

封を開けようと封筒の端に手を掛けると左目の下にある夏目の術式が一瞬疼いたと

思い手で触ってみるがなんともない。

気のせいか?

そんな事を思っていると…。

 

ポン!

 

「!!?」

 

軽い破裂音が後ろから聞こえ、驚きながら振り返ると……。

 

「……」

 

「……」

 

俺に向かって土下座をかましながらプルプルと震えるコスプレをした小学生くらいの少女が居た。

少女は染めたと思われる銀髪に、コスプレアイテムだと思われる耳と尻尾を装備している。

一体何所から不法侵入したんだ…?

 

「お…お前…」

 

「お…おお初におめもじ致しまするっっ!!わ…わわわたくしっ!コンと申しますっ!!」

 

俺が少女の素性について質問しようとすると、少女はビクリ!と激しく体を震わせて

涙目になりながら挨拶をして来た。

 

「このたび祖狐(そこ)葛(くず)の葉(は)が御末裔であらせられる土御門 春虎様の護法たるを

仰せつかりましたっ!ふ…ふつっ!ふつつか者ではございますがっ!!何とぞ、よしなにっ…!!」

 

「え…えっと…」

 

突然の少女の自己紹介に戸惑っていると少女の言葉で少女の正体がなんとなくだが分かった。

しかし……これは…。

親父の趣味なのか…?

 

「ひょっとして、お前って…俺の式神?」

 

コクコク!

 

俺の言葉に肯定し、上下に頭をコクコクと振るコンと名乗った少女。

そうか…この子が親父がくれた式神か……。

今まで抱いてきた親父のイメージが音を立てて崩壊し、幼女趣味の変態というイメージが俺の

中に形成された。

 

…………。

 

「ところでさ、なんでいきなり出てきたの?」

 

「お…隠形を致しておりました所お声がかかったようでしたので……」

 

「え!?ずっと傍で隠れていたって事?マジで!?」

 

「は…はい」

 

疑問に思っていたことを聞くと、少女…コンはずっと俺の傍に隠れていたらしい。

それを聞いた俺はふと今朝の出来事を思い出す。

 

『お前の式神も共に登録した』

 

と、門番をしている狛犬に言われたっけ……。

あれは、コイツの事だったんだな。

 

「コ…コンは春虎様の護法にございますれば。常に御身をお守りせねばなりませぬ故…。

コ…コンは以前にも土御門の分家の方にお仕えした事がありましたっ!

い…以前の記憶はございませんがお仕えしたのは一度ではありませんっ!」

 

おどおどしながら自分の経歴と自身が護法である事を話すコン。

しかし、コンの言葉に気になることが一つ。

コンの言った以前に仕えていた人物。

土御門の分家に仕えているのなら、コンは俺の家に代々仕えているという事になる。

つまり、そうなるとコンは俺じゃなくて長男である兄貴に仕えるのが普通だと思うんだが……。

まあ、兄貴は自分の式神持っているし、親父からコンを貰うときに断ったのかも知れないな。

よし!ごちゃごちゃ考えるのはもうやめだ!コンは俺の式神なんだから、コンの事をもっと

色々と知らないとな!

 

「コン!とりあえずお前の得意技を教えてくれ!」

 

「はははいっっ!!恐れながら隠形の術なら…」

 

俺が得意技について聞くとコンは姿を消して『隠形』と呼ばれる術を披露してくれるコン。

 

「すげぇ!全然分からねぇ!!」

 

ポン

 

「おおっ!!」

 

姿を消したと思った数秒後、再び姿を現すコン。

すげぇ!さすが式神だぜ!!

 

「やるじゃんコン!」

 

「いえ…そ…そそのような…も…もったいなく……」

 

俺が心から褒めると、顔を赤くして尻尾をブンブンと動かし照れるコン。

いやはや、これは予想以上の式神だ。

 

「すげぇな。消えている間は誰にも分からないんじゃないか?」

 

「あ……その…高位の陰陽師が相手ですと…本日のように悟られてしまう可能性が…」

 

「ああ、そういえば門に居た狛犬にはバレていたっけ」

 

「いえ、狛犬もそうなのですが…は、春虎様の兄君にもコンの存在を悟られたようで…」

 

「え?」

 

この後、コンに詳しい話を聞いたのだが、なんでも兄貴が教室に入って来たすぐに

俺の後ろに『隠形』の術で待機していたコンに気づいたらしい。

気のせいじゃないかとコンに聞いたが、目があって数秒ほどじっと見られたそうだ。

昔から優秀だと思っていたが、まさか学生で高位の陰陽師レベルとは思わなかった。

もし…俺が兄貴ぐらいの実力になれば、北斗の術者に一歩でも近づけるのだろうか?

 

 




感想にあった質問の答え。

オリ主の容姿は晴明の若い頃の容姿です。
つまりイケメンさんですね。
ちくそう。


※評価をお待ちしております。

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