陰陽師になりました。   作:ラリー

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4話

東京……。

 

我等土御門の天才、土御門(つちみかど)夜光(やこう)が行った儀式の影響により、

霊的災害が発生するようになってしまった土地。

そしてその霊的災害を祓う陰陽師を目指す為、夢見る若者達が集う場所である。

 

そして……。

 

俺、土御門(つちみかど) 武(たける)も陰陽塾の講師になる為、渋谷にある陰陽塾

へと通うことにした。

ちなみにこの陰陽塾はとても凄い所らしく、現在活躍している陰陽師のほとんどがここの

卒業生らしい、まさにエリートの巣窟と言っても過言ではない。

 

後、最近知ったのだが陰陽1級種という資格を取得すると十二神将と呼ばれるらしい。

十二神将とは言っても、別に資格取得者が十二人居るのではない様だ。

 

まあ、東京に着ても環境が変わっただけで俺のやる事は変わらなかった。

陰陽術の勉強をし、それが扱えるように練習する。

本当に何も変わらない。

変わったことがあったとすれば急々如律令(きゅうきゅうにょりつれい)を授業だけ帝国式の『オーダー』と呼ぶようになったくらいだろうか?

 

「なあ、晴明。」

 

「何だ?紅蓮」

 

男子寮の自室で本を読みながらくつろいでいると白い獣の姿をした紅蓮が話しかけてきたので

返事をする。

 

「いや…。ただ、入学式からこの夏休みまで土御門 夏目に挨拶していないがいいのかと

思ってな」

 

「廊下で軽く挨拶をしているから、問題は無いだろう。

それに、噂によれば彼女…じゃなくて彼は人とあまり関わりを持ちたがらないようだから

今のままで大丈夫だろう。」

 

土御門 夏目。

我が弟の幼馴染の少女で、本家のしきたりとやらで現在は男として振舞っている。

正直意味が分からないが、本家が言っているのだからしょうがない。

本人も本当は嫌なのだろうがしきたりだからと諦め、男として振舞っていると予想している。

そんな夏目に関わり、もし俺のミスで周囲の人間に女とばれたらどうなるか…

正直考えるだけでも恐ろしい。

だから、俺は彼女が入学してから最低限の接触のみを心がけ今まで過ごしてきた。

それなのに今更、自分から挨拶をして余計な接触を増やすわけにはいかないのだ。

 

「まあ、お前がそういうなら別にいいがな……」

 

「それにだ、俺は後半年で卒業だぞ?今更過ぎて怪しいだろう」

 

そんな会話を紅蓮としていると……。

 

ピピ!ピピ!

 

俺の右ポケットに入っている携帯から着信の電子音が鳴り響く。

俺は紅蓮との会話を中断し、ポケットの中の携帯電話を取り出し、電話に出る。

 

「もしもし?」

 

『あ、土御門君ですか?塾長の倉橋ですけれども…今大丈夫ですか?』

 

なんとビックリ、電話の相手は俺の通う陰陽塾の塾長、倉橋(くらはし)美代(みよ)

だった。

あの、おばあさんとはちょくちょく会話をする事があるが電話で話すなんて初めての事だ。

もしかして何かあったのだろうか?

とりあえず用件を聞いてみよう。

 

「はい、大丈夫ですが何の御用でしょうか?」

 

『実は先日の午後8時頃、十二神将の一人が……泰山府君際を行おうとしました』

 

「何ですって!?」

 

泰山府君際とは、安倍晴明が使ったとされる陰陽道の最高奥義にして死者を蘇らせる

と伝えられている禁断の秘術。

まさかそれを、陰陽術師のエリートである十二神将がやるなんて……。

正直、驚きが隠せない。

しかしだ、何故学長がそんな不祥事を俺に話す?

俺が土御門の人間だからだろうか?

 

『落ち着いてください。術は貴方の弟さんと夏目さんのお陰で失敗に終わり無事に事件は解決しました。』

 

「そうですか………」

 

『しかし、この事件のことは内密にしなければなりません。

そこで、貴方の弟さんと事の顛末を知っている弟さんの友人である阿刀(あと)冬児(とうじ)君

の二人をこの陰陽塾へ入学させようと思いましてね…』

 

なるほど、不祥事を隠し通す為に二人をこの塾へ入れるのか。

たしかに、ここなら二人を監視できるし口封じも容易いだろう。

弟よ、お前は本当についてないな……。

昔は特に酷い目に遭っていなかった弟だが、中学に上がってからのアイツはとにかく不幸になった。

交通事故にあったり、鳥の糞が降ってきたりと……とにかくついてないのだが…この事件で、

もはや何かに呪われているのでは?と思ってしまう。

 

『しかし、彼等は素人。この陰陽塾でやっていけるのかとても心配なのです』

 

「……」

 

耳に聞こえる塾長の心配そうな声。

声を聞くと弟達を心配しているように思えるが…何か嫌な予感がする。

俺が気にしすぎなだけだろうか?

 

『そこで、二人と面識もあり成績優秀な貴方に二人のサポートをお願いしたいのです』

 

「……サポートですか?それなら同い年である夏目が適任だと思いますが」

 

『それはもちろん考えていますが、夏目さん一人に二人の面倒はさすがに大変でしょうし

放課後だけでよいので頼まれてくれませんか?』

 

たしかに塾長の言いたい事もわかるし理解もできる。

放課後だけなら俺も大丈夫だと思うし、やっぱり気にし過ぎらしい。

嫌な予感も気のせいだろう。

 

「分かりました。出来る限りではありますが二人をサポートします」

 

『そうですか…では、夏休み明けから二人をよろしくお願いします』

 

こうして、俺は二人の面倒を見ることを了承し、読んでいた本の続きを読み始める事にした…。

 

 

 

☆☆

 

 

ふう、どうやら成功のようですね……。

塾長室の電話を切り、背もたれにもたれ掛かる私。

 

先程まで私が電話をしていた青年。

土御門(つちみかど) 武(たける)。

土御門の家から帰って来て様子のおかしい孫娘を占った結果、孫娘の初恋相手と分かった。

当時の孫娘の様子を思い出すととても微笑ましい……。

何所からどう見ても何かあったのにバレないように必死で隠しているから思わず占ってしまったしました。

まあ、孫娘の話は置いといて…。

彼、土御門 武には気になる点があるのです。

 

それは夏目さんがこの陰陽塾へ入学した頃の事…。

夏目さんは昔から天才、土御門(つちみかど)夜光(やこう)の生まれ変わりだと噂されていた為、

夜光信者達の護衛として式神を遠くから見守らせつつ、夏目さんと同じ土御門の姓を持つ彼が

間違われて襲われないように動向を気にかけていた時の事……。

 

彼がクラスメイトである女子生徒と話している時、彼の背後に一瞬だけ式神を感知したのです。

彼が入学してからこの三年、彼の持つ式神はゼロ。

もちろん登録もされてはいない、それにもし彼に式神が居たのなら門番をしている高等人造式のオメガ達が気づかないはずがありません。

が気づかないはずがありません。

 

気になった私は彼を塾長室へ何度か呼び出した後、たあいのない会話をしつつ、彼の周囲を見通した。

すると、ほんの僅かにですが複数の式神の気配を感じ取る事に成功しました。

恐らく彼の式神は隠形に特化した存在なのでしょう。

彼との会話を程よく終えた後、彼を男子寮に帰し、彼の傍に居た式神の気配を探り、

式神の姿を見ようと占いをした結果……。

 

 

 

騰蛇 勾陣 六合 青龍 朱雀 天一 太陰 玄武 天后 白虎 天空 太裳

 

 

 

伝説の大陰陽師である安倍晴明(あべの せいめい)の式神達の名前が浮かんでくる

まさか……転生したのは夜光だけでは……。

ありえなくはない、安倍晴明(あべの せいめい)は伝説に名を残す稀代の大陰陽師。

夜光が転生出来てかの大陰陽師が出来ないはずがありません。

しかし、彼が安倍晴明の生まれ変わりだという証拠は何所にも無いのです。

ただ、先祖に憧れて同じ名前の式神を作った可能性もありえます。

 

ですから、私は今回の頼みごとで彼が家族である弟さんやその友人の前では何所かでボロを出す場面があると考え、この一年で彼の正体を見極めさせてもらおうと思っています。

 

 

土御門夜光と安倍晴明、今年は波乱の一年になりそうですね……。

 

 

 

 

 


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