インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第61話 俺と彼女の終わりと始まり

観客の歓声は叫び声に変わりあたりは大混乱。それもそのはず、俺達の目の前には正真正銘のテロリストが浮遊しているのだ。

 

「サイレント・ゼフィルス、あれだけはっ!」

 

俺達の集団からセシリアさんが一歩前に出る、その姿は今にも飛び出しそうで俺は反射的にセシリアさんの肩を掴んだ。

 

「紀春さん、放してくださいっ!」

「セシリアさん、解ってるだろう。あいつはセシリアさん一人で太刀打ちできるような相手じゃない」

 

ドイツで行われたイグニッション・プラン選考会、俺達は一次移行を終えたばかりのサイレント・ゼフィルスに翻弄され惨敗を喫した。しかも七対一という圧倒的有利なハンデを持っていながらだ。

 

「悔しいのは解る、俺だってあいつを許せない。でもな、自分には仲間がいることを忘れちゃ駄目だ。な、そうだろう?」

 

俺の目線の先にはシャルロットとラウラ、この二人だって俺と同じ気持ちのはずだ。そして俺に呼応するかのように二人は静かに頷いた。

そして俺はセシリアさんの一歩前に出てきて、サイレント・ゼフィルス……いや、ちびっ子に話しかける。

 

「よう、ちびっ子。久しぶりじゃねーか」

「…………」

「お前何の目的でここに来た? 戦いごっごをやるんだったら周りの人に迷惑を掛けないようにってお母さんから教わらなかったか?」

「…………」

 

ちびっ子は何も話そうとはしない、ここまで無視されると少し悲しくなってくる。

 

「はぁ、お前コミュ症かよ。親はどんな教育してんだ。こんにちわー! 聞こえますかー!」

 

そうすると足元にビームが着弾する、中々暴力的なコミュニケーションだ。マジでこいつの親の顔が見てみたい、二重の意味で。

 

「そう、そういうわけね。だったらこっちも遠慮しねーからな。おい、行くぞお前ら」

「ええ、行きましょう。ドイツでの借りは必ず返させていただきますわ」

「そうだな、我らがドイツ軍を虚仮にした報いを受けてもらわねば」

「おまけに僕達が容疑者候補にされた恨みも忘れてないよ」

「なんかみんなが俺の知らない話をしてる」

「安心しろ一夏、私もさっぱり解らん」

「文化祭の話をしてないってのは解るけどね」

 

テロリストが来たって割りに一部呑気な奴らがいるが構ってられない、俺は霧雨を展開しながら瞬時加速で突撃を仕掛ける。

 

「そぉい!」

「…………」

 

渾身の突きが紙一重で避けられる、そのまま薙ぎ払いを仕掛けるがそれもちびっ子は回避。やはり技量の差は歴然か、しかし今の俺には仲間が居る。

 

「当たれっ!」

「紀春っ!」

 

セシリアさんとシャルロットの援護射撃がちびっ子に向かって飛んでくる、ちびっ子はそれをなんなく回避するが俺との距離を一気に開ける。

 

「紀春さん、さっき自分が言った事もう忘れたのですか!」

「一人で飛び出すなんて無謀すぎるよ!」

「お前らを信じてるからな、助けてくれると思っていた」

 

距離を開けたちびっ子はラウラと鈴と篠ノ之さんに追いまわされている。が、そのバイザーに隠れていない口元からは相変わらず余裕が見える。

 

「あいつは俺達が乗り越えなければいけない障害だ、絶対に倒すぞ」

「ええ、あんな思いは二度としたくありませんから」

 

ドイツでサイレント・ゼフィルスが盗まれた時、サイレント・ゼフィルスが保管されていたイギリスのピットは火の海となり多数の重傷者を出した。そこに居た人間の多くは当然セシリアさんをサポートするためのスタッフであり、親しい人も多数居た事だろう。

 

「セシリアさん、解っていると思うけど冷静に」

「紀春さんだけには言われたくない台詞ですわね」

「それを言われると何も言えねぇ……」

「紀春さんの言いたいことは解っていますわ、私はもう曲芸師ではありませんから」

「オーケイ、それだけ解ってれば充分だ」

「セシリアが曲芸師?」

「機会があればお話しますわ。さぁ、わたくし達も参りましょう」

 

俺達は再度戦場へと飛び立つ。さぁ、反撃開始だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ! やっぱり一筋縄ではいかないか!」

 

ガルムの連射を軽々避けるちびっ子、味方の援護もありなんとか一進一体の攻防に持ち込めてはいるが逆に言えば決め手を欠いている状態とも言える。そんな中でもちびっ子は余裕綽々の表情を浮かべ底が知れない、奴はまだ本気を出していないとでも言うのか。

 

「てっぺん、貰ったっ!」

 

そんな中、鈴がサイレント・ゼフィルスの真上に躍り出る。レース用にカスタムされた拡散衝撃砲をこのポジションから撃てば流石に直撃は免れないはず、いい判断だ。……いや、全然良くない!

 

「鈴っ! 撃つな!」

「はえ?」

「…………ふっ」

 

サイレント・ゼフィルスの射撃を食らい鈴の動きが止まる、仲間がダメージを負った鈴を守るかのように援護射撃を行い追撃はどうやら免れたようだ。

 

「紀春っ! どういうつもりよ!」

「テメェこそどういうつもりだ! 下にはまだ客がわんさか居るんだぞ!」

「あっ……」

 

俺達の戦っている空の遥か下には未だ避難中の客がごった返している、そんな所に射撃を打ち込めば結果はお察しだ。今までの戦いで射撃が下に向くように撃っていなかったから良かったけどこれからはもう少し考えて撃たないと……

 

「むしろ近接戦を仕掛けた方がいいのかなぁ」

 

近接戦闘を仕掛けるのなら必然的に援護が少なくなる、圧倒的なちびっ子の技量を前にそれを行うのは少々怖い。しかし、この均衡を打ち破るためには行動を起こさなくてはならない。

この中で接近戦の駒といえばまず思い浮かぶのが一夏、そして篠ノ之さんと言った所か。俺とラウラと鈴はオールラウンダーに位置しているのでなんとかいけるはずだ、シャルロットは比較的射撃寄りなのであまり突っ込ませたくはない、そしてセシリアさんは論外だ。

 

そんな考え事をしていた時ちびっ子がおもむろに突撃を仕掛ける、向かっていく先はよりにもよってセシリアさん。ヤバい、今の状態で誰かを欠く事はこの戦力の均衡が崩れるという事であり、そうなれば俺達の敗北は必至だ。

今セシリアさんに一番近い味方は……俺か、なら行くしかない。

 

「させるかあああああっ!」

 

今まさにセシリアさんに銃剣を振り下ろさんとするちびっ子との間に割って入り、左手で持つ霧雨を銃剣に向かって振り抜いた。その瞬間、僅かな隙が生まれる。インパクトの衝撃が大きくてちびっ子が体勢を崩しているのだ、チャンスはここしかない、俺は右手にもう一本の霧雨を展開し渾身の突きをお見舞いしようとするが……

 

「後退の瞬時加速だと!?」

 

こんな動き初めて見た。そんな事より目の前にはライフルを構えるちびっ子とそれを取り巻くように浮遊するビット、大ピンチである。

そしてちびっ子の指がトリガーへと掛る。

 

「間に合ええええっ!」

 

ビームが発射された瞬間、俺とちびっ子に割って入る機体が一機。一夏の操る白式である。

一夏は雪羅で俺に向かってきたビームを全て防御、ちびっ子は真正面から白式と戦うのはは不利だと悟ったのか一時後退する。

 

「すまん、助かった」

「気にするなって、しかしあいつはなんなんだ」

「正体不明のテロリストだ、それ以上でも以下でもない」

「いや、お前ら如何にも因縁がありますって感じだったじゃないか」

「因縁か……まぁ、その通りだな」

「何があったんだ」

「悪いが話せない、そういう契約書にサイン書かされたし」

「そうか、話を断片的に聞く限りではドイツがどうとか容疑者がどうとか言ってたが……」

「欧州事情は複雑怪奇なんだよ。まぁ、欧州に限った話じゃないんだろうけど」

「お二方っ! 新しい敵の反応です!」

 

セシリアさんが俺達の話を遮る、それとほぼ同時に俺の右半身を襲う猛烈な衝撃、俺は何をされたのか解らないまま吹っ飛んだ。

 

「はぁい、お元気?」

 

地面に激突し、その衝撃で意識がどんどん薄れていく俺。しかし吹っ飛ばされている最中確かに見た、一夏とセシリアさんの間に割って入った打鉄・改を纏う虎子さんの姿を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたが居るから、紀春はっ!」

 

遠くから剣戟が鳴り響く、また意識を失っていたようだ。いい加減この特異体質もなんとかしたい、ちょっと衝撃を与えられるだけで使い物じゃなくなるこの体で俺はどこまで戦えるというのだろうか。

 

「いつまで経っても藤木君をモノに出来ないのは貴女がヘタレだからでしょう? 私のせいにしないで欲しいわ」

 

コンクリート片を払いのけながら戦場の様子を観察する。上空ではちびっ子が優勢、地上ではシャルロットと虎子さんが一騎打ちを繰り広げている。俺の離脱と虎子さんの参戦で戦力の均衡が完全に崩れている、このままじゃジリ貧で敗北を迎えるだけだ。

 

「援軍は……期待できそうにもないな」

 

我がIS学園側の切り札であるたっちゃんから今まで一度も通信が送られてこないって事は彼女も何らかの事情で手が塞がっていると考えた方がいい、教員達も避難している人たちの護衛などで手がいっぱいと見ていいだろう。流石に手が空いているのならいち早くこの戦闘に参戦しているはずだ。

 

「結局最前線で命を張っているのは俺達子供だけか、ままならんね」

 

愚痴を言っても状況が変わるわけでもない、段々と意識もはっきりしてきたし俺も戦いに戻らねば。

目の前の攻防でシャルロットのブレッド・スライサーが弾き飛ばされ俺の方に飛んでくる、俺はそれをキャッチすると即座に虎子さんに投げつけた。

 

「くっ!」

「そこだっ!」

 

飛んでくるブレッド・スライサーを弾いた虎子さんに出来る一瞬の隙、俺はそこ目掛けてアサルトドレスの全推力を持って虎子さんに体当たりをぶちかます。もちろんそれを受けた虎子さんは大きく吹っ飛んだ。

 

「紀春っ!」

「お前は上空の援護に回ってくれ、虎子さんは俺がなんとかする」

「なんとかするって言ったって!」

「頼む、こればっかりは俺が一人で解決しないといけない問題なんだ」

「でも……」

「俺を信じてくれるんじゃなかったのか?」

「……うん、ごめん。だったら僕は行くよ」

「ありがとう、気をつけて」

 

飛び立つシャルロットを見送り、虎子さんが居る方向に向き直る。どこかに激突でもしたのかその方向には砂煙が渦巻いている、そして数秒の後その砂煙は晴れた。

 

「中々手荒い歓迎をしてくれるじゃない」

「前会った時は何も出来なかったからね」

 

こんな軽口を言ってはみたものの、俺の心臓はバックバクだ。これから虎子さんと戦うというのに大丈夫なのだろうか、俺は。

 

「藤木君、私達の所へ来ない?」

「私達の所って……」

「亡国企業」

「……っ」

 

一体何を考えているんだ、虎子さんは。

 

「もし来てくれるなら私を自由に使ってくれてもいいわ」

「…………」

「私には貴方が必要なのよ」

「それって……」

「愛してるわ、藤木君」

 

なんと、なんという事だ。俺が人からこんな事を言われる日が来るとは。そして人から直接的に好意を伝えられるのがここまで心を乱されるものとは。

いや、落ち着け。虎子さんの本職はハニートラップ、こんなのただのリップサービスだ。

 

「へ、へぇ。それは嬉しいね」

「でしょう? 私の体も自由にしていいのよ、胸は藤木君好みじゃないかもしれないけどプロポーションにはそれなりに自信があるんだから」

 

もうポーカーフェイスもあったもんじゃない、俺の心はもう乱れっぱなしだ。

いや、駄目だ駄目だ駄目だ! KOOLになれ藤木紀春! 今ここで虎子さんを得て何になる! 

 

「……だ、駄目だ」

 

振り絞るように出した声は案の定震えている、でももう決めたんだ。

 

「?」

「駄目だよ虎子さん。確かにその提案は魅力的だけどもう駄目なんだ」

「…………」

「君は魅力的だし、俺も多分君に好意を抱いてるんだと思う。だけど駄目だ、全てを捨てて君についていくには俺は多くの物を抱えすぎてしまった。それを捨てる事なんて出来ない」

 

IS学園の仲間たち、特にラウラとシャルロットとソフトボール部の面々。それに三津村にも俺を支えてくれる人が居る、たまに鬼のような仕事をぶつけてくるけど…… そして何より俺の両親、あの二人はこんな俺にたくさんの愛情を注いでくれ、家族として十五年間過ごしてきた。そして前世を含めて俺の年齢約三十五年、さすがにこの歳になってくると親のありがたみというのが身に染みて解ってくる。まぁ、心はまだまだナウでヤングなつもりなのだが……

 

「そう、残念ね」

「君がこんな仕事をしてなければ靡いたのかもしれないけどな」

「…………」

「ありがとう、虎子さん。君と過ごした時間はほんの少しだったけど、あの時俺は君のお陰で救われた」

「あんなの、ただ仕事のためにやっただけよ」

 

虎子さんの顔に影が落ちる。こんな仕事をやっている位だ、虎子さんにも俺が想像できない位の壮絶な過去があるのは間違いない。

出会い方が違っていれば俺達はもっとより良い関係を築けたのかもしれない、こんな風に対峙する事なんてなかったのかもしれない。でもそれはあくまでifの話だ、そんな話にまで俺は責任を持てない。

 

「どうでもいいんだ、そんなこと。君が俺の心を救ってくれたのは事実なんだから。俺は、俺は……あなたの事が好きでした。でも、もうさよならだ」

 

一筋の涙を流しながら、俺は霧雨を展開する。それを見た虎子さんは大きく息をつき俺と同じ霧雨を展開する。

今、俺達の関係は一つの終わりを迎えた。そしてここから新しい関係が始まる、今から俺達の間柄の呼び方は宿敵だ。

 

おもむろに突撃を仕掛ける俺、それを受け止める虎子さん。霧雨がぶつかり合い激しく火花が散り紫電が飛び交う、それは俺達の新しい関係を体現するかのようだった。




最近書き溜めの調子がいいのでキャノンボール・ファスト終了後も週一更新できそうです。

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