インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第59話 不思議な光と蒼い春

「…………」

 

今俺がいる場所、第六アリーナは中央タワーと繋がっていて高速機動実習が可能である施設らしいというのは先週山田先生から聞いた話だ。

そこを駆け回る二機のIS、一夏の白式とセシリアさんのブルー・ティアーズだ。

二機のISが併走し、ネジネジ塔こと中央タワー外周からアリーナ地表へと戻ってくる。

 

「はいっ。お疲れ様でした! 二人ともすっごく優秀でしたよ~」

 

一夏とセシリアさんを褒める山田先生は嬉しそうだ、まぁ教師的に教え子の成長というのは嬉しいものなのだろう。

そんな一夏にラウラが突っかかりラブコメ展開が繰り広げられる、これもいつもの展開だ。

 

「紀春っ、助けてくれ!」

「嫌どす」

「何故に京都弁!?」

 

俺が一夏を華麗に無視している間にも授業は続き、訓練機が数機アリーナから飛び立っていく。専用機を持つ俺達は比較的自由に飛べるので体が暖まったら俺も出るとしよう。

そして準備運動をしている俺にシャルロットが話しかけてきた。

 

「なにやってるの?」

「見りゃ解るだろ」

「解らないから聞いてるんだよ」

「……マ○ケン体操」

「マエ○ン!?」

 

前傾姿勢になって肘で円を描くイメージでグルグルと回しその後胸をそらし両肘を上げる。この動作で肩や肩甲骨辺りの血流が良くなるらしい、ついでに肩こりも解消されるとか。

 

「素人が見よう見まねでやると肩痛めるから真似はしないほうがいいぞ」

「そんなの誰も真似しないよ……」

 

そんな会話をしていると俺達の所へ一夏がやって来た。

 

「いやぁ、酷い目にあった」

「お疲れさん」

「お疲れー」

 

一夏は首元をしきりに気にしているようだ、さっき織斑先生にチョップを食らってたのが原因だろう。

 

「しかしあれだな、スラスター調整程度であそこまでのスピードが出るとは」

「ん、俺の白式の事か? まぁ確かに早かったけど紀春の乗ってた打鉄・改程じゃないだろ」

「あれは元々そういう設定で作られてるしデメリットがでかすぎるんだよ、ゼロヨンやるわけじゃないんだから直線番長なんてレースじゃほとんど役に立たないぜ?」

「デメリットなら俺もあるぞ、あの状態だと雪片弐型使えないし」

「お前どうやって戦う気だ?」

「……体当たり」

 

なんと男らしい戦い方だろうか、男らしすぎてちょっと可哀想になってきた。

 

「そういうお前らこそどうなんだ? 協力プレイで狙われそうで俺的にはかなり怖いんだが」

「協力プレイか……」

「出来ればよかったんだけどね……」

「な、なんだ。喧嘩でもしたのか? その割りには仲良さそうだが」

「一般人の一夏君には解らないかもしれないが会社勤めには色々しがらみがあるんだよ」

「正確に言うと派閥争いなんだけどね」

「……よく解らないけど大変なんだな、お前らも」

「本当、大変だよ…… っと、そろそろ俺飛んでくるわ」

 

マエケ○体操を終え、ヴァーミリオンを展開する。アサルトドレスもインストール済みで赤い機体に黒いドレスが覆いかぶさる。

 

「おお、それがお前の新装備か」

「追加装甲と追加スラスターって所かな、というわけで行ってくる」

「気をつけてね」

「りょーかい」

 

そして俺は機動訓錬のスタート位置まで飛んでいく、そこには丁度モンハン三人娘ことTさんとかがみんとリコリンが居た。

 

「今からスタートか?」

「あっ、藤木君だ。こうやって四人集まるのも久しぶりだね」

「モンハン速攻で飽きたからな」

 

実はこの四人でモンハンをやった回数ってのは意外と少ない、俺にとってモンハンはコミュニケーションツール以上の価値はなかったためクラスに打ち解けて以降はモンハンの誘いを断っていたからだ。というか三津村のお仕事が忙しいので授業の合間の休み時間くらいしか時間が取れないのだ。

 

「まぁ、モンハンは置いといて。今からスタートなら混ぜてほしんだが、いいか?」

「えー、藤木君とやりあったら私達勝てないじゃん」

「そこをなんとか。そうだ、三対一ってのはどうだろう。俺に勝ったらなんか奢るぜ?」

「な、なんでも!?」

「俺が居る時限定のデザート無料券ってのはどうだ? 確かキャノンボール・ファストの優勝商品ってそんなだったよな?」

「つまり訓練機部門で負けても私達はデザート食べ放題ってこと?」

「俺に勝てたらの話だけどな」

 

三人娘の目が輝いている、どうやら交渉成立のようだ。

 

「やるやる! めっちゃやる!」

「よしっ、じゃお互い頑張ろうぜ!」

「「「おーっ!」」」

 

そういうわけで、俺と三人娘の戦いの火蓋は切って落とされたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では始めますね ……3・2・1・ゴー!」

「ヒャッハーーーーーーッ!!」

 

山田先生のフラッグが振り下ろされると同時に俺は瞬時加速(イグニッション・ブースト)でスタートダッシュに成功、そのまま背面スラスターを全開にして一気に三人娘との距離を引き離す。

 

「サラマンダーより、ずっとはやーい!」

「なに馬鹿な事言ってんのよ! 藤木君を倒さないと負けるのよ、私達も急がないと!」

「でも最新型のレース仕様の追加装備付きに追いつけるのかしら?」

「気合よ、気合! スイーツ食べ放題が掛ってるんだから何とか追いつくのよ!」

 

後方からそんな声が聞こえる、その声を聞きながら俺はヴァーミリオンのスピードを少し緩める。単純にぶっちぎるだけじゃ一人で訓錬するのと何も変わらない、俺が今したいのは高速機動中の乱戦に対応するための訓錬なのだ。

 

「っと、思ったより向こうも早いな」

 

三人娘が一気に俺との距離を詰めてくる、多分高速機動教習用にカスタムされているのだろうか。

三人娘の装備はTさんが打鉄、その他二人がラファール・リヴァイヴだ。純粋な機能の差なのかががみんとリコリンが先行して俺に追いつく、二人は示し合わせたかのように武装を展開、俺に弾丸の雨を叩きつけるつもりなのだろう。

 

「おりゃーーーーーーー!」

「ボラボラボラボラボラアッ!!」

 

予想通り俺に向かって弾丸が降り注いでくる、しかし俺だってそれなりの経験は積んできたつもりだ。高く飛び上がり全てを回避する。

ISが人間によって操作されている以上、通常なら弾丸を避けるような真似は出来ない。しかし俺に当たる弾は一つもない、相手の動きを観察し弾丸が発射されるタイミングよりも早くその射線から逃げれば弾は当たらないのだ。

 

「もらったああああっ!!」

 

二人の射撃から逃げ出した先にTさんが近接ブレードを振りかぶりながら突っ込んでくる、それに対して俺は霧雨を展開し近接ブレードを受け止めた。

 

「くっ……」

「パワーならこっちの方が上だぜ!」

 

徐々に押してきてる俺、しかし悠長に鍔迫り合いなんてやってられない。こうしている間にも二人が俺に迫ってきているのだ。

 

「そぉい!」

「きゃっ!」

 

近接ブレードを弾き、がら空きの腹にキックをお見舞いしTさんを吹き飛ばす。すぐさま逃げようとしたが二機のラファール・リヴァイヴはその時には俺の左右を取り囲んでいた。

 

「今度こそ!」

「つかまえたっ!!」

 

そのまま俺は二機に両腕を抱えられ拘束されてしまった、必死でもがくが流石に片腕でIS一機の全力の拘束には敵わないようだ。

 

「くっ……高機動カスタム、甘く見ていた」

「残念だったわね、これでデザート食べ放題はいただきよ」

「ところでおっぱいが思いっきり当たってるんですが、これはいいのでしょうか?」

「これからの事を思えば、多少はね?」

「おお、役得役得」

 

そんな会話をしている最中だが、Tさんが俺の目の前にやってきた。多分トドメを刺す役目は彼女になるのだろうか。

 

「癒子! やっちゃいなさい!」

「オーケイ、一撃で決めてやるわ」

 

その言葉と共にTさんは掌を俺に向かって突き出す、俺とTさんの距離は約五メートル位あるのだが彼女は一体何を…… あっ、Tさんの手から青白い光が……

 

「えっ、なにアレ?」

「さぁ?」

 

……これアカンやつや。

 

「はっ、放せ! あんなの食らったら三人まとめてお陀仏だぞ!」

「えー、いいじゃん。それで私達が勝てるわけだし」

「はぁぁぁぁぁぁっ……」

 

Tさんがいかにもエネルギーを溜めてますって感じで唸る。『破』だ、『破』を撃ってくる気だ。

 

「お前らと心中なんて御免被る! 俺は逃げさせてもらうからな!」

「わっ、藤木君暴れないで!」

 

俺は拘束された体を捻り、なんとか脱出しようと試みるが二人は中々放してはくれない。

 

「だったら、奥の手だっ!」

 

アサルトドレスの背面スラスター、ショルダーポッド、そしてスカート内部に仕込まれたブースターポッドの全てを吹かし二人から逃げようとする。徐々に二人の力が緩くなってきた。

 

「いっけえぇぇぇぇぇぇっ!」

「破ぁああああああああっ!!」

「うおおおおおおおぉぉっ!!」

 

二人の拘束を振り切った瞬間、目の前が白い光で満たされる。しかし俺はそれをなんとか回避、更に高く舞い上がった。

 

「「きゃあああああああああっ!」」

 

下では『破』の直撃を食らった二人の断末魔が聞こえる、しかしまだ戦いは終わってない。『破』の二発目を食らえば今度は俺があの二人と同じ末路を辿るのだ、ならばチャンスは今しかない。俺がTさんを仕留めるのだ。

 

「行くぜっ、旋風のヘルダイブスラッシャー!!」

 

俺は飛びあがった勢いそのままに大きく宙返りし、Tさんに突撃を仕掛ける。ヴァーミリオンの羽はクリアウィングでもないしシンクロした覚えもないけどこういうのは勢いが大事だ、そしてそんな事を思っている間にも俺とTさんの距離はどんどん縮まっていく。

 

「うおおおおおおおっ!!」

「二発目…… 間に合わないかっ……」

 

そして俺とTさんが交錯し、Tさんが吹っ飛ぶ。勝った、そう俺は確信した。

 

「って、かがみんとリコリンがっ!」

 

俺の真後ろで『破』を食らった二人が落下していくのが見える。

多分『破』でシールドを削りきられたのだろう、ってこんな事考えてる場合じゃない。この高さから落ちれば大怪我は免れない!

 

「間に合えええええっ!」

 

俺は落下している二人を一気に抜き去り、下から優しく二人を受け止めそのままアリーナへ着地する。危機一髪って感じだ。

 

「ふぅ、危なかった」

 

次の瞬間、頭部へ衝撃が走る。

 

「ぶへっ!?」

「誰が戦闘訓練しろと言った、馬鹿者が」

 

当然の如く織斑先生である、というかさっきのでシールドが削れたんですが一体どういう事だ?

 

「はぁ、すみません。ついハッスルしちゃって」

「今回は誰も怪我がなかったようだが、高所で絶対防御が発動すれば死の危険もあり得る。解ったのなら二度とこういう事はするな」

「すんません……」

「反省が足りないようだな、後で反省文を書いてこい。原稿用紙十枚分な」

「えー、仕掛けてきたのは向こう側ですよ。何で俺だけ」

「そう仕向けたのはお前だろうが、そんなに不満なら二十枚がいいか?」

「いや、マジ勘弁してください。ガチで反省しますんで」

「今日中に提出しろ、今回はそれで許してやる」

「はぁい」

 

そう言って織斑先生は踵を返す、とりあえず授業終わったら購買で原稿用紙買わなきゃ。

 

「災難だったわね」

 

今度はさっきまで戦ったTさんが声を掛けてきた、どうやら彼女は旋風のヘルダイブスラッシャーを食らったにも関わらずシールドは残っていたようだ。

 

「そもそもTさんが『破』を撃たなけりゃこんな事にはならなかったのに……」

「ごめんごめん、でも私の最大火力ってあれしかないから」

「しかし、ISに『破』って効くんだな」

「ノリでやってみたけど私も驚きよ。ああ、この事は誰にも言わないでね。色々面倒だから」

「おーけい、まぁ俺も『破』に一度救われた身だからとやかくは言わないよ」

「じゃ、私は行くね」

「そうだ、折角だからこの後の昼休みに四人で飯食わねぇか。デザート奢るぜ?」

「あれ、私達負けたのにどうして?」

「今回の危険手当ってことで、俺もいい経験になったし」

「それは嬉しいわね、じゃ昼休みを楽しみにしてるわ」

「おう、じゃあな」

 

そう言って俺とTさんは別れた。さてデザートの後は反省文か、これは中々に憂鬱だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

手を開き、もう一度握り返す。そしてその握り拳に全身の力を集めるようなイメージを描く、そうして……

 

「はっ」

 

その力を放出するかのように手を開く、そうすると掌から青白い光が漏れ出す。

 

「おっ、織斑先生! なんですかそれ!?」

 

見られた! いや、目撃者が私の予想通りならまだ誤魔化しは効く。私は椅子ごと振り返り目撃者相対する、案の定目撃者は真耶だった。

 

「ちょっとした手品だ、忘年会の余興にな」

「今から忘年会の準備ですか? まだ九月ですよ」

「……楽しみなんだよ」

「は、はぁ」

 

よし、中々苦しいが誤魔化せたはずだ。しかし私も気が抜けていた、誰に見られるかも解らない職員室でこんな事をしてしまうなんて。

 

「でもさっきの光、綺麗でしたね。どうやってやるんですか?」

「手に特殊な薬品を擦り込んで暖めれば誰にだって出来る」

「へぇ、どんな薬品なんですか? 私もやってみたいなぁ……」

 

墓穴を掘った気がする、勿論さっきの光は薬品なんかで出せる代物ではない。さて、どう誤魔化したものか……

 

「やめておけ、この薬品に慣れるのには特殊な訓錬が必要だ。素人がみだりに扱うと即死しかねん」

「忘年会の余興に命懸けですか! というかそれって毒物じゃないですか!?」

 

まずい、更に墓穴を掘った気がする。ええい、こうなればなるようになれ。

 

「実は、私は毒手の使い手なんだ」

「こ、怖い!」

「更に、モンドグロッソで優勝できたのもこの毒手のお陰だったりする」

「今明かされる衝撃の事実っ! というか流石にそれは嘘ですよね!」

「……ああ、嘘だ」

 

まくし立てる真耶におどけるように笑って見せる、多分完全に誤魔化せたはずだ。

 

「で、結局どうやってさっきの光を?」

「マジックのタネを教えるマジシャンが居るか、誰にも教える気はないぞ」

「そうですか……」

 

よし、完全に有耶無耶に出来た。もう安心だ。

 

「でもさっきの光ってアレに似てましたよね」

「アレ? アレとはなんだ?」

「さっきの授業で谷本さんが藤木君に撃ったビームみたいなやつですよ」

 

やっぱり有耶無耶に出来なかった! 谷本が藤木に放ったあの光、多分私か起こしたさっきの光と同じものだろう。

私も当分使っていなかったがまだ使えるようだ、しかし私はあれほどの規模で放つ事は出来ない。あの規模で撃てる人間は私の知る限りでは谷本を除けばたった一人しか居なかった、そのたった一人もとうの昔に死んだが。

 

…………はっ、いかんいかん。消し去りたい過去につい思いを馳せてしまった。そんな事より今はこの場を誤魔化さないと。

 

「……多分荷電粒子砲でもこっそり積んでたんだろうな」

「そ、それはいけません! 訓錬機に勝手に武装をインストールするなんて下手すれば退学モノですよ! とにかくそれよりお説教ですね、私今から谷本さんに会ってきます!」

 

また話が良くない方向に向かっている、流石に私の嘘に谷本まで巻き込むわけにはいかない。

 

「いや、谷本には私から話しをしておく」

「いえいえ、お忙しい織斑先生のお手を煩わせるわけには」

「私が話しておくと言ったんだ」

 

少々語気を強めて同じ事を言う、こうなると真耶もこれ以上突っかかってくることはないだろう。

 

「アッハイ」

「そうだ、それでいい。もう仕事に戻ってもらって構わんぞ」

「し、失礼しました……」

 

そう言って真耶がそそくさと立ち去る。ああ、なんで私はこんな気苦労の多い職場で働いているのだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後のアリーナはたまに空いている事がある、たまに訓錬機の一斉整備とかをするらしい。キャノンボール・ファストも近いし整備にはいつも以上に気を遣わなければならないのだろう、そして今日はそんな日だった。

そんな時こそ俺のような専用機持ちにとっては格好の機会となる、訓錬機が縦横無尽に飛び回る普段のアリーナではまともに訓錬なんて出来やしない。特に機動訓錬を行おうものなら尚更だ。

というわけで俺は意気揚々とアリーナの中へと飛び込んだ、が…… どうやら今日は先客が居るようだ。

 

渦を巻く金髪ドリルに映える蒼の機体、どこからどう見てもセシリアさんだった。

ハイパーセンサーのお陰で後ろに立つ俺は彼女の視界に入っているはずだ、しかしそんな俺に気付くような素振りもなくセシリアさんは遠くに離れたバルーン目掛けて射撃を繰り返している。

なんだか手持ち無沙汰なので彼女を観察してみる事にした俺はすぐにセシリアさんの異変に気付く、セシリアさんの放つ光の弾丸が一発もその的に命中しないのだ。

一発撃つ度に漏れる溜息、なんだかよく解らないが彼女が行き詰っているように感じた。良くない傾向だ、こういう時に闇雲に努力したところで結果なんて出る訳がない。

多分いま彼女に必要なのはリラックスする事だ、ならばわたくしことオリ主がお手伝いしましょうか。

 

「だーれだ♪」

「きゃああああああっ!!」

 

セシリアさんの背後に立ち、おもむろに目を塞ぐ。俺に全く気付いてなかったようで彼女は金切り声を上げ飛び上がる、そしてその勢いで突き出した肘が思いっきり俺の鳩尾に突き刺さった!

 

「ごふぅ!」

「の、紀春さん!? 大丈夫ですか!?」

 

鳩尾の痛みをオリ主ポーカーフェイスで全力で隠し、笑顔でサムズアップ。男には見栄を張らなければならない時がある、多分それは今だ。

 

「いや、セシリアさんが全然俺に気付いて切れないからちょっとしたサプライズをね」

「そ、そうですか……」

 

セシリアさんが落胆したような態度で答える。ああ、これはたぶんアレだ。

 

「今これが一夏だったら良かったのにって考えてたでしょ?」

「ぎくうっ! そ、そんなことありませんわよ」

 

まぁいい、別にセシリアさんにもてたいわけじゃないんだ。悔しくなんて……ない。

 

「ところでさっきまで見てたけど何してたんだ? 射撃練習の割りには随分なノーコンだったけど」

「ノーコンだなんて、はっきり言いますわね」

 

今俺達が居る場所から真反対のアリーナの壁付近には射撃用の的というかバルーンが浮かんでいる、バルーンが浮かんでいるという事は射撃が当たっていないという事だ。この距離ならセシリアさんの技術的に外す方が難しい位だし、俺だってちゃんと狙えばあの位の距離は楽勝だ。

 

「むしろ意図的に外してるのか?」

「ま、まぁそうなんですが……」

「なんでそんな意味のない事を?」

「そ、それは……」

 

セシリアさんが言い淀む、言いづらい事なんだろうか。

 

「ふぅ、まぁいいですわ。紀春さんには教えて差し上げましょう」

「おっ、なになに?」

「そもそもBT兵器が何を目的にして作られてるのかご存知ですか?」

「それはνガンダムさながらビットを飛ばしてオールレンジ攻撃で戦うことじゃないのか?」

「違います、ビットはあくまでBT兵器の副産物に過ぎません」

「違うのか、アレ結構格好いいのに」

「格好いいのには同意しますがそうではありません。BT兵器の本来の目的、それはビームを自在に操る偏向射撃(フレキシブル)ですわ」

 

フレキシブル? 語感からしてビームがぐにゃぐにゃと曲がるのだろうか、なんだかウイングダイバーっぽい感じだ。

 

「うーん、つまりビームを曲げて敵に当てるって事か」

「大雑把に言えばそんな感じです、弾速は落ちるのですが」

 

ビームを曲げる……ねぇ。

 

「うーん」

「何か不満でも?」

「正直な感想を言っていい?」

「ええ、どうぞ」

「それってすっごくナンセンスだな」

「ナンセンス!?」

「ああ、まるでなっちゃいない。ビームが曲がったからってなんだっていうんだ、曲げて当たるような敵なら直接狙った方が狙いやすいだろう」

「し、しかしですね! 奇襲が出来たり遮蔽物に隠れた敵を攻撃できたりと!」

「奇襲が出来るなんて最初の一発だけだ、遮蔽物に隠れた敵を狙い打てると言った所で遮蔽の先の敵がどこに居るかなんて誰にも解らないじゃないか。そもそも曲げるだけならミサイルでも何でも撃てば良い話だろ」

「そ、それは……」

「そもそも弾速が落ちるってのが致命的すぎやしないか? ビームの一番の利点って弾速だろ」

「……あっ」

 

全くもってナンセンス極まりない、セシリアさんではなくブルー・ティアーズの開発者がだ。

 

「仮にそれを極める事が出来るのなら俺も思いつかないような利点があるのかもしれない、でも実際はどうなんだ?」

「実際にとは?」

「そのフレキシブルというのを実戦レベルで使いこなせるような人間は居るのかって事だよ」

「それは、まだ居ませんわ。最もBT兵器に適正のある人間はわたくしですし……」

「はぁ、イギリスはやる気あんのか? イグニッション・プランはサーカス団員育成のための計画じゃないだろうに」

 

ビットも曲がるビームも見た目だけなら格好いいと思う、しかし格好よさだけで勝てるのなら誰も苦労しない。俺達三津村はイグニッション・プランに会社の未来を掛けている、しかしライバルがこれではせっちゃんも可哀想だ。

 

「昔言ってたよな、自分はこの島国にサーカスをやりに来たんじゃないって。でも今セシリアさんがやっているのはサーカスの練習にしか見えないよ」

「…………」

 

セシリアさんが俯き、黙る。多分自分としても思うことがあったのではないだろうか。

 

「ごめん、言い過ぎた。こんなつもりじゃなかったんだけど」

「いえ、いいんです。自分でも薄々は感づいてましたし……」

 

励ますつもりがついヒートアップして貶してしまった。俺の悪い癖だ、目先の事に囚われてすぐに本来の目的を忘れてしまう。……そうだ。

 

「セシリアさん、戦おう」

「戦う?」

「ああ、俺と戦おう。君はサーカス団員なんかじゃない、立派な戦士だ。その銃だって曲芸をするためにあるんじゃない、敵を打ち倒すためのものだ。だから戦おう、そのフレキシブルが戦いのために存在するのならきっと答えは戦いの中にあるはずだ」

 

俺の憧れの蟹頭のヒーローは自分が迷っていた時の答えをデュエルの中で見つけるしかないと言っていた、ならば俺もそれに倣おう。でも俺達は決闘者ではないのでISでガチンコバトルをしてみよう。

 

「ええ、そうですわ! 戦いましょう紀春さん、戦いの中でしか見つけられないものはきっとあるはずですから」

「いよっし! 手加減はしないからな!」

 

俺はヴァーミリオンを展開し飛翔する、アリーナの反対側で着地しセシリアさんと対峙した。

 

「行くぜ?」

「ええ、いつでも」

 

その声を聴いた瞬間俺は瞬時加速(イグニッション・ブースト)でセシリアさんの居る方向へ飛ぶ、そんな俺にセシリアさんが真っ直ぐにビームを放ち俺はそれを地面を削りながら紙一重で回避してみせた。

 

「うおおおおおおおおっ!」

「まだまだっ!」

 

またしても真っ直ぐ襲い掛かるビームを大きく跳躍する事で避け、霧雨を展開。一気に急降下してセシリアさんに振り下ろそうとするが着地地点にはもう彼女の姿はなく代わりに襲い掛かるビットからのビーム、その攻撃を俺は体を捻りながらなんとか回避した。

 

「ふっ、中々やるね」

「そう言う紀春さんこそ」

 

セシリアさんが微笑む、そんな彼女の笑みに俺も頬が緩む。

まだまた戦いはこれからだ。仕掛けたからには勝ちたい、それが男の子の意地ってもんだろう。

俺は再度セシリアさんに突撃していく。ああ、今俺達めっちゃ青春してる気がする。


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