インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~ 作:たかしくん
「今更なんだけどさ、一夏と紀春ってなんとなく似てない?」
風邪をひいた時や、体調の悪い時に食べたいものといえばなんだろうか。お粥? それとも雑炊? はたまた参鶏湯? ……いや参鶏湯は良くないな、最悪炎上する。
「えー、全然似てないよ。性格とか全然違うじゃん」
まぁ、人それぞれいろんな意見があるだろう。ちなみに俺が風邪の時に食べたい食べ物ナンバーワンはうどんだ。
「いや性格とかじゃなくって、顔とか」
嗚呼、うどん。あの真っ白で滑らかな麺がするするっと口に入っていく喜びは筆舌に尽くしがたい。普段食べるのならコシのある讃岐うどんが好きだ。しかしこんなに体調の悪い日にはコシのないやわらかなうどんがいい。
「顔? ……うーん、そう言われれば目元とかがなんとなく似てなくもないような。一夏、どう思う?」
トッピングを一つだけ選ぶのならやっぱり海老の天ぷらがいい、出汁を吸った衣の軟らかさとその中から出てくる海老のうまみはまさにうどんのベストパートナーである。いやいや、うどんのベストパートナーといえばやっぱりきつねか? いや、ここは男らしく肉うどんというのもいい。あの甘辛い味付けも先の二つに全く劣るものではない。
「そりゃ、この学園には男は俺達二人だけなんだしその他大勢に比べれば似てる部分もあるんじゃないのか?」
ああ、最高のうどんのトッピングとは一体なんなんだろうか? いや、迷っているのなら豪勢に全部のせという手もある。あのそれぞれがそれぞれを引き立てる三位一体の黄金のハーモニーはまさにうどん界の王様だ。
しかしながら今の俺は体調が悪い、うどん界の王様を受け入れるにはちょっと胃が辛い。とはいえ、かけうどんを食べるのは少し味気ない気もする。ということで卵とじうどんが今日の俺の昼食となった。
「見も蓋もないわね。紀春、あんたはどう思う?」
「うどん」
「うどん!?」
目の前のうどんを一口啜る。柔らかな麺が口から喉へ駆け抜けていき、出汁の優しい味わいが口いっぱいに広がる。IS学園の食堂は何を食べてもうまいが今日のうどんは一段とうまく感じる、きっと俺の体がうどんを求めているからなのだろう。
「ああ、うどん美味しいようどん。愛してるようどん」
「こいつ全然話聞いてないわね」
もう一度うどんを啜る。ああ、美味しい。
「紀春? ねぇ、紀春ってば」
シャルロットが俺の肩を揺らして喋りかける。ふと気付くとテーブル内の全員の視線が俺に釘付けだ、どうやら俺がうどんワールドに引き込まれてる間に話を振られていたらしい。
「ん、なんだ?」
「さっきの話聞いてた?」
「いや、全然」
テーブル内の数人が溜息をこぼす。なんだろう、悪い事してないのに悪者にされてる気がする。
「あんたねぇ、話振られてるのに自分の世界に引き篭もるのやめなさいよ」
「すまん、うどんワールドが魅力的でつい」
「何よ、うどんワールドって」
「まぁ、それは別にいいじゃないか。で、何の話なんだ?」
「あんたと一夏の顔がなんとなく似てるって話なんだけど」
そう言われて一夏の顔を見る、そして一夏も俺の顔を見る。
「おお、言われてみれば」
「あんたもそう思うの?」
「おう、めっちゃ似てる。目が二つある所とか鼻の穴が二つある所とか口が一つある所とかそっくりだ」
「そういう話じゃないっ!」
「うおっ、危ねぇ!」
その言葉と共にレンゲが飛んでくる、俺はそれをオリ主動体視力で捉えオリ主反射神経を駆使し見事にキャッチした。
「何すんだよ!」
「あんたが阿呆な事いってるからでしょう?」
「それでもお前短気すぎだろ、俺体調悪いんだからもう少し優しくしてくれよ」
「どうしたの、風邪?」
「かもしれん、朝起きたときはいける気がしたんだが時間が経つにつれてどんどん体調が悪くなってる」
シャルロットの手が俺の額に触れる、触れられた手は冷たくて気持ちいい。
「うーん、結構熱いね」
「やっぱりそうか。なら飯食ったら早退するわ」
「帰るまで一人で大丈夫?」
「ガキじゃねーんだから大丈夫だよ。で、俺と一夏が似てる話だったか」
「うんうん」
もう一度一夏の顔を見る、シャルロットが手鏡を差し出してくれたのでそれを受け取り自分の顔と見比べてみる。
「似てるのか?」
「さぁ?」
一夏に質問してみても気の利いた返答は返って来ない。しかし、目元が似ているといわれればそんな気もしなくはないような気がする。
「うーん。似てるような、そうでもないような」
「似てると思うんだけどなー」
「まぁ、似てるとするならば心当たりがないわけでもないんだがな」
「えっ、何かあるの?」
「ああ、実はな……」
折角なので赤の扉を選ぶように変な話をしてみよう。
「実は俺と一夏は生き別れの兄弟だったんだよ!!」
「「「なっ、なんだってー!?」」」
「あれはかれこれ……もう十年以上前の話になる。生活に困窮していた我が織斑家というか姉さんは口減らしのために俺を銀貨五枚で売ったんだ! そして俺はその後なんやかんやあってエリートサラリマンの父さんとノーパン書道教室を営む母さんに拾われて現在に至るというわけだ」
「なんだか」
「どこかで」
「聞いたような話……」
「ですわ」
「俺はあの日の事は忘れていない、そもそもこのIS学園に来たのも俺を捨ててのうのうと暮らしている姉さんに復讐するためだったんだよ!」
「ちょ、ちょっと待て兄! 兄が一夏と兄弟ということはっ!」
「ラウラ、お前と一夏も兄妹だということだ。つまり、このまま行くとヨスガノソラだ。お兄ちゃんそんなの許しまへんで?」
「なんてことだ…なんてことだ…」
「ラウラ、そんな嘘に騙されちゃ駄目だよ?」
俺のホラ話を真に受け絶望するラウラはシャルロットの話に耳を貸そうとはしない、こんな純粋な所を見せられるともう少しからかってやりたくなる。
「という事で一夏、今日から俺の事はお兄ちゃんと呼びなさい。姉さんに恨みはあるが当時三歳だったお前まで恨んでるわけじゃないからな」
「俺、お前の弟でもあったのか……」
「お前の小さい頃の記憶が無いのは俺が居なくなったショックで一度精神崩壊していたからと、とある情報筋から聞いている。まぁ、俺もよく記憶喪失するからそこら辺は遺伝的なものもあるんだろう」
「は、はぁ……」
「さて、こうしちゃ居られない。鷹に攫われたもう一人の妹を探しに行かねば」
「まだ居るのか、俺の兄弟。それにお前の妹の数はとどまる所を知らないな」
「実際俺も何人居るのか正確に把握できてないからな。じゃ、そういうことでアディオそげぶっ!!」
別れの挨拶をしようとした所に、脳天を駆け抜ける激痛と衝撃が襲い掛かる。見上げるとそこには姉さん……じゃなくて織斑先生が立っていた。
「なっ、なにすんだ姉さん!?」
「なに、生き別れの姉弟に対するスキンシップに決まっているだろう」
「ワッザ!?」
「さて藤木、今まで会えなかった分今日からかわいがってやるからな。相撲的な意味で」
「アイエエエ……」
怒りのオーラを撒き散らす織斑先生とそれに対峙する小動物のように震える俺、しばらく震えていると織斑先生は俺を鼻で笑いどこかへと行ってしまった。
織斑先生の姿が見えなくなると同時にテーブルに居る全員が一斉に溜息をつく。
「あー、ただでさえ痛い頭が更に痛てぇ……」
「完全に自業自得だよ、紀春」
「ちょっと悪ノリしただけじゃん、あんなに怒らなくてもいいのに」
「悪ノリ? 黒ノリの親戚か?」
「うんにゃ、黒ノリの進化系」
「ほう、兄は物知りだな」
「紀春、ラウラを騙すのはやめようよ。ラウラは紀春の言う事は全部信じちゃうんだから」
「何を言っている、シャルロット。兄が私に嘘をつくはずないだろう」
「……もうどうにでもなぁれ」
どうやらシャルロットはラウラの教育を諦めたようだ。
「あー、なんだか本格的に体がだるくなってきた。じゃ、今度こそ俺帰るわ」
「ちょと待て紀春、一つ聞きたいことがある」
帰ろうとする俺を一夏が引き止める、聞きたいこととは一体なんだろう。
「なんだ?」
「お前の誕生日っていつなんだ?」
「11月3日だけど…… それがどうかしたか」
11月3日、それがこの世界のオリ主たる俺の誕生日だ。みんな覚えておこう。
「そうか、11月3日か。ちなみに俺の誕生日は9月27日だ」
「へぇ、もうすぐなんだな。ならプレゼントでも用意しておこう」
「ああ、期待してる。それはさておき、俺が言いたい事が解るか?」
「全く解らんな」
「俺の誕生日が9月27日でお前の誕生日が11月3日だ、つまり……」
「つまり?」
一夏はこの後一体何を言うのだろう、次の言葉が発せられるまでの時間がやけに長く感じるのは俺が一夏がこの後もの凄い事を言うような気がして期待しているからなのだろうか。
「俺はお前の弟ではなく、お前が俺の弟だってことだ!」
「その話まだ続けるんかい!! つーか、俺とお前に血縁関係なんてあるわけねーだろおおおお!」
「なにっ!? 千冬姉がお前の事姉弟だって言ってたじゃないか!」
「お前もさっきの作り話信じてたのかああああ!!」
大声出しすぎて喉が痛くなってくる、こうして俺達の昼飯の時間は俺の頭痛と喉の痛みを更に悪化させ過ぎて行った。
「うー、頭がぐわんぐわんする…… 今日はもう寝てしまおう、ただいまー」
「あっ、おかえりー」
俺は学園を早退し、1025室の扉を開け誰も居ないはずの部屋へと入る。そして独り言のつもりで言った言葉に返事が返ってくる、一瞬驚きはするもののその声はいつも聞いている声だったので俺はすぐさま平静を取り戻した。
「そこ、俺のベッドなんだが」
「うん、知ってる」
そこには、俺のベッドの上で寝転がりファッション雑誌を読んでいる我らが生徒会長たっちゃんが居た。その姿はまさに寛いでいるという感じだ。
「ノリ君、このベッド凄く男臭いんだけど。ちゃんとシーツ替えてる? というかお布団干してる?」
「たまにな、まぁここはこの学園で一番男人口密度が高い部屋なんだから他の場所に比べりゃ男臭いだろうよ。つーか、ピンクいのが丸見えなんだがそれは俺に見せてくれてるのか?」
「うん、ノリ君が元気になるかなって」
「そりゃありがたいね」
そう言って俺はたっちゃんの臀部を覆うピンクの布切れに対して手を合わせて拝んでみる、相変わらず体調は悪いが心なしか元気になった気がした。マイサンも元気になりたそうだったがそこは俺の鋼のオリ主精神力で抑える。
この学園では性的誘惑は結構多い。スカートの中が不意に見えてしまう事も多々あるし、やピッチピチのISスーツを着た女子と組んず解れつする機会も日常茶飯事だ。そんな事で一々マイサンを反応させていてはムラハチにされてしまう。
俺でもこんなのだからIS学園のめちゃモテ委員長こと一夏はもっと多くの誘惑に晒されているのだろう、しかし奴は持ち前の鈍感力でその誘惑を全て切り抜けてきた。
三日に一度の
「で?」
「で?」
「わざわざ部屋に来るってことはなんか用があるんだろ? というか俺のベッドから出てってくれよ、今体調が悪いんだ」
「えー、やだー」
「うるせぇ、やだじゃねーんだよ」
たっちゃんごとベットの掛け布団を剥ぎ取る、ベッドの上に寝転がっていたたっちゃんはごろごろと転がり床へと落下した。
そしてその隙に素早くベッドに潜り込む俺、ベッドはたっちゃんの体温で充分に温まっていた。
「うわぁ、あったかいナリ……」
「温めておきました!」
一体どこの藤吉郎だ。しかし、草履ならともかく他人の体温で温められたベッドというのはあまり心地良いものでもない。
「なんか不満そうな顔してるわね」
「潜水艦の乗組員もこんな気持ちだったんだろうと思うと色々思う所があるんだよ」
潜水艦の中では乗組員に対して常にベッドの数が足りていないらしく、常に交代制で使わなくてはいけなかったそうだ。つまり仕事を終えた乗組員はそれまで休んでいた別の乗組員のベットを使って寝なければならず、ベットは常に温かかったらしい。そんな知識を前世で遊んだ潜水艦モノのエロゲで知った。
「なにー! 私の使用済みベッドが不満とな!?」
「使用済みという言葉ってなんとなくセクシャルな感じがするけど、まぁ不満だな」
「世界中を探せば私の使用済みベッドを使いたいって人はごまんと居るんだからね!」
「その使用済みベッドで何をしたいんでしょうね?」
「そりゃ、ナニに決まってるじゃない」
「……うへぇ」
どうやらこの姉さんは自分から積極的にオナペットになっていきたいスタイルの人らしい。
オナペットのベッド………… うん、今のはナシだ!
「さて、そろそろ本題行こうかしら」
「姉さんがIS界のセックスシンボルを目指すって話だったっけ?」
「そうそう、やっぱりここは地道に水着着てグラビア撮影から始めればいいのかしら?」
「でも今時水着位で世の青少年は満足するかねぇ? ISスーツって結構露出度高いから目糞鼻糞みたいなもんだし、ネットを探せば無修正のすんごいのなんて幾らでも見れるわけだし」
「て……手ブラまでなら頑張るから!」
「えー、手ブラ? それって頑張った内に入るのか?」
「じゃあ、どうすればいいのよ」
「やっぱりここはヌードしかないっしょ。かの宮○りえは人気絶頂の時代にヌード写真集を出して社会現象を巻き起こしたんだ、姉さんも人気のある今のうちに出せばベストセラー間違いなしだぜ」
そうなりゃ世界の青少年はこのオナペット姉さんに釘付けだ、そして目指せ200万部。
「それって思いっきり児童ポルノじゃん! っていうかそんな事したら私ウチの大統領に殺されちゃうわ」
「ああ、ロシアの大統領めっちゃ怖そうだもんね。でも姉さんの実力なら殺されはしないだろ?」
「むりむりむりむりかたつむり。あの人に掛れば私なんて一瞬でサヨナラよ」
まぁ、あの大統領ならこの姉さんの一人や二人簡単に暗殺できてしまえそうな気もしなくはない。そして姉さんの怯えようからして多分出来るのだろう。
「という事で今の私に出来るのはこれ位が限界ね、やっぱり人間は身の丈に合った行動をしなくちゃ命が幾らあっても足りないわ」
そう言って姉さんはスカートの裾を摘んでスカートの中身をちらりと覗かせる。しかしたっちゃんの呼称がいつのまにか姉さんに変わってしまっているな。多分俺が千冬姉さんとのいざこざを引き摺っているからなのだろう。まぁ、実際俺に姉は居ないんだが。
「おお、たまらんね。オカズにしたいんで撮っていい?」
「いいわよ、でも一枚だけね」
「わーい、やったー」
すぐさまスマホを取り出し、俺は姉さんのあられもない姿を激写する。やはり日本人なら慎ましいチラリズムが似合っている。まぁ、実際姉さんはロシア人なのだが。
「……さて、結局姉さんは慎ましくセックスシンボルを目指すという事だな」
「そうね、ヌードは大人になってから考えるわ」
「じゃ、そろそろ帰って。俺寝るから」
「そんな事言って、本当はさっきの写真を早速使うつもりなんでしょう?」
体調不良が日頃の疲れを思い出させ、姉さんとの猥談&パンチラの相乗効果のお陰で実は掛け布団の下では疲れマラがギンギンであるのは姉さんには内緒だ。
しかし実際に姉さんの写真をオカズにする事はないだろう、そんな事したら今後姉さんの顔を直視出来なくなってしまう。
同様に今までこの学園で巻き起こしたラッキースケベというかシャルロットさんのあられもない姿をオカズに使った事は一度もない。そしてこれからもする事はないだろう、これは男の矜持なのだ。
「はいはい、もうそれでいいから早く帰ってね」
「あら、つれないわねぇ」
「その位疲れてるんだよ」
「そう、ならお休みなさい。 ……そうだ、体調が悪いならお粥でも作ってきてあげましょうか?」
「わしゃ、うろんがええよ」
「うどんね、晩御飯時に持って来てあげるわ」
「さんきゅー」
俺はそう言って、振り返り部屋から出て行くたっちゃんの背中を見送る。
たっちゃんはつくづく優しい人だと思う、そして俺はそんな優しさにいつも助けられてばかりだ。
俺はこの学園で多くの得難いものを得た、彼女との接点もその得難いものの一つであった。
そしてそんな事を考えている間にも彼女は歩を進め、ドアノブに手をかける。しかしどうしたことだろうか、たっちゃんはドアノブに手をかけたままドアを開こうともせず静止していた。
「違う……」
たっちゃんがそう言う、何が違うのだろうか。
「……どした?」
「違うのよ、ノリ君!」
そう言いながら振り返るたっちゃんの声には些か怒気が篭ってるような気がする、マジでなんなんだろうか。
たっちゃんはずかずかと足音を立てながらこちらへ戻って来て、どすんと音を立てそうなくらい勢いよく一夏のベッドに座った。
「そもそも私がノリ君に会いに来たのは、潜水艦がどうとかヘアヌードがどうとかうちの大統領が怖いとかそんな話をしに来たんじゃないのよ」
「全部自分が言い出した事だろうに」
「潜水艦とヘアヌードの件は違うもんね!」
「そうかい。で、本来の目的ってなんなのよ?」
「お説教よ、ノリ君」
「へっ?」
説教とはまた穏やかではない話だ、しかしたっちゃんが俺に一体何の説教をしようというのだ。確かに彼女には迷惑を掛け続けて来たし、額に肉の一件やらレイプ疑惑の一件やらで酷い事はをしてしまったという自覚はある。しかしながらそれらの件は全て解決済みの話だ。
「説教って一体なんだよ、少なくとも最近はたっちゃんを怒らせるような事をしたつもりはないんだが」
「確かにそうね」
「だったらなんなんだよ」
「ハニートラップについての話よ」
「……うわぁ」
ハニートラップことハニトラさんこと羽庭虎子さん、俺の初恋の相手にしてペッティングまで済ませた仲の人。確か、たっちゃんと出会って話をした時話題に上っていたのも虎子さんだったはずだ。
虎子さんがIS学園を退学して以来俺達に何かを仕掛けてくる事はなかった、しかしそれはつい最近までの話だ。虎子さんがこのIS学園に現れたということは俺との関係性も復活したという事になる、そして俺は……
「ノリ君、あなたこれからどうする気?」
「どう、とは……」
「一夏君から聞いたけどあのハニトラによからぬ感情を抱いてるそうじゃない」
一夏……口軽くないか?
「そもそも、シャルロットちゃんの事はどうするつもり?」
「なんでここにシャルロットの話まで出て来るんだよ?」
「……はぁ。ノリ君は一夏君じゃないんだから鈍感な振りするのはやめた方がいいわよ、見ててムカつくし」
「一夏なら良くて俺だと駄目とはこれいかに」
「一夏君の鈍感は天然物だから許されてるの、養殖物のノリ君は許されないわ」
「…………」
まぁ、なんとなくなんだがシャルロットに好意を向けられているのではと思う時がある。いつも俺に対して優しくしてくれるし、兎とのいざこざがあった時も唯一俺を追いかけてきてくれた。まぁ、三津村の仲間という事もあるのかもしれないがいつも俺に寄り添ってくれていた気もする。
「そうやって彼女の好意に気付かない振りをして好き勝手に周りを振り回して楽しい? それが気にならない位ハニトラの事が好きなの?」
「…………」
「どうなの? 答えてよ」
「……わかんねーよ、そんな事」
「解らない?」
解らない、全てが解らない。虎子さんの事も、シャルロットの想いも、俺の心の中でさえも。
「俺と初めて会った時の事を覚えてるか?」
「ええ、ノリ君がパーティーから逃げ出した夜の事だったわね」
「ああ、でもあの頃の俺はあんなパーティーよりこの学園から逃げ出したかったんだ」
「この学園から?」
あの頃の事を思い出す、当時の俺の心模様はとても酷いものであった。
「そう、俺はこの学園から逃げ出したかった。確かあのパーティーは一夏のクラス代表就任を祝して行われたものだ、でもあいつは実力があるからクラス代表になったわけじゃない。俺がセシリアさんに勝ったからクラス代表になれたんだ」
「でも、それで良かったんでしょ?」
「ああ、良かった。良かったはずだったんだ。でも実際は全然良くなかった」
「良くなかった?」
「俺がセシリアさんに勝った次の日から周の連中の俺を見る目が明らかに変わった、誰もが俺を期待の眼差しで見るようになった。そして誰かが俺を持て囃してこう言った。『あのイギリス代表候補生セシリア・オルコットを破った天才、藤木紀春だ』って。何が天才なものか、あれは奇策がたまたま通ったから勝てただけだ。そもそも当時の俺はあの欠陥インフィニット・ストラトスをまともに操縦する事すら出来なかったんだ。でも世間はそんな事はお構いなしだ、どこに行っても俺は賞賛され期待の眼差しで俺を見る。そんな俺に三津村は世間が俺に抱くイメージを壊さぬようにと言ってくる、俺も三津村に捨てられないようにそれに全力で答えるよう努力したつもりだ。でも、そうしているうちに疲れちまった」
「その時に現れたのがあのハニトラだったってわけね」
「多少時間は前後するがな。まぁ、虎子さんは優しかったよ。俺の愚痴や不安を全て受け止めてくれた」
「でもそれはノリ君のために作られた偽物の優しさよ」
「虎子さんが俺に向けていた感情が本物か偽物かなんてどうでもいい事だよ、少なくとも俺は彼女に救われたんだ」
「で、ちょっと優しくされた位でホイホイとテロリストの軍門に下っちゃうわけね」
「それが出来るほど自由の身じゃないんだよなぁ」
俺の首には首輪がつけられている。いや、実際にはないんだがまぁ精神的だったり比喩的なアレだ。そしてその首輪には手綱がついており三津村というご主人様がそれを握っているのだ。
その首輪を外そうと思えば簡単に外す事が出来るのだ、実際に俺にはヴァーミリオンという大きな
しかし、その首輪を外すという事は自分の今まで培ってきた全てを失う事と同義である。家族や友人、ラウラやシャルロットをはじめとしたこのIS学園で出会った様々な人々。俺はそれを全て捨てることが出来るのか? いや、出来ない。出来ないのだが……
「仮にね、ノリ君」
「……なんだい?」
ベッドに寝転がり、天井を見つめながら答える。おにんにんは…… もう萎んでいた。
「ノリ君がもしテロリストに下ろうとするんだったら」
「…………」
「私は貴方を殺す」
今まで聞いたこともないような冷たい声色で最後の一言が告げられた、多分これが暗部組織の長更識楯無の本領なのだろう。それを聞く俺は相変わらず天井を見つめ続ける、そして彼女の顔色を窺う気にはなれない。
「……それって逆に生存フラグっぽくね?」
「もーっ、茶化さないの!」
たっちゃんの声色が一気にいつものものへと戻る、その代わり振りがおかしく俺は笑ってしまった。
「はははっ、悪い悪い。しかし俺は殺されるかも知れないのか、そりゃ怖いな」
「ええ、死ぬのは怖いわよ」
『死』というキーワードで不意に天野さんと聖沢さんの事を思い出す、Tさんに退治されて以降彼女らと会うこともなくなった。彼女たちは今何をしてるのだろう、また誰かに迷惑でも掛けてないといいが。
「とにかく、私のお説教はこれで終わり」
「滅茶苦茶怖い説教だったぜ」
「そりゃ良かったわ。兎に角、これからの事ちゃんと考えておいてね」
「おーけい」
俺の答えに満足したのかたっちゃんは立ち上がって歩き出し部屋のドアノブを回す、そして一度振り向いて再度俺に声を掛けた。
「あっ、そうそう。うどんでよかったわよね」
「やっぱり、雑炊の方がいいかな。うどんはさっき食べたばっかだし」
「じゃ、晩御飯を楽しみにしててね。おねーさんがノリ君のために腕によりをかけて作ってあげるから」
「そりゃ楽しみだ」
そんな会話の後、おねーさんは部屋から出て行った。そして一人取り残された部屋で俺は溜息をつく。
「……本当にどうすりゃいいんだろうね」
俺の心は振り子のように揺れ続けている、きっと心のペンデュラムスケールに時読みと星読みが居るのだろう。
「揺れろ魂のペンデュラム、天空に描け光のアーク、ペンデュラム召喚、出でよ我が僕のモンスターたちよ。ってか」
そこから召喚されるのはいかななるモンスターなのだろうか、仮にレベル4モンスターが2体召喚されたらきっとそのままエクシーズ召喚だ。
「そうなりゃ、出てくるのはダベリオンか」
ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン、反逆の名を冠するその名はテロリストを連想させる。実際はレジスタンスだが、今の俺の心模様的にダベリオンはテロリストだ。俺の心の中のナストラルもそう言っている。
「ダベリオンは、困るなぁ」
ナストラルが『デュエルで、笑顔を……』と言った所で俺が実際デュエルする際に使うのはデュエルディスクではなくISだ、ISでデュエルしたところで笑顔になれそうな要素は一切無い。相手が虎子さんなら尚更だ。
「まぁ、会ってみないと話は進みそうにないよな……」
きっとこの先虎子さんは俺に何らかの方法で仕掛けて来るだろう、そしてその時俺の心は決まるのだろう。この先虎子さんと出会えそうなイベントは……
「キャノンボール・ファストか……」
思い起こせばIS学園の行事には何らかのトラブルが毎回起こっている、兎さんしかり亡国企業しかりと物騒なことこの上ない。しかし、これはチャンスだ。仮に兎が出てくれば叩き潰せばいい話だ。
「もっと、強くならないと」
そうだ、強くなろう。虎子さんとまともに対峙できるような強さを持とう。
ならば今するべきことは眠る事だ。疲れを癒し、明日から強さを得るための訓錬を行う為の活力を取り戻すのだ。
そして俺は目を閉じ、心を落ち着かせるため何も考えないようにする。すると、日頃の疲れのお陰か意識はどんどん闇へと吸い込まれていく。
眠ろう、今は眠ろう。目覚めた時はきっと明日だ。時間は有限で再会の時は刻一刻と迫っている、それまでに少しでも強くなるのだ。そのために今は眠ろ…………
…………
……
…
「ノリくーん! 晩御飯だよー!」
結局、俺に来たのは明日ではなく雑炊だった。……おいしかった。