インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~ 作:たかしくん
朝も早くからSHRと一限目の半分を使って全校集会が行われる、最近まで寝不足だった俺としては全校集会くらいはサボって寝ていたかったのだがその事を織斑先生に言うと一睨みされ眠気も吹き飛んだ。
そんなわけで全校生徒が集まっているわけだが、ここまで女子が集まると騒がしい。そしてそんな空気がまた俺の眠気を誘う。
「それでは、生徒会長から説明をさせていただきます」
そう生徒会役員の一人が告げる、というかその生徒会役員は布仏さんだった。布仏さんと言っても虚さんの方ではない、本音ちゃんの方だ。一夏的に言うとのほほんさんだ。
布仏さんが生徒会役員らしい事をしているのは初めて見るのでちょっとびっくり、というかこういう役割は虚さんの方が似合ってると思うのだが虚さんはどこへ行ったのだろう? それらしい人を探してみるが見当たらない。体調でも崩したのだろうか。
おっと生徒会長様のお出ましだ、静かにしよう。
「やあみんな。おはよう」
「っ!?」
隣に立っている一夏が驚いた表情を見せる。どうしたんだろう、もしかして一夏もたっちゃんと知り合いだったのか。だったらたっちゃんも言ってくれてもいいのに。
「ん? どうした?」
「いや、なんでもない」
一夏が話をはぐらかす、まぁ言いたくないことなら無理に聞く事もないだろう。そして視線をたっちゃんへと戻す。
「ふふっ」
一瞬だが目があったような気がする、実際は一夏に視線を送ったのかもしれないが……
しかしあの表情、絶対に碌でもないことを考えてる顔だ。たっちゃんとの付き合いは半年にも満たないがなんとなく解る、そして久々にオリ主シックスセンスがざわつく。なんだか嫌な感じだ。
「さてさて、今年は色々と立て込んでいてちゃんとした挨拶がまだだったね。私の名前は更識楯無。君たち生徒の長よ。以後、よろしく」
オリ主シックセンスが最大級の警報をかき鳴らす、こういう時は碌でもないことが起きるに決まってる。それが俺の経験則だった。
「では今月の一大イベント学園祭だけど、今回に限り特別ルールと特別イベントを導入するわ。その内容とは」
たっちゃんが懐から扇子を取り出す、その手つきが妙に小慣れているが俺はたっちゃんが扇子を持ってる所なんて見たことがない。その手つきに合わせて空間投影ディスプレイが浮かび上がる。
「まずは特別ルールの方ね。名付けて、『各部活対抗織斑一夏争奪戦』!」
小気味いい音と扇子が開かれそれと共にディスプレイに一夏の写真がでかでかと映る。ああ、嫌な予感は俺の勘違いだったか。
そんな俺の思いとは裏腹に周りの女子達は割れんばかりの歓声を上げる。
「静かに、学園祭では各部活動ごとの催し物を出し、それに対して投票を行って、上位組は部費に特別助成金が出る仕組みでした。しかし、今回はそれではつまらないと思い――」
びしっ、と扇子で一夏を指すたっちゃん。その扇子の先に俺も居るような気がして俺は一歩一夏から距離を離す。
「織斑一夏を、一位の部活動に強制入部させましょう!」
その声に反応し再度雄叫びが上がる。
「いやー一夏君はもてるねぇ、うらやましいよ」
「どうして俺だけなんだ、男なら紀春だって居るのに……」
「ほら、俺ってソフトボール部じゃん。しゃーないな」
「というか俺の了承とか無いぞ……」
「静かにっ! まだ特別イベントの方を説明してないわよ。私達生徒会が用意する特別イベント、その名も『各部活対抗藤木紀春争奪バトルロイヤル』!」
え? 今何て言った? そんな俺の思いは一段と大きくなった歓声にかき消されていく。
「こちらのルールは至ってシンプルよ、各部活の代表一名がISでバトルロイヤルを行いその優勝者の部活には藤木紀春を強制入部させるわ」
その説明が終わった瞬間ホールの中で今までの歓声をかき消すような大声が上がる、それは誰のものか。もちろん俺だ。
「ちょっと待てぇいっ!!!」
俺の声で静かになったホールの中を一気に駆け抜ける、そしてオリ主跳躍力をフルに活かし俺は壇上までジャンプした。
そして俺はたっちゃんと対峙する、その距離ジャスト210cm。C○AGE and AS○Aの距離感と同じだったが今の俺達にあのデュオのようなまとまりはない。そして現在の彼らもきっとまとまっていない。
「色々おかしいだろ! 第一俺は既にソフトボール部に入部してるんだ、今更そんな事認められるか!」
『そうだそうだ』と野次が飛ぶ、多分ソフトボール部の部員が俺に援護射撃を行っているのだろう。
「これは会長権限よ。藤木君、おとなしく商品になりなさい」
そう返すたっちゃんの目は冷ややかだ、たっちゃんにこんな目で見つめられるのは初めてだ。
「一夏はともかく何で俺がこんな罰ゲームみたいな目にあわなきゃならんのだ!? 納得いく説明をしてもらおうじゃないか!」
「納得いく説明ですって? あんな事をしでかしておいてよくそんな事が言ってられるわね」
あんな事をしでかしておいて? ……あっ。
「あっ、いやもしかしてあれのこと?」
「そう、あれのことよ。うら若き乙女を傷物にしておいてよくもぬけぬけと私の前に立っていられるわね、私が寝ているのをいい事にあんな事をするなんて酷いわ!」
あれの事とは寝ているたっちゃんの額に『肉』と書いたことだろう、あれはほんの出来心だったんだ。
「うら若き乙女を傷物にって……もしかして……」
「えっ!? 藤木君がそんな事をするような人だったなんて……」
「所詮男は狼なのよ、野獣なのよ。織斑君だって人畜無害そうな顔して心の中では何考えてるか解らないんだし藤木君なら尚更でしょ」
「寝込みを襲ったんだな……ってことは夜這いか?」
「レイープ」
色々誤解を招きそうな発言が飛び交う。
「いや、あれは本当に悪かった。出来心だったんだ」
「出来心だからって許されるわけないでしょう? あの後凄く恥かいたんだから!」
「だからってこんな仕打ちはないだろう!」
「私が感じた屈辱に比べれば10倍マシよ!」
たっちゃんが音を立て扇子を広げるそこには『激おこぷんぷん丸』と書かれていた。今まで持っていた扇子には絵が描かれていたはずなのだがいつの間に取り替えたのだろう。
「大体なんだよその扇子芸! 今まで見たことがないぞ!」
「いままで練習してたのよ! 初めてなのにこんなのに使いたくなかったわよ!」
「だったらやらなくてもいいだろ!」
壇上で繰り返される言葉の応酬、それを見ている人々も相変わらずざわついてる。
「え? なにこれ痴話喧嘩?」
「藤木君と会長が? 藤木君って篠ノ之さんと付き合ってるんじゃなかったの?」
「なんで私が藤木と付き合ってることになっているんだ!?」
「え? 違うの? 放課後の屋上で告白したって聞いたんだけど」
「放課後の屋上? ああ、あれは違うぞ。ちょっとした人生相談みたいなものだ」
「なーんだ、期待して損した」
「紀春うううううううううっ!」
「かっ、確保ーーーっ!」
「私に任せろっ!」
「ん゛ーーーーーーーーーーっ!!!」
こんな感じで超騒がしい、まぁ話の内容は色々な人の声にかき消されてよく解らないんだけどさ。
「そう言えば虚さんはどこへ行った、見かけないけど」
「虚は窓の無い部屋でボレロ聴きっ放しの刑に処したわ」
「何てひどい事を……あの人は何もしていない!」
「何もしなかったのが罪なのだよ!」
「『窓の無い部屋でボレロ聴きっ放しの刑』とか『何もしなかったのが罪なのだよ!』とかどマイナーネタ放り込んでくんじゃねーよ! 誰も解らんぞ!」
「ノリ君が解ってるじゃない!」
「しまった! そうだった!」
なんだか話がおもいっきり逸れている気がする、そろそろ軌道修正をしなければ収拾がつかなくなる。
「とにかくこんな馬鹿な話はやめるんだ、人身御供として一夏はどうなってもいいから俺まで巻き込まないでくれ」
「あら、友達に対して随分冷たいのね。でもこれだけは譲れないわ、私の気がおさまらないもの」
「とうとう本音を出してきたな、なら仕方ない。こっちにだって考えがある」
「あれ、何かしら?」
俺は力強く人差し指をびしっとたっちゃんに突きつける、そしてこう言ってやった。
「更識楯無! 生徒会会長の座を賭けて俺と勝負しろ!」
生徒会長様の暴挙を止めるにはもう俺が生徒会長になるしかない、ならば戦うしかない。
「ふふっ、ノリ君が私に敵うのかしら?」
「さあな、でも可能性はゼロじゃない。自分を守るためには致し方ないだろう」
「そう、やるってのね」
「ああ! 俺が生徒会長になった暁には『各部活対抗藤木紀春争奪バトルロイヤル』は中止にさせてもらう! でも『各部活対抗織斑一夏争奪戦』は面白そうなので続行だ!」
俺の宣言にあちこちでブーイングが起こる、確かに彼女らからしてみれば面白い話ではないだろう。
「ブーブーうるせえなお前達、IS学園は何時から豚小屋になったんだ?」
メス豚達に対して中指をつき立てそう言う、そうするとブーイングの声は一段と大きなものになっていく。
「わかったわ! その挑戦を受けましょう! ノリ君は私に勝利出来るのかしらね?」
たっちゃんは一度扇子を閉じもう一度開く、そこには『喧嘩上等』と書かれていた。お気に入りなんだな、その扇子芸。
「できらぁ!」
「では明日アリーナでISでの模擬戦を行うわ」
「え!! ISで模擬戦を!?」
「しょうもないネタぶっこんでくるんじゃないわよ」
「はははっ、悪かったな」
そう言って俺は壇上から飛び降りる、俺が歩を進めると人垣が割れ道が出来る。まるでモーゼにでもなった気分だ。
悠々とその道を進むと左右からブーイングの嵐、俺は人垣に両手の中指を立てながらホールから去っていった。
「ということでたっちゃんとの模擬戦が決まった、どうすれば俺は勝てる?」
「いや、勝てないでしょ」
「いや、そこをなんとか」
「無理に決まってるでしょ、相手はロシアの国家代表なのよ。藤木君の実力でどうにかできる相手じゃないの」
「だからその実力を埋めるための策をさ……」
「そんなものは無い」
「いやいやいやいや、前年度主席様なら秘策の一つや二つ」
「しつこい! 無理だって言ってんだよ!」
不動さんが怒鳴る。ここはIS学園から三津村に貸し出された開発室だ、ここでたっちゃんを倒すための策を練っているのだがこんな感じだ。多分無いとは思うが生徒会側のスパイ行為を防ぐため開発室の前でソフトボール部員が立っている、ちなみに今の時間は授業をやってる時間だ。つまり部員も含め全員授業をサボってるわけだ。そして授業をサボってる人間はもう一人居る。
「まぁ、それはそれとしてこちらの娘さんはどちら様かな?」
不動さんの隣に居る女の子を見やる、リボンの色からして俺と同じ一年生。そしてたっちゃんと同じ色の髪が印象的な気弱そうな女の子だ。
「この子は更識簪ちゃん。名前の通りたっちゃんの妹さんよ」
「ああ、たっちゃんと微妙な関係で俺を振った妹さんか」
「振った? どういうことですか?」
「気にしないでくれたまえ、もう終わったことだ。それに君に振られたお陰で結果的にはいい事もあった、君には感謝している」
いい事とはもちろんラウラとの関係を持つことができたということだ、彼女に振られたからこそ俺はラウラをタッグパートナーにする事が出来た。そして以後の事はお察しだ。
「あの、藤木さん。あの噂って本当なんですか?」
「あの噂? 何のことだ?」
「藤木さんがあの人を……その……」
簪ちゃんが口ごもる、それに助け舟を出すように不動さんが口を開く。
「今、学園内では藤木君がたっちゃんをレイプしたって噂が立ってるのよ」
「ファッ!? なんだよそれ!?」
っていうか実の姉をあの人呼ばわりか、更識姉妹の溝は俺が思っている以上に深刻らしい。
「全校集会でのやり取りが原因ね、あなたたちが意味深な事を言うからいけないのよ」
「いやいやいやいや、あり得ねえだろそんなん。仮に俺がたっちゃんをレイプしたんなら今頃俺殺されてるだろ」
「そうよね、私は信じてなかったんだけど……」
「嘘だな」
「ちっ、ばれたか」
「マジでその噂信じてたのかよ、っていうか噂広がるの早すぎるだろ。さすが女子高だな」
さて、誤解も解けたことだし本題に移ろう、しかし俺が鬼畜レイパーという噂が立っているのはヤバイな。今後学園内で面倒事が起きないよう噂の火消しを行っておかなければ。
「ということで明日の模擬戦なんだけど何かいい案ないかな? 簪ちゃん」
「いえ、私もいい案は……」
「だったらなんでここに居るんだよ」
「その……藤木さんにあの人話を聞きたくて……」
本題に入ろうという矢先にいきなり脱線するとはいかがなものか。しかし、簪ちゃんも手は無いというのならもう仕方ない。ここはあっさり負けるとして、簪ちゃんの話に付き合おう。
「そんなの自分で聞けばいいじゃないか、何故俺に聞く必要がある?」
「私達の関係を知っててそんな事を言うんですか」
「だったら布仏さんに聞けば良いだろう、君のお姉さんの事は俺よりよく知ってるはずだ」
「本音に聞いたらあの人にばれるに決まってるじゃないですか」
簪ちゃんが搾り出すように言う、ココまで話していて彼女はたっちゃんに相当なコンプレックスを抱えているように思える。まぁ、あんなのが実姉だったらコンプレックスの一つや二つは抱えそうなもんだが。
「そうか、なら何が聞きたいんだ?」
「えと……最近はどうしてるのかなって……」
「しょうもない扇子芸とイベントを考え出した挙句に俺と生徒会長の座を争う事になった」
もちろん全校集会の話である、もちろん簪ちゃんも知っている話だ。
「そ、そうですか……」
「なんなんだ、君が聞きたいのはそんなつまらない事じゃないだろう? というか別に聞きたいことなんてないんじゃないのか?」
「えっ?」
困惑する簪ちゃんを他所に俺はまくし立てる、正直この子の態度が気に入らない。
「大体何だよあの人って、仮にも自分のお姉ちゃんだろ、家族だろ。以前お姉ちゃん言ってたぞ『露骨に避けられてて寂しい』って、苦手でも嫌いでも家族だろ。もう少し大切にするべきなんじゃないのか?」
「そうかもしれません、でもあの人のせいで私はっ」
「私は、なんだよ?」
「何かうまくやれたらやっぱり更識楯無の妹だからとか、失敗をすれば更識楯無の妹なのにって、私が何かする度にあの人の名前が付いて回るんです。私は私なのに」
まぁ、優秀な家族をもつものとしてありがちな話だとは思う。しかし当の本人からしてみればやっぱり辛いものがあるのだろう。
「国家代表で更識家の当主で学園では生徒会長、その上ISまで一人で作って……私の居場所なんてどこにもないんです、あの人が何かする度に私は……」
たっちゃんのIS、つまりはミステリアス・レイディか。はっきり言ってその話は眉唾物にしか聞こえない。
「あのさ、簪ちゃん」
「なんですか……」
「君アレだよね、見た目と違って結構アホなんだね」
「っ!?」
簪ちゃんの目つきが一気に鋭くなった気がする、こうも直接的に悪意をぶつけられるとそうなるのも致し方無しか。
「あのね、俺も今自分のISを開発してもらってるから解るんだけど、ISを開発するっていうのは何十人、何百人という数のと君よりも遥かに頭のいい人が集まって膨大な時間とコストを掛けてやることなの。確かに君のお姉ちゃんはすごい人だよ、でも一人で作れるものじゃないんだよ。ちょっと話変わるけどこの問題に答えてくれ、法隆寺を建てた人って知ってるか?」
「……聖徳太子ですよね?」
「残念不正解、正解は大工さんだ。さて、この話で俺の言いたいことって解るよね? そもそもISをたっちゃん一人で作ったって誰から聞いたんだ? 本人から直接か?」
「いえ、人伝ですけど……」
「それは誰だ? 君にそう言った人は本人から聞いたのか?」
「人から聞いた話だって言ってました」
話というのは巡り巡って行く度に尾ひれが付きどんどん話の内容がでかくなるもんだ、ISを開発したって話もそういう類だろう。しかも彼女の姉こと更識楯無は何でも出来る、または出来そうなスーパーウーマンだ。それもその無責任な話に信憑性を帯びさせているのだろう。
「で、そんな無責任な噂をあっさり信じてしまった更識簪ちゃんは悔しいので自分も一人でISを作ろうとしたってわけだ」
開発室の机の隅に置かれた紙を取る、詳しいことは解らないが多分ISの設計図だ。その名前は打鉄弐式、ラファール・リヴァイヴの汎用性を参考にしていると紙に添えられたメモに書いてある。
「…………」
「難しいと思うんだけど色眼鏡を外して自分の姉を見ることは出来ないかな? あの人君が思う以上に駄目な一面もあるぞ」
「…………」
そんな事を言われた簪ちゃんは黙る、まぁ俺がどうこう言って二人の関係が修復されるとは思っていない。
「まぁ、すぐに出来る事じゃないよね。でも君のお姉さんをちゃんと見てやって欲しい、俺に言えるのはそれだけだ」
「そうですか……」
その後一通り簪ちゃんと雑談した後、解散となった。あれ? 俺って何を話しにきたんだっけ?
「あー、もう無理。どうやっても勝ち目が思いつかない」
部屋へと入りドカッとソファーに腰を下ろし出されたお茶を口に含む。うん、相変わらず世界で二番目にうまい。
「ねぇ、どうすれば良いと思う? たっちゃん倒したいんだけど何か弱点とか知らない?」
「うーん、難しいわね。あっ、そうそう。彼女編み物が苦手らしいわよ」
「おお、そうか。なら戦闘中に編み物セット渡してそれに苦戦しているところをドカッとやれば勝てるな。楽勝じゃん、明日はその作戦で行こう」
「やったねノリ君! 君が明日から生徒会長よ!」
「よし、これで勝つる! 作戦を考えてくれたお礼に生徒会長権限でたっちゃんの単位はこちらで何とかしておこう!」
「わーい! やったあ!」
「あの、お嬢様……突っ込みを入れた方がいいですか?」
「あっ、お願い」
「では失礼して……なっ、なんでやねん! おかしいやろ!」
虚さんが喋りなれていない関西弁で突っ込みを入れる、それが恥ずかしかったのか彼女は顔を真っ赤にして俯いている。
「…………」
「…………」
「……ふぅ、ところでさたっちゃん」
「無視しないでくださいっ! っていうか今の私達敵同士なんですよ! なんで藤木君が生徒会室に居るんですか!?」
「敵味方を超えた友情って素晴らしいと思わない?」
「思いません! お嬢様も何か言ってください!」
「アアアスラアアアン!!」
「キラアアアアアアア!!」
「…………」
「あっ、虚さんも混ざる? 後はトール役しか残ってないけど。あっ、それともその戦いを見ていたロウ役の方がいい? あいつメカニックキャラだし虚さんにはそっちの方が似合うかもね」
「混ざりません!」
「じゃあ最初からやるね、えーと最初の台詞は……」
「ノリ君の『キラアアア!』からよ」
「そうだったか。ごほん、では。キラア「いい加減にしてください! 何時まで続けるつもりですか!?」……えー、虚さんノリ悪い」
「ノリが悪いんじゃありません!」
怒られた、そもそもたっちゃんが悪ノリしたからこんなやり取りが始まったわけであって俺が怒られるのは筋違いなはずだ。
「そもそも藤木君がここに居ること事体が筋違いですよね?」
「うぉっ! 心が読まれた!」
この学園のエスパーって織斑先生だけじゃなかったんだ。以後気をつけよう。
「で、何しに来たの?」
「だからたっちゃんを倒す方法を……」
「もうその話はいいです!」
たしかにこんな話を続けていると収拾がつかなくなる、っていうかついてない。虚さんの言うとおりこの話はこれ位で切り上げておこう。
「そうだな、というわけで話題を変えようか」
「もう帰ってくださいよ……何時まで居座るつもりですか」
「まぁまぁ、二つ話したい事を話し終わったら帰るからさ」
「一つだけじゃないんですね……」
「で、ノリ君は何を話したいの?」
「まず一つ目の話題だが……妹さんに会ってきた、っていうか妹さんが俺に会いに来た」
「…………マジで?」
生徒会室が静まりかえる、たっちゃんは微妙な顔をしている。
「彼女なりにたっちゃんのことを心配しているんだろう、なんせたっちゃんは俺にレイプされた被害者ってことになってるんだから」
「ああ、あの噂ね。流石にあれは困るわね」
「俺の方が困ってるよ、ここに来る途中に何者かに矢を撃たれて死ぬかと思った」
「当たったの!?」
「いや、外れたけど。しかしもう少しで膝に刺さるところだった、そうなったら流石の俺も引退だな」
「怖いわねぇ……」
「怖すぎるよ、生徒会権限で学園内の武器持込を禁止してくれないかな? 俺の周りにも普段から気に入らない事があれば刀を振り回したり銃をぶっ放す奴が大勢居て迷惑してんだ」
もちろん一夏の周りのあいつらだ、正直今まで生きているのが不思議でならない。
「うーん、でも専用機持ってるあの子達はある意味特別だからねぇ。普通の武器携帯を禁止できても流石に専用機まで取り上げるわけにはいかないし……」
「まぁ考えておいてくれ、俺が死ぬ前にどうにかしてくれたら文句言うつもりはないよ。というか噂をどうにかしてくれないか? 俺が何言っても信用されないだろうし」
「解った、そこら辺は早急に対処しておくわ」
俺達は明日戦う間柄である、しかも個人的な怨恨の果てにだ。しかしこの和気藹々とした雰囲気はなんだろう?
直感的に思う、この戦いはたっちゃんによって仕組まれていると。しかしそうだとしたら何故だ? 何故たっちゃんは俺を煽って戦わせようとしているのだろうか。確かに『肉』の報復というのもあるだろう、しかしそれだけではないはずだと俺のオリ主シックスセンスが告げている。
「なぁ、なんで俺達は戦わなきゃならないんだ?」
「ノリ君が挑戦してきたからでしょう?」
「いや、今思えばアレは俺がそう言う様に仕向けられていた気がする。俺が挑戦を自分から表明しなくても『自分を止めたいのなら生徒会長の座を奪うしかない』って言ってたんじゃないのか?」
俺がそう言うとたっちゃんは目を丸くする、多分この表情は当たりだ。
「……凄いわね、全部当たりよ。でもどうして解ったの?」
「ただの勘だよ、そもそもこうやって和気藹々と喋ってるのがおかしいんだよ。その状況がなんか引っかかった」
「和気藹々と喋りだしたのはノリ君が先なのに……」
「確かにね……で、実際の所はどうなん? この戦いの本当の狙いとは」
「まぁ、ぶっちゃけると今の一年生の実力を見てみたいのよ」
「それで何故俺なんだ?」
「一年生で一番強いから!」
「まだそのネタ引っ張るのかよ、今一年で一番強いのはラウラのはずだ」
俺が一年最強という話はシャルロットとラウラが転校してくる頃に持ち上がった話で大体三ヶ月位前の話だ、その後はラウラの登場もあり俺は一年最強の座から引き摺り下ろされたのである。
「ああ、ラウラちゃんはいいのよ。もう決まってるから」
「決まってる? どういうことだ?」
「おっと、口が滑ったようね。これ以上は秘密よ」
何が口が滑っただ、絶対わざとに決まってる。
しかし何が決まってるというのだ? そして予想するに俺は決まってないらしい、そしてそれを見定めるためにたっちゃんは俺と戦うことになる。そして、それで何が決まるのかは一切解らないが……
「色々企んでるようだね」
「そりゃ私の本来の仕事は暗部だもの、企みもするわよ」
「その割には俺に色々されてたようだがな」
「その事に関してはまだ許してないんだからね」
「おっと、薮蛇だったか」
そう言って二人で笑いあう。
今の会話ではっきり解った、俺は試されていると。いったいどんな企みがあるのかは解らない、しかしたっちゃんにはこれまで何度も助けられてきたし計り知れない程の義理と恩がある。出来る事なら彼女に酬いたい、そして今の俺に出来ることはそのたっちゃんと全力で戦う事だ。未だ勝機は見えないがなんとかするしかない。
そんな事を思いながら幾らか雑談をした後俺は生徒会室を後にする。
よし、頑張ろう。俺はどこからともなく飛んでくる矢を華麗に避けながら決意を新たにした。
「いやぁ……こりゃガチでやばいぞ、全く策が思い浮かばん」
「困りましたね、私も何も思いつきません」
場所は変わってソフトボール部の部室、俺は未だたっちゃんを倒す手立てを見出すことが出来ないでいた。
ここの環境は心地いい、冷暖房完備に簡易キッチンまでついており駄弁るには絶好の場所だろう。しかし俺がここに来ることは滅多にない、ここは部員たちが部活の時間に唯一安らげる場所だからだ。
そんな場所に俺が来ようものなら彼女らはたちまち緊張してしまいリラックスできないだろう、それにここは更衣室も兼ねているので入るタイミングを間違えると大変なことになる。
しかしながら今俺はこの場所にいる、関係者以外が気軽に立ち入ることが出来るような場所だと何時刺客たちが俺の命を狙ってくるか解らないのだ。
そんな事を考えていると部室の入り口が騒がしくなる、部室の入り口には部員の一部が立って部員以外に入らせないようにさせているが何かあるのだろうか。
「おっ、織斑さん!? 申し訳ありませんが藤木さんからこの部屋には部員以外は誰も入れるなと言われています、お引取りいただけないでしょうか?」
「すまない、こっちも緊急事態なんだ! 開けてくれ!」
「幾ら織斑さんの頼みでもそれは出来ません、お引取りください」
「ならば、強引にでも押し通らせてもらう!」
「こっ、困ります! 織斑さん!」
直後、大きな音と共に部室のドアが開かれる。そこから部員達を四肢を掴まれながらも一夏が強引にこの部室内へと入ってきた。それをディアナ・ウォーカー以下数名の部室内に居た部員たちが警戒するような面持ちで見つめる。
「お前達、離してやれ」
「しかし、いいのですか?」
「ああ、構わん」
俺がそう声を掛けると、一夏を捕まえていた部員がその手を解く。
「ディアナさん、茶を用意してくれるか? 折角の客に茶も出せないとなると俺の沽券に関わる」
「はい、少々お待ちください」
そう言ってディアナさんが席を立ち簡易キッチンへと向かう、一夏にも椅子を用意させそこに一夏を座らせた。
「お前凄いな、部活ではいつもこんな感じなのか?」
「俺の権力なんて高が知れてるよ、特に明日戦う生徒会長様に比べればな」
「あっ、そうそう。お前楯無さんと知り合いだったんだな、随分仲良さそうだったけど」
「まぁな、かれこれ半年位の付き合いになる」
「そんなにか、全然知らなかったよ」
「別に積極的に他人に話すような内容でもないだろ」
「なんかお前態度が刺々しくない?」
「そりゃ、あの全校集会直後から命狙われ続ければ刺々しくもなるさ。で、俺と話したい事ってのはそれだけか? 俺もそんなに暇じゃないんだが」
「ああ、すまない。忙しいのは承知の上なんだがちょっとお前の力を借りたいんだ」
その時、ディアナさんが茶を運んでくる。それは温かい紅茶だった、最近は冷たいものばかり飲んでいるからたまにはこういうのも良いだろう。それに一口口に含み一夏の話の続きを促す。
「助けてくれ、お前にクラスのみんなを止めてもらいたい」
「クラスのみんな? なにかあったのか?」
「ああ、あったさ。ついさっきの話なんだが俺達のクラスがやる文化祭の出し物が決まった」
「ほう、なんなんだ?」
「その内容が非常にヤバイ、その名も『ウホッ! 一夏と紀春のご奉仕喫茶』だよ!」
「…………」
「なっ、ヤバイだろ? 今お前が教室に帰ってきて俺の援護をしてくれればまだ間に合うはずだ、ということで助けてくれ!」
ふむ、一夏はともかく現在鬼畜レイパーの異名を持つ俺にそんな事をやらせるとは中々いい度胸だ。彼女らには怖いものがないのか。
「いいんじゃないかなぁ……」
「よくないだろ!」
「別にいいだろそれ位、というか話はそれだけか? 悪いがその程度の話で俺を煩わせないでくれ、ご奉仕喫茶が嫌なら自分でなんとかしてくれないか? そんな事より今俺はもっと大事な用事があるんだ」
「そ、そんな事ってお前……」
「お客様のお帰りだ、ちゃんとお見送りしろよ」
「まだ話は終わってないぞ!」
「いや、終わりだ。おい、つまみ出せ」
俺がそう言うと数名の部員が一夏を羽交い絞めにし部室から出て行く、その間も一夏はぎゃあぎゃあと喚いていた。
「はぁ、下らない事で時間を取らせやがって」
「全くです、こっちは私達の未来が懸かっているというのに」
ディアナさんが俺に同調する、そんな言葉を聞きながら俺は紅茶をもう一度口に含んだ。
紅茶はまだ温かく、その琥珀色の水面からは白い湯気がまだ出ている。
ん? これは……
「そうか……その手があったか!」
「もしかして何か良い案を思いついたのですか!?」
「ああ、勝利の可能性が見えてきた!」
その瞬間俺の策は決まった、可能性は相変わらず低いがもしかしたらたっちゃんに勝てるかもしれない。
今回から切りのいい所まで週一くらいで投稿してストックが尽きたらまた書き溜めという形式でいこうと思います。
やったねたかしくん、これで時間がめっちゃ稼げるよ!