Monster Hunter Delusion【更新停止】   作:ヤトラ

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モンハンデルシオン4の採用案、鋏角種編です。
今回のテーマは「巨大な蜘蛛」です。どうやら私は蜘蛛好きらしく、楽しく書けました(笑)


part36:「鋏角種の章:巨蜘蛛」

依頼名:巨大な蜘蛛の気配!

 

 原生林に狩りへ出かけたんだけど……ある気配を察知して諦めたわ。

 これは私の経験と直感なんだけど、あそこにはとんでもない蜘蛛がいるはずよ!

 申し訳ないんだけど、私の代わりに原生林に潜む鋏角種を討伐して頂戴!

 

依頼主:クモ嫌いな女ハンター

 

 

 

―――

 

 この日、とある女ハンターは友人である女ハンターの依頼を受けたことを激しく後悔した。

 

「蜘蛛は蜘蛛でもさぁ……!」

 

 ボーンXシリーズに堅骨槌9と、全身を骨で固めた女ハンターは武器を背負って走る。

 ゲリョスXシリーズを纏った男は、大枚叩いて作成したという怪鳥幣弓6を大事そうに抱えて並走していた。

 

 原生林の中でも大きな蜘蛛の巣が張り巡らされているエリア7から逃げ出そうとする2人のハンターを一匹の大型モンスターが追いかけていた。

 それはネルスキュラが相手なら自動で千里眼が発動する程のクモ嫌いなハンターが言う鋏角種である―――しかしながら。

 

「なんなのよこの蜘蛛ぉぉぉ!」

 

「俺が知るか!」

 

 ボーンX女が叫び、ゲリョスX男の野太い声が相槌を打つ―――それほどまでに追いかけてくる鋏角種が恐ろしいのだ。

 2人が対峙した大型の鋏角種とは、2人が今まで見たこともないモンスターであり、ネルスキュラと同じ蜘蛛のモンスターであった。

 

 姿こそ蜘蛛だが特徴はネルスキュラのソレとはだいぶ違う。

 まず、全身が黒っぽい。どうやら腹部以外は黒い長毛で覆われており、造形を気にしなければフッカフカである。可愛くないが。

 続いてネルスキュラのように体が地面から離れてはおらず、むしろ地面スレスレの低姿勢を維持している。太く長い2対の脚が広げられているおかげか、見た目が大きく見える。

 大きな腹部は鎧竜の如き鉛色の甲殻で覆われ、1対の前脚は鈍器のように太く長い。いかにも打撃力に優れて良そうだ。

 何よりデカい。ネルスキュラよりも一回り以上も大きく、決して遅くないスピードなのに歩く度に重々しい足音を立てていた。

 

 黒っぽい大きな身体に逞しい3対の脚、そして不気味に光る赤い目が、初見であることを除いても2人のハンターに恐怖を植え付ける。

 名づけるとするなら『巨蜘蛛(キョグモ)』。ネルスキュラよりも大きいが故の、名前の通り巨大な蜘蛛のモンスターだ。

 

 幸いな事に巨蜘蛛はネルスキュラのように糸を吐く習性はないが、代わりに脚力が優れているのか、必死に逃げる2人から距離を離さない。

 だが巨蜘蛛は突如として立ち止まり……足に力を込めて跳躍。走行よりも早いスピードで2人を追い抜き、2人の眼前で着地して大きな地鳴りを起こした。

 

「どわっふ!」

 

「くそがっ!」

 

 耐震を持たない2人は突如として目の前に着地した巨蜘蛛の登場と地鳴りに体が硬直してしまい、悪態をつく。

 巨蜘蛛は再び軽く跳躍すると同時に方向転換、再び着地した頃には2人は即座に左右へと跳び、巨蜘蛛の棍棒のような前脚が地面を穿つ。

 ドンッ!と音と共に凹む地面。2人の跳躍が遅ければ地面諸共お陀仏だったろう。起き上がった2人はそのまま左右に展開、巨蜘蛛の狙いを分断させる。

 

「こうなったらやるぞ!腹ぁ括れ!」

 

「うわーん、もう!生きて帰ったら絶対にタカってやるー!」

 

 ゲリョスX男は激励しながら弓を構え、ボーンX女は泣き言を喚きつつもハンマーを手に持って巨蜘蛛に向けて歩を進める。

 巨蜘蛛は自らに向かってくるボーンX女に狙いを定めたのか、ネルスキュラに比べれば遅いスピードで旋回、大きな腹部と1対の脚で体を持ち上げ、前脚を伸ばしたままボディプレスをかます。

 大雑把な動作に対し、ボーンX女は教官より学んだ狩猟スタイルが1つ【ブシドー】を用いて隙間を抜け、ボディプレスの共振を僅かな空中浮遊により回避しつつ巨蜘蛛の右側面に回り込む。

 まずは脚を狙わんとハンマーを振り上げ、痛々しい音が後ろ前脚に響く。甲殻種同様、脚はさほど防御力に割り振られてないらしく、巨蜘蛛は悲鳴を上げる。

 

 脅威である事を示しつつ生き残るべく、ボーンX女はハンマーを持ったまま後退、直後に巨蜘蛛は跳躍して旋回、再びボーンX女に狙いを定める。

 そうは問屋が卸さないとゲリョスX男の弓から矢が放たれる。若干の炎と熱を纏った矢が巨蜘蛛に命中すれば嫌そうに身を縮こませる。どうやらネルスキュラ同様、火に弱いらしい。

 その隙にボーンX女は反対側に回り込む、脚に向けてハンマーを叩きつける。1回、2回と叩きつけ、最後に振り上げホームラン!折れはしなかったが確実にダメージは蓄積していく。

 すると巨蜘蛛は左側面を持ち上げ、そのまま四股を踏む。ハンマーの振り上げた硬直がギリギリ解けていたので緊急回避。体重を乗せた踏みつけで地面が揺れるも、【ブシドー】の回避テクニックのおかげで無事だ。

 

 その間にもゲリョスX男は黙々と弓で射続けるが、巨蜘蛛は熱い弓を放つゲリョスXに狙いを定めたらしく視線が合い、一気に跳躍して接近。

 ゲリョスX男は跳び上がる挙動を察知してすぐさま移動を開始するが、すぐ横に巨蜘蛛の巨体が地面に叩きつけられ、激しい振動で体が硬直してしまう。

 

「くそったれ!」

 

「今行く!」

 

 常に文句ばかり言う彼らしいが、ボーンX女は駆け付けるべくハンマーを背負い、走り出す。

 そのまま巨蜘蛛の腹部を狙おうとしたが、巨蜘蛛は事前に察知していたのか、大きく硬い腹部を持ち上げ地面に叩きつける。

 

「がっふっ!?」

 

 直撃ギリギリの距離であったからか、暴力的な風圧と衝撃がボーンX女に襲い掛かり、そのまま吹っ飛んでしまう。

 それほどの体重とパワーを秘めているお尻ということだろう。擬人化したらねじりこみたいような巨尻に違いなゲフゲフ。

 

「いだだ……っ!?」

 

 地面に背をぶつけるも起き上がろうとするが、小さな地鳴りに気づいて顔を上げれば、そこには既に正面を向いた巨蜘蛛の姿。

 不味いと思った頃には巨蜘蛛の棍棒のような前脚が横薙ぎに振われ、真横からの打撲を受けたと共に大きく吹っ飛んでいく。

 

「が……っ!」

 

「しっかりしろ!」

 

 ふきとばされつつもゴロゴロと受け身を取りつつダメージを殺す。しかし真横から受けた一撃は相当に重く、意識を保つので精一杯であった。

 吹き飛んだ先にゲリョスX男が居たのが幸いで、倒れていた彼女の肩を持ち上げる。硬い骨の防具である程度は軽減できただろうが、脇腹には酷い打撲痕が残っている。

 

「ごめ……」

 

「無理して喋るな!」

 

 口から血を滴らせるボーンX女を案じてゲリョスX男は何とか彼女を起き上がらせるが、それを巨蜘蛛が許すはずもない。

 激しい動きが取れないと解った巨蜘蛛は徐に顔を上にあげ、緑色の液体を滴らせながら何かを口内から生やしていく―――鋏角種の特徴たる「鋏角」だった。

 

「どわっと!」

 

 直撃は拙いとボーンX女を抱きいて地面に転がるゲリョスX男。地面に身を投じた直後、巨蜘蛛の鋏角が空を切った。

 そのままゴロゴロと転がって距離を取った後、ゲリョスX男は地面から、そして己の防具から嫌な臭いと煙が立ち込める事に気づく。

 

「強酸……っ!」

 

 ゲリョスX男は驚愕する。地面と己の防具の一部が溶けていたのだ。恐らくは鋏角から滴る緑色の液体がそうなのだろう。

 ただでさえパワーがあるのに強酸まで蓄積しているとなれば、強酸によって防御力が低下した防具に、あの棍棒のような前足で殴られたと思うと……顔から血の気が引いていく。

 鋏角を口内に納めた巨蜘蛛は前脚を地面に叩きつけながら、そのまま前脚を上げて大きく見せて威嚇。どうやら勝利を確信しているらしい。

 

 

 そして襲い掛かろうと身を屈めたのを見た、呻くボーンXを抱きかかえるゲリョスX男の取る行動は―――。

 

 

「ていっ!」

 

 撤退。いつの間にか手に持っていた閃光玉を巨蜘蛛の眼前に放り投げ、激しい閃光が周囲を包み込む。

 ボーンX女は抱かれている事で視界が遮られ、投げた本人であるゲリョスXは目を塞いで防いだが、巨蜘蛛は目を焼かれて悶絶食らう。

 所かまわず太い前脚で周囲を薙ぎ払ったり叩きつけたりするのを節目に、ゲリョスX男は煙玉を使用。そのままボーンX女と肩を合わせて歩き出す。

 

 巨蜘蛛の視界が復活した頃には煙に巻かれ、煙が晴れた頃には2人のハンターの姿が無い。

 まんまと逃げられたのだと気づいた巨蜘蛛は、悔しいのかドタバタと小刻みに跳躍し始める。

 

 

 

―――

 

「し、死ぬかと思った……」

 

「素直に撤退しとけばよかったなぁ」

 

 ベースキャンプの寝室で手当てを受けたボーンX女が呟き、ゲリョスX男は兜を脱いで頬杖をついて溜息をついた。

 既にニャン次郎やギルドの管轄者に連絡を済ませ、ボーンX女の治療も終え、後は迎えが来るのを待つばかりとなった。

 少しでも脅威を見せて逃げる隙を……と思ったが、巨蜘蛛の一撃が重かったのが不運だった。生きて帰ってこられただけでも良かったが、閃光玉が無ければ……と思った所へ。

 

「ていうか、閃光玉があったんなら使ってよー!さっさと逃げれたじゃん!」

 

「G級装備だし、あんなに強ぇとは思わなかったんだ!ケチろうとも思うだろ普通!」

 

「新種相手に何を言いますかなーこのドケチハンター!私の秘薬返せ!」

 

「そもそもお前があの女の依頼を引き受けたからこんな事に!」

 

「うっさいスカポンタン!」

 

「傷に触るから騒ぐなアホンダラ!」

 

 ギャアギャアと騒ぐ元気があるならそれでよし……報告を済ませ戻ってきたニャン次郎は怒鳴り合う2人を見て安堵の溜息を零した。

 

 こうして、ギルドの調査と龍歴院の情報収集の元、2人が出会ったモンスターは『巨蜘蛛(キョグモ)タランギュラス』と命名。

 非常に獰猛でパワーのある新種の鋏角種として世間に知らしめる事となった―――未だに討伐されたという報告は無いが。

 とりあえずクモ嫌いの女ハンターが2人のハンターにより糾弾を受ける羽目になったことを、ここに追記するとしよう。

 

 

 

―完―




蜘蛛と言えば絡め手をイメージしますが、この蜘蛛はパワーにあふれた良いモンスです。
イメージはイビルジョーかテツカブラに近いですね。機動力のあるパワーモンスって感じで。

●新種紹介
巨蜘蛛タランギュラス
原生林などに生息する大型の鋏角種。黒っぽく、長毛で覆われた太い脚と背部の甲殻が特徴。
俊敏性は劣るがパワーがあり、棍棒のような前脚と強酸が滴る鋏角でパワフルに攻める。
草食種や小型モンスターをメインに食らうが、時には大型モンスターに挑む程に獰猛。

○本日の防具と素材一覧

●タランシリーズのスキル一覧
・鈍器使い
・KO術
・火耐性弱点

●素材一覧
・巨蜘蛛の重背殻
 巨蜘蛛の腹部を覆う重厚な甲殻。硬さもそうだが、何より非常に重い。
・巨蜘蛛の剛打爪
 巨蜘蛛が攻撃に用いる前脚。棍棒のように太く長い。

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