Monster Hunter Delusion【更新停止】   作:ヤトラ

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今回のテーマは「アロワナ類を大量に摂取したヒプノック」です。



part33:「爆睡鳥の生態」

 眠鳥ヒプノックはよく食べる。

 

 丸呑みにして胃袋の胃石で細かくすり潰して消化する性質もあって、その食の範囲は広い。

 時には小動物や腐肉ですら食すことがあるが、基本的には魚類や植物が主食である。

 

 この世界では、たかが魚や植物といって侮ってはいけない。ハンターの生活に役立つ物が沢山あるからである。

 ガンナーの弾にもなるアロワナ類にネムリ草、大型タル爆弾G作成に必須な火薬草やカクサンデメキンなど様々。

 そしてヒプノックは、眠魚とネムリ草を多く食べて来たからこそ、催眠ブレスを吐く事で有名となった。

 

 

 故に―――ある魚類が樹海で大量発生するようになった頃、ヒプノックは変異種の道へ歩事となる。

 

 

―――

 

 世界中の転生者が次々と殺されている……ある日、唐突にそんな声がユージの頭の中に響いた。

 声の主は、誤って殺してしまったからと自分を「モンスターハンター」の世界に転生させた、神を名乗る人影のものだ。

 しかし神を名乗る癖に多くの人間を殺めており、自分以外にも大勢の転生者がいると聞いている。

 

 正直、奴は神ではない何かではないかと疑っている為、基本的には無視している。

 そもそも転生者は自分を含めてロクデナシばかり。そもそもチート(ズル)をしている時点で碌でもないし、それを碌に使いこなせていない。

 爽やかな青年もいつしか傲慢となり、弱小相手にしか発揮しないチート能力を最強と思い込んで研鑽しなくなる。

 

 ユージもそのチート能力持ちの1人で、『スタープラチナ』を所持しているが……結果は惨敗。

 効果範囲2mや己の精神力、そしてモンスターの激しい動きも合わさって、パワーと精密性に優れるはずのスタープラチナを上手く発揮できない。

 しかもジャギィいった小型モンスターには勝てても、イャンクックどころかアプトノスですら力負けするという現実が襲い掛かったのだ。

 

 所詮は異世界。空想は空想。そしてここは異世界にして現実。

 異世界に自分達の世界の空想が通じるべきでなかったし、空想の中の力を現実で使いこなせるはずがない。

 その結果、自分は齢40歳を迎えても能力を駆使して狩猟したことはなく、結局は己の身体のみで狩りをするしかなかった。

 世界中で殺されているという転生者は、そんな茨の道から逃避し、現実を見ずに圧倒的強者に挑んで死んだ馬鹿なのだろう。だから気にしない。

 

 だが、タクトという青年は別だ。健康的な身体というある意味のチート(ズル)を得た転生者だが、彼は稀有な人間だった。

 現実を受け止め、モンスターの持つ生命力に感動して世界を見たいという志のあるハンター。そういう若者は応援したくなる。

 そんな彼が、初めてのメゼルポルタでの狩猟なので協力して欲しいと、加工屋にして助っ人ハンターである自分に助力を乞うたら無視できない。

 

 愛用の狩猟笛を持ち、ユージは再び狩猟地へ赴くのだった。

 

 

 

―――

 

 タクトが受注したクエストの内容は、樹海でバクレツアロワナ20匹を吊り上げ納品すること。

 樹海の水辺ではアロワナ類が大量発生しており、商売っ気を起こした商人が依頼したのだという。

 一見すると簡単そうだが、ヒプノックの影があるという話も聞いている為に油断はできない。

 共に来てくれた仲間達は長い船旅で酔って動けない為、タクトは偶然知り合ったユージに助力を頼み、樹海に挑戦。

 

 そして案の定ヒプノックが現れたのだが……随分と派手な色をしていた。

 

―ギョエェェェッ!

 

 純の赤と青という目に痛い色合いをしたヒプノックが、凄まじい跳躍力をもってタクトとユージに蹴りをお見舞いする。

 逞しい脚力による強引な跳躍はスピードが速いが、タクトもユージも左右それぞれに跳ぶことで回避。ギリギリだった。

 起き上がろうとした処へ急旋回したヒプノックが再び跳躍。笛という巨大な目印を持っているユージに再び蹴りを―――。

 

「シっ!」

 

 ここで双剣という軽い武器を持つタクトの有利性が発揮。起き上がるというより跳ぶような勢いでヒプノックの脇を突く。

 双剣は確かにヒプノックに刺さったが……体毛の硬さと跳躍力の凄さからか、そう簡単に方向は失わない。

 間に合わないと思ったユージの横スレスレにヒプノックが地を踏みつけ、横に張り付いたタクトを振り払おうと身を捻る。

 

 肝が冷える思いで体制を立ちなおしたユージと、ヒプノックの捻りで吹き飛ばされたタクトが並ぶ。

 そんな2人を威嚇するつもりなのか、派手な色合いを見せつけるかのようにピョンピョンと踊るようにヒプノックが跳ねる。

 

「……初めてみましたけど、ヒプノックってこんなに派手な色をしていたんですね」

 

 強敵であるが故に緊張を解すことはしていないようだが、タクトの目には煌めきがあった。

 それは違う、と言いたいユージだったが、再びヒプノックの蹴りが飛んできた事で中断する。

 

 このヒプノックはおかしい。タクトは新大陸出身故に図鑑でしか知らないのも無理もないが、ユージは違う。

 

 ヒプノックは繁殖期になると色合いが変わるというが、あそこまで派手な色合いはこれまで見た事がない。

 加えて非常に攻撃的だ。繁殖期だとしても、優れた跳躍力を用いた蹴りを主体とする連撃はいささか過剰すぎる。

 慎重に行動したいが、直線状とはいえ素早い動きに加え、踏み殺そうと言わんばかりに地を踏みしめる姿は恐ろしく感じる。

 

 だが、タクトは果敢にも挑み続けた。

 無謀ではない。受けの姿勢でいたら押されると悟ったのか、鬼人化で積極的に懐を、特に着地の隙に乗じて背後に回る。

 ヒプノックは振り向きざまに長い尾で攻撃したり、踊るようなステップで逆に踏みつけようとアクロバティックに動くが、タクトはすり抜けるように躱す。

 

 前世が日本に暮らす学生であれば、無謀といえない突撃。

 しかしハンターとして、自分の力だけで生き続けたユージから見たタクトは、とても活き活きしているように見える。

 

 正真正銘の初めての相手だというのに恐れず、むしろ情報を引き出そうと間近に接近を続ける青年。

 これまで数多くのヒプノックを狩ってきた経験が、初と感じてしまい恐れを抱き距離を取る老人(じぶん)

 

 健康と身体能力という、人間として当たり前の天才(ズル)を得た転生者。

 スタンド能力という、人間として不可能なはずのチート(ズル)を得た転生者。

 

(なんて……なんて羨ましい)

 

 同類でありながらハンターらしく生きるタクトに嫉妬を抱きだした頃。

 

―ギュイイィィィッ!

 

 限界まで付き纏ったタクトに限界を感じ、ついにヒプノックが怒りを露わにした。

 赤い吐息を吐き、先ほどよりも体毛の色合いが濃くなったことでタクトも後ろへ下がる。

 限界まで近づいた緊張感と体力切れからか、息が上がるだけで言葉が出ない。

 だが動きが鈍くなっているユージに向かわせまいとヒプノックとの距離をなるべく広げないよう心掛けた。

 

 赤い吐息を漏らしたヒプノックが背を逸らして息を吸う。

 睡眠ガスかと身構えるタクトだが、狙いは彼よりも遠い位置にいるユージだった。

 

―ベッ!

 

 口から吐いたのは、体内で消化した眠魚から抽出した白い催眠ガス―――ではなかった。

 赤く粘度の低い液体がユージに向けて広範囲に跳んでいくが、その赤い液体に仰天して動きを止めてしまい、直撃してしまう。

 ユージに襲うのは強烈な眠気。しかし赤い液体の正体が気になるユージは必死に抗おうとする。

 動きがさらに鈍くなったユージに狙いを定めたヒプノックは、そうはさせまいと接近してきたタクトをあしらうように空へ跳ぶ。

 

 そのまま翼を広げて空高く飛び、狙いをユージに定め……身体こと強靭な足を地に向けて急降下。

 ヒプノックの高度と速度、何よりもスタミナギリギリで動いていた身体では対応できず、タクトはユージに向けて叫ぶ。

 

「ユージさん!」

 

 睡魔に襲われ微かに残る自我の中、ユージは声と霞む光景を目の当たりにし―――死を悟って動いた。

 

 

 せめて衝撃を減らしてくれと願いを込めて『スタープラチナ』を召喚し。

 

 

 ヒプノックの爪先は難なく(・・・)スタンドを踏み潰し。

 

 

 僅かですら和らげていない推進力と威力が拉げたスタンドと共にユージに向かい――――。

 

 

―グシャリ

 

 

―ドカン!!

 

 

 踏み潰された血肉と共に、赤い液体が発光して爆破。

 周囲に飛び散る火種と血肉の一部を体で受け止めながら、ヒプノックは狩った(・・・)と言わんばかりに嘶く。

 死を目の当たりにした経験がありながら、同族(・・)の死を初めて目の当たりにして呆然とするタクトを他所に。

 

 

 

―――

 

 同じ転生者の死と、強靭な脚力と爆破液を持つヒプノックを脅威と悟り、タクトは退却。

 どういうわけかヒプノックはタクトを追うことはなく、気が済んだかのように空へ飛んでいったのだとか。

 タクトはギルドとユージが通う加工屋に報告。ユージの世話になった人々は深く嘆き、ギルドは重く事態を受け止めた。

 

 睡眠液と爆破液を操ることから「爆睡鳥(バクスイチョウ)」と命名。

 恐らくは異常発生したアロワナ類を大量に摂取したことで進化した変異種だと判断し、しばし樹海の立ち入りを禁止した。

 だが相次ぐ爆破音に近隣の村々は恐れを抱くようになり、再びギルドが使いを回したのだが……爆睡鳥の姿はなかった。

 

 

 

 ……爆睡鳥ヒプノック変異種の消失は、丁度タクトとその仲間達が村を出た時期と重なっているが……気のせいだろう。

 

 

 

 そのタクトの脳内に、あの声が響く。

 

 

 

 『転生者がまた殺された』―――と。

 

 

 

―完―




爆破と睡眠を操るから「爆睡鳥」。笑っちゃやーよ?(笑←ダウト)
しかし食性による変化は私の描くモンスターハンターの世界観に似合っており、とても書きやすかったです。
久々のバトル描写も楽しかった♪いいよね、蹴りが強靭なモンスターって(笑)


●変異種紹介
爆睡鳥ヒプノック変異種
ハレツアロワナやバウレツアロワナを大量に摂取したヒプノックの変異種。
偏食による体毛の偏食に加え、睡眠液に加えて爆破液をも吐き出すようになった。
食欲が増した分スタミナと体力も上昇しており、性格も攻撃的になっている。

○本日の防具と素材一覧

●ヒプノBシリーズのスキル一覧
・状態異常攻撃+2
・軽業師
・見切-2

●主に剝ぎ取れる素材一覧
・爆睡鳥の剛爪
爆睡鳥の剛強な爪。切り裂くというより踏み潰すことに特化しており、とても太く重い。
・紅蒼尾羽根
色鮮やかな赤と蒼のハッキリとした色合いが美しい爆睡鳥の尾羽根。その対価は重い。


次回は新企画の応募内容を投稿する予定です。
そしてこの作品における異世界転生の扱いが明らかに。

ではまた。

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