Monster Hunter Delusion【更新停止】   作:ヤトラ

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今回のテーマは「ボス的存在のモンスター達」です。読者様が投稿したオリジナルモンスターが登場します。
個性豊かな「ボスモンスター」をお楽しみください。作者の「削竜」とは比べ物にならないぐらい個性的です(笑)

4/3:誤字修正 エルピリウス→エルピウス。誤字報告ありがとうございました!


Extra6-2:「強豪達」

―序章「強者達partA」

 

 この世には、強大な力を持つ者が少なからず存在している。

 それが人であれ動物であれ、普通とは違う存在感を醸し出し、他者を圧倒する事を許されている。

 モンスターが蔓延る世界で言うなら、まず挙げられるとすれば古龍種だろう。

 彼らは人間には理解しづらい、未知なる力と圧倒的な覇気を秘めた強大なモンスターとして名高い。

 とはいえ、時代が進むごとに彼らは狩猟不可と言い切れない相手となり、続々とギルドから撃退もしくは討伐の依頼が発注される。

 強大には違いないが決して倒せない相手ではない。人間も日々力を増し、強大な敵と渡り合える実力を得ているのだ。

 

 だがしかし。この世には居るのだ。越えることが困難とされる「壁」という奴が。

 それは筋力や殻の硬さだけではない。規格外な大きさ、地異を起こす力、恐れ崇められる伝承……数多くの要因がそれを成すのだ。

 覇竜アカムトルム然り、崩竜ウカムルバス然り、嵐龍アマツカグツチ然り、鬼鉄蟹オニムシャザザミ然り。

 中には存在そのものが伝説となっているはずのモンスターもいるが……これが何なのかは、登り詰めた者のみが知る、とだけ記そう。

 

 

 これらの共通点として挙げられるのは―――地を支配しているということ。

 

 

 強大な敵とは各地を行き渡る者ではなく、どっしりと身構え挑戦者を待つ者だ、と誰かが言っていたように。

 実力ある者は自らが動かずとも名が世間へと広まっていき、誰かから誰かへと伝えられていくのだ。

 

 

 「その者はそこで待っている」―――と。

 

 

―第1章「凶なる竜」

 

 かつて、都と呼ばれていた場所があった。

 

 「かつて」や「あった」と言う様に、昔と違い今は都とは呼べない場所となっている。

 見る影も無いが、無残に散らばった残骸のおかげで、見る者に「かつて都市があったんだな」と思わせる事が出来るだろう。

 特に酷いのは、中央広場と呼ばれていた広い空間。

 多くの残骸が無差別に並んでいる他とは違いとても広く感じるが、それは建物が全て倒壊し、細かく砕かれ散らばっているからだ。

 見るも無残なこの古の地を、仮称として「廃都」と呼ぶことにしよう。

 

 ここで話を変えるが……この廃都は自然に崩壊したものではないことが見て伺われる。

 自然崩壊という言葉だけでは片付けられないほどに無秩序な倒壊っぷり。これは見て解る通り「破壊活動の後」である。

 では誰が破壊したのか?……人間の仕業でないことは明らか故に、モンスターであることに間違いは無い。

 

 

 そして、人間には成すことが出来ない程の破壊を齎した原因は、奥からゆっくりと歩いてきた。

 

 

 地鳴りを起こすほどの足音の主は、大きさでは老山龍には劣るとはいえ、相当の総重量を物語る巨躯を誇っていた。

 黒に近い茶色の甲殻を持つそのモンスターは獣竜種の骨格を持つが、巨体を支える為に発達した為か短く太い足を持つ。

 しかし前脚も負けてはおらず、鋭い鉤爪を生やした前脚は巨体に見合う大きさにまで発達していた。

 

 しかし何よりも印象的なのは、先端と末端、頭部と尻尾だ。

 尾は船の錨のような形状をしており、ドボルベルグのように異常な大きさと形状に進化したものと考えられる。

 頭部もまた特徴的であり、上顎の前部には巨大な牙が七本生えている。容易に獲物をかみ殺せるだろう。

 

 この獣竜種は未だハンターズギルドから発見されていない大型モンスターの内の一体だ。

 しかし近い将来、確実に見つかるだろう。荒れた廃墟という遺跡を求める者は、必ず現れるはずだから。

 そしてその時が来れば、いずれこの獣竜種の存在に気づき、伝えられるだろう。圧倒的な力の全貌を。

 その時に付けられる名は……ティランギガス。通称「凶竜(キョウリュウ)」である。

 

 そんなティランギガスだが、何が不満なのか、吐く息を荒げている。

 彼の目の前には、彫刻らしきものが未だ真っ直ぐに建っていた。苔まみれかつヒビだらけなので、原型を留めていないが。

 もはや苔の生えただけの岩に等しいが、それでも気に入らない要素があるらしく、ティランギガスは石柱に向けて威嚇する。

 

 まずは足を踏みしめ、巨体を生かした体当たり。巨体を支えるだけの筋力が込められた重撃は、石柱を真ん中から崩していく。

 続いて尾の筋力だけで錨状の末端を振り上げ、そのまま薙ぎ払う。大きめの残骸がその薙ぎ払いに耐え切れず、細かな石屑となっていく。

 深呼吸してからの、体内に備えた烈火袋から成す火炎ブレス。己の胴体ほどもある巨大な火柱は周囲を焼き払い、石屑を炭に変える。

 最後には、より膨大な空気を吸い込んでからの咆哮。アカムトルムに匹敵する大音量の衝撃波は、消し炭を霧散させるには充分だった。

 

 言っておくが、石柱はティランギガスよりも大きな物だった。それを消し炭ですら残さず破壊した。

 そこにあるだけで……破壊されていないというだけで気に入らないかのように、徹底的に。

 しかしティランギガスはそこまでしてやっと満足したらしく、フシュー、と鼻息を漏らす。

 

 ふと、ティランギガスは後ろを振り向いた。しきりに鼻を鳴らし、周囲を見渡している。

 ティランギガスは非常に嗅覚が鋭いとされている為、獲物の存在を嗅ぎつけたのだろう。

 するとティランギガスは前脚に生えている鉤爪を互いに打ち合せ、敵意を表しているかのように喉を鳴らす。

 

 ティランギガスの獲物にして敵は、縄張りに侵入してきた全てだ。

 ただあるだけの石柱を完膚なきに粉砕した残酷さは狩りにも影響しており、生かすものかと意気込んでいる。

 鋭い嗅覚を頼りにティランギガスは歩き出す。獲物を狩るために。獲物を完膚なきまでに叩き潰す為に。

 

 

 こうして、凶悪な竜の二つ名に相応しい獣竜種は、廃墟の都にやってきた愚か者に目掛けて走り出す。

 

 

―第2章「破壊者」

 

 今、不動であるはずの大地と空気が大きく揺さぶられ、轟音が周囲に響き渡る。

 地震では説明のつかないほどの大振動。その衝撃は地面に長大な亀裂を多数あけるほど。

 それを感じ取る者はごく僅か。その地域には生物が殆ど存在していない為、当然だろう。

 

 何せ暗雲立ち込めるこの地域は、凹凸の激しい地面はあれ、それ以外の地形が何も無いのだから。

 木も無い。水も無い。地平線の彼方になら火山がある。あるのは暗雲広がる空と、灰色の大地だけ。

 ここらの大地は火山地帯だからか鉱石が多く含まれており、灰色なのは鉄鉱石を主とした鉱石が混ざっているからだ。

 

 そんな大地は今、穴だらけになっている。それもただの穴ではなく、クレーターと言う名の巨大な穴だ。

 凄まじい衝撃の跡を物語らせるそのクレーターは、膨大な質量が超高速でぶつけない限り成しえないと考えさせる程に大きい。

 すり鉢状に陥没したクレーターの周囲は、その衝撃に耐え切れず断層が盛り上がったり、亀裂が走ったりとメチャクチャだった。

 そんなクレーターが大小あわせて複数も、しかも広大に広がっているというのだから恐ろしい。

 

 この惨状を見れば、空から隕石郡が降ってきたのではないかと考えるだろうが……違う。

 全てのクレーターには、最下部から地上へと上がる際の足跡がある。それはつまり、このクレーターは生物が引き起こしたということに繋がる。

 

 

 では誰がそんなことをしたのかといえば―――蟹である。

 

 

 今、一つのクレーターの中心に、巨大な甲殻種モンスターが鎮座していた。

 長い四つの脚は金属質に近い甲殻を纏う体をしっかりと支えており、同じく長い腕のような鋏はひび割れた岩を挟み、口に運んでいる。

 そのモンスターの外見的特徴から見ればシェンガオレンにしか見えないが、しかし違いはある。

 殻に当たる部分が半球状になっているのだ。金属の塊かのような殻は、シェンガオレンの弱点を覆っており、ヤドカリというよりはタカアシガニに見える。

 

 シェンガオレンに酷似している、しかしそれ以上に硬そうなイメージを与えるこの甲殻種モンスター。

 未だ詳しい生態が解明されていないこのモンスターの将来の名は、「隕石蟹(インセキガニ)」テェンシェンレン。

 通称「天降人」とも呼ばれるようになるのだが・・・どうしてそのような名が通るようになったのかは、これから明らかになる。

 

 今、テェンシェンレンがゆっくりと立ち上がった。

 鉱石食故に甲殻に宿った鉄分の量は凄まじく多く、そして重いはず。それでも四つの脚は難なくその巨体を持ち上げる。

 長い触角を揺らしながら、ゆっくりとクレーターから這い出るテェンシェンレン。地上に立つと、周囲を見渡す。

 そして目星が付いたのか、そこへ向かって歩いていき、やがて立ち止まる。平らな地面が広がっているだけの場所だ。

 

 すると徐に四つの脚と両の鋏をくの字に曲げ、力を溜めているかのように巨体を地へ下ろす。

 ゆっくりと、ゆっくりと巨体を下ろし、六つの脚が力を溜め込み―――――跳ぶ。

 

 六つの脚が力を溜め込んだバネのように伸びると同時に、その巨体を空高くにまで跳ばしたのだ。

 あれだけの質量と巨体が、まるで大砲の弾のように勢いよく、そして高く跳んで行く。

 とはいえ重力には敵わず、やがて空へ向かう勢いは殺されていき、下へと落ちていく。

 もちろんだがその落下速度は跳ぶ勢いとは段違いで、しかも重力の問題上、最も重い殻が下となって落ちていく。

 

 

―ドガアアァァァァァァン!!

 

 

 やがて鋼鉄の巨体は、地面に着弾。冒頭にあったような轟音と強震が大地を襲う。

 高高度からの落下によって大地に巨大なクレーターを生み出したにも関わらず、テェンシェンレンは平然と起き上がる。

 脚を使って器用に逆さ状態から起き上がると、先ほどの衝撃で砕かれた鉱石を鋏で銜え、口に含む。

 

 この光景を見てお分かりいただけただろうか?隕石蟹と天降人という名の由来と、この数多のクレーターが出来た理由が。

 その長い脚には強靭な筋肉が詰められており、コレにより高く跳躍、隕石にように落下して地面を砕いて鉱石を食べるのだ。

 その絶大な破壊力は、彼から外敵という名のモンスターを遠ざけ、広大な大地に点々と穴を空ける日々を暮らすようになった程。

 故にシェンガオレンのように縄張り意識は薄いが、間違いなく危険度はシェンガオレンより上だろう。

 

 今は人の居ない地域に生息しているのだから良い。だがもし、人の前に現れようものなら・・・想像するだけでも恐ろしい事になる。

 天災に匹敵する古龍種とはまた別の脅威とも言えよう。何せ見れば解かるほどの破壊を齎すのだから。

 しかしいずれはやってくるだろう。人の前に。ハンターズギルドの前に。そしてハンター達の前に。

 

 

 そんな事は知らぬと言わんばかりに、破壊者テェンシェンレンは、今日も餌の為に大地を破壊するのだった。

 

 

―第3章「抉りし竜」

 

 巨大な湖があった。

 極寒の地のどこかにあるというその湖は、冬だからか、常に分厚い氷で覆い尽くされていた。

 一見だけでは、雪で覆われただけの白い大地と勘違いしてしまうだろう。それほどまでに白く、広い。

 その湖は果てが見えず、冷気による霧が地平線を包み込み、かろうじて山と森の影が見えるだけだ。

 

 白と灰色の世界。それがここ「凍結大湖」と呼ばれる凍土の秘境。

 

 そんな分厚い氷で閉ざされた湖面の下には、実は大量の魚が泳いでいる。

 冬の間は氷という名の防壁に守られ続ける為、この湖は豊富な数の魚が生息しているのだ。

 

 だからといって氷の下に眠る魚を狙う獲物が現れないかといえば、そうでもない。

 冬の湖に張り付く氷は非常に分厚く硬い。大型モンスターでもそう簡単には空けられないほどに。

 しかし空けられないことはないのだ。分厚いとはいえ所詮は氷。岩に匹敵するとしても上というものがある。

 

 そんな湖の魚を狙う捕食者の一匹が……アグナコトルの亜種だ。

 海竜種でありながら地上―それも凍土―で活動している彼は、硬い嘴で岩盤を砕き、長い身体を捻り地中を掘る。

 それは分厚い氷が相手だとしても同じ事で、難なくとは言えないが氷を掘り進み、水中へと移動できるのだ。

 

 今、湖面の氷が砕かれ、アグナコトル亜種が姿を現した。

 上半分を突き出した彼の嘴の間には、イキの良い魚がビチビチと跳ねており、それを喉へと滑らせる。

 幼生期は腐肉を食べ成体期はモンスターの肉を食べるが、食料に困ると湖の魚を狙ってやってくるのだ。

 今の魚でアグナコトル亜種は満腹になったのか、急いで残り半分を氷から抜け出し、氷でない地上へと向けて走り出す。

 

 何故アグナコトル亜種が急いで湖から脱出しようとしているのか。それも氷に潜らずに。

 それはこの湖が、今は出かけている「あるモンスター」の縄張りだと理解しているからである。

 

 

 冷たく白い霧を歩く中、アグナコトル亜種はある影を目撃した。

 気温が特に低いとされる冬だからか冷気の霧は深く、その影が徐々に近づいてくるということしかアグナコトル亜種は理解できなかった。

 しかしそれだけで充分、と言わんばかりにアグナコトル亜種は嘴を足元の氷に突き刺し、そのまま体を捻らせて地中に潜ろうとする。

 

 アグナコトル亜種が完全に湖の中へと掘り進んだ後、その影の正体が露になった。

 その影の正体は、霧と氷に溶け込む程に白いモンスターだった。骨格的に見ればアグナコトル亜種と同じ海竜種に見える。

 ランスを思わせる円錐状の頭角を持つ頭部、アグナコトルよりもスマートだが太く長い身体、横に広く発達した二股の尾。

 その中でも特徴的なのは二つ。前脚を納める事ができる凹みと、右回りに生やしているスパイク。それらが体についているのだ。

 一見するとメゼポルタで確認されているという海竜種クアルセプスに似ているが、これも海竜種共有の特徴ということだろうか。

 

 

この海竜種の名は「ドーレ・ゲイラス」。別名「掘撃竜(クツゲキリュウ)」。この湖の主だ。

 

 

 湖の主というだけあって、水中へと潜っていった侵入者に対して怒っているようだ。

 なら何故、縄張りのこの地を留守にしていたのか。それはいくら氷で閉ざされていると言っても、冬になれば魚の数が減少する事もある。

 体温維持の為に大量の食料を確保しなければならないドーレ・ゲイラスにとってそれは死活問題な為、出稼ぎとして湖から離れることもある。

 そんな時を狙って数少ない魚を狙うモンスターもいるのだから、ドーレ・ゲイラスは侵入者の迎撃にも忙しい。

 

 そんなことでアグナコトル亜種を追いかけようと、その騎士槍のように尖った頭角を地面に突き刺す。

 錐で砕かれたかのように氷にヒビが入り、体を捻り込ませることで、スパイク状の鱗がガリガリと氷を削り、侵入する。

 動作としてはアグナコトルと同じだが、より氷中仕様に特化したのか、潜る速度は段違いだった。

 

 氷中のアチコチでガリゴリという音が響き渡る。氷の中で二匹が追いかけっこでもしているのだろう。

 やがて二匹が氷の中から出てくるが……状況は一変した。

 浅い箇所を潜行していたのだろう。アグナコトル亜種が吹き飛ぶようにして現れ、その横腹にドーレ・ゲイラスの頭角が突き刺さっていた。

 横からの体当たり……いや突撃。それに吹き飛ばされ宙に舞うアグナコトル亜種の横腹を、これでもかと回転して抉ろうとしている。

 

 そして……アグナコトル亜種の腹に穴が空いた。

 鋭利な頭角により突き刺し、スパイク状の体が螺旋を描くことで得た推進力で突き進み、スパイク状の甲殻が肉を抉る。

 分厚い氷ですら貫けるとはいえ、アグナコトル亜種の氷の鎧を貫き、甲殻を貫き、肉を抉る。

 アグナコトル亜種はそのまま氷上に落ち、急所を抉られたことで絶命。ドーレ・ゲイラスは綺麗に着地。

 

 これでドーレ・ゲイラスの特徴がはっきりとわかるだろう。彼はまさにドリルそのものである、と。

 陸上での活動を不得意とする代わりに、地中での活動や拘束回転による突撃を得意とする風変わりなモンスターだ。

 それでもドーレ・ゲイラスはこの凍結大湖の主として君臨した。分厚い氷を砕くほどの白く鋭い身体を得たことによって。

 

 

 氷の上で咆哮を轟かせる白い姿は、かの伝説―――崩す竜に酷似していた。

 

 

―第4章「鳥の帝」

 

「鳥神様、鳥神様、どうかお納めください」

 

 そう言って少女は両手を合わせ、頭を深く下げる。

 彼女の前には、村人全員で収穫した果物や野菜、茸類に新鮮な魚肉がドッサリ乗った籠があり、祭壇がある。

 それなりに育った少女の背丈よりも高い階段のような祭壇の上には、奇妙な石像が聳え立っていた。

 それは王冠を載せ両の翼を広げた鳥の石像だ。少女はそれを見る度に、心が温かくなるのを自覚している。

 

 樹海の奥地にひっそりと暮らしている隠れ里のような村。そこで彼女は暮らしている。

 小さいながらも樹海の奥地という危険地帯に生き延びられているのは、村人の努力と、この鳥神様と崇める石像と、祭壇の奥底に聳える巨大なコロニーにあった。

 樹海の最高層に位置している巨大な物体。それがコロニーと呼ばれている―――巣だ。

 

 彼らの村はあの巨大な巣を崇めている。正確には、その巣の主であるが。

 ハンターズギルドが設立されていなかった程の大昔に一度だけ村の初代長老が目撃したという「主」。

 その主こそが、彼らが大切に奉っているという「鳥神様」と呼ばれているモンスターであった。

 

 伝承とは古来より人々が伝えるもの。強大な力を持つモンスターを神と崇めるのは不思議ではない。

 今の村長が10代目と聞けば、初代村長の頃より伝えられし「鳥神様」がいかに古くから存在しているかが解かるだろう。

 

 では、「鳥神様」と呼ばれているモンスターは一体どんなものなのだろうか?

 そのモンスターは、未だハンターズギルドが発見できていないという、いわば幻の存在とも言われているからだ。

 幻同然のモンスターが今もなお神として崇められている理由―――それは確かに「鳥神様」が村びとに目撃されているからである。

 

 

 今もなおこの樹海の最高層に潜んでいるという「鳥神様」。その正体に迫りたいと思う。

 

 

 一匹のエスピナスが「鳥神様」の巣とされるコロニーに侵入していた。

 古龍級生物と称される彼はふてぶてしくもこの巣で寝ようと考えているらしく、身を丸め始めた。

 彼もこのコロニーが他のモンスターの巣であることは知っている。しかし彼は「鳥神様」を理解していなかった。

 強者故の余裕と彼本来の性質。それ故に堂々と巣の真ん中で眠るという大それた事を仕出かしたのだ。

 

 しかし、それを許す「鳥神様」ではなかった。

 

 このコロニーには沢山の止まり木があり、中でも一番大きいとされているのは中央の高台だろう。エスピナスはその高台の前で眠っている。

 その高台も止まり木であり―――その頂上に一匹のモンスターが枝に止まっていた。

 

 それは巨大な鷲にも似た、鳥竜種に近い外見を持つモンスターだった。

 赤と橙で構成された体毛により鮮やかな見た目を持ち、その中でもトサカと尾羽に映える飾り羽は立派なものであった。

 翼を閉じているとはいえ、大きさはリオレウスに匹敵し、翼を広げればそれ以上はあるだろうと推測される。

 

 そのモンスターは今もなお眠っているエスピナスに向けて咆哮し、翼を広げる。

 鮮やかな色合いをした羽で構成された翼だが見た目以上に大きく見え、見栄えも良い。王者の風格とも言うべきだろうか。

 

 このモンスターこそが、樹海の村から崇め奉られている「鳥神様」。

 将来に人々が彼を見つけ、付けられる名はエルピウス。通称「帝王鳥(テイオウチョウ)」。

 その二つ名こそ、彼が「鳥神様」と崇められている原因でもあった。

 

 エルピウスが忠告という名の咆哮を轟かせているにも関わらず、エスピナスは眠っているまま。

 まぁこれは仕方の無いこと。エルピウス自身もわかりきっていたようだが、怒っているには違い無い。

 エルピウスは大人しい分類に入るが、己の縄張りを侵されたとなれば話は別。全力をかけて追い出す。

 

 ここで先の話をするが、このエルピウス、将来は鳥竜種でなく古龍種として分類される。

 古龍種として扱われる要因はいくつかあるが、その中でも最たる理由が「天災にも匹敵するほどの力を有している」ということだろう。

 ならばこれまで紹介してきた「凶竜」「隕石蟹」「掘撃」にも当てはまるだろう。

 特に隕石蟹テェンシェンレンは、食事をしようとするだけで大地を穴だらけにする驚異的なモンスターだ。

 「よくわからない生物」という理由も古龍種に分類される理由ではあるが、何故エルピウスはそれに該当するのか。

 

 それはエルピウスの持つ特性と生態にある。これからご覧にいれよう。

 

 今、エルピウスが天を仰ぎ、喉を鳴らして声を上げる。

 甲高い鳴き声にエスピナスはゆっくりと瞼を明け、若干怒りつつも面倒くさそうに起き上がる。

 するとエスピナスが周囲を見渡し出した。何かを探しているような、それでいて警戒しているのか、全身の棘を見せ付けるように屈み出す。

 続けざまに周囲から聞こえてくる鳴き声。エスピナスの警戒は正しかったようだ。

 

 そしたら出るわ出るわ、ドスランポスの群れ、ヒプノック、この辺りには居ないはずのイャンクック、クルペッコ、ゲリョス、そして普通の鳥がウジャウジャと。

 数多の鳥と数種類の鳥竜種が高台の周辺にある止まり木に止まり、じっとエスピナスを睨みつけている。ランポス達は地面の上で威嚇。

 ものの数分と掛からずに、鳥達によるエスピナスの包囲網が完成したのだった。

 睨みつける鳥達。その頂点たるエルピウスが高台に佇む姿は、まるでいつでも出軍指令を放てる将軍のよう。

 大人しいとされるエスピナスでも、これを前にすれば本気を出さずにはいられない。強いとはいえ、この数を凌げるかといえばそうでないから。

 

 やがてエルピウスが翼を広げ、吼える。それを合図にまずはヒプノックが睡眠液をエスピナスに向けて放つ。

 多角から攻められる事に対する対処が難しいのは当然のことで、エスピナスは呆気なく後ろから睡眠液を被り、睡魔に襲われる。

 今だといわんばかりにまずはランポス達が走り出し、遅れてイャンクックとヒプノック・ゲリョス達が走り出す。

 そして最後にエルピウスが羽ばたきながらゆっくりと降下していく、寝ている事を良いことに包囲網を縮めるつもりだ。

 やがてエルピウスがエスピナスを踏みつける。鋭い棘を平然と踏みつけ、棘を折っていく。

 その衝撃に目覚めるエスピナスだが、既に鳥竜種達は嘴や爪で棘の合間を突き付け始めた。

 もがき暴れるエスピナス。それを上行く鳥竜種達の数による暴行。これではまるで戦いというよりはリンチ、またはイジメである。

 

 ボカスカという効果音が出るほどに蹴られ続けた結果、エスピナスはたまらん、とばかり背を向けて走り出す。

 コロニーから脱出するかのように逃げ出したエスピナスの後姿を見て、勝利の咆哮を挙げる鳥達。エルピウスも満足そうに翼を畳む。

 

 本来なら古龍種ですら打ち勝てるはずのエスピナス。それを、数で勝っていたとはいえ、鳥竜種が制した。

 このコロニーは帝王鳥の巣であると同時に他の鳥竜種達の巣でもあり、ランポス達ですら他の鳥に危害を加えようとしない特殊な生態を持つ。

 そしてエルピウスは鳥竜種を纏めることができる。クルペッコのような鳴き真似も必要とせずに、だ。

 いわばこの鳥竜種達はエルピウスの支配下も当然。だからこその「帝王鳥」の異名を得る権利があるのだ。

 

 これはエルピウスのほんの一部を知ったに過ぎない。

 彼が古龍種と呼ばれる由来は、数多の鳥を従えること。その生態は謎が多く、どこまで従えられるかは解かっていない。

 少なくとも、数の暴力という、ある種の圧倒的な力をこのエルピウスは発揮することができるということは解かる。

 幸いなのはこの帝王鳥はコロニーに侵入した物しか攻撃しないことだが、飛竜種ですら倒せるという実力もある。

 

 

 村から「鳥神様」と崇められる鳥竜種の帝王エルピウス。

 鳥の帝は今日もコロニーを守護し、鳥達の支配者として君臨し続けている。

 

 

―終章「強者達partB」

 

 忘れてはならないが、この世界は広い。この自然には数多のモンスターが生息しており、人間が把握している数は少ない。

 ハンターズギルドは様々なモンスターを知り、解明してきた。小型モンスターから、伝説級とも呼べるモンスターまで。

 しかしいかにハンターズギルドが広くその手を伸ばしてきても、伸ばした手の先に広がる世界はまだまだ広い。

 古くから伝えられた伝説だって、人々は全てを理解しきれてはいない。そこに眠る正体も知らずに。

 

 それでも強者達は待ち続けている。気づく存在がいるかいないかなど知らぬとばかりに。

 彼らはただそこにいるだけだ。そこにいるだけで生きている。生きているだけでモンスターは輝いている。

 時に脅威となり恐れられるだろう。時に偉大と崇められ伝説となるだろう。時に狩人達に挑まれるだろう。

 強き者はそこにいる。確かにそこにいるのだ。その理由は自信か、本質か、生態か……いや、人間が知るには及ばないだろう。

 

 いずれハンターズギルドが彼らを嗅ぎつけ、ハンター達が送り込まれていく。

 自分達の知らない世界を知る為に。自分達の生活を守る為に。自分達の脅威を自然に伝える為に。

 

 

 

―待っていろ、強き者達よ。

 

 

 

―我々はいずれそこに立ち、挑みに行く。

 

 

 

―完―




●名前:ティランギガス
●別名:凶竜
●種族:獣竜種
●特徴:
全体的な姿勢のイメージはウラガンキンとほぼ同じ。アカムトルムに匹敵する巨体を誇り、2足歩行だが脚は体を支えられるようにかなり太く、短め。
前脚は体に見合った大きさで指は2本で巨大な鍵爪が生えている。尾の先端は船の錨状になっている。
頭部はアカムトルムよりも長めになっており、目の上に突起物があり、上顎の前部から巨大な牙が7本ほど生えている。この配置は先端に一本、左右に均等に3本と言う配置になっている。
背中には背骨の一部が発達し生まれた棘が一列に生えている。体色は茶色で背中にかけて黒色になっている。
●生息地例:廃都
何らかのモンスター(古竜種か黒竜の類と思われる)の襲撃により滅びた都市。


●名称:テェンシェンレン(天降人)
●別名:隕石蟹
●種族:甲殻種
●特徴:
脚が長く異常に発達した蟹(脚は細いが甲殻はそこそこ堅く、その下は筋繊維でぎっしりしているためかなり強靭。
基本はザトウムシのような姿で歩く。殻となるものは半球状で金属のような光沢を帯びている。鋏はシェンガオレンと似た感じ。
●生息地例:陥没大地
クレーターがいくつも点在する荒野。クレーター内には時折鉱石が露出している。その中の一番巨大なクレーターで決戦。


●名称:ドーレ・ゲイラス
●別名:掘撃竜
●種族:海竜種
●特徴:
全身は白色。体の形は特異で、頭部は巨大な騎士槍の如き形と化し、体部も筒状になっている。体は割と長く、体長に対する太さはウカムルバスと比較すると細め。
また、ウカムルバスの腹に生えているような、ブレード状のスパイクが全身に、それも右巻きに生えている。
体の側面には、前足がぴったり嵌る凹があり、そこに前足を納める事ができる。
後足は横に広く発達しており、余り強力な印象を受けない前足とは対照的に大きい。
尾は二股になっており、これも横に広く発達している。大きさはアカムよりも二回り〜三回りほど小さい。
●生息地例:凍結大湖
冬の間は永久凍土と変わらない程の極寒となり、巨大な湖に分厚い氷が張っている。


●名称:エルピウス
●別名:帝王鳥
●種族:古龍種
●特徴:
翼を広げた全長はリオレウス・リオレイアといった大型種の金冠サイズに匹敵する、鷲に近い体躯の大鳥。
赤と橙で構成された体毛に鮮やかな飾り羽がトサカと尻尾についている。
その体格と悠然とした態度に帝王と呼ぶに相応しい風格を持つ。怒ると飾り羽が広がり、風系攻撃の範囲が広がる。
●生息地例:コロニー
樹海の最高層に位置する帝王鳥が治めるコロニーの巣。配下の大型の鳥竜種や小型の鳥によって造り固められた巨大な巣で、かなりの広さを持つ。

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